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国際連合と障害者問題- 重要関連決議・文書集 -

はじめに

中野善達 編
エンパワメント研究所

はじめに

 国際連合(United Nations)の総会(General Assembly)で障害者に関する決議が採択されたのは、第26回総会(1971年)における「精神遅滞者の権利に関する宣言」がその嚆矢である。次いで1975年の第30回総会で決議「障害者の権利に関する宣言」が採択され、以後は毎年、障害もしくは障害者に関わる決議が採択されている。1981年は「完全参加と平等」をテーマとする国際障害者年とされ、障害者問題が緊急にかつ息長く取り組む必要のあることのグローバルな認識が広まる契機となった。
 さらに、1982年には障害者問題についての長期基本計画である「障害者に関する世界行動計画」が採択され、障害の予防、リハビリテーション、機会均等化が取り組むべき三大目標とされた。そして、この計画実施のための「国連障害者の10年」が宣せられ、1983年から1992年の10年間がそれにあてられた。障害者の10年の終結後も、障害者問題が全世界に共通する普遍的な課題であることが再確認され、具体的な取り組みが進展をみせている。
 「障害者の権利に関する宣言」以後の決議は、いずれも満場一致で採択されている。しかし、こうした決議は強制力・拘束力をもつものではない。それらは加盟各国に対し、障害者問題に取り組むさいの国際的な枠組みを提示し、各国がこの問題に誠実に対応することを迫る倫理的な準拠枠となっている。もっとも、障害者の問題はそれぞれの国の経済的・社会的状況によって影響を受ける場合が多く、一律の基準設定は設定自体も困難だし、まして実行となるとどれだけ遂行されうるのか保障もない。障害者問題に関する認識の広まりと深まりの進展はたしかなことであるが、この認識が行動へと移行するには大きな跳躍板が必要となるであろう。
 国連障害者の10年の中間点にあたる1987年、障害者に関する世界行動計画の実施状況について専門家会議が開かれ、「障害をもつ人びとへのあらゆる形態の差別撤廃に関する国際条約」の起草と、総会によるその採択、障害者の10年の終わりまでに加盟各国による批准が勧告された。総会に条約案が出されたが、多くの国々の支持を得られず、強制力・拘束力をもたない「障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則」が1993年12月20日、国連総会決議として採択された。
 国際連合において障害者問題は経済社会理事会(Economic and Social Council)が扱っているが、国連開発計画、ILO、ユネスコ、WHO、ユニセフその他が深く関与し、さらに非政府組織(NGO)や各地域経済委員会などの役割も大きい。事務局としては、ウィーン事務局社会開発・人道問題センターとりわけその障害者班(1994年からはニューヨーク本部事務局内)が中核的な役割を果たしてきている。
 上記のように、さまざまな組織による取り組みがあるが、本書は、次のような三部構成で問題を扱っている。
  第1部:国際連合による障害者問題への取り組み
  第2部:レアンドロ・デスポイ『人権と障害者』(国連人権センター)
  第3部:ユネスコの宣言・声明ならびに、国連総会決議案への各国の対応
 第1部では、総会で採択された決議(1971-1995年)を中心にして、関連事項を簡潔に扱い、さらにわが国における対応も若干触れてみた。総会における障害者問題に関する決議草案は、経済社会理事会の補助機関である機能委員会の一つである社会開発委員会が検討し、経済社会理事会に採択を勧告する。経済社会理事会は経済、社会、文化、教育、保健、人権等の諸問題を扱う機関(54か国で構成)であり、社会開発委員会から提出された決議案はその第2委員会(社会)で検討され、その勧告に従って理事会が採択し、総会に送付する。総会では、一般委員会が議題の整理をし、障害者問題は総会の第3委員会(社会、人道、文化問題)に付託される。第3委員会が審議の上、採択されると総会で検討し、採択の運びとなる。このように、総会決議までにいくつもの関門があり、多面的な検討がなされる機会を設けてあるので、決議成立までに加盟各国の意見表明、決議案文の加除等の修正がかなりおこなわれている。これらの経緯と内容を示すようにした。
 第2部では、国連人権センターが刊行した人権研究シリーズ『人権と障害者』の訳出をおこなった。この問題に関する幅広く、世界的規模でまとめられた基本的調査報告書の翻訳である。
 第3部は、ユネスコとスペイン政府による二つの国際会議と、そこで採択されたサンドバーグ宣言とサラマンカ声明を取り上げた。さらに、障害者に関する国連総会決議案への各国の対応を、決議案の共同提案国になったかどうかで整理を試みた。

 障害者に関する国連総会決議全体をまとめて示したものはまだないようであるし、ましてや決議に対し国連で日本がどう対応してきたかについては、ほとんど知られていない。ここでは、これらを簡単に記述した。残念ながら、わが国は国連において障害者問題にかなり消極的な態度に終始しているようである。筆者は、こうした事柄に関し、さらに詳細な検討をおこなうつもりである。本書が資料集として活用され、国際連合および障害者の問題に対する意識の高揚と、行動の喚起にいささかなりと貢献し、「万人のための社会」実現への一助となることを希望する。
 本書をまとめるにあたり、さまざまな方がたのご協力やご教示を得た。東京大学総合図書館国際資料室の皆さん、とりわけ河村宏氏にはさまざまなご示唆をいただいた。国立国会図書館官庁・国際機関資料室、国際連合広報センターでは馬橋憲男氏にお世話いただいた。国際連合ウィーン事務局社会開発・人道問題センター、ジュネーブ事務局の人権センター、国際連合本部事務局政策調整・持続可能な開発課障害者班の Mamadou Barry 氏、ユネスコ・バンコク事務所の大安喜一氏には深甚な感謝の念を表明したい。
 本書がこのような形で出版されるようになったのは、エンパワメント研究所の久保耕造氏の強いお勧めによる。同氏の見識と意欲に敬意を捧げたい。また、編集に関し、七七舎の勝藤郁子さんと川上京さんに格別のご配慮をいただいたことに感謝申し上げる。

1997年6月
中野善達

主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所