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VI 障害者に関する統計

中野 善達 編
エンパワメント研究所


VI 障害者に関する統計

国連総会の決議に障害者の推計数が示されたのは1981年の決議36/77が最初で、世界中の障害者数を5億人ほどとし、うち約4億の人が開発途上国で生活していると指摘している。以後、総会決議や「人権と障害者(Human Rights and Disabled Persons)1993年」といった国連刊行物でこの数字が踏襲されている。「障害者に関する世界行動計画素案(1981年)」{1)}では、世界中の障害者数は5億人以上で、その人数は増加しつつあること、ほとんどの国で10人に1人はなんらかの障害をもっていること、障害に応じたサービスを受けられない地域に住んでいる人たちが少なくとも3億5千万人はいると記している。この記述は世界行動計画の成案でも同じである(第2項、第37項)。
障害の定義や出現率については、国連社会開発・人道問題センターとリハビリテーション・インターナショナルによる「障害の経済学:国際的展望(1981年)」{2)}が詳しい。これには、「1975年時点で、世界中に推定4億9千万人(世界人口の12.3%)の障害者がおり、2000年までに推定8億4千6百万人(13.5%)となる。1975年時点でこの人びとの4分の3は開発途上国に住んでいる」{3)}といった文章が引用されている。さらにまた、5億1千4百万人といったユニセフ資料(1980){4)}も引用されている。
障害をもつ人の人数を推算するのは、政策決定の上で重要であろうが、障害および障害者に関する概念は多様な国々を包含して、正確なもしくは蓋然性の高い資料を得るのは至難な課題といえよう。国連は1980年、加盟各国に障害者統計に関する質問紙を送付し、その回答を参考に、社会開発・人道問題センターと国連事務局国連統計部による「障害統計に関する専門家会議」を1984年4月に開催した。
障害者に関する世界行動計画はその第194項、第195項において、障害者に関連する状況の評価と評価指標の開発を要請し、さらに第198項で、国連統計部に次のような要請をおこなっている。「他の専門機関や地域委員会等と共に、開発途上国と協力し、さまざまな障害に関して、全数調査もしくは標本抽出調査によるデータ収集の現実的・実際的システムの開発、統計資料利用のための技術的マニュアルの作成。」
この勧告に従い、統計部はマイクロコンピュータ・データベースの開発に着手し、国連障害統計データベース(United Nations Disability Statistics Data Base: DISTAT)を1988年に完成した。この間1986年には、エジプト、イラク、ヨルダン、レバノン、シリア・アラブ共和国という5か国を対象とした「障害者統計の開発:事例研究(Development of Statistics of Disabled Persons : Case Studies)1986年」{5)}が公にされた。これは、現存するデータの分析、データ利用のためのガイドライン、学際的アプローチの必要性、方法上の諸問題、今後の調査研究の計画立案を論じている。
この経験も参考にし、障害者統計部は国際的な障害統計のまとめに取り組み、1987年には、障害者の10年中間点のレヴューをおこなう専門家会議(スウェーデン)でその中間報告をおこない、1990年、最初の広範な国際障害統計を公刊した。「障害統計概要(Disability : Statistics Compendium)1990年」{6)}を出版した。これは55か国のデータをもとにした、詳細な情報を提供している350頁の本である。年齢、性、居住、教育レベル、経済活動、婚姻状態、家庭環境、障害の原因、使用している補助具や手段など、12の人口統計学的・社会-経済的トピックを扱っている。ここでも、事例研究と同じく、国際的な統計を得ることの困難さが力説されている。

Table 10 障害者に関する世界行動計画(及び企画案)障害者数

1981.6.30
IYDP諮問委員会素案{1)}
1982.4.19
IYDP諮問委員会改定案
1982.9.15
世界行動計画
第I章 序、概念及び目的 第I章 目的、背景及び概念 第I章 目的、背景及び概念
B.背景 B.背景
1.世界中で5億人以上の人びとが、身体、精神もしくは感覚のインペアメントの結果として障害を負っている。彼らは、他のすべての人びとと同等の権利と平等な機会を与えられる資格をもっている。彼らの生活はあまりにもしばしば、彼らの完全参加を妨げる物理的・社会的障壁を設け、それを黙認する社会によって、不利益をこうむっている。 このため、世界中いたるところで、数百万人の子どもや成人が、隔離され、質的に低い生活にしばしば直面している。 2.左の1と同じ 1.世界中で5億人以上の人びとが、精神、身体もしくは感覚のインペアメントの結果として障害を負っている。彼らは、他のすべての人びとと同等の権利と平等な機会を与えられる資格をもっている。彼らの生活はあまりにもしばしば、彼らの完全参加を妨げる、社会における物理的・社会的障壁によって、不利益をこうむっている。このため、世界中いたるところで、数百万人の子どもや成人が、隔離され、質的に低い生活にしばしば直面してる。
第II章 障害者の状況 第II章 現状 第II章 現状
全般的記述 全般的記述 全般的記述
32.今日、世界には障害をもつ多数の人びとがおり、しかもその人数は増加しつつある。 5億人という推計数は、いくつかの地域の全住民を対象とした諸調査結果と、熟達した 調査研究者たちによる諸知見との比較によっても確認されている。専門家たちによる調 査は同じように、障害による制約の克服を支援するのに必要なサービスを利用できない 地域で生活している障害者が、少なくとも3億5千万人いると推定している。少数の例外はあるが、障害者はいたるところで、たとえリハビリテーション支援が利用できたとしても、生活にハンディキャップをもたらす物理的・社会的障壁にさらされている。あらゆる国で、少なくとも10人に1人が、身体、精神もしくは感覚のインペアメントによって障害を負っており、また、少なくとも人口の25%が、障害が存在することによって 不利益をこうむっている。 32.今日、世界には障害をもつ多数の人びとがおり、しかもその人数は増加しつつある。 5億人という推計数は、いくつかの地域の全住民を対象とした諸調査結果と、熟達した調査研究者たちによる諸知見を照合することによって確認されている。ほとんどの国で、少なくとも10人に1人が身体、精神もしくは感覚のインペアメントによって障害を負わされており、また、人口の少なくとも25%が、障害が存在することによって不利益をこうむっている。
34.A.専門家たちによる調査は、障害による制約の克服を支援するのに必要なサービスを利用できない地域で生活している障害者が、少なくとも3億5千万人いると推定している。少数の例外はあるが、障害者はいたるところで、たとえリハビリテーション支援が利用できたとしても、生活にハンディキャップをもたらす物理的・社会的障壁にさらされている。
37.左の32と同じ
39.専門家たちによる調査は、障害による制約の克服を支援するのに必要なサービスを利用できない地域で生活している障害者が、少なくとも3億5千万人いると推定している。大多数の障害者は、たとえリハビリテーション支援が利用できたとしても、生活にハンディキャップをもたらす物理的・社会的障壁にさらされている。

1)A/AC. 197/9
2)A/AC. 197/9/Rev. 1

Table 11 障害の原因と2000年時点での障害者数の予測

医学的原因 障害者数の推定(単位:100万)
1975年 2000年
先天的障害
精神遅滞{*}
遺伝性身体障害
非遺伝性障害
7.7
7.7
3.9
40
40
20
60
60
30
伝染性疾患
ポリオ
トラコーマ
ハンセン病
オンコセルカ症
その他
0.3
1.9
0.7
0.2
7.7
1.5
10
3.5
1.0
40
2.3
15
5.4
1.5
60
非伝染性身体疾患
機能性精神医学的障害
慢性アルコール中毒・薬物乱用
19.3
7.7
7.7
100
40
40
149
60
60
外傷/傷害
交通事故
仕事上の事故
仕事上の事故
家庭内の事故
その他
5.8
2.9
5.8
0.6
30
15
30
3.0
45
22
45
5.0
栄養失調
その他
19.3
0.4
100
2.0
149
3.0
合計
障害の重複を考慮して
の修正(-25%)
世界の総人口
障害者の毎年の増加率
100(99.6) **

1975-2000年:1.63% ***

516
-129
387
4000
774(772.2)**
-194
580
6000
*   :すべてが先天性というわけではない
**  :( )内は中野が算出した合計
*** :これによって計算すると1982年は433.2(百万人)となる

出典:Disability Prevention and Rehabilitation, Reports on Specific Technical Matter, WHO, Geneva, A29/INF. DOC/1, 28 April 1976, p. 17; Labor Force Estimates and Projections, 1950-2000, Vol. V, ILO, Geneva, 1977, table 5.

 わが国のデータは、1980年に実施された厚生省による抽出調査が引用されている{7)}。
総会決議46/96は、事務局統計部の働きを推奨し、この書の公刊を歓迎することを表明し、1992年の総会決議47/88では、統計部が障害問題に関する統計資料を収集する作業の継続と、さらに最新の障害統計を公にすることを要請している。また決議48/99では、統計資料収集作業の継続と、グローバルな障害指標の開発を完了させるよう求めており、しかもこれを優先度の高い事項としているのである。
総会決議48/96「障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則」では、その原則13において情報と調査・研究を扱っている。その1では、各国が障害者の生活条件に関する男女別の統計とその他の情報を定期的に収集すべしと規定している。2では、いろいろな障害グループに関する統計、サービスやプログラムに関するデータを集めたデータバンクの設立を検討すべしとしている。3では、障害者とその家族の生活に関する社会的・経済的課題と参加に関する課題の調査・研究(障害の原因やタイプ、人数等を含む)の遂行を謳っている。
そのためにも、グローバルな障害指標の開発を完了させることが強く要請されるであろう。


1)A/AC. 197/9
2)Hammerman, S. and Maikowski, S.(Eds.)(1981) The Economics of Disability : International Perspectives. Rehabilitation International.
3)ibid, p. 31, John H. Noble Jr. Population and Development Problems Relating to Disability Prevention and Rehabilitation. 1981.
4)ibid, p. 32 UNICEF News, Issue 105, 1980.
5)ST/ESA/STAT/SER. Y12.
6)ST/ESA/STAT/SER. Y14.
7)Society for Rehabilitation of the Disabled(1983): Rehabilitation Services for disabled persons in Japan.


主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所