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第一章 21世紀にふさわしい学びと学校の創造

1.21世紀を生きる子どもたちに求められる力

○ 21世紀は、新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、知識基盤社会の時代と言われている。競争と技術革新が絶え間なく起こる知識基盤社会においては、幅広い知識と柔軟な思考力に基づく新しい知や価値を創造する能力が求められるようになる。また、社会構造のグローバル化により、アイディアなどの知識そのものや人材をめぐる国際競争が加速するとともに、異なる文化・文明との共存や国際協力の必要性が増大している。

○ 新学習指導要領(12)は、この点を重視し、変化の激しい社会を担う子どもたちには、確かな学力、豊かな心、健やかな体の調和のとれた「生きる力」の育成がますます重要となっており、確かな学力の育成には、基礎的・基本的な知識・技能の習得、これらを活用して課題を解決するための思考力・判断力・表現力等及び主体的に学習に取り組む態度等をはぐくむことが必要であるとしている。

○ 我が国の子どもたちにとって課題となっている思考力・判断力・表現力等(13)をはぐくむためには、各教科において、基礎的・基本的な知識・技能をしっかりと習得させるとともに、観察・実験やレポートの作成、論述といった知識・技能を活用して行う言語活動をより充実させる必要がある。

○ この点、情報活用能力(14)をはぐくむことは、必要な情報を主体的に収集・判断・処理・編集・創造・表現し、発信・伝達できる能力等をはぐくむことである。また、基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着とともに、知識・技能を活用して行う言語活動の基盤となるものであり、「生きる力」に資するものである。

○このような認識は、国際的にも共有されている。経済協力開発機構(OECD)は、1997年から2003年にかけて、多くの国々の認知科学や評価の専門家、教育関係者などの協力を得て、「知識基盤社会」の時代を担う子どもたちに必要な能力を「主要能力(キーコンピテンシー)」として定義付けており、国際的な学力調査(15)においては、こうした能力の一部について調査を開始している。OECDは、「主要能力(キーコンピテンシー)」が「社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力」「多様な社会グループにおける人間関係形成能力」「自律的に行動する能力」の3つのカテゴリーから構成されるとしている16。「社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力」の中には「知識や情報を活用する能力」や「テクノロジーを活用する能力」が含まれている17。

○ こうした21世紀を生きる子どもたちに求められる力をはぐくむためには、何よりも、一人一人の子どもたちの多様性を尊重しつつ、それぞれの強みを生かし潜在能力を発揮させる個に応じた教育を行うとともに、異なる背景や多様な能力を持つ子どもたちがコミュニケーションを通じて協働して新たな価値を生み出す教育を行うことが重要になる。


12 平成20年に小・中学校の学習指導要領を、平成21年に高等学校・特別支援学校の学習指導要領等を改訂。

13 平成20年1月17日中央教育審議会答申(「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善 について」)第三章「子どもたちの現状と課題」を参照。

14 情報活用能力については、情報活用の実践力、情報の科学的な理解、情報社会に参画する態度、の3つの観点が重要であるが、具体的には第二章を参照。

15 OECDが2000年から開始したPISA(Programme for International Student Assessment)調査。「生徒の学習到達度調査」 と訳される。義務教育修了段階の15歳児が持っている知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかどうかを評価する。2006年には、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について調査。

(各分野の定義)

  • 読解力:自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力。
  • 数学的リテラシー:数学が世界で果たす役割を見つけ、理解し、現在及び将来の個人の生活、職業生活、友人や家族や親族との社会生活、建設的で関心を持った思慮深い市民としての生活において確実な数学的根拠に基づき判断を行い、数学に携わる能力。
  • 科学的リテラシー:①疑問を認識し、新しい知識を獲得し、科学的な事象を説明し、科学が関連する諸問題について証拠に基づいた結論を導き出すための科学的知識とその活用、②科学の特徴的な諸側面を人間の知識と探求の一形態として理解すること、③科学とテクノロジーが我々の物質的、知的、文化的環境をいかに形作っているかを認識すること、④思慮深い一市民として、科学的な考えを持ち、科学が関連する諸問題に、自ら進んで関わること。

16 http://www.deseco.admin.ch/bfs/deseco/en/index/02.parsys.43469.downloadList.2296.DownloadFile.tmp/2005.dskcexecutivesummary.en.pdf

17 この他、欧州委員会では、生涯学習のためのキーコンピテンシーとして、母語におけるコミュニケーション力、外国語におけるコミュニケーション力、科学技術における数学的能力と基礎的能力、デジタル能力、学ぶことを学ぶ力、社会的・市民的能力、イニシアチブと起業家の感覚の力、文化的意識と表現の力、の8つを挙げている。 また、オーストラリア、フィンランド、ポルトガル、シンガポール、英国、米国の研究者等が参画して進められているATC21S(Assessment & Teaching of 21st Century Skills)プロジェクトでは、個人の経済的成功や個人又は社会的なレベルにおける効果的な機能にとって重要な21世紀型のスキルとして、創造力・イノベーション力、批判的思考力・問題解決力、コミュニケーション力、コラボレーション力(チームワーク力)、情報リテラシー、ICTリテラシーなどの10のスキルが提案されている。
http://atc21s.org