音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

VIII 世界行動計画の継続:今後に向けて

中野善達 編
エンパワメント研究所


VIII 世界行動計画の継続:今後に向けて

国連障害者の10年は1992年に終結した。1993年は、新たなる出発に向けて前進を開始する最初の年である。この年の国連総会は、障害者問題に関する決議を4つも採択した。これは国連史上、初めてのことである。
1993年2月8~17日、社会開発委員会の第33会期の会議が開催された。障害者に関する世界行動計画の実施という題目の下、4つの決議の審議がおこなわれた。いずれも2月12日か15日から取り上げられた。決議案「国際障害者デー」はフランスを代表とし、23か国の共同提案(日本も入っている)である。2月15日に提案され、2月16日に採択された。決議案「障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則」は2月12日、カメルーン代表により提案され、2月17日に採択された。このさい、日本からのオブザーバーが意見表明をした。日本はこの基準原則のいくつかに明確な反対見解をもち、修正を要求し、その一部が受け入れられていた。決議案「障害者に関する世界行動計画を継続するための長期方略を実施する行動プランの開発」は2月15日、カメルーン代表が提案した。2月17日に採択されている。決議案「社会のあらゆる側面における障害をもつ人びとの積極的かつ完全なインクルージョンと、そこにおける国連の主導的役割」は2月15日、アメリカ代表が13か国の共同提案国を代表して提案、2月17日に採択された{1)}。
経済社会理事会はこれを受け、4つの会議(社会開発委員会決議の順に1993/18、1993/19、1993/20、1993/21)を7月27日に採択した{2)}。
総会の第3委員会では、とりわけ「障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則」に論議が集中した。スウェーデン代表(Claesson Watsberg):障害者に関する世界行動計画の主要な目的の1つである「完全参加と平等」はまだきわめて不十分な状態にある。1987年にストックホルムで開かれた専門家会議では、障害者に対する差別撤廃条約の起草が勧告され、スウェーデンでは条約案を国連に提出した。しかし、反対が多く、そのため、機会均等化に関する基準原則案に転換せざるを得なかった。1990年以来の審議を経て作成された現在の案がぜひとも採択されることを要望する{3)}。
他の諸国からも支持表明が数多くなされた。(既述のように、この基準原則については別稿で論ずる)。総会は12月20日、4つの決議を採択した。社会開発委員会の決議および経済社会委員会の決議1993/20「障害者に関する世界行動計画を継続するための長期方略を実施する行動プランの開発」は、総会決議48/99「社会における障害をもつ人びとの完全統合に向けて:世界行動計画の継続」の母体である。
事務総長の報告{4)}にあるように、万人のための社会の構築、障害者およびその団体のいっそうの自立への努力、そのための世界行動計画、計画の具体的推進の原則である機会均等化の基準原則が定められたことにより、障害者問題のいっそうの前進が促進される準備が整ったといえるであろう。 

国連総会決議48/95 1993年12月20日

社会のあらゆる側面における障害をもつ人びとの積極的かつ完全なインクルージョンと、そこにおける国連の主導的役割

国連総会は、
国連憲章の下、より高い水準、完全雇用および経済的・社会的進歩と発展の諸状態を促進するため、国連との協力で共同行動や個別行動をとるため、加盟各国によってなされた誓約を心に留め、
憲章で宣言された人権、基本的自由、社会正義、人としての尊厳と価値への責務を再確認し、
とりわけ世界人権宣言{3)}に示された人権に関する国際基準を想起し、
これらの文書で宣言された諸権利が、差別なくあらゆる人びとに平等に保障されるべきであることを強調し、
女性に対するあらゆる形態の差別撤廃条約{41)}中の、障害をもつ女性の権利を保護する規定を想起し、
障害者権利宣言{42)}、精神遅滞者権利宣言{43)}、社会進歩と開発に関する宣言{44)}、精神疾患をもつ人びとの保護と精神保健ケアの改善指針{45)}および国連総会で採択された他の関連する諸文書を考慮し、
また、障害をもつ人びとに対する差別のない雇用への参加に特に言及しつつ、国際労働機構(ILO)によって採択された関連する諸規約や諸勧告を考慮し、
とりわけ、あらゆる人の教育に関する世界宣言{46)}を含む国連教育科学文化機構(UNESCO)による関連する諸勧告や働き、世界保健機構(WHO)、国連児童基金(UNICEF)その他の関連する諸機関による関連する諸勧告や働きを心に留め、
1982年12月3日の国連総会決議37/52において採択された障害者に関する世界行動計画{47)}、およびそこにおける機会均等化の定義が、さまざまな国際諸規約や諸勧告が障害をもつ人びとや家族および地域社会の生活の質(QOL)を向上させるため実際的・具体的・効果的に利用されるのを保障する、国際社会の決定を反映していることを認識しつつ、
(1983-1992年)の諸目的がいまだ妥当であり、緊急で持続的な行動を必要としていることを感謝の念をもって認め、
世界行動計画が、先進諸国と開発途上国において等しく妥当であるという考え方に基づいていることを想起し、
障害をもつ人びとが人権、社会への完全参加とインクルージョンを完全にかつ等しく享受することを達成するには、さらに強化された努力が必要とされることを確信し、
障害をもつ人びと、その家族および代表者ならびに障害をもつ人びとのニーズに関心の深い諸組織が、障害者の市民的・政治的・文化的諸権利に影響を及ぼすあらゆる手段の計画立案や実施にあたり、各国政府の積極的なパートナーとならなければならないことを認識し、
1990年5月24日の経済社会理事会決議1990/26を想起し、また、世界行動計画に詳細に挙げられて、障害をもつ人びとの完全な平等の達成に必要とされる特有の手段を再確認し、
障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則を練り上げる進行中の過程において設定された、諸規定や規則への社会開発委員会の関与を再確認し、
また、障害をもつ人びとの機会を均等化すること、自立を促進すること、社会への完全なインクルージョンと参加を保障することによる、世界的な変化を励まそうとすることの主導性と積極的な指導の提供への国連と社会開発委員会の必須の役割を認識し、
社会のあらゆる側面への障害をもつ人びとの完全なインクルージョンを促進する手段の効果的実施を保障すること、および、その過程における国連の主導的役割を確認し、
1.事務総長に、障害をもつ人びとの機会均等化と社会における完全なインクルージョンを促進するため、障害に関する国連任意拠出基金を含め、障害者に関する国連計画の保全と独自性の維持を要求し;
2.事務総長に、資源の再開発を通じ、以下のことを可能にするよう、障害者に関する国連計画を強化するよう促し;
(a)国連システム全体にわたって、障害をもつ人びとと、その家族や地域社会のニーズをはっきり示すこと;
(b)国連システム内のあらゆる機関で、とりわけ国際労働機構、世界保健機構、国連教育科学文化機構、国連開発計画、国連児童基金において、政策形成、支援、連絡を通して、障害をもつ人びとのニーズに応ずる努力の効果的調整と迅速化を保障すること;
(c)国連システムそれ自体内において、障害をもつ人びと、その家族や代表者の平等な機会と完全参加を促進すること;
(d)加盟各国と協力し、国連システム内の諸組織、非政府組織や他の有資格諸機関が、障害をもつ人びとの機会を均等化し、社会への完全なインクルージョンを提供する努力を開発し、実施し、評価する加盟各国の能力を高めるため、技術援助を拡大し、情 報を普及させること;
3.事務総長に、国連システムのさまざまな組織内で、障害をもつ人びとの機会均等化と完全なインテグレーションを保障する努力の進展に関し、2年ごとに国連総会へ報告するよう要請し;
4.また事務総長に、障害をもつ人びとやその家族および地域社会のニーズが、公正なやり方で示されることを保障することが重要という観点から、資源の再開発を通じて事務局の障害者部門の現状を強化し、向上させることを考慮するよう要請し;
5.障害をもつ人びとの機会均等の問題および社会への完全なインクルージョンの問題が、1995年3月11日と12日、コペンハーゲンで開催される世界社会開発サミットの準備過程の重要な一部であり、課題であることを再確認し;
6.障害をもつ人びとやその家族および地域社会のニーズが、その仕事のすべてに向けられ続けることを保障するためへの、社会開発委員会の関与を満足をもって心から歓迎する。
3)Resolution 217A(Ⅲ)
41)Resolution 34/180, annex.
42)Resolution 3447(ⅩⅩⅩ)
43)Resolution 2856(ⅩⅩⅥ)
44)Resolution 2542(ⅩⅩⅣ)
45)Resolution 46/119, annex.
46)Final Report of the World Conference on Education for All : Meeting Basic Learning Needs, Jomtien, Thailand, 5~9 March 1990, Inter-Agency Commission(UNDP, UNESCO, UNICEF, World Bank)for the World Conference on Education for All, New York, 1990, appendix 1.
47)A/37/351/Add.1 and Add.1/Corr.1, annex, sect. Ⅷ,recommendation 1(Ⅳ).

国連総会決議48/96 1993年12月20日

障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則

国連総会は、
経済社会理事会が社会開発委員会に対し、委員会の第32会期に、任意拠出金に基づき、専門諸機関、他の政府間諸機構や非政府組織とりわけ障害者の団体と緊密な協力の下に、障害児童・青年・成人の機会均等化に関する基準原則を練り上げるため、政府諸専門家による制限明示のない特別作業部会の設置をする権限を与え、委員会に、かかる作業部会を設置し、理事会が1993年の最初の定期会期で審議し、第48会期の国連総会に提出するため、諸原則の最終案の取りまとめを要請した1990年5月24日の経済社会理事会の決議1990/26を想起し、
また、社会開発委員会が1991年2月20日の決議32/2において、経済社会理事会の決議1990/26{48)}に従い、政府諸専門家からなる特別作業部会の設置を決定したことを想起し、
作業部会の討議のさい、多くの加盟国、専門諸機関、政府間諸機構、非政府諸組織とりわけ障害者の諸団体が参加してくださったことを感謝の念をもって心に留め、
また、加盟諸国による作業部会への寛大な財政的貢献にも感謝の念をもって留意し、
作業部会がその指示を、それぞれ5日、3回の会期内で果たすことができたことを心から歓迎し、
障害者の機会均等化に関する基準原則を練り上げた、制限明示のない特別作業部会による報告{49)}に深甚な感謝の意を表明し、
社会開発委員会第33会期における基準原則草案に関する審議{50)}に留意し、
1.本決議の付属文書に記載されている「障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則(Standard Rules on the Equalization of Opportunities for Persons with Disabilities)」を採択し、
2.加盟各国に、障害に関する国家計画の作成のさい、基準原則を適用することを要請し、
3.加盟各国が、基準原則の実施に関する情報を求める特別調査報告担当官(Special Rapporteur){51)}の要請に応ずることを強く主張し、
4.事務総長が基準原則の実施を促進し、それに関し、事務総長が第50会期で報告することを要請し、
5.加盟各国が、財政面や他の面で、基準原則の実施を支持することを強く主張する。

付属文書
障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則

背景と現在のニーズ
従前の国際的行動
基準原則に向けて
障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則の目的と内容
障害に関する政策における基礎的概念

前文

I.平等な参加に対する前提条件
原則 1.意識の喚起
原則 2.医療
原則 3.リハビリテーション
原則 4.支援サービス

II.平等な参加のための対象分野
原則 5.アクセスできること
原則 6.教育
原則 7.雇用
原則 8.所得の保障と社会保障
原則 9.家庭生活と個人の人格
原則 10.文化
原則 11.レクリエーションとスポーツ
原則 12.宗教

III.施行基準
原則 13.情報と調査・研究
原則 14.政策制定と立案
原則 15.法律制定
原則 16.経済政策
原則 17.調整作業
原則 18.障害をもつ人びとの団体
原則 19.人材養成・研修
原則 20.基準原則実施における障害に関する計画の国としての監視と評価
原則 21.技術的・経済的協力
原則 22.国際協力

IV.監視機構

背景と現在のニーズ

1.世界のあらゆる地域に、また、すべての社会に、あらゆるレベルで障害をもつ人びとがいる。世界における障害をもつ人びとの人数は多く、また増大しつつある。
2.障害の原因と結果は共に、世界中至る所でさまざまである。こうした多様性は、社会-経済的環境が異なることと、各国がその市民の望ましい生活状態のために制定している諸規定が異なっている結果である。
3.現行の障害に関する政策は、過去200年間にわたる発展の結果である。多くの点で、それはさまざまな時代の全般的な生活条件と経済政策を反映している。しかしながら、障害に関する分野においては、また、障害をもつ人びとの生活条件に影響を与えてきた多くの特有な周囲の諸事情がある。無知、無視、迷信や恐れは、障害に関する歴史を通じて、障害をもつ人びとを孤立させ、発展を遅らせてきた社会的な諸要因である。
4.多年にわたり、障害に関する政策は、障害をもつ子どもたちの教育として諸施設でなされた初歩的なケアと、成人生活中に障害を負った人びとへのリハビリテーションから発達してきた。教育とリハビリテーションを通して、障害をもつ人びとは、障害に関する政策の以後の発展により積極的な推進力となった。障害をもつ人びとに対するより良好な状態を主張する障害をもつ人びと、彼らの家族や擁護者たちの諸団体が結成された。第2次世界大戦後、障害をもつ人びとの可能性の認識が増大してきたことを反映した、統合(インテグレーション)とノーマリゼーションの概念が導入された。
5.1960年代の終りに向け、いくつかの国における障害をもつ人びとの諸団体は、新しい障害概念を明確に表明しはじめた。新しい概念は、障害をもつ個々人が経験している制約と、彼らの環境の計画立案と構造、一般の人びとの態度とに密接な関連のあることを指し示した。同時に、開発途上国における障害の諸問題がますます強調されてきた。開発途上のいくつかの国では、障害をもつ人びとの比率が極めて高いこと、多くの地域で、障害をもつ人びとはたいへん貧しいことが推定されている。

従前の国際的行動

6.障害をもつ人びとの権利は、長い年月にわたり、国連および他の国際諸機構において、多大の配慮がなされてきた問題であった。1981年の国際障害者年の最も重要な成果は、国連総会で決議37/52として採択された障害者に関する世界行動計画(World Programme of Action concerning Disabled Persons){52)}であった。国際障害者年と世界行動計画は、この分野の進歩に強力なはずみを与えた。それらは共に、障害をもつ人びとが他の市民と同等の機会をもつ権利および、経済的・社会的発展からもたらされる生活状態の改善に同等の分け前を受ける権利とを強調した。また、ハンディキャップというものが、障害をもつ人びとと彼らの環境との関係の函数と定義したのも初めてのことであった。
7.国連障害者の10年(United Nations Decade of Disabled Persons)の中間点の1987年、障害者に関する世界行動計画の実施状況についてレヴューする諸専門家による全体会議が、ストックホルムで開催された。この会議で、以後の年における行動の優先順位を示す指針の作成が示唆された。その指針の基礎は、障害をもつ人びとの諸権利の認識であるべきであるとされた。
8.その結果、会議は、国連総会が障害者の10年の終わりまでに、加盟各国に承認される、障害をもつ人びとへのあらゆる形態の差別撤廃に関する国際条約を起草するための特 別会議の召集を提言した。
9.条約草稿の概要がイタリーによって準備され、第42会期の国連総会に提出された。その後スウェーデンから総会の第44会期に、条約草案の提出がなされた。しかしながら、両方の機会とも、こうした規約の適切さに関して見解の一致がみられなかった。代表者たちの多くは、現存する人権に関する諸文書が、他の人びとと同等の権利を障害をもつ人びとに保障しているとみなしていた。

基準原則に向けて

10.国連総会での審議を受け、経済社会理事会は1990年の最初の定期会期で、異なった性質の国際規約の諸文書の検討に努力を傾注することに最終的な合意を得た。経済社会理事会はその決議1990/26によって、社会開発委員会に対し、委員会の第32会期に、任意拠出金に基づき、専門諸機関、他の政府間諸機構や非政府組織とりわけ障害者の団体と緊密な協力の下に、障害児童・青年・成人の機会均等化に関する基準原則を練り上げるため、政府諸専門家による制限明示のない特別作業部会の設置をする権限を付与した。 理事会はまた、理事会が1993年に審議し、第48会期の国連総会に提出できるよう、委員会が諸原則の最終案を取りまとめるよう要求した。
11.第45会期の国連総会における第3委員会(Third Committee)での以後の討議は、障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則を練り上げるための新しい取り組みに対し、幅広い支持のあることを示した。
12.社会開発委員会の第32会期に、基準原則に対する取り組みが代表者多数の支持を得、討議の結果、経済社会理事会決議1990/26に従い、制限明示のない特別作業部会を設置することを決めた決議32/2が採択された。

障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則の目的と内容

13.障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則は、国連障害者の10年(1983-1992年){53)}の間に得られた経験を基に作成された。障害者に関する世界行動計画と同じく、世界人権宣言(Universal Declaration of Human Rights)、経済的、社会的、および文化的権利に関する国際規約(International Convenant on Economical, Social and Cultural Rights){54)}および市民的および政府的権利に関する国際規約(International Convenant on Civil and Political Rights){54)}を包含する国際人権 章典(International Bill of Human Rights)、子供の権利に関する条約(Convention on the Rights of the Child){55)}および女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃 に関する条約(Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination against Woman){41)}は、これら諸原則の政治的・道義的基礎を構成している。
14.これら諸原則は強制力のあるものではないが、多数の加盟国がこれらを国際法の一規定として尊重する意図で適用するならば、国際的な慣習的原則となりうるものである。それらは加盟各国に対し、機会均等化に関する行動をおこす強力な道義的・政治的拘束を意味している。それらにはまた、責任、行動および協力に対する重要な指針が示されている。さらに、質の高い生活(QOL)および完全参加と平等の達成にとって決定的に重要な諸分野が指摘されている。これら諸原則は、障害をもつ人びとや彼らの諸組織への政策設定や行動に対する一つの手段を提示している。それらはまた、加盟各国、国連 および他の国際的諸機構間の技術的・経済的協力の基礎を提供しているのである。
15.これら諸原則の目的は、それぞれの社会の市民としての障害をもつ少女、少年、女性および男性が、他の人びとと同等の権利と義務を発動させるのを保障することである。世界のあらゆる社会で、まだ、障害をもつ人びとの権利と自由を実現させることを妨げ、社会の諸活動に完全参加するのを困難にする障壁が存在している。こうした障壁除去のための適切な行動をとることは、加盟各国の責務である。障害をもつ人びとおよび彼らの団体は、この過程でパートナーとしての積極的役割を果たすべきである。障害をもつ人びとの機会均等化は、人的資源を動員する全般的・世界的努力が必須のものなので ある。そのさい、女性、子どもたち、高齢者、貧困者、移住労働者、二重のあるいは重 複した障害をもつ人びと、先住者および少数民族の人たちといった集団に、特別な配慮をする必要がある。

障害に関する政策における基礎的概念

16.以下に記述する諸概念は、原則全体にわたって現れるものである。それらは本質的に、障害者に関する世界行動計画中の諸概念を基に築かれている。ある場合には、それらは国連障害者の10年の間に生じた発展を反映している。

ディスアビリティ(障害)とハンディキャップ

17.「ディスアビリティ(障害)」という用語は、世界のあらゆる国々における人びとに生じている多数のさまざまな機能の制限を概括したものである。人びとは、身体的・知的もしくは感覚的なインペアメント(impairment)、医学的諸状態もしくは精神疾患によって障害を負うことになるかもしれない。こうしたインペアメント、状態あるいは疾患は恒久的な性質のものかもしれないし、一時的なものであるかもしれない。
18.ハンディキャップとは、他人と同等の水準で地域社会の生活に参加する機会の喪失もしくは制限のことを指す。「ハンディキャップ(handicap)」という用語は、障害をもつ人と環境との出会いを記述したものである。この用語を使用する目的は、障害をもつ人びとの対等な参加を妨げる環境や、例えば情報、コミュニケーションおよび教育といった、社会の多くの組織化された諸活動における不完全・不備なところに焦点を合わせることを強調するためである。
19.「ディスアビリティ(障害)」と「ハンディキャップ」という2つの用語のこうした用法は、現今の障害に関する歴史的歩みに照らして検討される必要がある。1970年代には、障害をもつ人びとの団体の代表者たちや障害に関する分野の専門家間に、当時の用語への強い反感がみられた。ディスアビリティとハンディキャップという用語は、政策 設定や政治行動にとって不十分な手引にしかならない。不明確で混同した用いられ方がされていた。用いられた述語は、周囲の社会の不完全さや不備なことを無視した、医学的・診断的アプローチを反映するだけのものであった。
20.1980年、世界保健機構(World Health Organization)は、より正確で、しかも同時に相対的アプローチを示唆したインペアメント、ディスアビリティおよびハンディキャップという国際分類を採用した。この「国際疾病分類(International classification of Impairments, Disabilities, and Handicaps)」{56)}では、インペアメント、ディスアビリティ、ハンディキャップの明確な区分をおこなっている。これは、リハビリテーション、教育、統計、政策、法律、人口統計学、社会学、経済学および人類学などの領域で広範に用いられている。ある使用者たちは、ハンディキャップという用語の定義からして、この分類はまだあまりに医学偏重であり、個人に中心を置きすぎており、社会的諸条件もしくは期待と個人の能力との間の相互作用を適切に明確化していないのではないか、と表明している。分類が公刊されてから12年間にみられた使用者たちの関心事やその他の事項は、近くおこなわれる改訂に反映されるであろう。
21.世界行動計画の実施から得られた経験および、国連障害者の10年中にみられた全般的討議の結果として、障害に関する諸問題および用語に関し、知識の深化と理解の拡大とがみられた。現行の用語は、(リハビリテーションや技術的援助のような)個別のニーズと、(参加へのさまざまな妨害)といった社会の不備・不完全な面との両者に言及する必要性を認識したものである。

予防

22.予防とは、身体的・知的・精神医学的もしくは感覚的インペアメントの発生を妨げること(一次的予防)もしくは、インペアメントが恒久的な機能の制限もしくは障害を生起させるのを防ぐこと(二次的予防)を目的とする行動を意味する。予防は、プライマリー・ヘルスケア、出生前や出生後の子どものケア、栄養に関する教育、伝染病への免疫キャンペーン、風土病制圧の方策、安全に関する諸規定、職業障害・職業病予防のための職場改造、環境汚染や武力紛争による障害の予防を含む、さまざまな環境における事故予防計画といった多くの異なるタイプの行動が含まれるであろう。

リハビリテーション

23.リハビリテーションとは、障害をもつ人びとが、最適の身体的・感覚的・知的・精神医学的および社会的機能水準に到達し、維持することを可能にさせ、それによって、より高次な自立水準へ向けて生活を変化させる用語の提供を目的とする過程のことである。リハビリテーションは、諸機能を提供したり、修復したり、あるいはその一方をおこなったり、ある機能の喪失あるいは欠如を補償したり、もしくは機能制限を補償したりする手段を含むものである。リハビリテーション過程には、初期の医療は含まれていない。それらは、基礎的・全般的リハビリテーションから、例えば職業リハビリテーションのような目標指向的活動といった広範な手段と活動を包含している。

機会均等化

24.機会均等化とは、諸サービス、諸活動、情報および文書といった、社会や環境のさまざまな仕組みが、あらゆる人びと、とりわけ障害をもつ人びとに利用可能にされる過程を意味している。
25.平等な権利という指針は、それぞれのまたすべての個人のニーズが同じように重要なこと、そのニーズが社会の計画立案の基礎とされなければならないこと、あらゆる資源が、すべての個人が平等な参加の機会をもつことを保障する方法で使用されなければならないこと、を意味している。
26.障害をもつ人びとは、社会のメンバーであり、地域社会で生活する権利をもっている。彼らは、教育、保障、雇用、および社会的諸サービスを通常の機構内で受けるのに必要な支援を受けるべきである。
27.障害をもつ人びとが平等な権利を得るのに応じて、彼らもまた、平等な義務を果たすべきである。権利が得られるにつれて、社会は障害をもつ人びとへの期待を高めるべきである。平等な機会という過程の一部として、障害をもつ人びとが、社会のメンバーとして完全な責務を負うことを援助するための規定が設けられるべきである。

前文

国連憲章(Charter of the United Nations)の下、より高い生活水準、完全雇用、および経済的・社会的進歩と発展の諸状態を促進するため、国連との協力で共同行動や個別行動をとるため、加盟各国によってなされた誓約を心に留め、
憲章で宣言された人権、基本的自由、社会正義、人としての尊厳と価値への責務を再確認し、
とりわけ世界人権宣言{3)}、経済的・社会的および文化的権利に関する国際規約{54)}、ならびに市民的および政治的権利に関する国際規約{54)}を想起し、
これら諸文書が、その中で認められた諸権利は、差別なくあらゆる人びとに等しく保障されるべきであると宣言していることに留意し、
障害に基づく差別を禁止し、障害をもつ子どもたちの権利を保障する特別な手段を要求している子どもの権利に関する条約{55)}の諸規定および、障害に対するある種の保護手段を規定しているあらゆる移住労働者とその家族の保護に関する国際条約(International Convention on the Protection of the Rights of All Migrant Workers and Members of Their Families){14)}を想起し、
また、障害をもつ少女たちや女性たちの権利を保障する女性に対するあらゆる形態の差別を撤廃する条約{41)}の諸規定を想起し、
障害者権利宣言(Declaration on the Rights of Disabled Persons){42)}、精神遅滞者権利宣言(Declaration on the Rights of Mentally Retarded Persons){43)}、社会進歩と開発に関する宣言(Declaration on Social Progress and Development){44)}、精神疾患をもつ人びとの保護と精神保健ケアの改善指針(Principles for the Protection of Persons with Mental Illness and for the Improvement of Mental Health Care){45)}および国連総会で採択された他の関連する諸文書を考慮し、また、障害をもつ人びとに対する差別のない雇用への参加に特に言及しつつ、国連労働機構(International Labour Organization)によって採択された関連する諸規約や諸勧告を考慮し、
とりわけ、あらゆる人の教育に関する世界宣言(World Declaration on Education for All){46)}を含む、国連教育科学文化機構(United Nations Educational, Scientific, and Cultural Organization)による関連する諸勧告や働き、世界保健機構、国連児童基金(United Nations Children's Fund)その他の関連する諸機関による関連する諸勧告や働きを心に留め、
環境保護に関し加盟各国による積極的関与を考慮し、
武力紛争によって引き起こされた惨害に心を留め、さらに、兵器生産のために乏しい資源を利用することを慨嘆し、
障害者に関する世界行動計画とそこでの「機会均等化」の定義が、実際的・具体的意義をもつさまざまな国際的諸文書や諸勧告を生み出したこと、そこには国際社会の真摯な意欲が示されていることを認識し、
世界行動計画を実施するための国連障害者の10年(1983-1992年)の目的がいまだ妥当であり、緊急かつ持続的行動を必要としていることを認め、
世界行動計画が開発途上国ならびに先進工業国にも等しく妥当な概念に基づいていることを想起し、
障害をもつ人びとが、社会における人権と参加を十分にかつ等しく享受できるためには、努力のいっそうの強化が必要なことを確信し、
障害をもつ人びと、その両親、保護者、擁護者および諸団体が、彼らの市民的・政治的・経済的・社会的ならびに文化的権利に影響を及ぼすあらゆる手段の立案と実施にあたり、加盟各国の積極的パートナーとならなければならないことを再び強調し、
1990年5月24日の経済社会理事会の決議1990/26に従い、また、障害をもつ人びとが他の人びととの平等を達成するのに必要な、特有の諸手段について、世界行動計画中に詳細に列挙されたものに基づきながら、
加盟各国は、以下に概括された障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則を、議事進行規定に従って採択した。
(a)障害に関する分野でのあらゆる行動は、障害をもつ人びとの状態や特殊なニーズに関する十分な知識と経験を前提とすることを強調すること。
(b)社会組織のすべての面があらゆる人びとにアクセス可能となる過程が、社会-経済的発展の基本的目的であることを力説すること。
(c)適切な範囲で、障害に関する分野での技術的・経済的協力の積極的促進を含む、社会政策の緊急な諸側面の概要を示すこと。
(d)以下に留意しながら、平等な機会の達成に必要な政治的決定過程に対するモデルを提供すること。すなわち、技術的・経済的水準が著しく異なっていること、決定過程はそれがその内で生じる文化的文脈の鋭敏な理解と、障害をもつ人びとのきわめて重大な役割とを反映しなければならないということである。
(e)加盟各国、国連組織の諸機関、他の政府間諸機関および、障害をもつ人びととの諸団体の間の緊密な協力のための、国内の機構を提案すること。
(f)加盟各国は、障害をもつ人びとに対する機会均等化を達成するため追求する過程を監視するための効果的な機構を提供すること。

I.平等な参加に対する前提条件

原則1.意識の喚起

加盟各国は、障害をもつ人びとおよびその権利、ニーズ、可能性、社会に対する彼らの貢献に関する社会の意識を喚起するために行動を起こすべきである。
1.加盟各国は、関係当局が障害をもつ人びとおよびその家族、この分野の専門家、国民に利用可能な最新のプログラムやサービスに関する情報を提供できるように保障すべきである。その情報は障害をもつ人びとが利用できる形式で提供されるべきである。
2.加盟各国は、障害をもつ人びとが他の人と同様の権利と義務をもつ市民であるというメッセージを含み、完全参加を妨げる障壁を取り除く手段を講じるための手段を正当化する、障害をもつ人びとと障害に対する対策に関するキャンペーン活動を開始するとともにこの活動を支援すべきである。
3.加盟各国は、積極的にマスメディアを通じて障害をもつ人びとの実情を広報することを勧奨すべきであり、障害をもつ人びとの団体とこの点について協議すべきである。
4.加盟各国は、公教育計画のあらゆる側面で完全参加と平等の原則が反映されることを保障すべきである。
5.加盟各国は、障害をもつ人びととその家族、諸団体に障害に関する公教育計画に参加するように勧奨すべきである。
6.加盟各国は、私立のセクター形式の企業をつくり、セクターの活動のあらゆる面で障害に関する課題を取り扱うように勧奨すべきである。
7.加盟各国は、権利と可能性に対する障害をもつ人びとの意識を喚起することを目指したプログラムを作成し、その普及を図るべきである。自立心と権利への意識が高まることによって、障害をもつ人びとは種々の機会を利用できるようになる。
8.意識の喚起は、障害をもつ子どもたちの教育やリハビリテーションにおいて、重要な役割を果たすべきである。障害をもつ人びとは、彼らの団体活動を通して意識の喚起を行う際に相互に援助することができる。
9.意識の喚起は、あらゆる子どもたちの教育目的の一部となるべきであり、教員養成やあらゆる専門家の養成においても同様であるべきである。


主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所