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II 障害者の権利に関する宣言

中野善達 編
エンパワメント研究所


II 障害者の権利に関する宣言

1.経済社会理事会による障害の予防と障害者のリハビリテーションに関する決議

1975年1月6~24日にかけ、社会開発委員会第24会期が開かれた。そこでは、事務総長による障害者のリハビリテーションに関する報告と、バリアーフリー・デザインに関する専門家グループ会議に関する報告1)が検討された。この1月15日、委員会は「障害の予防と障害者のリハビリテーション(Prevention of disability and rehabilitation of disabled Persons)」の決議草案を承認し2)、経済社会理事会に採択を勧告した。理事会は審議を社会小委員会に付託、小委員会は4月14日、全会一致でこれを承認した。理事会は5月6日、全会一致でこの決議を採択した。
上記のバリアーフリー・デザインに関する専門家会議は1974年6月3~8日、国連本部で開かれたもので、日本代表(Sam I. Niwa) が議長となり、フランス、スウェーデン、オランダ、アルゼンチンの代表および他の専門家9名によって報告がまとめられた。
1975年には、障害者のリハビリテーションに関する機関間アドバイザーが、11か国を訪問し、6月16~19日には特別機関間会議、国連開発計画、難民高等弁務官事務所、UNESCO、ILOなどが障害者のリハビリテーションに関するグローバルな計画や障害者に対する技術援助の提供に関する討議をおこなった3)。
経済社会理事会によるこの決議1921(LVⅢ)に関しては、1977年1月17日~2月4日の社会開発委員会が事務総長に対し、次の会期までに実施の進捗状況に関する報告書の提出を要請した。これに応じ事務総長は1978年12月19日、進捗状況に関する報告(Progressreport)を社会開発委員会に提出した4)。ここでは、評価するには3年という期間が短すぎることを指摘しながらも、国際的な取り組み、国内的取り組みを具体的に詳述し、効果的進展がみられる反面、なんら進展のみられていない国々への対応が強調されている。
この経済社会理事会の決議1921(LVⅢ)は、障害者の権利に関する宣言の前文に言及されている。


1)E/5617-E/CN.5/525
2)E/CN.5/499
3)Y.U.N.,1975,p.688-9
4)E/CN.5/565

2.障害者の権利に関する宣言とその実施

 これは通常の手続きと異なり、ベルギー代表がオーストリア、バングラディシュ、アイルランド、モロッコ、タイと共に総会に提出した決議案である1)。全体として精神遅滞者の権利に関する宣言を下敷にし、さらに一歩進めた内容になっている。
総会の第3委員会が宣言案を審議したのは11月3日からであり、11日に全会一致で採択をおこなった2)。ベルギーが代表である提案国は51か国に増加した。日本も共同提案国の中に入っている。ベルギー代表は、この宣言案は1971年の「精神遅滞者の権利に関する宣言」を基本的に借用したものであること、障害者全体を対象としたこと、障害者の定義を示したこと、障害の種類や程度に関わりがないこと、障害者も他の人びとと同じ基本的権利をもっていることを明確に示したこと、1971年宣言の保護者をもつ権利(第5項)は可能な限り自立への諸手段を受ける資格をもつとされたこと等を説明し、提案の採択を要請した。
日本代表(Ogata)は、宣言の採択は障害者にとって2つの点で望ましいと主張した。①障害者の権利の重要性について世界的関心を焦点づける役割を果たす。②国連は世界の諸地域において、障害者を教育し、リハビリテーションをおこなうことに助力し、雇用を提供するのに必要な技術的援助を提供しうるし、提供すべきであることが明確になる。日本でも、障害者が172万人(身体障害者141万、精神的障害者31万)おり、十分なケアや保護を与えられているとは言えない状況である。
ILO 代表は、国際労働会議(International Labour Conference)の第38会期(1955年6月)に、1950年の経済社会理事会決議の要請に応え、障害者の職業リハビリテーションに関する勧告(勧告99)を採択したこと、同会議第60会期(1975年6月)に障害者の職業リハビリテーションと社会的再統合に関する決議Ⅳ(resolution Ⅳ concerning the vocational rehabilitation and social reintegration of disabled or handicapped persons)を採択したこと、宣言の採択が望まれることを述べている。
アルゼンチン代表は、第1項に関し、援助など不要の障害者もいることを指摘し、第2項については権利の意味・範囲に疑問を提出し、十分な時間がなく検討が難しいとして反対を表明した。ベルギー代表による修正案が認められたのち、だいぶ改善されたとして反対を撤回した。中国代表も、宣言をそのまま認めることに慎重な姿勢を表明していた。オーストラリア代表は採択された翌日に、検討する時間が不足していたこと、第2項、第11項は国情に合わないとして不満の意を表明している3)。
この宣言は総会ではまったく論議がなされず、無投票採択となった。こうして、障害者問題に関する歴史において画期的な宣言が採択され、これが障害者問題に関する国際的・国内的な準拠枠となったのである。
この宣言の実施に関する総会決議31/82が1976年12月13日に採択された。この決議は、加盟各国、国際機関や組織などによってとられた手段についても、事務総長が世界の社会状況に関する報告の付属文書の形で総会に報告することを要請している。この決議は日本を含め、実に72か国が提案国として名を連ねた。

国連総会決議3447(第30回総会)1975年12月9日

障害者の権利に関する宣言

国連総会は、
国連憲章の下で、より高い生活水準、完全雇用、経済的・社会的進歩と発展の諸条件を促進するため、国連と協同して共同行動および個別行動をとるとの加盟各国の誓約を心に留め、
国連憲章で宣言された人権と基本的自由に対する信念および平和、人間の尊厳と価値ならびに社会正義の諸原則に対する信念を再確認し、
世界人権宣言13)、国際人権規約14)、子どもの権利宣言15)、精神遅滞者の権利宣言16)の諸原則および、ILO、ユネスコ、WHO、ユニセフならびに他の関係諸機関の規約、条約、勧告および決議においてすでに設定された社会進歩のための諸基準を想起し、
障害の予防と障害者のリハビリテーションに関する1975年5月6日の経済社会理事会の決議1921(第58全体会)もまた想起し、
社会進歩と開発に関する宣言17)が、身体的・精神的に不利な立場にある者の権利を保護し、その福祉とリハビリテーションを確保する必要性を宣言したことを強調し、
身体的・精神的障害を予防し、障害者が最大限にさまざまな活動分野でその能力を発達させることを援助し、また、通常の生活に可能な限り統合することを促進する必要性を心に留め、
現在の開発段階においては、いくつかの国々がこの目的のために限られた努力しか払えないことを承知し、
障害者の権利に関するこの宣言を布告し、また、以下の権利を保護するための共通の基礎および枠組みとして用いられることを確保するための国内的・国際的行動を要求する:
1.「障害者」(disabled person)という用語は、先天的か否かにかかわらず、身体的もしくは精神的能力における障害の結果として、通常の個人生活と社会生活の両者もしくは一方の必要性を彼自身もしくは彼女自身では全面的にもしくは部分的に満たすこと ができない人を意味する。
2.障害者は、この宣言に示されたあらゆる権利を享受できるものとする。これらの権利はいかなる例外もなく、また、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的もしくは他の見解、出身国あるいは社会的出自、経済状態、出生または障害者彼自身か障害者彼女自身もしくは彼か彼女の家族の置かれているなんらかの他の状況に基づく区別ないしは差別なく、あらゆる障害者に与えられるものとする。
3.障害者は、人としての尊厳に関して固有の権利をもっている。障害者は、そのハンディキャップとディスアビリティの原因、性質、程度いかんにかかわらず、なによりもまず、可能な限り通常のまた十分な、しかるべき生活を享受する権利を意味するところの、同年齢の周囲の人びとと同じ基本的権利をもっている。
4.障害者は、他の人びとと同じ市民的・政治的権利をもっている:精神遅滞者権利宣言第7項は、精神的障害者に対するこうした権利のどのような制限もしくは抑圧にも適用される。
5.障害者は、可能な限り自立することができるように企図された諸手段を受ける資格をもっている。
6.障害者は、義肢・補装具を含む医学的・心理的・機能的治療を受ける権利をもち、その能力や技能を発展させ、彼らの社会的統合もしくは再統合の過程を促進する医学的・心理的リハビリテーション、教育、職業教育、訓練とリハビリテーション、援助、カウンセリング、職業斡旋サービスやその他のサービスを受ける権利をもっている。
7.障害者は、経済的・社会的保障を受ける権利ならびに、しかるべき生活水準を保持する権利をもっている。彼らはその能力によって、雇用を確保したり維持し、あるいは有用で生産的で報酬が得られる職業に従事したり、また、労働組合に加入する権利をもっている。
8.障害者は、経済的・社会的計画立案のあらゆる段階で、彼らの特別なニーズが考慮される資格をもっている。
9.障害者は、その家族もしくは里親と共に生活し、また、あらゆる社会的・創造的活動もしくはレクリエーション活動に参加する権利をもっている。いかなる障害者も、彼もしくは彼女の居住に関する限り、彼もしくは彼女の状態のため必要であるか、または、 彼もしくは彼女がそれによってなしうる改善に必要である場合以外は、差別的な扱いを受けないものとする。もしも、障害者が専門施設に入ることが不可欠であったとしても、そこでの環境および生活条件は、彼もしくは彼女の年齢の人達の通常の生活に可能な限り近づかなければならない。
10.障害者は、差別的、虐待的もしくは見くだすような性質のあらゆる搾取、あらゆる規則およびあらゆる取り扱いから保護されるものとする。
11.障害者は、その人格および財産の保護のために的確な法的援助が必要不可欠とわかる場合には、それらを利用できるようにしなければならない。
もしも彼らに対して訴訟が起こされたならば、適用される法的手続きは、彼らの身体的・精神的状態を十分に考慮しなければならない。
12.障害者の団体は、障害者の権利に関するあらゆる問題に有用な協議を受けることができる。
13.障害者、その家族および地域社会は、この宣言に含まれる権利について、あらゆる適切な手段によって、十分に知らされなければならない。
13)Resolution 217A(Ⅲ).
14)Resolution 2200A(ⅩⅩⅠ),annex.
15)Resolution 1386(ⅩⅣ).
16)Resolution 2856(ⅩⅩⅥ).
17)Resolution 2542(ⅩⅩⅣ).

国連総会決議31/82 1976年12月13日

障害者の権利に関する宣言の実施

国連総会は、
障害者の権利に関する宣言を宣した1975年12月9日の決議を想起し、
宣言に示された権利および原則の効果的実施を達成することを望み、
1.あらゆる加盟各国が、政策、立案、計画を設定するさい、障害者の権利に関する宣言に示された権利および原則を考慮すべきであることを勧告し;
2.関連するあらゆる国際組織や機関が、彼らの諸計画の中に障害者の権利および原則の効果的実施を保障する規定を含めることを勧告し;
3.事務総長に、世界の社会的状況に関する報告に付属する要約の形式で、宣言に示された権利および原則ならびに本決議の効果的実施を保障する観点から、加盟各国および関連する国際組織や機関によってとられた手段について、国連総会に報告することを要請する。

前述のように、総会決議31/82「障害者の権利に関する宣言の実施」では、その第3項で事務総長に対し、加盟各国および関連する機関が宣言の実施についてとった手段を総会に報告するよう要請している。このため事務総長は、1977年7月、加盟各国、専門機関、非政府組織に向け質問状を送付し、障害者の権利宣言の実施だけでなく、精神遅滞者の権利宣言の実施についてとった手段に関する報告を求めた。1978年5月31日時点で38の加盟国とILO、WHO、6つの非政府組織が報告を寄せた。
障害者の権利宣言に関する実施手段については、以下の国々が報告した。ベルギー、フィンランド、エルサルバドル、チリ、東ドイツ、西ドイツ、インド、イラク、リビア・アラブ、オランダ、ニュージーランド、パキスタン、ポーランド、スウェーデン、ソビエト、ベラルーシ、ウクライナ、英国、アメリカ、ボリビア、エジプト、エクアドル、ギリシャ、ハンガリー、イラン、ヨルダン、マレーシア、ニジェール、シンガポール、スペイン、スリナム、チュニジア、カメルーンであり、このうちスウェーデン、英国、アメリカは特に詳しい報告をおこなっている。精神遅滞者の権利宣言の実施手段に関しては、ヨルダン、グァテマラ、クウェート、リビア・アラブ、ポーランド、英国、アメリカが回答している。さらに今後の方針に関し、ギリシャ、イラン、ニュージーランド、ノルウェー、パキスタン、ソビエト、シリア・アラブ、カメルーンの諸国が報告している{4)}。
その後、報告を送ってきたオーストラリア、レバノン、スリランカ、ユーゴを含め、ベラルーシ、ウクライナ、ソビエトの諸国についてきわめて詳細な要約が出されている{5)}。
これらによると、両宣言によって、とりわけ障害者の権利宣言によって、障害者問題への積極的取り組みが進展した国の多いことがわかる。残念ながらわが国の名は、これらの中に見当らない。


1)A/C.3/SR.2147
2)A/C.3/SR.2111-2181
3)A/C.3/SR.2148
4)E/CN.5/557/Add.2
5)E/CN.5/557/Add.3


主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所