IV 任意拠出基金
中野善達 編
エンパワメント研究所
IV 任意拠出基金
国連の財政は慢性的歳入不足に悩まされている。通常の運営経費も十分でなく、何か新しい取り組みをするさいは、各国政府や非政府組織、私的団体や私人による任意拠出金によることになっている。
国際障害者年に関しては1977年、総会決議32/133第7項で加盟各国に任意拠出による貢献を訴えている。1978年の終わりまでに、エチオピア、リビア・アラブ、スウェーデンが拠出し、インドも拠出を申し出た{1)}。もっとも、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、オーストラリアは信託基金の設定には反対で、英国も消極的であった。国連開発計画との結びつきを考えるべきだと主張したのである{2)}。決議34/154第17項では、貢献への感謝表明と、今後の貢献が訴えられている。1978年に設定された国際障害者年のための国連信託基金(United Nations Trust Fund for the International Year of Disabled Persons)も、拠出額は必ずしも高いわけではない(Table 4)。決議36/77でも、貢献への感謝と障害者年のフォローアップのための貢献が訴えられ{3)}、37/53では信託基金継続の必要性と可能性の検討が定められた。
障害者に関する世界行動計画はその第157項で、信託基金の使途について、開発途上国で障害者団体からの援助要請に応えることと、世界行動計画の実施促進をあげている。さらに第158項で、資金調達のための新たな方法・手段の探求を事務総長に要請し、政府や民間からの任意拠出の奨励を呼びかけている。決議38/28では、その前文および第1~4項、第8項で信託基金の問題を取り上げ、国連障害者の10年を通して継続する必要性のあることを指摘している。
Table4 国際障害者年のための国連信託基金(1978-1983年)への拠出
| 1978-79 | 1980-81 | 1982-83{*} | 計 | |
| オーストラリア | 55,810 | 55,810 | ||
| オーストリア | 22,479 | 22,479 | ||
| ベルギー | 25,000 | 7,843 | 32,843 | |
| カナダ | 82,900 | 82,900 | ||
| チリ | 5,000 | 5,000 | ||
| キプロス | 1,000 | 1,000 | ||
| エチオピア | 5,000 | 5,000 | ||
| フランス | 19,481 | 19,481 | ||
| ドイツ連邦 | 267,775 | 267,775 | ||
| インド | 10,063 | 10,063 | ||
| 日本 | 200,000 | 200,000 | ||
| クウェート | 7,367 | 7,367 | ||
| リビア・アラブ | 100,000 | 250,000 | 350,000 | |
| マルタ | 250 | 250 | ||
| オマーン | 5,000 | 5,000 | 10,000 | |
| パキスタン | 10,000 | 10,000 | ||
| フィリピン | 5,000 | 4,985 | 9,985 | |
| ポルトガル | 1,000 | 1,000 | ||
| カタール | 4,000 | 4,000 | ||
| サウジアラビア | 150,000 | 150,000 | ||
| セネガル | 2,000 | 2,000 | ||
| スウェーデン | 10,000 | 10,000 | ||
| カメルーン共和国 | 851 | 851 | ||
| ユーゴスラビア | 104 | 104 | ||
| 一般からの寄付 | 56,841 | 136,252 | 193,000 | |
| 計 | 115,000 | 953,630 | 382,371 | 1,451,001 |
*1983年8月31日まで (A/38/506, Annex I)
39/26でも、その第11項で継続を要求しており、40/31では、各国政府に貢献を促進するため、信託寄金を「国連開発活動への提供寄金会議(United Nations Pledging Conference for Development Activities)」で、基金が提供される計画に組み込むことが指摘され、これまでに25か国から約160万ドルの基金が寄せられたとしている。さらに第10項で、基金の名称を「国連障害者の10年のための任意拠出基金(Voluntary Fund for the United Nations Decade of Disabled Persons)」と改めることを決めている。信託基金については、1981年総会第3委員会でも、カナダ代表が、障害者に対する計画は国連の通常の計画や歳出に含められるべきであるとし、信託基金の使用留保を主張するなど、必要性と継続可能性に疑問の声もかなりあった{4)}。1983年の総会への事務総長報告{5)}によると、1983年10月17日の時点で、27の政府がコメントを寄せ、19政府が継続を勧告したが、支出の方法や国連開発計画との関連などに再検討を要請した。
Table5 基金の活動別支出先(1980-1989年)
| 活動 | プロジェクト数 | 支出(ドル) |
| 促進的諸活動 | 11 | 174,709 |
| 障害者団体または障害者のための団体 | 18 | 399,192 |
| データ収集:応用調査研究 | 19 | 294,132 |
| 養成・訓練 | 37 | 963,021 |
| 技術交換 | 22 | 210,784 |
| 障害政策・計画に関する技術協力 | 3 | 79,100 |
| 計 | 110 | 2,227,938 |
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Table6 基金の地域別支出先(1980-1989年)
| 地域 | プロジェクト数 | 支出(ドル) |
| アフリカ | 28 | 805,131 |
| アジア・太平洋 | 27 | 369,022 |
| ヨーロッパ | 1 | 1,440 |
| ラテンアメリカ・カリブ海 | 5 | 105,543 |
| 地域間・地球規模 | 40 | 859,152 |
| 計 | 110 | 2,227,983 |
A/44/406/Rev. 1 p. 22
1984年には26万21ドルの寄金があり、32万1584ドルの出費であった。オーストリア、フランス、ギリシャ、サウジアラビア、セネガルのみの拠出である。1985年の事務総長報告{6)}によると、1980年1月から1985年6月までに51プロジェクトに、110万ドル以上を支出し、1985年には17万5100ドル集まり、31万3042ドルの支出があった。拠出国はオーストリア、フランス、ギリシャ、オマーン、ザンビアにしかすぎない。提供寄金会議では、6つの政府が5万2861ドルの拠出を予約したという。1986年の決議41/106では、特定の計画への寄金拠出を認める「特別目的のための貢献(Special Purpose Contribution)」の設定がなされた。この年の事務総長報告{7)}では、拠出金が減少してきていること、この年に、16万1000ドルの拠出があり支出は38万1000ドルであること、提供寄金会議では10か国が6万2000ドルの拠出を予約したこと、支援要請が多いこと、このままでは、基金の資源は障害者の10年中間点の1987年には枯渇してしまうことが述べられている。
1987年の第42回総会以降も毎年、基金への貢献が訴えられている。43/98では、拠出基金額が著しく減じていることの懸念が表明され、44/70でも基金増大キャンペーンへの支援を要求している。1987年には29万2310ドルが集まり、43万3738ドルが支出された。また提供寄金会議では11か国が1988年に17万5933ドルの申し込みをした。基金の運営責任も国際経済・社会問題担当の国連事務次長からウィーン国連事務局長に移り、信託基金運営委員会もウィーン事務局の社会開発・人道問題センターに設置された{8)}。
障害者の10年終結が近づいた1991年の46/96では、経済社会理事会に対し、基金継続に関する見解を示すよう求めた。経済社会理事会は、1992年7月30日、決定1992/276で基金の継続を勧告すると共に、基金名称の変更も提起した。これを受け、47/88では継続が決定された。新しい名称「国連障害に関する任意拠出基金(United Nations Voluntary Fund on Disability)」の発足も定まった。
1980年から1992年末までに320万ドル以上が187プロジェクトに支出された。1992年までに45か国が拠出したという{9)}。
わが国の拠出はTable 7に示した。わが国の代表は第3委員会において、1980年には10万ドル、1986年には過去に20万ドル拠出したことを述べ、さらに1988年にも、1981年分と1982年分として20万ドルを拠出したこと、1988年用(1987年の秋)として10万ドルを拠出したこと、増額できないかどうか検討中と演説している。1990年には、1989年までに総額40万ドルを拠出したこと、1990年にも拠出することを述べ、翌1991年にも拠出を約束している。1992年の障害者の10年終結の年には、これまでに70万ドルの拠出をしたこと、新名称の下では、障害問題の諸活動とりわけ、障害女性、高齢障害者、重複障害者のために基金の支出がなされることを要請している{10)}。わが国は拠出総額が加盟国中第1位であるといわれるが、1982・87年の拠出中断はどのような理由によるものか、事情の解明が必要であろう。また、各年の拠出額が10万ドルと一定しており、一度も増額がなされていない。国内では障害者施策等関係予算額は、1981年を100とすると1992年には175になったという{11)}。なぜ、拠出金の増額がなされなかったのであろうか。
なお、ノルウェーは特別に1984年「国際障害者年へのノルウェー貢献のための信託基金(Trust Fund for Norways' contribution to the International Year of Disabled Persons)」を設け、同年に9万7822ドル、翌年に11万3432ドル、翌々年には3万2000ドルといった拠出をおこなっている。さらに同国は「障害者の機会均等化マニュアル(Manual on The Equalization of Opportunities for Disabled Persons)1986年」の印刷・刊行費負担などもおこなっている。スウェーデン政府は機会均等化の基準原則策定のための作業部会(各5日間ずつ3回)出席を開発途上各国に保障するため、代表たちの旅費・滞在費の全額負担をしたり、専門家会議の開催国を引き受けたりもしている。障害者問題に関する国際的会議の開催国となったりしている国々もあり、国際的貢献への問題は任意拠出金の問題だけでなく、より広範な枠組みでの検討が必要となるであろう。
Table7 日本による基金への任意拠出金額
| 年 | 金額(ドル) |
| 1980 | 100,000 |
| 1981 | 100,000 |
| 1982~1987 | 0 |
| 1988 | 100,000 |
| 1989 | 100,000 |
| 1990 | 100,000 |
| 1991 | 100,000 |
| 1992 | 100,000 |
| 1993 | 100,000 |
日本政府代表による、第3委員会における各年度の演説内容をもとに作成
注
1)A/32/288
2)A/AC. 197/1
3)A/36/764
4)A/C. 3/36/SR. 56,60,63,66,67,68
5)A/38/506
6)A/41/5
7)A/41/605 and Corr. 1
8)A/42/551, A/43/634
9)A/48/462
10)各年度の第3委員会記録による。
11)各省庁別にみた障害者施策等関係予算額の推移、総理府編「時の動き」平成6年12月号(特集・人権擁護) p.37。
| 主題 | 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 - |
| 編者 | 中野善達 (Yoshitasu Nakano) |
| 発行日 | 1997年6月25日 第一刷 |
| 発行所 | エンパワメント研究所 |
