報告書 フィンランドソーシャルファーム実態調査報告会
報告1 要旨
「フィンランドに学ぶソーシャルファームの今後の方向~「日本型ソーシャルファーム」像を求めて」
第1章 フィンランド訪問に当たっての問題意識
1 日本の現状からソーシャルファームは、絶対に必要と考える。
(1)社会から排除され、孤立し、このため自分の適性に合った仕事に就けない人が近年著しく増大
- 障害者、難病患者、高齢者、母子家庭の母、ニート、引きこもり等の若者、ホームレス、刑務所出所者など
(2)しかし、これらに適切な仕事を提供する体制が極めて不十分
① 公的職場
予算の制約、仕事の内容、給料など
障害者以外には制度が不十分
② 一般企業
伸びない障害者雇用率。正規雇用が少ない。働き甲斐の感じさせない職場
法定された制度がない対象者が多い。
(3)これを補完するために第3の職場としてソーシャルファームが必要
- ソーシャルファームは、労働を通じ他の従事者、地域住民との繋がりを作り、ソーシャルインクルージョンを高める。
2 ソーシャルファーム制度は、各国間に大きな差異の存在
(1)これまで平成25年度はイギリス、26年度はドイツを訪問。このほかこれまでもイタリア、スウエーデン、ノルウエーなどの専門家を招聘して、ソーシャルファームを学んできたが、国により大きな差異があることを知った。
① イギリス
- Charityの法人格
- 国は、情報提供、研修等で支援
- 現在は社会的企業(ソーシャルエンタープライズ)の活動が優勢
② ドイツ
- 法律が整備
- 社会的統合企業という独自のソーシャルファームの法的地位が確立
- 国の財政措置が手厚い。
- 政府は大きい社会福祉団体にソーシャルファームを設置するように強く行政指導
- 規模の大きなソーシャルファームが増加。社会的経済的地位、存在感を示している。
③ イタリア
- 協同組合で実施
- 公的団体の優先購入で支援
- 小規模なソーシャルファームが多数存在する。
(2)今回は、福祉国家で社会保障が充実した国におけるソーシャルファームのあり方を探るため、すでにソーシャルファームに関する法律を制定して組織的に取り組んでいるフィンランドを選択して調査することにした。
3 これまでの調査等を踏まえ、日本の実情に合ったソーシャルファーム
いわば「日本型ソーシャルファーム」像を模索したいと考えた。
第2章 福祉国家としてのフィンランドの特色
1 経済の低迷
- 福祉国家の基礎になる経済は、ロシア経済の低迷を受けて悪化
- 農林業が主産業
- 失業率は、9%を超え、上昇している。
2 国等の公の関与が大きい。
- 混合経済
3 長期失業者の対策が優先している
- 職業訓練
- 就労施設の整備
4 教育、職業訓練の充実
- 大学院まで無料
- 教育水準が高い
- 質の高い労働者を生み出す。 → 高い労働生産性を生み出す。
5 環境政策の充実
- ヨーロッパ第1位の森林率(72.9%)
- 豊かな水
→ 水力発電、バイオマス発電 再生可能エネルギーの電源構成率は30%
建物の高度制限、石畳の路面の維持、電柱の地下化
6 他の北欧諸国とは経済力は劣るが、教育と環境によって質の高い生活の維持
第3章 フィンランドのソーシャルファーム制度の概要
1 ソーシャルファームの根拠法を制定
「ソーシャルファーム法」2003年
フィンランドでは制定当時、社会的企業(ソーシャルエンタープライズ)と翻訳したが、誤訳だったとコメント
(1)法の目的
長期失業者と障害・仕事に就くことが困難な長期疾病者に就業の機会を提供するためソーシャルファームを整備する。
① 長期失業者
- 12か月以上失業している者 など
- 現在9%を超える失業率
- 経済不況の影響
元受刑者
移民
② 障害者
③ 長期疾病者
- 医師の診断を要する
精神疾患 慢性病
(2)ソーシャルファームの登録
① 登録要件
- 対象者が30%以上
- 対象者に労働契約に基づき通常の給与を支払う
- 労働時間
失業者 通常労働時間の75%以上
障害者 50%以上
② 雇用経済省に登録
③ 登録した企業のみソーシャルファームの名称を使用
④ 登録要件を満たさなくなった時は取消
2 財政援助措置
① ソーシャルファームの設立に要する資金
- 調査費、コンサルタント費など
- 1年間
- 立ち上げ費用額の75%を上限
② 給与の援助
- 公的雇用サービス法(2012年制定)に基づく
企業全体に適用
失業者 12か月間
障害者 24か月間
- ソーシャルファーム
失業者 12か月間
障害者 36か月間
障害が改善しなければ、永続
援助額の上限(一般企業も同様)
給与費総額の50%
対象者一人当たり月1,300ユーロ(175,000円)を上限
3 その他の支援措置
- ソーシャルファーム支援機構による支援
ソーシャルファームに対する実務的な助言
費用は雇用経済省が負担
2004~2008年 バテス財団を指定
2009年~ 国立健康福祉研究所を指定
第4章 フィンランドにおけるソーシャルファームの位置付け
1 フィンランドの就業促進政策の流れ
失業給付、障害年金等の社会保障給付
↓
職業訓練
↓
被保護雇用
↓
一般雇用
2 ソーシャルファームの位置付け
職業訓練~被保護雇用~一般雇用
3 ソーシャルファームの政策としての位置づけが明確に整理されていないのではという印象を受ける。
- したがって普及促進策が不十分。体系的な乱れ。
- 政府や政党は、障害者等の対象者の雇用促進策に熱心であるが、ソーシャルファームだけに限定していない。(バテス財団の見解)
- これはソーシャルファーム法制定当時からの混乱にも見られる。
4 このため、ソーシャルファームの要件に合致しているけれども、ソーシャルファームの許可を取得しないで、一般の企業として経営している「ソーシャルファーム」が多数存在。
- 一般企業でも同様な援助が受けられる。
- 就労時間の制約を受けるので労使関係が面倒
- 手続きが面倒。役所から干渉を受けたくない。
一方ソーシャルファームを取得している会社は
- 社会貢献がしたい。
- 会社のイメージアップ
5 しかし、「ソーシャルファーム的な組織」の必要性、重要性は認識しており、これを推進するための政策を実施
「仕事バンク」
- 社会福祉保健省による障害者、長期失業者等の雇用促進
- 2009年から
- 現在15バンク(目標は30だった)
ケータリング、クリーニング
家具製造
リサイクル
市場、消費者調査 - 2014年 約1,000人雇用
- 就労の場の創出
利益が上がること
従業者の30%以上は、障害者、長期失業者等就労困難者 - 運営資金の補助
- 給料補助は一般の補助制度適用
- 3年間月額1,500ユーロ(202,000円)の運営費補助
対象者が一般雇用になった時は報奨金
(1人当たり1,200―4,200ユーロ(162,000円~567,000円)を支給
第5章 フィンランドのソーシャルファーム(実質的なソーシャルファームを含む)の現状と今後の方向
1 優れた経営成果を上げているソーシャルファームはかなり存在する。
(1)ティトリュ協会(タンペレ市)
- 実質的なソーシャルファーム
金属加工製品
1700種類製品 90%輸出
制服、作業衣製造
自治体、病院向け - 賃金は、ほぼ一般企業並み
- 経営者の高い能力
- 仕事の開拓力
- 整備された工場、最新の設備の導入
- 食堂等厚生施設
(2)テュオホンヴァルメンヌス・バルマ・リミテッド(ラフティ市)
- 株式会社であるが、ソーシャルファーム的
- 木工製品
特許を取得したゲーム製品
海外に輸出 - 装丁
- リサイクル
- 金属加工
- 製品開発に熱心 → ブランド力
- 長期失業者等の訓練を重視
- 自治体からの出資
(3)ヘルシンキ・メトロポリタン・エリア・リユース・センター
- ソーシャルファームとして経営
大規模なリユース・リサイクル
家電
衣類
家庭用品などあらゆる物品 - ヘルシンキ市等の援助
市の元清掃工場を利用 - 障害者、受刑者、犯罪者等多数が勤務
- 事業収入は大きい(550万ユーロ(7億4千万円)
- 市民、市民団体、協会の協力
(4)ポシヴィレ株式会社(ヘルシンキ市)
- ソーシャルファームとして経営
病院、福祉施設等へ派遣
清掃、調理、介護、電算処理、介護用具の修理
職業訓練が主目的 - ヘルシンキ市の出資
- 経営は順調
- 充実した効果的な職業訓練
2 ソーシャルファームの研修、教育の役割・機能を重視する。
上述の団体の他に
シルタ・ヴァルメンヌス協会(タンペレ市)
・ソーシャルファーム的なNGO
教育、訓練、リハビリを実施
家具製造
住宅建築
自動車整備
レストラン業務
モニタというソーシャルファームの子会社を持つ
失業者、障害者、犯罪者、麻薬中毒、不登校
大規模な事業規模
毎日350人~400人
訓練の水準は極めて高い
60人の専門家
80%が修了
3 自治体等公の関与が強い。
- 出資、補助金
- 財政事情に影響を受ける
- 混合経済
4 市民、各種団体等の積極的な参画・支援
- 市民の意識は高い
- 弱者への配慮
- 環境意識
- ボランティア活動
- 障害者等も参加意欲が高い。
→ ソーシャルインクルージョンの実現へ
5 今後の方向
- シピラ首相(今年5月就任)は、障害者等の雇用政策を重点政策。
- 新しい方向が打ち出さると見られている。ソーシャルファームについても新施策が出されるか。
第6章 全国団体の役割
バテス財団
- 1993年設立
- 障害者団体が設立(現在36団体が参加)
- スロットマシーン協会から一定の資金援助
(公認ギャンブルを開始されるときの条件) - 活動: 情報収集・伝達
プロジェクトの企画・実施
職員研修
ソーシャルファームの普及 など - 現在ソーシャルファームの改善策を模索中
第7章 「日本型ソーシャルファーム」を目指して
1 理念は各国共通。今日の必要性・緊急性は極めて高い。
2 しかし、制度の組み方は、各国の経済・社会構造、文化、既存の制度等によって大きな差異が存在。
3 そこで「日本型ソーシャルファーム」の重要な構成要素は、
従事者
(1)障害者、難病患者、高齢者、母子家庭の母、ニート、引きこもりの若者、刑務所出所者、ホームレス、在日外国人等通常の労働市場では本人に合った適切な仕事が得られない者に就労の場を提供する。
(2)健常者も対等の関係で勤務する。
ボランティアも積極的に受け入れる。
(3)これによってソーシャルインクルージョンの確立を目指す。
経営の基本方針
(4)事業内容は、従事者の適性に合い、生きがいを感じるものとする。給料は、従事者にとって満足できる額を目標とする。
(5)経営は、一般の市場での経済活動を行う。したがって企業と同様のビジネスマインドを経営の柱とする。
(6)公に依存することなく、常に独立的な精神と方針を基本にして経営に当り、経営の安定・発展を目指す。
(7)日本経済の向上に貢献する。
(8)活用できる支援制度は、積極的に活用する。
現行制度との関係
(9)日本におけるソーシャルファームには、上述の事項を履行されることを前提に、現行制度にある特例子会社、障害者総合福祉法の制度等を活用しての設立・経営も考えられる。
(10)いずれの場合であっても究極的には完全に自立し、一般企業と同様な経営を目指すことを目標に日々前進する。
まちづくりへ
(11)ソーシャルファームは、地域の住民、企業、団体、行政等と連携し、まちづくりを目指す。