音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

国際連合

2030年、尊厳への道:
貧困を終わらせ、全ての人々の生活を変革し、地球を守る

国連事務総長によるポスト2015年開発アジェンダに関する統合報告書 (A/69/700)

(IGES仮訳版)

ニューヨーク
2014年12月

要約

 本報告書は、国連事務総長がポスト2015年開発アジェンダに係る広範なインプットをとりまとめ、今後の政府間交渉へのインプットとして2014年末までに発表すべきとの要請(国連総会決議68/6)を受けて、公表されたものである。
 開発に係る過去20年の教訓とオープンで包括的なプロセスにおいて集められたインプットを基に、本書は今後15年間で尊厳を実現するための道筋を示している。本書では、権利、人々、地球を中心に置き、持続可能な開発のための普遍的かつ変革的なアジェンダを提案している。次の統合された6つの本質的要素は、持続可能な開発アジェンダを構成、補強し、加盟国が示した野心とビジョンをより分かりやすく国レベルで実施可能にするために役立つものである。(a)尊厳:貧困根絶と格差是正、(b)人々:健康な生活と知識、及び、女性と子どもの包括、(c)繁栄:強力、包括的、かつ、変革的な経済の成長、(d)地球:すべての社会と子孫たちのための生態系の保全、(e)公正:安全で平和な社会と強力な組織・制度の促進、(f)パートナーシップ:持続可能な開発のためのグローバルな団結の促進。
 さらに、本書は、統合された持続可能な開発アジェンダは、資金、技術、持続可能な開発能力への投資などの実施のための手段に関する、等しく相乗効果のあるフレームワークが必要であると強調しており、約束が行動となって実現されることを担保するために共通の責任に関する精神について呼びかけている。また、新たなアジェンダの挑戦に向けて、統計能力の改善、新たなもしくは非伝統的なデータの活用、また、国連を「目的に適合(fit-for-purpose)」することを通して、実施のモニタリング及びレビューを可能にするためのフレームワークを提案している。私たちが一つになって、多国間システムと国家を強化するために政治的意思と必要な資源を動員することにより、今後15年間で尊厳を実現することは可能であるだろう。

目次

「我々は、持続可能な開発の中心には人々がいることを認識する。そしてこの点に関し、公正かつ衡平で、包摂的な世界のために努力し、持続的かつ包摂的な経済成長、社会開発、環境保護の推進と、それによるすべての利益のために協力することにコミットする。」

リオ+20成果文書「我々が望む未来(The Future We Want)」

1. 2015年以降の世界を変革するための行動に対する普遍的呼びかけ

1. 来る2015年は、全世界の指導者および人々が、貧困を終わらせ、人間のニーズを満たして必要な経済改革を実行できる世界へと変革しつつ、環境を守り、平和を確保し、人権を実現するまたとない機会になる。

2. 歴史的な岐路に立つ今、誓約達成の成否はどの道へ進むかにかかっている。経済のグローバル化と技術の高度化が進む中、極度の貧困と飢餓という積年の病には終止符を打つと決意することができる。あるいは、地球の状況を悪化させ続け、耐え難い不平等がもたらす苦痛と絶望を看過することもできる。我々の望みは、すべての人にとって持続可能な開発を実現することだ。

3. 若者は、2030年まで続く次の持続可能な開発アジェンダの主導者になるだろう。この移行にあたっては、地球を守りつつ、誰も置き去りにしないことを約束しなければならない。人権と法の支配に守られた平和で回復力のある世界で、包摂的な繁栄の共有への道に乗り出す責任は共に担うのだ。

4. 合言葉は、変革だ。現時点では、勇気あるリーダーシップと行動が求められている。そして、社会における変化、経済運営における変化、唯一無二の地球との関係性における変化を受け入れることを求められている。

5. そうすることで、時代のニーズにより完全に対応し、国連が誕生したときに立てた不朽の誓約を果たすことができる。

6. 70年前、国連の設立根拠となる憲章を採択したとき、世界の国々は厳かに誓った。「戦争の惨害から将来世代を救い、基本的人権と人間の尊厳および価値と男女および大小各国の同権とに関する信念をあらためて確認し、正義と国際法の尊重とを維持することができる条件を確立し、一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進すること」“

7. この核となる誓約を礎として、「発展の権利に関する宣言」(1986年)は、すべての人による発展への意義ある参加とその利益の公平な分配を保証する取り組みを求めた。

8. 人類は、過去70年の間に目覚ましい進歩を遂げた。暴力を減らし、世界的機関、合意された普遍的原則の体系、そして一連の多様な国際法を確立した。技術が驚くべき進歩を遂げ、何百万という人々が貧困から脱し、数百万の人々が力を与えられ、疾病に打ち勝ち、寿命が伸び、植民地制が廃止され、新たな国家が生まれ、アパルトヘイトが克服され、民主主義がより深く根を下ろし、活気ある経済があらゆる地域に築かれるのを目の当たりにしてきた。

9. 1992年にリオデジャネイロで開催された「地球サミット」以降、人間が幸福に至る新たな道が見出された。持続可能な開発という道である。2000年に明確に打ち出されたミレニアム宣言およびミレニアム開発目標(MDGs)では、人間が中心に据えられ、世界中の多くの人々の生活に先例のない改善がもたらされた。MDGsの背後で行われた世界的な動員により、多国間の行動によって具体的な変化をもたらすことが可能であると示された。

10. しかし、今日の世界の状況は、国連憲章のビジョンからかけ離れている。一部の人々が多くの富を享受する中、何十億という人々が蔓延する貧困、所得の不平等、失業、疾病、剥奪に苦しんでいる。第二次世界大戦以降、強制退去は過去最高レベルに達している。武力衝突や犯罪、テロ、迫害、収賄、刑事免責、法の支配の崩壊は、日常的に見られる現実だ。世界的な経済危機、食糧危機、エネルギー危機の影響は、いまだに感じられる。気候変動の影響は、ようやく表面化し始めたところである。こうした失敗や欠陥は、科学・技術や世界的な社会運動への動員に見られる進歩と同様に、現代を定義する重要な要素となっている。

11. グローバル化が進んだこの世界は並外れた進歩を特徴とする一方で、許しがたく持続不可能なレベルの欲望や恐怖、差別、搾取、不正、環境への愚行があらゆるレベルで見られる。

12. しかし、こうした問題が、天災や不可抗力の現象の結果ではないこともわかっている。こうした問題は、公的機関や民間部門などの人権および人間の尊厳の擁護に携わる人々の行動と怠慢に起因している。

13. こうした課題に取り組むノウハウと手段はあるが、今、早急なリーダーシップと連帯行動が必要だ。

14. こうした普遍的な課題は、証拠に基づき、運命共同体として共有する価値や原則、優先事項を礎とする、高いレベルの多国間行動を新たに要求するものである。

15. 国連憲章のもとで全世界が誓った言葉が、我々を行動へと促さなくてはならない。共感と開かれた国益が、我々を行動へと促さなくてはならない。地球の管理人としての責任が、等しく我々を行動へと促さなくてはならない。今日の脅威は、いずれも人間が引いた様々な境界――国境あるいは階級、能力、年齢、性別、地理、民族、宗教上の境界とは無縁のものだ。

16. 不可逆的に相互に結びついた世界では、誰かが直面する課題は、ときには段階的に、しかし往々にして突然に、我々一人ひとりが直面する課題となる。しかし、こうした難題に直面することは重荷となるだけではない。むしろ、協力して人間の状況を前進させることができる新たなパートナーシップと同盟を作り出す機会となることがはるかに多い。

17. MDGsでの経験は、このような複雑な課題に立ち向かうために国際社会を動員することは可能だという力強い証拠を示している。政府や市民社会、幅広い国際主体が、MDGsの背後で貧困や疾病との多面的な闘いにおいてひとつになった。この闘いの中では、革新的な取り組みや極めて重要な新しいデータ、新しい資源、新しいツールや技術が生み出された。透明性が向上し、多国間での取り組みが強化され、公共政策への結果重視の取り組みが進んだ。MDGsに触発され、集団行動や国際協力で強化された健全な公共政策は、素晴らしい成功へとつながる。1990年からの20年間で、世界では極度の貧困が半減し、7億人が極度の貧困から脱した。2000年から2010年の間には、推定330万人がマラリアによる死亡を回避し、結核との闘いから2,200万人の命が救われた。HIV感染者は抗レトロウイルス療法(ART)を受けられるようになり、1995年以降、660万人の命が救われた。同時に、初等教育におけるジェンダー平等、母子の健康保健へのアクセス、女性の政治参加は、着実に改善している1

18. MDGsの未完の事業に投資し、我々が望む未来、つまり、貧困のない、人権、平等、持続可能性を礎とする未来への踏み台としなければならない。これは我々の義務であり、子供たちに残すべく努める遺産でなければならない。

19. 持続可能な開発のためのポスト2015年グローバル・アジェンダの具体化を進める中で、国際社会は先例のないプロセスに取り組んできた。これほど多くの世界的な懸念事項について、これほど幅広く包摂的な協議が行われたことはかつてなかった。リオ+20会議からわずか2年で、ポスト2015年のプロセスのための土台が作られ、すべての加盟国、国連の全機関、専門家、市民社会の様々な部門、企業、そして最も重要な点であるが、世界中の何百万もの人々が、この極めて重要な旅路についた。この事実そのものが大いなる希望の源であり、人類の中から現れた創造性と目的意識は、我々は解決策と共通の利益を求めて、革新と連携のために団結できるという証である。

20. 幅広い関係者に対して天幕を大きく広げた今、このプロセスの正当性は、これまで耳にしてきた核となるメッセージが最終成果に反映される度合に大きく左右されることを、我々は認識しなければならない。政治的便宜に屈したり、最小限の共通項に甘んじたりしている場合ではない。直面する新たな脅威やそれ自身がもたらす新たな機会には、高いレベルの志と、真に機敏かつ変革をもたらす参加型の一連の行動が要求される。

21. これには、気候変動への取り組みも含まれる。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が強調するように、気候変動は脅威を増幅している。プラスの傾向への逆行、新たな不確実性、強靭性の費用の増大により、気候変動は、持続可能な開発アジェンダの達成をより困難にしている。

22. それゆえに、この仕事は一筋縄ではいかないだろう。

23. 世界中の人々は、普遍的かつ各国の状況に適応可能で、人間と地球を中心に据えた真に変革をもたらすアジェンダにより、国連が挑戦に立ち向かうことを期待している。人々の声で強調されてきたのは、民主主義、法の支配、市民空間の、それもより効果的なガバナンス、および能力のある機関の必要性、責任を負う企業と実効力をもつ地方自治体等との新しく革新的なパートナーシップの必要性、データ革命、厳格な説明責任の仕組み、そして刷新されたグローバル・パートナーシップの必要性である。また人々は、新アジェンダの信頼性はその実現に向けて利用できる手段にかかっている、と訴えている。

24. 来年予定されている3つの首脳レベルの国際会議は、持続可能な開発の新たな時代の計画を立てる機会となる。1つ目は7月にアディスアベバで開催される国連開発資金会議で、グローバル・パートナーシップの協定が実現する予定である。2つ目は9月に国連で開催される持続可能な開発に関する特別首脳会合で、世界は新アジェンダと一連の持続可能な開発目標(SDGs)を受け入れることになるが、これが人間と地球にパラダイムシフトを起こすものと期待されている。3つ目が12月にパリで開催される国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で、加盟国は新開発アジェンダの達成をより困難にする可能性がある脅威に取り組むための新たな合意を採択することを約束している。

25. 世界にとって、生活を一変させるとともに地球を守るための歴史的行動を起こすチャンスである。私は、政府およびすべての人々に政治的責任および道徳的責任を果たすことを強く求める。これが、私からの尊厳への要請である。これにはすべてのビジョンと力強さをもって、応えなければならない。

2.総論(統合文書/Synthesis)

「人間社会で価値あることはすべて、個人に与えられた発展の機会による」アルバート・アインシュタイン

2.1 過去20年間の開発の経験から学んだこと

26. ポスト2015年アジェンダに関する世界的な対話には、新しく、まさに変革をもたらすような点がいくつもある。しかし、この対話のルーツは深く、過去20年間の開発コミュニティでの経験から、1990年代の世界会議、1992年のリオ地球サミット、2000年のミレニアム・サミットとMDGs、2005年の世界首脳会合、2010年のMDGs首脳会合、そして2012年のリオ+20会議に至る会議の先見性ある成果にまで及ぶ。

27. 2012年6月にリオデジャネイロで、国連持続可能な開発会議の成果文書「我々が望む未来」が採択され、現在の世界的な刷新プロセスのための土台が築かれた。同文書では20年間の開発経験から得た教訓が記され、また持続可能な開発アジェンダの実施における進捗と隔たりについて広範な評価を行っている。

28. 不十分で不均一なところはあるが、素晴らしい進歩があった。つい20年ほど前は、発展途上世界の40%近くの人々が極度の貧困状態にあり、貧困撲滅という考えは想像も及ばないかのように思われた。徹底した一貫性のある歩みにより、今では、もう一世代のうちに極度の貧困は撲滅できることがわかっている。MDGsはこの進歩に大きく貢献し、いかに政府、企業、そして市民社会が協力して、変革をもたらす大きな進歩を遂げられるかを教えてくれた。

29. 過去20年の間に、一部の後発開発途上国(LDC)の著しい進歩を我々は目の当たりにしてきた。それと同時期に、中所得国は世界的成長の新たな原動力となり、その国民の多くが貧困から脱し、相当規模の中産階級が生まれた。不平等の削減において真の進歩が見られた国もあれば、普遍的なヘルスケア制度を導入した国もある。また、世界で最も先進的なネットワーク社会へと変貌を遂げた国もある。賃金が上昇し、社会的保護が拡大した。また、環境技術が根を下ろし、教育水準も向上した。紛争の末にいくつかの国が生まれ、再建と平和、発展への道を着実に歩んだ。こうした幅広い経験は、脆弱性や排斥は乗り越えられるということ、またこれから何が可能かを示すものだ。

30. 新たな人口動向が世界を変えている。地球家族は既に70億人を擁しており、2050年までには90億人に達する見込みである。人々がまずます長寿で健康になるにつれ、世界の高齢化が進んだ。世界人口の半数以上が都市部に居住し、世界の都市化は進む一方である。また、2億3,200万人を超える海外移住者、国内移住を含めれば10億人近い人々が移住する流動世界である。こうした傾向は我々の目標に直接影響を与え、課題と機会の両方をもたらす。

31. 我々には、新しい技術により、より持続可能な取り組みや効率的な実践がどのようにして実現するのかがわかる。公共部門の歳入は、税制改革、脱税の防止、不平等の是正、収賄との闘いによって大幅に歳入を増やせることを知っている。持続可能な開発には、膨大な量の未利用資源や廃棄資源を向けられることを知っている。先進的な企業が持続可能な開発に向けたビジネスモデルの変革を牽引する一方で、民間部門による倫理主導型投資の可能性については表面的な議論が始まったばかりだということを知っている。正しい動機と政策、規制、モニタリングがあれば、素晴らしい機会はあふれている。データ革命が広がり、現在地と目的地をこれまで以上にはっきりと知ること、すべての人を確実に考慮に入れることが可能だということを知っている。世界中の創造的なイニシアティブにより、持続可能な生産と消費のための再現可能な新たなモデルの開発が進んでいることを知っている。国家レベル、国際レベルのガバナンスを21世紀の現実に即したより効率的なものに改革できることを知っている。そして、今日の世界が初めて真にグローバル化が進み、相互に結びつき、高度に結集した市民社会を擁し、この市民社会が変化と変革に参加し、連帯管理責任を担い、そして強力な原動力となる用意と能力を備えることを知っている。

32. 我々は既に変革に向けた軌道修正を始めている。

33. ポスト2015年アジェンダに関する議論では、各国特有の条件の重要性を強調しているが、これはMDGsのフレームワークの視点で見た前進である。アフリカ諸国に代表される最も脆弱な国、後発開発途上国、内陸開発途上国、小島嶼開発途上国については、特別な注意が求められた。また、中所得国および脆弱な状況や紛争下にある国々が直面する課題についても、特に注意が必要である。

34. 加盟国は、持続可能な開発が包摂的かつ人間を中心に据えたものでなければならないと強く訴えている。人々の暮らしや経済、社会、心身の健康にとって、また多くの伝承で「母なる地球」と言われるような文化遺産的な側面にとっても、生態系が重要であることを強調した。

35. また、加盟国は政策決定により有益な情報を提供するため、国内総生産(GDP)などの進捗の評価基準を改善する必要性を強調した。世界の自然や文化の多様性を認めつつ、すべての文化や文明が持続可能な開発に貢献できることも認識している。最後に加盟国は、地球の壊れやすい生態系と調和した生き方に人類を導く持続可能な開発に向けて、全体的かつ統合された取り組みを要請した。

2.2 ポスト2015プロセスから学んだこと

36. 国際社会は、新開発アジェンダの討議において大きな進展を遂げた。2013年7月、国連総会の要請に応え、私は報告書「尊厳ある人生をすべての人に」を加盟国に提出した。その中で私は、持続可能な開発のための普遍的、統合的かつ人権に基づいたアジェンダの開発を提言した。経済成長、社会正義、そして環境管理に取り組み、平和と開発と人権とのつながりを強調し、誰も置き去りにしないアジェンダである。私はまた、厳格なレビューとモニタリング、より信頼できる多くの非集計データ、そして測定可能で適応可能な目標についても求め、すべての国で適用でき、変革をもたらす数多くの行動について概要を述べた2

37. この討論に情報を提供する多くの声が上がり、幅広いステークホルダーから貴重な意見を得られた。

(a) 組織された市民社会グループの先例のない協議とアウトリーチの努力を通して、また国連開発グループ主導の世界的な対話「100万人の声:私たちが望む世界」「ポスト2015年アジェンダの達成:国レベルおよび地域レベルでの機会」、そしてマイ・ワールドサーベイを通して、世界中の人々が意見を述べた。何百万もの人々、特に若者が国ごとの主題別オンライン協議や調査を通じてこうしたプロセスに参加し、グローバル・ユース・コール第65回国連DPI/NGO年次会議の成果にその声が反映された。議員や企業、市民社会の直接的かつ積極的な関与もまた重要だった。

(b) ポスト2015年開発アジェンダに関する事務総長有識者ハイレベル・パネルのリーダーたちは、次の5つの誰も置き去りにしない「大変革」を呼びかけた。1)極度の貧困に終止符を打つ、2)持続可能な開発を中心に据える、3)ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と包摂的な成長に向けて経済を変容させる、4)平和な社会と開かれた透明性の高い責任あるガバナンスを構築する、5)持続可能な開発に向けた新たなグローバル・パートナーシップを作り上げる。

(c) 持続可能な開発ソリューション・ネットワークを通じて招集された学者や科学者たちは、持続可能な開発の4つの相互依存する側面(経済、社会、環境、ガバナンス)を統合した、科学に基づく、行動志向のアジェンダの採択を提言した。

(d) ポスト2015年アジェンダにおいて企業が果たしうる主な役割が、「国連グローバル・コンパクト」の報告書に抜粋された。企業は内部から市場に変革をもたらし、生産と消費、資本配分をより包摂的で持続可能なものにすることで、ビジネスのやり方や貢献の仕方を変える準備ができている。

(e) 地域委員会はその報告書で、全世界の合意目標と各国特有の現実に即した優先政策の採択における地域努力の重要性について強調した。

(f) ポスト2015年アジェンダおよびテクニカルサポートチーム(TST)の業務に関する国連システム・タスクチームの報告書では、国連システムの経験および専門性が周知された。

(g) 部次長レベルは、国連システム主要執行理事会を通じてリーダーシップと指導力を得た。

(h) 地球の持続可能性に関するハイレベル・パネルのメンバーは、次世代のために、人間の福祉を向上し、世界正義を促し、ジェンダーの公平を強化し、地球の生命維持システムを守る持続可能な道を提言した。

38. 2014年を通して加盟国は意見交換を行い、既存の国連開発機関の業務を通じて見解をまとめた。国連経済社会理事会(ECOSOC)とその機能委員会および地域委員会、各種委員会と専門家集団は、ポスト2015年のレビューおよびモニタリングのフレームワークの潜在的な要素を特定し、国連の開発システムとその運営活動をどのように適応させて、開発の展望に見られる変化に対応するかを探った。開発協力フォーラムは、統一された普遍的なアジェンダの意味合い、グローバル・パートナーシップ、より効果的なレビューとモニタリングを行うための手順、共通課題に対する南側の開発協力パートナーの具体的行動について、ステークホルダーが議論するための有効な政策の場を提供した。持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)では、2013年の最初の会合からポスト2015年アジェンダに関心を向けていた。HLPFのリーダーたちは、一致団結した取り組みを求めるとともに、同フォーラムがレビューとモニタリングにおいて重要な役割を果たせることに言及した。

39. 2014年も終わりに差しかかった今、リオ+20会議で定めた政府間プロセスが完了したことを明確に述べたい。

40. 国連総会における一連のテクノロジーに関する構造化された対話3では、クリーンで環境に優しい技術の開発、移転および普及を促進する円滑化の仕組みについて、可能な準備を検討した。

41. 持続可能な開発資金に関する政府間専門家委員会は、持続可能な開発資金戦略の有効な選択肢に関する報告書を、2014年8月に発表した4。同委員会は政策立案者向けに100を超える数多くの選択肢を提案するとともに、援助、貿易、負債、課税および金融市場の安定性という主要な側面を網羅するグローバル・パートナーシップについても提言を行った。その中では、各国が資金源を有する個別の戦略が提案された。国の政策環境の実行に根差し、改革された国際的な実行環境によって補完される戦略である。同委員会は、公共および民間、国内および国際的なすべての資金源が使用される必要があることも認めている。

42. 2014年を通して、国連総会議長は一連の貴重な会合を招集した。これには、女性・若者・市民社会の貢献、人権と法の支配、そして南北・南南・三角協力の貢献に関する3つのハイレベル・イベントと、開発のための情報通信技術(ICT)などが含まれる。また、パートナーシップの役割、安定した平和な社会の確保、そして水・衛生・持続可能なエネルギーに関する、3つの主題別討論会が開催された。これに続いて、国連総会およびそれぞれの国連地域委員会の後援を受けた各地域で、説明責任に関するダイアログが行われた。2014年9月には、議長はポスト2015年開発アジェンダに関するハイレベル・ストックテイキング・イベントを招集した。

43. 重要な点として、2014年7月、持続可能な開発目標に関するオープン・ワーキング・グループがその歴史的討議の結果を発表したことが挙げられる5。その中で、リオ+20成果文書に基づく談話を発表するとともに、貧困撲滅、環境の持続可能性、包摂的な成長、平等、そして持続可能な開発のための人間を中心に据えたアジェンダについて強調している。

44. 1年以上に及ぶ包摂的で集中的な討議に続き、オープン・ワーキング・グループは17の具体的目標と169の関連するターゲット6を提案した。同グループはこれらの目標を、各国の現実および能力、発展レベルを考慮した「行動志向型で本質的にグローバルであり、普遍的に適用可能」なものであると表現している。また、各国が設定する独自のターゲットを野心的なグローバル・ターゲットと結びつけるための努力がなされた。

45. 未完了のMDGsに対するコミットメントをより強固なものとするだけでなく、不平等、経済成長、ディーセント・ワーク、都市・居住、産業化、エネルギー、気候変動、持続可能な消費と生産、平和、正義、そして組織に関する目標において、SDGsは新たな境地を開くものだ。環境に関する側面は、アジェンダ全体で明確に打ち出されている。また、実施手段としてのグローバル・パートナーシップに関する目標が、SDGsの基盤となっている。

46. 目標の実施状況をレビューするための仕組みが必要である。性別、年齢、人種、民族、移住歴、障害、地理的な位置、そして国の状況と関連するその他の特性ごとに分けられた情報を含め、データの可用性とアクセスを改善する必要がある。

47. 最後に、持続可能な開発のためのデータ革命に関する独立専門家諮問グループの最近の報告書は、先進国と発展途上国、情報を享受している人とそうでない人、公共部門と民間部門などの間に見られる主要なデータ・ギャップを埋めるよう求めている。同報告書は、質の高いデータへのアクセスを増やし、情報アクセスの分野の不平等を是正し、データ・リテラシーを高め、市民が利用できる領域を増やし、データおよび情報の共有を強化することの重要性を強調している。また、統計機能を提供する国家機関の強化と、新たな技術との連動の必要性についても論じている。

2.3 共通の将来に向けた共通の展望

48. こうしたあらゆる貢献や道標で、普遍的なアジェンダを持たなければならないという共通の理解が生まれた。人類は、共通する世界的な課題に直面している。今日の問題は国境を越えたものである。最も裕福な国においてさえ、貧困と排斥は存在する。普遍性とは、すべての国が独自のやり方で、世界共通の利益という意識のもとに変化する必要があることを意味する。普遍性は人権の核をなす性質、世代を超えた正義であり、共通の未来のための責任の共有というテーマについて考えさせるものだ。政策の首尾一貫性も要求される。普遍性は、国連憲章の精神において、持続可能な開発のための新たなグローバル・パートナーシップを具体化するものである。

49. すべての人が、人間の尊厳、平等、環境管理、健全な経済、欲望や恐怖からの自由、そして持続可能な開発のための刷新されたグローバル・パートナーシップを確保する、人間を中心に据えた地球に優しいアジェンダを求めて声を上げている。気候変動への取り組みと持続可能な開発アジェンダの促進は表裏一体であり、互いに強化し合うものである。こうした目的を達成するため、人権、法の支配、平等、そして持続可能性の原則を礎とし、科学と証拠に支えられた変革をもたらす普遍的なポスト2015年アジェンダを、すべての人が求めている。

50. あらゆる提言が、MDGsの進行を続けるべきだと強調した。しかし一方で、加盟国に対し、MDGsで解消されなかった、貧困、若者のディーセント・ワーク、すべての人の社会的保護および労働権といった多次元の側面における主たる持続可能な開発のギャップを埋める必要がある、とも強調している。包摂的で持続可能な都市、インフラ、そして産業化が求められている。自由な表現、情報、同盟のため、公正な裁判制度のため、すべての人の平和な社会と安全保障のために、効果的で責任ある、参加型の包摂的なガバナンスの強化が求められている。

51. すべての人が、あらゆるレベルにおいて平等、非差別、衡平、包摂を確保し、誰も置き去りにしないことを要求して声を上げている。最も必要としている人、グループ、そして国に特別な注意を払わなければならない。今は、女性の世紀である。人類の半分が自制し続けるとすれば、我々が自らの可能性を完全に理解することはないだろう。また、貧困層、子供、青少年、高齢者のほか、失業者、地方の住民、スラム生活者、障害者、先住民、移民、避難民、強制移住者、社会的弱者、マイノリティといった人々を包摂する必要がある。これには、気候変動の影響を受けている人々、後発開発途上国、内陸国、小島嶼発展途上国、中所得国、紛争中の国または占領下にある地域、医療上・人道上の複雑な緊急事態に見舞われている土地あるいはテロの影響を受けている土地に暮らす人々も含まれる。そして、すべての人が、あらゆる形の男女不平等、性別による差別、女性や子供、少年少女に対する暴力の終結を求めている。

52. 公の議論は、政府、機関、国民の間に信頼が欠如していることを認め、その回復に取り組んでいくことが急務であると強く訴えている。包摂的で平和な社会の構築が可能な環境を整え、社会的一体性を確保し、法の支配を尊重するためには、平和がもたらす利益を無にしないための機関を国レベルで再構築する必要がある。

53. 現在および将来の世代の衡平性に基づき、共通のしかし差異のある責任と個々の能力に従って、気候変動に取り組むための行動、温室効果ガス排出量の削減を加速化させるための行動、そして地球の平均気温の上昇を摂氏2度以内に抑えるための行動を、すべての人が望んでいる。また、すべての人が、海洋、海洋資源、陸上生態系、そして森林の保護を望んでいる。

54. すべての人が、意義ある経済の変革を求めている。より包摂的、持続的、そして持続可能な成長パターンを求めている。すべての人に対するディーセント・ワーク、社会的保護、堅固な農業制度と地方の繁栄、持続可能な都市、包摂的で持続可能な産業化、強靭なインフラ、そして持続可能なエネルギーを、人々は望んでいる。こうした変革は、気候変動に対する取り組みを支える力ともなる。また、国際貿易を改革し、市場および金融関係者の効果的な規制を確保し、収賄をなくすため積極的に行動し、違法な資金の流れを阻止し、マネーロンダリングおよび脱税と闘い、盗まれた資産や隠された資産を回収することを強く求める声も届いている。

55. すべての意見は、新アジェンダ全体で経済、社会、環境的側面を統合する必要性を強調している。この実現に向けて、あらゆるレベルで首尾一貫性のある規範に基づく政策とそれに伴うグローバル・ガバナンスの仕組み改革、そして持続可能な開発のための刷新された効果的なグローバル・パートナーシップをすべての人が望んでいる。こうしたことは人々の声にもあるとおり、政府およびすべてのステークホルダーの団結、協力、相互の説明責任、そして参加に基づくべきである。

56. すべての人が、結果に対する国民への説明責任を政府、企業、国際組織に課すとともに、地球に害を与える行為が行われないようにするための、厳格かつ参加型のレビューとモニタリングのフレームワークを求めている。情報やデータをより多く、アクセスしやすく、細分化するため、また測定可能な目標およびターゲットのためのデータ革命のほか、国、地域、世界レベルで実施状況をレビューする参加型の仕組みが求められている。

3. 新たなアジェンダの構想

「貧困の克服は、慈善事業ではなく、正義の行為である。奴隷制やアパルトヘイトと同様、貧困は自然現象ではない。人為的なものであり、人間の行動により克服し、根絶することが可能である。時として、偉大であることを期待される世代がある。あなたたちがその世代になれる。あなたたちの偉大さを示そうではないか」ネルソン・マンデラ

3.1 今後に向けて(setting the stage)

57. 今まさに、真に普遍的かつ変革をもたらす道が開かれようとしている。2010年のMDGs首脳会合から国連持続可能な開発会議(リオ+20)、そしてオープン・ワーキング・グループの成果まで、きわめて一貫したビジョンが出てきている。

58. 人間の尊厳と地球の持続可能性は単純な公式へと還元できるものではないため、またその構成要素は相互に大きく依存しているため、そして持続可能な開発は複雑な現象であるため、オープン・ワーキング・グループによるこれほど広範囲にわたる一連の目標やターゲットの提案は、ますます複雑化するグローバル・アジェンダに対する有効な解決策を追い求める国際社会にとって大きな一歩として歓迎されるべきものである。

59. それゆえ、私は国連事務総長として、オープン・ワーキング・グループの成果(表1)を歓迎する。そして、同グループの指導者と、この画期的な作業に参加したすべての人々に対し祝辞を述べたい。この提案がポスト2015年における政府間プロセスの主要な土台になるとの国連総会の決定について前向きに留意する。

60. 国連加盟国は今後数カ月間にわたり、ポスト2015年持続可能な開発アジェンダの最終パラメータについて交渉を行う。このアジェンダには、国連ミレニアム・サミット、2005年世界首脳会合成果文書、2010年MDGs首脳会合、リオ+20の成果を含む主要なグローバル会議の成果やポスト2015年プロセスで表明された人々の声を踏まえ、説得力があり理に適った記述が含まれるべきである。また、現在の政治的コミットメントおよび既存の国際法における義務との十分な一貫性を要求すべきである。測定可能かつ達成可能なターゲットを合わせ持つ具体的目標を設定し、目標とターゲットの間には重要な相互関係が示されるべきである。重要なことは、能力にばらつきがあり、組織制度が弱い諸国の能力面の課題に対応しなければならないという点である。各国に対し、負担を緩和するのではなく、追加的な課題を生じるアジェンダによって過度な負担を押し付けてはならない。このアジェンダには、2015年7月のアディスアベバ会合、2015年12月のパリ(COP21)で合意される予定のものを含め、資金調達およびその他の実施手段に関する真剣なコミットメントが必要とする。そして、報告、進捗のモニタリング、経験の共有および相互の説明責任の確保のため、すべてのレベルにおける強力で包括的な公的メカニズムを含むべきである。

表1 持続可能な開発目標

目標1 あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる

目標2 飢餓を終わらせ、食糧安全保障および栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する

目標3 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する

目標4 すべての人々に対し包摂的かつ衡平な質の高い教育を保障し、生涯学習の機会を促進する

目標5 ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女子のエンパワーメントをはかる

目標6 すべての人々に対し水と衛生の利用可能性および持続可能な管理を確保する

目標7 すべての人々が安価かつ信頼できる持続可能な現代的エネルギーにアクセスできるよう保証する

目標8 持続的かつ包摂的で持続可能な経済成長、およびすべての人々の完全かつ生産的な雇用とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を促進する

目標9 回復力のあるインフラを構築し、包摂的かつ持続可能な産業化を促進し、イノベーションの強化をはかる

目標10 各国内および各国間の不平等を是正する

目標11 包摂的で安全かつ回復力があり持続可能な都市および人間居住を実現する

目標12 持続可能な生産および消費パターンを確保する

目標13 気候変動およびその影響に取り組むための緊急措置を講じる*

目標14 持続可能な開発のために海洋、海域および海洋資源を保全し、持続可能な利用をはかる

目標15 陸域生態系を保護・回復して持続可能な利用を推進し、森林を持続可能な形で管理し、砂漠化に対処し、土地の劣化を防止・転換し、生物多様性の喪失を阻止する

目標16 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを確保し、およびあらゆるレベルにおける実効性と説明責任のある包摂的な機関を構築する

目標17 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

* 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が、気候変動へのグローバルな対応について交渉を行うための第一の国際的、政府間対話の場であると認識している。

Source: Report of the Open Working Group of the General Assembly on Sustainable Development Goals (A/68/970).

61. 新アジェンダの成否は、必要不可欠な主体、新たなパートナーシップ、主要な主体および広範なグローバル市民を触発し、結集させる力を有しているかどうかにかかっている。それゆえ、アジェンダは人々の経験とニーズに呼応するものであって、理解と支持を得ることができるものでなければならない。また、アジェンダと目標は、MDGsよりも幅広く大きな変革が見込める持続可能な開発アジェンダへの移行が確保され、実質的に各国・地域のビジョンや計画の枢要な部分を占めるに至るように、国家レベルでも受け入れられるべきである。

62. この点に関し、リオ+20会議で加盟国から総会に付与されたマンデートを想起し、留意しなければならない。同会議は、次のように表明した。「SDGsは様々な国ごとの現実、能力および発展レベルを考慮に入れ、各国の政策や優先事項を尊重しながらも、行動指向的、簡潔かつ伝達の容易さ、限定された数、野心的、グローバルな性質、すべての諸国に適用可能な普遍性といった特徴を有すべきである」(パラグラフ247)

63. 加盟諸国は、オープン・ワーキング・グループにより定められたアジェンダをポスト2015年政府間プロセスの主要な基礎とすることで合意している。それゆえ、普遍的で変革する力を有するアジェンダという大志を反映すべく、目標とターゲットのフレームワークを策定するという機会を得ているのである。上記17目標を維持しながらも、必要とされるグローバルな意識向上と国レベルでの実施を可能にする、的を絞った簡潔な形に再編する可能性について特に留意しておく。

3.2 変革的なアプローチ

64. 私は、統合された6つの本質的要素を提案したい。これらは、すべて合わせて、2015年9月の持続可能な開発に関する特別首脳会合に先んじて加盟諸国の熟議を促進し、リオ+20会議により付与された簡潔かつ野心的なアジェンダに到達することを可能にすることを目指すものである。

65. こうした本質的要素の背景には、一括して適用すれば持続可能な開発に向け真に普遍的な変革を実現できる原則一式にコミットするよう、普遍的に呼び掛けていくことが急務となっている事情がある。それゆえ、新アジェンダを実施するうえで、次の行動をとらなければならない。

  • 普遍的なアプローチにコミットし、すべての国およびすべてのグループを対象とした解決策を用いる。
  • 経済的、環境的および社会的影響に留意しながら、すべての活動に持続可能性を組み入れる。
  • すべての社会的および経済的グループについて達成できなければ、いかなる目標やターゲットも達成したことにはならないことに合意し、すべての分野において不平等に対処する。
  • すべての行動が、国際基準に完全に合致し、人権を尊重し促進するようはかる。
  • 気候変動の促進要因およびその結果に対処する。
  • データ容量、利用可能性、ディスアグリゲーション、リテラシーおよび共有を高め、信頼性の高いデータおよび根拠を基に分析を行う。
  • 最大限に効果的な実施の手段としてグローバル・パートナーシップを、そしてマルチ・ステークホルダーやテーマ別連合体をはじめとする完全な参加を拡大する。
  • 各国が寄与できる能力に応じ、国際連帯へのコミットメントを新たなものとし、新協定を定める。

3.3. SDGsの遂行に向けた6つの本質的要素

66. 次の6つの本質的要素は、持続可能な開発アジェンダの普遍性、総合性および変革性といった特性から成るフレームワークを策定し、これらの特性を強化するうえで役立ち、オープン・ワーキング・グループの成果において加盟諸国から表明された意欲が翻訳され、伝達され、各国レベルで実施されることを保証する(図1)。

図1 SDGs実施のための6つの本質的要素
図1 SDGs実施のための6つの本質的要素
テキスト

尊厳:貧困根絶と格差是正

67. 2030年までの貧困根絶は、持続可能な開発アジェンダを包括する目的である。私たちは豊かな世界に暮らしており、科学の力を大いに約束された時代に生きている。しかし、地球の至るところの何億人もの人々にとっては、絶え間ない剥奪の時代でもある。現代を特徴づける課題は、すべての人々に対し尊厳ある生を確保するという決意と、貧困が根強く残り、不平等が拡大しているという現実との間にあるギャップを埋めることである。

68. 近年は重要な進捗がみられたものの、ジェンダー不平等への対処と女性の権利の実現は、世界の全地域において依然、大きな課題となっている。今こそ、当該社会の構成員全体、特に若者が開発に参加し、寄与し、受益することから排除されるならば、潜在能力を十分に発揮できる社会は皆無であることを認識すべきである。不平等の他の側面は根強く残っており、悪化している場合さえある。特に所得格差は、より大きくかつ複雑な課題の最もよく目に見える側面のひとつである。これは、世界全体で取り組まなければならない普遍的な課題である。アジェンダは、女性、若者およびマイノリティの声を吸い上げ、土地の人々による十分な情報を得た上での事前の同意を追求し、障がい者、高齢者、青少年が完全な参加を果たすうえでの障害を取り除き、貧困層へ力を与えなければならない。そこから移住者、難民、避難民や紛争・占領下の人々を排除してはならない。

人々:健康な生活と知識、及び、女性と子どもの包括

69. 何百万人もの人々、特に女性および子どもが、未だ終わっていないMDGs達成に向けた取り組みの中で取り残されてきた。女性、若者および子どもにあらゆる保健サービスへのアクセスを確保しなければならない。女性および女子への暴力や搾取は、いかなるものも許さないと保証しなければならない。女性および女子は、金融サービスへの平等なアクセスおよび土地や他の資産を所有する権利を持たなければならない。すべての青少年には、教育の権利があり、学ぶうえでの安全な環境が確保されなければならない。人間開発は、人権を尊重することでもある。

70. アジェンダは、ヘルスケアの普遍的な普及、アクセスおよび廉価性への取り組み、妊産婦、新生児および子どもの予防可能な死亡や栄養不良の終焉、必須医薬品の確保、女性のリプロダクティブ・ヘルスと権利の実現、予防接種の普及、マラリアの根絶とエイズ・結核のない将来像の実現、精神疾患・神経系損傷・交通事故を含む非伝染性疾患の負担の軽減、水と衛生施設および衛生状況に関連したものを含む健康的な行いの増進を扱わなくてはならない。

71. 今日ではこれまで以上に、18億人の若者の現実がダイナミックで情報を十分に得た、かつグローバルにつながった変革のための原動力となっている。新アジェンダにこうした若者のニーズ、選択する権利および声を取り込むことは、成功のための重要な要因となる。若者は小児期早期から初等教育以後の教育まで、適切なスキルと質の高い教育および生涯学習を受けることが不可欠である。これには、生活技能や職業教育・訓練、科学、スポーツおよび文化が含まれる。教員には、技術により推進される安全でグローバルな職場に対応した学習と知識を伝える手段が与えられなければならない。

繁栄:強力、包括的、かつ、変革的な経済の成長

72. 経済成長は繁栄の共有につながるべきである。それゆえ経済の強さは、人々のニーズを充足する程度、そしてそれがどれほど持続可能かつ衡平に行われるかによって測るべきである。すべての人々のためのディーセント・ジョブ、生計および実質所得の上昇を基盤とし、GDPに留まらず、人間の福祉、持続可能性および衡平性を考慮した方法で測定される包摂的成長が必要である。女性、障がい者、若者、高齢者および移住者を含むすべての人々に対しディーセントな雇用、社会的保護および金融サービスへのアクセスを確保することが、経済的成功の目印となる。

73. 持続可能で回復力のあるインフラ、居住地、産業化、中小企業、エネルギーおよび技術への投資および革新は、雇用を創出するだけでなく、環境への負の影響が続く傾向を改善することもできる。能力があり、適切な規制を受け、責任を果たし、十分な利益を生む民間部門は、雇用、生活賃金、成長および公共プログラムのための歳入にとってきわめて重要である。共有価値の創出に向けたビジネスモデルへの転換は、包摂的で持続可能な経済成長にとって不可欠である。

74. 世界に賦存する自然資源の豊かさは、GDPの成長だけでなく、繁栄の共有へとつながるのであれば、圧倒的な経済機会をもたらす。景観管理(農業および森林を含む)、産業化(製造業および生産能力を含む)、エネルギーおよび水・衛生へのアクセスに対する持続可能なアプローチは、持続可能な生産・消費、雇用創出、ひいては持続可能かつ衡平な成長を大きく推進する。また、自然資源の持続可能な管理を促進し、気候変動にも対処する。

地球:すべての社会と子孫たちのための生態系の保全

75. 地球の限界に配慮するため、衡平に気候変動に取り組み、生物多様性の喪失を阻止し、砂漠化および持続不可能な土地利用に対処する必要がある。野生生物を保護し、森林と山地を守り、災害リスクを低減し、回復力を構築しなければならない。海洋、海域、河川および大気をグローバルな遺産として守り、気候正義を実現しなければならない。さらに、持続可能な農業・漁業・食料システムの促進、水資源および廃棄物・化学物質の持続可能な管理の強化、再生可能エネルギーの拡充およびエネルギーの効率化、環境劣化を伴わない経済成長の実現、持続可能な産業化および回復力のあるインフラの推進、持続可能な生産・消費の確保、海洋および陸域の生態系ならびに土地利用の持続可能な管理を行わなければならない。

76. 持続可能な開発は危機に瀕している。というのも、気候システムの温暖化は今や否定できず、その主な原因は人間活動であることが判明しているからである。気候変動の最悪な影響を回避するには、地球全体の気温上昇を2度未満に抑えなければならない。二酸化炭素は、人間が引き起こす気候変動の最大の原因となっている。化石燃料の使用と森林伐採が二大排出源である。温暖化の進行により、過酷で、広範囲にわたる、不可逆的な影響が生じる可能性が高くなる。持続可能な生産・消費に向けた行動をとるまでの時間が長引けば長引くほど、問題解決の費用が膨らみ、技術的な課題も大きくなる。適応により、気候変動のリスクと影響をいくらか緩和できる。最も喫緊の課題は、2015年末までに有意義かつ普遍的な気候変動合意を採択しなければならないことである。

公正:安全で平和な社会と強力な組織・制度の促進

77. 持続可能な開発のために効果的なガバナンスは、すべての国ならびにあらゆるレベルにおける公的機関が包摂的、参加型で、人々に対し説明責任を果たすものでなければならない。法制度は人権と基本的自由を守らなければならない。すべての人々が、差別を受けることなく、恐怖と暴力から自由でなければならない。さらに、参加型民主主義、自由・安全・平和な社会は開発を可能にするのみならず、その結果でもある。

78. 公平な司法制度へのアクセス、民主的ガバナンスによる説明責任を果たす機関、腐敗に取り組み、違法な資金の流れを取り締まるための措置および個人の安全を守るための対策は、持続可能な開発において大きな役割を占める。市民社会や女性、マイノリティ、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)グループ、先住民族、青少年および高齢者の声を反映する擁護者の自由で活発かつ意味のある関与のために、法の支配の下でこれを可能にする環境を確保しなければならない。報道の自由と情報公開ならびに表現・集会・結社の自由は、持続可能な開発を可能にする。児童結婚、早期結婚および強制結婚はいかなるところであれ、これを終わらせなければならない。すべての人々の正義を確保するには、各国および国際レベルでの法の支配が強化されなければならない。

79. 危機や紛争後の社会の再建・復興や再統合を改善する必要がある。国家の脆弱性へ対処し、国内避難民を支援し、人々やコミュニティの回復力に寄与しなければならない。和解、平和構築および国造りは、各国が脆弱性を克服し、結束力のある社会および堅固な組織を発展させるためにきわめて重要である。こうした投資は、開発の恩恵を維持し、将来の逆転を避けるために不可欠である。

パートナーシップ:持続可能な開発のためのグローバルな団結の促進

80. 持続可能な開発に向けたグローバル・パートナーシップの再活性化は、国連ミレニアム宣言およびモンテレー合意ならびにヨハネスブルグ宣言・実施計画で合意された基礎を踏まえなければならない。そして、アジェンダの実施手段の総動員および実施環境の整備に有効でなければならない。野心的な新アジェンダを実施するための支援を確保するには、すべての領域における政治的意志と行動が必要となる。すなわち、国内と国際両レベル、官民両部門、手段としての援助と貿易、規制、課税および投資である。

81. 実施は、単に量だけの話ではない。問題をめぐって団結し、一緒に取り組むことでもある。世界、地域、国および地方といったあらゆるレベルにおいて、包摂的なパートナーシップが実施にあたっての主な特徴とならなければならない。これがどの程度の変革力を持つかはわかっている。持続可能な開発目標により、民間の行動と公共政策を調和させるための共通基盤ができる。変革のためのパートナーシップは、人々と地球を中心に据えることに関する原則と価値、ビジョンの共有と目標の共有を土台としている。これには、関連したステークホルダーすべての参加が含まれる。相互の説明責任が中心を占めている。つまり、規律と責任のある官・民・人々の間のパートナーシップである。

3.4. 6つの本質的要素の統合

82. 持続可能な開発は、経済的、環境的および社会的解決策のための統合的アジェンダでなければならない。その強みは、アジェンダの異なる側面が相互に組み合わさっていることにある。こうした統合は、次に挙げるものに対し、その基礎を成す。すなわち、人々と環境に恩恵をもたらす経済モデル、進捗に寄与する環境的解決策、経済的ダイナミズムに新たに加わり、環境共有財の保全と持続可能な利用に配慮する社会的アプローチ、人権、平等および持続可能性の強化である。すべての目標をひとつにまとまった統合された全体とみなして取り組むことは、規模を大きくすることが必要となる変革を確実にはかるうえで極めて重要となる。

83. アジェンダ自体は、より大きな国際的人権フレームワークを反映しており、発展する権利はもちろんのこと、経済的、社会的、文化的、市民的および政治的権利の要素が含まれる。不遇なグループについては個別のターゲットが設定される。指標は、すべての目標とターゲットについて広く分解して設定する必要がある。

84. 本質的要素は、普遍性の原則を適用することで、さらに統合が進む。すべての国とすべての人々に適用するうえでは、各国のニーズと能力に差異があるという現実も認識しながら、環境的、経済的および社会的相互依存性を考慮に入れる。

85. 最後に、新フレームワークでは表裏一体かつ相互依存関係にある平和と安全保障、開発および人権の目的が掲げられるため、より大きな国連アジェンダを統合するための本当に必要とされる機会が得られる。

86. こうしたことが、全パートナーが持続可能な開発を追及する方法にとって重要な意味合いを持ち、リーダーシップ、政策一貫性、戦略および協力に対するアプローチの変革を必要とするだろう。また、世界、地域および国レベルにおいて国連システム内の活動編成に有益な一体化効果を与えることにもなる。

4. 私たちのアジェンダ実施のための手段の動員

「地球は誰一人一人の必要を満たすのに十分なものを与えてくれるが、一人一人の貪欲さとなるとそうはいかない」マハトマ・ガンジー

4.1 私たちの将来のための資金

87. 持続可能な開発は複雑な課題であり、その喫緊の要素は、膨大な資金ニーズをもたらしている。合意された目標のために資金を調達する手段は、ひとつの解決策では足りず、また、一組の主体が負担するものでもない。資金調達経路すべてを持続可能な開発に向けて最適化し、最大の効果を発揮させるために調整をはかる必要がある。統合された開発アジェンダは、等しく相乗効果のある金融フレームワークを必要とする。各国政府は、二つの主要な開発会議、すなわちモンテレーおよびリオ両プロセスから発展したより良い資金調達フレームワークの整合化に取り組むべきである。また、気候資金との一貫性および調整をはかる必要性も考慮すべきである(図1)。

88. 持続可能な開発のための資金に関するグローバルな話し合いが進んでいる。オープン・ワーキング・グループは、実施手段に関するターゲットをいくつも提案している。持続可能な開発資金に関する政府間専門家委員会は、様々な資金調達経路、すなわち国内公的資金、国内民間資金、国際公的資金、国際民間資金および混合資金を踏まえて立案した政策の選択肢を提示した。こうした経路は、新規および追加資金を集め、既存資金を再配分し、調達を可能なものにすべく支援する環境を整備するといった資金調達課題の公共部門、民間部門、国内および国際各方面にわたっている。BRICS銀行やアジアインフラ投資銀行といった南南協力の新機関の設立は、持続可能な開発への投資に資金を調達する新しい機会を提供する。

89. 私は、専門家委員会が提案した政策の選択肢を歓迎し、各国に対し新アジェンダの要求を満たすために、意欲を高め、詳細をもっと詰めるよう促す。このため、加盟国がアディスアベバに向け準備しているなか、2015年以降の持続可能な開発のための資金調達に向け野心的な道筋に合意できるかどうかは加盟国の双肩にかかっている。

図1 持続可能な開発に対する国際および国内資金源からの資金フロー

図1 接続可能な開発に対する国際および国内資金源からの資金フロー
テキスト

*ボックスの大きさは、資金量や重要さを表すものではない。

**国際公的資金が国際目的の実施を直接支援する場合もあり得る。

***政府系ファンドは公的資金を取り扱うが、民間投資家のように管理されている。

出典: Report of the International Committee of Experts on Sustainable Development Financing (A/69/315).

90. あらゆる公的資金は、すべての社会における最貧困層や最も脆弱な人々にプラスの影響を及ぼさなければならない。政府開発援助(ODA)および他の国際公的資金は、今後も特に脆弱国において中心的かつ触媒的役割を果たしていくことになる。戦略的アプローチならびに使途の規則正しい進捗についても同様である。国連加盟国は、自らのコミットメントを全面的に、しかも時宜の適った方法で履行すべきである。ODAは、未だ終わっていないMDGs達成への対処だけでなく、新しい持続可能な開発アジェンダへの移行にも取り組まなければならない。現在のODA近代化をめぐる論議では、他の資金の呼び水となるODAの資金供与をより一層効果的、かつ対象をより一層的確に定めたものにする重要性を強調する必要がある。これには、後発開発途上国、内陸開発途上国、小島嶼開発途上国および脆弱な状況にある諸国をより重視することも含めなければならない。

91. 経済および社会の中核的機能―例えば社会的保護の床を確保したり、排除を是正したりすること―に必要な国内公共収入を挙げる責任は、主として各国政府にかかっている。国内法および政策は、こうした目的に対し十分かつ適宜に資金を充てるべきであり、公的機関は公共の利益のために行動すべきである。これには、環境的および社会的に健全な政策、人権の推進、堅固な組織および法の支配が含まれる。しかし国内の努力は、支援を行う国際環境によって補完される必要がある。

92. 持続可能な開発目標を達成するには、何兆ドルにも達する民間資金の変革力を動員し、方向を変え、解き放つための緊急行動が必要である。外国直接投資(FDI)を含む長期投資は、特に途上国における非常に重要なセクターに必要である。これには、持続可能なエネルギー、インフラおよび交通、そして情報通信技術が含まれる。公共部門は、明確な方向付けをしなければならない。レビューおよびモニタリングのフレームワーク、規制およびこうした投資を可能にするインセンティブ構造を刷新することで、投資を誘致し、持続可能な開発を強化しなければならない。最高会計検査機関や立法府による監視機能といった各国の監視メカニズムを強化すべきである。

93. 開発協力の効果を高める努力は、被援助国のオーナーシップ、結果重視、包摂的パートナーシップ、透明性および説明責任といった基本原則に基づき、強化していく必要がある。

94. 経済の長期的な脱炭素化、エネルギー・水・食料へのアクセス、持続可能な農業、産業、インフラや交通は、プロジェクト・レベルでの同じ投資を通じてゆくゆくは実現されていく。また、SDGsを達成するための投資の多くは、国内各地方レベルで行われ、地方政府により主導されると考えることも重要になる。

95. また、国際システムに長く蔓延する不平等は途上国にとって不利となっており、これを是正するために真剣かつ迅速に行動しなければならない。より一層衡平な多国間貿易システム、ドーハ・ラウンドの締結、および途上国の技術、医薬品および長期的投資へのアクセス改善が必要である。国際的な金融および経済上の意思決定において途上国・新興国の代表がより一層公平に加わり、国際金融・通貨システムの規制を改善し、安定性を高め、持続可能な債務解決策をはかる必要がある。さらに、貿易、金融および投資における国際ガバナンスの現行モードと、労働、環境、人権、平等および持続可能性の規範および基準との政策的一貫性の欠如を是正し続けなければならない。

96. アディスアベバにおける第3回国連開発資金会議の準備が進むなか、持続可能な開発に資金を手当てし、パリCOP21の成功をお膳立てする具体的な成果が出ることに高い期待が寄せられている。

97. 私は加盟国に対し、特に次の点について検討し、合意するよう強く求める。

98. 先進諸国はすべて、(ODAの)0.7%目標を達成し、2015年までにGNI(国民総所得)の0.15%を後発開発途上国(LDCs)に供与するとのイスタンブール・コミットメントを含む、ODAのコミットメントを履行するための具体的スケジュールについて合意すべきである。LDCs向けODAの比率を低下させずに増加させ、対象をより一層的確に定め、効率性と透明性を高め続けるよう、また、追加的な資金をレバレッジするよう保証することが重要である。後発開発途上国がその地位を脱し、より豊かな国へと円滑に移行することは、自国の開発計画、プログラムおよびプロジェクトに支障を来すことなく、持続可能な開発の軌道に無理なく乗るようはかるうえで極めて重要である。また、税改革の実施能力を促進するための資金を増額し、その結果として国内の資金動員を改善するための対策がとられるべきである。他の国際的なコミットメントもすべて、履行する必要がある。

99. ODAや開発資金調達手段を近代化するいかなる努力も、オープンかつ透明性の高い場で検討し、そこにはできる限り幅広いドナー、被援助国および他の関連するステークホルダーが参加すべきである。

100. 譲許性の水準は、様々に異なる開発段階、貧困の状況および多面性、ならびに行われた投資の具体的種類を考慮に入れるべきである。

101. すべての国に対し、関連政府機関および他のステークホルダー間の継続的対話に基づき、すべての資金フローを考慮に入れた自国の持続可能な開発のための資金調達戦略を採択するよう促す。こうした戦略では、持続可能な開発に関する国内政策、法制度環境および政策一貫性をレビューし、強化すべきである。気候資金を含むすべての資金フローは、被援助国のオーナーシップを高め、被援助国の戦略およびシステムの利用を増やすことにつながるようにすべきである。持続可能な開発のための資金調達戦略が効果を発揮するには、その構成要素が投資可能な経路と結びついていなければならない。各国のビジョン・計画、年次予算および中期支出フレームワークは、自国の持続可能な開発戦略に沿ったものにすべきである。

102. 財政およびマクロ経済政策には、持続可能な開発のための低炭素ソリューションおよび適応と回復力に投資する必要性が含まれなければならない。様々なアプローチを通じた炭素課金は、主要な検討課題とするべきである。有害な化石燃料補助金は、直接・間接を問わず、段階的になくしていくべきである。農業輸出補助金は撤廃すべきである。

103. 公共調達政策はもちろんのこと、民間投資やビジネスモデルを可能にする規制のフレームワーク、インセンティブおよびリスクと利益のプロファイルは、SDGsに沿ったものにしなければならない。

104. すべての国は、持続可能な開発に対する責任ある、かつ説明可能な民間資金の投資を奨励する政策を採用し、また、企業に対して経済・環境・社会・ガバナンス(EESG)報告を義務付け、同時に投資家のインセンティブと持続可能な開発目標との調和を確保するために規制を改定することを検討すべきである。このため、特に中小企業に対しては移行期間の設定と技術支援が必要となろう。

105. 投資政策が、国連のビジネスと人権に関する指導原則、ILOの中核的労働基準および国連環境基準に沿ったものとなるよう保証することに取り組むべきである。また、投資家の優先事項と、こうした投資家が活動する国における人々のニーズとのバランスを十分にとるべきである。

106. 起業家精神を刺激し、支援する政策、また、開発銀行や他の金融仲介業の利用を含め、中小企業の金融アクセスを拡大するための政策が必要である。

107. 各国は、所得、ジェンダー、地理、年齢および他の属性で識別されるグループにおける包摂的なアクセスを強調しながら、金融サービスへの普遍的アクセスの提供に向け努力すべきである。女性の金融アクセスに対する特有の障壁は根絶すべきである。金融リテラシーを拡大し、強力な消費者保護機関を設立すべきである。

108. 混合資金のプラットホームは、特に公共部門が受益するところにおいて大きな潜在能力を有し得る。しかし、検討されているところでは、そうした措置が持続可能な開発に寄与することを確認する予防策に確実に従うよう保証することが重要である。また、社会的ニーズを充足する国家の責任に取って代わったり、損なったりしてはならない。こうした政策は、社会、環境、労働、人権およびジェンダー平等に配慮しながら、公共一般への公正な見返りを確保する必要もある。また、リスク管理として、多様化や複数の同時並行プロジェクトの利用により、あるプロジェクトの損失を別のプロジェクトの利益で穴埋めできるようにすべきである。

109. 加盟国は国際金融機関に対し、持続可能な開発アジェンダにより良く対応するため、多国間および地域開発金融機関の役割、規模および機能を精査するためのプロセス確立を検討するよう求めても良いだろう。

110. 気候資金についてなされた追加のコミットメントは履行すべきであるが、こうした資金および他の資金フローの使用は、断片化につながるのではなく、持続可能な開発の何本かの柱の下での一貫性と相互連関の強化につながるべきである。専門家テクニカルグループに対し、気候資金およびODAを考慮に入れた一貫性のあるフレームワークを策定し、加盟国に提示するよう付託すべきである。

111. 南南協力および新興経済地域による大きな連帯努力は有望である。より多くの国が、国際公的資金への拠出増額を約束し、そのための目標値とスケジュールを設定する必要があるだろう。同様に、南南技術支援や地域フォーラムを通じた経験の共有を促進すべきである。

112. 私は、また、各国に対し、様々な課税(例えば金融取引税、炭素税、航空券税)や課税以外の(例えば排出枠)メカニズムをはじめとするいくつも選択肢の中から、持続可能な開発のための大規模な資金調達に向けた、追加的資金を集める革新的方法の採用を検討するよう強く要請する。

113. 主要経済地域のマクロ経済政策の国際的な調整やグローバル流動性の管理を強化し、支援の継続ならびに反循環的マクロ経済管理のための特別引出権(SDRs)のより一層体系的な発行を検討しなければならない。

114. グローバル金融危機が再来するリスクは十分に低減していないため、すべての国で包括的かつ十分な金融規制を積極的に実施しなければならない。しかし、規制のデザインにあたっては、金融包摂への影響や持続可能な開発への投資インセンティブに配慮する必要がある。

115. 違法な資金フローに対する実効性のある取り組みが急務である。国連腐敗防止条約の履行ならびに盗難資産返還の障害を取り除く措置にもっと積極的に取り組む必要がある。加盟国は、国連の指揮下で、情報交換、司法協力および課税協力に関する政府間委員会の設置を確実にする措置について検討すべきである。

116. 透明性が高く、秩序立った、参加型の国家債務再編に向けた措置を強化する国際努力をさらに強めよう。その第一歩として、関連当局や他のステークホルダーを束ね、現行の討議は続ける一方で、国家債務に関する非公式フォーラムを設置しよう。

117. 移住者の権利を全面的に尊重しながら、送金にかかる費用の低減に努力を傾注すべきである。私は、送金に要する費用の世界平均を5%に低減するというG20諸国のコミットメントを歓迎する。

4.2 持続可能な将来のための技術、科学、革新

118. 現代は、空前の技術革新・変化の時代である。新技術により、持続可能な開発の可能性が広がっている。こうした技術が生み出している解決策、また、可能にしているアクセスのレベルは、2015年以後の世界に対する将来ビジョンにとって極めて重要である。

119. しかし、非常に重要かつ環境にやさしい技術へのアクセスには、国内および各国間で格差が生じており、貧困層や多くの途上国は実質的に締め出されている。多額の公的資金が軍事予算に割り当てられている一方で、公共財のための研究予算は相対的に少ない。公的資金は往々にして、民間部門の研究に対する補助金として支出されるが、公共一般には不利益となるライセンシング(実施許諾)や特許のため、時として研究成果には価格の点で手が届かないことがある。また、持続可能な生産および消費パターンの促進にはなじまない技術革新に対する頻繁な補助金につながることもある。さらに、女性や女子による科学、技術(情報通信技術を含む)、エンジニアリングおよび数学への参加が、21世紀の世界に必要なレベルに達するまでの道のりは依然として遠い。

120. 持続可能な未来に必要とされるのは、今こそ、持続不可能な技術を段階的に廃絶し、持続可能な開発のためのイノベーションとクリーンで環境にやさしい技術に投資する行動を起こすことにある。こうした技術の価格は公正につけられ、途上国向けおよび途上国発を含め、広く普及され、また、公平に吸収されるよう担保しなければならない。

121. 途上国、特にLDCsが、こうした技術へのアクセス拡充から恩恵を得て、ゆくゆくは国内のイノベーションや自前の技術的解決策へと拡大できるようになるための支援が必要となっている。

122. 歴史を振り返ると、有意義な技術進歩は往々にして、マルチ・ステークホルダーによる課題解決型のイニシアティブから生まれた。同様に、持続可能な目標の達成にも、多様な主体間の課題解決型技術提携が必要である。

123. マルチ・ステークホルダーによる協力ならびに新技術の研究・開発・実証・普及(RDD&D)に要する費用をすべてのステークホルダー間で分担するための有効な方法を確立しなければならない。こうしたステークホルダーとは、公共部門、民間部門、市民社会、慈善およびその他のセクターで、先住民族の知識が含まれる。新アジェンダの開始に合わせて発足し、大胆な技術的目標および資源動員のターゲットを設定する用意のある具体的なイニシアティブ(技術を活用するものを含む)を策定する段階へと進まなければならない。そして、知的財産管理体制が持続可能な開発に必要な技術革新に対する正しいインセンティブを付与するよう保証しつつ、最貧困層を含むすべての人々が技術の便益にアクセスできるよう促進しなければならない。人間由来の気候変動を緩和するための努力の一環として、特に低炭素技術が喫緊の課題となっている。

124. 適正技術、特に環境にやさしい技術の開発、普及および移転を加速させることを目的とした国際イニシアティブはいくつも進行中である。しかし、これまでのところ、目の前にある課題への取り組みとしては不十分である。

125. 国連総会の体系的な対話による勧告を踏まえ、私は既存のイニシアティブを基礎とし、これを補完する形でのオンライン型グローバル・プラットホームを設立し、関連するステークホルダーがすべて参加するよう提案する。このプラットホームの目的は、(a)農業、都市および保健を含む持続可能な開発のために非常に重要な分野をはじめとして、既存技術促進のためのイニシアティブとニーズおよび両者のギャップについて洗い出すこと、(b)国連内部も含め、この領域における国際協力および調整を強化し、断片的な状態に対処し、相乗効果を促進すること、(c)クリーン技術イニシアティブの規模拡大をはかっていくため、ネットワーク構築、情報共有、知識の移転および技術支援を促進することにある。

126. 同時に、全加盟諸国に対し次の行動を求める。(a)提案されている後発途上国のための技術バンク(Technology Bank)および科学・技術・革新能力の構築メカニズム確立に向けた措置を早急に最終決定し、(b)技術共有のための協力を拡大し、技術利用のための知識と能力構築、情報通信技術を含むイノベーション能力を強化し、(c)こうした行動を促進する国別および国際的な政策フレームワークに必要な調整を講じ、(d)前述した技術および知識を開発し、これらを途上国にとって有利で譲許的そして優遇的な条件で移転、普及させることを大幅に進捗させ、(e)グローバルな知的財産管理体制ならびにTRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)柔軟性の適用が持続可能な開発の目標と完全に一致し、寄与するよう担保し、(f)公的資金を有害技術から撤退させるコミットメントを個別的に行い、(g)クリーンで環境にやさしい技術のイノベーションから市場、そして公共一般へとつながる好サイクルが加速するよう促進することである。

4.3 持続可能な能力への投資

127. 目標を達成するには、各国はこうした目標を自国の計画、政策、予算、法律および組織制度に組み込む必要がある。実効性を持つよう組織を統合し、持続可能な開発を実施するためのスキルおよび能力を備えた人材を確保する必要がある。各国政府はすべてのステークホルダーと協議しながら、自国の優先順位に従って目標の達成に向けた進捗を支えるための国家戦略および政策をレビューする必要がある。

128. こうした戦略は、地方政府が全面的に関与して、地方レベルでもレビューし、実施しなければならない。多くの場合、首長を含む地方当局者はすでに、持続可能な開発を果たすため先頭に立っている。組織および人材の能力は、実効性のある実施およびモニタリングに向けて強化する必要のある場合が多い。これには、ニーズの評価、データ収集、セクターおよび組織を横断した対応の形成に関する能力強化が含まれる。

129. 行政、立法および司法は、こうした努力において各自の機能を発揮する能力が必要となる。また、市民社会の諸組織も、批判的で独立した役割を果たす能力を持たなければならない。

130. 途上国に対して能力構築のための支援が必要となる。特に、LDCsやポスト紛争国のニーズは急を要する。このため、国連は能力構築に果たす自らの役割を再活性化させ、改善する取り組みを行っているところである7。しかしここでも、国連のみならず、プロセスに参加するすべてのパートナーによる規模拡大が特に短期的にみて必要となっている。

131. 我々が能力構築をはかり、新アジェンダが根付くよう支援していくにあたり、実施のためのもうひとつの強力かつ横断的な手段はボランティア活動である。ボランティア活動は、協働する主体を拡大し、結集させること、また、持続可能な目標に関する国別計画の策定および実施に人々を関わらせることに寄与できる。そしてボランティア・グループは、具体的で規模の拡大が可能な行動に関する政府と人々との間の双方向のやり取りに新しいスペースを作り出すことで、新アジェンダを各地方に適したものへ変えることに資する。

132. 最後に、求められている変革には、文化の力も結集しなければならない。世界は多様な文化から成る複雑なモザイクを呈しており、そこから得られる情報により、持続可能な開発とはどのようなものかについて理解が進んでいる。我々が望む世界を築くうえで、文化からはまだまだ多くを学ばなければならない。成功を果たすには、新アジェンダが機関と政府の排他的な領域に留まっていてはならない。人々から支持を得なければならないのである。それゆえ、様々な側面を持つ文化は、新アジェンダを支えるうえで重要な力となる。

5. 私たちのアジェンダの実現に向けて:責任の共有

「開発においては、不自由の主な原因を取り除かなければならない。貧困と専制、乏しい経済的機会と系統立った社会的剥奪、公的機関の怠慢と圧政国家の不寛容および過剰行為などである」アマルティア・セン

5.1 新たなダイナミクスの測定

133. 持続可能な開発の進展は、人口増加と長寿化に歩調を合わせるとともに、雇用、賃金および社会プログラムのための歳入を生じる活発な経済と包摂的な成長にかかっている。しかし、経済を包摂的かつ持続可能なものとするには、経済のパフォーマンスとそれを計測する指標についてより一層幅広く、深く、正確に理解しなければならない。

134. 国民経済計算において、持続可能な生産および消費パターンを考慮に入れる方法について再考する必要がある。社会的および環境的に有害な活動と社会的財とを区別しない尺度、衡平性と費用および便益の配分を考慮しない尺度、将来の世代への影響を含まない尺度は、持続可能な未来への水先案内として役に立たない。

135. 加盟諸国は、国内総生産を超えて、持続可能な開発の進捗度をはかる尺度を策定する現行イニシアティブを土台とすることの重要性を認識している。それゆえ、GDPを超える代替的尺度または進捗度の策定への取り組みに対し、国連、国際金融機関、科学界および公的機関は熱心に注目しなければならない。こうした指標は、社会的進歩、人間の福祉、正義、安全、平等および持続可能性の計測に真正面から焦点を当てなければならない。貧困尺度は、貧困の多面性を反映すべきである。主観的な福祉の新尺度は、政策立案のための新しい重要なツールとなる潜在可能性を持つ。

136. 持続可能なアジェンダを実現するためには、計測可能なターゲットと技術的に厳密な指標も必要である。この点でも、加盟諸国は強い統合効果を持つターゲットを数多く提案することで、プロセスを大きく前進させているが、達成する必要のあるものの内容を定義するうえでも大きな役割を果たしている。しかし、目標に対して確固とした態度を維持し、対応している加盟国が多い一方、アジェンダのための指標を策定する現行作業に大きく寄与している国は多くない。ターゲットの中には、すでに合意しているよりも控え目に抑えられているものも少数存在するが、政策変更へのコミットメントが担保できるところでは改善しているものもある。

137. 今必要なことは、既存の国連基準および合意が示す重要な政治的バランスを維持しながら、これらに合致し、具体的で、計測可能かつ達成可能な言語からそれぞれが成るよう確保するための技術的レビューである。このために、国連システムの技術的専門家が利用可能であり、実施手段に関するものを含むターゲットをレビューしてもらい、既存の国際的なターゲット、コミットメント、基準および合意の水準とそれぞれの野心水準を比較、整合化し、目標の全体的なフレームワークを強化することができる。これは、開発資金の討議に一貫性を付与することにも資する。.

138. また、提案されているターゲットが計測可能な言葉で述べられているところでも、定量的なターゲットが特定されていない。加盟諸国は、個別のグローバル・ターゲット水準を設定するための根拠に関し、学界および科学界のパートナーと協議しながら、国連システムからインプットを求めてもよいだろう。.

139. 適用可能な指標一式を特定し、信頼性の高いデータを収集、比較、分析し、2016年現在において十分な非集計レベルでそうすることが可能となるようにする必要がある。このため加盟諸国は、他の関連専門家との協議ならびにマルチ・ステークホルダー対話を通じ、国連システムに対し指標一式の案を策定するよう付託する決定をくだしてもよいだろう。

5.2. 未来への指針:新たなアジェンダにおけるデータの役割

140. 持続可能な開発を実現するための根拠に基づく経路が求められている。このため、横たわる複雑な課題に向き合い、様々な国別の事情や能力に対応しなければならない。

141. 国連事務総長の持続可能な開発のためのデータ革命に関する独立専門家諮問グループが指摘しているように、新アジェンダに対応する課題に目を向けるのに必要なツール、方法、能力および情報を備えるため、新しい「データ・リテラシー」を世界は獲得しなければならない。これを実施するための基礎を成すのは、各国および国際的な統計能力、厳密な指標、信頼性が高くタイムリーなデータ一式、新しく非伝統的なデータ・ソースおよび不平等を明らかにする広範かつ体系的なディスアグリゲーション(非集計化/分解)である。

142. 要するに、プライバシーの権利を守る義務に決して妥協することなく、公共一般に対する透明性、情報共有、参加型モニタリングおよびオープン・データに対するコミットメントを最大限行わなければならない。また、新アジェンダにきわめて重要なデータの生成、収集、非集計化、分析および共有する能力が喫緊に必要な国および国家統計局に対する支援を拡大しなければならない。

143. このため、国連統計委員会の下、データに関する包括的行動計画を発足させるよう勧告する。これには、グローバルなコンセンサス、データの準拠原則・基準、イノベーションおよび分析を進めるデータ・イノベーション・ネットワーク網、各国のデータに関する能力を支援するための新規革新的資金およびリーダーシップとガバナンスを促進するグローバル・データ・パートナーシップの構築が含まれる。.

144. 特に、各国の専門家と密接に協力し、既存のデータおよび情報のギャップについて掘り下げた分析を実施したうえで、現代的なSDGモニタリング・システムを構築するために必要な投資規模を決める。マルチ・ステークホルダーによる持続可能な開発データのためのグローバル・パートナーシップ構築に向け触媒の役割を果たし、データ革命を持続可能な開発のために役立てるうえで必要な行動へと牽引し、調整を行い、包摂的な「持続可能な開発データに関する世界フォーラム」の開催といったイニシアティブを促進する。.

5.3. 進捗を測る:モニタリング、評価、報告

145. 新アジェンダを成功へと導くには、新アジェンダが市民社会や責任あるビジネスを含む人々とその(中央および地方)政府との契約の一部にならなければならない。議会は、民主主義を深化させ、憲法により付託されている監督を履行するために強化されなければならない。企業はすべからく納税し、また、労働基準、人権および環境を尊重しなければならない。市民社会はエンパワーメントをはかり、行動やアドボカシーを通じ、大義のために結集し、持続可能、衡平かつ繁栄した未来に寄与しなければならない。

146. 今こそ、責任を共有する文化、すなわち合意された普遍的規範、グローバルなコミットメント、共有されているルールと根拠、共同行動および進捗のベンチマークに基づく文化を尊重しなければならない。求められる説明責任の新パラダイムは、北から南へのコンディショナリティのひとつでなく、また南から北へのものでもなく、すべての諸国における政府、国際機関、民間部門の主体、市民社会組織といった全主体が人々に対して負うコンディショナリティである。これは、人々を中心に据え、地球に対する感受性が強い開発にとって真の試金石となる。

147. こうしたモデルは、各国のオーナーシップ、広範囲な参加および十分に高い透明性を基礎にして初めて構築できる。このモデルが効果を発揮するには、ポスト2015年開発アジェンダおよびその新目標と軌を一つにしなければならない。効率を高めるには、合理化し、既存のメカニズムおよびプロセスを用いなければならない。根拠に基づくには、データ革命に根差し、そこから指標やデータが生じなければならない。真に普遍的であるには、国内および国際両レベルにおける官民両部門の主体すべてに適用されなければならない。相互レビューの機会ならびに地域およびグローバルレベルの相互支援を含まなければならない。

148. この数カ月間における国連での協議では、進捗をモニタリングする自発的、国家主導型、参加型、根拠に基づく、重層的なプロセスの必要性が強調されている。

149. それゆえ、こうした原則を踏まえて構築される普遍的なレビュープロセスは、一国レベルで開始することができ、国、地域およびグローバルレベルのレビューに情報を提供する。あらゆるレベルにおいて、レビューの議論は公開で参加型、幅広くアクセスでき、また、事実、データ、科学的知見および根拠に基づく評価を踏まえるべきである。主なコンポーネントしては次が含まれるだろう。

i. 説明責任のための国主導、国内コンポーネント。レビュープロセス全体において、人々に最も近い国内コンポーネントは最も重要になるべきである。国家ならびに地方の既存メカニズムおよびプロセスを土台として、中央・地方政府、議会、市民社会、科学界、学界およびビジネスを含む広範なマルチ・ステークホルダーが参加する。ベンチマークの確立、国家政策フレームワークのレビュー、進捗の見定め、教訓の学習、解決策の検討、フォローアップおよび報告を担う。報告に関しては、政府報告書、国内の非政府主体からの寄稿を含む国別ステークホルダー報告書、国連機関や国際金融機関からの既存情報およびデータをとりまとめた報告書があり、すべてグローバルに統一されたフォーマットに基づいており、各国の進捗度に関する書面での主要なインプットとなる。

ii. ピア・レビュー(相互審査)のための地域コンポーネント。地域および小地域のニーズに合わせて調整し、参加型マルチ・ステークホルダー・プロセスにおいて既存メカニズムにより行われるもので、国別報告書を検討し、地域の動向、障害、共通性、ベスト・プラクティスおよび教訓を明らかにし、また、解決策と相互支援・解決を生じていく。地域レビューには、国連地域経済委員会、アフリカ・ピア・レビュー・メカニズム、アジア太平洋持続可能な開発フォーラム、持続可能な開発に関するアジア太平洋フォーラム、欧州経済委員会(ECE)環境パフォーマンス・レビュー、OECD/DACピア・レビューといったメカニズムの経験と成功を取り入れ、発展させる。

iii. 知識共有のためのグローバル・コンポーネント。参加型、マルチ・ステークホルダー、そして重要な普遍的レビューのフォーラムとして、新アジェンダの開始に合わせて発足させる。これはハイレベル・政治フォーラム(HLPF)の下で毎年招集される。フォーラムでは、各国が自発的に自国の進捗レビューを発表し、各国のアジェンダ実施プロセスから引き出される教訓について討議する定期的な機会が与えられ、また、目標達成に関する短期的アウトプットおよびその影響が及ぼす長期的なアウトカムの両方についてレビューする場となる。加盟諸国は、HLPF下で行われる5年サイクルの多年度レビューについて検討すべきである。

iv. テーマ別コンポーネント。持続可能な開発フレームワークに関し一定の間隔でグローバルな進捗を見定め、課題やボトルネックの特定に役立ち、特定されたものに対処するための行動を結集させる。こうしたテーマ別レビューはHLPFの下で実施可能であるが、関連する調整とレビューの「プラットホーム」に依拠する。こうしたプラットホームには、国連および他の多国間機構、関連する条約機関のレビューやアウトカム、加盟諸国、市民社会・学界・民間部門のパートナーを招集する既存の専門/機能別委員会や評議会が含まれ、各テーマ分野についてモニタリングを行い、進捗をはかる。また、既存のパートナーシップにもリンクさせ、効率的かつ効果的な行動と説明責任を確保することができる。このプロセスを支援し補完するため、また、進捗の継続的な計測を担保するため、国連はリオ+20で義務付けられた「持続可能な開発に関するグローバル報告書」と共に、利用可能なデータをとりまとめてテーマ別のグローバル報告書を毎年発表する。

v. 持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップをレビューするコンポーネント。パートナーシップの重要な要素および実施に必要な手段の動員についても、積極的にレビューし続けなければならない。アディスアベバでの第3回国連開発資金会議の準備が進んでいるところであるが、加盟諸国はこの機会をとらえて、効果的な開発協力のためのグローバル・パートナーシップを含め、持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップをレビューし、強化するうえで、既存の体制やプロセスをいかに役立てられるかについて検討すべきである。また、このコンポーネントで行われるレビュープロセスのもうひとつの重要な役割は、LDCs、内陸開発途上国(LLDCs)および小島嶼開発途上国(SIDS)の特殊な条件およびニーズを対象に各会議の足跡を追うことである。

150. これまでに述べてきた普遍的レビュープロセスは、現在の政府間機構の体制で実施できる。国連経済社会理事会(ECOSOC)および国連総会の下に招集されるHLPFや国連環境総会の設置は、リオ+20会議に由来する重要な制度的革新であった。そして、ECOSOCの改革も、もうひとつの重要な一歩であった。

5.4 持続可能な将来に向けた国連の適格化

151. この新しい普遍的な持続可能な開発アジェンダにより、国際社会は各国による次世代の持続可能な開発目標の達成に向けた実施を支援するため、「目的に適合(fit-for-purpose)」しなければならない。実施に関与する者は全員、新しいパラメータと変革をもたらす要素を受け入れる必要がある。国連は2030年までの持続可能な開発アジェンダの討議を主導し、策定に大きな役割を果たしてきており、国連とても例外ではない。

152. ポスト2015年開発アジェンダを実施するため「目的に適合した」国連システムは、適切性、革新性、機動性、包摂性を備え、調整がなされ、結果を重視する。そして、普遍的な人権および国際規範に導かれ、国連の規範的フレームワークをその業務に統合し、様々に異なる各国のニーズに対応する。要請があれば専門的な助言を行い、統合的なアプローチを確実に実施させることに等しく熟達しており、各加盟国の多セクターにまたがる複雑な課題への取り組みに対しより良く支援するための関連スキルを何組も持ち、セクターの垣根を越えて活動する。外部パートナーの専門性、能力および資源を活用するため、効果的なパートナーシップを築く。こうした国連システムには、共有する目標、ビジョンを持ち熱心に取り組むリーダーシップ、グローバルで、熟練した、順応性のある国際公務員が必要となる。また、最高水準の説明責任、透明性および影響を確保しなければならない。

153. そのため国連システムは、持続可能な開発を支える自らの組織すべての専門性と能力を効果的に活用するため、より一層協働して取り組む決意である。各国レベルでは、国連国別チームが国内ステークホルダーに対し新ポスト2015年開発アジェンダを実施していくための一貫した支援を行う一方、持続可能な開発に向け大きな成果をあげるための「一体となった実施」標準業務手続きをさらに加速して履行していく。データおよび根拠のより効果的かつ透明性の高い利用や、不平等、リスクおよび脆弱性に対処するための分析能力の強化にも重点が置かれる。国連システムは、より革新的で統合が進んだビジネスモデルの開発と、効率化と影響の拡大をはかるための現代的な業務実践を追求し続ける。

154. また、新ポスト2015年持続可能な開発アジェンダを支援するために、遂行能力が高く、機動性と多様性を備える職員の配置を確保するための現行努力をさらに深めていく。さらに、各国連機関の専門性と特殊性を活用して、多セクター間にまたがる複雑な課題により良く対処するため分野や機能の垣根を越えて活動できるようにしなければならない。国際社会の変化し続けるニーズを満たすことのできる独立性、熟練性および熱心さを備える国際公務員は、国連の主要な比較優位である。場所、マンデートおよびビジネスモデルを問わず、遂行能力の高い職員の採用、保持および展開に投資していく。

155. 非常に重要なことは、国連がもっと「目的に適う」ようになるため、加盟諸国も支援における一貫性を強めなければならない点である。これは特に、国連システムのガバナンスと資金拠出に関係する。長期的な支援ならびに資金のプール化を可能にし、開発と人権のための資金を一括する開発資金の持続的な供与は、開発政策フレームワークを細分化するのではなく統一する一貫した国連資金調達メカニズムと同じように極めて重要である。

156. 加盟諸国はこうした背景を踏まえ、現在講じられている行動を強化するとともに、国連システムが「目的に適う」ことで、この新しい変革をもたらす開発アジェンダを支え、各国レベルで開発主体の調整と一貫性を達成するよう担保するためのイニシアティブを講じてもよいだろう。

6. 結論:普遍的な約束の共有

157. 今日の世界は、問題を抱えた世界である。不安と混乱が渦巻いており、痛みを伴う政治的混乱にも事欠かない。社会の緊張は深刻さを増しており、その原因は共通の価値の浸食、気候変動および不平等の拡大から、移住圧力ならびに国境を越える世界的流行病にまでわたる。また、国家および国際機関の強さが真剣に試されている時代でもある。こうした気が遠くなるような凄まじい数の課題について、その性質と範囲から見ると、「何もしない」や「これまでの踏襲」という選択肢はいずれも却下されなければならない。もしグローバル社会が人々に奉仕するため国家的・国際的リーダーシップを発揮しないのであれば、断片化、不処罰および争いがさらに悪化するリスクが高まり、地球および平和・持続可能な開発・人権の尊重が確保される未来の両方が危機に瀕することになる。要約すれば、現世代は社会を変革する義務を負っているのである。

158. それゆえ、2015年はグローバルな行動を起こす時である。この1年間で、持続可能な開発を採択し、ニーズに見合った形にグローバル金融システムを再構築し、人間由来の気候変動の課題にようやく、かつ喫緊に対応するという明確な機会を持ち、明瞭な責任を負う。世界が1年でこうした複雑なアジェンダに直面しなければならなくなるのは未曽有のことである。そして、現世代がこうした比類のない機会を持つことは二度とないだろう。

159. 持続可能で尊厳ある未来に向け、最初の断固とした一歩を踏み出さなければならない。目指すのは変革である。経済、環境および社会を変革しなければならない。従来の思考様式、行為および破壊的なパターンを変えなければならない。「尊厳」、「人々」、「繁栄」、「地球」、「正義」および「パートナーシップ」から成る統合された本質的要素を尊重していかなければならない。国際平和と安定を希求する結束力のある社会を構築しなければならない。そして、あらゆる加盟国の国益に照らして、良い国際的解決策を優先しなければならない。

160. 政治的意志と各国および多国間システムを強化するために必要な資源とを皆で一緒に動員するならば、このような未来は可能となる。こうした課題を克服するための手段と方法はある。あとは、これらを用いることを決意し、団結して取り組むかどうかの問題である。加盟諸国が今こそ、国および国際レベルで持続可能な開発のために世界規模の行動に向け結集するならば、国連は国連憲章の原則と目的を履行する第一義的な普遍的機構としてその価値を証明することだろう。

161. 全体としてみれば、我々に現在課せられている仕事は、身が引き締まり、奮い立たせるような挑戦である。国連創設以来、最も重要な開発の年を目前に控えている。「人間の尊厳および価値への信念をあらためて確認する」という国連の公約に意味を与えなければならない。我々は、このたぐいまれなプロセスならびに未曽有のリーダーシップを得て、現実をすべての人々の尊厳ある生へと転換させるために、果敢かつ精力的に、そして迅速に行動する歴史的な機会と義務を負っているのである。

脚注

訳注:本報告書は、第69回国連総会、議題13(a)及び115「経済、社会、及び、他の関連分野に関する主要な国連持続可能な開発会議及びサミット成果の統合的かつ調整のとれた実施とフォローアップ、及び、ミレニアム・サミット成果のフォローアップ」に向けて2014年12月に公表されたものである。

1ミレニアム目標報告書(2014)

2A/68/202 及び Corr. I, sect. III.A.

3A/69/554 参照。

4A/69/315 参照。

5A/68/970 及び Corr. 1, annex 参照。

6同上。パラ18。

7Quadrennial Comprehensive Policy Review of United Nations Operational Activities for Development(A/67/93-E/2012/79、最新版)参照。


original PDF:
http://www.un.org/disabilities/documents/reports/SG_Synthesis_Report_Road_to_Dignity_by_2030.pdf

日本語訳原典:
国連事務総長ポスト2015年アジェンダに関する統合報告書(IGES仮訳)「2030年、尊厳への道:貧困を終わらせ、全ての人々の生活を変革し、地球を守る」
http://pub.iges.or.jp/modules/envirolib/view.php?docid=5541