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国際セミナー報告書
インクルーシブな障害者雇用の現在-ソーシャル・ファームの新しい流れ

パネルディスカッション

コーディネーター
寺島 彰(浦和大学総合福祉学部 教授)
パネリスト
伊藤 静美
中崎 ひとみ
炭谷 茂氏
ゲーロルド・シュワルツ
フィリーダ・パービス
バーナード・ジェイコブ

寺島:寺島です。どうぞよろしくお願いします。実は私どもは、このソーシャル・ファームのセミナーを2000年度から実施させていただいています。当初はボランティアセクターの役割ですとかソーシャル・インクルージョンについて関心を持ってテーマを設定しておりましたけれども、2004年度から継続してソーシャル・ファームについて学びを深めております。本日も来ていただいていますパービスさんには最初から講師としてご支援をいただいております。それからゲーロルドさんには2005年度から毎年来ていただきまして、ヨーロッパの状況について最新の情報をいつも教えていただいています。おかげをもちましてわが国においてもソーシャルファームジャパンができまして、今後このような形のシステムが普及していくのではないかと期待しております。

本日のセミナーの目的を三つ挙げております。一つは、ソーシャル・ファームはどういう評価を受けているのかを知ることです。既に10年ぐらいやっておりますので、ヨーロッパの状況については我々もかなり勉強したのですが、例えばイタリアでは1970年代から社会協同組合と呼んでいますが、ソーシャル・ファームの仲間のようなものができました。1970年代ぐらいに精神病院が閉鎖されて、入院患者さんたちをどのように働く環境に支援するかというところから始まったということらしいです。そして、1980年代にはドイツでソーシャル・ファームができました。1990年代にはイギリスでもソーシャル・ファームができております。最初から30年以上たっているわけで、どのようにヨーロッパで評価されているか、そういうことを知りたいというのが一番目の目的でした。

二番目の目的は、ベルギー、オランダの福祉も知りたいということです。これまでイタリア、ドイツ、イギリスから各国のソーシャル・ファームについてお話を聞いてきましたし、昨年はスウェーデン、デンマーク、フィンランドからも来ていただきまして、北欧にもソーシャル・ファームがあるということを知りました。私は個人的にはソーシャル・ファームを必要としているのは資本主義国家のみであろうと思っていたのですが、北欧にもあるということを聞き、いろんな国で特色あるソーシャル・ファームがあるということがわかりました。これまで来ていただいたことのないオランダとベルギーの状況を今年はジェイコブさんに来ていただけるということでお願いした次第です。

目的の三つ目は、関西地方のソーシャル・ファームを取り上げたいということです。わが国には既に、本日のセミナーの中でおわかりになったと思いますけれども、ソーシャル・ファームという法律や制度はありませんので、制度としてソーシャル・ファームというようなことは言えないかもしれませんけれども既に実質的にソーシャル・ファームとして活躍されている組織はたくさんございます。せっかくビッグ・アイでセミナーを開催させていただくことになりまして、ぜひ関西での取り組みを教えていただきたいと思いました。

最初に、ソーシャル・ファームというのを初めてお聞きになった方はなかなか理解しづらいと思います。私も実はそうでして、我々は福祉の従事者でして措置費の時代から働いていますので、公的な支援がなくてどうして障害がある方がビジネスの世界で戦っていけるのかというのがよくわからないという状況でした。どうしてもハンディキャップと言いますか生産力の問題があって、一般の市場で競争をした場合に負けてしまうのではないかというふうに思っていました。それでいろいろお聞きして、最初は収益をそのまま株主だとか企業主とかに還元するのではなくて、それを企業活動に再投資する、そういうことが市場の競争力を高めるという話もありましたが、実はそうでもないということが後でわかってまいりました。

そこで、ソーシャル・ファームについて整理をさせていただきますと、二つの要素があるわけです。一つは社会的企業の一つでありますので、社会貢献を目的とした企業ですから、一つは社会貢献という要素。もう一つは企業活動という要素。二つ持っている組織であるということです。

ソーシャル・ファームは、障害のある人たち、あるいは労働市場において不利がある、こういった人たちを雇用するために作られているという目的を持っています。

具体的には、従業員の一定割合、例えば20%以上とか、ヨーロッパの定義では30%であるとか、先ほどオランダでは35%と言っておられましたけれど、とにかくそういった就労困難者を30%以上なり20%以上なりを雇用しているというのが一つ。

それからもう一つは企業でありますので、市場競争のもとで活動しているということ。それからビジネス手法を用いていること。採算性だとか自立性を重視するということです。この中に、独立採算が必要かということがありますが、これは国によってかなり違っていて、必ずしも企業収益だけで自立している必要はないというのが大体一般的な考えで、とにかく活用できる社会資源、例えば先ほど発表していただきましたが、国の補助金を活用するとか、そういうことはもちろんあります。ただ基本的には企業でありますので採算性、自立性が基本になっているということです。

もう一つ、ソーシャル・ファームの設立のパターンは、いろいろ考えられるわけですけれども、どうもほとんどの場合、社会福祉的な組織、例えば日本で言えば社会福祉法人だとか社会福祉のNPO法人だとか、一定規模の組織がソーシャル・ファームに移行するということがどうも多いらしい。そうでないと財政的な問題だとか組織的な基盤が弱いということもあって、いろいろパターンは考えられますが、多くはそういう形で移行するのが多いということです。

それから支援のパターンとしましては、先ほど申し上げましたけれども基本的に措置費や自立支援法であるような行政からの収入が主ではなく、例えば政府がどういう形で支援しているかというと、減税あるいはドイツのように立ち上げから3年間資金的に補助をするというように費用を支援することがあります。あるいは英国ではソーシャル・ファームには優先的に融資をするとか、あるいは政策的に指導する。例えば社会福祉法人を一定割合ソーシャル・ファームにしなさいというような、若干強制的な取り組みをしている政府もあります。それから特殊な企業の枠組みを作って税金などを配慮する。それから公共調達の支援でありますとか、一部、政府からの補助金ももちろんあるわけですけれども、基本的には政府の補助金に頼ることなく自立しているということが企業としての存在ということです。そんなところが大体今のところわかっているところです。

本日たくさんご質問をいただきましてどうもありがとうございました。1時間程度しかありませんので、全部にお答えすることはできないかもしれませんが、最初に、既にはっきりしているところを私から回答させていただいて、その後、ソーシャル・ファームに関係の強いものについて講師の皆さんにお答えいただきたいと思っています。

最初にご質問があった、最低賃金は保証されているのですかという質問。これはされています。企業ですのでソーシャル・ファームの条件として最低賃金法がある国では最低賃金が保証されていないといけないので必ず保証されております。

次は、炭谷先生への質問です。「日本におけるソーシャル・ファームの展開で4つの分野をお教えいただきましたが、今後大阪のような都市化した地域での具体的な有望な分野についてお考えがあればお教えください」といことです。

炭谷:ありがとうございます。大阪でこれからソーシャルファームを起こそうという方が出てきて大変嬉しく思っております。大阪というのは大変革新的な、挑戦的な都市だと思います。ですから既に大阪では各地でソーシャルファーム、もしくはソーシャルファームと類似する企業が続々と立ち上がっております。特例子会社なんですけれども、いわば私の目から見れば十分ソーシャルファーム的な運用をされている、例えばコクヨとか大阪ガスのような特例子会社は、例えば農業の分野、中古パソコンの修理、これは3Rに該当すると思うんですけれど、そのような事業でかなりのいい成果を出していらっしゃる。それからこの堺の近くで言えば、大阪府立大学の中で、これは私もプロジェクトに関係させていただいていますけれども、水耕栽培的な農業工場を作っている。そこに何か障害者が働く場として作れないかというのが大阪府立大学のプロジェクトです。これがうまくいけば大変すばらしい事業になる。もちろんこれは日本でただ一カ所、世界でもただ一カ所しかない壮大な農業工場です。その担い手に障害者の人にも働く場所を提供できるんじゃないかなということで今プロジェクトが進んでいます。私もこれに関係させていただきながら、これはすごいことになるなと思っています。

また一方、大阪の済生会では私ども、病院を経営しておりますので、病院の寝具のクリーニング、こういうものも十分にソーシャルファームの対象になり得る分野でしょう。大阪では非常に発展性のあるものがいっぱい考えられる。これはむしろあまり品目に限定しないで考えればできるんじゃないかなと思います。

寺島:どうもありがとうございました。次に多かったのがCEFECの定義です。CEFECの定義の中に、生産能力にかかわらず仕事に相当する市場賃金または給料が支払われるという給料の支払いのシステムがどうもよくわからないということです。最低賃金は保証されているにしても、障害者と障害のない人たちの給料の分配の仕方がよくわからないということで、そこを教えていただけますでしょうか。ジェイコブさん、お願いします。

バーナード・ジェイコブ:各国それぞれ違いますので単純な比較はできないと思いますが、我々のソーシャル・ファームにおきましては皆が同じ給与を支払われることになっています。

寺島:同じ仕事をしている人に同じ賃金という考えでしょうか?

ジェイコブ:もちろんそうです。

寺島:能率というか仕事の成果が違う場合は賃金の差があるということでいいですか?

ジェイコブ:はい。

寺島:要するに、同じ仕事をした人には同じ賃金が支払われるということであって、全員が同じ賃金というわけではないということでよろしいでしょうか。

それからもう一つ多かったのが、評価のシステムがよくわからなかったという質問です。例えば社会投資収益率の出し方とか、インパクトの分析についてもう少し聞きたいということですが、ゲーロルドさん、すぐ説明できますでしょうか?

もし難しかったら、ここを参照すればわかるというのを言っていただけるとありがたいのですが。

シュワルツ:ちょっと説明を省いたところがあります。基本的には単純な原則に従っています。他の企業と同じように、すべての事業の収入をまず計算します。さらに、特定の期間、例えば1年とか3年の期間、国から得た助成金などを全部計算します。そして同じ期間、すべての企業が国に対して税金等で支払った金額を計算します。すなわち政府にいろんな方法で返済した金額を計算します。通常はプラスの額が出ますので、投資家には投資したよりも多くの金額が分配されることになります。また、障害者や雇用に不利な方々に分配されます。毎年、各従業員につき946ユーロの黒字です。

興味深いことに、様々な調査がありますが、そのひとつに1994年にソーシャル・ファームに関して連邦労働社会省が行った全国調査がありますが、同じような結果でした。いろいろな調査が、いろいろなタイミングで、ドイツのいろいろなところで行われておりますが、数字はだいたい同じです。パーセンテージで見るのがよいかもしれません。大体10%くらいとお考えください。政府が100%投資すれば、110%戻るという計算になります。

パービス:英国の例ですけれども、社会的投資収益率(SROI:Social Return on Investment)で社会的なインパクトを計ります。もちろん、すべてを金額化することはできません。そのような場合にさまざまな形で社会的なインパクトを説明しています。役立つと思われるものを一つご紹介しますと、例えば出資者に対して、あるいは社会に対してインパクトを説明しようとするときには、介入する前の状況がどうであったかを説明します。ソーシャル・ファームが例えば和歌山でできたとおっしゃいましたけれども、その前には福祉的就労しかなかったわけですね。それに対して介入後どうであったかということを比較することができると思います。社会的な恩恵がそこで出てくるはずだと思います。

寺島:それからもう一つは、職員の専門性や教育について知りたいということです。これはジェイコブさんでいいですか?

ジェイコブ:ソーシャル・ファームを始めるために、良いマネージャーになり得るのはどういう人かという質問がありました。福祉的な活動のバックグラウンドを持つ人がいいのか、あるいはビジネススクール出身者がいいのか。冒頭でも説明しましたように、我々はソーシャルワーカーや心理学者などがとても良い知識を持って困難を抱えている人たちをサポートし、トレーニングできると思って始めました。しかし3年たってみると、ビジネスはビジネスだということがわかりました。ですから今は徐々に考えを変えておりまして、新しいビジネスに挑戦し、一緒にリスクをとってくれる人たちが必要なのではないかと思いました。もちろん社会的に良い考えを持っている人たちがいいと思いますが、徐々にビジネスの分野からこのマーケットに一緒に参入してもらって関与してもらいたいと思うようになりました。市場で生き残っていくのはなかなか難しいですから。

寺島:今度は経営する人たち、それから経営者に必要な資質でありますとか、それから職員になるにはどんな訓練あるいは経験を積んでいったらいいか、そういうことを聞かれております。これはやはりジェイコブさんでいいでしょうか?

ジェイコブ:ソーシャル・ファームの経営においては、ビジネスの背景を持っている人たちと福祉の背景を持っている人たちが必要です。一緒に協力しビジネスと社会的、医療的な問題を救うことが必要です。ビジネスと福祉、二つの役割を分担してソーシャル・ファームを運営しないといけないのではと思います。

シュワルツ:この点についてお話します。ヨーロッパでは当初、社会的協同組合の人たちが一つのグループとして登場しました。NGOから精神改革ということを進めていこうということで、精神病院でドクターやナースから医療を受けていた元患者さんたちがかかわり始めました。ドイツではもともと、NPOあるいは非営利の人たち、あるいは福祉制度の中からこういったソーシャル・ファームが出てきたわけですけれども、しかしこの十年くらいの間、ビジネススクール出身者の人たちも関心を持つようになっています。このような人たちにも関心を持ってもらい、すばらしい進歩だと思うわけですが、そのような人たちを積極的に雇用できるような体制ができてきたと思います。付け加えますと、適切なマネージャーを求めるというのは継続的な努力が必要であって、解決のためのモデルがあるわけではありません。支援体制が非常に重要です。

我々の場合には早くからソーシャル・ファームマネージャーのためのセミナーやカリキュラムを始めました。ですから今ドイツではプログラムができていまして、ソーシャル・ファームの経営の経験を持っている人たちがセミナーやプログラムに行き、障害について学び、職場環境について学ぶことができるようになっています。どうすればチームとしてより良い仕事ができるような環境を作り出すことができるのか。また、経営者としてどう対応することができるのかなどを学ぶことができます。そういったセミナーや継続的なトレーニングの場がありまして、常に満員です。その一方でかなり初期の段階からソーシャル・ファーム起業セミナーというのもやりました。例えば2日くらいの週末のセミナーで、どのような団体でも誰でも参加できるわけです。多少の参加料は必要ですけれども、2日間のセミナーを開催し、設立と経営の基礎について理解してもらいます。内容は、法律、経理、マーケティングなどです。このようなセミナーは非常に成功していまして、英国でもやりましたし、当初はサマースクールと呼ばれていました。

ジェイコブさんのコメントについてこのことを付け加えておきたかったのは、もしかするとそれをソーシャルファームジャパンと連携してできないかと思うからです。既にカリキュラムはできていますし、ヨーロッパの経験を共有することができるのではないかと思っております。

ソーシャルファームジャパンがパイロット的にこのようなセミナーをオファーしてみてはどうかとも思います。そしてどういった反応があるのかということを見てみてもいいのではないかと思います。人々がどれだけ関心を持ってくれるかを探ることができます。

また、このような大きなイベント開催し、その次のステップとしては具体的に進めていくということだと思っています。

ジェイコブ:付け加えますと、最初はモバイル(移動型)大学というものを作りました。ゲーロルドさん、覚えていますか?専門的な形でヨーロッパのいろいろなところでモバイル大学として運営して教えていたわけです。起業家としてどうあればいいのかとか、こうしたモバイル大学の考え方は非常におもしろかったわけで、自分から大学に行くのではなく専門家がヨーロッパをあちこち点々と移動しながら教えていくという方法もおもしろかったと思います。

寺島:どうもありがとうございました。次の質問は、パービスさんにです。なぜ福祉作業所がどんどん閉鎖されていっているのですか?ということです。

パービス:恐らく、イギリスの障害者組織がこれについていろいろ意見を求められ、そして彼らが言うのは、障害者だけを隔離すべきではないという考え方が強かったのだと思います。何年も前からの考え方として、こうした作業所に閉じ込められてしまったら、彼らは主流から外れてしまうわけです。さらにお金もかかります。例えば一人2万5,000ポンドの補助金が出るわけですから、年金の賃金を上回る金額です。そのお金を違う形で使うということです。そのお金が別の形で使われて、主流の仕事に就けるように支援をしていくという方向に変わりました。その結果として経済的にも社会的にもより受け入れられやすいものになりました。これが障害者支援組織からの支持も得ています。

寺島:どうもありがとうございました。ソーシャルファームジャパンについてお聞きしたいというのがいくつか出ています。日本において何をもってソーシャル・ファームと判断したらいいのでしょうか? ソーシャルファームジャパンに加盟することでソーシャル・ファームと言えるのでしょうか? というものです。ソーシャルファームジャパンでは具体的に取り組もうとしたときに資金不足などについての相談に乗っていただけるでしょうかというご質問がありました。その辺、いかがでしょうか?

炭谷:まずソーシャルファームの定義ですけれども、今日のヨーロッパの方々のお話を聞いてもそれぞれの国によってかなり違うということがご理解いただけたのではないかと思います。ソーシャルファームの概念なり定義というのは、国によって、また時の流れによって動いてくるのではないかなと思います。私は定義は要らないと思っています。私は別に学問をやるためにソーシャルファームをやっているわけでもありませんし、ソーシャルファームの目的は通常の労働市場でなかなか自分に合った仕事に就けない人たち、そういう人たちのために仕事を提供する。その一点にあるわけです。ですから定義はなくてもかまわないとも思っています。

ただ、そうは言ってもソーシャルファームを進めるためには、これは一つの目的概念ではないかなと思います。一番重要な目的概念はこのように障害者をはじめ通常の労働市場では適切な仕事が得にくい人、得られない人たちに対して仕事を提供しようという社会的な目的を有しているということが第一だろうと。第二には、それを税金に依存しない、ビジネス的手法でやっていく。税金に依存するのであれば既に現在も公的な措置があるわけですから、そちらを利用すればよいわけです。より新しい分野の必要性というのは、税金に依存しない、ビジネス的な手法でやっていくということです。

何で税金に依存しないのか。これは自分たちの一つの独立した、また自立した、またそれによって新しい分野が拓けるのではないのかということを目的にしているからです。先ほどパービスさんがおしゃったイギリスでは、福祉作業所が閉鎖になりつつあるというのも大きな流れの一つに乗っているのではないかなと思いますけれども、私は一つの分野としてそのようなものを作る必要があるんじゃないかなと思っています。

三番目には、その仕事がディーセントワーク、生きがいのある仕事にならなければならない。

そして何よりも重要なのは、四番目に、住民が参加している。一般の人が参加をしていく。この部分について一般の企業と異なるわけです。

このようなことの目的を果たすものがソーシャルファームですので、定義はどうであれ、今の日本の社会の中で欠落していることをやっているわけです。ですから、ソーシャルファームジャパンに入ったからといってそれがソーシャルファームになるというわけでも、もちろんないわけです。

お金の問題、これはどなたも悩まれるわけです。いかにこれを獲得するか、用意するか、それは非常に難しいんですけれども、日本の社会というのは非常によいもので、いろいろと工夫をすればどこかで見つかる。自分たちではお金のない人がほとんどだと思うんですね。ソーシャルファームをやる場合においては、物によっては100万円かかる。今日、成功事例としてご紹介をしましたエコミラ江東はみんなの寄付で集めたわけです。このように考えると、お金は必ずかかりますけれども、これはそれぞれで努力をしていくということです。

ソーシャルファームジャパンはお金を持っているわけではありませんので、資金面での支援はもちろんできませんし、そういうことをやるために作っている団体でもありません。ただ、それぞれいろんな目的と志を持っていれば資金は何とか獲得することができるのではないかということで、努力をする必要があるのではないかと思っています。一番切実な問題だろうとも思います。

寺島:もう一つあります。ソーシャルファームジャパンのネットワークの中に入れていただくためにはどうしたらよいのですかと。

炭谷:ソーシャルファームジャパンについては、ホームページを作っておりますので、インターネットでアクセスをしていただければ事務局がございますので、そこに申し込んでもらえればいいわけです。私どもの団体は今のところは別に入会金も年会費もありません。単に年に1回の総会に参加をしていただく。これは義務ではありません。定期的に何か集まりを持たなくちゃいけないなと思っていますけれども、なかなかそこまでできる組織にまでなっておりません。ただ年に1回は総会を、今年も12月16日、日曜日に東京でやる予定です。もし関心のある方がいらっしゃれば、関西からは遠いですけれども、参加していただければありがたいと思います。いずれにしろホームページで予定は明らかにしたいと考えております。

寺島:ありがとうございました。それからもう一つ複数質問があったんですが、障害者アートについてソーシャル・ファームとして成り立つのかどうか。事例があったら教えてほしいということです。シュワルツさん、ありますでしょうか?

シュワルツ:それほど多くないんですけれども、ワークショップ型の活動をやって、そこで例えば陶器であるとか繊維や布などのハンドクラフトなどを作っています。ソーシャル・ファームの中ではあまり多く見かけません。このような活動からはなかなか利益を上げにくいということもあると思います。十分なサラリーをそこから払って、より大きな事業を展開するのが少し難しいということです。ただ一つおもしろい例があったのをご紹介しますと、ハンドクラフトをもう一つ上のレベルに引き上げた例がありました。完全に目の見えないお母さんがいて、以前だったら目の不自由な人たちの作業所で仕事をして、例えば籠を編んだりほうきのようなものを作る。そうしたものはまだ残っていますけれども、作業所のようなところで補助金を使ってやっていたので、今はあまりそういうところは職場として少ないです。もう一つ別の取り組みが必要だということで、このような作業所は運営が可能ではなく閉じられつつあります。ベルリンの美術大学との連携ということがありまして、そこでは作業所で籠などを作っていた技術を使ってさまざまな物を作っていました。籠作りであるとか、あるいは筆やブラシを作ってベルリンに来る観光客向けに売っていました。例えば観光客のお土産用のキーホルダーやキーホルダーにつける小物としてベルリンのクマのマスコットとか。モダンな魅力的な観光客用のお土産を作る。それは伝統的な作業所で使われていたようなハンドクラフトの技術を使うというものです。これは活用できる一例です。

あるいはセルビアのベオグラードの一例ですが、伝統的な手法を使ったハンドバッグ作りがありました。広告用の非常に大きなポスターがありました。建物の壁一面にあるような大きなポスターです。これは大きなポスターでしたのでリサイクルがなかなかできず、その大きなポスターを女性の協同組合が無料でもらってきて、伝統的なハンドクラフトの技術を使って、コンピューター用のバッグを作ったというようなものもありました。これも非常におもしろい例でした。このバッグは空港の観光客のお土産センターなどで販売され、1個20ユーロぐらいでハンドクラフトバッグとして売っていたという例があります。

難しい領域ですけれども、新しいアイデアと組み合わせることによって、いろいろな可能性が出てくると思います。

寺島:全てのご質問に答えるのは無理なので、こんな質問がありましたというのをご紹介だけさせていただきます。

「共同製造、共同販売等で成功している事例はありますか?」「観光業でうまくいっている事例はありますか?」「ソーシャル・ファームによって入院率の低下が見られたということをもう少し詳しく教えてください」とか、パービス先生にですが、「公共調達の改革、社会的価値法とありますが、それはどのようなことですか?」など、まだたくさんあったんですが、ちょっと難しい質問が多くて、すごく理念的なことで答え切れないものもたくさんあります。申し訳ありませんが時間の都合でここでは少し割愛させていただきたいと思います。

最後にパネリストの皆さまに本日のセミナーに出席されて感じたことや言い残したことがありましたら、ぜひご発言をいただきたいと思います。

炭谷:今日、私自身も大変勉強になりました。特にヨーロッパから来ていただいた方々の言葉の中で、ソーシャルエコノミー、社会経済という考え方をよく感じました。まさにソーシャルファームがなぜ必要なのかと言えば、いわば経済と社会との間にあるもの、これがすっぽりと今の社会では抜けてるのではないかなと。それがないために大きな問題が発生し、生きづらい人たち、うまく生きていけない人たちがたくさん日本の中で生じてきている。その対策が今、日本の社会で望まれ、必要になってきているのではないかなと。そのような大きな流れの中に私どもソーシャルファームも、すべてがそれで解決できるわけではもちろんありませんけれども、その中の一部を担っていけるのではないかと強く思っております。そのような意味で、ぜひソーシャルファーム作り、もしくはソーシャルエンタープライズ作りに、このように大阪で立ち上がっている人が一人でも多くいらっしゃれば大変嬉しいと思います。

シュワルツ:先ほどいろいろな質問がありましたので少し申し上げたいと思います。時間がなくて大変申し訳ないですが、具体的な解決策としては、ソーシャルファームジャパンのウェブサイトも見ていただければと思います。何らかのフォーラムで例えば協力をしていくとか、あるいは例えばこういった質問がある人がどんどん質問できるようなコーナーがホームページにあったらいいのではと思います。私どもへの質問でも。その場合は英語になりますが。こんなにたくさんの質問をいただいたことをとても嬉しく思います。他の形でお答えできればと思います。

最後に印象ということですが、今回、来日6回目ですが特に関心を持ちましたのは、皆さん方から先生も含めていろんなことを伺いました。日本は非常に興味深い展開になっていると思います。ソーシャル・ファームという名称自体は重要ではないということでしょう。大変興味深いアプローチが見られると思いました。

このような問題は日本もヨーロッパも同じです。ですから常に日本に来ては学ぶことが多いですし、私も皆さんの討議に若干貢献できたのであったら嬉しいと思っています。それ以上に皆さんからいろいろお話を聞いてとても嬉しく思っています。前回私は実際の現場も訪問させていただきました。皆さん自身が皆さん自身の発想で、ヨーロッパと同じような問題をどう対応されているのかを見ることができました。

ジェイコブ:簡単に申し上げます。差別禁止等につきましてEUの勧告に従っています。15年前は例えば困難を持った人、あるいは精神障害のある方が施設内に一生暮らしていたというのは問題視されませんでした。でもそれは変わりました。誰もが仕事に就く権利があることを知っています。日本の多くの方々もそのような方向でやっていらっしゃると思います。興味深いリハビリテーションプログラム、ジョブコーチングなどいろんな可能性があると思います。

ソーシャル・ファームというのは一つのモデルであり、今、私たちもそれに力を入れているわけですが、しかしそれ自身が目的というのではありません。その点では皆さんと同じ気持ちです。つまり日本のソーシャル・ファーム・ネットワークをさらに発展していくのであれば、いろいろなやり方があると思いますし、徐々にさらに多くのことが学習できるのではないかと思います。ヨーロッパでも当初はイタリアからたくさんのことを学びました。しかし15年後、今度はイタリアの人たちがオランダのモデルから学ぶこともたくさんあり、好事例をお互いに交換しあうことができます。モデルの数を少なくするのではなくて、どんどん広げていくことであり、それは雇用の場でいろんな人をインテグレーションしていく方法であるわけです。

パービス:イギリスのことで申し上げますと、社会的なイノベーションがどんどん出てきています。というのもセクター間の共有が行われているからです。例えばソーシャル・インパクト・ボンドというのがあります。それからビッグ・ソサエティ・キャピタルといったような取り組みはすべて金融業界の人たち、銀行の人たちが始めました。それぞれに理由はあると思いますが、社会的な関心がある人たちです。自分たちの子どもが障害を持っているのかもしれません、あるいは精神障害の問題がある人にたまたま会って彼らが持っているスキルを使って助けたいと思う人たちも出てきました。英国では企業、政府、ソーシャル・セクター、地域社会、こういったさまざまな人々が横断的に協力し、その結果イノベーションが生まれたのです。日本ではまだこのような横断的な協力がありません。企業は企業、政府は政府、コミュニティはコミュニティというようにまだ分かれていると思います。こういった異なる部門の人たちが協業することが日本でもっとできたら、もっと実りの多いイノベーションが起こり成果につながっていくと思います。

日本においては政府、官の力が強いし、日本の国民の皆さんも政府の承認を得なくてはいけない分野がいろいろあることは理解しています。よって日本の皆さんが政府等にもっと働きかけをして社会的な改革がいかに重要なのか、さらにソーシャル・ファームの発展がいかに重要なのかということを政府に訴えかけ、政府もそれを課題に考えるようになっていけば、ソーシャル・エンタープライズについてもっと調査し、もっと支援してくれると思います。そうすることで部門横断的な力強い協力が進むのではないかと思います。

伊藤:どうしても言って帰りたいことがあります。スタッフはどんな人がいいんだろうか。マネージャーにはどんな人がいいんだろうか。福祉系の人も必要です。でも企業系の人が要ります。企業のプロが要ります。打算的な考えも要ります。福祉系の人はかわいそうだ、かわいそうだとか、そういう教育を受けています。うちの方では訪問看護もあります。医療系もいます。この三つを並べておいたら争いばかり起こしています。そのくらい一人の人間を自立させていくには、三つの力を寄せて、今おっしゃったようにもちろん官民共同でやりたい。ここに官の人が入っていないのが悔しいです。

中崎:今日は大変勉強になりました。ありがとうございました。ヨーロッパの事情がいろいろ変わっていてすごく勉強になるなと思いました。今、日本のソーシャル・ファームがやっと動き出そうとしているのかなと感じました。炭谷さんのおっしゃるとおり2,000箇所のソーシャル・ファームが早く実現して、それを応援する中間支援組織というのができたときに、銀行とかキャピタルとか、そういう支援もできてくるのかなと思っております。

寺島:どうもありがとうございました。これでパネルディスカッションを終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

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