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国際連合と障害者問題- 重要関連決議・文書集 -

第V章 広報と教育
勧告および提言

中野善達 編
エンパワメント研究所


 B.特定の提言

279.前述のように、障害者の人権に関して監督する国際的機関なり機構の設置は、非政府組織が最も強く望んでいる目的の一つである。国連障害者の10年が間もなく終結するという事実は、このことが話題性が高く、かつ緊急な問題となっているのである。
280.障害者の10年の間に着手された多くの行動や、さまざまな面で障害者のために達成された価値ある結果にもかかわらず、障害者の10年の終結の時点で、障害をもつ人びとは、難民、女性、移住労働者などの他の傷つきやすいグループと比較して、法的に恵ま れていないことが認識されてきている。難民、女性、移住労働者の人たちは、女性に対するあらゆる形態の差別撤廃条約、あらゆる移住労働者とその家族の権利保護に関する国際条約など、拘束力のある単一の規準による保護を受けている。さらにこれらの条約は、特定の保護機構を確立してきている。すなわち、女性に対する差別撤廃に関する委員会、あらゆる移住労働者とその家族の権利保護に関する委員会は、条約の遵守を監督する責任を有している。
281.障害者に関しては、こうしたことが生じなかったというよく知られた事実が存在する。すなわち、国連総会第42会期中の1987年10月、障害者の人権に関する条約の検討に関する論議が提起されたが、その発議は時期尚早というのが結論となった{107)}。 現在の状況は次のように要約できるであろう。
 (a) 社会開発・人道問題センターは、とりわけ、各国政府から提供された情報を基にして、障害者に関する世界行動計画の実施を調整し、監督している。これらの情報を基にしたセンターによる刊行物は、世界行動計画がどのように展開されつつあるのか  、また、さまざまな国や分野(文化、雇用、教育など)でどのような進歩が達成されているかを示すきわめて有用なものである。
 (b) しかしながら、障害者の人権に関して監視したり、人権の特定の侵害が生じたとき、内密にもしくは公然と活動することに責任をもつ特定の機関は存在していない。障害をもつ人びとは、一般的規準、国際的規約、地域条約などによって、他の人びとと平等に保護されている、と言われている。しかし、それは確かにその通りなのだが、他の傷つきやすいグループとは異なり、障害者たちは特有の、また特定の保護を提供する国際的な統制機関をもっていない、ということも事実なのである。そこで、最も積極的な非政府組織は、国際的オンブズマンのような、この問題の特別な特徴に適合できる柔軟な機構を設置する必要性を強調しているのである。
282.オンブズマンの能力、権限、活動範囲に関し、多様なあり方や可能性について、人権機関の中においてだけでなく、ウィーンの社会開発・人道問題センターとも徹底した討議が必要である。このため、特別調査報告担当官は、これを実施すべきかどうか、もしくは他の方法を検討すべきかどうか、比較的すみやかに討議されるべきであり、ここでは、この発議の全般的な輪郭だけを示すことにする。
283.非政府組織によると、オンブズマンは、人権に関しなんらかの問題を抱えている国々の政府と共に、おそらく内密に、行動をおこなったり、話し合いを継続できるといった大きな利点をもっている。オンブズマンは、促進活動を通じてきわめてみのりある予 防的作業をおこなったり、協力・助言支持活動を構成できる筈である。とりわけ、オンブズマンは、障害に関する専門家の助力を得られるであろうし、非政府組織や他の関連するセクターと密接な連帯を維持できるであろう。
284.特別調査報告担当官は、別の可能な選択肢としては、この目的のために特別な権限 を受ける経済的、社会的および文化的権利に関する委員会に監督の課題を委託することだと考える。この提言は、以下の考察に基づいている。
 (a) 国連システムのほとんどの組織で繰り返しなされてきた、監督機関の数を増加させるのでなく、むしろ、現存する機関に新しい活動を委託すべきである、という勧告と合致している。
 (b) 「経済的、社会的および文化的権利に関する委員会」は、「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」の下で設置されたのではなく、規約の実施を監督する目的で経済社会理事会によって設置されたものなのである。そこで委員会に、特定の規約に限定されない、世界的展望の監督権能を含む新しい権能を付与することは、より高次の機関の権限に属する。
 (c) さらに、国際的管理の分野での発展は、単一の機関に二つの文書の監督を委託するといった、ある種の驚きを伴う革新に導くような、きわめて豊かでダイナミックなものであった。こうしたことの一つの例としては、米州間条約とアメリカ宣言の遵守  を監視する人権に関する米州間条約がある。そこでは、条約を批准しなかった国々についても、また、両文書を批准した国々についても監視がなされているのである。
 (d) この場合、委員会は、現在開かれている会期に加え、加盟各国によって提出された報告やすでに委員会に文書連絡ができる非政府組織によって提出されたコミュニケーションを扱うための、特別会期を開催することができる。委員会の機能を障害分野  にまで拡大することは、きわめて革新的なことであり、また、適切な保護の枠組みを設定できるであろうし、さらに、各国政府と関連する組織間の協力を国内的にも国際的にも刺激することになるであろう。
 (e) 障害者保護に関する現存する一般的ならびに特定の規準に加え、行動の規範的な枠組みを明確化する、他の非常に価値ある文書がいま起草中である。すなわち、障害者の機会均等化に関する基準原則や、精神疾患者の保護と精神保健ケア改善のための原則と保障がこれである。これに関し、この機能を組み込むことの適切さは、以下の質問に答えられないということからも明らかである。もしも、経済的、社会的および文化的権利に関する委員会がその役割を担わないとしたならば、他のどの国連機関が実施や遵守を監視する責任をもつのであろうか。
 (f) さて、特別調査報告担当官は、この提言に関し、非政府組織ならびに経済的、社会的および文化的権利に関する委員会のメンバーと公式の会議で協議をおこなった。この提言は、少なくとも十分な討議を基にして、まず第1に小委員会の専門家たちによって、さらに人権委員会のメンバーによって、また、経済社会理事会のメンバーによって練り上げられるべきことが、関連するセクターによって合意を得た。
285.最後に、第263項に指摘したように、国際的オンブズマンの設定は、経済的、社会的および文化的権利に関する委員会の権限の拡大と矛盾しないであろうし、むしろ反対に、二つの監視機構の並置は、きわだっている願望を最もよく満たす他の選択肢といえるようである。

 
 106) In a letter to the Special Rapporteur, the International Movement ATD Fourth World gives an encapsulated account of the dramatic nature of this phenomenon by describing the situation of a woman, a single parent with two very young children, who is an immigrant and who, apart from existing under conditions of extreme poverty, suffers from multiple disabilities.
 107) ST/ESA/177.


主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所

補遺 受領した回答

中野善達 編
エンパワメント研究所


補遺 受領した回答

1.特別調査報告担当官は、以下の加盟各国から質問への回答を頂戴した。アルゼンチン 共和国、オーストラリア、バーレーン国、バングラデシュ人民共和国、バルバドス、ベ ルギー王国、ブルネイ・ダルサラーム国、ブルガリア共和国、カナダ、チリ共和国、中 華人民共和国、コンゴ共和国、キューバ共和国、キプロス共和国、チェコ・スロベニア 連邦共和国、デンマーク王国、ドミニカ共和国、エクアドル共和国、エルサルバドル共 和国、エチオピア、フィンランド共和国、ガボン共和国、ドイツ連邦共和国、ガーナ共 和国、ギリシア共和国、ハイチ共和国、アイスランド共和国、インド、イスラエル国、 ジャマイカ、ヨルダン・ハシミテ王国、ケニア共和国、ルクセンブルク大公国、マリ共 和国、マルタ共和国、メキシコ合衆国、オランダ王国、ナイジェリア連邦共和国、オマ ーン国、パナマ共和国、パラグアイ共和国、ペルー共和国、フィリピン共和国、ポーラ ンド共和国、ポルトガル共和国、カタール国、ルーマニア、ルワンダ共和国、サウジア ラビア王国、スペイン、スリランカ民主社会主義共和国、シンガポール共和国、スウェ ーデン王国、トリニダート・トバゴ共和国 、トルコ共和国、ウクライナ、英国、ロシア 連邦、ベネズエラ共和国、ユーゴスラビア連邦共和国、ザンビア共和国。
2.以下の国連機関および専門機関からも報告を頂戴した。国連社会開発・人道問題セン ター、国連アジア太平洋経済社会委員会、国連ラテンアメリカ経済委員会、女性の前進 部、公報局、国連災害救済調整官事務所、国連難民高等弁務官事務所、国連人間居住センター、国連開発計画、ユニセフ、国連パレスチナ難 民救済事業機関、ILO、ユネスコ、WHO、国際農業開発基金。
3.以下の障害者を代表する団体ならびに他の非政府組織からも報告を頂戴した。障害者 インターナショナル(DPI);国際障害協議会;国際精神障害者協会連盟;国際赤十字 委員会;世界精神保健連盟;国際運動ATD第4世界;世界退役軍人連盟;第4指示協議 会;イタリー、パキスタン、ポルトガル、スリランカの諸組織;ルーテル派世界連盟; リハビリテーション希望基金;リハビリテーション・インターナショナル;世界精神保 健連盟および世界保健連盟。


主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所


2.『人権と障害者』がまとめられるまでの経緯と課題

中野善達 編
エンパワメント研究所


2.『人権と障害者』がまとめられるまでの経緯と課題
 ジュネーブの人権センター(Centre for Human Rights)は、人権委員会(Commission on Human Rights)やその差別防止・少数者保護小委員会(Sub-Commission on Prevention of Discrimination and Protection of Minolities)などの人権機関によって委託された、人権の今日的問題に関する特別調査報告担当官(special rapporteur)によってまとめられた諸研究や諸報告を、人権シリーズとして刊行している。
 『人権と障害者』はこの第6集であり、差別防止・少数者保護小委員会の特別調査報告担当官レアンドロ・デスポイ(Leandro Despouy)(アルゼンチン)によってまとめられたものである。A4判、2段組、44頁の冊子だが、細かい文字がぎっしりとつまっている。第1集から第5集までの表題を次に示しておく。
 第1集『人権としての、十分な食糧を得る権利(Rights to adequate food as a human right)』、第2集『宗教もしくは信条に基づく、あらゆる形態の不寛容や差別の撤廃(Elimination of all forms of intolerance and discrimination based on religion or belief)』、
 第3集『法の下における個人の自由:世界人権宣言第29条の分析(Freedom of the individual under law: an Analysis of Article 29 of the Universal Declaration of Human Rights)』、第4集『国家レベル、地域レベル、国際レベルでの人権の促進・保護・回復-個人の地位と現代の国際法(Promotion, Protection and Resteration of Human Rights at National, Regional and International Levels-Status of the Individual and Contemporary International Law)』、第5集『人種的・宗教的・言語的マイノリティーに属する人びとの権利に関する研究(Study on the Rights of Persons belonging to Ethnic, Religious and Linguistic Minolities)』。
 国連は人権問題にその設立当初から取り組んできた。世界人権宣言をはじめ、人権に関する国連の文書は大部なものである。障害者の人権に関しては、総会決議2856「精神遅滞者の権利に関する宣言」(1971年)、同じく決議30/3447「障害者の権利に関する宣言」(1975年)が、画期的なものとして評価されている{1)}。1982年に採択された「障害者に関する世界行動計画」でも、その第162項から第169項を「人権」の問題にあてている。
 人権委員会では、障害者に対する人権侵害に早くから関心を寄せてきた。人権委員会の差別防止・少数者保護小委員会は1982年9月7日、決議1982/1を採択した。そこでは、いくつかの国々において障害者の人権が尊重されず、人権が侵害され続けていること、各国がこうした事実を認識し、対応策をとるべきこと、事務総長が各国政府や諸専門機関、非政府組織などの見解を求めるよう要請すること、を決めている。人権委員会はその決議1983/22(1983年3月4日)で、小委員会の決議を追認した。事務総長は小委員会に、8月5日付で覚え書{2)}を提出した。題目は「人権差別や隔離やアパルトヘイトの政策を含む、あらゆる国々、とりわけ植民地や他の従属国や属領における人権や基本的自由の侵害の問題」であるが、もっぱら障害者の問題だけを扱っている。返答を寄せたのは英国、キューバ、インド、ソビエト、アメリカ合衆国、ユネスコ、ILO、国連難民高等弁務官事務所や国際障害者年のための諮問委員会、リハビリテーション・インターナショナルをはじめとする非政府組織などで数少なく、いつもの如く日本は質問に応じていない。
 小委員会は、人権侵害と障害者の問題を検討する特別調査報告担当官の任命を要請する決議1983/19(1983年5月26日)を採択した。これをうけ、人権委員会は決議1984/31で、経済社会理事会に対し、人権と障害者の問題を研究する特別調査報告担当官を任命するよう勧告した。人選にあたっては、社会開発・人道問題センターとの協議を求めている。人権委員会と社会開発委員会の働きかけをうけ、終済社会理事会は1984年5月24日、決議1984/26を採択した。両委員会の要請に同意したのである。小委員会は1984年8月29日、決議1984/20によって、小委員会の委員レアンドロ・デスポイを特別調査報告担当官に任命した。また、その調査報告内容に関する要請をおこなった。
 1985年6月24日、デスポイによって準備された「予備的報告」{3)}が小委員会に提出された。これによると1985年6月15日現在で、デスポイによる質問紙への回答は以下のようである。オーストラリア、バルバドス、ブルネイ、ブルガリア、カメルーン、チリ、コロンビア、コンゴ、キプロス、エルサルバドル、エチオピア、ドイツ、フィンランド、イラク、オランダ、パナマ、カタール、トルコ、英国、ザンビア(20か国)。社会開発・人道問題センター、国連アジア太平洋経済社会委員会、国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会。人間居住委員会、国連開発計画、国連工業開発機関、ILO、ユネスコ、WHO、国際農業開発基金、このほか、リハビリテーション・インターナショナルなどの非政府組織。これらの情報を整理して報告。検討課題としては以下が中心となるとし、その問題点が指摘された。
①用語と定義:障害や障害者に関する用語、とりわけスペイン語やフランス語の場合を例示して論じている。また、障害者の定義も検討している。②障害の原因:事故、自然災害、高齢、疾病、地震、遺伝的・先天要因などによる一般的なものと、人権侵害の直接的・間接的結果としての障害。これは特定の原因によるもので、手足切断といった非人間的なもの、虐待、残酷なものがかなり多い。貧困、栄養失調、環境汚染、不健康な労働条件によるものなどが該当する。③すでに障害をもっている人に対する人権侵害。④障害に関連する経済的・社会的・文化的権利。⑤開発の権利。⑥国際人権規約など。内容に関し、活発な討議がなされた。
 小委員会は8月29日、デスポイの報告に関しおおむね満足し、作業の継続と、1987年に経過報告を提出するよう要請した。
 デスポイは1988年6月13日、小委員会に「人権と障害」と題する経過報告{4)}を提出した。ここでは、法的文書の検討がかなりの部分を占めている。また、1987年8月、スウェーデンで開催された「国連障害者の10年の中間点で、障害者に関する世界行動計画の実施をレヴューするグローバルな専門家会議」による勧告、とりわけ「障害者に対するあらゆる形態の差別撤廃条約」の起草提案に関心を寄せ、これについても論じている。
 1988年8月、小委員会で経過報告に関する討議がおこなわれた。好意的な反応が多かったが、なかには予備的報告からほとんど進展をみせていない、といった批判もあった。日本人委員(Hatano)は、人権と障害者に関する価値ある建設的な報告と、高く評価している。論議の中に、日本のことも出てきている。ある委員は、水俣病のことを取り上げ、異常出産や環境による影響を防ぐため、婚前の医学検査を考慮する必要があるのではないか、と述べている。 また、非政府組織の国際人権連盟(Shea)ならびに国際法律家委員会(MacDarmot)の代表たちは、日本の精神病院のあり方について、実に詳細な告発をおこなっている。日本の精神衛生・人権基金の要請で、国際法律家委員会と国際保健専門職委員会が共同して日本へ専門家を派遣し、1985年5月4~16日、日本に滞在した委員が数か所の精神病院や厚生省、外務省、法務省を訪れたり、精神科医やソーシャルワーカーその他と討議をした。発端は、宇都宮病院における職員の暴行と、それによる患者2名の死亡である。その後、患者の過剰収容、無資格診療、医療スタッフの不足などが明るみに出た。このときの調査団の勧告が、精神衛生法改正を促したのである。日本の精神医療、厚生行政全般に対する激しい論難に対し、オブザーバー参加の日本人(Kobayashi)は、日本における精神病患者の基本的人権の侵害に関する陳述に反論した。宇都宮病院はまったくの例外であること、こうしたことがないよう政府は1984年6月、県知事に精神病院への指導監督の強化を命じている。国際的非政府組織は日本にやってきても、日本の姿をきちんと把握してはいない。今後、日本は法政正もお こなう予定である(精神衛生法は1987年に精神保健法と改正され、翌年から施行をみた)。これに対し、前記非政府組織は Kobayashi の主張は事実を曲げたものだと批判した。
 デスポイによる最終報告の構成案も、おおむね歓迎されたといえよう。

最終報告の構成案

はじめに   発端  歴史的背景  情報の拠り所

I.基本的法的概念

 「障害者(disabled person)」の適切な定義を形成する観点と、人権の促進と保護と いう点での一般的および特有の権利という観点からの、国際的文書、政府間組織による 討議や研究、国内法制の分析。可能な限り、これら定義の基礎に関する統計的推定。

II.障害を引き起こす要因としての人権と人道法の侵害

 障害の原因に対する、人権と人道法の侵害の状態。開発への権利の侵害とみなされる、 低開発とそのさまざまな現われ。武力紛争における非戦闘員に加えられた被害、差別の 諸形態。
 アパルトヘイト刑罰と他の意図的に加えられた措置:手足切断、断種、卵巣除去 、女性器切除、拘留の代わりに盲目にする行為に関連する諸問題。
 女性と子どもに対するケアの不十分さと残虐。
 他の傷つきやすいグループに特有な諸問題:先住民;移民;難民;その他。
 科学的実験の問題:隔離的場での研究への言及。

III.障害者に対する偏見と差別:形態と範囲

 (特別調査報告担当官は、これらの基本的諸側面に関する十分・広範な情報をもってい ない。そこで、各国、政府間諸組織、非政府組織から、さらに情報の提供をしてくださ るよう要請する。)

IV.障害者への差別を除去し、人権の完全な享受を保障するための国内および国際政策や手段

 施設への収容と地域社会における統合との間の基本的選択。統合が優先的な選択肢である。施設収容は最少限にすることと、虐待の予防を保障する手段。人権の促進のために、障害者が自由に構成した組織の確立と活動を促進するためにとられた手段:決定過程や障害者に関する政策の適用への障害者の参加。教育、訓練および職業ガイダンスの問題における障害者の権利。障害者の他の権利:建造物や輸送施設へのアクセス;文化;余暇活動;スポーツ;レクリエーション;その他。(特別調査報告担当官はあとの4つの側面に関する情報をほとんどもっていない。したがって、より多くのデータ提供を要請したい。)障害者に対する法的救済の有効性を強化する手段。

V.広報と教育

結論

勧告

 最終報告{5)}は1991年7月12日、小委員会に提出された。小委員会は8月16日、20日、28日と審議をおこなった。さまざまな見解が表明されたが、歓迎する意見が多く、28日に記録投票をしたところ、23対0で報告は承認された(決議1991/19)。
 1992年3月3日、人権委員会は事務総長に対し、特別調査報告担当官による勧告の技術的・財政的実現可能性を研究すること、諸機関間の調整をおこなうこと、最終報告を各公用語で出版することを要請した。また、経済社会理事会は最終報告を7月20日に承認(決定1992/232)した。また、最終報告を出版すること、点字版、拡大文字版、カセット版も作成することを勧告した。このような経過をへて、最終報告は総会で採択をみた。
 ところで、特別調査報告担当官の任命は、来日した元国連人権センターのスタッフで障害者インターナショナル(DPI)人権委員会委員であるテレジア・デグナー(Theresia Degener)さんの語るところによれば、DPIが国連人権委員会を説得したことによるという{6)}。DPIはデスポイの研究に多大の貢献をし、国連人権委員会や小委員会に30以上もの文書を提出したという。
 人権と障害者の問題に関し、日本でも図書が刊行されたりしているが、上記デグナーさんとコスター-デリーゼ(Y.Koster-Dreese)さんの共編による『人権と障害者』(1995年)という本{77)}は757項にも及ぶ大部の図書で、うち約560項が障害者の人権に関する宣言、規約、条約等にあてられている。資料集ともいうべき基本書である。この本は、人権の国際的研究シリーズの第40巻となっている。
 さて、デスポイは、障害者の人権に関して監視したり、人権の特定な侵害が生じたさいに活動する責任をもつ、国際的オンブズマン(オンブズパーソン)を設定し、「経済的、社会的および文化的権利に関する委員会」と並立して活動をおこなうことを提言している。この提言はまだ実現をみていないが、その実現への働きかけが望まれる。
 なお、日本はデスポイの質問紙にも返事を出していない。いったい、国連で日本は障害者の問題にどう対応しようとしているのであろうか。国民がこうしたことにさらに関心をもち、国としての対応を十分に監視していく必要があるであろう。

 注
 1)国連開発計画の E.Helander は、両宣言の不十分な点を指摘し、宣言の改訂を主張 している。ヘランダー著、中野善達編訳『偏見と尊厳-地域社会に根ざしたリハビリ テーション』(田研出版、1996年)、補遺I。
 2)E/CN.41 Sub.2/1983/36 and Add.1-3
 3)E/CN.41 Sub.2/1985/32
 4)E/CN.41 Sub.2/1988/11
 5)E/CN.41 Sub.2/1991/31
 6)(インタビュー)テレジア・デグナー「国際的意味合いにおける障害者の人権」( 中西由起子)。ノーマライゼーション、11月号、41-44、1995年。
 7)Theresia Degener and Yolan Koster-Dreese (eds.) Human Rights and Disabled Persons. Essays and Relevant Human Rights Instruments. 1995 (International Studies in Human Rights. Vol.40) Martinus Nijhoff Publishers.


主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所