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国際連合と障害者問題- 重要関連決議・文書集 -

2.「特別なニーズ教育に関する世界会議:アクセスと質」(1994年)と「特別なニーズ教育に関するサラマンカ声明と行動の枠組み」

中野善達 編
エンパワメント研究所


2.「特別なニーズ教育に関する世界会議:アクセスと質」(1994年)と「特別なニーズ教育に関するサラマンカ声明と行動の枠組み」

会議の全体的枠組み

 1994年6月7日から10日にかけ、スペインのサラマンカで、ユネスコとスペイン政府共催の「特別なニーズ教育に関する世界会議:アクセスと質(World Conference on Special Needs Education : Access and Quality)」が開かれた。会議は最終日に「特別なニーズ教育に関するサラマンカ声明と行動の枠組み(The Salamanca Statement and Framework for Action)」を採択した。
 サラマンカ会議は、1990年、タイのジョムチャン(Jomtien)で開催された「万人のための教育(Education for All : EFA)」世界会議の幅広い枠組みの内に、特別なニーズ教育を位置づけるユニークな機会となった。会議の参加国・組織と参加人員はTableIII-(1)に示したが、日本からの参加者は政府派遣が鈴木篤氏(文部省)、篠原吉徳氏(国立特殊教育総合研究所)の2人、自主参加が石原佳敏氏(東大阪短期大学)、鈴木陽子さん(早稲田大学)の2名であるが、ほかにユネスコ事務局から大安喜一氏が参加した。
 「万人のための教育に関する世界会議-基本的学習ニーズへの対応-」は、ユネスコの最重要事業の一つとして、ユネスコ、ユニセフ、国連開発計画、世界銀行の共催で開かれ、アジア開発銀行、デンマーク、フィンランド、イスラム教育・科学・文化機関、日本、ノルウェー、スウェーデン、国連人口基金などが支援した。155か国の約1500人の参加者があり、「万人のための教育に関する世界宣言」および、これに付随するテキスト「基本的学習ニーズに対応するための行動の枠組み」を採択した。
 さて、すでに40年以上も前に、「世界人権宣言(1948年)」はその第26条で、「すべての者は、教育を受ける権利を有する。」と規定しているが、これはいまだ実現をみていない。すなわち、以下のことが確認された。①少なくとも6千万人の少女を含む、1億人以上の子どもが効果的な初等教育へのアクセスを有していない。②9億6千万人以上の成人が、その3分の2は女性であるが、読み書きができないでいる。先進国でも開発途上国でも、実質的な識字率は低いままである。③世界の成人の3分の1以上が、生活の質を高め、発展するのに助力し、社会的・文化的変化に適応できるようにする、印刷された知識や新しい技能や技術にアクセスできないでいる。④1億人以上の子どもたちや無数の成人が、基礎教育を完了できないでいる。また、出席要件は満たしてはいても、必要不可欠な知識や技能を身につけることができない子が100万人以上もいる。この会議の記録では、障害児のことは部分的に言及されているだけであるが、重要な問題だという認識がみられている{4)}。
 この会議をうけ、サラマンカ会議は、世界のすべての子どもを学校にインクルージョンし、また、それを可能にするため、学校制度の改革をめざすことを目標とした。世界の中で教育にアクセスできないでいる2億人もの子どもたちのうち、その大多数は特別な教育的ニーズをもっている者である。これまで、特殊教育は、身体面、感覚面や情緒面の問題をもつ子どもの教育ということで定義されてきた。しかし、過去15~20年間に、理由がどうであれ、学校教育の恩恵を受けられないすべての子どもたちを対象とする、特別なニーズ教育という概念の重要性が明確になってきた。

特別なニーズ教育の対象児
・地域の学校へ通えないインペアメントやディスアビリティをもつ子どもたち
・一時的もしくは恒久的に学校で困難を経験している子たち
・学習に興味やモチベーションを欠いている子たち
・留年を繰り返し、1~2年の初等教育しか完了できない子たち
・働かなければならない子たち
・ストリート・チルドレン
・学校からあまりにも遠いところで生活している子たち
・厳しい貧困状態で生活していたり、慢性的な栄養失調にさらされている子たち
・戦争や武力紛争の犠牲者である子たち
・持続的な身体的・情緒的・性的な虐待を受けている子たち
・理由のいかんを問わず、たんに学校へ行かない子どもたち

 サラマンカ会議の目的をより具体的に示すと、①学習の困難や学習障害ならびに特殊教育の諸施設・学校などと、通常教育の改革との関係に関し、新しい考え方を提示すること、②特別な教育的ニーズをもつ児童・青年のための施設・学校などにおける最近の発展をレヴューすること、③法制、カリキュラム、教育学、学校組織、地域社会の参加といった中心的な分野における画期的な進展や重要な経験を明らかにすること、④国際レベル、地域レベル、二国間レベルで経験を分かち合い、今後の協力の機会を得られるフォーラムの場を提供すること、であった。これらはジョムチャン会議のあと、スウェーデン政府による財政的支援を受け、ユネスコが組織した5つの地域セミナーでの討議をもとに設定されたものであった。
 Table III-(2)に会議の日程を示した。これは、会議の最終報告{5)}を参考に筆者が作成したものである。

 Table III-(2) 会議の日程

1994年6月7日
8:30~9:30:参加登録 9:30~10:15:会議の全般的説明
10:15~11:15:開会行事 サラマンカ代表団議長、サラマンカ市長、ユネスコ事務局長代理、スペイン王女殿下の挨拶
11:45~13:30:全体会 テーマ1:政策と立法 司会 英国代表
 1.特別なニーズ教育:概念的枠組み、計画立案、政策要因 Bengt Lindqvist(スウェーデン)同名論文の提出
 2.立法上の諸問題 Maria Rita Saulle(イタリア)同名論文の提出
 3.特別なニーズと学校改革 Alvaro Marchesi(スペイン)論文:特別な教育的ニーズと教育改革
指定討論者 Antonio Jose Lizarazo Ocampo(コロンビア)、Phelelo Marole(ボツワナ)、James Lynch(世界銀行):論文「特別な教育的ニーズをもつ子どもたちのアジア地域研究」
15:00~16:30:分散会 司会 スペイン代表、英国代表、オランダ代表、ヨルダン代表
1994年6月8日
9:30~11:30:全体会 テーマ2:学校に関する展望 司会 フィリピン代表
 1.カリキュラムへのアクセス Margaret Wang(アメリカ合衆国)論文:特別なニーズをもつ生徒たちにサービスすること一公正とアクセス
 2.学校教育の組織 Gordon Porter(カナダ)論文:学校教育-インクルージョンによるアクセスと質の高さを達成すること
 3.教師教育 N.K. Jangira(インド)論文:教師教育再考
  指定討論者 Klaus Wedell(英国)論文:テーマ2の諸問題への討議
12:00~13:30,15:00~16:30:分散会
 サブ・テーマA:カリキュラムへのアクセス 司会ポルトガル代表
   各国の状況:カナダ、スペイン、アメリカ合衆国(スペインとアメリカ合衆国が論文提出)
 サブ・テーマB:学校教育の組織 司会 イタリア代表
   各国の状況:オーストラリア、ペルー、スペイン、ジンバブエ(各国から論文提出)
 サブ・テーマC:障害青年のための積極的生活-学校プロジェクトにおける統合 司会 OECD代表
   各国の状況:ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、アイスランド、アイルランド、イタリア、アメリカ合衆国(各国から論文提出)
 サブ・テーマD:教師教育 司会 ユネスコ代表
  ユネスコプロジェクト:教室における特別なニーズ Mal Ainscow(英国)論文:ユネスコ教師教育プロジェクト
  各国の状況:ラテンアメリカ(ユネスコ)、中国、インド、イタリア、スペイン
  パネルディスカッション:遠隔教師教育(デンマーク、英国)、学校を基盤とした教師教育(インド、チリ)、特殊教育教師養成・研修(ノルウェー)論文「研修におけるヨーロッパモデル」(デンマーク)、「ノルウェーにおける特殊教育教師養成・研修」(ノルウェー)
1994年6月9日
9:30~11:30:全体会 テーマ3:地域社会に関する展望 司会 ウルグアイ代表
 1.地域社会に根ざしたリハビリテーション計画 Brian O'Toole(ガイアナ)同名論文の提出
 2.組織の役割 ボランタリー組織の役割 W.Brohier(マレーシア)同名論文の提出、寄金提供機関の役割 Kerstin Rosencrantz(スウェーデン)
 3.両親の役割 Alain Parvillers(フランス)同名論文の提出
 4.障害者団体の役割 Deng Pufang(中国)同名論文の提出
12:00~13:00,15:00~16:30:分散会
 サブ・テーマA:成人生活への準備 司会 ILO代表
   各国の状況:アルゼンチン、スペイン(両国から論文提出)
 サブ・テーマB:地域社会に根ざしたリハビリテーション計画内の教育
         司会 国連開発計画代表
   各国の状況:ベナン、ガーナ(両国から論文提出)
 サブ・テーマC:パートナーとしての両親
         司会 国際精神障害者協会連盟代表
   各国の状況:アメリカ(親と専門家の協力)、オランダ(革新家としての両親)、論文「パートナーとしての両親」(オランダ)
1994年6月10日
10:00~11:00:全体会 協力とネットワーク化
 1.協力とネットワーク化のための選択とチャンネル Victor Ordonez(ユネスコ)
 2.ヨーロッパ共同体内の特別なニーズ教育 Domenico Lenarduzzi(ヨーロッパ共同体)
 3.特別なニーズ教育における協力:非政府組織、政府、人びと Jez Stoner(英国)
12:00~13:00:閉会行事 総括責任者の報告、結論と勧告の採択、閉会挨拶

 Table III-(3) 会議のための諸委員会

会議事務局 議長(スペイン代表)、副議長(ラテンアメリカ:パナマ代表、アフリカ:コートジボワール代表、アジア:ラオス代表、アラブ諸国:リビア代表)
起草委員会 7名(インド代表、タンザニア代表、ヨルダン代表、エクアドル代表、アメリカ合衆国代表、相談役:世界銀行代表、デンマーク代表)
プログラム委員会 6名(フランス代表、デンマーク代表、スイス代表、タンザニア代表、スペイン代表、ベルギー代表)調整役(ユネスコ代表)、相談役(英国代表)
組織委員会 17名(スペイン代表 15名、ユネスコ代表 2名)

主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所