音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

日本のソーシャル・ファームの状況

炭谷茂氏
ソーシャルファームジャパン理事長
恩賜財団済生会理事長

 ただいまご紹介いただきました炭谷でございます。今日は雨の中本当にたくさんの人たちの熱心に来ていただきましてありがとうございます。またただいま寺島先生からご紹介ありましたようにヨーロッパからゲーロルド・シュワルツさんとバーナード・ジェイコブさん、またフィリーダ・バービスさんそれぞれお忙しいところ、また遠路お疲れのことと思いますけれども。このセッションに参加をいただきまして厚く御礼申し上げます。

 日本のソーシャルファームの研究がどうなっているのかという点について短い時間ではございますが概略をご紹介していただきたいと思います。最近日本ではソーシャルファームの必要性がより大変強くなってまいりました。ひとつは経済・社会の情勢があります。日本もなかなかよくありません。ヨーロッパ特にギリシャやスペインもどうも危ないという状況でございます。それから中国、ロシア、アメリカ経済もしっかりしない。日本も大変苦しい状況でございます。失業率は平均的には4.6ということで比較的低いんですけれども、24才以下の若い人にとってみると10パーセント近くが失業しているという状況でございます。若者は10人に1人失業している。これは社会の中で大変厳しい状況だろうというふうに思います。さらに何らかのハンディキャップを持っている人たち、例えば障害者の人で特に精神障害者の人で働いている方は17パーセントしかいない。知的障害者の人50パーセントを超えていますが、大半が福祉の施設で働いていらっしゃる。日本は東日本大震災を経験しました。東日本大震災で真っ先に解雇されたのは障害者でございます。刑務所からの出所者の就職状況もよくない。まさにハンディキャップを持っている人たちの状況というのは以前に増して大変厳しくなってきています。
 そこで対策でございます。現在の状況はどうなっているのか、ということですけれども。まず国の動きでございます。国の動きとしては現在このような失業状況ですから生活保護の受給者が大変増えております。そのために今、総合的な対策を講じようとしているのが国の状況でございます。その中において社会的企業の役割が重要じゃないかなということが今検討されております。またそのほか障害者についても就労をすすめなくちゃいけないということが国の政策で進められておりますし、更生保護の関係者も同様じゃないかなと思います。

 より一層厳しい状況を肌で感じているのは地方自治体だと思います。地方自治体のほうは何かしなくちゃいけないということで頑張っていらっしゃいます。例えば熊本県では本年4月からソーシャルファームを熊本県の重要な柱として立ち上げました。そのために新たな補助制度が作られました。熊本県の福祉や産業を豊かにするためにはソーシャルファームが役に立つんじゃないかなということで進められました。
 奈良県も同様でございます。奈良県も知事の主導のもと2年前から補助制度をつくられソーシャルファームを推進するということが行われました。また住民の動きですけれども住民の方々もやはりこのようなハンディキャップを持っている人たちに対して何かしなくちゃいけない。例えば今日も参加いただきましたけれども更生保護の関係者には農業が役に立つんじゃないかなということでそのような取り組みが組織立って進められました。このような官民あげての動きがございます。現在ソーシャルファームは日本においてどのような動きになっているのか。私はソーシャルファームとして有効な分野として5つの分野があるようだというふうに思っております。 第一の分野は環境の分野でございます。特に3R、リデュース、リユース、リサイクル。これが環境政策として進められております。これをうまくソーシャルファームとして利用する。例えば近くで申しますと東京に江東区という区がありますけれども、そこで立ち上がりましたエコミラ江東。2年前の4月に立ち上がりました。そこでは障害者の方々が廃プラスチックのリサイクルをやっていました。それによって月12万円という所得を得られるようになりました。法的な補助は一切受けておりません。

 またこのソーシャルファームの仲間からは中古本の販売というような取り組みも行われました。徐々に経営的にも軌道にのっているようでございます。このように環境の取り組みは大変役に立つわけでございます。私たちの身の回りで3Rの対象にならないものは1つもない。それがソーシャルファームの大きな仕事の眼目になると思っております。
 第二は農業の分野と林業の分野と酪農の分野でございます。我々の仲間の宮嶋さんは北海道で酪農として成功されております。また埼玉県飯能市の桑山さんは大苦労しながらも自然農法に基づく固定種による自然農法の野菜づくりをやって徐々に軌道に乗りつつあります。
 第三は福祉の分野です。福祉はこれから高齢社会を迎え需要がたくさんあります。例えばホームヘルパーもあるでしょう。ホームヘルプサービスもあるでしょう。また高齢者の給食サービス。これもなかなか有望です。特に日本では大都市で孤立死という問題が起こっています。亡くなったあと、発見されるのに1カ月。人によっては1年もかかると。1年目に発見されるという事例がこの東京や横浜や埼玉県や札幌市などで起こっています。
この孤立死の防止には在宅の高齢者に対する宅配の給食サービスが大変役に立ちます。埼玉生協では2年前から給食サービスを初めて効果をあげて、1日あたり1,000食以上の給食をすでにやっております。新潟生協では昨年の10月に配達をしたとき脳梗塞で倒れている高齢者を発見し、一命をとりとめております。まさに福祉のサービスを行うことによってこのような孤立死を防ぐこともできるわけです。
 第四の分野はサービス業です。ソーシャルファームの一つの特色は労働集約的なものをいとわない。現在の日本の企業はできるだけ省力化の方向にあります。それと反対にソーシャルファームは労働集約的なほうが競争できる。その面でサービス業は大変有効な分野です。この成功例としては姫路市がございます。そこで門口堅蔵さんという更生保護に大変熱心な方がテーマ館として城を作られています。そこで雇用されているのは刑務所からの出所者や障害者それからホームレスの人を雇用していらっしゃいます。
 最後に工芸品をつくる。この分野も現代の社会に機械化や商業化にさからってできるものでございます。障害者の方が、ハンドバッグを作っています。 以上5つの分野がございます。このように日本では着実にソーシャルファームというものが立ち上がっています。この支援をするためにソーシャルファームジャパンという組織を2008年に立ち上げております。そこでどうしたら日本においてソーシャルファームが浸透できるかを検討し進めていきたいと思っております。今日は短い時間ですが皆さん方と一緒にヨーロッパの成功例を参考にしながらソーシャルファームの進展のために努力をしてまいりたいと思います。本日は本当に参加をしていただきましてありがとうございました。