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報告書 フィンランドソーシャルファーム実態調査報告会

報告2 要旨
「フィンランドのソーシャルファーム訪問調査報告」

訪問先の概要

① PosiVire(ポシヴィレ)株式会社  (ヘルシンキ市)

  • 組織:ヘルシンキ市、ヘルシンキウーシマ病院地区及び不動産会社(Kaapelitalo) が経営するソーシャルファーム
  • 事業目的:ジョブコーチにより一般労働市場への直接移行支援する事業

ヘルシンキ住宅街にある事務所を訪問。市電の停留所に近い交通の便の良い場所にあり、室内はオレンジカラーに統一されていて戸建て風の建物(ヘルシンキ市の所有)

  • 設立:2008年末に営業開始。2010年ソーシャルファームとしてヨーロッパで最初にISO 9001を取得した。
  • 目標:目標は、最終的に各従業員が十分な管理下の下で、PosiVireから一般労働市場或いは教育機関などに移行すること。
  • コーチングの目的は、就労先を見つけるのが困難な人の支援。能力やスキルに合わせて、仕事の変更や新たなメニューを提案し実行する。
  • 各従業員は自己啓発に責任を持ち、通常の労働環境の下で勤務。いかなる不正行為も最初から[ゼロトレランス]方式で一切容認せず、[一般従業員]より更に厳しい。
  • 本部(訪問先事務所)の役割:就労が困難な人への就労移行から自由市場での正規雇用への橋渡し的事業。職業訓練場への派遣手続き等、ソーシャルワーカー。また、訓練中自分の適正を見つけて、その方面の学校に行くきっかけにもなっている。 PosiVire職員数は正規職員8名。この事務所に勤務している人はソーシャルワーカーや指導員(学習指導員もいる)など専門職で、全体を総括できる事務職のみ。現場職員はここにはいない。
  • 事業の流れ:就労困難者(障害者、移住者、失業者、疾病を持っている方、若者、等)が口コミやハローワーク、障害者団体や国の組織など様々な経路で来る。
  • 本人の手当てや年金などの状況を聞き、フィンランドの労働環境税金などの仕組みを説明。その後すぐに本人の条件に合う訓練場所の現場に送り出すシステム。キャリアを積んでいない人たちが現場でキャリアを積み就労への道筋を考える。
  • 訓練場所:ヘルシンキ市やヘルシンキ・ウーシマ病院地区、ヘルシンキ市サービスセンター、ヘルシンキ市の公的な社会サービス、保健サービスおよび、高齢者、障害者などのグループホーム (知的障害者のデイケアー、病院などの清掃、調理、看護補助、補助器具の管理、運営の補助、パソコンなどの業務)
  • 訓練指導員:現場コーチ、ジョブコーチが従業員(訓練生)をチーム内でサポート

従業員に仕事と課題、一連のルーチンワークを指導し、慣れさせる。コーチも従業員と一緒に働き職場環境に適応できるように支援。職業生活におけるルールを、周知徹底させる。

  • 特に従業員のための開発計画を立て、定期的に助言や指導を行う最低月1回、必要ならば、毎日でも行う。 
  • 訓練期間:人によって様々。7年かけて就労した人もいる。一年半位が良い。
  • 訓練期間中の給料:従業員として国から出る賃金助成など雇用主が本人に支払う
  • 成果:年間短期就労も含めて100名位が従業員として就労。2015年は65名

経験を積み上げていくことでスキルが上がり、就労しやすい。

  • 訓練従業員の声:「私はチャンスを与えられ、今や、仕事を手に入れました。そして人生を手に入れました」 
  • PosiVireの従業員は病欠がわずか2%。国の平均よりはるかに低い。
  • 自尊心と生活管理能力を高め勉強する場などを探す勇気が生まれた。
  • アールライト大学ビジネススクールによる研究から、以下が推定される。
  • すべての従業員が一般労働市場に移行し、平均5年そこにとどまっていた場合、彼らに対する投資は、115%の内部利益をもたらす。同様に従業員の半数が5年間同じ職場にとどまっていたとしたら、内部利益は57%となる。(きわめて高い)
  • 障害のある人が労働市場において常勤の職を見つけられるように支援することは、適切に実施すれば、高い利益をもたらす投資である。
  • また人は、就労の機会を与えれば成長することも忘れてはならない。適切な支援を受けて一度「梯子にたどり着けば」非常に高い所得水準を達成できる人がいるという指摘がある。

② Titry(ティトリュ)協会 (タンペレ市)

  • 組織:12の障害者団体とタンペレ市が、障害者の働く場所の提供を主な目的とし、立ち上げた。
  • 設立・目的:1979年設立。タンペレ市からの助成金がある。知的障害者、精神障害者、身体障害者等、従業員の70~80%は何らかの障害を持っている。ただし軽度の人が多い。訓練や教育を主とするより、働く場所、社会的責任の下、市場と競争できる高品質な製品作りを目指している。
  • 事業内容:床面積2,700㎡ 奥行き100メートルの建物に3部署がある。
  • 機械作業工場:金属精密部品 精密かつ正確に製作
  • 縫製工場:作業服 均質でフィットする作業服をオーダーメイドで縫製。
  • パッキング工場:パッキング、出荷、仕上げ 梱包 環境に優しい資材で納品。

以上3部門とも、適材適所で障害の個性を見出し、技能の向上を目指した製品作りは評価されている。スウェーデンの一流企業からも金属部品の注文もあり、信頼性の高い商品として認定証もいただいている。自動車の部品なども輸入業者から請け負って製品のパッケージなども行う。梱包作業の製品はアメリカやスェーデンなどへ出荷され、ごく小さいタイトな部分であるが外国にも輸出できる技術力がある。

作業服を作っている現場では、専門のデザイナーが機能的でファッション性の高い、オーダーメイドの作業着を選定し、現場に行って採寸するので、高品質の作業着としてブランド化している。

材料は以前、フィンレーソンという繊維メーカーのものを使っていたが、現在は殆ど外国製。

  • 従業員数・賃金等:作業過程はベルトコンベア方式ではなく、1人の人が機械を扱えるように訓練する。部品などの作業は、自動化されていて、コンピューター制御で指導員がプログラミングすれば、後は小人数でもできる。そのために設備投資を行っている。裁断、縫製なども適材適所訓練された人が配置されている。
  • 職員10名 (事業統括責任者1名 会計1名 秘書1名 梱包1名 縫製2名 金属2名 セールスマン1名 食堂1名)
  • 作業員40名(契約社員) 実習生年間40名(最近は長期失業者、海外からの移住者なども対象)
  • 年間予算:180万ユーロ(約2億4千万円) 売上高 収入の70%(梱包15%、縫製25%、金属加工60%) 残り30%はタンペレ市から。一定の障害者雇用が条件、現在は75%雇用
  • 賃金は同じような職場と比べると低く、障害の程度や技能によって契約が異なる。基本的には年金制度を受給していると、働いた額が月700~800ユーロ(100,000円)までとされている。時給は健常者とほぼ同じ。
  • タンペレ市との運営関係:障害者支援の意味で市が関って出来たので、現在でも資金補助など運営の一部を担っている。協会の運営委員には市の関係者もメンバーになっている。当協会としては、将来的には、契約社員40から50~60名にして研修生、職員を合わせて100名ぐらいの規模にしたい。内容的には、ソーシャルカンパニー、ソーシャルファームだが、形態的には今のままで不都合がない。
  • 経営的にはタンペレ市の援助がないとやっていかれない。現在は約30%の補助がある。

③ Työhönvalmennus Valma Ltd(テュオホンヴァルメンヌス・バルマ・リミテッド) (ラフティ市)

  • 組織:ラフティを中心に広域にわたって8箇所拠点があり、食品加工、木工製品、木工製品のゲーム、金属加工、リサイクルなど6部門と7事務所がある。その部門ごとに、各種の職業訓練が行われている。最初は市町村連合が学習や訓練機関として立ち上げた。その後バロマが一部引継ぎ、30年以上社会的責任を果たす事業を展開している。今では株式会社に転換した。(市場原理で収益を上げ、就労させていく)
  • 理念:「生涯、人として成長し続けるために!」

専門家の助けを借りて、熱意を持って訓練を受け、成功を手に入れる。

  • 経営規模:常勤従業員53名、毎日220名が働いている。2012年には、580名が職業訓練サービスを利用した。その内15%が就労、22%が教育を受ける道を選択、32%がその他に将来設計の道が開けた。30%が失業中
  • 売上高:2012年6,608,741ユーロ(約8億9千万円)(自社製品及びサービスの販売が60%、(約5億3千万円))訓練生たちが大きな力になっている。就労し働く喜びを手に入れるサクセスストーリーを築くための意識改革が大変であった。

◎バルマのリサイクルセンター

  • 運営形態:市民が不用品を持参する。持ち込みは基本的に無料。使用可能で売れるかどうか、また修理可能かテストし、値段をつける。磨いてきれいにして商品化する。家具など売れ残り商品は、値段が下がる。電気器具や家庭用品など1週間ごとに25%、50%、75%と下がっていく。
  • 従業員数:現場職員が13名、失業者などの研修生が50名、研修期間は最高で6ヶ月、研修生の一部は職業学校等へ進学、一部は就労、一部は失業である。失業者は学校との連携が必要。失業者は研修を受けなければハローワークからの手当てが減らされる。
  • 収益:450,000ユーロ (約6千万円)

◎ブランド商品 「モルック誕生」

  • ご案内いただいたベッカ氏が開発プロジェクトリーダーとなり、インダストリアルデザイナーも含めて開発した木製のゲーム用品。フィンランドの地場産業でもある木材、モルックの場合は白樺の木を加工して、木製のゲーム機器モルックを世に送り出した。勿論ゲームの競い方も含めて商品登録され、国際的にパテントもついている。
  • フランス、ドイツ、スペイン、オランダなど世界各地で販売。
  • 売り上げ 年2,000,000ユーロ(約2億7千万円)

【総括】

ソーシャルエンタープライズ法が施行されて11年経つ。一般就労への道は遠いが、約300ユニットものワークショップ、16,000ものの職場及び職業訓練の場ができている。政府は若年層などの失業対策を重点課題にし、理念に掲げた障害者の雇用は進んでいない。しかし、障害者の福祉制度は充実しているので、別メニューで(デイケアー、就労移行など)で訓練しているように感じた。

さすが福祉国家、日本との差を感じた。