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今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)

第3章 特別支援教育を推進する上での盲・聾・養護学校の在り方について

1 盲・聾・養護学校の制度

(1) 明治23年小学校令において盲唖学校の設置等に関する規定が設けられ、盲唖学校の制度上の基礎が明確となった。また、大正12年には、盲学校及び聾唖学校令が制定された。その後、盲・聾学校以外にも特別な教育に対する要望が高まり、昭和16年の国民学校令及び同令施行規則によって養護学校が制度上の位置付けを与えられた。また、昭和22年に制定された学校教育法で、「盲学校、聾学校又は養護学校は、それぞれ、盲者、聾者又は精神薄弱(現在の知的障害のこと)、身体不自由その他心身に故障のある者に対し教育等を行う」旨規定され、その後、養護学校の対象者の明確化が図られ(昭和36年改正)、現在のように「知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)」に対し教育等を行う学校とされている。

学校教育法により、各学校の設置義務が都道府県に課されるほか、各学校の小学部・中学部への就学義務が規定されたが、養護学校については各都道府県における整備が十分でなかったため、盲学校・聾学校に遅れて段階的に施行され、昭和54年に養護学校の設置義務及び就学義務の部分の施行により各学校の義務化が完了した。

(2) 盲・聾・養護学校は平成14年5月時点で996校あり、近年はゆるやかに増加している。障害種別にみると知的障害養護学校が増加傾向にあり、養護学校への就学が義務化された昭和54年時点と比較して1.3倍となっている(肢体不自由は1.25倍、その他は同数かやや減少)。これを在籍児童生徒数でみると、知的障害者が大きく増加しており、また、盲者、聾者、病弱者の順で減少している。また、近年、障害の重度・重複化の傾向がはなはだしく、小・中学部全児童生徒数に占める重複障害学級在籍者の割合は、盲・聾・養護学校の平均で43%であり、肢体不自由養護学校だけでみると74%である(平成14年5月)。

2 障害種にとらわれない学校制度へ

(1) 盲学校は盲者、聾学校は聾者、養護学校は知的障害者、肢体不自由者又は病弱者に対する学校として制度上位置付けられているため、例えば、盲学校において、知的障害のある子どもは、盲と重複している場合を除いて障害を除いて教育することができないなど、地域や子どもの障害の状態に応じて柔軟な学校を設置することは困難である。

一方、養護学校においては、知的障害者、肢体不自由者若しくは病弱者又はこれらの障害を含む重複障害のある子どもに対する教育を行う学校の設置運営が可能である。

今後は、障害種ごとの学校制度から、地域において障害のある子どもたちの教育をより適切かつ柔軟に行えるように学校を設置できるような制度について積極的に検討していく必要がある。

(2) また、盲・聾・養護学校における教育課程編成の基準となる学習指導要領についても、学校制度に対応してその内容等が規定されているため、例えば、養護学校においても、原則としては異なる障害のある児童生徒を同一の学校に受け入れることを想定した規定とはなっていない。障害種にとらわれない学校制度を構築するに当たっては、障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応した教育がより効果的かつ弾力的に行えるようにするとの観点から、学習指導要領の在り方についても検討する必要がある。

3 地域の特別支援教育のセンター的機能を有する学校へ

(1) 盲・聾・養護学校は、従来特定の児童生徒に対してのみ教育や指導を行う特別の機関として制度上位置付けられているが、前章6で述べたように、今後、小・中学校等において専門性に根ざしたより質の高い教育が行われるようにするためには、盲・聾・養護学校は、これまで蓄積した教育上の経験やノウハウを活かして地域の小・中学校等における教育について支援を行うなどにより、地域における障害のある子どもの教育の中核的機関として機能することが必要である。
盲・聾・養護学校の学習指導要領等においては、盲・聾・養護学校は、「地域の実態や家庭の要請等により、障害のある幼児児童生徒又はその保護者に対して教育相談を行うなど、各学校の教師の専門性や施設・設備を活かした地域における特殊教育に関する相談のセンターとしての役割を果たすよう努めること」と規定されている。その学校に在籍する児童生徒の指導やその保護者からの相談に加えて、地域の小・中学校等に在籍する児童生徒やその保護者からの相談、個々の児童生徒に対する計画的な指導のための教員からの個別の専門的・技術的な相談に応じるなどにより、地域の小・中学校等への教育的支援を積極的に行うことで、地域社会の一員として、地域の特別支援教育のセンターとしての役割を果たすことが重要である。

既にこのような取組を学習指導要領を踏まえて行っている盲・聾・養護学校もあるが、今後は、特別支援教育における地域のセンター的機能を有する学校としての役割を踏まえ、この相談等の業務をこれまで以上に重要なものと考えていくことが必要であり、例えば専門の部署の設置等による相談支援体制の充実、地域の研修会等の企画や支援を通じた指導上の知識や技能の小・中学校への普及等の取組を積極的に行うことについて具体的な検討を行うことが必要である。

4 「特別支援学校(仮称)」の役割

(1) 今後の盲・聾・養護学校は、障害が重い、あるいは障害が重複していることにより専門性の高い指導や施設・設備等による教育的支援の必要性が大きい児童生徒に対する教育を地域において中心的に担う役割とともに、教育的支援の必要性の程度がそれに至らない児童生徒が就学する小・中学校等における教育や指導に関し、教員や保護者の相談に応じ、助言等を行うなど、小・中学校等に対しても教育的な支援を積極的に行う機能を併せ有する学校に転換していく必要がある。

また、多様な教育的ニーズに対応するとの観点から特定の障害種のみを受け入れる「盲・聾・養護学校」の制度から、各地方公共団体において地域の実情に応じて障害のある児童生徒に対する教育的支援を充実することが柔軟にできるように、次に述べるような「特別支援学校(仮称)」の制度に改めることについて、法律改正を含め具体的に検討していく必要がある。

(2) この「特別支援学校(仮称)」の制度では、視覚障害、聴覚障害、知的障害等複数の障害の各々に対応して専門の教育部門を有する学校を設けることが可能となる。また、従来のように視覚障害、聴覚障害、知的障害等に対応して特定の教育部門のみを有する学校を設けることも同様に可能である。具体的にいかなる障害に対応した教育を行う学校とするか、複数の障害の部門を設け幅広い相談機能を有する学校とするかといった学校の設置運営の在り方については、各地方公共団体が重複障害のある子どもの増加、地域(支援地域)における教育のニーズ等、地域の実情にも応じて弾力的に判断することになる。

なお、障害に起因する学習や生活上の困難を改善又は克服するための、障害に応じた適切な教育を確保するために指導上の専門性が確保されることはいうまでもない。

(3) また、他の「特別支援学校(仮称)」や福祉・医療・労働関係機関とも連携を密にし、地域の障害のある児童生徒の多様な教育的ニーズに柔軟に対応していく必要がある。障害のある児童生徒で特別の教育的支援を必要とする者に対する支援を行う地域の特別支援教育のセンター的役割を果たす学校への転換を図るためには、校長のリーダーシップの下に、各学校に求められる役割に応じて具体的な目的や目標を明確にして、組織や運営の在り方を再構築し、その成果を定期的に評価するなど一層効果的な学校経営(マネジメント)が求められる。