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ICIDH-2ベータ1案フィールドテスト報告(日本)
1998年10月10日


日本ICIDHフィールドテスト企画委員会
委員長 : 上田敏

事務局長 : 佐藤久夫

はじめに 
日本フィールドテストセンターは、ICIDH-2ベータ1案について1997年7月から1998年1月にかけて、翻訳、言語分析、項目評価、基本的質問およびオプションテストを行った。参加者数は30人でその名前は付属資料に掲載されている。参加者の皆様のICIDH改正への自発的かつ熱心な参加に感謝いたします。
  フィールドテストの過程で、数回にわたって200人以上に情報を提供した。200部以上の翻訳版が配布された。日本フィールドテスト企画委員会の会合は6回開かれ、その他ICIDHを議論する多数の会合がもたれた。
  オプションテストの解答率は著しく低く、残念ながら本報告に含めることが出来なかった。
  委員会はICIDH改正への国際的な活動に参加する機会をもてたことを嬉しく思う。とくにWHOとICIDH改正にかかわる世界の関係者に対して、1998年3月の東京改正会議をホストする機会を与えてくださったことに感謝いたします。この会議はアジア諸国の多くの皆様と多くの日本人にとって、ICIDHにかんする活動を開始するまたとない機会となった。さらに、暖かい支援をいただいた厚生省、安田火災記念財団および日本障害者リハビリテーション協会に感謝いたします。
  日本センターが行ったフィールドテストに加えて、43人の日本人がシメンソン氏、有馬氏、沼田氏、於保氏の調整により児童に関する国際タスクフォースの質問紙に解答し、30人がケネデイ氏、伊勢田氏、田崎氏、岩崎氏、於保氏および佐藤の調整による日米比較研究のための項目評価に解答した。


Ⅰ 翻訳と言語的分析

 9人により日本語への仮訳が作成された。しかしながら、フィールドテストの開始に間に合わせるために十分な時間がとれず、「機能面の機能障害の第1章」と「活動の第4、5、6章」については項目だけしか訳せず、項目の概念の詳しい説明を訳すことが出来なかった。ベータ1案のその他のすべては翻訳された。
  日本語版は200部以上が配布された。さらに日本障害者リハビリテーション協会(http://www.dinf.ne.jp)および日本発達障害福祉連盟(http://plaza6.mbn.or.jp/~jlmr)のホームページにものっている。
  次の9項目に言語的な問題がみとめられる。しかし予算の都合で逆翻訳(back translation)は行っていない。

 1. Community(p60200):項目の問題
 日本語訳:「地域」または「コミュニティー」
 問題領域:3(訳語は原語より狭い意味となる。「地域社会」など。)

 2. Honorary societies(p60200「コミュニティーへの参加 」の定義に使われていることば):定義の問題
 日本語訳:名誉的協会
 問題領域:2(日本語には相当する慣用語がない。「名誉的協会」は最適の訳だが理解しにくい。)

 3. Second language(p40180「その他の形態の教育への参加」の定義に使われていることば):定義の問題(例)
日本語訳:国語以外の言語(生まれ付きの言語以外の言語)
問題領域:2(日本語には相当する慣用語がない)

 4. Stamping (a70169「賞賛の意を表す」の例示に使われている言葉:例示の問題
 日本語訳:足踏みをすること(****英文にない!)
 問題領域:6(文化適用性の問題。われわれの文化では 足踏みは不満を表す)

 5. Human expressive sounds (a20240, a20600, a20650):
 項目の問題
 日本語訳:非言語音
 問題領域:2(日本語には相当する慣用語がない。しかし定義と例示が概念理解に役立つ)

 6. Working (a80431, a80432, a80440):項目の問題
 日本語訳:行動すること
 問題領域:4(訳語は、「行うこと」、「振る舞うこと」など、原語より広い意味をもつ。原語の概念は、この文脈では「課題の遂行」であり、原語の訳語として「課 題の遂行」を使うことは出来るが、それでは項目の定義を項目を使って行う同義反復となってしまう。

 7. Pusher edges, plate buffers(a90500「家事用具を使用すること」の例示:例示の問題
 日本語訳:フードガード
 問題領域:(訳語は原語より広い意味をもつ)

 8. Bliss Board Symbols (p20300「シンボルや標識による情報の交換への参加」の定義で使用されている):定義の(例示の)問題
 日本語訳:Bliss Board Symbols(訳せず英語を使用)
 問題領域:2(日本語には相当する慣用語がない。少なくともいくつかの英和辞書にはのっていない。正確に訳されたとしても多くの日本人には理解できない。)

 9. Involvement(「参加」の定義の中で使用されている):定義の問題
 日本語訳:関与
 問題領域:5か?(「関与」には「参加」、「関係」、「影響」などの広い意味があり、しばしばparticipationの訳である「参加」と同じ意味で使われている。このため定義の訳が不明確になる。適切な訳のためにはICIDH-2の文脈のもとでparticipationとinvolvementの概念上の差異を明確にする必要がある。)


Ⅱ 基本的質問

 合意をめぐる検討会(consensus conference、以下「検討会」)が1998年1月30日、10:00-17:30、東京新宿の戸山サンライズで開催された。15人が参加したが、その内訳は身体障害分野の専門職7人、精神面の障害の分野の専門職6人、および身体障害をもつ当事者2人であった。上田と佐藤が司会した。

1 ICIDHの対象範囲
 検討会参加者が含めることに合意したのは、1病気、2変調、3外傷、4その他の健康状態(a加齢、b妊娠、c遺伝素質、dストレス,e暴力)であった。「外傷」には身体的なものだけでなく、精神的なものも含まれる。4ーbには妊娠とともに出産も含まれるべきである。「ストレス」と「暴力」については、「ストレスの原因となるもの」のような外的因子は除外し、ストレスや暴力にさらされている状態のみを含めるべきである。
 参加者はまた、「過去および将来の病気」を含めるべきであると合意した。というのは、社会の否定的な態度によって、過去に精神病を経験した人やHIV感染者が差別を受けることがあるからである。

2 consequenceという言葉
 consequenceという言葉は残されるべきである。しかし病気その他の健康状態が必然的、自動的に障害を決定するものではないという事実に注目しなければならない。
 consequenceの意味として、参加者の意見はA「因果関係」、B「関連する」の2つに分かれた。参加者の一人は「双方向の因果関係」と定義した。

3 disablementという言葉
 参加者はこの言葉を残すべきだという点で一致した。ある健康状態にある人の経験する否定的側面を一言で指し示す用語が必要である。

4.ICIDHの適用
 リストされているすべての分野で活用される。

5 ICIDHのモデルおよび概念の関連
大部分の参加者は図1を支持した。幾人かはカナダモデル(ハンデイキャップ発生プロセスモデル)を支持し、幾人かは障害現象における主観的あるいは実存的側面を重視する上田モデル(図参照)を支持した。
  「機能障害」、「活動」、および「参加」から「健康状態」への矢印が必要である。また説明文の中で、「機能障害」と「参加」の間の直接の相互作用が存在し得る点に触れるべきである。
 幾人かは、「参加の制限」が発生するプロセスを明確に描いているのという点が図3の強みであるとした。そしてこれを改良するために「個人因子」を図の中央に入れることを提言した。
 一人の参加者は、これらのモデルは相互に排他的なものではないと指摘した。そしてWHOが図1を唯一の「母モデル」として決定してICIDH-2の本巻にかかげ、同時に第2、3巻などで正式決定ではない多様な「子モデル」を紹介すべきであるとした。これらは「母モデル」を基礎に、多様な目的のもとに障害と機能現象の異なる側面に焦点を当てているもので、世界各地で提案され、テストされつつあるという。

6 障害にかかわる背景因子
 多くの参加者は提案されている環境因子リストは十分包括的であるとした。参加者の一人は「プライバシー」を追加すべきであるとした。
 背景因子には個人因子を含めるべきであるが、現在提案されているものは問題であり、新しいものが必要であると考える。幾人かは「人種」と「信仰」を追加すべきだとした。一人の参加者は「気質」は「機能障害」ではなく「個人因子」に含まれるべきであると述べた。

7 分類の詳しさの程度
 合意した解答は1)はい、2)はい、3)はい、であった。ベータ1案で採用されている方法は多様な利用者のニーズに十分に応えるものである。

8 コード番号のつけかた
 ベータ1案で採用されている方法が支持された。

9 「身体機能」と「活動」の境界
 a) については参加者はこの規定に賛成した。
 b) については参加者は、見ること、聞くこと、認識すること、つかむこと、手を伸ばすこと、引くことなどの単純な行動は身体レベルの機能障害にのみ分類されるべきではないと考えた。

10 「活動」と「参加」の境界
 a) 参加者はこの規定に賛成した。しかし直接的な援助実践の視点からみると、これらの項目はいずれもあまりにも多くの部分から成り立っており、細分化が必要である。
 b) 参加者の大多数は「複雑な活動」は「参加」にのみ区分されるべきであるとしたが、幾人かはこれに反対した。反対の理由は、現在のベータ1案では「活動」に区分すべきか「参加」に区分すべきか、定義が分かりにくい項目がいくつかあることである。

11 全体の組み立てと定義
 
 「異常」の語を支持するものはいなかった。多くの参加者は「著しい偏りまたは変化」を支持した。また幾人かの参加者はさらに機能障害の定義として、「ハンデイキャップを生み出す可能性のある偏りまたは変化」を提案した。

12 分類のタイトル
 参加者は提案されているタイトルへの変更を支持した。しかしその略称については幾人かから次のような提案がなされた。
  1) ICIAPC:International Classification of Impairments, Activities, Participation and Context
  2) ICDF:International Classification of Disablement and Functioning
  3) ICDF(ICIDH-2):International Classification of Impairments, Activities, Participation and Context...A Manual of Dimensions of Disablement and Functioning

13 その他
 幾人かの参加者は、以前には「能力を高めてから参加が可能になる」といわれてきたが、参加を通じて能力が高まるという一般的事実に注目しなければならない、と指摘した。
 幾人かの参加者は、WHOの分類システムの中でのQOLスケールとICIDH-2の関係を明確にする必要があると述べた。
 一人の参加者はICIDH-2は現実的には「評価スケール」としてよりも「モデル」として有効であろうと述べた。
 一人の参加者は、財政難のもとではサービスを削減する目的で「ケアマネージメント」や「ニーズアセスメント」にICIDH-2が使われる可能性があることに十分な注意が必要だと述べた。彼はさらに、サービス受給資格の決定は、「障害」を基礎にではなく、「ニーズ」あるいはさらに「利用者の要求」を基礎になされるべきであると述べた。 

Ⅲ 項目評価

<対象> 項目評価には30人が参加した。その内訳は次の通り。
区分
1.身体障害分野の専門職従事者12
2. 知的・精神障害分野の専門職従事者7
3. 身体障害当事者4
4. 知的・精神障害当事者4
5. 身体障害分野の介護者0
6. 知的・精神障害分野の介護者3
合計30

<質問>
 50の項目(およびその概念の説明文)に関して次の5つの質問が用意されている。

<5つの質問>
質問1: この言葉とその説明はわかりにくいですか?
質問2: この言葉はあなたの文化の中で困難なく使うことができますか? (ここでの「文化」には、年齢層、性別、人種、その他の社会的区分で分けられた各グループの中でこの言葉を使う場合も含めて考えてください。)
質問3: このことばは、文化的にみてセンシティブな言葉ですか? (たとえば、話しにくい、タブーとなっている、人を非常に困らせる、など)
質問4: この項目は分類の中のどこに置くのが一番よいですか?(1つ○で囲む)
質問5: この項目をICIDH-2分類に残すことはどの程度重要ですか?(1つ○で囲む)

<結果と考察>
1.活用可能性に関する質問1、2、3について
 我々は質問1(分かりやすさ)、質問2(文化的適用性)および質問3(文化的要注意性)の3つをあわせて、活用しにくい項目を見いだすこととした。図「質問1+2+3」がその結果である。各項目の数値は3つの質問への否定的な解答の割合の合計(最大値は300%)である。次のリストも、活用可能性という観点からみた最悪の10項目と最良の10項目とを示したものである。

 使いにくいワースト10項目
37. 妊孕性
 1. コミュニティ
25. 求愛したりロマンチックな関係の維持
13. 市民であること
  4. 適切な身体的接触と距離を保つこと
48. 実行機能
26. 性機能
49. 精神運動活性
27. 合意により性行為を行うこと
29. 気質

 使いやすいベスト10項目
22. 加熱して調理すること
46. 交通
30. 聴覚
40 記憶すること
45. コミュニケーション等の機器
2. 移動
39. 認識すること
17. 自助具とテクニカルエイドの使用
34. 呼吸法
38. 気質

  これらの結果を考察するにあたっては、日本語の仮訳が使われたことを知っておく必要がある。そのためこの調査結果には、ベータ1案自体とともに翻訳への評価が反映されている。
 項目37「妊孕性」が一番問題であったが、ここには翻訳の問題がある。fertilityの翻訳として使われた漢字は古い医学用語でめったに日常用語としては使われておらず、そのため、概念自体はさほど難しくはないが非常に理解しにくい項目とされた。
 このことはこの種のフィールドテストに際して注意すべき2つのことを教えている。ひとつは、めったに使われない言葉は翻訳においても設問においても使うべきではないということである。もうひとつは、テストでは用語と概念とを同時に聞いており、2種類の質問に応えは1回しかないということである。もし適切な用語がなければ、理解し安い用語を使って概念のみをテストするほうがよいかもしれない。
 さらに、この概念自体使用に注意を要するものである点も考慮しなければならない。解答者の一人はこの言葉は用心して使わねばならないといっている。昔の日本では子どもを産めない女性は嫁の資格がないとされ、また今でも結婚していても子供がいない夫婦はあまり一般的ではないので、この言葉が烙印となる可能性がある。注意して使われるべきである。
  2番目に問題の項目は「コミュニテイ」である。日本ではこの言葉はふつうは翻訳せずに英語の発音をそのまま文字にした言葉としてよく使われているが、文脈によって意味が異なっている。翻訳語を使わない理由は、日本語に適切なものがないからである。何らかの日本語に翻訳された場合、「地域に関係した人的なグループ」あるいはしばしば「地域」そのものという狭い意味となり、ICIDH-2の定義とは全く違う意味となる。
 3番目に問題が大きい項目は「身体的接触」である。これは文化的背景が大きく作用している。身近な友達であっても我々はめったに相手の体に触らない。母親は5、6歳を過ぎた子どもと手をつないで歩かない。身体的接触とは日本では性的関係に限って使われるので、(そうではないことを)もっと明確に示す必要があるという意見が見られた。他の解答者は、他人に触らないのが日本の基本的な文化であるので、この項目が使いにくいと指摘した。

 2.分類に関する質問4
 図「質問4」が示すように、項目の多くは大多数の解答者によって3つのどれかに一致して配分された。しかし解答者の意見は次の項目について「機能障害」と「活動」のあいだで分かれた。それは「性的機能」、「訓練耐性」、「認識すること」、「記憶すること」、「精神運動活動」である。****このあたり訳語が一致しているか確認すること、また、「活動」と「参加」の間では次の項目について意見が分かれた。それは「親密な個人的関係を維持すること」、「学校に関連した行動」、および「公式の場面で人と係わること」である。
 図が示すように、「洞察」と「実行機能」は3つのレベルに意見が分かれ、どう分類したらよいか困惑したことが示されている。解答者の一人は「実行機能の定義があいまいである。課題を実行する機能のことか」といっている。専門家でも日本では非常に少数の人々のみがこの言葉を使っている。
 興味深いことに、「妊孕性」と「コミュニテイ」とは活用しにくい言葉であるが、どこに分類するかという点では意見が一致している。

 3.項目の重要性についての質問5
 各項目がどの程度重要かを、1重要でない、4非常に重要という4段階で質問された。図「質問5」の各項目の数値は30人の解答者の平均評価点を示す。
 高い評価貂をとった項目は、「移動」、「聴覚機能」、「姿勢変換」、「交通」、「メッセージの理解」、「補助器具を利用すること」などである。これらはすべて身体障害者に役立つものである。
 そして「身体的接触」と「気質」は日本の解答者にとってはもっとも重要でないとされた。
 もう一つの傾向として、図「質問1+2+3」で活用しやすいとされた項目は、この質問5でも重要性が高いとされていることがあげられる。しかし「熱を使って料理すること」は例外で、活用しやすいが重要性は低いとされている。

 <解答者から寄せられた主な意見・自由解答>
 翻訳の改善についての意見はベータ2案の訳にあたって使うこととし、ここには紹介しない。幾人かの解答者は、項目評価の解答にあたってベータ1案を全体として読む時間がなかったものと思われ、誤解によるコメントもなされていた。そのような意見も紹介は省いた。

1. コミュニティ Community
 1) 一定の小さな地域の住民組織である「町内会」や、日本では重要な概念で社会あるいは人々一般を指す「世間」を含んでいないので分かりにくい。
 2) 血縁関係を除く地域的または機能的な集団と定義されるべきである。
 3) コミュニテイとは日本では、地方自治体のなかの地域に関連した集団、または近隣組織である。

2. 移動 Mobility
 質を述べているので、もっと明確に規定すべきである。

3. 知識の獲得と応用Acquiring and applying knowledge
 1) 「多様な認知的機能」の意味がはっきりしない。特別な活動として規定するか定義を示すべきである。
 2) 対案を提案したい:「見聞きしたことを知識とし、それを利用すること」。

4. 適切な身体的接触を使うことと適切な距離を保つこと
Using appropriate physical contact and maintaining social space
 1) 日本語訳には例として「頬にキスしたり、肩に手を乗せること」を載せるべきである。
 2) 日本語ではこれは性的関係に限定して使われるので、(そうではないことを)明確にすべきである。
 3) 日本では他人に触らないことが基本的な文化であるので、この言葉を使うのは難しい。

5 余暇 Leisure
 1) 余暇の意味に質と量が含まれているので、より明確な規定が必要である。
 2) 日本語に訳された場合、使いにくくなる。

6.
一般的なサインやシンボルの理解
Understanding general signs and symbols

7. 経済取引 Participation in economic transactions
 1) 説明文の記述が長すぎ、理解困難である。
 2) 対案:「経済活動」、または「貨幣と財産の管理」
 3) 日本人は一般に自分の経済状態を秘密にするので、注意して使わねばならない言葉である。

8. 経済保障 Economic security
1) 文章が長すぎ、はっきりしないので理解困難である。
 2) 「禁治産でない」ということと同じ意味か?
 3) 「経済的自立」の方がよいと思われる。
 4) 我々の文化では主婦、高齢者、子供に適用するのは難しい。

9. 非言語的メッセージ(公認手話以外の)の理解
Understanding non-verbal messages (other than formal sign language)
  「非言語的メッセージ」の範囲がはっきりしない。音楽のような芸術、項目6で定義された「一般的な標識とシンボル」、あるいは項目4で定義された「適切な身体接触」を含むのかどうか。

10. コミュニケーション補助具/技術の使用
Using communication devices / techniques
 コミュニケーションの介在補助具の種類は非常に多様なため混乱しやすい。例を示すことが望まれる。

11. 市民生活・共同体的生活
Civic and community life
  一般的すぎて使いにくい。

12. 危険な環境に対処すること
Managing in a dangerous environment
1) この項目は重要であるが、観察することが出来ないので評価は難しい。
 2) 「危険な環境」の例示があるとよい。

13. 市民であること Citizenship
 1) 記述の中に使われている言葉は法律学の素養がなければ理解できない。文章は長すぎて読みにくい。
 2) 項目名は「人権と市民としての義務」とすべきである。
 3) 概念が日本人にはなじみにくいので我々の文化では使いにくい。

14. 親密な個人的関係を維持すること
Maintaining close personal relationships
 「親密な個人的関係」が恋愛関係を思わせるので「個人的な信頼関係」の方がよい。

15. 書字の意味の理解
Understanding the meaning of written language

16. 食事の準備 Planning/organizing meals
1) 「食事の企画と準備」の範囲が不明確である。そこには計画、調理、給仕、そして洗うことが含まれるべきである。
 2) どのように入院中の患者や出来るが日常生活ではしない男性を評価したらよいのか。

17. 自助具とテクニカルエイドの使用
Using assistive devices and technical aids
  「(補助)器具」や「(技術的)支援」の意味や違いがはっきりしない。

 18. 感情表現によるメッセージの調整
Modulating a message through emotional expression
1) 「ジェスチャーなどの非言語的技術」の方がよい。
 2) 代案:言語や公式の手話によるメッセージの伝達ではなく、メッセージの強さをユーモア、顔の表情または声の高さを変えることによって変化させることを含む。
 3) 使いにくい。日本人は発表、論争や主張の技術を学ぶ十分な機会がないので、大部分はこの面で劣っている。

19. 学校に関係する行動
School related behaviours
 1) 「学習行動」の範囲が不明確である。
 2) 教室に加えて学校の建物や学校の体育館も含めるべきである。
20. メッセージ(表現されたもの)の理解
Understanding messages in speech and formal sign language
1) 「単一の対象の記述」とはなにか理解しにくい。
 2) 「1語」についてはどう扱うのか?

21. 経済的技能
Economic skills

 1) 「インフラストラクチャー」を除いて記述は理解できる。
 2) もしこの技術が個人的なお金や予算を取り上げているのであれば、「家計管理」も含めるべきである。

22. 加熱して調理すること
Cooking using heat

23. 話し言葉や公式手話の形でのメッセージの生成
Producing messages in speech or formal sign language
  「会話を形成し方向付ける」は理解しにくく、例示が必要である。

24. 食事の配慮
Taking care of meals

25. 求愛したりロマンチックな関係を維持すること
Courting or maintaining a romantic relationship
1) 使いにくい。
 2) ロマンチックな関係とは分かりにくい。未婚の人々にのみ当てはまるのか。同性の間にも当てはまるのか。
 3) 年配者の間ではこれをフランクに表現することを控える文化がある。
 4) 「文化的に期待される活動」の範囲については議論しなければならない。

26. 性機能 Sexual functions
1) 代案が提案された:この項目は、性的興味、性行為、性交に伴う感情、および性的関係のもたらす心理的影響のことである。
 2) セクハラの問題を考えねばならないので、この言葉は使いにくい。
 3) 分類という点では、性交に伴う感情は単に機能的なものではなく複雑なものである。それは相互関係であるので、個人レベルの機能とは異なるものである。

27. 合意により性行為を行うこと
Performing consensual sexual acts
 この質問をすること、とくに未婚女性にすることは難しい。

28. 皮膚の感覚刺激への耐性
 Tolerating sensory stimulation of the skin
  「刺激に対する皮膚の防衛」とはどのような生理的な意味なのか?

29.
気質
Temperament

 1) 分類にあたって身体機能と活動のどちらに区分するか決めるのは難しい。
 2) 気質とは、社会的刺激に対する反応のタイプである。

30. 聴覚
Hearing Functions

31. 視覚の質
Quality of vision
1) 復視(***diplopia???)は病理的現象であり、その他の言葉は生理的なものであるので一貫性を欠く。
 2) 「聞く機能??***hearing function??」と同じように正常な機能だけが記述されるべきで、異常は機能障害の分類で記述されるべきである。

32. 痛覚
Experience of pain
 痛みの経験という意味が理解しにくい。

33. 訓練耐性
Exercise tolerance

34. 呼吸法
Methods of respiration
 「優位に」という意味がはっきりしない。

35. 栄養
Nutrition
 
1) 「一般的な」側面という意味が明確ではない。
2) 同義反復である。
3) 代案:栄養の消化と吸収。

36. 免疫学的機能
Immunological functions

 専門知識をもたないものには理解しにくい。

37.
妊孕性 Fertility
 1) 性に関係し、タブーとされているので、用心して使わねばならない言葉である。
 2) 注意を要する。昔の日本では子どもを産めない女性は嫁の資格がないとされ、また今でも結婚していても子供がいない夫婦はあまり一般的ではないので、この言葉が烙印となる可能性がある。注意して使われるべきである。
 3) 実際には診断が非常に難しいので、便利な項目ではない。ある利用者たちに必要であれば、「その他」の区分で扱うべきである。

38. 筋力
Muscular force

 「通常、いろいろな程度の抵抗のもとで、特別な筋肉や筋肉群をつかう特別な動作の遂行レベルによって測定される」ということが理解しにくい。例示が必要である。

39. 認識すること
Recognizing

 1) 分類については、感覚による認知は機能障害に区分され、その際の認識は活動に区分されるべきではない。自分のいる時間や場所の関係の認識はふつうオリエンテーションといわれる。これは活動に含まれるのか?
 2) どの程度の認識を指すのか?もし認知??perceptionを意味するのであれば認識は身体機能に含められるべきである。精神医学での認識という言葉は、明らかに脳機能の一部である。

40. 記憶すること
Remembering

 記憶の障害は機能障害であるという主張があるが、精神症状に起因する物忘れしやすさは機能障害と見ることは出来ない。

41. 問題解決
Problem-solving

 これは重要な技術だが、高い評者間一致率を期待できない。

42. 自分の健康のためのケア
Caring for own well-being


43.
必要品の獲得と配慮
Procurement and care of necessities

 「確保と世話」の意味がはっきりせず、例示が必要である。

44. 公的場面において人と交流すること
Interacting with persons in formal settings
 「社会的相互作用」の意味がはっきりせず、例示が必要である。

45.
コミュニケーション・情報・シグナルのための機器を使うこと
Using aids for communication, information and signalling

46. 交通
Transportation

47. 移動
Transferring oneself
 「歩行に関連した活動」の意味がはっきりせず、例示が必要である。

48. 実行機能
Executive functions

 1) 項目名の代案:「実行のための思考機能」
 2) 専門家にしか記述内容が分からない。
 3) 定義があいまいである。課題を遂行する機能のことか?

49. 精神運動活性
Psychomotor activity

 1) 特別な行動の例示が必要である。
 2) 通常使われる言葉ではないので、理解しにくい。
 3) これは「元気かどうか」を示すものだと思うが、説明文は理解しにくい。

50. 洞察
Insight
 項目名の代案:機能障害へのその人の覚知または認知。

一般的意見

 1) 文章が文法的に複雑で理解しにくい。
 2) いくつかの項目は質と量について述べているが、他の項目ではそれを述べていない。
 3) 食事の企画と準備のようにいくつかの要素から成り立つ項目では、何を含んで何を含まないのか分かりにくい。
 4) 「栄養の一般的要素」の「一般的」などの言葉は理解しにくい。 5) 一般には使われていない精神運動活動のような専門用語がある。

ICIDH-2 ベータ1フィールドテスト 参加者
*)代表、**)事務局長
赤塚 光子
天野 直二
安藤 徳彦
有馬 正高
古野 晋一郎
萩田 秋雄
春名 由一郎
池渕 恵美
生田 宗広
伊勢田 堯
伊藤 光弘
岩崎 晋也
加藤 真紀子
木塚 泰弘
工藤 忠
黒川 幸夫
真野 幸夫
丸山 一郎
松為 信雄
武藤 直子
中西 正司
西村 かおる
丹羽 真一
野中 猛
大橋 秀行
於保 真理
太田 昌孝
坂野 純子
佐藤 徳太郎
**)佐藤 久夫
調 一興
田端 幸恵
高田 英一
谷口 明広
寺島 彰
*)上田 敏
渡辺 裕子
山田 隆良
吉川 ひろみ
吉尾 雅春