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第三章 学びの場における情報通信技術の活用

○ 学校における授業は、教科書や様々な教材等を使用して行われており、子どもたちの学びにとってこれらの果たす役割は極めて大きい。学校教育における重要なツールである教科書・教材や情報端末等について、第一章で述べた21世紀を生きる子どもたちに求められる力の育成に対応した整備を図っていくことが必要である。これらの情報通信技術の活用は、一人一人の能力や特性に応じた学びや、子どもたち同士が教え合い学び合う協働的な学びを創造することにより、基礎的・基本的な知識・技能の習得や、思考力・判断力・表現力等や主体的に学習に取り組む態度の育成に資するものである。

1.デジタル教科書・教材(32)

(指導者用デジタル教科書)
○ いわゆるデジタル教科書は、情報端末やデジタル機器に提示されるコンテンツに相当するものであり、主に教員が電子黒板等により子どもたちに提示して指導するためのデジタル教科書(以下「指導者用デジタル教科書」という。)と、主に子どもたちが学習するためのデジタル教科書(以下「学習者用デジタル教科書」という。)に大別される。現在、若干の教科書発行者から発行されているのは、いずれも指導者用デジタル教科書である。また、これは教科書に準拠しているものの、法令上は、教科書とは別の教材に位置付けられる。

○ 指導者用デジタル教科書は、教科書の内容を引用しつつ、任意箇所の拡大、任意の文章の朗読、動画など、わかりやすく深まる授業に資する機能を有している。指導者用デジタル教科書については、これを提示する電子黒板の普及(33)や学習指導要領の改訂等を背景に、更に多くの教科書発行者が開発を検討しているところであり、これらの開発を促進するとともに、学校設置者が容易に入手できるような支援方策を検討する必要がある。なお、今後は、例えばインターネットを介して用語等の説明を参照したり、教員と子どもたちの間の双方向性のある授業に活用すること等も考えられる。

(学習者用デジタル教科書)
○ 第一章で述べたように、子どもたち一人一人の能力や特性に応じた学び、子どもたち同士が教え合い学び合う協働的な学びを創造していくためには、子どもたち一人一人の学習ニーズに柔軟に対応でき、学習履歴の把握・共有等を可能とするような学習 者用デジタル教科書の開発が求められる(34)

○ 学習者用デジタル教科書については、例えば、現在の指導者用デジタル教科書が有する拡大、朗読、動画等の機能に加え、インターネットへの接続、教員と子どもたち又は子どもたち同士の間の双方向性のある授業、ネットワークを介した書き込みの共有、教員による子どもたちの学習履歴の把握、子どもたちの理解度に応じた演習や家庭・地域における自学自習等に資することなどが考えられる(35)

○ 学習者用デジタル教科書及び次節で述べる情報端末について、小・中・高等学校や特別支援学校等の学校種・発達の段階・教科に応じた教育効果や指導方法、必要な機能の選定・抽出、これらの機能を実現するための規格、モデル的なコンテンツの開発、供給・配信方法、子どもたちの健康への影響の有無やこれに配慮した仕様及び活用方法、障害のある子どもたちについて障害の状態や特性・ニーズへの対応等について検討を進めることが重要である。このためには、モデル地域・学校なども活用した実証研究等を十分に行うことが必要である。

○ また、こうした実証研究等の状況を踏まえつつ、紙媒体の教科書の在り方、教科書検定制度や義務教育諸学校の教科書無償給与制度など教科書に関する制度の在り方、著作権に関する課題等についても、検討を行う必要がある。

○ 学習者用デジタル教科書については、上述の実証研究や諸課題、書籍一般の電子書籍化の動向等を踏まえつつ検討することとする。

(デジタル教材)
○ デジタル教材については、「教員や児童生徒が操作しやすい教育用ソフトウェアを増やして欲しい」という学校が9割にのぼっている(平成18年度文部科学省委託事業「地域・学校の特色等を生かしたICT環境活用先進事例に関する調査研究」平成19年3月)。このため、質の高いデジタル教材をデータベースとして集積・共有化していくことが重要である。その際、各地域の教育センター等においてデジタル教材を収集・提供している例もあるが、その一層の充実を期待するとともに、これに加え、各地域で作成された質の高いデジタル教材を効果的に収集・提供するために、全国レベルでの集積・共有化を検討することも重要である。このような取組は、教員が授業の準備等を一層効率的に行うことにも資するものである。

○例えば、現在、インターネットで提供されているデジタル教材の情報を掲載しているサイトである国立教育政策研究所教育情報ナショナルセンター(NICER(36))において、アクセス件数順等複数の条件設定による掲載、専門家や教員等による評価の紹介、教育の情報化に関する各種調査研究・統計データの蓄積や公開を行うことが重要である。また、近時、過去の新聞や放送番組をアーカイブ化、デジタル化した教材を学校現場に提供している例もあり(37)、このようなコンテンツを生かした優良な指導案や指導事例を紹介していくことも重要である。さらに、現在エル・ネット(教育情報通信ネットワーク(38))が有している機能を併せ、文部科学省等が作成したデジタル教材の配信、家庭や地域における学習に資するソフトウェア・情報の配信等を官民の分担を踏まえつつ行うことも考えられる(39)

○ デジタル教材の作成、活用の促進に当たっては、教員や広く民間団体等がその創意工夫を生かしデジタル教材を開発していくよう奨励していくことが重要であるとともに、著作権処理の一層の円滑化も求められる。


32 「新たな情報通信技術戦略」(脚注11参照)及び「知的財産推進計画2010」(平成22年5月21日 知的財産戦略本部決定)において「デジタル教科書」と表記していることから、本ビジョン(骨子)でも同様に表記する。また、本節で示すデジタル教科書・教材の機能は例示であり、情報端末等が有する機能についても含まれうる。情報端末等の機能との役割分担も踏まえつつ、専門的具体的観点から更に検討が必要である。

33 平成21年度「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」によれば、平成21年度第1次補正予算等により、平成22年3月末時点において、公立学校に配備されている電子黒板は前年度の約16,000台から約56,000台に増加した(約6割の学校に配備)。

34 韓国においては、2007年からモデル校を対象に、学習者用デジタル教科書に関する実証実験が行われている。

35 紙媒体の教科書の内容がそのまま表されるだけではない、21世紀にふさわしい学びと学校の創造を目指した新しいコンセプトによって開発されることが重要である。

36 http://www.nicer.go.jp

37 明治時代から現在までの新聞記事をオンラインで検索・閲覧できるシステムの例や、教育に資する放送番組や映像をインターネットを通じて提供等している例が見られる。

38 文部科学省が、インターネットを活用して、学習コンテンツや研修・会議等の模様等を動画等により提供するシステム。

39 なお、独立行政法人科学技術振興機構(JST)では、科学技術・理科教育のためのデジタル教材提供システム「理科ねっとわーく」を運用している。