旭川市手話言語に関する基本条例
言語には,音声言語と視覚言語があり,お互いの感情を理解し合い,知識を蓄え,文化を創造する上で不可欠なものとして,人類の発展に大きく寄与してきた。手話は,こうした言語の1つであり,音声言語である日本語とは異なる体系を持ち,手指や体の動き,表情を使って表現する視覚言語である。
ろう者は,手話を,自分たちの言葉として継承し,発展させ,情報の獲得や意思疎通の手段として大切に育んできた。一方,手話を使うことは,ろう学校において禁止され,又は社会の中で差別を受け,若しくは偏見を持たれるなど,長い苦難の歴史を持っている。
こうした状況の中で,平成18年12月に国際連合の総会において,「手話は言語」であることを明記するとともに言語の選択と使用を保障する「障害者の権利に関する条約」が採択され,平成26年1月に,我が国はこの条約を批准した。また,平成23年8月に改正された障害者基本法において「全て障害者は,可能な限り,言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保される」と定められるとともに,国及び地方公共団体は,障害者の意思疎通の支援や円滑な情報の取得及び利用のための施策を講ずることが義務付けられたところである。
本市は,昭和38年に国内で初めてろうあ者相談員を配置し,また,昭和48年に道内で初めて手話通訳協力員制度を開始するなど,ろう者の福祉の向上のための先駆的な取組を進めてきた実績がある。現在も,市民向けの手話講習会や,手話通訳者の養成講座を毎年開催するなど,手話による円滑な情報の取得及び利用のための広範な事業に取り組んでおり,手話を普及するための一定の環境は整っている。
今後更に,市民がろう者の暮らしに根ざす手話の意義を正しく認識し,言語である手話がろう者のアイデンティティーであることに対する理解が広まることで,教育,労働,医療,福祉等のあらゆる分野で手話による意思疎通と情報提供が保障され,手話を使って安心して暮らすことができる社会の実現を目指し,この条例を制定する。
(目的)
第1条 この条例は,手話が言語であるとの認識に基づき,手話に対する理解及びその普及に関し基本理念を定め,並びに市の責務及び市民等の役割を明らかにするとともに,手話に関する施策の基本となる事項を定めることにより,その施策を総合的かつ計画的に推進し,もってろう者(手話を主な意思疎通の手段として用いる聴覚障害者をいう。以下同じ。)を含む全ての市民が安心して暮らすことができる地域社会の実現を図ることを目的とする。
(基本理念)
第2条 手話に対する理解及びその普及は,手話が独自の体系を有する言語であって,ろう者が自ら生活を営むために必要なものであること及びろう者が手話により意思疎通を図る権利を有することを踏まえ,手話を通じて全ての市民が,相互に人格及び個性を尊重し合うことを基本として推進されなければならない。
(市の責務)
第3条 市は,前条に規定する基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり,次に掲げる施策を総合的かつ計画的に推進するものとする。
(1) 手話に対する市民の理解の促進及び手話の普及のための施策
(2) 手話による情報の発信及び市民が手話により情報を取得する機会を拡大するための施策
(3) 市民が意思疎通の手段として手話を使いやすい環境の構築のための施策
(4) 手話通訳者の確保及び養成のための施策
(5) 専任手話通訳者,聴覚障害者等協力員,ろうあ者相談員その他のろう者の意思疎通を支援する者の処遇改善のための施策
2 施策の推進に当たっては,市が定める障害者基本法(昭和45年法律第84号)第11条第3項の規定に基づく市町村障害者計画及び障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)第88条第1項の規定に基づく市町村障害福祉計画と整合性を図るものとする。
(市民の役割)
第4条 市民は,基本理念及びろう者以外の者にとっても手話は必要な意思疎通の手段であることについての理解を深め,市の施策に協力するよう努めるものとする。
2 ろう者及びろう者の団体は,市の施策に協力するとともに,基本理念に対する市民の理解の促進及び手話の普及に努めるものとする。
3 手話通訳者は,手話に関する技術の向上,基本理念に対する市民の理解の促進及び手話の普及に努めるものとする。
(事業者の役割)
第5条 事業者は,基本理念に対する理解を深め,市の施策に協力するよう努めるとともに,ろう者が利用しやすいサービスを提供し,ろう者が働きやすい環境を整備するための合理的な配慮を行うよう努めるものとする。
(手話施策推進会議)
第6条 手話に関する施策の推進及び実施状況についての検証等をするため,旭川市手話施策推進会議(以下「推進会議」という。)を置く。
2 推進会議は,次に掲げる者のうちから,市長が委嘱する委員10人以内をもって組織する。
(1) ろう者
(2) 手話通訳者
(3) 学識経験者
(4) 市長が適当と認めた者
(5) 市内に居住し,又は通勤し,若しくは通学する者であって,市長が行う公募に応じたもの
3 委員の任期は,2年とする。ただし,補欠の委員の任期は,前任者の残任期間とする。
4 委員は,再任されることができる。
5 前各項に定めるもののほか,推進会議の組織及び運営に関し必要な事項は,規則で定める。
(聴覚障害児の保護者等に対する支援)
第7条 市は,聴覚障害児の保護者等に対し,手話に関する必要な情報を提供するよう努めるものとする。
2 市は,手話を獲得しようとする聴覚障害児の保護者等に対し,必要な支援を行うよう努めるものとする。
(手話を学ぶ機会の確保)
第8条 市は,ろう者,手話通訳者,手話サークル会員等と協力して,市民が身近な地域や職場等で手話を学ぶ機会の確保を図るものとする。
2 市は,手話に関する研修を実施すること等により,その職員が手話を学ぶ機会の確保を図るものとする。
(手話を用いた情報発信等)
第9条 市は,ろう者が市政に関する情報を速やかに得ることができるよう,手話を用いた情報発信に努めるものとする。
2 市は,ろう者が手話による情報を入手できる環境を整備するため,手話通訳者やろうあ者相談員の派遣及び配置等を行うものとする。
(手話通訳者の確保及び養成等)
第10条 市は,市民が手話通訳者の派遣等による意思疎通の支援を受けられる体制を整備するため,手話通訳者の配置の拡充,手話通訳者及びその指導者の養成,手話技術の向上を図るとともに,手話通訳者を派遣する制度の周知等を行うものとする。
(学校等における手話の普及)
第11条 市は,学校等において,幼児,児童,生徒等に対し,手話を学ぶ機会及びろう者への理解を促進する機会を提供するよう努めるものとする。
(医療機関における手話の普及)
第12条 市は,医療機関において手話を使いやすい環境を整備するため,手話通訳者を派遣する制度の周知その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(事業者への支援)
第13条 市は,ろう者が手話を使いやすい環境を整備するために事業者が行う取組に対して,必要な支援を講ずるよう努めるものとする。
(災害時等の対応)
第14条 市は,災害時等において,ろう者に対し,情報の取得及び意思疎通の支援について必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(財政上の措置)
第15条 市は,手話に関する施策を推進するため,必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
(聴覚障害者の意思疎通支援)
第16条 市は,聴覚障害者の特性に応じ,中途難失聴者,盲ろう者その他の聴覚障害者に対し,手話を含めた意思疎通の支援並びに円滑な情報の取得及び利用のための施策を推進するものとする。
(委任)
第17条 この条例の施行に関し必要な事項は,市長が別に定める。
附則
この条例は,平成28年7月1日から施行する。