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平成18 年度 DAISY を中心とした情報支援普及啓発事業
障害者への情報支援普及・啓発シンポジウム
-DAISY を中心として-

【基調講演レジメ】「D A I S Y は何を解決すべきか― 歴史と展望―」

河村宏 ( 国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所 障害福祉研究部長)

  1. DAISYは誰が何のために開発したのか
  2. IFLA/SLBデジタル録音図書シンポジウム(1986年8月)
    トロント会議(1995年4月)
    DAISYコンソーシアム設立(1996年5月)
    国際評価試験(1996-98年)
    シグツナ会議(1997年6月)
    W3C SMIL (1998年8月)
    DAISY 2.0 (1998年9月)

  3. Print Disabilitiesと著作権法
  4. DAISYの技術
  5. 何のための国際標準か
  6. これからのDAISY

資料.I F L A 関係年表( 河村、暫定版)

 8 0 年 米国議会図書館訪問 日本図書館協会国際障害者年記念事業準備
 8 1 年 日本図書館協会国際障害者年記念事業、I F L A ライプチッヒ大会
      ( 河村、石川、市橋、望月、笹田、翠川)
 8 2 年 モントリオール大会( 河村、視読協)
 8 3 年 ミュンヘン大会( 直居)
 8 4 年 アムステルダム・ナイロビ大会( 河村)
 8 5 年 ワシントン・シカゴ大会( 河村、直居、川越、石川、望月)
 8 6 年 東京大会( 直居+ 河村: デジタル録音図書シンポジウム、途上国シンポジウム)
 8 7 年 ロンドン・ブライトン大会( 河村)
 8 8 年 メルボルン・シドニー大会( 河村、栗原)
 8 9 年 パリ大会( 河村、栗原)
 9 0 年 ウプサラ・ストックホルム大会( 河村)
 9 1 年 アジアセミナー( 東大)、モスクワ大会( 河村)
 9 2 年 デラドゥーン・デリー大会( 河村)
 9 3 年 ラテンアメリカセミナー( ハバナ)、バルセローナ大会( 河村)
 9 4 年 ハバナ大会( 河村・池田)
 9 5 年 トロント会議、フォルシェピン会議、イスタンブール大会( 河村・池田・岩井)、上田会議
 9 6 年 北京大会( 河村・池田)
 9 7 年 シグツナ会議、コペンハーゲン大会( 河村・田中・服部・中山・池田)
 9 8 年 アムステルダム大会( 河村)
 9 9 年 ペナン・バンコック大会( 河村・野村)
 0 0 年 エルサレム大会( 野村)
 0 1 年 ボストン大会( 河村・村上)
 0 2 年 グラスゴウ大会( 河村・野村)
 0 3 年 マールブルグ・ベルリン大会( 野村)
 0 4 年 ブエノスアイレス大会
 0 5 年 イエーテボリ( 河村・野村・大田)・オスロー( 野村)
 0 6 年 ソウル( 多数)
 0 7 年 グラハムスタウン・ダーバン大会
 0 8 年 ケベック大会
 0 9 年 ミラノ大会

 1 9 8 6 年 デジタル録音図書国際シンポジウム( I F L A 東京大会)の結論

  • 音楽C D もD A T も、どちらも利用者用録音図書としては使えないが、マスターには 使える。ただし、D → A の高速変換はできなかった。
  • メディアとしてのカセットの寿命は1 0 - 2 0 年と予測して国際標準化を準備するこ とが肝要

 1 9 9 5 年 トロント会議

  • I F L A / S L B を軸にデジタル録音図書の国際標準化を進めることを申し合わせ  ( 河村、インガー、スティーブン、マティアスで申し合わせ)
  • 鍵はラビリンテンとシナノケンシが協力するかどうかに=>フォルシェピンと上田 それぞれで打ち合わせ会議開催

参考資料「デジタル環境下における視覚障害者等図書館サービスの海外動向」  北克一,河村宏,深谷順子,村上泰子 著 2 0 0 3 . 8  5 3 p  より

第3 章 視覚障害者等図書館サービスにおける国際協力活動( 河村)

第1節 国際図書館連盟( IFLA )

3 . 1 . 1 IFLAと視覚障害者等図書館サービス

 国際図書館連盟(International Federation of Library Associations and Institutions:IFLA)は、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)に対する協議資格(consultative status)を有する図書館情報サービスにかかわる専門的な意見を代表する国際非政府組織(NGO)である。本部をオランダのハーグに置き、2003年現在150ヵ国1,700団体が加入している。IFLAのホームページ(1) には、すべての加入団体の情報、年次大会の発表論文の全文、専門活動の中核を成すIFLAコア・プログラムと各セクションの長期活動計画などが掲載されており、これによって活動のほぼ全容が把握できる。

 視覚障害者等図書館サービスに直接かかわる専門活動は、45を数えるIFLAのセクションの内の盲人図書館セクション(Libraries for the Blind Section:LBS)と、従来の図書館サービスではカバーできない特別のニーズを持つ利用者へのサービスを対象とするセクション(Section of Libraries Serving Disadvantaged Persons:LSDP)とに集中している。両セクションは相互補完的に活動分野を設定しているため、視覚障害者等図書館サービスに関心のあるIFLA加入団体の多くは両方のセクションに登録している。日本のIFLA加入団体で両セクションに登録しているのは、日本図書館協会、日本ライトハウス盲人情報文化センター、日本障害者リハビリテーション協会情報センターの3団体である。国立国会図書館と日本盲人社会福祉施設協議会はLBSにのみ登録している。

IFLAのセクションは、八つのDivisionを構成する。LBSとLSDPは、障害者等特別のニーズを持つ人々を含む一般利用者へのサービスを対象とするDivision3に所属する(2)。

3.1.2 盲人図書館セクション(LBS)

(1)LBSの組織

 LBSは、従来SLB(Section of Libraries for the Blind)と呼ばれていたセクションで、1980年代前半にLSDPの前身から分離独立した、現存するIFLAのセクションでは31番目に構成された比較的若いセクションである。ちなみに、LSDPは入院患者へのサービスを中心に発足した長い歴史を有する。

 LBSの常任委員会は20名で構成され、互選で議長と事務局長を選出する。各セクションから選出された議長と事務局長とが集まって調整理事会(coordinating board)を構成し、専門活動の調整を行う。常任委員会は夏のIFLA大会開催期間中に2回、更に1~3月にもう1回召集されるのが通例である。これらの会議出席に関する費用をIFLAは一切負担しないので、ある程度の財政基盤がある加入団体に属していないと、IFLAのセクションの常任委員としての活動は委員の個人負担となる。実際に多くの常任委員が、時には個人負担で参加していると思われる。

(2)LBSの活動

LBSは、視覚障害者とその他の在来の出版物を読むことができない人々へのサービスに関して、大別すると下記の分野で活動を行っている。

サービス目標の設定とその実践

サービスの目標とその達成度の評価方法など、利用者と行政当局が参考にできる「視覚障害者サービスガイドライン」を、スウェーデンとデンマークの常任委員が担当して策定している。

途上国への支援

視覚障害者の80%以上が途上国に住むという認識のもとに、発展途上国における視覚障害者等図書館サービスを支援するためのセミナー及びワークショップを、これまでアフリカ(タンザニア、南アフリカ)、アジア(日本、インド)、ラテンアメリカ(キューバ)で実施した。今後フランス語圏アフリカでのセミナーを予定している。

資料の標準規格化

基本的に、既に存在する規格を集成しその推奨を行う。かつて米国議会図書館がLBSを通じて、米国のカセット録音図書が採用する「4トラックモノラル録音、テープ速度毎秒15/16インチ」という規格を国際標準として推奨することを提案しようとしたが、ヨーロッパ諸国が同意せず、国際的には規格の不一致を招いた。DAISYの開発はこの苦い教訓を生かしたものであるが、結局それも意見不一致のためLBS自身は開発に参加できず、DAISY規格が完成した後に、それが唯一のデジタル録音図書の規格であることを確認したに過ぎない。

著作権問題の解決

WIPOとの協議と出版界との議論を中心に、事前の著作権者の許諾を必要としない著作権処理の実現を中心に取り組んでいる。2004年のIFLAブエノスアイレス大会の際に、LBS、LSDP、WIPO、IPA、WBU等で著作権問題のシンポジウムを開催する予定である。著作権条約を管理するもう一つの国際団体であるUNESCO及び視覚障害以外の利用者団体との提携の課題を残している。

無料郵便と資料流通

万国郵便連合(UPU)及び世界盲人連合(WBU)と提携して、点字・録音図書の国際郵便を無料にする活動を行ってきたが、郵便事業の民営化の進行とともに無料郵便物扱いは困難になりつつある。同様にインターネットによる配信のための接続料金の無料化という要求もあるが、北欧などでは無料よりも機会均等を求める声が大きい。

視覚障害者等図書館サービスのための特別のフォーマットの資料の所在情報の収集

 International Directory of Libraries for the Blindを刊行し、オンライン・データベースを公開している。オンライン・データベースは日本障害者リハビリテーション協会情報センターが管理提供している(3)。

3.1.3 DAISYのインパクト

(1)LBSの組織

 DAISY(Digital Accessible Information System)に関する詳しい記述は別に譲るが、ここでは、LBSとDAISYのかかわり及びその影響について述べる。

 DAISYは当初Digital Audio-based Information Systemと呼ばれたように、デジタル録音図書の規格として開発された。米国議会図書館及びCNIB図書館が北米規格のカセット録音図書の長期存続を前提として、デジタル録音図書の標準化作業そのものに反対するなどのLBS内の深刻な見解の相違のために、米国とカナダを除くLBSの主要なメンバーがDAISYコンソーシアムを作り、短期間の集中的な努力で達成した成果がDAISYである。従って、LBSは今でこそ公式にDAISYを唯一のデジタル録音図書の国際規格として認識し推奨しているが、DAISYそのものの開発と普及には全く貢献することができなかった。

 また、DAISYが世界中で長期に安定して使えるデジタル録音図書規格としてインターネットの標準技術を基礎にして開発され、その活用範囲は、点字と大活字による出版はもとより、広く一般に使われるマルチメディアへも広がった。その結果、従来のように、一般向けの出版の後に視覚障害者等図書館サービスのために録音図書と点字図書あるいは大活字図書を製作するという製作パターンが全く一新される可能性が出てきたのである。具体的に述べると、最新のDAISY規格(DAISY3)を活用する点字図書及び録音図書製作は、出版社が提供する印刷用のファイル又は原本をスキャンしたテキストファイルを、DAISY仕様のXMLファイルに変換する作業から始まる。このDAISYファイルが、点字出版、録音図書製作、そして電子ファイル形式、あるいは印刷された大活字図書に加工されるのである。このように、一つのマスターファイルから如何様にも出力できるとすれば、最初の出版の段階からDAISYにしないのが不思議に思える。

 教科書のように、アクセシブルでないと採択されないという強制力を発揮できる可能性があるものは、真っ先に出版社自らがDAISYファイルを作成して、印刷版と同時に点字・録音・大活字のそれぞれの版を用意することになるだろう。現にアメリカでは、教科書・教材のファイルフォーマットの標準化の作業が連邦政府によって始められており、DAISYを唯一の候補として検討を進めている。この動きは、教科書のアクセシビリティの向上の要求によって加速され、やがて一般の出版にも波及せざるを得ない。

 このような状況の下で、資料製作とその資料の提供にかかわる専門技術の集積を特徴としてきたLBSの活動は、今大きな転換を迫られている。出版後にそれをどのように点字や録音にするかは重要であるが、出版物そのものをアクセシブルにすることの方がより大きな利益を利用者にもたらすからである。また、資料の電子化は、Webによるストリーミングを含めたオンライン及びダウンローディングの情報サービスも可能にする。これらの状況を視野に収めて、出版そのものの変革と一人一人の利用者への情報提供を最適化するための図書館としての国際戦略の構築がLBSの今後の課題である。

3.1.4 著作権問題

 DAISYの最新の規格(DAISY3)は米国では国の推奨する標準規格として採択された。DAISYは特許料の必要ない開かれた国際標準規格であるので、出版社がこの規格を採用すれば、出版と同時に音声・大活字あるいは点字でも読めるマルチメディアの電子出版物の流通が可能になる。墨字で出版された資料を特別のフォーマットに変換するのではなく、障害者もともに同時に読める出版を可能にし、奨励することが現実の課題になったのである。

 この技術革新は、今まで出版物を読むことに困難を持っていた人々に新しい読書の機会を提供する。認知・知的障害、本を持てない上肢障害、高齢による様々な困難など、日本の現行著作権法では全く配慮されていない障害のために読書が困難な人々の情報アクセス権と著作権との調和が求められる。出版社が自らこのような各種の選択が可能な出版をするのが理想であるが、そうしない場合には、この技術を用いて障害者のニーズに応じたフォーマットで情報を提供するサービスが必要となり、著作権問題が発生する。

 これに伴い、CDなどのパッケージ・メディアあるいはネットワークで配信される著作物を違法コピーから守るための技術のあり方が大きな問題となる。デジタル・ライツ・マネジメント(Digital Rights Management:DRM)と一般に呼ばれる電子図書の権利管理システムに内蔵されるデータの暗号化技術は、一歩間違えれば、せっかく開発された国際交換を保障するための開かれた国際標準規格としてのDAISYの存在理由を根底から覆しかねない。このような暗号化技術は、一般に画面を読み上げるソフトウエアによるデータの解析を拒絶するため、EUあるいは国際連合アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)は、著作権保護のための暗号化技術が「画面読み上げソフト等の障害者支援技術を排除しないこと」(4) を求めている。

 LBSは、WBUと提携して著作権問題についてWIPOと協議を進めており、2004年のIFLA大会でLSDPとともに著作権問題のセッションを開催し、WIPOとの公開討論を行う予定である。国際著作権条約のもう一つの管理団体であるUNESCOとのこの問題での協議と、より多くの障害分野からの協議への参加とが今後の課題である。

[注] (1)IFLANET. (online), available from <http://www.ifla.org/>, (accessed 2003-03-31). (2)IFLA Directory 2002-2003(2002). (3)IFLA. 'International Directory of Libraries for the Blind (4th Edition)'. (online), available from <http://ifla.jsrpd.jp/>, (accessed 2003-03-31). (4)Biwako Millennium Framework (BMF) : Towards an Inclusive, Brarrier-free and Rights-based Society for Persons with Disabilities in Asia and the Pacic. (online), available from <http://www.unescap.org/sps/bmf.htm>, (accessed 2003-03-31).

第2節 DAISYコンソーシアム

3.2.1 DAISYコンソーシアムの組織

 DAISYコンソーシアム(Digital Accessible Information System Consortium)は、チューリッヒ市(スイス)に事務局を置く、DAISY規格の開発と普及を目的とする国際非営利法人(NGO)である(1)。

 コンソーシアムの設立目的は、視覚障害者や本を持って読めない上肢障害者、認知障害あるいは知的障害で読みに困難がある人々などの「普通の印刷物を読めない障害者」の要求を満たし、なおかつすべての人にとっても便利な、持続性のある、開かれたデジタル録音図書の国際標準規格の開発である。

 投票権を持つ12の正会員と投票権を持たない準会員とで構成する総会を最高議決機関とし、その下に理事会を各正会員が1名ずつ指名する12名の理事で構成する。コンソーシアムは直接スタッフを雇用せず、事務局長以下のスタッフはいずれかの会員の雇用者から選抜され、世界各地で働いている。

 日本から加入している正会員(Full Member)は財団法人日本障害者リハビリテーション協会情報センターである。ほかに、社会福祉法人日本ライトハウス盲人情報文化センター及び特定非営利活動法人デジタル編集協議会「ひなぎく」の2団体が準会員(Associate Member)になっている。

 営利企業には会員資格が認められないがFriendと呼ばれる後援団体としてDAISYの開発と普及に貢献する道があり、日本企業では、プレクスターとオタリ株式会社の2社がFriendとして登録している。

 DAISYコンソーシアムは国連の専門機関である国際電気通信連合(International Telecommunication Union:ITU)のほか、World Wide Web Consortium(W3C)、Open eBook Forum(OEBF)(2) に加入し、2003年12月にジュネーブで開催される国連世界情報社会サミットのNGOセクターで構成する市民社会ビューロー(Civil Society Bureau)の障害者問題に関する意見集約の窓口機能(Focal Point)を務めている。

3.2.2 DAISYの沿革

 DAISYコンソーシアムは1995年4月に日本とスウェーデンの関係者の間で設立準備が始まり、1996年に6ヵ国(日本、スウェーデン、イギリス、スイス、オランダ、スペイン)の正会員で発足した。

 これらの正会員がDAISYを開発した主な動機は、(1)専門書の利用にも耐える録音図書の検索機能充実(ページ及び目次の機能のある録音図書の実現)、(2)既に劣化が進行している録音図書の保存、(3)カセットテープ以後の録音図書の国際的な互換性の確保(デジタル録音図書規格の標準化)、の3点だった。

 1996-1997年に、日本が中心になり、新生コンソーシアムが協力して世界32ヵ国の視覚障害者にプロトタイプの再生機とCD-ROMに収めた録音図書を提供して国際評価試験を実施した。その結果、視覚障害者ユーザーが必要とする機能についての国際的なコンセンサスが形成された。評価試験の実施過程で、デンマーク、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランドが順次正会員に加わり、1997年8月には、米国の専門書の録音図書を提供する主要な団体であるRFBD(Recording for the Blind and Dyslexic)が正会員に加わった。その時点で、次世代デジタル録音図書を早急に開発することを期待する主要な団体はすべてDAISYコンソーシアムに加入し、国際評価試験で確認された機能仕様を既に存在する開かれた標準規格のみで実現する、デジタル録音図書の国際標準規格の開発に着手した。

 1998年9月に、従来のDAISYの機能は維持しながら、HTML4.0と当時W3Cの勧告として成立したばかりのSMIL1.0をベースにして、「開かれた国際標準」の要件を満たした「DAISY仕様2.0」の開発が完了した。

 日本を始めとする各国は、この2.0仕様、あるいは脚注などに対応したその改良版である2.02仕様のDAISY録音図書を用いて、従来のカセット録音図書を更新している。

 SMIL(Synchronized Multimedia Integration Language)は、テキストと音声を同期させるために不可欠の技術として、DAISYコンソーシアムが積極的に開発に参加し、成立に尽力したW3Cの勧告である。勧告当初は、それに対抗する独自の字幕仕様を開発したメーカーの強い反対があったが、W3Cは障害者のニーズにこたえるためにはこの勧告の早期承認が必要という会長の判断により、勧告に踏み切った。その後、DAISYコンソーシアムと反対したメーカーとの直接対話等を経て、SMILの改良版である動画に幅広く対応するSMIL2.0が2001年に完成した。当初のW3Cの判断が正しかったことは、その後、DAISYを始めとするSMILアプリケーションが続々と開発され、勧告に最大級の反対の意思表示をしたメーカーを含む数社が、SMIL2.0に準拠したインターネット・ブラウザあるいは字幕対応の動画ストリーミング配信システムを商品化していることで証明された。

 米国議会図書館は、録音図書の国際標準の開発に組織としては参加せず、近々のデジタル化はしないという従来からの立場を守りつつ、将来のカセットの市場の終焉に備えるために、担当者レベルでDAISYコンソーシアムと提携して必要な調査研究を進めた(3)。一方、DAISYコンソーシアムは、DAISY仕様をHTMLの後継技術であるXMLとSMIL2.0に基づいたものに発展させて、Webとの完全な互換性を保ちつつ、ブラウザに依存しない正確なレイアウト表示及び大活字と点字のニーズも同時に満たす技術開発を展望していた。両者は共同開発に合意し、2002年にDAISY3に当たる仕様を完成させた。この共同で開発したDAISY3仕様は、ANSI/NISO Z39.86-2002として米国の標準規格の一つに認定され、DAISYの将来を更に揺るぎないものにした。また、DAISY3の開発により、DAISY3仕様を満たす出版用版下データあるいは電子図書を製作して、出版と同時に、点字、大活字、デジタル録音、パッケージ化されたマルチメディア図書、Webコンテンツとしての公開、ストリーミング配信等、一つのファイルをもとに多様な形態の情報アクセス・チャンネルを選んで提供する道が開かれた(4)。

3.2.3 DAISYの機能

 DAISYは、マルチメディア・コンテンツを構成するファイルの仕様である。2.0仕様のDAISY図書は、HTMLとSMIL及び音声ファイルで構成される。DAISY録音図書の特徴である目次やページによる検索は、DAISY製作ソフトで自動生成されるNCC(Navigation Control Center)と名付けられたDAISY固有のncc.htmlファイルによって実現されている。

 2.02仕様は、HTMLの代わりにXHTMLを用いるが、SMILは1.0を用いる。2.02仕様の録音図書の最大の特徴は、本文を聴いているときに「注」がある部分にさしかかると、そこに「注」があることが分かり、その際に注を読むか読まないかを読者がその都度自由に決め、注を読む場合は、注を読み終わると本文に自動的に戻って読み続けられることである。この機能は、録音図書の利用に革新をもたらすと期待されている。また、ある種の試験問題のように、長い文中に下線が引かれ、後に続くそれぞれの下線ごとの問題文に回答するという場合にも、これは極めて有効である。これは、読みに障害がある人々の現実のニーズに導かれたDAISYの不断の開発が、誰にとっても便利な機能をもう一つ録音図書に追加した好例である。

 DAISY3のNCX(Navigation Control file for XML)は、その名のとおりncx.xmlというXMLファイルで、ncc.htmlに代わるものである。NCXの特徴の一つは、現在Webで当たり前のように使われているリンクを用いて、他のNCXを参照できることになるだろう。これは、DVDなどの大きな容量のメディアに数十冊の文献を収めて相互にリンクしながら読めるようにしたり、あるいは、インターネットのサーバーにDAISY3仕様の辞書や百科事典を置いて、詳しい解説や最新のデータはそれにリンクを張って参照できるようにすることも可能になる。

 また、出版社が DAISY3仕様で電子出版したファイルを、フィルターと称するソフトウエアを介して、直接に点字や大活字あるいはカラー・コントラストや行の間隔を変えて読むことも可能である。そうすることによって、「複製」を伴うことなく情報アクセスの問題を解決できる。

 このようなDAISY3に着目して、音声合成装置、大活字、あるいは点字ディスプレイで読むDAISY3仕様の電子テキストのネットワーク配信を行っているのが、DAISYコンソーシアムの準会員である米国の非営利法人ベネテク(The Benetech Initiative)が運営するブックシェア(Bookshare.org)である。デンマーク、スウェーデン、スイスにおいても、教科書あるいは辞書を対象とするDAISY3の応用が始まっている。デンマークの巨大な対訳医学用語辞典の例を挙げると、デンマーク国立盲人図書館は、出版社から文書ファイルを受け取り、それをDAISY3仕様のXMLファイルに加工し、更にテキストのブロックごとに英語とデンマーク語を識別するためのタグをつける作業をしている。そのための専用XMLエディターを開発し、そのエディターの販売もしている。そして通称TTS(Text-To-Speech)エンジンと呼ばれる音声合成ソフトウエアを用いて、英語とデンマーク語をそれぞれの言語用のTTSに発音させて合成音声でDAISY録音図書を製作している。この数ギガバイトもの大きさになる大部の辞典は、完成すると、録音図書であると同時に、大活字あるいは点字も同時に表示して読めるものになる。また、近い将来ストリーミングのためのDAISY仕様が拡充されれば、オンラインで引ける音声、点字、大活字をサポートする辞典として使われる。

 2003年1月にW3CにTimed Text作業部会が設置され、動画のストリーミング配信にそれぞれ独自の仕様の字幕を用いているマイクロソフト社、アップルコンピューター社、リアルネットワークス社とDAISYコンソーシアム、ボストン市を根拠地にする放送局のWGBH、及び日本障害者リハビリテーション協会が参加して、字幕等に広く使われる「時間情報付テキスト」の標準化を進めている。2003年秋完了を目途に進むこの作業の完成により、DAISYに字幕付き動画を取り込むための更なる仕様改定の条件整備が進む(5)。

 XMLとSMIL2.0をベースとする DAISY3と、同じくSMIL2.0をベースにするインターネット用動画を統合すると、テキストを手話通訳画面とテキスト画面を、カラオケの歌詞のようにテキストのハイライト表示で同期を取ることが可能になり、手話も含めた全く新しい概念のアクセシブルな情報コンテンツができ上がる。このコンテンツは、DVDなどのパッケージメディアによる出版と、ストリーミング配信によるインターネットを通じた流通の両方が可能になる。このストリーミング配信される動画を含むコンテンツは、利用者にとってはOn Demandの放送あるいはビデオに極めて近いものになる(6)。

3.2.4 DAISYの視覚障害者等図書館サービスへの影響

 DAISYあるいはその類縁のSMILとXMLを用いる視覚障害者等にもアクセシブルなコンテンツが、今後どのように発展し図書館にどのような影響を与えるかを事前に評価することが、今後の視覚障害者等図書館サービスの立案に不可欠であると思われる。その評価のために、なぜDAISYが急速に世界中で普及しつつあるのかを分析し、その普及の要件が持続し得るのか、あるいは、普及を阻む条件が生まれつつあるのかを見ておく必要がある。

DAISYの急速な普及の主たる要因は下記の5点に集約できる。

  1. 国際評価試験で形成された視覚障害者の意見を反映した安定した機能仕様
  2. 対抗する標準規格の提案による規格の分立を回避する標準化戦略
  3. 発展途上国でのDAISYの活用も視野に入れたグローバルな普及戦略
  4. すべての人に便利なデザイン(ユニバーサル・デザイン)と個別の障害者のニーズへの対応(支援技術)を統合するデザイン戦略
  5. 開発と普及を熱意を持って推進する個人及び団体からなる中核グループの形成(DAISYコンソーシアムの設立)

これらの要因をそれぞれ分析することによって、今後の行方と影響をある程度予測できるだろう。

(1)利用者がDAISYに要求する機能

 1996-1997年に実施された国際評価は、視覚障害者のユーザーによるものである。著作権法等(7) の制度面で日本のように視覚障害者に限定して規定している国々と、「読みに障害がある人々」という規定の仕方の国々とがある。前者は多く見積もっても全人口の1%、後者は定義の仕方によっては総人口の10%以上になることもある。しかも、国際評価試験は音だけを再生する専用プレーヤーを用いて実施されたので、パソコン用再生ソフトを使うことに抵抗の少ない「読みに障害がある人々」の、行間隔やテキストのフォントとサイズ、あるいはカラー・コントラストなどの視覚的な表現に関する多彩な要求について、十分吟味されたとは言えない。従って、DAISYの機能が、視覚障害者の要求を完全に満たしつつ、より幅の広い「読みに障害がある人々」(8) の要求をも満たすものにできるのかどうかが、これからのDAISYがより広範な支持を得ていくかどうかを判断する指標となるだろう。

(2)標準化戦略

 これまでのところは、DAISYは国際的に提案された唯一のデジタル録音図書規格である。とかく群雄割拠で分立することが珍しくないデジタル技術の世界で、対抗する提案が出ていないことは奇跡に近いが、その背景には関係者の並々ならない統一のための努力がある。

 また、WWWの標準化団体であるW3Cと緊密に提携し、いわば「既に存在するW3Cの標準規格のみを用いてDAISYの仕様を組み立てる」ことによって誰に対しても同じように開かれた規格を作るというユニークな開発手法が成功を収めた。既に存在する標準のみに依拠するという原則は、公開性と互換性を確保するとともに、規格の最初の開発コストのみでなく、それを維持するためのメンテナンス・コストも考慮に入れて採択された重要な基本方針である。テキストと音声をシンクロナイズする技術の国際標準がなかったときに、独自の技術を開発するのでなく、W3CのSMILワーキング・グループに積極的に参加して必要な技術の開発を促進し、DAISYに不可欠の技術をW3C勧告として実現したのはその標準化戦略を示す好例である。

 同様に、DAISYに動画を統合するために、現在3社が分立してそれぞれのフォーマットでストリーミングさせる動画に付ける字幕(キャプション)を実現している状況を改善するために、まず時間情報付のテキスト(Timed Text)のフォーマットをW3C勧告として各社の合意を形成して統一し、その統一したTimed Textを用いたキャプションを付けて動画をDAISYに取り込むという戦略を採っている。W3CのTimed Text Working Groupにはストリーミングの大手3社のすべてが参加し、DAISYコンソーシアムからは3名の技術者が参加して、2003年中の勧告化を目指して作業が進められている。

 しかし、この優れた戦略にも限界がある。例えば、W3Cが従来からのWWWの伝統である基本技術の無償利用という原則を変更する場合に、この前提は大きく揺らぐ。現在誰もが疑問なく、無償でHTMLを活用してWWWを公開し閲覧している。HTMLの後を次ぐXMLが将来あるバージョンから特許化され、XMLを使うブラウザやWWWのオーサリングソフトにW3Cあるいはその開発者が課金するような事態がそれである。WWWが歓迎され、爆発的に普及した原因の一つである、無償の開かれた国際標準という基本原則が産業界の参入と圧力の中で守り切れなくなったとき、DAISYの発展にも翳りが出る。従って、DAISYコンソーシアムは、WWWの開かれた国際標準による発展とアクセシビリティの実現を支持する最も活動的なW3Cメンバーである。 。

(3)普及戦略

 DAISYの開発は、当初から発展途上国での普及を念頭において進められた。これは、1991年から1994年にかけて、IFLAのSection of Libraries for the Blind(現在はLBSと改称)が、東京、デラドゥン(インド)、ハバナ(キューバ)で相次いで開催した途上国における視覚障害者等図書館サービス支援セミナー(9)で、従来の新技術の開発がいわゆる先進国だけで進められたことに対する途上国の厳しい批判を受け止めたものである。特に、従来、「ないよりマシ」とされてきた旧式システムの途上国への安易な寄贈について、DAISYコンソーシアムは総合的に見て途上国の支援になるかどうかは疑問という立場を採り、DAISYを積極的に途上国でも普及する戦略を立てた。

 当然「先進国でも普及していないものを途上国で普及させるというのは現実的でない」という批判がある。それに対して、複数の国から導入されたフォーマットの異なるカセット録音図書に悩む途上国の状況を改善し、世界中の80%以上の視覚障害者が住む開発途上の地域で視覚障害者等図書館サービスを普及させるのは至難の業であるが、いくつかあるオプションの中で最も現実的な方法はDAISYの普及であるという立場で、DAISYコンソーシアムは途上国への普及プロジェクトを推進している(10)。

 途上国支援に積極的な日本及びスウェーデンと、会費は一切途上国支援に使うべきでないという原則を主張するいくつかの正会員とで取組の熱意は異なるが、主として日本とスウェーデンが独自に貢献する形で途上国に対する支援が進み、タイ、インド、コロンビアの各準会員組織が、DAISYコンソーシアム等の支援を得てDAISY製作を開始している。

 DAISYコンソーシアムは、途上国の関心ある団体に対して、国内の態勢を整え、年間2,500ドルの会費を納める準会員になってまず公式の関係を確立し、次いで途上国の準会員に認められる支払済みの当該年度会費額を限度とするDAISY普及プロジェクト助成を得て活動を進めることを奨励している。この結果、途上国の準会員数は急速に増加している。

(4)デザイン戦略

 建物や都市の車椅子でのアクセスを確保するためには、設計(デザイン)の段階でそれを織り込むことが、機能的にも経済的にも最も効果的に実現する方法である。出版や放送、あるいはインターネットの情報のアクセスにおいても、当然、設計の段階で現在アクセスに障害がある人々のニーズを織り込んで次のシステムを設計することが、問題を最も効果的に解決する。

 DAISYのデザイン戦略の目標は、最初の出版の段階でそれぞれのコンテンツをすべての人にアクセシブルにすることである。既に、一定の条件を満たすDAISY図書は、録音図書であると同時に、点字図書や大活字図書、あるいは動画を含むマルチメディア図書として利用されることを述べた。DAISYのコンテンツは、音声ファイル、マークアップされたテキストファイル(HTML、XHTMLあるいはXML)(11)、画像ファイル、そしてそれらのファイルの再生(表示)を1,000分の1秒単位で統制するSMILファイルで構成される。表示されるテキストのフォント、大きさ、行間、色、レイアウトなどを調節するためにはCSSが使われる。

 コンテンツ製作の基盤技術の側から見ると、近い将来、Webはもちろんのこと、出版は原稿書きから印刷用版下製作までXMLをベースにしたソフトウエアで行われ、放送のコンテンツもXMLで作られる時代を迎える。XMLのアクセシビリティを充実させ標準化することによってすべての人の情報アクセスを確保するという戦略は、極めて合理的かつ時宜を得たものと言える。ただし、この戦略が時宜を得たものである期間は極めて短く、取組が遅れてアクセシブルでない仕様が氾濫してしまえば、発生源対策に失敗し有害物質が拡散してから対応するときと同様の戦略の見直しが必要になる。

 DAISYコンテンツを生かすユーザーインターフェースは、W3CのUser Agent Accessibility Guidelines[UAAG]1.0 (12) 及びウイスコンシン大学トレイスセンターが提唱するEZ Access (13) の両方を満たすことを目標にオープンソースで開発されているAMIS(Adaptive Multimedia Information System) (14) 等の様々な再生システムが開発されており、多言語の対応を含むアクセシブルなDAISY再生システムの開発は順調に進んでいる。

(5)DAISYの開発と維持

 DAISY規格の開発と維持は、非営利団体が結成する国際コンソーシアムに依存している。正会員の年会費は25,000ドルであり、開発成果を生かすためには、会費負担のほかにシステムの変更を実施するための膨大な予算が必要である。数億円以上の投資を必要とするカセットからデジタル録音図書への転換を果たすための投資としては正当化できる年会費であっても、いったん転換した後の規格の維持というだけの理由でこれを支払い続けるのは簡単ではない。現在のDAISYコンソーシアムの活動目標は、デジタル録音図書サービスの提供の実現に留まらず、情報アクセスにハンディキャップがある図書館利用者への非障害者と対等な情報サービスの提供に発展している。これに伴って、当初Digital Audio-based Information SystemであったDAISYは、この発展に伴ってDigital Accessible Information Systemのアクロニムに改定された。スウェーデンを代表する正会員は、この目的の進化に並行して、国立録音点字図書館を中心に情報サービス提供団体と障害当事者団体等で構成するスウェーデンDAISYコンソーシアムとして再編成され、より幅広くDAISYを開発・応用していく組織となった。

 日本においても、正会員である日本障害者リハビリテーション協会は、LD障害及び知的障害関係団体と提携してDAISYの認知・知的障害者への応用の研究開発を進め、国の助成を受けて認知・知的障害者と重度肢体不自由者もDAISY図書を扱えるAMISを開発した。

 DAISYコンソーシアムは、DAISYの用途と機能が極めて広範なものになるという認識のもとに、必要なソフトウエアをオープンソースで開発する戦略を進めている。特に、書記文字を持たない言語とTTSエンジンが存在しない言語のコンテンツにDAISYを生かした新しい展開を、途上国のプログラマーの参加を得て実現しようとするオープンソース戦略は注目される(15)。

3.2.5 結び

 DAISYコンソーシアムのユニークさは、グーテンベルグ以来の情報革命という時代背景抜きには考えられない。この革命の技術的な基盤はインターネット、パソコン、マルチメディアにある。しかし、この「革命」がすべての人に対等の情報アクセスを保障するかどうかは、よほどの積極的かつグローバルな利用者主体の取組がない限り、悲観的であると言わざるを得ない。

 視覚障害者等図書館情報サービス団体がDAISYコンソーシアムを結成し、利用者と提携してデジタル録音図書の規格をインターネットとマルチメディアの最先端のアクセス技術を基礎に開発した結果、インターネット、出版、放送のすべてに通底するアクセシブルな情報システムの形が見えてきた。DAISYコンソーシアムは、残されたわずかな可能性を生かしてそれを実現するための活動を行っている団体である。従って、デジタル録音図書の一応の導入が完了した段階で、図書館情報サービス機関のDAISYコンソーシアムへのかかわり方は、機関ごとに大きく分化すると思われる。科学技術の進化に対応するDAISY規格の不断の進化を展望するか、一応のデジタル化の実現をゴールと見て極力現状維持を図るかの分化である。

 これは、角度を変えてみると、インターネットのデジタル・コンテンツとパッケージ化された電子出版物やデジタル放送など、XMLをベースにしたデジタル・コンテンツへの障害者のアクセスに図書館情報サービス団体がどうかかわるかという問題である。

 スウェーデン及びデンマークの国立図書館は積極的にコミットする道を既に選択した。デジタル録音図書の導入が既に一応の段階まで進んだ日本で、21世紀の情報社会における視覚障害者等の情報アクセスをどのようにデザインするか、それに国立国会図書館がどのように関与するかは、日本の障害者の情報アクセスの将来を大きく左右するものと思われる。

 もし図書館が21世紀以後も人類の知識と文化にかかわる情報を体系的に収集し整理し提供し続けるとすれば、爆発的に増大し続ける情報に十分に対応できる仕組みがそこに存在していなければならない。主要な記録された情報の発受信活動が、伝統的な出版(オーディオ、ビデオを含む)と放送からインターネットを含めた新しい複合的なチャンネルの形成に移ろうとするとき、図書館がその蓄積と伝統を生かした積極的な立場を採り得るかどうかが問われている。すべての人に開かれた膨大な資料を保有する無料の情報提供機関という万国共通の図書館の概念そのものが、世界の図書館の比類ない資産である。この資産に視聴覚障害者等への対等な情報サービスの実現という新しい価値を付け加える大きな夢を、スウェーデンとデンマークの国立図書館が提唱している。ちなみに、DAISYコンソーシアムの初代会長はスウェーデン国立録音点字図書館長、次期会長はデンマーク国立盲人図書館長である。

[注]

(1)DAISY Consortium Articles of Association. Zurich, 18th of November 1998 including Amendments Kyoto Meeting (November 2000), Amendments Stockholm Meeting (May 2001). (online) , available from <http://www.daisy.org/about_us/articles/articles_of_association.html>, (accessed 2003-03-31).

(2)DAISYコンソーシアムは、OEBFがデータ暗号化を含むコピー防止に傾倒しアクセシビリティを閑却していると不満を表明している。

(3)米国議会図書館NLSの研究開発専門官マイケル・ムーディ(Michael Moodie)は、将来の規格の分散を防止するためにDAISYコンソーシアムに正式に協力を要請し、米国議会図書館のデジタル録音図書規格開発作業部会には数多くのDAISY2.0規格の開発に携わった技術者が参加した。

(4)スウェーデン、デンマーク、イギリス、スイス等のヨーロッパの点字図書館等では、従来の点字部門と録音部門という組織体制を根本から見直して、まずDAISY3仕様のXMLのマスターファイルを作り、そのマスターファイルを点字、録音、大活字のそれぞれの製作に使用することが急ピッチで進められている。

(5)W3C. 'The Interaction Domain'. (online) , available from <http://www.w3.org/AudioVideo/TT/>, (accessed 2003-03-31).

(6)ソニーは、SMIL2.0を更に拡張して動画製作のツールとすることを提案している。

(7)著作権法第37条は視覚と聴覚の障害に関する規定であるが、これは平成12年の法改正以前は視覚障害にのみ言及していた。認知・知的障害、一時的な病気、上肢障害、精神障害等、普通の印刷物を読むことが困難な障害者は数多い。

(8)日本障害者リハビリテーション協会情報センターは「読みに障害がある人々」への情報提供に焦点を当てた調査研究を実施し、日本語で読める各種ガイドラインや講演記録をWebで公開している。 日本障害者リハビリテーション協会.障害保健福祉研究情報システム(DINF).(online), available from <http://www.dinf.ne.jp/>, (accessed 2003-03-31).

(9)Hiroshi Kawamura. Seminars on Library Services to the Blind and other Print-handicapped People in Developing Countries: What Has been Done by the Section of Libraries for the Blind. 1994.(Paper presented at 60th IFLA General Conference, Havana, August21-27, 1994)

(10)DAISYコンソーシアムの途上国への普及計画はDAISY for All Projectと呼ばれ、2003-2008年の間に36の途上国にDAISY普及拠点を展開する予定である。このプロジェクトは日本財団が助成している。

(11)仕様のバージョンごとに、HTML(2.0及び2.01)、XHTML(2.02)、XML(3)が用いられる。

(12)W3C.'User Agent Accessibility Guidelines 1.0'. (online) , available from <http://www.w3.org/TR/UAAG10/>, (accessed 2003-03-31).

(13)EZTM Access. (online) , available from <http://trace.wisc.edu/world/kiosks/ez/>, (accessed 2003-03-31).(テキスト版補足:EZTMのTMはトレードマークの意味で表記は上付き。)

(14)AMIS : Adaptive Multimedia Information System. (online) , available from <http://www.amisproject.org/home/index.html>, (accessed 2003-03-31).

(15)Open Source Development Network. 'Project: Daisy Software Initiative: Summary'. (online), available from <http://sourceforge.net/projects/dsidtb/>, (accessed 2003-03-31).