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WHO『障害に関する世界報告書(World Report on Disability)』発表

2011年6月

 世界保健機関(WHO)と世界銀行は、史上初の世界規模の概算データを提供する「障害に関する世界報告書(World Report on Disability)」を発表した。
 この報告書は世界の380名以上の専門家の協力により作成された。これは障害者権利条約を実施する国々にとって重要な資料である。
重要な発見は、障害のある人々が、医療提供者の技術が自分たちのニーズを満たすには不十分で、必要な医療を受けられないと報告する傾向が強いということである。また、開発途上国では、障害のある人々の医療費の負担、就学率、就職率において顕著な問題が見られる。
 報告書では具体的に、障害の理解と評価のために、「健康」「リハビリテーション」「支援とサポート」「環境」「教育」「雇用」と章を分け、それぞれの章で、障害のある方々が抱えている障壁を各国がどのように克服しているのかケーススタディを示している。
 また、政府とその開発パートナーに対し、障害のある人々にすべての主流サービスへのアクセスを提供し、特別なプログラムとサービスに投資し、国家障害戦略と行動計画を導入するよう提言している。さらに、一般の人々の障害に対する認識と理解の向上に取り組み、さらなる調査研究と研修を支援しなければならないとしている。そして、これらの取り組みの企画と実施においては、障害のある人々の助言と参加を得ることが重要であるとしている。

「障害に関する世界報告書」のフルレポートは、「PDF」、「アクセシブルなPDF」、「DAISY版」で、また、サマリーは「アクセシブルなPDF」、「DAISY版」でダウンロードできる。
点字版(英語、スペイン語、フランス語)はオーダーすることも可能である。
詳細URL:
http://www.who.int/disabilities/world_report/2011/report/en/index.html (英語)

ニュースリリース

出典:WHOウェブサイト
http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2011/disabilities_20110609/en/index.html(英語)

新たな『世界報告書』によれば、10億人以上の障害のある人々が日常生活で重大な障壁に直面

政府は、主流サービスの利用を可能にし、障害のある人々の広大な可能性を開く特別プログラムに投資する取り組みを強化するべき

2011年6月9日 ニューヨーク―世界保健機関(WHO)と世界銀行は今日、世界で10億人以上が何らかの形の障害を抱えていると推定されると新たに発表した。そして政府に対し、主流サービスの利用を可能にし、障害のある人々の広大な可能性を開く特別プログラムに投資する取り組みを強化するよう強く求めた。

世界規模の概算データを提供する『障害に関する世界報告書(World Report on Disability)』

史上初の『障害に関する世界報告書』では、過去40年間で初めてとなる障害のある人々に関する世界規模の概算データと、世界における障害のある人々の状況の概観を示している。新たな調査研究から、世界の障害のある人々の推定総数の約5分の1にあたる1億1千万人から1億9千万人が、重大な困難に直面していることが明らかになった。報告書は、障害のある人々のニーズに応える適切なメカニズムを持つ国はほとんどないと強調している。障壁には、スティグマや差別、適切な医療とリハビリテーションサービスの不足、アクセシブルではない交通機関や建物、情報通信技術などがある。このため、障害のある人々は障害のない人々に比べて、健康状態が悪く、学業成績が低く、経済的な機会に恵まれず、貧困率が高くなってしまう。

「障害は人生の一部です」と、WHOのマーガレット・チャン(Margaret Chan)事務局長は言う。「私たちのほぼ全員が、人生のある時点で、永続的にあるいは一時的に、障害を負うようになるでしょう。障害のある人々を差別し、多くの場合社会の片隅に追いやってしまう障壁を打ち破るために、さらに努力していかなければなりません。」

「障害を抱えながら生きている人々の、医療、教育、雇用、その他の開発ニーズに取り組むことは、ミレニアム開発目標の達成に欠かせません」と、世界銀行グループのロバート・B・ゾーリック(Robert B. Zoellick)頭取は語る。「障害のある人々が地域社会に参加し、貢献する機会を平等に得られるように、支援しなければなりません。障害のある人々は、公平なチャンスを与えられれば、多くをもたらすことができるのです」

重要な発見と提言

報告書からは、障害のある人々が、医療提供者の技術が自分たちのニーズを満たすには不十分であると報告する傾向が2倍以上であること、また必要な医療を受けられないと報告する傾向が3倍近くであることがわかる。低所得国では、障害のある人々が高額の医療費を負担することになる傾向は、障害のない人々よりも50%高い。障害のある子どもは障害のない子どもに比べて、就学傾向が低く、学校残存率も低い。OECD諸国では、障害のある人々の就職率(44%)は、障害のない人々の就職率(75%)の半分をわずかに上回る程度である。

報告書では、政府とその開発パートナーに対し、障害のある人々にすべての主流サービスへのアクセスを提供し、支援を必要としている障害のある人々のための特別なプログラムとサービスに投資し、国家障害戦略と行動計画を導入するよう提言している。さらに政府は、一般の人々の障害に対する認識と理解の向上に取り組み、この分野におけるさらなる調査研究と研修を支援しなければならない。これらの取り組みの企画と実施においては、障害のある人々の助言と参加を得ることが重要である。

報告書では、障害のある人々がサービスやインフラストラクチャーを利用し、情報や職を得られるようにするために世界各国で採用されている多数の方法を、特に重視している。

  • モザンビークとタンザニア連合共和国では、点字と手話により情報提供する研修ワークショップで、HIVに関するメッセージを障害のある若者に確実に届けている。
  • ウガンダでは、「持続可能な内反足ケアプロジェクト」を通じ、内反足は矯正できるという一般の人々の認識を高め、足部装具の提供を促進し、プライマリーヘルスケア担当職員を養成し、交通費を補助することで、内反足の子供たちの発見とリハビリテーションの促進を図っている。
  • ブラジルのクリティーバでは、総合公共交通システムにおいて、ユニバーサルデザインの導入と、運転手およびその他の職員の啓蒙により、障害のある人々のアクセスが改善されている。
  • ベトナムでは、政策を改正し、校舎をアクセシブルにし、生徒に個別の特別支援を提供し、学校経営者、教師および親に対する研修を行った結果、障害のある子どもが普通学校で学べるようになった。
  • マレーシアでは、「再就職プログラム」を通じ、リハビリテーションサービスと福祉支援の調整が行われ、労働災害関連の障害のある人々が再びフルタイムの仕事に就けるようになった。

著名な理論物理学者のスティーヴン・ホーキング(Stephen Hawking)教授は報告書を歓迎し、「私たちには障害のある人々の参加を阻む障壁を撤廃し、その広大な可能性を開くために十分な資金と専門知識を投じる道徳的義務があります。(中略)障害のある人々の社会生活へのインクルージョンにとって、今世紀が記念すべきターニングポイントとなることが私の願いです」と語った。

150近くの国と地域統合機関とが障害者権利条約(CRPD)に署名し、100の国と機関とがこれを批准して、障害のある人々が社会に完全参加できるよう、障壁を撤廃すると約束した。『障害に関する世界報告書』は380名以上の専門家の協力により作成されたが、これはCRPDを実施する国々にとって重要な資料となるであろう。


『障害に関する世界報告書』発表に関する声明

世界保健機関(WHO)事務局長
マーガレット・チャン(Margaret Chan)博士

『障害に関する世界報告書』発表に関する声明
アメリカ合衆国 ニューヨーク
2011年6月9日

出典:WHOウェブサイト
http://www.who.int/dg/speeches/2011/disability_20110609/en/index.html (英語)

掲載者注:この声明は、2011年6月9日、国連で開催された「障害に関する世界報告書」の発表記念セレモニー(Launch of the World report on disability)でのマーガレット・チャン氏のスピーチです。

ご来賓の皆様、そしてご出席の皆様、

 今日ここに、史上初の『障害に関する世界報告書』を発表できますことを喜ばしく思います。3年前、歴史上重要な障害者権利条約が発効されたのは、ここ、ニューヨーク国連本部でのことでした。
 この報告書は、障害に関する現在までのもっとも国際的な評価を提供するものですが、それは、この複雑なテーマにかかわる最新の科学的根拠にもとづいております。報告書では、世界に向けて1970年代以来初めてとなる新たな推定有病率が示されていますが、これによれば、10億人以上が何らかの形の障害を抱えています。
 そのうち約1億1千万人から1億9千万人が、日常生活できわめて重大な困難に直面しています。事実、障害のある人々のほとんどが、生活のあらゆる場面で困難と向き合っているのです。
 今日開会宣言をなさったファウスティナ・ウラッサ(Faustina Urassa)さんは、このような困難がご自身の生活にもたらす影響を、とてもわかりやすく説明してくださいました。

報告書から明らかなように、最大の障壁には、スティグマと差別、適切な医療およびリハビリテーションサービスの不足、そしてアクセシブルでない交通機関などがあります。また、学校や職場などの建物の設計や、情報通信技術の様式に由来する障壁もあります。
 『障害に関する世界報告書』は、このような弱い立場にある人々が、私たちが暮らす社会からどの程度取り残され、またサービスを受けられずにいるかを実証しています。
 たとえば医療分野では、障害のある人々が、医療提供者の技術が自分たちのニーズを満たすには不十分であると報告する傾向が2倍以上となっています。また、ひどい扱いを受けていると報告する傾向は4倍です。そして、必要な医療を受けられずにいると報告する傾向は3倍近くに上ります。
 このような障壁のために、障害のある人々は障害のない人々よりも、健康状態が悪く、学業成績が低く、経済的な機会に恵まれず、貧困率が高くなっています。
 私たちは、障害が社会的排除と関連していることを、なぜか本能的に知っています。けれども今、この報告書は、非常に詳しく、そして確固たる根拠をもってその証拠を提示し、私たちの注意を促し、私たちに行動することを強く求めています。

ご出席の皆様、

 この2011年AIDSハイレベル会合と時期を同じくして、『障害に関する世界報告書』が発表されますことは、まったくもってふさわしいと私は思っております。
 HIVと障害の結びつきは強く、HIVは障害を引き起こす可能性があること、そして障害のある人々のほうが、HIVに感染する危険性が高いことも明らかにされています。障害のある人々は、予防と治療へのアクセスが乏しく、性的暴力の犠牲者となる傾向が高くなっています。
 私の考えでは、健康に関する情報と自発的カウンセリング、そして検査サービスを、障害のある人々に確実に提供することが、最優先事項として達成されなければなりません。
 障害への取り組みには、多くの部門の支援が必要です。その最たるものとして、この報告書は、WHOと世界銀行が連携し、その他の国連機関および市民社会団体と協力して作成されました。
 この報告書の作成には、障害のある人々自身とその代表団体が中心となって取り組みました。これは総合的なうえにインクルーシブな報告書です。私は独自の貢献をしてくださった皆様全員に感謝しております。皆様は、実践的なガイドとしての報告書が取り扱う範囲を大きく広げ、その価値を大いに高めてくださいました。

 障害者権利条約は、各国が何をすべきか、指針を示しています。この『障害に関する世界報告書』は、それをどのようにするべきか、助言を提供するものです。約150の国と地域統合機関とがこの条約に署名し、100の国と機関とが批准しました。これは、約束の確かなしるしです。
 この報告書をもって、これらの国と機関は今や、約束を果たすためのデータと情報、実践的な助言を手にしました。そしてこの約束には、障害のある国民を主流に組み込むということも含まれています。
 ご安心ください。WHOはその責任を果たしていきます。

 事実、私たちはすでに動き出しています。WHOの障害に関するタスクフォースを通じて、私たちは情報関連の製品、各種施設、また雇用の機会へのアクセスを改善してきました。さらに、WHOにおける関連のあるすべての専門プログラムの活動に障害が統合されるよう、取り組んできました。
 WHOは、政策開発、能力構築、そして技術支援の分野においてガイダンスを求める、いかなる加盟国をも支援する用意があります。
 データを改善し、医療制度をインクルーシブなものとし、リハビリテーションサービスを強化し、地域に根差したリハビリテーションを拡大したいと望んでいる国とともに活動することができれば、光栄です。

ご出席の皆様、

 私たちに必要なのは、障害を含めた開発であり、それゆえに私は、ケヴィン・ラッド(KevinRudd)氏の代理、ゲイリー・クィンラン(Gary Quinlan)閣下のご意見を歓迎いたします。オーストラリアの援助政策は、このアプローチの典型であります。
 同じく、今日はビナグワホ(Binagwaho)大臣ならびにコルドヴァ(Cordova)大臣も、私と同じ立場でおられることを、喜ばしく思っております。
メキシコとルワンダでは、国連障害者権利条約の実施に向けて重要な進展がありました。

 私たちは幅広い経験から、障害のある人々は主流へのアクセスを与えられれば、充実した、尊厳のある生活をおくることができると知っています。
 障害のある人々は、地域やさらに広い社会に重大な貢献をすることができます。スティーーヴン・ホーキング(Stephen Hawking)教授とウラッサさんは、このような可能性の、とても素晴らしいお手本なのです。
 けれども私たちは今、障害のある人々を差別し、社会の片隅へと追いやってしまう障壁を打ち破ることを、確実に行わなければなりません。『障害に関する世界報告書』は、それを正しく行うための指針と、説得力のある根拠を示してくれます。

 報告書では特に、障害のある人々が主流サービスを利用できるようにすることを求めています。そして、リハビリテーションなどの特別なプログラムへの投資を、強く、かつ確信をもって論じています。
また報告書では、車いすや補聴器などの機器の提供も求めています。さらに政府に対し、障害戦略と行動計画の導入、調査研究の拡充と、一般の人々の障害に対する認識と理解の向上を図る取り組みを奨励しています。
 私たちは障害のある人々に、参加し、活躍し、そしてホーキング教授ご自身のお言葉を使わせていただきますが、「輝く」ために、同じチャンスを提供しなければなりません。
 ご出席の皆様ならびにご来賓の皆様に、この報告書を推薦いたします。

ありがとうございました


掲載者注:
障害に関する世界報告書の概要は、
国立障害者リハビリテーションセンターがWHOの正式な許可の下に、日本語翻訳版を作成し、
障害の予防とリハビリテーションに関するWHO指定研究協力センターのページで公開している。
http://www.rehab.go.jp/whoclbc/japanese/worldreport.html