音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

平成18 年度 DAISY を中心とした情報支援普及啓発事業
障害者への情報支援普及・啓発シンポジウム
-DAISY を中心として-

【パネルディスカッション 「障害の枠を超えた連携によるD A I S Yの普及活動」】

【パネリスト】
井上芳郎 ( L D 親の会)
岩井和彦 ( 社会福祉法人日本ライトハウス盲人情報文化センター館長)
中村芬 ( N P O ひなぎく)
成松一郎 ( 有限会社 読書工房、U D 研究会)
伊藤知之 ( 社会福祉法人 浦河べてるの家)
河村宏 ( 国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所 障害福祉研究部長)
野村美佐子 ( 財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 情報センター次長)
【司会】 寺島彰 ( 浦和大学 教授)

パネルディスカッション風景

● 司会
皆様、こんにちは。浦和大学で教授をしています、寺島と思います。よろしくお願いします。
先ほどの河村さんのお話でご紹介いただきましたが、私がD A I S Yに一番最初に関わり 始めましたのは、厚生省に働いていた時に、録音図書についてボランティアの方たちが大変 な努力をしていただいて、録音図書を作成していただいていた訳ですけれども、それがテー プに録音しているアナログ録音だったがために、10 年経つと廃棄してしまうという状況が あり、それはもったいないということで、デジタル化すればそれをずっと永久に使えて視覚 障害のある方に役に立つし、無駄もないし、どんどんタイトルが増えていくのではないかと いうことで最初は取り組み始めたのがきっかけです。
それに対して一流企業にデジタル化のための協力をしてくださいというようなことを電話 でさんざん聞いたのですけれど、みんな断られまして。
その中で「やってみましょうか」と言っていただいたのがシナノケンシで、池田さんという部長 さんがおられて、ご協力をいただいて始まったというのが私の関わりのきっかけでございま す。それが河村さんたちのご努力によって世界的な規格になって、さらに視覚障害だけで はなくて他の障害の方たちにも役立つようなシステムになったということで非常に喜んで おります。
本日のシンポジウムの趣旨は、視覚障害から始まりましたD A I S Yがいろいろな領域に広 がってきているということで、いろいろな領域の人たちが一堂に会して話し合いができると いうことはなかなかありませんので、そういう機会を設けて仲良くしていきましょう、という のがこの会の趣旨でございます。

この会に先立ちまして委員会を開催し、どのような目的でこのシンポジウムを実施するか ということを話した訳ですが、本シンポジウムの第一の目標は、各領域の状況を知る。 様々な分野の方たちがどんなことをしているのかを知らなければ、お近づきになれませ んし、自分たちの領域の参考にすることもできません。
それから、第二の目標は、今後の発展のための提案をするということです。他の領域のことを知っていただいて、今後自分たちはこうしたらいいのではないか、ということを自分たちの 経験から、あるいはこういうふうにしたらいいと思うとか、あるいはD A I S Yコンソーシアムに こんなことをしてほしいとか、いろいろな提案をしていただきたいと思っております。

ただし、本シンポジウムの目的はD A I S Yの発展ですので、D A I S Yをいかにすれば発展さ せられるかというような観点から、前向きな発言を期待しております。

今回のこのパネル・ディスカッションでは、まず最初に10 分ずつ前半で講演をされなかった 方にお話をいただきまして、先ほど申し上げましたような、今どんなふうなことをやっている ということ、それからD A I S Yをいかにして発展させられるのだろうかと、そういう観点から のお話をいただいて、その後、会場の皆様も含めて、いかに発展させていくかということをお 話できればと考えております。
最初に、L D 親の会の井上さんにお願いいたします。


● 井上芳郎( 全国L D 親の会)
皆さん、こんにちは。

井上と申します。全国L D 親の会に所属をしております。L Dというのは学習障害と日本語では言われております。

前半でいろいろな方からご発表があり、海外ではこのD A I S Y は視覚障害の方以外にも広く活用されているとのことでした。日本でも、ご発表のように少しずつ利用がされてくるようになったということです。お名前を挙げて失礼なのですが、たとえば発表のありました神山先生が、ちょっと読みにくいということで、視覚障害者用の録音図書というのがあるのですが、それを借りようと思っても、現行の日本の法律上では貸出ができないということになっています。著作権法という法律の規定では、残念ながら現時点では使えないということです。著作者に許諾を得て作ることはもちろん可能なのですけれども、いろいろな制約がありましてなかなか進んでいないという課題があります。

それから、これは私どもの責任が大であり、自分たち自身で言うのも恥ずかしいことですが、私は親の立場ですので代弁ということになるのですが、実はL D の方たちのニーズがまだ、よくつかみきれていない。言い訳になりますが、この原因の一つとして実は読み障害というのは場合によってはご自身も気がついていないケースがあるのではないかと思っております。

私は実は本職は学校で教えているのですけれども、高校生なのに板書、黒板の文字をノートに書き写すのが非常に遅い子がいるのですね。読むのが遅いだけでなく、ノートを見ますとすごい汚い字で書いてありまして、自分で書いたものが自分自身で読めないくらい汚いんですね。昔はよくわからないで「お前、なにやってんだよ」などと怒ったものですが、よくよく考えてみますと、もしかすると今日神山先生からお話がありましたような読み書きの困難を抱えているお子さんだったのかもしれません。

補足になりますが、L D、 学習障害というのは非常に広い概念で、実はよく読める子もいるのです。逆に聞くほうが苦手だというタイプの子もいます。それから、読み書き聞くはいいのですが、計算だけができないとか、このことは非常に説明しにくいのですが、最近いろいろ本なども出ていますのでお読みになっていただきたいと思います。

さて、取り組みということなのですが、障害者放送協議会という団体がございます。詳しくはこちらの主催の日本障害者リハビリテーション協会のホームページからリンクが張ってありますので見てください。その協議会の中に著作権委員会というのがございまして、そこで長年、国等に対して要望をしてまいりました。

今日別のペーパーで配布いたしましたが、文化審議会著作権分科会報告書抜粋というのが2 枚ものであります。これは昨年1月に公表されたもので、全文はインターネットで閲覧できます。そこから障害者に関するところだけちょっと抜いてきたものです。全部で( 1 )から( 5 )まであるのですが、( 2 ) につきましては、先ほどご紹介ありましたように、音訳データの公衆送信というのは今年の7月1日から、著作権法の一部改正の施行ということで実現できました。

残りについてはまだ検討中なのですが、この分科会の審議の議事録がインターネットで公開されています。私も何回か委員会を傍聴しましたが、そこでの議論では実は大方の委員は賛成なんですね。視覚・聴覚障害以外の方にも広く認めていいのではないか、著作権者の方にとっては権利制限ということになるのですが、視覚・聴覚以外の方ももう少し幅広くとらえてやっていったらいいのではないかという委員の方が7~ 8 割いらっしゃるんです。ですが、最後の一押しが足らなくて、まだ検討中で結局は先送りになってしまっているのです。

この中でも、これは是非早く実現してほしいと思っているのが、1ページ目にあります録音図書のことです。現状では録音資料はもっぱら視覚障害者向けの貸出ということになっているのですが、これをもうちょっと弾力的に考えて、学習障害の中の読みの困難な方、あるいはいろいろな身体上の麻痺等でページをめくって読めない方等、そういう方にも利用できるようにしてほしい。

それから、3 ページ目の( 5 )ですけれど、私的使用ということですね。例えば読みに困難のある人が本を1冊自分のお金で買いまして、これをコピーする。これは私的な利用ですから自由にできるのですが、例えばこれをD A I S Yにするという場合は、これはなかなか自分ではできません。人に頼むわけですね。そうするとこれは厳密には私的な複製にならないのではないかとか、いろいろな難しい問題が起きてきます。ですからこれを他の人の助けを借りて複製しても著作権侵害にならないようにということで、こんなことを要望しております。

なかなか一進一退で進まないのですけれど、一つ朗報と言いますか追い風になるなと思いますのは、この4月1日から、国の、文部科学省の施策として特別支援教育というのが本格スタートするわけです。その中では、従来の障害を持った児童生徒以外に、学習障害等を含む児童生徒への支援が本格開始されます。そういうときに、例えば学校で使っている教科書、これは活字で印刷してありますが、それが読めない児童生徒さんがいる。これをそのままにしておいていいのかという問題も起きてくるわけです。もし教科書等がD A I S Yの形で提供されていれば、非常に助かると思うのですが、現状ではいろいろな制約があるということです。

一方、外国の進んだ例では、今日のこの資料の一番見開きになる真ん中にありますが、ここに米国でのN I M A Sのことが書いてあります。これは大雑把に言いますと、学校等で使う教科書等をデジタル化して、巨大なサーバに蓄えてダウンロードして使えるという計画なんですね。その中のフォーマットとしてD A I S Yが採用されています。

例えば私が学校で、そういう読みの障害のある生徒さんを教えるとします。そういうとき、学校の責任者に許可を得て、このサーバからデジタルデータでダウンロードしてくるわけです。その生徒さんに合った形で教材を再構築して提供できる。その中の、これは定められたフォーマットの一つとしてD A I S Yが入っているということだそうです。

このように日本以外の国に目を向けてみますと、もうどんどん進んでいる。技術的にも本当にどんどん進んでいるわけなのですが、残念ながら法律といいますか、そういう人間の側の整備が進んでいない。むしろ邪魔している場合があるということですので、今後もいろいろ働きかけを強めていきたいと考えております。

ちょっと時間オーバーしましたが、以上です。


● 司会
はい、どうもありがとうございました。
大きく一つが、著作権の問題ですね。特に教科書についての問題がある。
もう一つはニーズの把握の問題がある。どういうふうなニーズがあるのかというのが十分 把握されていないところがある、ということでしたと思います。では次は、N P O ひなぎくの中 村さん、お願いします。


● 中村芬( N P O ひなぎく)
名古屋からまいりました、デジタル編集協議会ひなぎくの中村と申します。

私どもは何をしている団体かと言いますと、視覚障害者または軽度発達障害の方々の図 書・教科書のマルチメディアまたはD A I S Yの変換をしているところです。

一番最初の基調講演で河村さんがお話になりましたけれども、本当に一番最初からこの D A I S Yに携わってきて、もうそんなに経っているのかと私自身先ほど感慨深いものがあり ました。ただその広がりというものについては、まだまだだな、というふうに思いました。

と言いますのは、私たちが現場でやっておりますのは、いちユーザーからの教科書または図 書のマルチメディアの変換なんですね。そうしますと、教科書というのは小中学校は無償供 与になっています。
しかし実際、先ほどらいご覧になったように、教科書をもらっても読めないという方がい らっしゃるわけですね。そういう方にとっては、教科書は何かを教えてくれるものではなく て、ただの紙なんですね。そういうものを私たちのところに持ってきていただいて、それで D A I S Yに変換して画面上で読めるようになったときに、初めて教科書として、あるいは図 書として生きてくるのだと思うんです。

世の中にはたくさんの図書が蔓延しているというか、毎日のように出版されておりますけ れども、その何分の一どころではありません。
私たちが今日読めるもの、もしくは読みたいと思ってもひと月先、または半年先にしか手に とれないような状況の方がたくさんいらっしゃるわけです。だけど、例えば子どもたちの中 に教科書が読めないから1年間そのまま棒に振ってしまって過ぎていく、9 年間黙ったまま で過ぎていく子どもだっているわけです。
先ほど神山さんは、こんなのがあったらよかったなあとおっしゃっていました。私のところに も「、マルチメディアD A I S Yってなんですか?」というご質問があって、私どもで作っているものをお送りいたしますと、私もこんなのがあったらよかった、アメリカに行って日本にこんなのが あるよって言ってきたいというふうにおっしゃって渡米された方もあります。

こういう声を聞くにつけて、私自身はみんなが同じ状態で教育を受ける権利があるのでは ないかと思います。教科書、小中学生の教科書、同じレベルで受けられるようにマルチメディ ア化をしたものを文科省のほうから配布していただけたらいいなと思いながら、変換をして おります。

この変換には著作権が関わってまいりますので、私どもは次のような手を打って変換して います。
無償の教科書を購入していただいています。
そしてその1冊を私どもに送っていただいて、それで教科書を変換してマルチメディアのも のを利用者の方にお渡ししています。
実際には、無料で、無償で手渡されているはずのものを、高いお金を使ってそういう方は 利用するしかないのでしょうか。
私はこれまでこの仕事をしながら、視覚障害者の方のものも変換してきております。
その方たちは、法に守られているというか、ある面私どもも楽な気持ちで変換をしてさし あげることができますけれども、今これからの子どもたちに対して、与えているからいいじゃ ないかというような、そんな冷たいことでいいのでしょうか。

本当に1人1冊ではないんですね。
1人の方が何教科もありますよ。国語、算数、理科、社会、それだけで4 つですけれども、今は 教科書が上下になったり、それから多いものになりますと3 つも4 つも分かれたものになっ ています。
一人の方が4月からスタートする教科書を、実際に私たちが制作したものをお渡しできる のはひと月先、3か月先では間に合わないではありませんか。
なんとかして、皆さんの声をいただいて、文科省の方に、いらっしゃいませんかね、文科省の 方。いらっしゃるといいんですけどね、聞いてほしいんです、本当に。
もう心から、私は切実な思いでおります。そんなふうで、日々変換事業をしております。
失礼いたしました。


● 司会
どうもありがとうございました。
今お話にありました、やはり著作権の問題が一つ大きな課題であろうということと、それか ら、P R の問題もあるみたいですね。
どのようにD A I S Yを知ったかというと、どうも口コミで伝わっているということが多く、これ からいかにP R をしていくかというところの課題もあるのではないかという、これは今はっ きりそういうふうには言われなかったのですが、先ほどそんなふうに言われていましたので、 追加で発言させていただきます。それから、支援をする体制づくりも必要だというお話もあったのではないかと思います。
では次に、出版U D 研究会の成松さん、お願いいたします。


● 成松一郎(( 有)読書工房)
はい。成松一郎と申します。
私、読書工房という出版社を2 0 0 4 年からやっております。出版の仕事をだいたい2 0 年く らい続けてきていまして、私がこういう分野に関わるようになったきっかけは、大学生のころ にたまたま大学の近くに盲学校がありまして、そこに朗読のボランティアで行くようになっ たことがきっかけでした。

それがきっかけだったのか、2 年後に、それは大学1年生のころだったのですが、3 年生になっ たころにそこの盲学校の生徒さんが大学を受験したい、点字受験をしたいという話があっ て、私もなんとかしたいと思って教授会を回ったりして署名を集めたりしたのですが、その当 時はまだ19 8 0 年代前半で、まだまだ私立では点字受験を認めているところが少なかった 時代でしたので、ちょっと受け入れが不安であるというようなことで、結局試験は認められ なかったという時代でした。

それで非常にくやしい思いをしたということもあって、ただその当時、視覚障害者読書権保 障協議会、視読協と呼んでいたのですが、そこのメンバーと結構知り合いになりまして、今は アメディアという会社をやっている望月さんが代表だったりとか、市橋正晴さんという方が 事務局長で、そういう方とお知り合いになりました。私は出版の仕事に進んだのですが、本 を作る仕事をしながら、自分の作っている本が本当に例えば自分の知っている視覚障害 者の人に本の話をしてもすぐには読んでもらえないということもわかっていまして、ほとん どがボランティアの方が点字に訳したりとか音訳テープを作ったりということで初めて読 める。それもすぐに読めるわけではなくて、やはり読みを調べたりいろいろな経過を経て、許 諾を取ることもあると思います。

それで作られていますので、本当に読みたい人の手に届くまでには非常に時間がかかると いうことがありまして、それでなんとか自分の仕事を通してなにか実現というか、自分の知り 合いの視覚障害の人がすぐに本を読める状況が作れないだろうかということをずっと考 えてきました。その当時、河村さんともお知り合いになりました。その当時まだ河村さんは東 大にお勤めだったのですけれど、本を作りませんかなんていうことも相談にうかがったこと もありました。D A I S Yのことも、その当時から市橋さんとか河村さんからお話をうかがって いました。

やはり時代がちょっと流れていきまして、すぐにはなかなか難しかったのですけれども、やっ とバリアフリーみたいなことが世の中で言われるようになって、そしてユニバーサルデザイ ンという言葉が割と、例えば自治体のホームページ等を見ても載るようになりましたし、また 民間の企業でも、どこまでそれが本当かどうかは別として、コマーシャルとしてはユニバー サルデザインの車とかユニバーサルデザインの文房具とかと言われる時代になってきま した。これはやはり出版でもやらなければいけないのではないかと思いました。まず読書 工房という会社を作ったきっかけというのは、ユニバーサルデザインに関する本が非常に 少ない。例えば書店とか図書館に行かれて、ユニバーサルデザインに関する本を探そうと 思った時に、どこに行けばいいのか。大きな書店に行っても、私はまだ見たことがないのです けれども、ユニバーサルデザインという棚があるかどうか。ほとんどないと思います。

例えば、私は『出版のユニバーサルデザインを考える』という本を出版していますけれど も、それはちょっと書店に並んでいないのですけれども、仮に並んだとして、どこに探しに行 くかとすると、出版の棚なのか、ユニバーサルデザインだから福祉関係なのかということで、 なかなか本が彷徨ってしまうという現状があります。

棚ができるためにはやはり本が増えていかなければいけないということで、1冊でも多くユ ニバーサルデザインに関する本を出版しようということで、読書工房という会社を2 0 0 4 年に作りました。まだできて2 年半くらいですので、点数はまだ少ない。

一番最初に出した出版物というのが『本のアクセシビリティを考える』という本で、これは 2 0 0 4 年に公共図書館で働く視覚障害職員の会「、なごや会」というのがありまして、そこ がシンポジウムを企画しまして、今日フロアにも川上正信さん、それから松井進さんがお越 しですけれども、川上さんとか松井さんが企画をして日本図書館協会で、さっきから話題に なっております著作権と出版権と読書権の調和を考えましょうというセミナーを開きまし た。
これは非常にたぶん画期的な内容だったのではないかと思います。
そのとき松井さんもパネリストの一人、河村さんもパネリスト、それ以外にも作家の側から は阿刀田高さん、今敬語の問題とかでよく新聞に出てきますけど阿刀田高さんと、それから 三田誠広さん。
この方は日本文芸家協会で事務局長をされている方で、が、同じテーブルに着く。
出版社からも筑摩書房さんと明石書店の方が同じテーブルに着いて、今日のような感じ でディスカッションをしました。この内容は、ちょっと宣伝になってしまいますが『、本のアクセシ ビリティを考える』という本として今日も販売させていただいております。それが第1号で、そ の後にも何冊かそういう本を出しています。
『出版のユニバーサルデザインを考える』という本は、実は出版U D 研究会というものを、先 ほどの「なごや会」のセミナーが1回限りで終わってしまうのは非常に残念なので、河村さんが確かそのときに「毎年こういうものは開いてほしい」とおっしゃったことが耳に残ってい ました。では研究会というか、毎回開けるようなものを作ろうということで2 0 0 5 年の7月か ら、最初は毎月1回、飯田橋にあります東京しごとセンターというところをお借りしてやってい ます。これの趣旨というのは、出版を考えていく上で、作り手の側だけで考えてはいけないし、 読者の側だけで論じてもやはり意味がない。だから作り手の側も読み手の側も、デザイン をやっている人も作家の方も、それから印刷をやっている人も本を売っている人も、いろんな 人が集まって勉強会を開こうではないか。

そこで心がけていますのは、まずはいろんな読者がいるということがなかなか伝わってい ませんので、毎回いろいろな立場の読者の代表の方、障害を持った方、例えばL D の関係者 ということで井上さんにも講演していただきましたし、河村さんにもD A I S Yについてお話 いただきましたし、あと視覚障害、色覚障害、発達障害の方もやりました。
毎回、障害を持った方、あるいはそれを支援している方、研究している方にゲストスピーカー としてお話をいただいて、それをみんなで勉強してみましょうと。
1回2 時間くらいのものですので、答えが出るかというとなかなか。
明日からD A I S Yの本が増えるとか、読みやすい本が増えるというものではないと思うの ですが、これは5 年かかるか10 年かかるかわかりませんけれども、やはり出版に何かしら関 わっている人が、それをきっかけに自分の仕事の中で生かしていったらいいのではないか。
そして実現に向けて、そこからまたワークショップが生まれたりとか、もっと勉強してみようと いうことでいろいろな形が生まれてくるのではないかということで、出版U D 研究会という ことをやっています。

その内容を、1回目から13 回目まで、去年の9月までやった内容を『、出版のユニバーサルデザ インを考える』という本でまとめまして、これも今日販売をさせていただいておりますが、そん な形で私の仕事としては、そういう本を出していくということと、あとは研究会活動をやって いるということになります。

最後にちょっと一言申し上げたいのは、先ほどから教科書の話題が出ておりますけれども、 あらゆる出版物がU D 化していくことが望ましいと思います。

これはあらかじめ作り手の側が、いろんな読者を想定して、一つのデータが変換しやすい ような形にしておくことが大事だと思います。それは技術的にはもうかなり実現していまして、 ワンソース・マルチユースという言い方があるのですけれども、一つのソースを利用してマル チに利用する。これが例えばアメリカの、先ほどのこのパンフレットの中のN I M A Sとかいう のも、その考え方に基づいていると思います。それを日本でも是非実現できるようにしてい くために、私もなんとかお手伝いをしていきたいと考えております。

ですから出版U D 研究会もその一つとして、大いに活用していただきたいと思いますし、い ろいろなコラボレーションですね、例えば電子出版協会の方も研究会に参加していますの で、電子出版協会とD A I S Yのコンソーシアムのコラボレーションとか、それから今日はたくさ んボランティアの方が参加されていると思いますけれども、そういうボランティアの方と出 版社のコラボレーション、それからそれに公共図書館がどういうふうに関わっていけるかと か、そういうことを一つ一つ解決していけるといいと思っています。
私は立場上は「出版で何ができるか」ということを活動の起点として考えていきたいと思っ て、今日は参加させていただいています。


● 司会
はい、ありがとうございました。著者、出版社、読者を含めたユニバーサルな体制づくりの必 要性等が述べられていたのではないかと思いました。
次に、日本障害者リハビリテーション協会の野村さんからお話をお願いします。


● 野村美佐子( 財団法人 日本障害者リハビリテーション協会)
情報センターの野村と申します。今日はたくさんの方がいらっしゃっていまして、嬉しいとい う大きな喜びにひたっているのですけれど、さらに、もしかしたらD A I S Yのファンが増える のではないか、それはやってくれる人が増えるのではないかという思いで嬉しく思っていま す。
そういう意味から言いますと、私たちがやっていることは何かというと、D A I S Yの普及のた めのコーディネーションをしているのではないかというふうに定義づけられるかなと思いま す。

私たちは2 0 01年からマルチメディアD A I S Yの開発、そして啓発、普及という事業が始まり ましたけれども、その頃は本当にマルチメディアD A I S Yってなあに? って最初から全部説 明しないとなかなかわかってくれない。一番早くわからせようと思っても10 分はかかるんで すね。やはりものを見せないとわからないという時代がありまして、それがだんだん過ぎて きまして、今2 0 0 7 年、多くの方が少しずつ、とは言ってもまだまだ広まってはいませんけれど も、少しずつ理解する方が出てきたのではないかと思います。

その中で、私たちがやってきたことというのは、やはりニーズの把握です。
どういった事例があるかということを、努めて把握するようにいたしました。あるいは当事 者にインタビューもしましたし、それからマルチメディアD A I S Yを持っていって、これはどうい うふうに思うのか、どういったところを直したほうがいいのかといったヒアリング等を行いました。人によっては、やはり録音という、音よりもやはり字を見たほうがいいという方もいて、 こんなもの僕合わないよとか言って途中でやめられたケースもありましたから、だんだん 考えてきますと、カスタマイズできるD A I S Yという普及の仕方のほうがいいのかなと思って きました。

例えば学習障害者の場合は教科書を使うとか、精神障害者の場合は自分の表現方法と して使うとか、あるいは失語症の方も、読みの障害を持ったときにだんだん読めるように訓 練をしていく一つの方法として使うとか。そういったいろいろな使い方が、知的障害者の場 合もソーシャルスキルを磨くといった方法が考えられます。

ただ、それぞれによって何らかの追加の機能が必要だ。ただし、コアにあるものはマルチメ ディアD A I S Yのコンテンツ、それがたぶん河村さんがおっしゃっているユニバーサルデザイ ンではないかと思いまして、同じような普及をしているわけなのですが、その中で一番私ど もがやってきた方法としては、サンプルコンテンツづくりなんですね。
さっきありました『赤いハイヒール』というのも、出版社がなかなか動かないので、それなら 自分たちで作ってしまおうというところで、C D - R O M 付き書籍版を作ったのですが、なにし ろ出版なんて素人なものですからなかなかうまくいかなくて、1年くらいかかりました。そして やっと7月頃に完成をみて、皆様の目の前にお見せすることができたわけです。」

今までにサンプルとしてどういうものを作ったかと申しますと、例えば『ごんぎつね』とか『三 匹のこぶた』、『マッチ売りの少女』ですね。『三匹のこぶた』と『マッチ売りの少女』は英語でも あります。『蜘蛛の糸』、『児童の権利に関する条約』、『百人一首』、『バースデーケーキができたよ』、『はなさかじい』、『ねずみのよめいり』、『D A I S Yってなんだろう』。『はなさかじい』、『ねずみのよめいり』は世界文化社さんから画像をいただきまして、初めて出版社とのコラボレーションということで作られたものです。

そういった機会がたくさんあればいいなと思うのですが、やはりそういったものが手には いれるという社会のシステムづくりというものがもともと基本的に必要ではないかという ふうに思いますし、国の行政の中でもやはり教科書はそういったアクセシブルなフォーマッ トで提供されるべきだという、そういったそこの部分でのフォローの体制があってもいいの ではないかと思います。そして企業ですね、もちろんボランティアの方に協力していただい ていろいろなことはできるかと思うのですが、最終的にはやはりビジネスになる、市場マー ケットでなんとかなるという体制づくりは大切だと思いますし、出版社関係の方がそういっ た活動をなさってくださればいいなと思います。

こういったところでコーディネーションをした私としましては、今度はアクションだと思うの ですが、そういうところをみんなで考えていければいいと思います。以上です。


● 司会
どうもありがとうございました。今のお話の中では新しく、活用法の研究開発というような ものが必要ではないか、例えば障害別にこういう使い方、カスタマイズできるというような 機能、どういうふうに使えばいいかという活用法についての課題もあるのではないかとい うことと、それから普及のための体制づくり、これは既に何人かの方にお話をいただいてい ますけれども、そういう課題について提起がありました。

このパネル・ディスカッション、あまりもう時間がありませんので課題の言いっぱなしにした いと思っているのですが、それで詳しく追究することは今後に期待をさせていただきたいと 思っているのですが、現状では課題として出されていますのが、1番目が著作権のこと。

2 番目が活用法のこと。3 番目がP R の方法のこと、4 番目がニーズ把握の方法について、 5 番目が普及のための支援体制づくりについて。それくらいが出されているのではないか と思いますけれども、パネリストの方で他に教育には課題があってこうすれば解決できるよ うなことがあるよ、そういう意見がありましたらお願いいたします。

順番に当ててもいいのですが、もしなければ会場の方に次はふりたいなと思っております。
はい、河村さん。


● 河村宏氏( 国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
河村です。課題の中で、どなたも言わなかった課題が一つあります。
それは、国際標準として作っているので、今は日本の状態でみんなで考えているのですね。
それでアメリカやスウェーデンはいいなあというふうに思っているのですけれど、日本はい いなと思っている発展途上国というのはたくさんありまして、いったいいつアフリカに来るん だとか、ラテンアメリカはどうしてくれるとか、中央アジアを忘れてるんじゃないかとか、もうい ろいろな声があります。

やはり国際標準として世界中で共有していくということを考えたときに、そういった、どこに いる同じ障害のある人たちもその技術を享受できるということが大事だと思います。

そうしますと、アラビア語はどうするんだとか、ヒンディー語はどうするんだとか、言語の問 題がでてきます。さらには、アメリカのネイティブアメリカンの人たちは文字を持ちません。日 本のアイヌの人たちもそうです。そういう人たちの出版というのはこれまでなかったわけで すね。D A I S Y は初めてそういう人たちの自分の言語による出版の可能性も開いているわ けです。つまり、そういう課題に応えるということも一方で出てきています。

特に聴覚障害の方たちからは、今まで手話が自分たちの言語であると考えていて、その手 話をキャプションで完全に代替することはできないんですね。ですから手話の入った本が 欲しい。手話と対訳の本が欲しい。ちょうど私たちが耳で音声を聞きながらテキストを見る のがよくわかるというように、手話があって、そこに絵があってテキストがあって、それによって 外国語のように書かれた文字を勉強したいんだというニーズもあります。

さらに重要なのは、ますますこれからインタラクティブな教材が一般的に入ってきます。イ ンタラクティブというのは、授業の中でネットを使うというようなことです。
インタラクティブというのは、授業の中でネットを使うというようなことです。
それらについて、いわゆるeラーニングをどういうふうに視覚障害の人に対応させるのか、 聴覚障害の人に対応させるのか。さらには、今日もありましたさまざまな障害の人たちに 対応させるのか。

技術はどんどん前に行ってしまいます。
では、どこから手をつけるのかというのが、大本の根っこのところ、情報を作り出すところで 解決できないのか、という技術的な打開策を探ろうということで、つまり誰かが情報を作っ ているわけですね。
何かに記録をしているわけです。その記録しているところの技術を、今のD A I S Y で置き換 えることによって、最初から誰がアクセスできるようにするんだ、という展望を持てないだ ろうか。そうしない限り、このいたちごっこはいつまでも続いて、永遠に繰り返される。それを 狙っていくための戦略を出そうというのが、今D A I S Yコンソーシアムが全力を挙げてやっ ていることです。

その中には、当然、先ほども申し上げましたまだD A I S Yがぜんぜん行き渡っていない国の 人たちも、地球上全体で同じゴールに最後は到達するのだ、という展望が必要。そういった 観点と、まだカセットのほうがいいんだ、絶対この円盤には触りたくないというようなユーザ、 これはスウェーデンにもいます。その人たちをどうするのか、という問題とが一緒に取り組ま ねばならないというのが、今の困難なのです。

ですから、そういう意味で、課題山積、それから現状のままでいたいという人もいっぱいいる、 それで満足しているという人もいっぱいいる。

でも、今手をつけないと、将来も永遠にこれを繰り返していくかもしれない。それでは、せっ かく障害者の権利条約ができても、いつまで経っても対等の権利が保障できないではな いか。そこで、では技術開発をどうするのか。国際標準を前もって、そういう将来を予見して どうやって立てていくのかという技術の開発の問題が出てくるわけです。この技術という のは極めて複雑で専門的なので、今日は省きますけれども、こういう根本的な解決を目指すD A I S Yも、一番最初に技術で解決しよう、何を解決しようとしているのか、そこのところ の課題というのがもう一方であるということを申し上げておきたいと思います。


● 司会
はい、どうもありがとうございます。
ちょっと話が難しくなってしまいましたけれども、新たに課題として出されましたのは、国際 的な視野を持つ必要があろうということだろうと思います。他に、パネラーの方で、ご意見 はありますでしょうか。岩井さん、いかがでしょうか。


● 岩井和彦( 社会福祉法人 日本ライトハウス盲人情報文化センター)
視覚障害者の場合、かなりD A I S Yを活用するという形はできているわけですけれど、さら なる活用ということで考える時に、今、河村さんのほうから、技術は大本から変えていかな いとダメだというご発言がございました。
今、一番私どもが感じておりますのは、いわゆる2 011年のテレビ放送デジタル化という状 況の中で、視覚障害者もテレビを観るんだ、あるいは映画も観たいんだということで、そうし た映像に関する情報についてももっともっとアクセシビリティな環境を作りたいということ で総務省等に働きかけをいろいろしているわけです。

例えば解説放送等の数値目標等は入るかもしれないとか、ニーズはお伝えできているわ けですけれども、さてそれを実現するために放送事業者がどこまで前向きに検討するかと いうときに、そうした部分の技術がやはり、こういうD A I S Yの例えばS M I Lとかそういった ものを使うことでそういった視覚障害者への情報提供も可能なんだというような提案と いうか活用も、是非とも検討いただきたい。そしてそういったことを、もっともっと社会的な 広報として知らしめていきたいと思います。
出版その他の部分にあわせて、もっと映像等についての副次的情報も我々は欲しい、そう いうことにD A I S Yを是非活用いただきたい、そういう研究への期待を一言申し述べたい と思います。


● 司会
どうもありがとうございました。技術的な開発にも大切だと、これは河村さんも言われて いたことでした。それ以外に、伊藤さん、何かありますでしょうか。


● 伊藤知之( 社会福祉法人 浦河べてるの家)
技術的なことはちょっとよくわからないのですが、先ほどこの会場で知り合いに会いまし て言われたアイディアというのがあったのですが、今、障害者自立支援法で僕たち当事者の 生活というか、そういったものが揺らいでおり、またその法制度も非常に今なお会議で変 わっていったりしていてわかりづらいものになっているというので、僕たち施設を利用する 側が、さっきの防災マニュアルのような感じで、自分たちが出演するものを使って、それを利 用料はこのようにするのだとか、食事の提供はこうだみたいな感じのことを、D A I S Yを使っ た音声付きのマニュアルのようなものでやっていければ、みんなも新しい法制度とかがで きたり、またさまざまな施設内部で内規とかいろいろなものが変わったりしても、ついていき やすいものになるのではないかなとは思ってはいます。


● 司会:寺島氏
どうもありがとうございました。
せっかくですので、会場にはたくさん著名な方がおられるということでしたので、何か会場 から、先ほど申し上げましたように、この領域ではこういう課題がありますとか、こうすれば 解決できるのになあとか、そういうご提案のようなものはありますでしょうか。
挙手をいただいて、もし所属がありましたら所属、お名前、そして手短にお願いします。前の ほうで手を挙げられました。


● 会場から
日本点字図書館の岩上と申します。
マルチメディアD A I S Yが注目されているのに、不思議と視覚障害者は音声があればいい というような雰囲気が大勢のような気がしていまして、そのことを若干私は日頃気にしてい るんです。
これからも音声情報が中心にはなるだろうと思うのですけれど、音声というのははなは だ不確かな面を持っております。
つまり、こうやってしゃべっていても、聞いている方はきっちりと発音をとらえられないという ことがあるわけです。そういう意味で私は、録音図書も大事だけれども、いつも点字をと言 うのは、点字は発音という点では非常にしっかりととらえられからなんです。しかし、点字もま た大きな欠点を持っておりまして、漢字がないわけですね。

ですから点字は表音文字で、日本語を正しくきっちりととらえるということが非常に難しい 要素を持っております。
そういう意味で、音声情報が中心であるのですが、やはりテキストデータ、それから点字デー タの同期ということがこれから非常に重要な問題にならなければいけない問題だと私は 思うんです。そういう意味で、やはりマルチメディアD A I S Y、先ほど岩井さんが言われた映像情報というものも欲しいものの一つなのですが、まず基本的に音声と点字とテキストと、 この3 つは最低本当は同期した形で存在しなければならないのではないかと、そのへん の取り組みも薄いし、大いにこれから課題にしていかなければならないのではないか、そう いうふうに考えております。
ちょっと長くなってしまいますが、ちなみに日本点字図書館は、2 011年にカセット図書のサー ビスを中止しまして、全部D A I S Y、つまりD A I S Y 一本化という道を歩もうとしております。いろいろな反応がありますけれども、やはりカセットの衰退、それからD A I S Yの有意を考えて、 これは是非なし遂げられなければならない課題だというふうに理解して、そのように取り 組みを開始するところでございます。以上でございます。


● 司会
はい、どうもありがとうございました。
他に会場の方で、何か先ほど申し上げましたようなご提案でありますとか、ありますでしょ うか。遠慮なさらずに、どうぞ、前の方。


● 会場から
池田といいます。どこにも所属していなくて、視覚障害者です。
標準速テープとD A I S Yと対面朗読で読書をしているのですが、D A I S Y化が進むと聞いて、 なかなかD A I S Yが増えていかないように感じます。どういうところに問題があるかというと、 D A I S Yが作れる人がまだまだ少ないと思うのと、D A I S Yを作れる機材の普及が少ない のではないかと思っています。

公共の図書館でも、D A I S Yを作るにはボランティアさんに頼っているところがあって、録 音機材にしてもボランティアさんが自分のお金を出して機材を揃えているところがあるので、 テープを作る機材以上にD A I S Yを作る機材までボランティアさんに頼るというのは、ボラ ンティアさんの負担が大きくなるばかりなので、もう少し資金面で公共の図書館のほうでも、 D A I S Yを作れる体制というのを考えていただいたらどうかと思うのと、私はP T R 2を買っ たんです。なぜ買ったかというと、自分でD A I S Yが作れるようになりたいと思って、さっき岩 井さんですか、お話があったように自分で作れるようになりたいと思って買ったのですが、説 明書を聞いてもわからないんです。自分で作れないので、マンツーマンで教えてくれる そういう人を、視覚障害者でもD A I S Yが作れる人を育てられる人を育ててほしいと思い ます。以上です。


● 司会
はい、どうもありがとうございました。ではこれについては、ちょっとコメントを中村さんから いただいてもいいですか。制作のことなので。


● 中村芬氏( N P O ひなぎく)
今のご質問なのですけれども、確かにおっしゃるようにかなりのお金をかけてリハビリテー ション協会さんも講習会をなさっていますし、全国の点字図書館にはボランティアがたくさ んおりますし、それらのところでも皆さん技術は持っていらっしゃるのですけれど、どうやら 先立つものに左右されるのか、今一つD A I S Yが普及していないということになっているの かもしれません。
確かに、D A I S Yを作るというのは見た目は簡単なんです。音だけのものであればパソコン に直接向かって本を読めばいいことなんですね。しかしマルチメディアになりますと、テキスト データをいただいて出版と一緒に出すときはいいのですけれども、私どもで制作している のは教科書をスキャナでとってテキストをまずチェックして、それからh t m lにして、そこへ音を 流し込む。これはまた読む人がなかなかいないんですね。全国の音訳ボランティアがいると ころはなんとかできていくんです。ただし、パソコンに弱い人がいるところでは編集者が育 たないという状態があって、今一つ進まないのではないかと思います。好きな人が出てくる のを私は楽しみにしています。

それと、一人でやらないことです。テキストを作る人、編集をする人、読む人、こういう人たちが 4 人、5 人と集まって一つのものができていくと考えればいいのではないかと思うのです。私 どものところは、私自身もそうですが、一人ですべてできる人間は4 人くらいしかいません。あ とはみんな手分けしてやっておりますので、そんなところから今まで少しでも手を出された方、 もう一度やり直して、今おっしゃった方のように、教えてあげられる人になっていただきたい と思います。


● 司会
ありがとうございました。僕も、マイスタジオP C で自分で作るのですけれど、機械はあんま りお金はかからないような気はするんですけど。自分のパソコンにマイクをつっこめばそれ でいいような気はするのですが、そういう特殊な装置が必要なんですか? 会場から手が 挙がっていますが。ではお願いします。


● 会場から
全国音訳ボランティアネットワーク準備会の藤田と申します。今日はいろいろと勉強させて いただきまして、本当にありがとうございました。先ほどの質問に関連してなのですが、私ども昨年の5月に、全国から音訳ボランティアの方々が8 5 0 人ほどお集まりいただきまして、 初の全国大会を開くことができたのですが、その中で本当にまだまだD A I S Y化に移行で きないという現状があります。
第一の理由は、先ほどもおっしゃっていましたけれども、機材購入はすべてボランティアが やっているという方たちがほとんどなんですね。今まではカセットデッキが4 万円~ 5 万円 で買えたものが、パソコンを一式揃えるには10 万円をくだらないという現実は、ボランティ アにとってはたいへんに重いことだと思います。全国大会の折にも、そのへんのことをなん とかしてほしい、業者には補助があるのに、音訳ボランティアにはそんなことがないという お声がたいへん多かったことが、印象に残っております。
現実にはパソコンアレルギーといわれる方たちもたくさんいらして、デッキが使えなくなる なら私の時代は終わりだとか、音訳はやめます等というちょっと後ろ向きの方たちもいらっ しゃいます。ちょっと期待したいのはシナノケンシさんがデッキのツナギとして「リアルワン」と いうものを今開発中ということで、是非それに期待したいと今思っているわけです。
私ども音訳者、公共図書館や社協さんや点字図書館等に所属していらっしゃる方はまだ しも、そうではない自主ボランティアの方々がたくさんいらっしゃるわけですので、その方た ちにも今日のような情報を提供しながら、少しでも両者のためになるものが作れるように 頑張っていきたいと思いますので、是非会場の皆様の応援をお願いしたいと思いますので、 よろしくお願いいたします。


● 司会
はい、どうもありがとうございました。やはり、機材を買うのがたいへんだということがわか りました。中古でパソコンは最近早くなっている、買えば5 万円くらいで買えそうかなとふと 思っていますが、そういうことも支援があったほうがそれはいいと思います。 他に何か、会場でご提案とか。今2 つ挙がっている、後ろのほうの方が早かったのではない でしょうか。


● 会場から
シナノケンシの池田ですけど、今の池田さんからP T R 2をお買い上げいただいた。ところが 取説がわけわからんというご不満の声、たいへん申し訳なく思っております。日本点字図 書館を通じて販売いただいていまして、日点さんでもときどき講習会をやっていただいてい ます。ですから是非、そういう機会を活用していただきたい。それから、シナノケンシのほうで 電話でのカスタマーサービスをきちんとやっておりますので、いろいろなお問い合わせに答 えられますので、是非ご連絡いただきたい。それから、なによりもわかりやすい取説を作るよ うにこれからも心がけていきます。ですから、ここらへんがわからない、この表現はよくない などの声をお寄せいただきたい、こんなことをお願いしたいと思います。

それから、今、藤田さんのほうからお話がありましたように、カセットデッキがいよいよなく なっていく流れです。これに代わる、4 万円でデジタル録音、カセットデッキ感覚で操作でき るものを作れと全国から声が寄せられておりまして、それに添う機器をこの6月を目処に 発売するように、今開発が進んでおります。これも皆さんの声で作っていくわけです。ですか ら、皆さんがいろいろ言っていただくと私たちメーカーはよくわかりますので、とにかくフジタ さんにでも、ワイワイいろいろ寄せていただく、あるいは私らにも寄せていただく、点字図書 館等の集まりでもいろいろ言っていただく、それが世の中を変えていくのではないか、あき らめずにいろいろと声を上げることが大事だと、そんなふうに思っております。

D A I S Yも、これからも発展していくわけですけれども、是非みんなでこのD A I S Yをきち んと守って、さらに発展するようにこれからもシナノケンシ、P l e x t o r は頑張っていきたいと 思っております。どうもありがとうございました。


● 司会
では最後にしたいのですが、こちらで手を挙げていただいた方。


● 会場から
南谷と申します。視覚障害のD A I S Yユーザです。二点ほどちょっとおうかがいしたいとい うか、申し上げたいことがあります。
一つには先ほど岩上さんのほうからございましたように、D A I S Yというのは基本的に、印 刷文字にアクセスできない人のために情報提供するための媒体として構想されていると いうことは重々承知していますし、そちらに軸足を置くことには大賛成なのですが、やはり 文字を読んで情報を理解するという文化にはそれなりの伝統があって合理性もあると思 うので、視覚障害者としても文字を読むという読書スタイルにもこのマルチメディアD A I S Y を是非活用していただきたいと期待しております。
もう一点なのですが、河村さんのほうから、国際的な標準化とより広いニーズの開拓とい うようなお話があったと思います。特にこれからeラーニングではD VとかH D - D V D みたい なものが結構活用されていくのではないかと思います。D VとかH D - D V D のスペックシー トをみると、かなり今日のマルチメディアD A I S Y でできるようなことを代替できそうな雰囲 気もあるので、そうするとそちらのほうがマスマーケットになってしまうという懸念もあって、 できればそういう一般的なメディアとの相互運用性のようなことまで考慮して今後の規 格策定等に取り組んでいただけるとありがたいと思います。


● 司会
これは河村さん、少しコメントをいただけますか。


● 河村宏氏( 国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
はい。今の二点、全く私も賛成なんですね。
というのは、先ほどアメリカの教科書の法制化という話が出ましたが、実はアメリカで法制 化したD A I S YというのはD A I S Y 3 なんです。D A I S Y 3フォーマットなんです。
テキストなんですね。音がないD A I S Yがアメリカでの教科書の標準フォーマットに採用 されたということです。では音はどうするのか。それは、それを手にいれて、人間が朗読する テキストとして使うこともできるし、あるいはダイレクトにシンセサイザーで読むこともできる。
シンセで読めない数式等は、人間がその部分を読む。そうすると、今の最新型のD A I S Y 3 対応のプレイヤーは、人間の音声があれば音声を読み、テキストだけだったらテキストを 読むという読み方がスムーズにできます。そうするとものすごく早くできるんですね、制作 が。ある場合は、シンセがよければ、録音しなくても音声とテキストがシンクロナイズされ たD A I S Yが手に入るという仕組みになっています。これは大活字にも使えるし、点訳にも 使える。そういうソリューションがアメリカのモデルです。それは今の日本で使われている 2 . 0 2 ではなくて、3 . 0 で初めて実現することなのですね。

では、その向こうに先ほど言われましたeラーニングというのが実は視野に入っています。 D A I S Yの3 . 0 も、さらに改良しなければならない理由というのは、先ほどの動画コンテン ツとか、インタラクティブなビデオ、そういったものにどういうふうに手が届くようにしていく のか、ということから出てきています。

D VとかH D 、いわゆるデジタル画像のことが、デジタル動画、放送のことが今言われたの ですが、機能として似たような機能はたくさんあります。マルチチャンネルが持てるとか、テ キストのトラックが何チャンネルもあり、オーディオのトラックが何チャンネルもある。ところが、 D A I S Yと根本的に違うことが一つあります。それは、何重にもガードがかけてあるというこ となんです。つまり、今の商業的なマルチメディアのマーケットというのは、まず利益を上げる ことを考えます。アクセシビリティよりも、コピーされないこと。確実に収入が上がるというモ デルを先に作ります。その範囲内でしか技術が使えないように鍵をかけてしまいます。です から編集は全くできません。できあがったものを編集しようとしても全くできない。コピーす らできない。

私ども、特に私はそれに非常に懸念を持っています。アクセシビリティは非常に難しい。そ のうえに、それを再生する装置が全部鍵をかけられているので、集積されていても、次の世 代に伝えられない。やがて10 年後には、今の時代は全部ブラックホールになってしまう。何 も見えない。そういう文化というのが、やはり短期的なビジネスモデルで作られようとしている。これは非常に、アクセシビリティという観点と、将来にわたって私たちの知識を次の世 代と共有していくという観点、両方からやはり警鐘を鳴らさなければならない。

ではD A I S Y はどういうスタンスをとっているか。これはW 3 Cと同じスタンスをとっています。 W 3 C は、ウェブのコンテンツのスタンダードで、皆さんご存じのように、エディタでソースを 書ける。それから、少なくとも2 つの系、M a cとW i n d o w s の両方である技術が実現できる。 つまり、W i n d o w sだけでできて他ではできないというのではダメなんです。必ず2 つ以上 の系でその技術を実装できるということを証明することを条件にしています。つまりそうい うふうに公開性と、アクセスについて保証を、長い視野でしていける。そのW 3 C のスタンダー ドの考え方の上にD A I S Yの技術を開発していこう。

それから、W 3 C のもう一つ優れた点は、アクセシビリティのガイドラインを常に開発して、そ こにユーザが参加している。その点で、W 3 C のガイドラインの上にD A I S Yの規格を乗せて 開発していく。だから私たちは今S M I L の3 . 0という、W 3 C の次の動画をどうやってアクセ シブルにしていくのか、その技術開発に全力を、D A I S Yコンソーシアムとしても一緒に協力 して解決して、そしてそのうえに次の世代のD A I S Yを築こうとしています。

そこでは、最初からできあがったマルチメディアのコンテンツ、動画等が最初からアクセシブ ルに、副音声解説とか、その副音声解説をまたテキストにしたものを盲聾の方にもアクセス できるようにするとか、そういった工夫を随所にいれた新しいS M I L の規格というものを今 開発中です。それができた上に、D A I S Yの3 + 、その次の世代のD A I S Yを開発して、それが おそらく今のご質問に答えられるものになっていくプラットフォームだと考えています。


● 司会
はい、どうもありがとうございました。これでだいたい時間になりましたけれど、とりあえず 最後にまとめさせていただきます。
今回提起されました課題としては、一つは著作権、特に教科書の問題をクリアする課題が あるだろう。それから、活用法について研究開発していく必要があるだろう。例えば、障害 別の活用方法、手話を使ったメディアであるとか、そういった障害別の活用。
それから3 番目に、P R 方法。4 番目にニーズの把握をどうするか。5 番目にユニバーサルな 支援体制づくり、たとえば出版社から直接データをもらうとか、あるいはボランティアの方 の作成支援をするとか、それから指導者を養成するとか、そういった体制づくりが必要で あろう。6 番目に、技術的な開発をやはり継続して続けていく必要がある。今お話のあった ようなS M I L の規格を具体的にいろいろな技術に活用していく。7 番目に、国際的な視野を 持つ必要がある。そういうことであったように思います。

それでは、ちょっと時間を過ぎてしまいましたので、これでパネル・ディスカッションを終わら せていただきます。どうもありがとうございました。