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平成18 年度 DAISY を中心とした情報支援普及啓発事業
障害者への情報支援普及・啓発シンポジウム
-DAISY を中心として-

【パネルディスカッションレジメ】

井上芳郎 ( L D 親の会)

文化審議会著作権分科会報告書( 抜粋)
平成1 8 年1 月 文化審議会著作権分科会

( 1)著作権法第3 7 条第3 項について,複製の方法を録音に限定しないこと,利用者 を視覚障害者に限定しないこと,対象施設を視聴覚障害者情報提供施設等に限定 しないこと,視覚障害者を含む読書に障害をもつ人の利用に供するため公表された 著作物の公衆送信等を認めることについて

ア 問題の所在

 第3 7 条第3 項は,専ら視覚障害者向けの貸出しの用に供するために,著作権者 の許諾なく著作物を録音することができる旨を規定しているが,対象施設としては, 視聴覚障害者情報提供施設等に限られ,公共図書館等は含まれていない( 著作権 法施行令第2 条)。また,録音データの公衆送信については権利制限規定がないた め,著作権者の許諾を得る必要がある。
 一部の公共図書館,点字図書館では,視覚障害者等に対して,著作権者の許諾 を得た録音データのインターネット配信を実施している。現行制度は貸出しの用に 供するための複製の方法は録音に限定されており,録音以外の複製やこのような 録音データ等の公衆送信については著作権者の許諾が必要である。
 また,現行制度では,視聴覚障害者情報提供施設等に当たらない国立国会図書 館,公共図書館,大学図書館等においては,視覚障害者向けの録音資料の作成に つき,著作権者の許諾が必要である。
 さらに,現行制度では,上肢障害でページをめくれない人,高齢で活字図書が読 めない人,ディスレクシア( 難読・不読症),知的障害者等,読書の手段として録音資 料を利用している視覚障害者以外の障害者に対して貸し出すために録音資料を作 成するには,著作権者の許諾が必要である。
 このような,図書館が障害者に対して行う資料の提供について著作権者の許諾 なく行えるようにし,多様な障害者の情報環境の改善を図ることが必要であるとの 要望がある。

イ 検討結果

 障害者による著作物の利用を促進するという趣旨に対しては支持する意見が多 数であった。
 ただし一方で,一般に読書に障害を持つ人々の用に供するために図書館が複製 や公衆送信を自由に行い得るとすることは問題がある,要望の範囲が広範に過ぎる, 目的外利用されないようにどのように担保されるかが明らかにされていない,趣旨 の明確化が必要であるなどの指摘があり,現行法の基本的な枠組みを変更するこ となく,障害者への一層の配慮をどのように具体化し得るのか,整理が必要である。
 また現在,権利者団体と図書館団体との間で,録音図書の作成に関してガイドラ インが締結され,一定の条件の下で公共図書館での複製が可能となっており,あえ て権利制限規定を見直す必要性は小さいという意見があった。
 したがって,本件については,図書館関係者から障害者にとっての権利制限の必要性を十分踏まえた,より具体的で特定された提案を待って,権利者団体及び図書館関係者間で行っている協議の状況や,国民全体が均等に,より高いレベルでの文化の享受し得るという観点も踏まえつつ検討することが適当である。

( 2)視覚障害者情報提供施設等において,専ら視覚障害者に対し,公表された録 音図書の公衆送信をできるようにすることについて ( 平成1 8 年臨時国会で法改 正・平成1 9 年7 月1日施行)

以下、文化庁「著作権法の一部を改正する法律の制定について」より抜粋して引用。 http://www.bunka.go.jp/1tyosaku/chosakukenhou_kaisei_2.html

 録音図書については、現行著作権法上は、点字図書館などの視覚障害者情報提 供施設等において、視覚障害者向けの貸出しの用に供するためであれば、自由に録 音することが認められてきました。そこで、これに基づき作成した録音図書について、 貸出しの方法として、録音図書を視覚障害者の自宅へ郵送することで対応してきま した。しかし、この方法では、当該図書の返却郵送等が必要であることから、視覚障 害者にとって大きな負担となっているとともに、随時必要な情報が入手できないと いう問題もあります。
 近年、視覚障害者が得ることのできる情報源は、点字本から録音図書に大きく移 行しており、視覚障害者の多くが録音図書を必要としていること、そして、情報格差 をなくすという観点から、今回の改正により、視覚障害者情報提供施設等が、専ら 視覚障害者の利用に供するために録音図書をインターネット送信することについて、 権利者の許諾を要することなく認めることとされました。
( 引用ここまで)

( 3)聴覚障害者情報提供施設において,専ら聴覚障害者向けの貸出しの用に供す るため,公表された著作物( 映像によるもの)に手話や字幕による複製についてまた, 手話や字幕により複製した著作物( 映像によるもの)の公衆送信について

( 4) 聴覚障害者向けの字幕に関する翻案権の制限について,知的障害者や発達障 害者等にもわかるように,翻案( 要約等)することについて

ア 問題の所在

 現在,聴覚障害者情報提供施設において,聴覚障害者用に字幕・手話入りビデオ, D V D 等の貸出を行っているが,複製権との関係から,実質,多くの作品には字幕や 手話を付与することは行われていない。また,字幕の公衆送信はリアルタイムによ るものに限られていることから,字幕や手話を付した複製物を公衆送信するには許 諾が必要である。これらについて,権利制限を認めてもらいたいとの要望がある。
 また,聴覚障害者向けに字幕により自動公衆送信する場合には,ルビを振ったり, わかりやすい表現に要約するといった翻案が可能( 第4 3 条第3 号)であるが,文字 情報を的確に読むことが困難な知的障害者や学習障害者についても,同様の要請 がある。特に,教育・就労の場面や緊急災害情報等といった場面での情報提供に配 慮する必要性が高いため,知的障害者や発達障害者等にもわかるように翻案( 要 約等)することを認めてもらいたいとの要望もある。

イ 検討結果

 上記2 件の要望については,障害者による著作物の利用の促進という観点から 一定の意義があると考える意見が多かった。
 ただし,例えば,権利制限の範囲の限定,その必要性の明確化( 契約による権利 処理の限界),障害者にとっての当該利用の意義などについて,更に趣旨を明らか にすべきという意見があった。
 したがって,本件については,聴力障害者情報文化センターと関係放送局,映画 会社,権利者団体との間の契約システムの現状と上記意見を踏まえた上で,提案者による趣旨の明確化を待って,改めて検討することが適当である。

( 5)私的使用のための著作物の複製は,当該使用する者が複製できることとされて いるが,視覚障害者等の者は自ら複製することが不可能であるから,一定の条件を 満たす第三者が録音等による形式で複製することについて

ア 問題の所在

 視覚障害者,聴覚障害者又は上肢機能障害者等( 以下「視覚障害者等」という。) は,自らが所有する著作物を自らが享受するためであっても,当該障害があるため に,自ら,録音又は当該著作物の複製に伴う手話・字幕の付加を行うことが困難な ことがある。そこで,一定の条件を満たす第三者によりそれらの行為が事実上なさ れたとしても,視覚障害者等自身による私的使用のための複製として許容されるこ とが適当であるとの要望がある。

イ 検討結果

 自ら複製することができない障害者が他人の助けを借りることは当然であり,一 般利用者との格差を解消する必要があるとして,権利制限に積極的な意見が多数 であった。なお,非営利目的かつ無報酬で行われる場合に限定すべきとの意見も あった。
 一方で,本件の複製は,実態上はおおむね家庭外で行われる複製であり,「私的 使用のための複製」( 第3 0 条第1 項)の問題とすることは不適当ではないか,一定の 条件を満たす第三者の範囲をどう特定するのかなど,十分な検討が必要との意見 があった。
 ただし,これらの点について検討するためには実態を踏まえる必要があるが,実 際にどのような場合にどのような第三者により複製が行われているか等,実態は必 ずしも明らかではない。
 本件については,実態を十分踏まえた上で,「私的使用のための複製」の解釈に よる対応を考えるのか,あるいは,一定の障害者向けのサービスについて特別な権 利制限を考えるのか,基本的な方向性に関しての議論を深め,具体的な問題点の 整理を行った上で検討することが適当である。