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VII 障害者に関する世界行動計画と国連障害者の10年(1983-1992年)(その2)

中野善達 編
エンパワメント研究所


VII 障害者に関する世界行動計画と国連障害者の10年(1983-1992年) (その2)

1.「国連障害者」の10年後半の取り組み

1988年から1992年までが、国連障害者の10年後半期にあたる。事務総長の報告{1)}「障害者に関する世界行動計画の実施と国連障害者の10年」は、9月28日に出された。以下、これに関して略述する。総会決議42/58第17項に基づく各国政府へのコメント要請に対し、きわめてわずかなコメント提出しかみられなかったことはV章の3の末尾に近いところに記述した。この結果を経済社会理事会に通知し、後半期の取り組みの検討を依頼したところ、理事会はコメント数が少なく検討するのに不十分なので、さらにコメント提出を求めるべきであると伝えてきた。そこで事務総長は1988年6月15日、コメント未提出国に7月31日期限での提出要請をしたところ、アメリカ、フィリピン、日本など11か国だけがコメントを提出したという。
さらに、10年の焦点としての各国国内委員会の設置と強化に関する情報や、予防、リハビリテーション、機会均等化、任意拠出金などに関する情報提供を要請したところ、27か国からしか返事がこなかったという。各国の関心はすでに障害者問題からは離れつつあることがわかる。
障害者の10年前半に達成されたことは、①障害者の問題や障害者の権利への関心が増大したこと、②障害者団体の増加とその強化、③障害問題に関連する国勢調査が盛んになった、④地域に根ざしたサービスの定着化が見られてきたこと等である。その一方、①世界行動計画が国民によく知らされていないし、広範に実施されているともいえない、②資源が限られている、③情報が不十分、④障害関連計画の優先順位が低い、⑤決定過程への障害者の参加はあまりみられない、⑥開発途上国では障害者やその家族への包括的な社会保障システムなど存在しない等の問題点が指摘された。
そして、障害者の10年を再活性化すること、世界行動計画を厳格に実施すること、行動計画を印刷物・点字・オーディオカセット形式で広めること、差別撤廃のための国際的条約を起草すること等が検討・実施されるべきである、という。
第43回総会へ提出の決議案は、2月に開かれた社会開発委員会が原案を作成して経済社会理事会に採択を勧告した。理事会第2委員会(社会)はこれを承認、理事会による採択を経て総会に提出された。第3委員会では、フィリピンを代表とする25か国の共同提案が10月20日に提出された。第3委員会の報告{2)}によると、のちに6か国が提案国に加わり、31か国の共同提案である(日本は入っていない)。この決議案は10月26日、無投票で採択された。本会議では12月8日に無投票で採択されている。
この決議の内容にあるように、国連は障害の予防、障害者のリハビリテーションに関してはある程度の成果をあげてきていること、しかし、「完全参加と平等」を実体のあるものにするため、今後は障害者の機会均等化への取り組みこそ最も重要だとした。決議の付属文書:「国連障害者の10年」後半期のグローバルな活動と計画にとっての優先事項は、具体的な優先事項を詳細に明示している。この年の4月1日、事務総長は、障害者に関する世界行動計画実施のグローバルな努力を強化するため、国連障害者の10年促進のための特別代表を指名した。
なお、日本政府は1982年から拠出するのをやめていた任意拠出基金への拠出をこの年から再開した。

国連総会決議43/98 1988年12月8日

障害者に関する世界行動計画の実施と国連障害者の10年

国連総会は、
障害者に関する世界行動計画{31)}を採択した1982年12月3日の決議37/52、1983年から1992年を国連障害者の10年と宣言した1982年12月3日の決議37/53を含む、関連するあらゆる決議を想起し、
1987年11月30日の決議42/58を想起すると共に、その関連諸規定のすべてを再確認し、障害問題に関する国内委員会の代表者たちの地域間会議が、委員会の力量を高めるために見解や情報交換のため1989年の初めに開かれるであろうことを感謝の念をもって留意し、
1988年5月27日の経済社会理事会決議1988/45において、理事会が障害者の10年にいっそうのはずみをつけるため、特別にグローバルな意識高揚と基金増大へのキャンペーンに着手する必要性を繰り返したことに留意し、さらに、事務総長が、国連障害者の10年を促進するための特別代表を任命したことを歓迎し、
人権と基本的自由の享受を障害者に保障する持続的努力に有用な基礎として役立つ、人権と障害に関するマイノリティへの差別予防と保護に関する小委員会が現に着手しつつある重要な活動に意を留め、
世界行動計画の実施を評価する中間点でのレヴュー{32)}が、10年の残りとその後の期間にグローバルな活動や計画の立案にとっての優先事項のリストを設定できたことを考慮し、
加盟各国の政府、国連組織の諸団体や機関、非政府組織が、10年の枠組み内で世界行動計画の諸目的を実施するためすでにおこなってきた具体的諸手段に配慮し、また、障害者の生活状態を改善するために、いっそう多くのことがなされねばならないことを認識し、
加盟各国が、世界行動計画の実施に最終的責任をもつことを心に留め、
障害者の地位や福祉を前進させるのにいっそう効果的な方略や方針に向けて、情報・経験・専門的知見の交換および、より密接な地域や地域間の協力を促進するにあたっての国連の中軸的役割を留意し、
事務局の社会開発・人道問題センターが、世界行動計画の実施とモニターにとって国連内での中心組織であることを強調し、
国連システムおよび、世界行動計画の実施をモニターすることに関係のある非政府組織によってとられたステップを感謝の念をもって留意し、
10年間の中間点で、国連障害者の10年のための任意拠出基金の資金額が、10年前半の間の額から著しく減じており、この傾向が逆転し、任意拠出基金の資金額が増大されないかぎり、多くの優先事項がその要請を満たされず、世界行動計画の実施が重大な影響を受けることを懸念し、
開発途上国は資源を活性化するのに困難に出くわしているのであるから、世界行動計画を実施し、10年の諸目的を達成するのに国内努力を支持するため、国際協力が奨励されるべきであることを心に留め、
障害者に関する世界行動計画の実施と国連障害者の10年に関する事務総長の報告{33)}に敬意を払い、
1.障害者に関する世界行動計画の妥当性を再確認し;
2.国連障害者の10年の後半において、障害者の機会均等化に特別な強調が置かれるべきであることを力説し;
3.加盟各国、政府間組織や、非政府組織が、本決議付属文書に設けられている10年の後半におけるグローバルな活動や計画に対する優先事項を、適切に、あらゆるレベルで行動に移すことを主張し;
4.あらゆる加盟国に、障害者団体を強化するための財政的支援と同じく、双務的支援の枠組み内で、障害の予防、リハビリテーションおよび障害者に対する機会の平等に関するプロジェクトに、高い優先順位を与えることの提唱を新たにおこない;
5.各政府が、退職している人や障害者と共に進んで働いている人びとを含め、リハビリテーションや機会の均等化のさまざまな側面で、専門家とりわけ障害者を励ますことによって、障害者の生活条件を改善する視点で国際協力に積極的に参加することを求め;
6.障害者の特有のニーズを計画や操作活動に考慮することを、地域委員会、国際組織、専門機関を含め、国連システムのあらゆる機関や団体を勧奨するよう事務総長に要請し:
7.事務総長が、とりわけ国連レベルで以下の手段をとることを要請する。
(a)世界行動計画の文書および1981年の国際障害者年と国連障害者の10年のため国連によって準備されたあらゆるマニュアルや特別な刊行物を広く普及させること;
(b)国連の諸会議、情報材料、報告書類が障害者にずっとアクセスしやすくなる可能な方法を検討し、これに関する財政的負担を明確化すること;
(c)加盟各国が、障害者問題に関する国内委員会や類似した同等の組織の設置や強化をおこなうことを支援すること;
(d)障害者の強力な国内団体の設立を促進・支援すること;
8.障害者の10年の間に到達されたグローバルな進歩と遭遇した妨害のレヴューを含み、2000年までとそれ以後に必要とされる行動を準備する機構を提供する、1992年の国連障害者の10年の終了を記念し、取るべき他の手段の実質的・財政的・運営面での含意に関する実現可能性の研究をおこなうよう、事務総長に要請し、さらに、研究結果を第45回の国連総会に提出することを要請し;
9.技術協力活動および、人材養成、情報交換、方針や計画の開発、研究、障害者の参加について国内資源を配分することの促進を可能とするよう、地域委員会を強化するよう事務総長に要請し;
10.国連組織の諸機関や諸団体の計画や活動を強化するため、また、障害者を代表して機関間の努力の調整をすることを促進するために、事務総長が報告{33)}で提起した諸手段に賛同し;
11.とりわけ雇用機会を提供することによって、国連の計画や活動にかなりなまで障害者を関与させるよう事務総長および加盟各国に依頼し;
12.障害の問題はきわめて高視度のものであるため、現存の資源内で、別の機構を設定することを検討すること、また、専門的促進機関としての社会開発・人道問題センターの障害者部門を、国連組織や国連外の関連ネットワークの利用可能な資源として発展させることの検討を事務総長に要請し;
13.センターが障害分野において、政府間組織や非政府組織の活動、とりわけ障害者団体と密接な協力を拡大し、世界行動計画の実施に関する問題に関し、定期的・組織的に彼らに相談・助言することを要請し;
14.加盟各国、国内委員会、国連組織および非政府組織が、あらゆる適切な手段を通じ、障害者の10年を宣伝するグローバルな情報キャンペーンおよび基金増大キャンペーンを支援することを要求し;
15.世界行動計画の効果的実施や、障害者問題への国際的な意識の高揚や、障害者の10年の期間中に達成する進歩をモニターし、評価するさいに、非政府組織とりわけ障害者を代表する団体の重要な役割を認識し;
16.障害者の10年促進のための特別代表の活動の進展について、社会開発委員会がその第31会期に情報提供をするよう事務総長に要請し;
17.国連障害者の10年のための任意拠出基金を現在の機構下での諸プロジェクトに使用するさい、寄与による基金を執行し続けること、また、「特別な目的のための寄付」の下で特定の計画に財政援助をしたい寄付をする国々に、プロジェクトの選択を認めるための新規定を設け続けることを事務総長に要請し;
18.任意拠出基金の資源は、低開発途上国の計画やプロジェクトに、適切に、優先順位に 従い、障害者の10年の枠組みの内で、世界行動計画の諸目的をさらに実現するための、触媒的・革新的活動を支援するために使用されるべきであることを再確認し;
19.政府および非政府組織が任意拠出基金への寄与を継続することを依頼し、また、まだ検討していない政府や非政府組織に、増大しつつある支援要求に効果的に応じられるよう任意拠出基金へ寄与することを要求し;
20.本決議の実施に関し、事務総長が第44回総会に報告することを要請し;
21.第44回総会の暫定議題に、「障害者に関する世界行動計画の実施と、国連障害者の10年」と題された項目を含めることを決定する。
31)A/37/351/Add.1 and Add.1/Corr.1, annex, sect. VIII , recommentation 1 (IV).
32)See CADHA/DDP/GME/7 of 1 September 1987.
33)A/43/634 and Add.1.

付属文書
「国連障害者の10年」後半期のグローバルな活動と計画にとっての優先事項

1.障害者に関する世界行動計画の実施について主要な責任を担っている加盟各国は、以下のように勧告される:
(a)障害者団体との協議において、多面的・統合的アプローチを用い、国内行動計画を開発し、実施すること;
(b)技術的・財政的支援を提供することにより、障害者団体の発展と機能化を促進すること;
(c)国内委員会もしくは類似した同等の組織の設立と強化もしくは設立なり強化をすること;
(d)障害者が社会の同等な成員として記述される広報や教育キャンペーンに着手すること;
(e)障害者に演奏活動、芸術活動、演劇活動に参加する機会を与え、国連障害者の10年に関する意識を促進する文化活動を支援すること;
(f)国際的基準と全般的に合致することを保障するため、国内法をレヴューし、現代化し、必要ならば改善すること;
(g)以下の人びとの権利を含め、障害者の権利を国内法に組み込んだり、立案することを検討すること;
①聴覚障害者:手話通訳をもつ権利を含む;
②視覚障害者:点字材料、音響補助具や拡大文字情報を含む;
③精神障害者:読みやすい素材へのアクセスを含む;
④言語障害者:新しい科学技術へのアクセスを含む;
(h)国連開発計画によって財政支援される技術協力計画に参入するための、障害関連プロジェクトを作り上げ、実施すること;
(i)基礎水準の所得保障を目的とした、障害者やその家族に利用できるサービスや給付をレヴューし、拡大すること、および、自立生活に必要な個別援助、住居、輸送その他を促進すること;
(j)障害に対応する国としての能力を形成するため、障害者を含め、要員を養成すること;
(k)国としての計画立案に使用するための、障害に関する適切なデータ収集のための機械化を確立すること;
(l)障害者に必要とされる適切な技術的補助具や応用具の生産や地域での修理のための、継承されてきている素材、科学的・実際的知識、生産設備を活用すること;
(m)障害者の日常生活を援助するのに必要な設備や用具の無税での国際移動に関し、ユネスコがその第90回総会で、すなわち1976年11月26日、ナイロビで採択された教育的・科学的・文化的資材の輸入に関する協定{34)}に関する議定書{35)}の諸規定に  同意し、実施すること;
(n)もしもまだ批准されていないのであるならば、1983年にILOによって採択された(障害者に関する)職業リハビリテーションと雇用に関する条約{36)}を批准すること;
(o)障害者の特別なニーズと、障害者やその家族に利益となる計画に関する研究を支援すること;
(p)障害女性、高齢障害者、精神疾患や他の精神障害者、重複障害者、障害をもつ難民、障害をもつ移民のリハビリテーション、機会均等化を促進するサービスや設備を開発すること。
2.政府間組織は、障害者に関する問題に優先権を与え、また、世界行動計画を実施するのに率先性を示すよう勧告される。
3.世界行動計画の実施に重要な役割を演じる非政府組織は、障害者の10年の残りの期間に以下のことをおこなうよう勧められる:
(a)情報の収集や普及、研究の知見、計画立案活動において、また、新しい諸経験を分かち合い、利用可能な資源の活用を最大限にすることにおいて、国連組織や他の非政府組織と定期的・組織的接触を確立すること;
(b)国連障害者の10年の諸目的を宣伝するため、そのネットワークや資源を動員すること;
(c)事務局の社会開発・人道問題センターの障害者部門に、活動や会合に関する情報を定期的に提供し、また、その活動を積極的に支援すること。
34)See United Nations, Treaty Series, vol. 1259, No. 20669.
35)The Agreement was adopted at Florence by the Generel Conference of the United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization at its fifth session and signed in New York on 22 November 1950. United Nations, Treaty Series, vol. 131, No. 1734.
36)International Labour Office, Official Bulletin, vol. LXVI, 1983, Series A, No. 2, convention No. 159.


1)A/43/634
2)A/43/810


主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所