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IX 万人のための社会に向けて

1.国連の動向と第49回総会(1994年)、第50回総会(1995年)の決議

中野善達 編
エンパワメント研究所


IX 万人のための社会に向けて

1.国連の動向と第49回総会(1994年)、第50回総会(1995年)の決議

(1) 1994年

第49回国連総会の議題95は、「世界の社会状況および、青年、高齢者、障害者、家族に関連する問題を含む、社会開発」であり、障害者問題に関しては、「障害者に関する世界行動計画の実施」と題する事務総長の報告・1)が9月27日付で出された。
これには、「障害者に関する世界行動計画の実施」に関する取り組みと、「障害者に関する世界行動計画を2000年およびそれ以後までさらに実施するための長期方略を遂行するための行動プラン草案」が示され、さらに付属文書「万人のための社会に向けて:障害者に関する世界行動計画を2000年およびそれ以後まで実施する長期方略」が掲載された。
「障害者に関する世界行動計画(World Programme of Action concerning Disabled Persons)」の実施に関しては、「障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則」関係が中心である。国連事務局の政策調整・持続可能な開発課では、基準原則のための特別調査報告担当官として、スウェーデンのBengt Lindqvist(前社会問題担当相)氏が指名されたこと、スウェーデン政府が人的・物的貢献を申し出たこと、日本政府が調査報告担当官の活動に経済的支援を連絡してきたこと、いくつもの政府が支援策を検討中であることを指摘している。国連では6つの公式語による基準原則の出版と、英語、フランス語、スペイン語の点訳版出版がなされた。また、チェコ語、フィンランド語、アイスランド語、日本語2)、韓国語、スウェーデン語への翻訳がおこなわれた。同開発課関連では、「国家計画立案と開発プロジェクトへ障害問題を統合することに関する手引書」をフィンランド政府の任意拠出金によって準備し、「開発途上国における障害法制に関する手引書」をスウェーデン政府による任意拠出金で準備し、いずれも1995年に出版が予定されている。
経済的・社会的情報と政策分析部の統計部門では、障害統計に関し、その方法論とデータ収集の基準の検討と、障害関連指標の開発のための検討を進行させている。いずれもWHOとの連携作業であり、逐次、その成果が報告されている。
「国連開発計画(United Nations Development Programme)」からは1993年12月3日(国際障害者デー)に、次の図書が公刊された。E.Helander(1993)Prejudice and Dignity: an introduction to community-based rehabilitation。本書はヘランダー著、国連開発計画東京連絡事務所長佐藤秀雄監修、中野善達編訳『偏見と尊厳-地域社会に根ざしたリハビリテーション入門-』(田研出版、1996年)として翻訳されている。
ユニセフは、児童期障害に対する中期プラン(1994-1997年)の実施中で、予防、障害の早期発見、地域社会に根ざしたリハビリテーションの推進に取り組んでいる。
専門諸機関では、ILOが「障害者の職業リハビリテーションと雇用に関するILO第159号条約」を48か国が批准したこと、①「アジアにおける障害者の機会均等化に向けて:ガイド」、②「アジアにおける障害者雇用」を刊行している。また、国連食糧農業機構(FAO)は、ブルキナ・ファソ、ガーナ、インド、ネパール、ナイジェリアなどでヴィタミンA欠乏症プロジェクトを展開している。ユネスコはスペイン政府と協力し、1994年6月7~10日、「特別なニーズ教育に関する世界会議:アクセスと質」を開催した(これに関しては、本書第3部のIを参照)。WHOは地域社会に根ざしたリハビリテーションを展開中。
国連は2010年までに「万人のための社会」を達成することを目指しているが、そのためにも世界行動計画を継続して遂行することが必須となっている。1991年5月30日、経済社会理事会はその決議1991/9で、障害者のための世界行動計画を実施する長期方略案の立案を主目的とする専門家会議の開催を勧告した。これにより、1992年4月25~29日、カナダのバンクーバーでセネガル、ブラジル、カナダ、エルサルバドル、レソト、フィリピン、ノルウェー、エストニア、ウガンダ、フランス、中国の代表11名と多くの非政府組織が参加した会議が開かれ、「障害者に関する世界行動計画を2000年およびそれ以後まで遂行するための長期方略に関する専門家会議報告書」3)がまとめられた。まとめるにあたっては、「障害者に関する世界行動計画」、1987年の「国連障害者の10年の中間点で障害者に関する世界行動計画の実施をレヴューするグローバルな専門家会議の報告書」4)、1990年5月にフィンランドで開催された「国連障害者の10年終結を記念しておこなわれるべき事柄に関する障害者問題専門家会議」の報告書5)などが参考にされた6)。優先度の高いものとして、①人権の促進と保護、②地域 社会に根ざしたリハビリテーションの促進、③自立生活の進展、④経済的平等と自立の強化、⑤障害者の状態を改善するための主たる手段としての法制化、調整、実施機構、があげられた。
さらに、1993年に「障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則」が総会決議で採択されたことをうけ、これを大幅に参照した。こうして、事務総長報告の付属文書7)がまとめられたのである。

事務総長報告の付属文書

万人のための社会に向けて:障害者に関する世界行動計画を2000年およびそれ以後まで実施するための長期方略

内容 項目
I.序 1-2
II.前文 3-7
III.万人のための社会に向けて 8-14
IV.方略的手段
A.国家レベル
1.1995年から1996年までの導入期間の活動
2.1997年から2002年までの中期の手段
3.2002年から2007年までの将来プラン
B.地域およびグローバルな支援
1.地域的手段
2.グローバルな手段
C.監視と評価   
15-35
18-23
21
22
23
24-27
25-26
27
28-35

I.序

1.障害者に関する世界行動計画を実施する長期方略(「長期方略」Long-term Strategy )は、国連障害者の10年(1983-1992年)の終結時に、総会決議45/91、46/96、48/99 および経済社会理事会決議1993/20に従い、広範な協議を通じて策定された。
2.長期方略は「障害者に関する世界行動計画(「世界行動」)」(A/37/315/Add. 1 and Add. 1/Corr. 1, annex, sect. VIII, recommendation I(IV))および「障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則(「基準原則」)」(決議48/96、付属文書)を 実施するさいの共同行動の枠組みを提供する。それは、障害者の10年の経過で成功可能であり、維持可能であることが立証された国内的・地域的・世界的な諸手段を取り入れ ている。長期方略は、国内の中期プランを方略の先導的部分と想定している。しかしながら、国内的プランの構成項目は、それぞれの国のニーズ・資源・願望に沿って調整されることが期待されている。長期方略の指導理念は、「万人のための社会(a society for all)」という概念である。その基礎は、世界計画の三つのテーマ、すなわち、障害の予防、障害者のリハビリテーションおよび障害者の機会均等化であり続けている。

II.前文

3.国連障害者の10年(1983-1992年)期間中に、個々人の社会参加を制限している社会的障壁や物理的障壁を除去する必要性に関する合意が形成された。社会がその構成員全員の多様性を配慮しないならば、社会がハンディキャップを生み出すことが明らかになった。
4.障害をもつ人びとは、社会への完全で平等かつ積極的な参加を妨げる態度面や環境面での障壁にしばしば遭遇する。これらの障壁はとりわけ、知的障害をもつ人びと、精神もしくは重複した障害をもつ人びとの福利を侵害する。女性、子ども、高齢者および難民といった人びと、もしくはこうした社会グループに属している障害者は、日常経験してきている不利益に、これらの障壁が加わることになる。
5.障害者の80%が住む開発途上国では、医療サービス、教育、訓練・研修、雇用および保護といった、生活する上で基本的に必要なものの全般的不足を、障害者が痛切に感じている。
6.障害者の10年が達成したものは、顕著なものがあった。それらには、障害者団体による新しいレベルのリーダーシップ、市民社会が障害をもつ人びとを含む構成員の多様性に積極的に合わせていこうとすることの増大、障害者に対する機会を平等にという必要性の国際的共同体による認識の拡大・深化、障害者とその家族が計画立案・実施・評価に積極的に関与する地域に根ざしたリハビリテーションの有効性に関する広範な合意が含まれる。
7.これらや他の達成されたものが、過去10年間にうまくいっていることがわかった実施手段と同じく、長期方略にとっての跳躍板を提供する。しかしながら、長期方略はそれだけで独立しているものではない。それは、持続的開発、技術協力、飢餓と栄養失調の減少、環境保護、平和・人権・雇用・住居・実質的識字力の促進といった分野を含む、より大きな社会の諸目標や諸計画の不可欠な一部なのである。この幅広い文脈の中で、障害者が直面する挑戦が継続的に明確にされ、究極的に解決される必要がある。

III.万人のための社会に向けて

8.万人のための社会では、あらゆる市民のニーズが計画立案と政策の基礎となる。社会の通常のシステムが、万人に接近・利用可能なものとされる。万人のニーズにその構造や機能を調整することによって、社会はその市民全員の潜在的可能性を活性化し、結果的に、その開発の潜在的可能性を強化する。
9.障害をもつ人びとは、社会の自然で不可能な部分であり、社会全体の利益のため、自己の経験・技量・能力を国家的・国際的開発に貢献する機会をもつべきである。
10.人間の多様性とあらゆる人の潜在的可能性の開発を包含する、万人のための社会という概念は、簡潔に述べるならば、国連の人権諸文書を具体化させたものといえる。障害者の人権を定義し、特定の手段や計画にそれを転化させることは、これからの重要な挑戦課題である。採択されて間もない基準原則は、障害者の人権を保障する方向に社会政策を導く方針として役立ちうる。
11.基準原則は、世界行動計画の三つの主要テーマの一つである、障害者の機会均等化に焦点を合わせている。原則5から12はまさに、平等な参加に関する八つの分野を扱っている(各分野ごとにいくつかの特定の目標をあげている)。すなわち、アクセスできること、教育、雇用、所得の保障と社会保障、家庭生活と個人の人格、文化、レクリエーションとスポーツ、宗教である。
12.世界行動計画の他の主要なテーマであるリハビリテーションの概念と範囲は、障害者の10年の間に進展し、障害者とその家族が、彼らに関するリハビリテーション・サービスとりわけ地域に根ざしたリハビリテーションにおいて、計画・組織・評価に参加することがとりわけ強調されてきている。リハビリテーションには、カウンセリング、自己ケアの訓練・研修、補助具や機器の提供、特別に配慮された教育、職業リハビリテーション、その他が包含されている。
13.世界行動計画の三番目の主要なテーマである障害の予防には、ある種の疾病を抑制したり、道路や職場を安全にするために必要とされるきわめて特定な計画と同じく、戦争、飢餓、栄養失調を終息させるに必要とされるあらゆる包括的な方略が必要とされる。
14.世界行動計画の三つのテーマ、すなわち機会均等化、リハビリテーション、障害の予防は、長期方略を考える上での基礎となるものを提供している。障害者の10年の間に、障害者に対する機会を均等化する努力に特別な勢いがついた。この勢いは、以下の三つの分野に特別な焦点をあて、今後も維持されなければならない。すなわち、障害者の人権、障害をもつ人びとへの能力・権限の付与、障害者やその団体が彼らに関係する計画・政策・プロジェクトの開発に真にパートナーとしての参画、である。 

IV.方略的手段

15.必要な変更のすべてが直ちに、もしくは同時に実施できるわけではないので、万人のための社会の長期ビジョンに導かれた、段階的なアプローチが提供される。
16.長期方略の中核部分は、地域的な諸活動やグローバルな諸活動によって支持される一連の国家プランである。
17.1995年から1996年の導入期間ののち、1997年から2002年までの中期国家プランが提起される。これは、世界行動計画の5年に1度の評価と合致するものである。2002年から2007年に対する第二次プランがこれに続く。

A.国家レベル

18.1995年から1996年までの導入期間には、より大きな努力が必要とされるであろう。導入期間に対して提案される活動としては、特別検討委員会の設置、フォーラムの開催、全国的レビューの組織化、長期政策声明の発表、中期的目標の採択がある。これらの段階それぞれの性格と範囲は、市民社会の諸機関の革新、創意、関与を引き出すことを含む、現存する人的・物的資源によって形成されるであろう。
19.導入期間ののち、1997年から2002年までの期間に、精選された諸目標に到達することを目指す5か年プランが提案される。障害者の10年の間に効果的であると証明された実 施手段が、目標の達成を保障するのに役立つであろう。これらの手段は以下で論じられるが、これらには障害問題を国としての政策に組み込むこと、基準を設定すること、資源を活用すること、計画実施を分権化すること、協力関係を確立すること、障害者団体を強化すること、国内調査委員会を強化すること、進展状況を監視することが含まれる 。
20.中期プラン、市民社会の関与、また可能な場合は実施と監視のための常設組織の設置に基づく、明確に規定され、実現可能な目標の設定が、同じ目的に向かってすべての関係者が行動するのを助けることになるであろう。簡明で柔軟性があり、最初から参加型であるプランであることこそ、継続的な有効性を保障することになる。

1.1995年から1996年までの導入期間の活動

21.1995年から1996年までの導入期間には、以下の活動が提案される:
(a)特別検討委員会の設置。特別検討委員会の委員には、政府の代表、障害者組織の代表、リハビリテーションおよび予防の専門家の代表、市民社会の重要な部分の代表が含まれるべきである;
(b)フォーラムの開催。国としての障害方略への参入や、長期にわたる実質的関わりを求めるため、広範な基礎に立った国家的フォーラムが開催されるべきである。フォーラムは、国内の障害の状況をレビューし、長期政策の声明文を策定し、中間期目標について合意を得るようにする。参加者には、関連する閣僚・国内調整委員会・障害者団体・専門家・市民グループ・地域社会や家族の代表が含められる。さらに、立法関係者、企業関係者、寄金者、国連諸機関・組織の代表者も含め得る;
(c)状況のレビュー。現存する政策や計画のレビューが、優先度の高いニーズや資源を決めるための基礎として実施され、最新のものとなるよう改証する基礎とされるべきである。ニーズや資源は釣合がとられるべきであり、中間期目標の枠組みにおける実施方法の中に組み入れられるべきである;
(d)長期政策声明の策定もしくは改訂。政策声明は、全体的目的や基本的な原則を述べ、長期方略の具体的枠組みを形成するものであるべきである;
(e)中間期目標の設定。すべてのニーズが直ちに満たされることはないので、中間期としての目標が必要となる。目標を設定するさい、以下の諸点が役に立つであろう:
(1)目標は、世界行動計画の中で提起されている重要な問題-人権、機会均等化、リハビリテーションおよび予防を包含するべきである。世界計画および他の国連の諸文書は、リハビリテーションと予防の目標設定の指針を提供している。また基準原則は、機会均等化分野での目標の拠り所を提供している。国家的・国際的な条約・指針・計画が、目標の他の拠り所となっている。
(2)これらの広範な分野のなかでも、目標のなかには、障害者の現実の生活条件を改善すること(たとえば、物理的障壁の実際的除去)に直接、焦点をあてるものもあれば、他方、(物理的障壁の今後の除去に導くような法律のような)可能性をひきだす社  会基盤もしくは手段に焦点をあてるものもある;
(3)目標にはまた、(例えば、一般公衆の態度を変えるといった)測定するのが困難な行動をひきおこすことを意図した、啓発的性質のものもあれば、他方、(例えば、メディアで働く障害者の人数の着実な増加などの)測定がそれ自体ずっと容易なものもある;
(4)何が達成されるべきかについての合意がひとたび得られたならば、誰が責任をもつのか、いつどのようにして達成するのかを明らかにするのが大切である;
(5)IVのCの下で論じられているように、監視と評価に役立つよう、各目標の変数と指標がはっきりと確定されなければならない;
(6)目標となりうるものには以下のものが含まれる:
a.制度面/組織面:1997年までに、1997年から2002年までの目標のメニューを含めた中期プランの策定;
b.人権:1998年までに、以下に対するプランの策定・(a)障害者の雇用に関する国際労働機構の第159号条約の実施;および(b)障害をもつ子どもに言及している(第23、27、39条)児童の権利に関する条約(決議44/25、付属文書)の適用;
c.機会の均等他:1998年までに、基準原則が指針として受け入れられ、2002年までにいくつかの原則の実施;
d.リハビリテーション:1999年までに、地域に根ざしたリハビリテーションをいくつかの田園地域(数字は国内レベルで決定)で実施;
e.予防:2002年までに、障害に導く、回避できるインペアメントの原因を数パーセント(数字は国内レベルで決定)にまで減少させることとするが、これは世界保健機構による万人に健康をというグローバルな方略や国連開発計画のインパクト(IMPACT)方略と歩調を合わせるものとする。

2.1997年から2002年までの中期の手段

22.障害者の10年から得られた経験は、いくつかの手段がとりわけ有効であることを示唆している。これらを以下に簡潔に述べる:
(a)プランの注目度を高め、多くの関係者・機関間の責任分担を明確にできる、主導的機関を指定すること;
(b)国際障害者年(1981年)にきわめて効果的であった国内調整委員会を強化すること。国内調整委員会は、関係する政府の閣僚、障害者団体、企業および市民組織から構成される、常設の機関をもたなければならない。その名称からわかるように、この委員会の主たる機能は調整をすることにあるが、だからといって、基準設定、資源の活用、協力関係の形成、計画やプロジェクトの実施、国内および国際的な情報交換ならびに各国政府や非政府組織間の情報交換の促進を除去するべきではない;
(c)障害者の団体を強化すること、とりわけ、その資源的基礎、組織側の技能、決定過程への参加を強化すること。政府は、障害者団体が、障害者の地位の変化および、万人のための社会を達成するために必要とされる社会的価値、態度、慣習の変化をもたらす主導的役割を果たすことを期待しているため、障害者団体に施設、機器、運営予算を提供することの検討を希望するであろう;
(d)伝統にとらわれない新しい協力者間の協力を含む、協力関係を確立すること。いくつかのセクターが変化をもたらし、明確に規定された便宜を生みだすことが可能である。例えば、メディアは価値や態度に影響を及ぼすことができる。企業セクターは労働の機会を提供できる。宗教・市民セクターは、参加を促進することが可能である。保健・社会的セクターの関係者は、可能性を引き出す環境を作り出すことができる。スポーツ団体やレジャー組織は、全ての関係者の参加経験を拡大することができる。「南と南」および「北と南」の協力関係、もしくは団体間の「提携」関係は、効果的な革新的取り組みをもたらしうる;
(e)社会全般に関する国家政策の中に障害問題を統合すること。このことは、あらゆる政策、国としてのあらゆる計画やプロジェクトの立案段階で自然になされるべきである。こうした統合は、資源が乏しい開発途上国や、基本的計画立案から移行中の国ではとりわけ重要である;
(f)基準を設定することは、人権、生活スタイル、サービスおよび製品に関係する進行中の過程である。基準は、サービスや製品の働きぐあいやデザインのパターンが、すべて市民に対して長期にわたって無害であることを保障するように求めなければなら  ない。また基準は、法律や政策指針の中に入れることも可能である。すでに包括的な法律をもっている国では、広範な一般公衆、雇用、サービス提供者その他への啓発と説得によって、すでに確立されている基準への到達に焦点をあてることが必要であるかもしれない;
(g)障害者の生活、経験、才能、貢献に関する意識を統合された場で高めることは、注目度が高い役割モデルを障害者に提供し、メディアによってこれをおこない、それを通して障害者に対する否定的なステレオタイプを変化させるのに重要である;
(h)資源を活用することは、財政的資源にとどまらず、例えば、家族や地域社会の結束や善意また、技術協力や基金の増大といったものを含む障害者団体の内で開発されたチームワーク、リーダーシップ技能、知識や技術(データバンク、マニュアルなど)  、社会基盤や組織、協調や協力関係、包括的公共計画や技能への追加可能性といった無形の資源も活用することを意味している;
(i)計画実施を地方に委ねること、このことは活動の適切性を保障することになるし、地方の力量を形成するのに役立つものであり、責任と資源も地方に委ねるべきである。選択可能なもののうちどれを最終的に選ぶかは、もしも必要な場合は専門家あるいは保護者の助力を得て、末端の享受者・利用者にまかせられなければならない;
(j)進展状況を監視し評価することは、IVのCの下で論じられているように、中期プランと長期方略の両者を同時に対象としておこなわれるべきである。中期プランの監視をおこなうことは、目標をめどとしてなされるべきである。

3.2002年から2007年までの将来プラン

23.第1次中間プランの期間に生み出された知識、経験および勢いと、その達成度の批判に基づいて、2002年から2007年までのプランは、より多くのものの達成を目指すべきである。その目標は、現実におこなわれていることへの視点を失わないようにしながらも、万人のための社会へいっそう接近するため、さらに大胆なものになるかもしれない。

B.地域的およびグローバルな支援

24.地域的・国際的支援は、基準設定、情報と経験の交換、適切な場合には障害者団体が決定過程に参加することの促進、ならびに計画実施への障害者の参加促進に、各国が自立的に取り組めるよう助力することが可能である。

1.地域的手段

25.地域の諸組織は、グローバルなアプローチや基準ならびに技術を地域に特有なニーズや選択可能性に適合させたり、移転することの促進を図る上で好都合な位置にある。国連障害者の10年の間に、きわめて活発な活動をした地域もあれば、あまり活発でなかった地域もあった。活発でなかったのは、戦争、政治的不安定ならびに経済的制約によるものであった。
26.長期方略の下で、地域の諸組織は以下のことを求められている:
(a)障害をもつ人びとのニーズ、権利、関心事を取り上げている程度を判断するため、社会-経済政策やプロジェクトをレビューすること;
(b)社会-経済政策、計画やプロジェクトの中に、障害に関する構成要素を策定する;
(c)障害者団体と協議の上、障害に関する地域的方略を開発もしくは改訂する;
(d)基準原則の調整を含め、障害に関する特有の問題を取り扱うための会議、ワークショップ、特別検討委員会を組織し、情報や経験の交換を促進する;
(e)1997年から2002年までで始まる中期5か年プランと共に、地域長期方略を開発したり改訂するための、広範な人びとを対象とした地域フォーラム開催の可能性を検討する;
(f)国家プランを支援する。

2.グローバルな手段

27.グローバルな諸組織は、国連システムの政策と計画を指針として、万人のための社会に到達するための地域的・国家的率先性を支援すべきである。グローバルな政策は、地 域や国としての経験に基づいて継続的に改訂されるべきである。とりわけ、国際的諸組 織は以下のことが求められている:
(a)地域プランや国家プランを支援すること;
(b)広範な社会-経済政策、計画、国際会議や特別記念日とか祝典のような行事を企画したり見直すさいには、障害者団体と協議をおこなう;
(c)人権、保健、衛生、食物、教育、リハビリテーション、雇用、万人のための住居を、それぞれの責任によって促進する;
(d)技術協力と公報を含む、社会-経済政策や計画の中に明確に規定された障害構成要素を統合させる;
(e)障害者の実際的な知見を、国際的組織の行政スタッフやプロジェクト・スタッフとして活用する;
(f)国連諸組織、寄金提供国・者、政策立案者、実施諸機関間の情報交換を促進すること;
(g)成功した計画に関する説明材料や情報を作り出す;
(h)限られた数の関心をもっている政府が、包括的な障害政策を企画・立案するのを支援する目的で、モデル・プロジェクト-すでに検証され、時間経過と共に、他の国々で同じようにやってみたり、調整するための実際的モデルとして役立つもの-を共同  で計画する可能性を検討する;
(i)障害問題と障害者の積極的参加をプランに組み込むため、5年ごとにプランと手続きをレビューし、改訂する。

 C.監視と評価

28.これまでの記述から明らかなように、長期方略の監視と評価は、2つの見地からおこなわれる必要がある:すなわち、1つは地理的位置、性別、社会-経済的特徴や計画的活動ごとに分類された国としてのデータに基づくものであり、他の1つは地域的もしくはグローバルな手段による国レベルで集計されたデータに基づくものである。
29.必須である第1の課題は、達成したものと遭遇した妨害という点から、遂行にあたっての諸変数と指標を選択することである。指標は明確で、曖昧さのないもので、正確で あるべきであり、遂行の変化と結果とを説明するものであるべきである。
30.監視は定期的におこなわれ、報告は年次プランと予算レビューとが同時におこなわれなければならない。このことによって、目標と活動に必要な調整を査定し、実施するための経済的な基礎が提供されることになる。基準原則に対する特別調査報告担当官の任務を含む、国連システムの監視活動は、長期方略の監視と並行的に入力を提供する重要な情報源である。
31.計画結果は、1997年、2002年、2007年に予定されている世界行動計画実施の5年ごとのレビューと一致するように作成されるべきである。このことが、顕著な課題、傾向、特有の必要分野を見定め、レビューし、査定する十分な基礎を提供することになる。
32.障害をもつ人びとの団体は、進展と妨害の適切な測度の確認、知見の分析、結果の解釈に適切に関与すべきである。
33.国家レベルの監視は、長期方略の監視と評価における核心的な活動である。これは、障害に関する国内調整委員会のような特別に指定された機関や組織によっておこなわれるか、それとも、国内の社会-経済的動向を調査する進行中の手続きと関連させておこなうことが可能である。監視の報告は、監視の結果と勧告が開発政策、開発計画や開発プロジェクトに関してなされる決定に効果的に反映されることを保障するために、社会-経済的動向の国内査定の不可欠の一部として作り上げられるべきである。
34.地域レベルの監視は、国家レベルでの知見を基におこなわれる。国連の地域委員会、ヨーロッパ評議会、ヨーロッパ連合、アラブ連盟、アフリカ統一機構、米州機構、北欧評議会を含む、数多くの地域機関や組織が障害問題に関係をもっている。国内の状況と一貫性をもち、超国家レベルでの集計にも応じられる測度を見定めることが必要である。
35.社会的・経済的分野におけるグローバルな文書や条約の監視は、長期方略を監視するさいの重要な背景的指標を提供することとなる。逆に、この過程は、開発の主流に障害問題を組み込むために用いられることも可能である。
総会に提出された障害者問題に関する議題95は、一般委員会の勧告に基づき、総会の議事に含められ、第3委員会に付託された。第3委員会は10月19、20、31日、11月1、2、8、9、17日に討議をおこなった。日本代表(Maruyama)は、次のような演説をしている。「日本は障害をもつ人びとの機会均等化ということが、人的資源の動員や、社会的に周辺にいるグループの統合促進にとって不可欠であると確信している。そこで、第48回国連総会が「障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則」を採択したことを歓迎し、また、多数の加盟国がこれら諸原則を尊重するための道義的・政治的コミットメントを再確認することを望みたい。日本では、1982年に「障害者対策に関する長期計画」を策定し、1987年に「『障害者対策に関する長期計画』後期重点施策」をまとめ、さらに1993年、啓発・広報、教育・育成、雇用・就業、保健・医療、福祉、生活環境、スポーツ・レクリエーション及び文化、国際協力の分野におけるニーズの変化に対応するため、「障害者対策に関する新長期計画-全員参加の社会づくりをめざして-」をまとめあげた。国際的な面について述べると、日本政府は、1994年に「 国連障害に関する任意拠出基金」に10万ドルの拠出をおこなった。」8)決議案は修正の上、11月17日、第3委員会では全会一致で承認された9)。提案国は49か国である(日本は入っていない)。総会では12月23日、満場一致で採択された。

国連総会決議49/153 1994年12月23日

社会における障害をもつ人びとの完全統合に向けて:障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則の実施ならびに、障害者に関する世界行動計画を2000年およびそれ以後まで遂行するための長期方略の実施

国連総会は、障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則を採択した、1993年12月20日の決議48/96を想起し、また、障害者に関する世界行動計画49)を採択した、1982年12月3日の決議37/52も想起し、さらに、1982年12月3日の決議37/53、1991年12月16日の決議46/96、1992年12月16日の決議47/88、1993年12月20日の決議48/95、48/99を含む、あらゆる関連決議を想起し、障害をもつ人びとの人権と基本的自由に関し、人権に関するウィーン宣言50)が無条件で再確認されたことおよび、とりわけ、障害をもつ人びとの完全参加と平等の目標実現に対しての増大しつつある要求についての人口と開発に関する国際会議の行動計画51)に示された認識を心から歓迎し、障害関連問題に対する確固とした、革新的な枠組みを提供する、障害者に関する世界行動計画を継続することの妥当性と価値を再確認し、障害をもつ人びとの社会への完全統合と参加に対する障壁や妨害物の除去もしくは除去を促進することおよび、特有の諸目的に達するために国内政策を作成するさいにおける障害をもつ人びとの努力を支援することに対する政府の責任を繰り返し指摘し、障害をもつ人びとの完全参加と平等を成し遂 げるためのグローバルな努力において、非政府組織とりわけ障害をもつ人びとの団体の貢献を認識し、障害者に関する世界行動計画の実施に対する主要な妨害物は、とりわけ資源の不適切な配分にあることを認識し、障害をもつ人びと、彼らの権利、彼らのニーズ、彼らの潜在的可能性や、これらを実現する必要性や彼らの貢献に関し社会の意識を高めるための、また、精神保健ケアを含む効果的医療を提供し、リハビリテーション・サービスを保障し、障害をもつ人びとを支援する用具を含む支援サービスを設定・維持し、日常生活での彼らの自立レベルを高めたり彼らの権利行使に助力するための国家的行動を含む、機会均等化のための基準原則Iに詳述されている前提条件を尊重し、 

I 障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則

1.あらゆる政府が、諸組織の協力と支援の下、国連総会決議48/96の付属文書に示された、障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則の実施を促し;
2.加盟各国に、障害をもつ人びとの団体やその代表者と協力し、基準原則の実施のため、国家的レベルや地方レベルでの障害に関する計画を開発すること、あらゆる立案、政策、開発計画に、障害者および関連をもつ人びとや団体を含めることを求め;
3.また、加盟各国に、障害に関する計画を開発するさい、適切であるならば、特定の目的もしくは目標を達成するための期限の設定を求め;
4.各国政府に、適切であるならば、基準原則を十分に実施するため法的手段や行政手段をとることを奨励し;
5.また、1995年の世界社会開発サミットや第4回世界女性会議:平等・開発・平和のための行動を含む、主要な今後の行事のさい、これらの行事の主題に関連する障害問題が考慮されることを奨励し;
6.基準原則の実施を監視するための障害に関する特別調査報告担当官の任命ならびに社会開発委員会の第34会期と第35会期に諸報告が提出されることを歓迎し;
7.また、基準原則のIV、第3項で述べられている、専門家とのパネル討論会の設定を歓迎し;
8.事務総長および関連諸機関が、加盟各国と協議の上、グローバルな障害指標の開発を仕上げることを奨励し、また、特別調査報告担当官が、適切なさいは、彼の今後の任務遂行にそれを活用することを奨励し;
9.多数の加盟各国が、特別調査報告担当官の任務遂行を支持する貢献をおこなっていること、もしくは貢献をおこなう意向を表明していることに感謝の念をもって留意し;
10.各国政府と私的セクターに、障害者に関する世界行動計画の枠組みの中で、基準原則の実施へさらに支持を提供する意図をもって、国連障害に関する任意拠出基金に有意味な支援を提供することを求め;
11.事務総長に、特別調査報告担当官による基準原則に関する効果的監視への支持を要請 し、また、これに関し、特別調査報告担当官の任務遂行のため、基金への任意拠出による貢献を求め;
12.また、事務総長に、本決議の実施に関し、第52回国連総会に報告するよう要請し;

II 障害者に関する世界行動計画を2000年およびそれ以後まで実施する長期方略

1.障害者に関する世界行動計画の実施に関する事務総長の報告52)に留意し;
2.各国政府に、障害者に関する世界行動計画を実施するさい、事務総長による上掲の報告の付属文書として示された、障害者に関する世界行動計画を2000年およびそれ以後まで実施する長期方略に示唆された諸要素を考慮することを求め;
3.障害分野において国連諸計画や諸機関によってなされたさまざまな活動や貢献に関心をもって留意しつつ;
4.地域委員会や地域諸組織に、グローバルなアプローチ、基準、障害関連の技術を地域特有のニーズに調整したり転移することを要請し;
5.国連諸組織に、地域プランや国家プランを支持するよう促し;
6.事務総長に、長期方略の効果的実体化に対する適切な支持を保障するよう要請し;
7.また、事務総長に、長期方略の実施に関し、国連総会第52会期に報告するよう要請する。
49)A37/35/Add.1 and 1/Coor.1, annex, sect . VIII, recommendation I(IV).
50)Report of the World Conference on Human Rights, Vienna, 14-25 June 1993 { A/CONF.157/24(PartⅠ)},chap.III.
51)A/CONF.171/13, chap.I,resolution I,annex.
52)A/49/435.


1)A/49/435
2)1994年3月、中野善達・中田英雄:国連「障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則」という別刷を国連本部事務局政策調整・持続可能な開発課障害者班に送り、懇篤な感謝文を頂戴した。
3)E/CN.5/1993/4, Annex
4)CSDHA/DDP/GME/7
5)Report of the Expert Group Meeting on Alternatire Way's to Mark the End of The United Nations Decade of Disabled Persons. 1991.
6)これらの会議に関しては本書第1部の該当箇所を参照。
7)A/49/435,Annex
8)A/C.3/49/SR.10
9)A/49/605

(2) 1995年

9月26日、「障害者に関する世界行動計画の実施」と題する事務総長報告1)が提出された。これは第48回国連総会決議48/95中の要請に応えたものである。国連は、①障害をもつ人びとの機会を均等化すること、②自立を促進すること、③社会への完全なインクルージョンと参加を保障することに取り組んできた。しかし、国連事務局や諸機関自体はこれにどう対応してきたのであろうか。国際障害者年(1981年)のための諮問委員会は1980年、このための施設改善を勧告した2)。以後「障害者に関する世界行動計画」の第162項、総会決議35/133、36/77、37/53、43/98、44/70で同様な勧告と実施状況の報告とが要請された。決議48/95も、2年ごとの総会への事務総長報告を要請した。
国連本部事務局、ウィーンとジュネーブの事務局やWHOなど諸専門機関などに関し、建造物、報告、情報などへのアクセス可能性が調査され、徐々に改善が図られてきた。バリアフリー環境を実現するための調査・研究、実現のための方途が検討されてきた。1995年1月、アクセス可能性に関する国連特別委員会が設置され、2月には、社会開発委員会の障害者に関する特別調査報告担当官ベンクト・リンドクビスト氏を招き、具体化の方途を検討した。まだまだ課題が大きいようである。
ところで、障害者問題を含む議題105「社会開発」は9月22日から第3委員会で審議され、障害者問題に関する決議案は11月2日から検討され、修正の上、11月16日に採択され、総会に送られた。提案国は30か国(日本は入っていない)であった3)。
日本代表(Horiuchi)は前年とほぼ同じ内容の演説をし、1995年「国連障害に関する任意拠出基金」に10万ドルの拠出をおこなったことを述べている4)。

国連総会決議50/144 1995年12月21日

社会における障害をもつ人びとの完全統合に向けて:障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則の実施ならびに、障害者に関する世界行動計画を2000年およびそれ以後まで遂行するための長期方略の実施

国連総会は、障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則を採択した、1993年12月20日の決議48/96を想起し、また、障害者に関する世界行動計画82)を採択した、1982年12月3日の決議37/52も想起し、さらに、1982年12月3日の決議37/53、1991年12月16日の決議46/96、1992年12月16日の決議47/88、1993年12月20日の決議48/99、1994年12月23日の決議49/153を含む、あらゆる関連決議を想起し、基準原則は社会開発委員会の会期の枠組み内で監視されるべきであり、かかる監視の目的はその効果的実施を維持することにあるとする、社会開発委員会の1995年4月20日の決議34/283)に留意し、障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則に関連する他の諸活動ならびに世界行動計画が支援している諸活動と同じく、基準原則に基づく障害インデックス(disability index)の開発に関し、非政府組織によってなされている率先性に関心を払い、基準原則の実施を監視することに関する社会開発委員会の特別調査報告担当官の報告および、今後2年間に焦点が主として法律制定、作業の調整、障害者団体、アクセスのしやすさ、教育ならびに雇用に向けられるべきであるとするその勧告84)を歓迎し、1993年6月25日、世界人権会議によって採択された「ウィーン宣言と行動計画」85)が、障害をもつ人びとのあらゆる人権と基本的自由を無条件に再確認したこと、ならびに、人口と開発に関する国際会議の行動計画86)や世界社会開発サミットの行動計画87)の中で、とりわけ、障害をもつ人びとの社会への完全参加と機会均等化の目標の実現に対する要求増大の認識、さらに、1995年9月9日から15日にかけて北京で開催された第4回世界女性会議88)による、障害をもつ女性の特別なニーズの認識を歓迎し、
1.世界社会開発サミットによって、障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則を促進する必要性が認識されたことを想起し;
2.あらゆる政府や組織が、世界社会開発サミットの行動計画に設定された、統合された社会開発方略89)を考慮しながら、適切な法律制定、行政手段ならびに他の手段によって、基準原則実施の努力を強化し続けるよう要請し;
3.加盟各国の政府が、社会開発委員会の特別調査報告担当官によって送付された質問紙に応答するよう促し;
4.加盟各国が、特別調査報告担当官による重要な作業を含む、障害に関する率先性を支援するため、障害基金への任意拠出をおこなうよう促し;
5.障害者に関する世界行動計画90)を実施するさい、各国政府が、障害者に関する世界行動計画を2000年およびそれ以後まで遂行するための長期方略の実施91)中に示唆された諸要素を考慮するよう求め;
6.事務総長に、長期方略の効果的機能化に適切な支援を保障するよう要請し;
7.基準原則、世界行動計画ならびに長期方略を市民社会に普及させるため、コミュニケーション網の活用を促し;
8.事務総長、政策調整・持続可能な開発課、関連する国連諸組織とりわけ国連開発計画が、加盟各国と協議の上、グローバルな障害指標の開発を完了させるのに用いられる、 関連データの収集と伝達を促進する努力を続けるよう促し、また、事務総長に、第52回総会にこの問題に関する報告を提出するよう要請する。
82)A/37/351/Add.1 and Corr.1, annex, sect.VIII, recommendation 1(IV).
83)See Official Records of the Economic and Social Council, 1995, Supplement No.4 (E/1995/24),chap.I,sect. E.
84)See A/50/374, annex.
85)Report of the World Conference on Human Rights, Vienna, 14-25 June 1993(A /CONF.157/24(partⅠ)),chap. III.
86)Report of the International Conference on Population and Development, Cairo, 5-13 September 1994(United Nations publication, Sales No.E.95.VIII8), chap .I,resolution 1, annex.
87)See Report of the World Summit for Social Development, Copenhagen, 6-12 March 1995(A/CONF.166/9), chap., resolution 1, annex II.
88)See Report of the Fourth World Conference on Women, Beijing, 4-15 September 1995(A/CONF.177/20).
89)See Report of the World Summit for Social Development, Copenhagen, 6-12March 1995(A/CONF.166/9), chap.I, resolution 1, annex II.
90)A/37/351/Add.1and Corr.1, annex, sect .VIII, recommendation 1(IV).
91)A/49/435, annex.

国際障害者デー

国連総会は「国連障害者の10年」終結を記念し、1992年10月12、13日の両日、各国代表がこのテーマに関する演説をおこなった。10月13日の演説でロシアの代表(Burkov)は、12月3日を「国際障害者デー(International Day for the Disabled)」と宣言することを提案した。12月3日というのは、1982年12月3日に決議37/52「障害者に関する世界行動計画(World Programme of Action concerning Disabled Persons)」と決議37/53「障害者に関する世界行動計画の実施」が採択されたことに因んでいる5)。
この提案は翌14日、議長提案「国際障害者デー」として総会にはかられ、すぐさま満場一致で採択された(決議47/3)。
国連は、1997年11月11日付の事務総長報告の付属文書「国際障害者年の計画草案」の中で「国内障害者の日」の設定をうたっており、1979年12月17日に採択された決議34/154「国際障害者年」の中で、「国内障害者の日」の設定を勧めている「国際障害者年行動プラン」の採択をおこなっており(第2項)、世界行動計画の中にもそう提言され、決議37/53(1982年)第12項でも各国政府に「国内障害者の日の宣言」を勧告している6)。
わが国は、「障害者の日」制定をいちはやく「国際障害者年事業の推進方針」(1980年8月19日、国際障害者年推進本部決定)で決めている。そして期日の検討をし、1981年11月28日に、「障害者の権利に関する宣言」が国連総会で採択された12月9日を毎年「障害者の日」とすることとし、同年12月9日、推進本部副本部長によって「障害者の日」が宣言された。こうして1982年から毎年、12月9日を「障害者の日」とし、「障害者の日・記念の集い」を開き、障害者問題に関する啓発活動を展開してきている。さらに「障害者基本法」(1993年12月3日)では、「障害者の日(12月9日)」を法的に定めさえしている。
このような事情から、わが国では「国際障害者デー」には何の行事もおこなわなかった。ところが国連は、1993年12月20日の総会決議48/97「国際障害者デー」の第2項で「あらゆる政府に、「国際障害者デー」を祝うこと、この機会を、社会的・経済的・政治的生活のすべての分野に障害者を統合することにより、個人と社会が得られるであろう利益について、人びとの意識を覚醒させるのに利用すること」を訴え、さらに第5項で次のように述べたのである。「事務総長に、国際障害者デーを祝うため加盟各国によってとられた手段について
これによって、事務総長は加盟各国、国連の諸専門機関、非政府組織などに報告を求め、1995年4月10~20日にわたって開催された社会開発委員会第34会期に、「国際障害者デーを記念するために加盟各国によって取られた手段」と題する報告書を提出した7)。
この報告書には次のような記述がみられる。「国際障害者デー」の目的は、①「障害者に関する世界行動計画」をさらに継続して実施していくため、②「国連障害者の10年」以後も障害問題の継続的促進を保障し、また、障害をもつ人びとの社会への統合をさらに進めることを保障するため、③社会的・経済的・政治的生活のあらゆる側面に障害者が統合することによって、個々人や社会が得る利益に関し、人びとの高まってきた意識をさらに促進するため、としている。
では、どのような手段がとられたのであろうか。

Table I-(1) 国際レベルでの行事

事務総長
国連本部
1993年、「万人のための社会」のテーマで国際障害者デーを祝うメッセージの発表。国連本部では、コンピュータ・障害センター、ニューヨーク州立大オルバニー校、アメリカ合衆国による障害関連技術に関する展示をおこなう。1994年12月3日、事務総長は国際地域社会に以下を要請するメッセージを出す。(a)人間の多様性を認識し、その潜在的可能性を発揮させることが重要であり、「障害者に関する世界行動計画」への関与をより現実的なものにすること。(b)すべての社会が「障害をもつ人びとへの機会均等化に関する基準原則」を理解し、適用すること。(c)障害者の統合を新しい視点から努力すること。
ユネスコ   国際障害者デーのパンフレットを英語、フランス語、スペイン語で作成し、加盟各国その他に広く配布。1994年の国際障害者デーと関連して、1994年6月7-10日、スペインのサラマンカで「教育における特別なニーズに関する世界会議:アクセスと質」を開催した。
障害者インターナショナル オーストラリア・シドニーで開いた世界会議で祝福。
世界退役軍人連盟 第21回総会(1994年12月2-6日、フランス、ボルドー)で、12月3日に特別なセッションを設けた。

Table I-(2) 地域レベルでの行事

ヨーロッパ連合 障害者の自律、選択の自由、自立生活を重視。1994年10月17-18日、ブリュッセルで障害者団体の代表者からなるフォーラムで「障害の定義、生命倫理、優生学と安楽死、自立生活とセクシャリティー」を討議。国際障害者デーにはニーズや関心の表明をおこなった。

Table I-(3) 国内・地域レベルの行事

バーレーン 政府と非政府組織とで障害者デーの準備委員会を組織。(a)政府関係者、障害の専門家、障害者自身による講演やセミナー。(b)国立障害サービス研究所による特別な冊子の発行。(c)障害問題に関する一般人の知識コンテスト。(d)15歳以下の障害をもたない子から障害児へのメッセージを準備するコンテスト。(e)スポーツ競技とレクリエーション行事。(f)障害者による作業の実演。(g)障害児のいる家庭への訪問。
ブルキナ・ファソ 1981年以来、障害者週間を設定、1986年から12月に地方中心の行事。首相が中心、1994年の国際障害者デーのテーマは「地域社会生活への参加:障害者の雇用と教育」。
カメルーン 障害者の日は11月2日だったが、国連決議に従い12月3日とした。障害者の人格に関する意識を高める日とし、「勇気と友愛」をテーマとする行事。
コンゴ 国際障害者デーを国内障害者の日(コンゴ連帯デー)でもあることにした。障害者の問題、ニーズ、潜在力に関する意識を高める日。ラジオ、テレビ、新聞を活用。盲人用球技、ろう者マラソンや自転車レース、首相による表彰。
キプロス ポスター、印刷物などによる意識の高揚。
ドイツ 労働・社会問題担当連邦相が中心にボンで行事。障害者代表と共に国際障害者デーの宣言。政府は障害者に対するオンブズマンのポストを設けている。
ギニア 労働・社会問題・雇用担当相が非政府組織などと12月1日と2日に討論会。テーマ「障害者の社会的統合の諸問題」。障害者のための友愛週間を設定。
ケニア 祝賀行事。障害者問題の法制化が課題。
モーリシャス (a)テレビ、ラジオ、ポスター、新聞などによる意識の高揚。(b)パンフレットの発行。(c)障害者の技能競技。(d)ワークショップ、セミナー、表彰。
モロッコ 1994年12月1-3日、障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則に関する国際コロキュウム開催。
オランダ 広報と祝賀行事。
ノルウェー 1993年12月3日、オスロ-リレハンメル-オスロ運行の列車での会議。保健・社会問題相、児童・家族問題相、障害者団体、ノルウェー国有鉄道が参加。1994年3月2日に第2回列車会議を開催。
パキスタン 意識高揚を中心とする行事。
南アフリカ 1993年に障害問題に関する国内調整委員会を設置、委員会が国際障害者デーのため4回の会議。スローガン「意志あるところ、道は開ける」、広報。
セント・ルシア 大統領挨拶、デモンストレーション、ラリー。
スイス 各地で行事。ローザンヌではアクセス可能な全建造物のリストを発行、バーゼルでは公共輸送のアクセス可能性に関する報告の発行。
シリア・アラブ 社会問題・労働担当相中心に行事。
トルコ 国内行動計画を発表。
タンザニア タンザニア障害者の日(8月10日)はこれまで通りとし、12月3日を国際障害者デーとし、意識の高揚、障害者の参加の促進をはかっている。
ウガンダ 意識の高揚をはかり、スポーツ競技など開催。行事は各地域順ぐりとし、1993年は中央地域、1994年は東部、1995年は北部、1996年は西部でおこなう。
アメリカ合衆国 障害に関する「人びとから人びとへ」委員会が、各州知事に国際障害者デーに関する宣言を要請、これまでに12州が宣言し、さらに増加する見込み。

(E/CN.5/1995/4をもとにして作成)

21か国しか問い合わせに答えていない。わが国は何もしなかったので、もちろん返答をしていない。事務総長は全体をまとめ、次の事柄がおこなわれているとしている。(a)障害者の権利に関する政府もしくは下位レベルでの宣言。(b)障害に関する討論会。(c)障害者や団体、障害者問題に貢献した人や組織の表彰など。(d)障害者との友愛週間など。(e)スポーツや文化的行事。
まだ、何もやっていない政府や非政府組織に対し、次のような勧告がなされている。(a)障害をもつ人びとのニーズ、関心、願望に関する対話をおこなう。(b)障害政策や計画の実施のさいの進歩と妨害を明らかにする。(c)障害者と社会全体との連帯を促進、国の障害基金の増額。(d)地方における行事の推進。(e)国際組織や地域組織を支援する。(f)学校、大学その他の教育機関、市民社会とりわけ非政府組織に、国際障害者デーの行事へ積極的に関与させる。(g)マスメディアの活用。
何もやらないと返事をするわけにはいかない日本の政府は、検討の結果、総理府障害者対策推進本部決定(1995年6月27日)として、12月3日から12月9日までの1週間を障害者週間とすることにした。この週間の強調テーマは、(1)ノーマライゼーションの理念の普及、(2)障害者の「完全参加と平等」の実現、(3)福祉のまちづくりの推進、(4)「障害者の日」(12月9日)の周知、(5)「アジア太平洋障害者の10年」(1993-2002年)の周知、となっている。もっともこれは表向きのことであり、実際には、これまでとほとんど相違がない状態である。


1)A/50/473
2)A/35/444,Annex
3)A/50/628
4)A/C.3/50/SR.10
5)本書第1部VIIの137項参照。
6)本書第1部Vの63-67頁。
7)E/CN.5/1995/4


主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所