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A/HRC/22/25
国連総会
配布:一般
2012年12月17日
原文:英語

人権理事会
第22会期
議題項目2及び3
国連人権高等弁務官年次報告書及び高等弁務官事務所及び事務局長報告書

開発の権利を含む、あらゆる人権、市民的、政治的、経済的、社会的および文化的権利の促進及び保護

障害のある人々の労働と雇用に関する課題研究

国連人権高等弁務官事務所報告書

要旨

本研究では、障害のある人々の労働と雇用に焦点を絞り、障害のある人の権利に関する条約の関連条項を分析し、障害のある人々の雇用の機会を促進するグッドプラクティスを紹介するとともに、障害のある人々による、他の者との平等を基礎とした雇用へのアクセスの享有と雇用の継続及び昇進の確保において、締約国が直面するおもな課題を明らかにする。

本報告書の付録は、受領時の状態のまま、提出言語のみで回覧される。

目次

Ⅰ.序論(パラグラフ:1-2)

Ⅱ.人権としての労働の権利(パラグラフ:3-6)

Ⅲ.障害のある人々の労働と雇用(パラグラフ:7-39)

A.一般労働市場における雇用へのアクセスの権利(パラグラフ:14-19)

B.労働と雇用における障害のある人々の差別(パラグラフ:20-24)

C.アクセシブルな職場(パラグラフ:25-28)

D.職場における合理的配慮(パラグラフ:29-34)

E.障害のある人々の雇用促進のための積極的な措置(パラグラフ:35-39)

Ⅳ.条約第27条の重要な規定の分析(パラグラフ:40-53)

A.公正かつ良好な労働条件(パラグラフ:40-43)

B.技術的及び職業的訓練とリハビリテーションへのアクセス(パラグラフ:44-48)

C.自営、起業家精神(Entrepreneurship)、協同組合の発展及び自己の事業の開始の促進(パラグラフ:49-51)

D.搾取及び強制労働からの保護(パラグラフ:52-53)

Ⅴ.条約第27条と他の条文との相互関係(パラグラフ:54)

Ⅵ.障害のある人々の労働と雇用の実現を支援する要素(パラグラフ:55-66)

A.障害のある人々の代表制と参加およびその代表団体(パラグラフ:55-58)

B.社会保護計画へのアクセス(パラグラフ:59-62)

C.データ収集、説明責任及び監視の仕組み(パラグラフ:63-65)

D.国際協力(パラグラフ:66)

Ⅶ.結論と提言(パラグラフ:67-73)

付録

回答者一覧

Ⅰ.序論

1.人権理事会は、決議19/11において、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)に対し、加盟国、国際労働機関(ILO)、地域団体、社会開発委員会障害に関する特別報告者、障害のある人々の団体を含む市民社会団体及び国内人権機関などの各関係者と協議の上、障害のある人々の労働と雇用に関する研究の準備をするよう求めた。同理事会はまた、その研究結果を、第22会期に先立ち、OHCHRのウェブサイト上で、アクセシブルなフォーマットで入手できるようにすることも求めた。

2.OHCHRは、加盟国に口上書を、ILO、政府間機関、非政府機関、国内人権機関及び社会開発委員会障害に関する特別報告者に書簡を送付し、障害のある人々の労働と雇用に関する一連の質問への回答を求めた。本文書の付録に、回答者の全リストが掲載されている。すべての回答は、OHCHRのウェブサイトで入手可能である 注1


注1:www.ohchr.org/EN/Issues/Disability/Pages/WorkAndEmployment.aspx参照。


Ⅱ.人権としての労働の権利

3.労働の権利は基本的人権である。世界人権宣言では、すべての人に、勤労し、職業を自由に選択し、公正かつ有利な勤労条件を確保し、及び失業に対する保護を受ける権利を認めている。(第23条第1項)労働の権利は、他の人権の実現に不可欠であり、人間の尊厳の不可分かつ固有な部分を成す。労働は通常、個人及びその家族に生計の手段を提供し、労働が自由に選択され、あるいは承諾される限り、個人の発達と地域社会における承認に寄与する。

4.労働の人権は、いくつもの国際的な法的文書で成文化されてきたが、障害のある人の権利に関する条約(第27条)は、その中で最も新しく、かつ詳細な基準である。経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約では、幅広い意味での労働の権利を保障している(第6条)。同規約は、すべての人の公正かつ良好な労働条件を享受する権利、特に、安全な作業条件に対する権利を認めること(第7条)により、労働の権利の個人的側面を明確に発展させている。労働の権利の集団的側面は、同規約の第8条で扱われており、すべての人の労働組合結成の権利と、自ら選択する労働組合に加入する権利、並びに労働組合が自由に活動する権利が宣言されている。

5.労働の権利は、市民的及び政治的権利に関する国際規約(第8条第3項(a))、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(第5条(e)(i))、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(第11条第1項(a))、子どもの権利に関する条約(第32条)及びすべての移住労働者及びその家族の構成員の権利の保護に関する国際条約(第11条、25条、26条、40条、52条及び54条)で、さらに保障されている。1961年ヨーロッパ社会憲章及び1996年改正ヨーロッパ社会憲章(第II部第1条)、人及び人民の権利に関するアフリカ憲章(第15条)、経済的、社会的及び文化的権利の分野における米州人権条約追加議定書(第6条)など、いくつかの地域文書でも、一般的な側面における労働の権利が認められている。これらの文書はすべて、労働の権利の尊重は、締約国に対し、完全雇用の実現を目的とした措置をとる義務を課すということであると認めている。

6.ILOは、労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言(1998年)と、公正なグローバル化のための社会正義に関する宣言(2008年)など、労働の権利に関するさまざまな文書を採択してきた。また、ILOは、労働とは、個人の尊厳、家族の安定、地域社会の平和、人々のための民主主義、生産的な仕事や企業育成の機会を拡大する経済成長の源であるという理解に基づき、「ディーセントワーク」という概念を考案した注2。経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会は、労働の権利に関する一般的意見第18(2005年)で、その概念をさらに膨らませ、ディーセントワークは、個人の基本的な権利を尊重し、労働者が自分自身と家族を扶養することを可能にする収入を提供し、職務遂行時の労働者の身体的及び精神的な健全性を尊重することを含む(第7項)と述べた。


注2:ILO ディーセントワーク課題(Decent work agenda)http://www.ilo.org/global/about-the-ilo/decent-work-agenda/lang--en/index.htm参照。


Ⅲ.障害のある人々の労働と雇用

7.国際的な推計によれば、障害のある人々は世界人口の約15パーセントを構成している。そのうち7億8500万人から9億7500万人が労働年齢(15歳以上)に当たり注3、大多数は、労働人口の大半が非公式経済の下で雇用されている開発途上国で生活している。多くの国において、障害のある人々の労働参加率は低い。経済協力開発機構(OECD)加盟国の最新のデータによれば、障害のない労働年齢の人々の場合、経済活動を行っていないのは5人に1人であるのに対し、障害のある労働年齢の人々の場合は半数弱となっている注4。失業率の国別比較は、障害の定義や統計方法が国ごとに異なるため困難であるが、国や地域による雇用格差が存在することは明らかである。

8.障害のある人々が雇用される際は、低賃金の仕事で、職業水準が低く、昇進の可能性が少なく、労働条件も悪いことが多い。また、同僚と比較して、非常勤の仕事や臨時の職に就くことが多く、キャリア開発の可能性はほとんどないことが多い。この点に関して、障害のある人々が直面する障壁は、多くの場合、政府や雇用主及び一般の人びとの否定的な態度や見解に関連しており、スティグマと固定観念、関心の欠如に深く根ざしている。教育及び労働市場で必要な技能訓練へのアクセスの欠如も、おもな障壁となっている。障害のある人々は、労働生活に適応できず、一般労働市場で必要とされる職務を遂行する能力がないと見なされ、あるいは、シェルタード・ワークショップ((注)日本の福祉工場や授産施設に相当)のような保護された環境に置かれた方が幸せであると考えられていることが多い。

9.障害のある人の権利に関する条約第27条では、障害のある人々の労働の権利について述べている。第27条は、同条約の最も詳細な規定の一つであり、障害のある人々の労働と雇用に関する締約国の義務にかかわる法的枠組みを定めている。

10.条約第27条第1項では、締約国に対し、障害のある人々の労働の権利を、他の者との平等を基礎として認めることを義務付けている。そして、世界人権宣言第23条の規定を拡大し、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第6条の文言と似た文言を使用している注5。第27条第1項は、障害のある人々の労働の権利には、障害のある人にとって開かれ、インクルーシブで、かつ、アクセシブルな労働市場及び労働環境において、障害のある人が自由に選択し、または承諾する労働を通じて生計を立てる機会についての権利を含むと述べ、雇用の過程で障害を持つこととなった者を含む、障害のある人の労働の権利の実現の保障と促進のために、締約国がとるべき適切な措置(立法措置を含む)のリストを提示しているが、すべてを網羅しているわけではない注6

11.障害のある人々の労働の権利は、この権利を実現し、好ましい結果をもたらす雇用環境を、公的部門と民間部門の両方において創造するという締約国の義務を示唆するものである。民間部門の雇用主は、市場経済における仕事の主要な提供者であり、それゆえ、障害のある人々を従業員として受け入れる労働環境の創造に責任を負う。条約第27条では、締約国に対し、障害のある人々の労働の権利の実施を、特に以下の基準に従って進めるよう、指針を示している。

(a)非差別:非差別の一般原則は、他のあらゆる生活領域と同様に、雇用にも適用される。障害のある人々は、他の者との平等を基礎として、労働の権利を有する。

(b)アクセシビリティ:障害のある人々の労働の権利には、障害のある人々にとってアクセシブルな労働環境で生計を立てる機会が含まれる。職場におけるアクセシビリティには、障害のある人々が、他の者との平等を基礎として自らの職務を遂行することを妨げる障壁を明らかにし、これを撤廃することが含まれる。

(c)合理的配慮:他の者との平等を基礎とした、障害のある人々の労働へのアクセスを促進するために、締約国は、合理的配慮を求めている障害のある人に対し、これを提供することを確保しなければならず、合理的配慮の拒否は差別となることを確保するために、立法措置を含む効果的な措置をとらなければならない。

(d)積極的な措置:民間部門の雇用主に責任を課す義務に加えて、締約国は、障害のある人々の雇用の機会を促進するための積極的な措置を採用しなければならない。

12.国内の基準及び実践を条約と一致させるプロセスは、障害のある人々の労働と雇用の促進においても、締約国がとるべき重要な施策の一つである。この点に関して、条約では、締約国に2つの一般的義務を課している(第4条第1項(a)及び(b))。

(a)労働と雇用に関して、条約で認められている権利を実施するため、すべての適切な立法措置、行政措置、及びその他の措置をとること

(b)労働と雇用の分野における、障害のある人に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し、または廃止するためのすべての適切な措置(立法措置を含む)をとること

13.障害のある人々の労働の権利を、法的枠組みの中で確保するには、さまざまな方法がある。これには、憲法による保護、統合を謳った障害法、人権法、非差別法及び雇用法を含めることができるが、それらに限定はされない。本研究に寄せられた回答によれば、このような法律を、障害のある人々に対する差別を禁止する憲法上の規定や非差別法という形で定めている国は増えているとのことである。障害のある人々の労働の権利に関する具体的な規定を盛り込んだ労働法や、労働と雇用に関する規定を含む障害法についても、寄せられた回答の中で言及があった。多くの場合、一次法とあわせて、契約順守に関する法律が定められ、法律の規定に従っていることの実証を企業に義務付けるとともに、雇用主が法律の規定を実施するインセンティブとしての役割を果たしている。


注3:世界保健機関及び世界銀行『障害に関する世界報告書(World Report on Disability)』2011年p.261 http://whqlibdoc.who.int/publications/2011/9789240685215_eng.pdfで入手可能。

注4:前掲書p.237

注5:経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の障害のある人々に関する一般的意見第5(1994年)及び労働の権利に関する一般的意見第18(2005年)も参照。

注6:障害のある人の権利に関する条約第27条第1項(a)から(k)参照。


A.一般労働市場における雇用へのアクセスの権利

14.障害のある人の権利に関する条約は、一般労働市場における雇用へのアクセスとその継続及び昇進について、障害のある人々が、可能な限り自らの選択に従い、平等な機会と待遇を享有する権利を確立するものである。1955年のILO職業リハビリテーション勧告第99及び障害者の機会均等化に関する基準規則(1993年)では、障害のある人々による一般労働市場へのアクセスを既に促進していた。1983年のILO障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約(第159号)では、法的拘束力のある国際法としては初めて、この概念が定義された。

15.障害のある人々の雇用戦略に関する第一の焦点は、一般労働市場における生産的かつ有給の雇用に向けた平等な機会の提供でなければならないが、多くの人々にとっては、いわゆる「代替」雇用が、これまで唯一の現実的な選択肢であった。このようなイニシアティブは、援助付き雇用や保護雇用という形態をとることが多い。

16.保護雇用は一般に別の作業所で実施され、必要とされる生産高は、一般労働市場で期待されるものよりも低く、(そうした)就労の仕組みは労働法の対象とされていないことが多い。保護雇用が移行措置と見なされ、障害のない人々と働くことができる、より一般的な雇用形態へと人々が移行していくのは避けられないが、保護雇用は、さまざまな理由から一般労働市場における雇用を得られないことがある人々に、継続的な支援を提供するものでもある。

17.支援付き雇用には、通常、一般の職場での実地訓練が伴うが、これにより労働者は、訓練が一度終了し、雇用契約や試験雇用の提案がなされた場合、労働者と雇用主の両方にフォローアップサポートを提供してくれるジョブコーチとともに、実際の仕事を通じて学んでいく。一般労働市場における個別の支援付きの仕事に加えて、レベルの高い支援が必要な人の場合、援助付き雇用は、小規模事業や、社内のモバイルワーククルーまたはエンクレーブなどの形態をとる場合がある注7。一般の職場では、援助付き雇用は保護雇用の好ましい代替手段であり、仕事につながる点で、より効果的であるとされてきた。

18.条約交渉中、第27条に関する議論のおもな議題の一つは、労働生活における総合的なインクルージョンの解釈に関して、シェルタード・ワークショップという名目により、いわゆる「抜け穴」が作られてしまうのではないかという恐れであった。実際は、すべての人が自由に選択し、または承諾する労働を通じて生計を立てる機会についての権利注8は、障害のある人々に開かれている唯一の現実的な機会が保護施設での労働であり、しばしば標準以下の条件である場合は、実現されない。この考え方から、経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会は、特定の障害を抱えている人々が、特定の職業や特定の物品の製造に携わることを事実上限定されてしまう契約は、労働の権利を侵害していると言えると指摘してきた注9

19.障害のある人の権利に関する条約の締約国は、障害のある人々の労働の権利について、一般労働市場においてこの権利を実現するさまざまな関係者の義務に対する認識も含め、雇用主と一般の人々の認識を高める義務を有する。本研究への回答の一部では、この目的に向けたグッドプラクティスが紹介されていた。例えば、ペルーとセルビアは、障害のある人々の労働能力に関する固定観念を撤廃するため、障害のある人々の権利に対する雇用主の認識向上を目的とした、国が主導する取り組みを開始している。


注7:アーサー・オレイリー(O'Reilly, Arthur)『ディーセント・ワークへの障害者の権利(The right to decent work of persons with disabilities)』(ジュネーブ ILO 2007年)

注8:経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第6条第1項参照。

注9:同委員会の障害のある人々に関する一般的意見第5(1994年)第21項参照。障害のある人の権利に関する委員会も、「盲人マッサージ」など特定分野における雇用について、障害のある人々の職業・キャリア選択における差別として懸念を示してきた(CRPD/C/CHN/CO/1 第41項)。


B.労働と雇用における障害のある人々の差別

20.障害に基づく差別は、障害のある人の権利に関する条約第2条に、「障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、合理的配慮を行わないことを含むあらゆる形態の差別を含む」と定義されている。

21.労働の権利を含む、経済的、社会的及び文化的権利の完全な実現は、漸進的な実現の対象となるが(第4条第2項)注10、障害に基づく差別の禁止は、直ちに行わなければならない義務である。締約国には、障害に基づく差別を禁じる義務があり、他の分野と同様、あらゆる形態の雇用にかかわるすべての事項に関し(第27条第1項(a))、障害のある人々を差別から保護することを確保しなければならない(第5条第2項)。

22.差別からの保護は、一般労働市場及び保護雇用または援助付き雇用制度など、あらゆる形態の雇用を対象とする。法律上及び事実上の差別の禁止は、以下を含むあらゆる雇用の側面を対象としなければならないが、これらに限定されるものではない。

(a)公募、面接及びその他の選考過程などの採用のプロセス

(b)障害のある人々を不利な状況に置く間接的な差別を撤廃するための雇用基準の見直し

(c)採用の決定

(d)報酬額、勤務時間及び休暇などの雇用条件

(e)昇進、転勤、研修またはその他の雇用関連手当、解雇、または降格もしくは人員削減などのその他の不利益

(f)(差別的ではない)退職に関連する手当

(g)虐待といやがらせ

(h)安全で健康的な作業条件

23.条約では、障害のある人々が、人種、皮膚の色、性、年齢、言語、宗教、民族的、先住的もしくは社会的出身、あるいはその他の地位など、さまざまな要因に基づく複合的または加重的な形態の差別の対象となる可能性があると認めている(前文サブパラグラフ(p))。障害のある人々は、雇用へのアクセスと雇用の継続、昇進において、多面的な課題に直面する可能性がある。障害のある人々の労働と雇用を促進する法律と政策を策定する際には、このような課題を考慮し、分野横断的なアプローチをとらなければならない。

24.実際には、雇用への平等なアクセスの欠如、職場でのいやがらせ及び同価値の仕事に対する低い賃金など、障害のある女性が直面する課題の多くは、一般女性にも影響を与えている。しかし、障害のある女性が直面する課題は、雇用の確保の困難、障害関連の追加費用、法的能力に関する法律のために自己の不動産や資金の管理ができないことなどに関連しており、多くの場合、労働生活における二重の不利益をもたらしている注11。雇用に関する障害、ジェンダー及び職種別データが入手可能なごく一部の国注12では、女性は雇用のすべてのカテゴリーにおいて一貫して少数派であり、管理職に就いている者の数は極端に少ない。


注10:経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第2条第1項も参照。

注11:障害のある人の権利に関する委員会は、障害のある女性が直面する複合的な形態の差別に取り組んできた。例えば、CRPD/C/ARG/CO/1及びCRPD/C/HUN/CO/1を参照。

注12:例えば、本研究に対するモロッコ及びパラグアイの回答を参照。

C.アクセシブルな職場


25.アクセシビリティは、障害のある人の権利に関する条約の一般原則と実質的な規定(第9条)の両方に定められ、他のあらゆる生活領域と同様に、職場にも適用される。公的部門の職場を完全にアクセシブルにすることの確保に加えて、締約国は、民間部門の雇用主にアクセシビリティ要件を課す義務を有する。

26.完全にアクセシブルな職場の確保に向けた措置をとることは、障害のある人々の求職、就職及び仕事の継続を妨げるさまざまな障壁(物理的障壁、態度の障壁、情報の障壁、コミュニケーションの障壁または輸送関連の障壁)の撤廃に極めて重要である。アクセシブルでない公共交通機関、住宅及び職場などの物理的な障壁は、多くの場合、障害のある人々の雇用を妨げるおもな理由となっている。しかし、職場がアクセシブルでないという事実は、障害のある人々の雇用を拒否することを正当化するものではない。

27.本研究への回答では、多くの締約国が、職場を障害のある人々にとってアクセシブルにするために、立法措置及び政策措置を含む措置を講じてきたことが実証された。ほとんどの国は、物理的なアクセシビリティの促進に向けて、スロープやアクセシブルなトイレ、エレベーターなどの設置を含む行動を起こしてきた。特に、アンドラ及びエジプトの回答は、職場へのアクセスを容易にするために、輸送機関のアクセシビリティに関してとられた措置に言及していた。パラグアイの回答では、聴覚障害のある求職者のために面接の際に手話通訳が提供されると述べられていた。また、ドイツ及びメキシコでは、一定数以上の従業員を抱えている職場においては、民間部門と公的部門のいずれについても、アクセシビリティを確保しなければならないという法律が制定された。

28.締約国は雇用主(規模や部門にかかわらず)に対し、障害のある人々による職場への平等なアクセスを妨げる障壁を明らかにし、そのような障壁の撤廃に向けて適切な措置をとる積極的な義務に関する情報を提供しなければならない。この目的に向けたグッドプラクティスには、障害のある人々に優しい、バリアフリーな環境づくりに関する規則実施のニーズへの雇用主の認識向上を図る取り組みと、アクセシビリティとユニバーサルデザインに関する雇用主向けのガイドラインの開発が含まれる。

D.職場における合理的配慮

29.条約では、合理的配慮を、「障害のある人が他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は行使することを確保するための必要かつ適切な変更及び調整であって、特定の場合に必要とされるものであり、かつ、不釣合いな又は過重な負担を課さないものをいう」と定義している(第2条)。労働と雇用については、職場において障害のある人に対して合理的配慮が行われることを確保するために、締約国は、立法措置を含む適切な措置をとることを義務付けられている(第27条第1項(i))。職場における配慮策の目的は、配慮を受ける者が、労働生活に完全かつ平等に参加できるようにすることである。

30.条約では、合理的配慮の拒否は、障害に基づく差別となると定めている。このため締約国は、合理的配慮を確保する義務を法律に取り入れること確認し、非差別法で、合理的配慮の拒否は差別の一形態であると定義しなければならない注13

31.雇用主及びサービス提供者等は、この条約の下で、障害のある人々に合理的配慮を提供する法的義務を負う。法律では、公的部門と民間部門のいずれの雇用主も、障害のある個々の従業員に対し、合理的配慮を提供する責任があることを明確に規定しなければならない。政府は、障害のある従業員の個別のニーズに合理的に配慮した、柔軟性のある代替的な働く仕組みを促進し、規制する政策を開発しなければならない。そのような政策には、障害のある人の雇用を促進するため、特に、機械及び機器の調整と変更、仕事内容や勤務時間及び作業組織の変更、職場へのアクセスを提供するための労働環境の改善などを含めなければならない注14

32.本研究への回答からは、障害関連法への合理的配慮の導入が、多くの国において遅れていることが明らかになった注15。一部の慣習法が支配的な地域を除けば、本研究に回答を寄せてくれた締約国で、条約の義務付けに従い、国内法にこの概念を導入した国はごくわずかである。実際、合理的配慮(個別の義務)という概念は、しばしばアクセシビリティ施策(一般的な義務)や積極策のスキームと混同されている。

33.雇用主が障害のある人々の採用を渋るのは、多くの場合、多額の費用をかけて職場の調整をしなければならないという恐れからくると言える。一般に、障害のある人々は皆、合理的配慮を必要としているとか、配慮には費用がかかりすぎるとか、配慮の提供は難しい、という誤解がある。しかし、障害のある人々の多くは合理的配慮を必要としておらず、多くの配慮はほとんど、あるいはまったく費用をかけずに提供することができる注16。結局は、たとえ配慮が必要であっても、合理的で必要かつ適切な、かつ、不釣合いな、または過重な負担を課さない配慮だけが義務付けられているにすぎない。誤解を解くために、締約国は、合理的配慮を提供する義務に関する情報を雇用主に提供し、この概念に対する雇用主、労働組合及び障害のある人々の認識を高め、この規定を実践に移す方法について技術的援助を提供する責任がある。

34.何が「適切な措置」となるかを決定することは、合理的配慮を提供する義務の効果的な実施に不可欠である。労働生活や昇進及び研修への、他の者と同等な条件でのアクセスと参加を要求している障害のある人々のために、これらを促進することができれば、その措置は適切であると主張できる。具体的な仕事に関する個別のアセスメント、障害のある人のニーズ、雇用主が提供できることに関する現実的なアセスメントに基づいて、適切な措置を確認していかなければならない注17。このプロセスを効果的なものにするには、これを双方向型かつ参加型にしなければならない。また、合理的配慮の要望に関するすべての情報は、守秘義務をもって扱わなければならない。


注13:委員会は締約国に対し、合理的配慮の拒否は差別になると(法律でも)定めることを、一貫して要請してきた。

注14:ILO 『職場において障害をマネジメントするための実践綱領(Managing disability in the workplace: ILO code of practice)』(ジュネーブ 2002年)p.3 セクション1.4

注15:合理的配慮の概念は、1968年アメリカ合衆国市民権法に導入され、その後、1990年の障害を持つアメリカ人法に適用された。英国とオーストラリアの同様な法律では、「合理的調整(reasonable adjustment)」という語を使用しており、欧州連合理事会指令2000/78/ECでは、障害のある人々のための合理的配慮が雇用の分野において提供されなければならないと述べている(第5条)。

注16:アメリカ合衆国労働省障害者雇用政策局によれば、配慮の費用に関する情報を提供してくれた雇用主の56パーセントが、従業員が必要としていた配慮には、まったく費用がかからなかったと述べた。ジョブ・アコモデーション・ネットワーク(Job Accommodation Network)「職場での配慮:低費用で得る大きな影響(Workplace Accommodations: Low Cost, High Impact)」配慮とコンプライアンスシリーズ(Accommodation and Compliance Series)09/01/11更新

注17:マリア・ヴェンテゴット・リースべルグ(Maria Ventegodt Liisberg)『障害と雇用:デンマーク、スウェーデン及びEUの法律と政策へ適用された、現代における障害のある人々の人権に基づくアプローチ(Disability and Employment: A contemporary disability human rights approach applied to Danish, Swedish and EU law and policy)』(インターセンティア(Intersentia)2011年)


E.障害のある人々の雇用促進のための積極的な措置

35.民間部門の雇用主に責任を課す義務を負うことに加えて、締約国には、民間部門における障害のある人々の雇用を増やすための積極的な措置をとるという義務もある。条約では、締約国は、公的部門において障害のある人々を雇用するための措置をとらなければならず、また、適切な政策及び措置を通じて、民間部門における障害のある人の雇用を促進し、これらの政策及び措置には、積極的差別是正措置、奨励措置その他の措置を含めることができると定めている(第27条第1項(h)、並びに(e)、(i)及び(k))。

36.本研究への回答によれば、最も一般的な雇用促進スキームは、多くの場合、割当雇用率の利用である。ほとんどの国には、公的部門における障害のある人々の雇用率に関する法律があり、一部の国では、民間部門における割当雇用率の規定もある。例えばモーリシャスでは、一定数以上の職員を抱える公的部門と民間部門の雇用主に対し、障害のある人々を決められた割合雇用することを義務付ける法律が導入され、違反者には制裁措置がとられている。

37.現在の割当雇用率制度は、おもに2種類に分けられる。それは、厳格な割当雇用率制度と柔軟性のある割当雇用率制度である注18。厳格な割当雇用率制度とは、障害のある人が、他の求職者と同等の資格を有しているか否かにかかわらず、優先的に扱われる制度を言う。柔軟性のある割当雇用率制度では、障害のある求職者は、他の求職者と同等の実力と資格がある場合にのみ、優先的に扱われる。厳格な割当雇用率制度の方がより一般的であるが、一部の回答では、柔軟性のある割当雇用率制度の例があげられていた注19

38.本研究への回答では、そのほかにも、特に、助成金、減税及び公的調達における優先など、利用可能なさまざまな雇用促進策が示された。積極的な措置には、障害のある人々が適切に代表として参加できるようにすること、雇用または昇進の標準的な基準を再検討すること、障害のある個人や特定のグループを対象とした支援措置などが伴う。しかし、このような取り組みにもかかわらず、また、制度が実施されているにもかかわらず、障害のある人々のために用意されている仕事は、多くの場合、高い技能を必要とせず、自己実現やキャリア開発の余地がほとんどないものである。

39.締約国は、障害のある人々が労働生活に平等に参加する可能性を十分に促進する、効果的な積極的措置の確立において、課題に直面している。懸念の一つは、障害のある人々は障害に基づいてのみ雇用されるという(否定的な)メッセージを送ってしまい、これが、スティグマの強化と、障害のある人々の職業人としての役割の否定につながる可能性があることである。このため、締約国は、考えられる否定的な要素を最小限に抑えた積極的措置を考案することが重要である。このようなプログラムの焦点は、職場における多様性の価値に対する認識の向上と、すべての人にとって平等なキャリア開発に絞られるべきである。障害のある人々の雇用促進に焦点を絞ったプログラムは、障害のあるすべての人々へと対象を広げていかなければならず、特に、障害のある女性と若者、知的障害または心理社会的障害のある人々、及び潜在的な社会的弱者に目を向けなければならない。


注18:オリヴィエ・デ・シュッター(Olivier de Schutter)「積極的な行動(Positive Action)」D.シーク(D. Schiek)、L. ワディントン(L. Waddington)及びM. ベル(M. Bell)『国内の非差別法と超国家的及び国際的な非差別法に関する事例、資料及びテキスト(Cases, Materials and Text on National, Supranational and International Non-Discrimination Law)』(オックスフォード、ハート出版(Hart Publishing)2007年)第7章

注19:例えば、アンドラ、パラグアイ及びルワンダは、柔軟性のある割当雇用率制度に言及していた。


Ⅳ.条約第27条の重要な規定の分析

A.公正かつ良好な労働条件

40.条約では、締約国に対し、他の者との平等を基礎として、公正かつ良好な労働条件(平等な機会及び同一価値の労働についての同一報酬を含む)、安全かつ健康的な作業条件(いやがらせからの保護を含む)及び苦情救済についての障害のある人々の権利を保護することを義務付けている(第27条第1項(b))。公正かつ良好な労働条件の享有についての権利は、障害のあるすべての労働者に、一般労働市場で働いているか、代替的な雇用形態の下で働いているかにかかわらず、差別なしに適用される注20

41.同一価値の労働についての同一報酬についての権利は、多くの障害のある人々には実現されていない人権である。障害のある人々が雇用される場合、一般に、障害のない同僚よりも収入は少ない。さらに、障害のある女性は、障害のある男性よりも収入が少ないことが多い注21

42.公的部門及び民間部門のいずれの雇用主も、障害のある人々のために良好で健康的かつ安全な労働環境を確保し、このような人々が、差別といやがらせから保護され、同一賃金を受領し、公平な手当を享有できるようにし、配慮に関するニーズ(職場外での労働活動を含む)が満たされ、適切な社会保護を享有できるようにし、必要に応じて、障害関連の問題を柔軟に処理し、差別疑惑に立ち向かうために説明責任の仕組みにアクセスできるようにしなければならない。

43.締約国は、同一価値の労働についての同一報酬と、安全かつ健康的な労働環境を含む、公正かつ良好な労働条件の要素を法律に規定し、これらのすべての分野における障害のある人々の平等を法律の対象とすることを確保する、重要な役割を担う。


注20:経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の障害のある人々に関する一般的意見第5(1994年)第25項参照。

注21:世界保健機関及び世界銀行『障害に関する世界報告書(World Report on Disability)』 2011年 p.239


B.技術的及び職業的訓練とリハビリテーションへのアクセス

44.条約では、締約国に対し、障害のある人々が一般公衆向けの技術指導及び職業指導に関する計画、職業紹介サービス並びに継続的な職業訓練サービスに効果的にアクセスすることを可能にするよう義務付けている。教育、訓練及び継続的な学習は、労働の権利の中心柱である。これらはまた、障害のある人々が、雇用へのアクセスや昇進の機会において取り残されてしまう第一段階となっていることが多い。

45.条約はまた、締約国に対し、障害のある人々のための職業リハビリテーションと専門リハビリテーション、職業維持及び職場復帰の計画を促進する義務も課している。ILO障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約(第159号)では、職業リハビリテーションの目的は、障害のある人が適当な職業に就き、これを継続し及びその職業において向上することを可能にし、それにより障害のある人の社会における統合または再統合の促進を図ることにあると定義している(第1条第2項)。多くの国において、障害を抱えるようになった従業員は、職業リハビリテーションと職場復帰の計画へのアクセスがなく、それが労働生活への復帰における困難へと転じていく。締約国は、障害を抱えることになった労働者が雇用主の下で同じ仕事を継続し、欠勤期間後、職場復帰し、あるいは社内の別の仕事に就く権利を確保する、職場定着に関する法律や、雇用法における規定を定め、これを施行しなければならない。

46.障害のある人々の助けとなる、障害のある人々を含めた職業訓練及びリハビリテーションの環境づくりは、締約国に、以下の目的のために、立法措置を含む必要な措置をとることを義務付けるものである。

(a)障害のある人々が技術指導及び職業指導、サービス及びプログラムに、他の者との平等を基礎としてアクセスする権利を有することを、立法措置を通じて認める。

(b)一般の職業訓練プログラムで、障害のある人々を差別しないこと、それらのプログラムが障害のある人々にとって完全にアクセシブルであること、技術訓練及び職業訓練において合理的配慮を提供することを確保する。

(c)多様性を促進するインクルーシブな環境づくりを目的とし、技術訓練及び職業訓練プログラムへの障害関連課題の主流化を検討する。

(d)リハビリテーションプログラムに、障害のある人々のニーズを十分に取り入れることを確保する。

47.多くの国で、障害のある人々を対象とした技術訓練及び職業訓練の方略が開発されてきた。しかし、多くの場合、そのような訓練は、一般の人とは別の場所で行われる傾向があり、障害のある人々ができることへの低い期待に導かれた、労働市場では要求されない技能と活動への取り組みであることが多い。この結果、障害のある人々は長年にわたり訓練を受けているものの、一般労働市場へのインクルージョンはまったく期待できないと言える。

48.障害のある人々に対する技術訓練及び職業訓練のおもな目的は、一般労働市場で、他の者との平等を基礎として競争できるようにするため、その雇用性を強化することである。それゆえ締約国は、障害のある人々にインクルーシブな場での職業訓練を提供し、知的障害または心理社会的障害のある人々など、最も疎外されているグループを含めることを確保しなければならない。

C.自営、起業家精神(Entrepreneurship)、協同組合の発展及び自己の事業の開始の促進

49.労働市場は障害のある人々にとって不利なことが多いため、しばしば、数少ない利用可能な選択肢の一つとして自営が検討されてきた。実際、それは障害のある多くの人々にとって、唯一の現実的な労働の選択肢となっている。障害のある人々の約80パーセントは、非公式経済が広く普及している開発途上国で暮らしており、そこでは所得機会の大半が、非公式な自営業や同様な事業を通じて創出されている。このため、条約では締約国に対し、自営の機会、起業家精神(Entrepreneurship)、協同組合の組織及び自己の事業の開始を促進することを求めている(第27条第1項(f))。

50.障害のある人々に焦点を絞った起業プログラムや、障害のある人々を優先する一般のプログラムは、自営を促進する最も一般的な手段と考えられる。一部の国では、特に自営を希望している障害のある人々を対象とした財政支援を提供しているが、資金援助をめぐり競合している、評価点が等しい2つのプロジェクトがある場合、障害のある人々によるプロジェクトを優先する法律を採択した国もある。また、多くの国では、障害のある人々に、団体や社会的企業を組織し、所得創出活動を開始するよう促す奨励措置を定める方策をとっている。

51.自営に向けてのさまざまな促進プログラムが利用可能であるにもかかわらず、実際には、障害のある人々は、ローン、信用保証または同様の財政支援へのアクセスを妨げる障壁のために、事業立ち上げへの支援を受けられずにいると感じていることが多い。自営のための資金援助制度は、障害のある人々にとって完全にインクルーシブなものでなければならず、また、決して障害のある人々を差別するものであってはならない。

D.搾取及び強制労働からの保護

52.条約では、締約国に対し、障害のある人々が奴隷状態または隷属状態に置かれないこと及び強制的または義務的労働から他の者との平等を基礎として保護されることを確保するよう義務付けている(第27条第2項)。実際、障害のある人々、特に知的障害や心理社会的障害のある人々は、その知的能力に対する偏見のために、特に強制労働と搾取の対象になりやすい注22

53.ほとんどの国では、現代的形態の奴隷制を禁止する法律を定めている注23。例は少ないが、そのような法律は、障害のある人々について明確に言及している。法的措置の採用に加えて、障害のある人々を搾取と強制労働から保護する義務は、締約国に対し、障害のある人々の搾取と強制労働に関する疑惑を防止し、調査し、適宜、その責任者を訴追する責任を課すものである。さらに、締約国は、民間部門を含む一般の人々に対し、搾取と強制労働の禁止について情報を提供し、そのような犯罪に気付いた場合、またはこれを目撃した場合、一般の人々がとることができる行動について指示しなければならない。


注22:経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の障害のある人々に関する一般的意見第5(1994年)第21項参照。同項では、施設における特定の形態の「治療的処置」は強制労働に等しいとしている。

注23:例えば、2008年のエクアドル憲法では、特に障害のある人々と、その他の不利な立場にある人々あるいは弱い立場にある人々に対するあらゆる形態の奴隷制を阻止し、抑制し、処罰するため、必要な措置を講じるという国家の義務を認めている。


Ⅴ.条約第27条と他の条文との相互関係

54.条約第27条の労働と雇用に関する規定の完全な実現は、特に以下の条文の実施に左右され、これらと密接に関連している。

(a)第8条。第8条では、締約国に対し、障害のある人の権利に対する社会全体の意識の向上を図る措置をとり、あらゆる生活領域における障害のある人に対する固定観念、偏見及び有害慣行と闘うことを義務付けている。

(b)第9条。第9条では、締約国に対し、障害のある人が、物理的環境、輸送機関、情報通信(情報通信技術及び情報通信システムを含む)、並びに公衆に開かれ、または提供される他の施設及びサービスに平等にアクセスすることを確保し、アクセシビリティにとっての妨害物及び障壁を明らかにし及び撤廃するための適切な措置をとることを義務付けている。

(c)第12条。第12条では、締約国は、障害のある人々がすべての場所において、法律の前に人として認められる権利を有することを再確認し、さらに、障害のある人が生活のあらゆる側面において、他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを認めると定めている。

(d)第17条。第17条では、障害のあるすべての人は、他の者との平等を基礎として、その身体的及び精神的な不可侵性を尊重される権利を有すると定めている。

(e)第20条。第20条では、締約国に対し、障害のある人が可能な限り自立して移動することを確保するための効果的な措置をとることを義務付けている。

(f)第24条。第24条では、締約国に対し、教育についての障害のある人の権利を、差別なしに、かつ、機会の平等を基礎として、あらゆる段階におけるインクルーシブな教育制度において認めることを義務付けている。

(g)第26条。第26条では、締約国に対し、雇用の分野において、包括的なハビリテーション及びリハビリテーションサービス及び計画を企画し、強化し及び拡張することを義務付けている。

Ⅵ. 障害のある人々の労働と雇用の実現を支援する要素

A.障害のある人々の代表制と参加およびその代表団体

55.障害のある人々の参加とインクルージョンは、どちらも、障害のある人の権利に関する条約の一般原則であり、締約国の義務の中核を成している。条約では、完全かつ効果的な参加を求めており、締約国に対し、この条約を実施するための法令及び政策を策定し及び実施するに当たり、並びに障害のある人と関連する問題についての他の意思決定過程において、障害のある人及びその代表団体と緊密に協議し、かつ、これらを積極的に関与させることを義務付けている(第4条第3項)。これは、労働と雇用にも適用される。ILO障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約(第159号)でも、職業リハビリテーションと雇用に関する国内政策策定の際には、障害のある人々及びその代表団体と協議することを求めている(第5条)。

56.さらに、労働組合は、障害のある人々を差別せず、障害のある組合員のために平等なアクセスを確保する義務を有する。労働組合に加入する集団的権利注24は、障害のあるすべての労働者に適用され、条約でも特に明確に規定されている(第27条第1項(c))。

57.障害のある人々は、一般に労働生活において(その利益が)十分に代表されていないため、労働組合へ代表を派遣しても、個々の職場における権利の保護及び促進を確保するには十分ではない。しかし、障害のある労働者の利益も、全国レベルでの団体交渉及びその他の雇用関連の交渉において、障害のある人々の代表団体と連携しつつ、労働組合を通じて表明されなければならない注25。このため、障害のある人々の代表が、自らの利益のために効果的に交渉に参加できるようにするための能力開発が必要となる。

58.新たな法律及び政策の策定に関する協議は、臨時に開催されることが多いが、本研究に寄せられた回答では、障害のある人々の参加を制度化したグッドプラクティスがいくつか取り上げられていた。 例えばスリランカでは、労働及び労使関係省の運営委員会は、政府、民間部門、国際機関及び障害のある人々の代表団体の関係者から成り、障害のある人々の雇用状況を改善するための戦略を、共同で明らかにすることを目的としている。


注24:経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第8条第1項(a)

注25:ILO 『「職場において障害をマネジメントするための実践綱領(Managing disability in the workplace: ILO code of practice)」(ジュネーブ 2002年)


B.社会保護計画へのアクセス

59.条約では、障害のある人々が障害に基づく差別なしに社会保護を享有する権利を認めている。締約国は、この権利の実現を保障し及び促進するための適切な措置をとることを義務付けられており、それには、障害のある人々、特に、障害のある女性及び少女並びに障害のある高齢者が、社会保護計画及び貧困削減計画にアクセスすることを確保するための措置が含まれる(第28条第2項(b))。

60.障害のある人々の労働参加率が全体的に低いことを考えれば、多くの障害のある人々にとって、社会保障制度及び所得維持制度は特に重要である。本研究への回答にも反映されているように、社会保護制度には、障害年金、いわゆる傷病手当、労働災害補償及びリハビリテーション支援など、多種多様な種類がある。多くの国で、恒久的な障害を抱えている人々に対する長期所得代替給付と、限られた期間、労働能力の低下が見られる人々に対する短期給付の両方が設けられている。

61.正規雇用により社会保障を失うリスクは、障害のある人々の労働市場への参入を妨げるおもな動機となっていると考えられ、障害のある人々の、既に困難な労働状況をさらに悪化させている。実際、社会保障制度の規定は、それ自体が労働参加率の低下をもたらす「給付の罠」になる可能性がある。所得代替給付に伴う条件と給付額が、労働市場への参加の動機に影響を及ぼし、その結果、実際の労働参加率にも影響を与えていると考えられる。多くの国における障害種別の制度では、引き続き、機能障害のレベルで人々が分類され、多くの場合、障害のある人々に障害関連手当の受給と就職のどちらかを選択するよう求める適格要件が定められている。

62.一部の国では、手当の受給から就労への移行を促進する措置が導入されているが、これらはさらに進められるべきである。例えば、雇用主に対し、労働衛生サービスの提供、職場復帰と就労に対する支援及び勤労奨励措置を義務付けることにより、障害のある人々の就労が促進された。その他の例としては、一定の賃金に達するまでは手当を受給し続ける条件で就労した障害のある人々が、失業した場合、遅延なく手当の受給が再開され、医療などの現物給付を受ける権利が一定期間保有できるようにする、いわゆる橋渡し制度や移行制度がある。このような措置の導入や開発においては、障害のある人々及びその代表団体と協議し、これらの参加を得ることが重要である。

C.データ収集、説明責任及び監視の仕組み

63.障害のある人々の雇用に関する統計が少ないため、労働生活を送っている障害のある人々が少ないという状況に取り組むことが難しくなっている。多くの国では、障害のある人々の大多数は、就労中か失業中かでは登録されておらず、労働市場の活動において、事実上存在しないものとされてしまっている。また、障害が極秘の個人データとして分類されているため、その収集が個人データ保護法や同類の法律によって禁じられており、障害のある人々に関するデータの編集が困難になっている国もある。

64.締約国は、ILOの失業率、潜在的失業率、正規雇用と非正規雇用の比率などの指標を基に、障害のある人々の労働の権利の実施に関する進捗状況を効果的に監視するための指標を考案しなければならない注26。また、締約国は、条約第27条に定められた義務の順守を適切に評価する根拠として、障害別データを組織的に収集しなければならない注27。データは、障害のある人々の雇用を促進する、効果的な、かつ的を絞った計画を考案するために、条約第31条に従い収集し、障害種別及び職種別に分類しなければならない。

65.条約の実施を促進し、保護し及び監視するための独立した監視の仕組みの設立は、締約国の重要な義務である(第33条)。このような仕組みは、障害のある人々の労働と雇用の促進と進捗状況の監視において、重要な役割を果たさなければならない。さらに、個人的に、あるいは集団として、労働の権利の侵害の被害者である障害のある人は、国内レベルにおいて、実効的な司法上の、またはその他の適切な救済措置へのアクセスを有するべきである注28


注26:経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の労働の権利に関する一般的意見第18(2005年)第46項

注27:CRPD/C/ARG/CO/1、CRPD/C/HUN/CO/1、CRPD/C/CHN/CO/1、CRPD/C/ESP/CO/1参照

注28:経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の労働の権利に関する一般的意見第18(2005年)第48項


D.国際協力

66.本研究への回答では、障害のある人々の雇用の機会を促進する国内の取り組みに対する支援を目的とした、国際協力計画のさまざまな事例が寄せられた。ほとんどの計画では、特定の障害のある人々の集団に対する職業訓練の促進に焦点を絞るなど、障害に特化したアプローチを支持している。しかし、障害のある人々の労働と雇用の分野における国際協力では、「複線」アプローチを適用することを一貫して追求しなければならない。これは、特定の不利益や障壁の克服を目的とする障害に特化した計画やイニシアティブを認める一方で、一般向けの技能開発や、企業及び雇用関連サービス、職業訓練及び雇用に関する計画への障害のある人々の参加を確保することを追求するものである。

Ⅶ.結論と提言

67.障害のある人々の労働参加率が低い理由はさまざまであるが、その中心的な課題の一つに、障害のある人々に対する否定的な態度、スティグマ、そして、障害のある人々が他の者との平等を基礎として労働生活に参加することは、何かしら「不適切」であるとする固定観念があることは明らかである。これが、障害のある人々の労働と雇用の分野における継続的な疎外と差別につながり、世界各地の多くの障害のある人々に対する、障害のある人の権利に関する条約第27条に定められている労働の権利の否定となる。

68.本研究への回答から、障害のある人々の雇用を促進するための、締約国によるさまざまな取り組みが明らかになった。にもかかわらず、そのような取り組みでは、多くの場合、別の場所での仕事や訓練の機会の創出に焦点が絞られ、条約に定められているインクルージョンの原則の尊重は見られない。締約国が、保護雇用制度から、障害のある人々の一般労働市場における平等なアクセスの促進へと移行することが不可欠である。さらに重要なのは、締約国が、障害のある人々を雇用する義務に対する雇用主の認識の向上を図る義務を負うことである。公的部門及び民間部門の雇用主はいずれも、障害のある人々を従業員として受け入れる労働環境の創造を積極的に追求しなければならない。締約国は、公的部門の職場を障害のある人々にとってアクセシブルにすることを確保するとともに、民間部門の雇用主に対し、障害のある人々が他の者との平等を基礎として職場へアクセスすることを阻む障壁を明らかにし、これらを撤廃する義務についての情報提供などを通じて、アクセシビリティ要件を課さなければならない。

69.締約国は、労働と雇用の分野における、障害を基礎とした差別を禁止する法律を制定し及び/あるいは施行するための行動を直ちにとり、法律で合理的配慮を提供する義務を制定し、合理的配慮の拒否は差別となることを明記することを確保しなければならない。締約国は、公的部門及び民間部門の雇用主並びに障害のある人々に対し、合理的配慮の概念と意味に関する情報を提供しなければならない。

70.条約では、締約国に対し、障害のある人々にとって非差別的で、完全にインクルーシブな自営制度の促進などを通じて、公的部門及び民間部門における障害のある人々の雇用を増やすための積極的な措置をとることを義務付けている。国の関係者と雇用主はともに、すべての積極的な措置または計画を、職場における多様性とすべての人の平等なキャリア開発の価値を認める方法で考案し、促進することを確保する責任を負う。

71.締約国は、障害のある人々の一般労働市場における雇用の機会の促進を目的とし、立法措置などを通じて、障害のあるすべての人々にとって非差別的で、アクセシブルかつインクルーシブな職業訓練及びリハビリテーションプログラムへの平等なアクセスを確保し、合理的配慮の提供を保障しなければならない。雇用主は、障害のある従業員が、このようなプログラムへの平等なアクセスを持つことを確保しなければならない。

72.社会保護計画では、障害のある人々の求職と継続的な就労を支援し、障害のある人々の一般就労を妨げる、いわゆる「給付の罠」となることを避けなければならない。

73.締約国には、雇用に関するデータを収集する際に、障害のある人々の雇用状況を改善するための、十分な情報に基づく焦点を絞った取り組みができるよう、障害種別及び職種に関する指標を含めることが求められる。さらに、締約国は、障害のある人々の雇用に関するあらゆる政策及び計画の考案、実施、評価及び監視に、障害のある人々の代表団体の参加を得なければならない。条約第33条に定められている、条約の実施を監視するための独立した仕組みは、既に雇用政策及び監視に関与している社会的パートナーや障害のある人々の団体との、より強力な関係の構築を支援する役割を果たすことができる。

付録(英語/フランス語/スペイン語のみ)

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  • Disability Council International
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  • 国際障害同盟(International Disability Alliance, IDA)
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国内人権機関

  • Centre for Equal Opportunities and Opposition to Racism【ベルギー】
  • Commission Consultative des Droits de l'Homme【ルクセンブルク】
  • Commission on Human Rights【フィリピン】
  • Commissioner for Fundamental Rights【ハンガリー】
  • Equal Opportunities Commission【香港】
  • Danish Institute for Human Rights【デンマーク】
  • Human Rights Centre【フィンランド】
  • Human Rights Commission【モルジブ】
  • Human Rights Commission【ニュージーランド】
  • Institute of the Commissioner for Human Rights【アゼルバイジャン】
  • National Commission for Human Rights【ホンジュラス】
  • National Commission for Human Rights【インド】
  • National Commission for Human Rights【ルワンダ】
  • National Human Rights Commission【タイ】
  • Ombudswoman【クロアチア】
  • Ombudsman【ポルトガル】
  • Procuraduría para la Defensa de los Derechos Humanos【ニカラグア】
  • South African Human Rights Commission【南アフリカ共和国】

個人

  • トム・ブッチャー(Tom Butcher)【Essl Foundation】
  • 松井亮輔【東京 法政大学】
  • トレヴァー・スミス(Trevor Smith)【ニュージーランド】

「Thematic study on the work and employment of persons with disabilities. Report of the Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights (A/HRC/22/25)」は、以下の国連人権高等弁務官事務所のページから、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語、中国語、アラビア語をダウンロードできる。

OHCHR Thematic studies【United Nations Human Rights Office of the High Commissioner ofr Human Rights】
http://www.ohchr.org/EN/Issues/Disability/Pages/ThematicStudies.aspx