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はじめに

 教育の情報化(1)の推進は、21世紀にふさわしい学びと学校を創造する鍵である。新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域で基盤となり重要性を増す知識基盤社会(2)において、教育の情報化は、我が国の子どもたちが21世紀の世界において生きていくための基礎となる力を形成するために大きな意義を有している。
教育の情報化については、既に臨時教育審議会第1次答申(昭和60年6月)においてその重要性が指摘されており(3)、特に同審議会第2次答申(昭和61年4月)では、情報及び情報手段を主体的に選択し活用していくための個人の基礎的な資質が、読み、書き、算盤に並ぶ基礎・基本と位置付けられた(4)。平成20年1月の中央教育審議会答申においても、「社会の変化への対応の観点から教科等を横断して改善すべき事項」として、情報教育の重要性とともに、ICT(5)環境に関する条件整備の必要性が指摘されている。
また、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法の施行(平成13年1月)を踏まえ、「e-Japan戦略」「IT新改革戦略」「i-Japan戦略2015」など、教育分野を含め、情報通信技術に関する様々な国家戦略が策定されてきた。
しかしながら、教育の情報化については、これまで策定された国家戦略に掲げられた政府目標を十分達成するに至らず、また、他の先進国に比べて進んでいるとはいえない状況にある(6)
この間、我が国の競争力(7)や子どもたちの学力(8)の低下も指摘されており、教育の情報化により教育の質の向上を図り、21世紀にふさわしい学びと学校を創造するため、本格的に取り組んでいく必要がある。
このような認識のもと、文部科学省では、本年4月に「学校教育の情報化に関する懇談会(9)」(以下「懇談会」という。)を設置し、これまで8回開催し、学識経験者、学校関係者、地方公共団体の長、地方教育行政関係者、民間事業者・団体等との意見交換を行ってきた。また、「熟議」に基づく政策形成に取り組むWebサイト「熟議カケアイ(10)」においても、「ICTを活用した21世紀にふさわしい学校や学びとはどうあるべきか?」との問いを投げかけ、広く教育現場に関わる様々な立場の方々からの意見を求めた。
平成22年5月11日に政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(以下、「IT戦略本部」という。)で決定された「新たな情報通信技術戦略(11)」においては、重点施策として、教育分野については、「情報通信技術を活用して、ⅰ)子ども同士が教え合い学び合うなど、双方向でわかりやすい授業の実現、ⅱ)教職員の負担の軽減、ⅲ)児童生徒の情報活用能力の向上が図られるよう、21世紀にふさわしい学校教育を実現できる環境を整える」ことなどが盛り込まれた。6月22日には、本戦略の工程表がIT戦略本部において決定され、短期(2010年、2011年)、中期(2012年、2013年)、長期(2014年)ごとに求められる各府省の具体的取組が示された。
また、6月18日に閣議決定された「新成長戦略」においては、「子ども同士が教え合い、学び合う「協働教育」の実現など、教育現場(中略)における情報通信技術の利活用によるサービスの質の改善や利便性の向上を全国民が享受できるようにするため、光などのブロードバンドサービスの利用を更に進める。」ことなどが盛り込まれた。
文部科学省は、これらの政府全体の動向や懇談会等の議論を踏まえつつ、「教育の情報化ビジョン(骨子)」を中間的に取りまとめた。この中で示した様々な論点や課題については、今後、懇談会にワーキンググループを設置して検討を継続し、本年度中に教育の情報化に関する総合的な推進方策「教育の情報化ビジョン」を策定することとしている。


1 本ビジョン(骨子)における「教育の情報化」は、主として小学校、中学校及び高等学校等の学校教育を対象とすることとしている(地域、家庭や高等教育機関等との連携も対象とする)。教育の情報化は、情報教育、教科指導における情報通信技術の活用、校務の情報化の3つから構成される。具体的には、第一章第2節を参照。

2 平成20年1月17日中央教育審議会答申(「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」)、平成17年1月28日中央教育審議会答申(「我が国の高等教育の将来像」)。

3 社会の情報化を真に人々の生活の向上に役立てる上で、人々が主体的な選択により情報を使いこなす力を身に付けることが今後重要であること等が提言された。

4 その後、昭和62年12月の教育課程審議会答申を踏まえ、平成元年告示の学習指導要領では中学校技術・家庭科において、選択領域として「情報基礎」が新設された。また、平成10年7月の教育課程審議会答申を踏まえ、同年告示の学習指導要領では中学校技術・家庭科の「情報とコンピュータ」が必修領域とされるとともに、平成11年告示の学習指導要領では高等学校に普通教科として「情報」が新設され必修とされた。

5 ICTとは、Information and Communication Technology の略で、コンピュータやインターネット等の情報通信技術のこと。

6 例えば、コンピュータ1台あたりの児童生徒数について、米国は3.8人に1台(平成17年秋)、英国は3.6人に1台(平成21年6月。中等学校。)であるのに対し、日本は6.4人に1台(平成22年3月。なお、平成18年に策定されたIT新改革戦略では、3.6人に1台が目標として設定されていた)。

7 国際経営開発研究所(IMD)によれば、我が国の国際競争力は1990年の1位から2010年には27位に低下している(経済産業省産業構造ビジョン2010)。

8 経済協力開発機構(OECD)のPISA調査(詳細は脚注15参照)の結果によると、「読解力」は、2006年には2000年と比較して平均得点が低下し、2003年及び2006年にはOECD平均と同程度の水準(2006年にはOECD加盟国30か国中12位)にあり、「数学的リテラシー」は、OECD平均より高得点のグループに位置するが(2006年には同加盟国30か国中6位)、2006年には2003年と比較して平均得点が低下。「科学的リテラシー」は、2000年、2003年及び2006年ともに国際的に上位(2006年には同加盟国30か国中3位)であるが、科学への興味及び関心等に課題が見られた。

9 「学校教育の情報化に関する懇談会」http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1292783.htm

10 「熟議カケアイ」http://jukugi.mext.go.jp/

11 「新たな情報通信技術戦略」(平成22年5月11日高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部決定)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/index.html 当該戦略においてICTを「情報通信技術」と表記していることから、本ビジョン(骨子)でも同様に表記する。