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講演会「DAISYの展開」

DAISYとSMILの未来

SMIL3へ アクセシビリティの観点からの提言

マーク-・ハッキネン
DAISYコンソーシアム

マーク・ハッキネン氏の写真

私の前におこなわれたプレゼンテーションで、興味深い内容が紹介されましたが、それらを前提に、DAISYの、よりリッチな(多機能な)マルチメディアの世界への進展についてお話します。

DAISYがどういった形で発展してきたかというお話が、河村さんからありました。DAISYのオープンソースの開発環境について、AMISプロジェクトを通してのお話がマリッサさんからありました。また、CWIのバルターマンからはSMIL2のための興味深い研究のお話がありました。また、SMILの製作ツールについて、ネイビルさんとダニエルさんからお話がありました。将来、これらの様々な技術が集約され、情報を必要とするすべての人のための、非常にリッチな(多機能な)アクセシブルなマルチメディアとなるでしょう。

私のほうからは、今までのお話をまとめたような形で、この技術でどういったことを達成したいと考えているかというお話をしたいと思います。

DAISYは、視覚障害者の方々が”印刷物の世界“にアクセスする方法を大きく変えた技術、あるいはDTB(デジタル録音図書)であるということは、ご存知かと思います。現在では、彼らが、簡単に本を読むことができるような、非常に性能の良いデバイスや再生機器が入手可能です。読みたいページに行ったり、ナビゲーションしたり、あるいは章や節を選ぶということが簡単にできるようになりました。これは、先進的なオープンスタンダードであるSMILやDAISY、XMLの使用によって可能となりました。これらの技術を、コンテンツをアクセシブルにするために使用し、AMISのようなアクセシブルなDAISYプレイヤーを創造することによって、本へのアクセスが可能になってきました。非常に、新しいデバイス、携帯電話ですとか、PDAといったものが最近では出てきております。これらは、SMILをサポートすることができます。SMILをサポートするということは、DAISYスタイルのコンテンツを、デバイスに表示させることができるようになる可能性があるということです。アクセシブルな情報を持ち歩ける形態で使用することができるということです。例えば、どこかで迷子になったとき、携帯電話のような小さなデバイスでアクセシブルな情報を得ることができます。

もうひとつ、インタラクティブなデジタルテレビがSMILをサポートすることができるようになるかもしれません。それによって、アクセシブルなコンテンツを、家にいる人に提供することができるようになります。

DAISYはもともと、本に焦点をあてて始まりましたが、いまや、そのDAISYのコンセプトをさらに拡張して様々なマルチメディアの情報への応用を考えています。そこで鍵となるのが、SMILを利用するということです。もうひとつ、これはオープンソースのソフトウェアであるということが重要です。先ほどのプレゼンでも何度かオープンソースという言葉が出てきましたが、どういう意味かといいますと、パソコンのソフトウェアやPDAのソフトウェアが、無料で使うことができて、他の開発者が、そのソフトウェアを書くのに使われているコードを使用することができるということです。オープンソースのモデルを使うことによって、最終的にはこの技術が幅広く浸透するようになることが望まれるわけです。ライセンス料などを払う必要がありませんので技術がますます普及する。そして非常に、安いコストで、多くの人が使うことができるようになるというものです。これらが、アクセシブルなマルチメディアのコンセプトを浸透させるための、オープンスタンダードあるいはオープンソースのソフトウェアの利点となるわけです。

では、いくつか例を紹介したいと思います。実際将来には、DAISYやSMILを使うことによって、どういったことが可能になるのでしょうか。まず、最初に考えられるのは、DAISYの本、現在は、主に、音声とテキストだけで成り立っています。時に、画像というのも入っていますけれども。ただ、聾の方であれば、手話が必要になります。手話のビデオが必要になります。テキストを見たり、音声を聞く代わりに手話のビデオを見ることもできるようになるわけです。これは小さなビデオプレーヤーで、DAISY図書上にのっております。これは、音声と手話のトラッキングが入っているものです。このデバイス、非常に小さなもので、手のひらに納まるサイズのものです。これは、手のなかに納まって、スクリーンがついております。ボタンがついておりまして、そのボタンを使って、ビデオのナビゲートが、DAISY図書と同じようにできます。近い将来、こういった機能、こういったデバイスが出てくると思います。

政府や政府機関から、社会的な情報ですとか、健康上の情報に関しての、様々な種類の情報のマテリアルが提供されていると思います。例えば、河村さんから、HIVの予防に関するDAISY図書のお話しがありました。ただ単に、紙のパンフレット、単なる音声のバージョン、あるいはDAISYのバージョンというだけではなく、テキスト・画像・音声・ビデオ、すべてを含んだものということを考えますと、健常者だけでなく、読むことに障害のある人や、あるいは認知障害のある人にとっても、内容を簡単・明確に理解できるものとなります。また、インタラクティブな教材は、勉強のためにも非常に有用なツールとなります。マルチメディアの教科書、現在は、例えばアメリカなどの国では、DAISYタイプのモデルがサポートされています。教科書が必要な学生は、DAISY版を手に入れることができるわけです。しかし、多くの教科書が今CD-ROMを含んだ形になっています。表紙の裏にCD-ROMが載っていて、それでいろいろな情報が入っているわけです。目の見えない学生は、DAISY版を手に入れることができたとしても、そのCD-ROMの中に入っている情報は見ることができないわけです。DAISYのテキスト・音声を、さらに、今、ビデオ型、あるいは、学生がどのようなニーズを持っていてもアクセス可能なものにしていく必要があるわけです。例えば、ビデオ・字幕・音声などを持つ機能をつけることができます。先ほどのプレゼンテーションの例にもありましたけれども物理の先生が説明していました。ああいった例、それが可能になるということになります。

興味深い例として、訓練用の、あるいは教育用の資料への適用があります。国連の食料農業機関が、紙のかたちで、パンフレットを出しています。例えば、途上国の障害者が、きのこの栽培方法を学ぶための教材があります。きのこの栽培によって、経済的にも精神的にも自立した生活ができるようになるというのが目的です。現在、このきのこの栽培についてのトレーニング用の教材は、絵や文章があるだけのプリントバージョン、印刷されたものであるわけですけれども、小さなビデオデバイスをこれにつけたらどうなるでしょうか。この中で、ビデオで、いろいろなことを説明するわけです。そして、実際にどういうふうに栽培したらいいのか、あるいは収穫したらいいのかということを映像で示すことができるわけです。写真ではなく動画で示すことができるわけです。そうすれば、情報伝達手段として非常に効果的な物となります。特に、学習障害ですとか、識字上の問題(reading imparement)がある人にとっては、これは非常に有益であると思います。

今、スクリーンを見ております。この画像ですが、左側にテキストがありまして、ボトルをきちんとシェ―クしてくださいというようなことが書いてあります。この若い女性は、車椅子に座って、ボトルをタイヤに当てていますけれども、実際のプロセスを、ビデオでも表示させることができます。これによって、実際に、どのように行えばよいかということが分かるわけです。テキストとビデオを組み合わせることによって、実際の操作過程を見ることができますし、また、一度で理解ができなかったときに、もう一回戻って見ることもできます。ビデオのプレゼンテーションをテキスト・音声と合わせることによって、印刷された媒体以上に有益なものを作り出すことができるのです。

これも非常に良い応用例だと思いますが、日曜日に到着した時、地震が起きました。実際に、字が読めない、あるいは、難民の人々、つまり、置かれた環境の言語がしゃべれない、あるいは慣れていない人々の情報アクセスの問題があります。あるいは、非識字者や教育を受けられない人で、新聞が読めないとか、看板等の文字が読めないという場合があると思います。そういった場合に、デジタルテレビを通じて、あるいはマルチメディアのメッセージを携帯電話に送ることによって情報を伝えるといったことができます。これによって、例えば、他の人たちは日本語が分かるけど私は分かりません、私は英語だけを理解しますので、携帯電話に英語での情報を送ってくださいという指示ができるわけです。例えば、防災、あるいは、災害のときの非難の指示において有効です。 

私は日曜日の午後、地震発生の際には、幸運にもホテルの部屋にいました。NHKをつけますと、津波の警報が日本語で出ていました。しかし、テレビのバイリンガルと表示されたボタンを押しますと、すべて英語で聞くことができました。しかし、私がもし、外にいたらどうでしょうか。ホテルではなくて、町にいたら、非常に厳しい状況になったと思います。テレビは通りにはありませんので、それは、非常に難しいわけです。しかし、もし、携帯電話があって、それがSMIL対応であって、マルチメディアメッセージ対応であれば、津波の警報の情報を受信して、英語のオーディオテキストをくれと指示することができるわけです。そうしますと、このような地図が携帯電話に表示されます。ディックからお話がありましたが、ノキアが携帯電話でSMILをサポートしているものがあるということですが、スクリーンにその携帯電話の写真を写していますが、津波警報マップが、SMILのマルチメディアによって、表示されています。これもやはり、手のひらに納まるサイズです。カラーの表示スクリーンがあり、スピーカーがついていますので、音声を聞くこともできます。例えば、プレゼンテーションをとめたり、巻き戻したり、再生したり、例えば、最初が分からなければ、巻き戻してもう一度見るということもできるわけです。非常に、良い応用例だと思います。SMIL技術を用いて、災害時の命の保証を格段に向上させるものだと思います。

マルチメディアの出版物ですが、これは面白く、興味を持たれる方もいると思います。教科書や学術書を書いている著者は、SMILを使用して非常に面白いことができます。また、自らの著作を、例えば、字の読めない人や聾の人、そのほかの障害を持つ人にとっても、アクセス可能なものにしていくことができます。

例えば、シェークスピアの研究をしている人がいるとします。いくつかの違ったバージョンのシェークスピア劇の映画を、比較したいとします。何ができるかといいますと、SMILを使って様々な同期を行うことができます。例えば、映画の一場面を、もともとのシェークスピアの戯曲とあわせて、提供することができます。これは、非常に複雑な画面になっていますが、これは、私が取り組んでいる施策の例です。今、画面上には、DAISYの本、目次が左側についております。これは、すべての劇のシーンを、目次として示しております。画面の中央には、二つのビデオウィンドウがあります。ひとつは、1948年のシェークスピアの作品から、下の方のビデオは、同じシーンなのですけれども、1989年の戯曲のバージョンです。もともとの戯曲のテキストが、書かれています。映画の再生と全く同じタイミングで、再生されている部分のテキストが、ハイライトされます。この二つの映画の登場人物、「今ここについた」というせりふを言っているわけですが、同じせりふを言っているシーンが、ここにふたつ表示されているわけです。つまり、この二つの異なる映画、そして、二人の映画監督が、どのようにシェークスピアの戯曲を解釈しているかという比較ができるわけです。これがあれば、映画の解釈にも、非常に有益になります。

また、政府の方と話をすると、これは非常に興味深いと言います。例えば、トレーニングビデオを彼らは作っているわけです。様々な、政府の手続きが、どのようになされるかということについての、トレーニング資料ですけれども、そのやり方というのは、毎年変わるわけです。それを、例えば、同期化して、この年と次の年と、どのようにやり方が変わるのかについて比較できれば、非常に有益なものとなるでしょう。

そういった、非常に役に立つ応用方法があります。非常に複雑な、シェークスピアのモデルを、先ほどお見せしましたが、アクセシブルなドキュメンタリー、映画、あるいはビデオといった考え方があります。トレーニング用のビデオを、高度に構造化されたDAISYスタイルのプレゼンテーションにしていくことができます。説明音声や字幕つきのビデオにしたり、また、複数の言語のトラックを入れたりすることができます。例えば、これがそのひとつの例ですが、このビデオは、WHOのウェブサイトからとったものです。構造化して字幕を追加したものです。元のトランスクリプションもついております。スクリーンでは、上のウィンドウ、これは、もともとのドキュメンタリーのビデオが、表示されています。トランスクリプトは、ドキュメンタリーの内容を示しております。そして、目次のウインドウもあり、プレゼンテーションのタイトルと、それぞれのセクション名が書かれております。 初めのセクション名は、イントロダクションです。これで何ができるかといいますと、元のもののように、PCのフルスクリーンの画面で、普通にビデオを再生することもできます。また、イントロダクションはもう読んだから、その部分は飛ばして、直接、地震の時はどうするかというセクションを読みたいという場合は、すぐにそのセクションに飛ぶこともできるわけです。聴覚障害があり、字幕が必要な場合は、字幕を出すこともできます。あるいは、視覚障害がある場合、例えばこれはインドの地震なのですけれども、それぞれの土地の名前やつづりが分からないので知りたいという場合、ビデオの字幕を、DAISYプレイヤーの点字ディスプレイで表示させることもできます。このように、様々な形の組み合わせが利用できます。手話のウィンドウもあります。読めないとき、例えば、手話しか分からないといったときにでも、手話を表示させることによって、メッセージが伝わるわけです。

何ができるかという例をお見せしましたけれども、Ambulant、LimSeeのデモにもあったと思います。このようなものを作るということはもちろん、簡単ではないですけれども、ツールを使うことによって、そういったことが可能になります。

では、まとめですけれども、今、様々な情報が、私たちの周りにはあふれています。残念なのは、すべての人が、完全にそういった情報にアクセスできないという点です。SMILによって可能になること、そして、DAISYが本の領域でやってきたことを考えれば、近い将来、すべての人が、こういったリッチなマルチメディアの情報にアクセスできる時代が来ると思います。DAISYコンソーシアムは、今、本の領域を超えて、幅広いコンテンツへも、これを拡大していこうとしています。ありがとうございます。