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報告書 ドイツソーシャルファームの実地調査報告会

報告1「ドイツ現地調査から学ぶ ドイツのソーシャルファームの動向と日本の方向と戦略」

炭谷 茂

ソーシャルファームジャパン 理事長
社会福祉法人 恩賜財団済生会 理事長
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 会長

私はこの日本障害者リハビリテーション協会の会長を務めております炭谷と申します。今日は「ドイツソーシャルファームの実地調査報告会」にこんなにたくさんの人が平日にもかかわらずご出席いただきまして、まず厚くお礼申し上げたいと思っております。

私ども、何とか日本にソーシャルファームというものを普及させたいということでいろいろ活動してまいりました。この活動のヒントを得ようということで、昨年度はイギリス、今年度はドイツにまいりました。非常に成果は大きかったので、これをこれからの日本のソーシャルファームの発展に役立てていきたいという気持ちを持っております。

そこで、私の方からまず、今回のドイツの現地調査から学びました、これから障害者対策はどうあるべきか、また、さらにソーシャルファームはどうしたら発展させることができるのか、ドイツの実地調査を踏まえながらお話をさせていただきたいと思っております。具体的にドイツの実情はどうだったかについては私の後に浦和大学の寺島先生に具体的な話をしていただきます。重複するところはもちろんありますが、詳しい具体的な内容は寺島先生の方にお任せをしまして、私からはそれを再構成いたしましてお話しさせていただきます。ですからちょっとわかりにくい点はお許しいただきたいと思っております。

今日、お配りしたレジュメをご覧いただければと思います。これに沿いながらお話しさせていただきます。

1.総括として

(1)ドイツのゲロルド・シュバルツ氏によって作成された調査プログラムによって大変充実した調査ができた。関係者に厚く感謝したい。

(2)障害者等社会的に問題を抱える人の人権の向上のため、また、現在の経済、社会的状況に照らし、ソーシャルファームの重要性を確信できた。日本においてもソーシャルファームの設立をさらに強力に進めていかなければと改めて思った。

(3)しかし、ソーシャルファームを設立・経営していくためにはいくつかの困難な課題があることも事実である。これを克服していかなければならない。

(4)このためには政治面と社会面に関するマクロ的な戦略が必要である。
次に経営面と技術面に関するミクロ的な戦略が必要である。ソーシャルファームジャパンの役割は、極めて重要である。

(5)これらの戦略の策定にはソーシャルファームの先進国で豊かな経験と実績があるドイツ、イギリス、イタリア、フランス、オランダ、フィンランド、ギリシャ等が大変参考になる。
国によってソーシャルファームの姿は、かなり差異がある。日本は、これらの国と密接な連携・交流を取りながら、推進していきたい。ソーシャルファームジャパンとしてヨーロッパとの絆が一層強化されたことは、今回の成果の1つでもある。

(6)これまでの調査を踏まえ、日本は、日本の政治、経済、社会等の条件に適合した独自の「日本型ソーシャルファーム」の確立を目指して行くべきである。

まず初めから、今回の調査に基づいて得たもの、総括を最初にさせていただきたいと思います。今回の調査については後ほど寺島先生に話していただきますが、大変充実しておりました。

これはこのプログラムを組んでくださったゲロルド・シュバルツさん、この方は日本に既に4回ほどお呼びして、一緒にソーシャルファームについて考え合ってきた人でございます。顔なじみの方ですけれども、大変きめ細かいプログラムを組んでくれました。現在彼は、ポーランドのワルシャワに住んでいます。わざわざ調査にあたってはワルシャワから飛行機ではなく、自動車でベルリンに来ていろいろ案内をしてくれました。彼はもともとドイツ人でして、ベルリンと言っても共産圏の方の東ベルリンに生まれ育ったのですが、現在はワルシャワに住んでいますが、わざわざ来てくれました。彼はドイツのソーシャルファームの、いわば設計者、パイオニアという位置づけです。ですから大変人脈もあり、現状にも通じているということで、きめ細かい配慮をしてくれました。また日本側の連絡に当たっては、司会を務めてくれている野村さんがああでもないこうでもないということで、いろいろと注文を付けましたので、大変いい結果ができたのではないかと思います。このような調査ができたのも、10年近くにわたるシュバルツさんとの長い交流の結果だろうと思います。厚く感謝している次第でございます。

今回の調査を得ての結論を先に申しますと、やはりソーシャルファームというのは絶対に必要だということ。現在のドイツを含め、ヨーロッパ先進国の障害者対策だけではなく、障害者を含めて社会的に不利な立場にある人の今後のいわば人生を考えると、ソーシャルファームというものは絶対不可欠な存在であるということを確信したわけです。それに比べて日本ではまだまだ進んでいないなということで、一層努力しなければいけないということが今回の最大の結論、もしくは確信に至ったわけでございます。

しかし、これまで我々が学んでまいりましたように、ソーシャルファームをやろうと思ってもなかなか難しい。どういう仕事をしたらいいのか、お金をどうするのか、どうやってモノを売ったらいいのか。いろいろなつまずきがいっぱいあります。なかなかスムーズにいきません。

ドイツも同様でした。しかしドイツはそれらを克服しました。大きく言って克服の仕方は2つの分野に分かれると思います。

1つはマクロ的な戦略、これがドイツではしっかりとられていました。政治的な面、社会的な面、この2つにわたってしっかりとした対策がとられていた。つまり政治的な面とは、政治家に障害者対策、また、ソーシャルファームというものを理解してもらい、それを法律面、財政面で制度化してきている。これは1つの政党だけではなくすべての政党が援助してくれている。また、社会面では、これまた私の今回得た強い確信ですけれども、国民の障害者に対する理解。理解というよりも障害者に対する考え方が日本と全く違いました。ここの成熟性、この部分がなかなか日本の社会ではまだまだだなと。これも1つの私の今回ドイツで学んだことの大変大きな点です。社会面、国民全体。その中にはもちろん企業支援や団体の支援もあります。しかし、それよりも幅広い一人ひとりの国民の障害者に対する態度が全く違います。どんな態度なのか。これは私の1時間にわたる話の中で明らかにしていきたいと思います。これがマクロの戦略ですね。

ミクロの戦略は、つまりソーシャルファームを作っても経営がうまくいかないという経営面。そして技術面、どういうふうにしてソーシャルファームの製品を作ったらいいのか。その両方の面、これがより具体的になります。これについてもドイツは大変工夫していることがわかりました。こういう両面、マクロ面、ミクロ面、両方しっかり組み立てないと、ソーシャルファームというものは日本でもなかなか育ってこないのかなという意識を持ちました。

(5)に書きましたが、昨年はイギリスにまいりました。今年はドイツです。両方、全部違うのですが、両方から得たものは大変大きいです。ソーシャルファームジャパンでは今年6月にフランスから、やはりソーシャルファームの一種であるジャルダンという組織を招きました。それから日本障害者リハビリテーション協会では以前、イタリアの人を招いたりオランダの人を招いたりして勉強しました。それぞれ国によって違うんですね。そして国によってそれぞれ工夫をしてされている。これがソーシャルファームの1つの特徴でもあるのです。1つの型だけではないのです。一言で申しますと、昨年度行ったイギリスは経験主義です。これはイギリス人らしいところです。物事を歩きながら考える。だからあまり体系的にしっかりしたものはない。しかし悪い点があれば少しずつ直していこう、これがイギリス流です。

一方、ドイツは、皆様方お気づきのように、大変理論的にしっかりしています。論理的と言いますか体系的にしっかりしている。日本人に比較的近いのかなと思いました。ですから強力にソーシャルファームが進行しています。これがドイツ流。イタリアは、生活協同組合の形をとって進んでいる。フランスはどうか。フランスは官僚国家ですので、ですから国家の支援が大変大きい。そして一つのジャルダンの組織でいえば3,000人の、これは主に刑務所からの出所者ですが、その人たちの社会参加をするための活動をしている。そしてジャルダンの組織ではそれぞれの農業においていろんな工夫をしながらやっている。つまり農業国ですね。そういう違いがある。それからゲロルド・シュバルツさんの住んでいるポーランドなどでは法律を作ってやっている。

それぞれ国によってこのように違うのですね。それぞれ国の違いがありながら発展している。ここが重要だと思うのです。どうもソーシャルファームというのは1つの型ではないですね。1つの国だけを勉強して「これがソーシャルファームだ」と思ってやっているとうまくいかないわけです。ですから(6)に書きましたけれども、日本的な風土に合った日本型ソーシャルファームを求めることをさらに求めていくことが肝要かなというのが結論として持っています。

また、我々はそれぞれ違いますけれども、それぞれの国との交流をしっかり持っていきたい。例えばイギリスに昨年行ったおかげで常にイギリスから、今はインターネットの時代ですから、インターネットで情報をくれます。また、ドイツに行った結果、ドイツとも綿密に一緒になって考えていこう。フランスも同様です。フランスのジャルダンとも何か一緒に製品を作ってはどうかというプロポーズもいただいています。このようにヨーロッパと一緒にやることによって、日本のソーシャルファームは発展していくと思っていますし、その礎になったのは、今回、また昨年の調査だろうと考えています。

2.ドイツの障害者施策の基本

そこで2です。ソーシャルファームと離れて、ちょっと大きなことをお話しします。ここが大変肝心なところだと思います。

私自身、実はドイツに行ったのは今回が初めてです。あまりドイツの福祉に関心を持っていた方ではありません。主にイギリスや北欧を勉強していましたので、ドイツの福祉なんて大したことないということであまり勉強してきませんでした。いや、今回行って、大きな誤りだった、ちょっと損をしたなという気を持っています。と申しますのは、ドイツの障害者対策は哲学的な意味で大きな要素を持っています。

(1)社会の一員としての通常の暮らし方

① 障害者の人権の確立

日本と比べ特に精神障害者施策は30年先行している
当事者、関係団体の運動。政治、行政の対応。何よりも国民の態度

(1)に書きましたけれども、障害者といえども社会の一員として通常の暮らし方ができることを追求する、これが基本に置いている。これが理屈、スローガンではなく、それを追い求めて現実に、我々が見たのはベルリンとハンブルグだけですが、その都市の中で経験することができました。

障害者対策、日本も充実しました。しかし日本はまだまだヨーロッパと差があるなと思いました。私はイギリスと日本では特に精神障害者については30年遅れていると今でも思っています。ドイツともやはり少なくとも30年遅れている。そういう状況が今あると思っています。精神障害者だけではなく、身体障害者、知的障害者など他の障害についても日本とドイツの差は残念ながらまだまだあると考えています。

なぜそうなるのか。これは政治や行政の役割もあります。それからまた障害者自身の運動、それを支える民間団体の力もあります。しかし、何よりも、ここが肝心ですが、理屈の世界ではありません。実際に感じたのは、国民の理解・態度、それが違うのですね。よく、海外に行って、北欧に行って、北欧の住民の方々は弱者を助け合っているとかきれいごとを書く人がいますけれども、今回の場合は、そういうものではなく国民一人ひとりが障害者を1人の人間としてちゃんと接している。ここが違うのだなと。この感覚というのは、やはりこれからの日本が目指すべきところだと思っています。

② ノーマライゼーションを超えてソーシャルインクルージョンへ

ソーシャルインクルージョン政策も1つの過程・手段として認識しなければならない次の段階は何か?
 グレンツファールホテル(Hotel Grenzfall)の場合
  サービスの水準、客の利用は、一般のホテルと全く同様である

これまで戦後の障害者対策はノーマライゼーションを中心にして行ってきました。次の段階、20年ぐらい前からノーマライゼーションを克服して、現在はソーシャルインクルージョンに移りました。今回もドイツに行って、ノーマライゼーションと言う人は誰もいません。今はソーシャルインクルージョンに基づいてこのようなソーシャルファームをやっている、障害者対策をやっているという話でした。ノーマライゼーションにしろソーシャルインクルージョンにしろ、これは手段です。目標ではないです。目標ではなく政策の手段です。ですからそれが次から次に変わっていくというのは、ある意味当たり前の話です。

今、私が今回の調査を踏まえて思っているのは、日本はまだノーマライゼーションにとどまっているということ。ヨーロッパで考えれば既に20年前に終わった話をまだやっているというのが日本の状況だと思います。そして今はソーシャルインクルージョン。どうもソーシャルインクルージョンも手段というのはもう不必要になってきたのかなと。もう次の段階にきている。次の段階の言葉はまだ文章化されていませんけれども、次の段階にもう入っていると思っています。

例えば、私どもは5日間にわたってグレンツファールホテルというホテルに泊まりました。ここは一種のソーシャルファームです。所有者は教会です。しかし経営をしているのはホテルのプロで完全なる黒字なのです。そして37名の従業員がいます。私自身、済生会の理事長になる前はリゾートホテルの経営者でしたので、ホテルについてはある程度の感覚があります。37人というのは確かに従業員としては多いと思います。というか多すぎます。37人の従業員のうち、なんと31人が重度障害者という状況です。我々はグレンツファールホテルというのはソーシャルファームだということがわかっていましたから、着いた当時からどうかな、という目で見ていました。レセプショニストに会うと、この人は精神に障害を持っているな、レストランに行くとこの人は聴覚に障害があるなというのがわかる。しかし、ここが重要ですが、マネージャーに聞くとここに宿泊する人の75%は、ここがソーシャルファームのホテルだとは知らないで泊まっている、普通のホテルとして選択している。日本で言えば楽天のインターネット予約システムに基づいて泊まっているだけ。そして誰も気がつかない。あの人が障害を持っているなとは気がつかないし、特別にも考えていないということです。そうやって選択されている。このホテルが普通のホテルと全く同じ扱いになっていて、一緒になって競争している。ここが違うのですね。障害者がやっているホテルだからもっと利用してくださいというようなことではなく、1つの経済主体として通常の経営をしている。そして利用する方も特別な感情を持っているわけではない。ここにドイツの障害者対策の成熟度、現在の達成度というものを感じます。

ですから、ノーマライゼーションというのはまずはバリアフリーとか、段差をなくそうとか、障壁を除こうとする。ソーシャルインクルージョンは、さらにその人たちを社会に包括するためのダイナミックな動きをする政策です。しかし、今は第3段階にきているわけだと思います。

(2)原点はナチスによる障害者虐殺の歴史の深い反省に立って推進

消すことのできない歴史
ホロコーストと同様

このような歴史は決して最初から、ドイツ人が特に優しいから、人権意識があるから発展したわけではありません。これは残念ながら悲しい歴史、(2)に書きましたが、ナチスの障害者虐殺の歴史の反省に立っているということも事実です。ホロコースト、600万人のユダヤ人が虐殺された。それと併せてナチスは障害者を虐殺した。この反省を踏まえて、この歴史的教訓を現在でも大切にしながら、今、障害者の人権を拡充してきた。これが今日ではごく自然に受け止められていると思っています。

(3)制度的・財政的枠組みが綿密に設計されている

国、州政府の明確な意思
 2001年にソーシャルファーム関係法の制定
  ドイツ社会法典第9編132条~135条(SGB Ⅸ)として規定
 手厚い財政措置

(3)のように、このような動きを受けて政治の世界では、制度的、財政的な枠組が綿密に構成されていると感じました。2001年にはソーシャルファーム法というものが、単独法ではなく、ドイツ社会法典という大きな法典の中の一部に組み込まれていますけれども、その中に位置づけられているわけです。そして手厚い財政援助を併せて入れてソーシャルファームの発展に寄与してきたということです。

3.ソーシャルファームの基本知識(初めての人のために)

今日参加しておられるうちのかなりの人は、ソーシャルファームは何なのかということは既に予備知識として持っていらっしゃいますけれども、初めての方もいらっしゃると思います。そこで、ソーシャルファームの概念について簡単に説明します。3の(1)です。これはいずれも2010年のシンポジウムのときに、今回案内していただいたゲロルド・シュバルツさんのものを引用しています。

(1)ソーシャルファームの概念 ソーシャルファーム・ヨーロッパ(CEFEC)による(1997年)

2010年の日本障害者リハビリテーション協会主催のシンポジウムでのゲロルド・シュバルツ氏の資料より

①ソーシャルファームは、障害者あるいはその他の労働市場に起きて不利な立場にある人々を雇用するために作られたビジネスである

②ソーシャルファームは、その社会的使命を追求するために、市場志向の商品やサービスの提供を行うビジネスである

③ソーシャルファームの従業員の相当数が、障害者あるいはその他の労働市場において不利な立場にある人々である

④各従業員は、仕事内容に応じ、市場の相場に従って賃金または給料を支給される

⑤労働の機会は、不利な立場にある従業員と不利な立場にない従業員とに、平等に与えられる

⑥すべての従業員は、雇用に関して同等の権利と義務を持つ

ヨーロッパの統一の定義です。

①ソーシャルファームというのは障害者などその他労働市場でなかなか通常の仕事が見つかりにくい人、そういう人に対する支援、就労の場である。

②ビジネス的な手法として行う。

③すべてが障害者などの当事者ではなく、相当数いるということになっています。これは国によって割合は違います。少ないところでは4分の1、多いところでは2分の1。大体その範囲に収まっているだろうと思います。

④⑤⑥ですけれども、障害者など当事者も通常の労働者と同じ賃金、同じ労働条件で勤務をするということになっているわけです。

ですから簡単に言えば、ソーシャルファームというのは、障害者などの何らかのハンディキャップを持っている人、通常ではなかなか一般企業では働けないという方に対して通常の労働者と同じような勤務ができるものを提供する、そういう企業体です。

(2)ドイツの状況

① 2007年現在約700のソーシャルファーム

② 従業員1社平均28人

③ 年間売上高1社平均100万ユーロ(1億4千万円)

④ 従業員の25~50%が障害者

ドイツの状況です。少し古い資料ですが、2007年現在は700のソーシャルファーム。

現在はもっと増えていると思います。従業員は1社当たり28人。年間売上高、1社当たり100万ユーロ、1億4,000万円。従業員のうち25~50%程度が障害者となっているのが4年前のゲロルドさんの発表で出ています。現在も多分、多くのところは変わっていません。ただ、数は当然増えているわけです。

ですからつかんでいただくイメージは、私どもが今度訪れたところは、後ほど寺島さんにお話しいただくように、小さいイメージで全くないんです。日本でいうところの中小企業の真ん中くらいのイメージです。よく大田区などの中小企業を訪れますが、あの中でも大きいところのイメージです。本当に小さい町工場のイメージではありません。日本の福祉作業所のイメージから大きく離れています。もっと大きい、中小企業でも大きい方の工場だと考えればいいのではないかと思います。従業員の数も我々が行ったところも100名近くいらっしゃるのではないかと思います。広大な、例えばインテグラというところに行きましたけれども、そこではトラックが5~6台いましたし、敷地面積は小学校のグラウンドぐらいあったのではないかという感じがあります。

4.ドイツでソーシャルファームはなぜ必要になったのか

(1)障害者の働き方の転換

① 通常の労働者として働きたい

被保護労働から脱して
 福祉作業所の30万人が就業
 福祉作業所の就業者は、30年前は毎年4%増加
  高齢化、家族の変化、経済不況
 事業者と契約
  労働市場の一員
  →ソーシャルインクルージョンの推進のために障害者権利条約が後押し
   精神障害者の生活や就業状況に大幅な改善が要するという調査も出された

ドイツでなぜソーシャルファームが必要になってきたかということです。

まず(1)、これが強調したいところですけれども、障害者の働き方の転換を図りたい。これは障害者自身からも出てきました。通常の労働者として働きたい。これまでは日本では残念ながらこの段階にとどまっていると思うのですが、被保護労働から抜け出したいと。当時、ソーシャルファームが考えられたときは、30万人の福祉作業所、日本で言えば障害者自立支援法に基づく施設、昔で言ういわゆる授産施設のイメージで、30万人がここで働いていらっしゃいました。しかしそこは日本の状況とほとんど同じです。給料も安い。仕事も自分に合わないという状況です。でも就業希望者は毎年4%ずつ増えていったということです。当然、高齢化して障害者が多くなった、また核家族化によって自分たちを支援してくれる人、面倒を見てくれる人が少なくなったという事情。全く日本と同じです。そこで通常の労働者として働きたい、事業者と労働契約を結んで働きたいということが出てきました。なかんずく、これは政府の調査でも出てきたのですが、精神障害者の就業状況もよくない。これは問題だということも明らかになり、これが後押しをしております。

こういうことが第2番目の理念であるソーシャルインクルージョンの推進のためにも、このソーシャルファームが必要だと言われたわけですけれども、障害者権利条約の批准が大きな後押しにもなったということを話してくれました。

ですからこれは、障害者自身が自分たちは一人の人間として一人の人生を得るためにこういう働き方をしていいんだということが起こってきた。これが1つです。

② 支援団体の活動と政治の動き

1985年1月に設立されたFAF(ソーシャルファーム支援機構)が政治家、労働省へロビー活動
 まず精神障害者、刑務所出所者関係が重点要望
 →圧力団体の必要性、有効性
1987年 FAFはバイエルン州で補助金を受けてソーシャルファームを設立成功事例を示す
超党派の政治家の理解
2001年にソーシャルファーム関係法の制定
 社会保障法典に規定
 →法制度がソーシャルファームの推進力に

③ 障害者以外の刑務所出所者、長期失業者、高齢者、障害者に該当しない難病等の患者等はどうか

ドイツでは現在は重視されていない模様
→しかしソーシャルファームの趣旨からして対象からは絶対に外してはならない

2番目、これを支援する団体の活動とそれに呼応した政治の動きがドイツにあったということです。1985年1月にFAF=ソーシャルファーム支援機構が設立されました。ここに我々が行ってまず全体像を教えていただきました。彼らは労働省へロビー活動を活発にいたしました。狙いは、まずは遅れている精神障害者、また刑務所からの出所者。この2つの就業問題をとらえてキャンペーンをします。このキャンペーンが大変大きな成果を招いた。だから日本でもこのような社会キャンペーンというものが重要だろうと思いました。

1987年、FAFはバイエルン州で補助金を受けます。ドイツは州単位で物事が動いていますので、この州の補助金が大変役に立つと、案内をしてくれたシュバルツさんもおっしゃっていました。

FAFは、こんな働き方は重要だと理屈で言っても、誰も政治家も相手にしてくれない、こんなことできるわけがないだろうということで相手にしてもらえなかったというんです。それであれば何とか自分たちで実績を示さなければいけないと。それにバイエルン州が応えてくれた。当時始めたときにFAFの人たちが言われたのは、どうせこんなのは放っておけば自然に消滅すると。つぶれるに決まっていると言われたということでした。そこで逆に、歯を食いしばって頑張って成功させないといけないと努力をしました。それが成果を現し、成功するわけです。これに超党派の政治家が動きました。2001年には法律ができ、これが法制度によってソーシャルファームの推進力になったということを話してくれました。

この発足は、刑務所からの出所者や精神障害者の就労の場を作るために起こったわけですが、現在、我々が調査をした限りでは、障害者以外の刑務所出所者、長期失業者、高齢者、障害者に該当しない難病患者という人たちもいらっしゃるはずです。当初、ソーシャルファームを起こすときはこういう人たちにも力を入れようと起こったのですが、どうもヒアリングをしている感じだと、こちらがどうもなおざりになっているのではないか、問題が多いのではないかというふうに思いました。現在は障害者を中心にすすめられているという感触を持ちました。

なぜなのかというと、後ほどお話ししますけれども、障害者の雇用率を満たしていない団体からは賦課金をとります。その賦課金をもとにして施策を打っている。そういう関係も大きいのではないかという印象を持っています。

(2)ソーシャルファームの財政効果

FAFの制度要求の根拠にする
政治家、行政の説得材料に
 福祉作業所は1人年13,567ユーロ(190万円)を要している
 ソーシャルファームはずっと少ない
社会福祉経費の増嵩による財政難
 →これを重点的に強調することはどうだろうか

次に2番目の財政効果。これはFAFの幹部がさかんに強調していたのですけれども、ソーシャルファームの方が、財政効果があるのだという説明をしたということです。

福祉作業所はドイツの場合は1万3,576ユーロ、日本円に直すと1人当たり190万円のお金がかかっている。それに比べてソーシャルファームは経費が安く済みますと、政治家や行政を説得していたというのです。なるほど人間というのはこういうことを説明すると、日本では財務省なんかが飛びついてくれるのかなと思います。しかし手段と目的を混同してはいけない。あくまで目的は、財政削減ではないです。これが当初から目的化してしまうと、何のためにやっているのかということになります。ですからあくまでこれは結果であって、これを目的にすると、変なおもしろくない方向に走ってしまうのではないかと私は思いました。

(3)これからの新しい国家政策として必要になったことも大きいと考えられる
(今回のヒアリング対象者からは直接的な言及はなかったが)

日本を含め先進国共通の方向である

① 障害者の人権尊重の徹底

② 金銭・サービスを給付する福祉政策から就労を保障する政策へ
これによってソーシャルインクルージョンを図る

国家政策としてもソーシャルファームは必要になってきたのではないかと思っています。

これからの先進国共通の国家政策、社会政策というのは、障害者などの人権尊重を基本にしないような国家というのは、国家として存在は許されなくなってきている。こういうことが先進国の共通の国家政策だと思います。日本の場合は残念ながら、そういうふうにあらねばならないというふうに希望を含めなければいけないのですが、やはり国家というのは、障害者、難病患者、高齢者、社会的に弱い立場の人であっても人権というものをしっかりと守っていく、向上させていく、それが国家政策の基本だろうと思います。

そして今は、単に20世紀型の福祉のように、再分配をする政策、つまり金銭やサービスを交付する手段から、みんなが社会に参加をする、そしてその手段として就労を促進する、そういう方向に移っているのだろうと思います。これによってソーシャルインクルージョンが図れるということを、国家政策の基本に先進国はしているのだろうと考えています。

5.ソーシャルファームの社会政策としての意義
(今回の調査から炭谷が考察したこと。6も同様)

ではソーシャルファームの社会政策としての意義はどんなものがあるのか。これは直接これに焦点を当ててヒアリングするということはしませんでしたけれども、これまで我々が1週間にわたる調査の結果、私なりに整理したものです。

(1)既存の社会政策の限界

① 対象者を保護対象として捉えている

このため人間の尊厳性の確保、人権保障に問題

② 非効率的支出、国民負担の増大

低成長、少子高齢化
サービスの質の低下、供給量の限界

③ 官僚・行政組織の肥大化

権力的な運営。ムダな財政支出

④ 対象者のモラルハザード、不正受給を招く可能性

(1)既存の社会政策の限界ということです。

つまり日本はまだまだこうではないかと思うのですが、対象者、つまり障害者などをあくまで保護する対象として現在でもとらえている。これではいけないのではないかということで、冒頭以来私が強調している人権というもの、また人間の尊厳性というものを確保しなければいけない。残念ながらこれまでの福祉障害者政策は保護対象としてとらえていたのではないか。

②、非効率的支出、国民負担の増大。これが出てまいります。少子高齢社会、低成長、それによってサービス量は限界があり、またそれに伴って質の低下もきたしています。

③、これは日本において強調しないといけないと思いますが、福祉政策になるほどメニューはたくさんそろいます。それに応じて役人の数、事務費が増大する。大体1つの制度を打つ、例えば100億円の制度を打つと、10%は行政の管理費用です。これは大変無駄な話です。せめて100億円全部が福祉サービスに使われればいいんだけれども、10%は必ず人件費や事務費に使われてしまう。このコストが膨大にふくらんでいる。これは日本だけでなくドイツや先進国、共通した問題です。

④、残念なことにこのような福祉の給付というのはともすればモラルハザードがある。よく言われますね、せっせと働くより生活保護をもらって休んでいたほうがいいやとか、不正受給という問題もある。これは一般の人から批判も出てまいります。

(2)ソーシャルファームの社会政策としての意義

① 当事者の生きがいの増大、人間性の尊重

② 事業者の創意工夫、サービスの質の向上

③ 当事者、事業者、住民の参加によるソーシャルインクルージョンの確立

④ 行政組織の簡素化、行政管理費用の節減

それに対して、ソーシャルファームの社会政策としての意義ですけれども、先ほど来、強調していますように、当事者の生き甲斐の増大、人間性の尊重、そして障害者の人生の送り方、また自分の人生の選択の拡大になるという面があります。

②、サービスを提供する事業者自身がいろんな仕事が考えられる。そして質の向上にもつながってまいります。何よりも、当事者だけでなく、事業者、また住民もそれに協力する。またそれを利用する国民もこれに参加することによってソーシャルインクルージョンの確立が図れる。そしてソーシャルファームは官僚組織の中に属しませんので、行政組織の簡素化、または行政管理費用の節減につながっていくわけです。

6.ソーシャルファームの経済政策としての意義

(1)経済主体の1つとして

既存の経済主体へのけん制勢力になりうる
 株主の利益追求を第一に考える既存の主体
 公益面の欠如
公益的利益を利益の確保と同等に重視

それでは経済政策としては、どのような意義があるのか。

これはソーシャルファームが1つの経済主体になっている。いわば民間企業と同じように伍していけるような位置づけになっているのです。

民間企業は言うまでもなく同じ仕事をしていても究極的には利潤を目的にしている。金儲けを目的にしている。これはいい悪いではなく、企業として当然のことだと思います。利潤を追求する。それに対してソーシャルファームは利潤を目的にしていません。あくまでも当事者の利益。利益は上げなければいけませんが、利潤は目的にしておりません。そして一般企業は利潤を目的にするために、どうしても、ともすればいろいろな面で支障が生じます。それに対するカウンターパワー、抑制力として民間企業の代わりにソーシャルファームがあるよということになれば、国民はソーシャルファームという経済主体を選択することができる。そこからできたサービスや商品を買うことができるわけです。

同じようなことは、製造だけでなく例えば商品の販売も。生活協同組合も似たような位置づけですが、一般の民間がやっているスーパーに対抗して生活協同組合がある。生活協同組合は利潤を目的にしているスーパーマーケットに対する牽制力。自分たちは市民に安心な商品を届けるのだという考え方の牽制力になるのです。それと同じような役割がソーシャルファームにできている。小さい組織だったらそういう役割は持たないですね。大きな力を持つから民間企業と伍していけるのではないかと思います。

(2)ビジネス的手法による効率化

それから経済の面から言えば、ビジネス的手法で行いますので、効率化の面で経済政策として成り立ちます。

(3)国の経済への貢献

また、これが大きな1つのGDP、富を生みますので、国民経済への貢献という面で考えられると思っています。

7.ドイツのソーシャルファームの設立の経緯

(1)2000年代初頭から中央政府から福祉作業所に対してソーシャルファームを設立するように強い要請・圧力

現実には福祉作業所側がしぶしぶ設置したソーシャルファームが多い
FAFや政府がソーシャルファーム構想を提案した当初から既存の福祉団体の大勢は、
ソーシャルファームに消極的
 インテグラ(Integra)
  パーティー用品のレンタル
  厳しい競争の中で発展
  →日本の社会福祉法人が社会貢献の一環としての導入が検討する価値がある

では、ドイツではどのようにしてソーシャルファームが発展してきたのか、今回、学ぶことができました。

昔からソーシャルファームがあったわけではありません。2000年代初頭、大体1980年代後半から徐々にこのような発想が出てきた。国のレベルで出てきたのは、21世紀に入ってからです。ここにはやはりドイツの体系的、理論的な緻密さがあるのですね。国のレベル、これは連邦政府は社会福祉をやっている事業者、向こうは社会福祉の法人格のようなものはありませんけれども、例えば教会や労働組合など福祉をやっている団体がドイツの福祉を担っているわけですけれども、そういう団体に対して、あなた方はソーシャルファームを必ず作れというふうに強引な行政指導をやるのです。例えば日本的に言えば社会福祉法人が授産施設をやっている。それはちゃんと公から税金で面倒を見ている。いや、それだけじゃダメだと。自発的にビジネス的手法でやるソーシャルファームも必ず作れということを強引に行政指導される。これは聞きませんでしたが、もしやらないなら、片方の、いわゆる税金でできている福祉作業所に対する予算を手加減するよというようなことは、内々であうんの呼吸で伝わっていたのではないでしょうか。

これに対して福祉側は、本当に消極的、渋々ですね、こんなものやりたくないなということを言ってくれました。みんな反対だった。賛成した人はほとんどいなかった。こんなことはやりたくない。あくまで福祉作業所のように税金でちゃんと面倒を見てくれるところで、あくまでそれだけに集中したい。こんなにビジネスだとか自分たちで稼がなきゃいけない、こんなのやりたくないよと。みんな反対。喜んでやったところはほとんどなかった。皆無というのは言い過ぎですが、イメージとしてはほとんどが反対だったと言っていました。

しかし、ドイツも1つの官僚国家なのでしょう。国の権力が大変強いところです。相当、強引に、やってないところにはやれというふうな強い行政指導をしたと聞きました。例えば、後ほど寺島先生が紹介してくださいますけれども、インテグラという団体。インテグレーション、まさに統合という意味です。これも日本流でいえば、社会福祉法人の1つのようなものだと思います。そこは福祉をやっていた。非常に発展していました。ドイツの大きな社会福祉をやっている団体ですけれども、そこに国の方からソーシャルファームを作れと命令がきた。そこで内心はやりたくないと言っていたのですが、やらざるを得ない。やる以上は成功しなくてはいけないということで、やったのはパーティー用品のレンタルを始めたというのです。それから清掃事業も始めた。小さい小学校くらいの大きさはありました。そしてパーティー用品、例えばお皿やフォークを貸すのです。日本ではそういう商売は少ないのではないかと思いますが、ベルリンでは20ぐらい、競争相手が大変多いです。そういうたくさんの競争相手の中でやってきました。

私は、これも1つのやり方かなと思いました。最近、日本の社会福祉法人は一体何をやっているのかわからない。自分の法律の制度のことしかやっていない。例えば介護保険なら介護保険で、お金を送ることしかやっていないという批判があります。ドイツのやり方は、確かにこれから社会福祉法人も、老人特養で1施設当たり3億円も貯金を持っている。私は、これは正しくないと思っていますが、お金をたくさん貯め込んでいる。これを吐き出させようというのが現在の財務省の考え方ですが、その批判は一部当たっているところがあります。社会福祉法人といえども、自分たちが持ち出して、新しい分野、国が何も面倒を見てくれないという分野でやるべきだと。これはやはりドイツの例が私は大変参考になりました。

(2)ソーシャルファームとして独自にスタートした会社もある

これに属する会社は、積極的な姿勢を有するので、成果を挙げている
 エルコテック(Elkotec)
  電気器具の組み立て
  経営者、労働者の意欲は高い
  事業規模も拡大中

一方、現在のドイツのソーシャルファームは2種類あります。今のように既存の社会福祉法人のようなものがやっている団体に行政指導でやらせたもの。もう1つは、ソーシャルファームのためだけに起こったソーシャルファームです。この方がいいですよね。自分たちは障害者などの当事者のための仕事場を作ろうという意気に燃えている。そういうところに我々は訪れました。

インテグラは大変立派な活動をしていましたけれども、より活発な活動をしていたのが、例えばエルゴテック。これはソーシャルファームを作るための団体でした。ここもまさに、日本でいえば、大田区や川崎市にあるような中小企業の大きい方の工場だと思います。医療機械、電気器具、自動車部品を作っています。その経営者にお会いしましたが、もうバリバリの経営者です。そして常に拡大をしている。でも彼らの中心は障害者の就労の場を作ろうということで20数年前に始めた。初めは2人で作って、今では何人でしょうか、後ほど出てきますが100人近くは働いている。そして医療機器や電気機器、自動車部品ですから、商品検査が大変うるさいです。もちろん何かがあったら自動車が故障するわけですから、商品検査が大変厳しい。そういうものをやっています。給料は、その業界の平均だと言っていました。

8. ドイツにおけるソーシャルファームに対する助成

(1)EU等から先進的な導入のための補助

設立に有益な役割を果たす
ベルリン市もソーシャルファームの先行事例に補助

ドイツにおけるソーシャルファームへの助成。

去年行ったイギリスの場合は、あまり特別な助成措置はとっておりませんでした。それに対してドイツはいろいろ助成措置をとっておりました。最初に、EUやバイエルン州のように地方単独の補助金が先導的な役割を果たした。シュバルツさんもこれを利用してソーシャルファームを発展させてきた、大変大きな役割を果たしたと言っていました。

(2)運営費

一般企業(従業員20人以上) 5%の障害者雇用の義務化
障害者を雇用すると
 給料の平均50%(20~60%)を6月~1年半国が援助(一般財源)
その後重度障害者については、30%を3年間援助(雇用率の賦課金を財源)
ソーシャルファームで重度障害者が25%以上いる場合
 1人月205ユーロ(28,000円)を継続して支給

それから運営費です。これは一般的に日本にもありますが、障害者を雇用する事業所に対しての補助金制度が活用されている。しかしこれも、3年間を限度にして穴埋めしている部分があります。ソーシャルファームでは、重度障害者が25%いる場合は1人当たり月205ユーロ。これは、限度はありませんが、それを支給して支援しています。ソーシャルファームはその分、下駄が履かされているわけです。

(3)雇用開始時の設備投資費用

ソーシャルファームで障害者を1人雇用すると平均25,000ユーロ(350万円)
業務内容によって異なる(例:印刷業7,000ユーロ(98万円))

雇用時の設備投資。わかりやすく言えば障害者が働きやすくするためにコンピュータを入れなきゃいけない、トイレも改造しなくちゃいけないということがあると思います。これの補助金、設備投資費が出されています。業種によって違うようです。

(4)貸付

ソーシャルファームには必要経費の50%を国から融資

それからさらに、貸し付け。お金が足りない場合、必要な経費の 50%を国から融資が行われています。

(5)コンサルタント料

ソーシャルファームには初年度4,500ユーロ(63万円)、以後年2,500ユーロ(35万円)
 大変役立っている

それからコンサルタント。こういうことをやろうとする人は経営に対するノウハウがない。経験がありません。こういうものについてコンサルタントの費用を支援している。実際やっているコンサルタントの人にもお会いしましたけれども、もともとは会計事務所をやっていた一般のコンサルタントでしたけれども、障害者の問題に理解がある人がやっていて、大変効果があるとお聞きしました。

(6)消費税の特別措置

ソーシャルファーム等税制上の非営利団体は7%
 一般は19%

これは大きなことで、消費税の問題。ドイツは大変高くて一般は19%です。ですからホテルに泊まると19%が加算されます。内税なのでわからないですね。外税ではなく内税です。しかしソーシャルファームだけではありませんけれども、非営利団体には、それを含めて7%に抑えられています。ですから我々は最初、グレンツファールホテルに泊まりましたけれども、一般のホテルでは19%高い料金を払っていますけれども、グレンツファールホテルでは7%、つまり12%安いです。それが大きな支援になっている。レストランもそうです。ソーシャルファームのレストランでは消費税は7%しかかからない。でも払う人はわかりません、内税ですから。このレストランは安いなと、値段で安くしているところもあれば、消費税が低い分、余計に障害者を雇って、手厚いきめの細かいサービスをしている。そのいずれかだと思います。

(7)国等の公的機関によるソーシャルファームの製品・サービスの優先購入

EUの指令には存在し、ドイツも批准
長く存在したが、最近民間企業からの反対で州によって異なった対応になっている

これは今、揺れているところですが、国などの公的機関によるソーシャルファームの製品やサービスの優先購入の問題です。現在でもEUの指令がありまして、障害者が作った製品やサービスは国等の機関は優先購入しなければならないという指令があり、ドイツもこれに批准しています。そして長くソーシャルファームの製品もコレに基づいて購入されてきたということですが、どうも最近になって民間企業から反対が出てきた。我々の商売の阻害になる、競争条件が不利ではないかということで、州によっては、例えばベルリンがそうだということだそうですが、これが廃止になる。ですから文字どおり普通の民間事業と一緒のレベルで戦わなければいけなくなったと話していました。ということは逆に言えば、それだけソーシャルファームというものが民間企業の脅威になってきたのだと思います。

9. ドイツのソーシャルファームの発展の基盤

公的援助に加えて

ソーシャルファームがドイツではますます発展してきたわけですけれども、その発展の基礎、基盤は何だったのか。非常にきめが細かい公的な援助。これはイギリスと比較になりませんでした。これに加えてその他、考えたものを列挙してみました。

(1)経営者の熱意、能力

① 障害者への理解が深い

Wallmeier氏(サルド ジャーナル サービス:Saldo Journale Services)
 若いころから障害者の社会統合への理解
 障害者が生きがいと高い報酬が可能な仕事を創出
 障害者を積極的に雇用

ソーシャルファームの経営者の熱意、能力が大変高い。特にソーシャルファームを作るためにソーシャルファームをやっている人の経営者の熱意。障害者に対する理解が大変深いものだと思います。サルド ジャーナル サービスというものがあります。具体的には後ほど。

ここでは会計事務所をやったり、いろいろと障害者に向く仕事を開発している。その指導者になる人は、ソーシャルファームを作る前、どうも学生時代から、このような障害者の問題に携わってきた。経営者本人は障害者ではなかったのですが、熱心に取り組んでいます。そしてその経営者はできるだけよい条件で高い報酬が払われるように努力していました。

② 社会企業家としての経営手腕が高い

S.Sgglar氏(エルコテック)
一般企業より勝る経営
規模、事業の種類を拡大

社会起業家としての経営手腕。特にエルコテック、電気製品や医療製品の部品を作っているところですけれども、一般企業に優るような経営。他の全く同じことをやっている部品メーカーはいくらでもあるわけですから、そういうものと競争できるような高い経営手腕を持っている。初めはアンテナを作っていたのですが、これからは医療機械だといってどんどん拡大してきています。

③ 経営指導を行うコンサルタントが活躍

「エンターラビリテー(Enterability)」は、ソーシャルファーム創成期から障害者自身が設立する場合、相談、助言を行い、実績を上げている

それから経営指導を行うコンサルタント。この事務所に行ってシュバルツさんが20数年お付き合いのある人に会いました。若い人だったんです。その事務所はスラム街にあって、こんなところで大丈夫かなと思ったのですけれども、そこの一室で、コンサルタントといっても障害者のコンサルタントですからそんなに儲かるわけではないと思うですね、そんなに立派な事務所だとは思いませんでしたが、そのコンサルタントは大変熱心に語ってくれました。

(2)民間企業の支援

① 資金援助

大手運輸会社シナノンがモザイク(Mosaik)に対して継続的援助

② 経営のネットワーク

グレンツファールホテルは一般の予約システムに加入
質の要求は厳格

それから一般民間企業の協力もあります。例えば具体的に資金援助をしてくれている。大手の運送会社、シナノンという会社はソーシャルファームに対して継続的な援助をしてくれている。我々の泊まったグレンツファールホテルは通常の、日本で言う楽天のネットに入れて注文をとっています。こういう普通のやり方でやっているわけです。

(3)国民の理解と協力

一般の企業の施設利用と同様に区別なく利用
 「ハウス5(Haus5)」のレストラン
  周辺の勤労者が常連で大人気
 グレンツファールホテル
  75%の宿泊者はソーシャルファームであることは知らない

それから国民の理解と協力。これが重要だと本当に感じました。ソーシャルファームだからといってちょっと…という感じは全くない。例えばハンブルグのハウス5に行きましたが、昼時でしたが普通の周りのビジネスマンがここで食事をしていた。大変おいしいです。普通のレストランに負けていません。料金も特に安いわけでない。大変人気がありました。あらかじめ我々のために席をとっておかないといけない、列になっていますからそんなに長居はできない。それほど繁盛していました。

(4)中間支援組織の活動

FAFはロビー活動
→ソーシャルファームの政治工作、広報、技術支援、情報提供、研修等を行う組織は有益

中間支援組織。FAFはロビー活動をして、実際に政治工作、技術指導、広報活動などに大きな役割を果たしているわけです。

10.障害者の就労状況

(1)生きがい、やりがいを感じている

給与明細作成、経営分析資料(サルド ジャーナル サービス)
精神障害を有する人が20年近く勤務し、なくてはならない存在に

そして現実に障害者のソーシャルファームの就労状態を見ます。実際、生き甲斐ややり甲斐を感じて仕事をされているというのを、如実に感じました。例えばサルド ジャーナル サービス。これはソーシャルファームのためのソーシャルファームとして発足したものですけれども、例えば会社から受けて給与明細や経営分析をやっていらっしゃいます。それを20年近く精神障害の人がやっている。誇りを持っています。その人でないとできない。委託先ではもう任せきりで、ここのデータであれば安心だというふうになっています。そして実際、20年近く働いている人は誇りを持っているということを感じました。

(2)給料

障害年金と加算するとかなり生活に余裕がでる

給料も、通常の給料にいくかいかないかぐらいだと思いますけれども、しかし彼らは日本のように障害年金がありますから、それを加算するとかなり余裕のある生活ができていると見ました。

(3)働きやすいように工夫

通勤時間のラッシュアワーを避ける(サルド ジャーナル サービス)
 精神障害者は満員電車が苦手
個室を採用(同上)

障害者も働く場合にいろいろハンディキャップがあるというのは当たり前ですから特別の配慮をする。これが必要なことは言うまでもありません。例えば通勤時間のラッシュアワーを避ける時間設定、また、精神に障害のある人は他の人の視線が気になるので個室でゆっくり仕事をしたいという人もいらっしゃる。そういう面の工夫を重ねていました。

(4)仕事の質は、一定水準が保たれている

ギルドの伝統を引き継ぐマイスター制度が存在
 職業訓練施設、企業で見習い後、国家試験に合格
職人に誇りと社会的地位の確保
→日本でも資格制度の活用が効果的である

そして何よりも、(4)のところですが、仕事の質が一定の水準に保たれている。これがドイツのソーシャルファームが根本的に成功した理由の1つだと思います。我々が泊まったホテルも普通とお全く同じ。むしろそれ以上のものをしっかり持っているからこそ、ソーシャルファームが一般企業と同じような存在になったのだろうと思います。そのために、若干これは、私はカルチャーショックだったのですが、何でも資格があります。これがドイツのギルド社会からの伝統で、すべて何をやるにしても、この職能団体の資格を取らないと採用してくれないのです。もちろん仕事はできるんです。別に法律で決められているわけではない。ホテルのレセプショニストとしての資格。中には清掃業としての資格もあります。何でも資格があるのです。資格を取るためには学校に2年程度行って、さらに見習いをやらなければいけない。そして組合で試験をして確かめる。これが一定の水準を保っている。ここまで規制されているのはどうかと、僕は衝撃を受けましたけれども、職人としての誇りを感じている。ドイツらしいところだと思います。実は、お聞きすると、イギリスも同じような方法だと聞きます。中世以来のヨーロッパのギルド社会の伝統なのだろうと思います。結果としてこれがソーシャルファームの水準を保っているだと思います。このようなことを学んでまいりました。

結論からいえば、日本にもソーシャルファームが必要だと。ドイツにも随分いいところがあります。なかにはちょっと問題なだというのもありましたが。こういうものを学んで、日本型のソーシャルファームというのをぜひ発展させていきたいと思います。

どうもご清聴ありがとうございました。