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広島市障害者福祉計画

昭和61年10月

広島市

項目 内容
立案時期 昭和61年10月
計画期間 昭和61年度~平成7年度(10年間)

はじめに

 障害者の福祉については,昭和51年(1976年)の国連第31回総会において,昭和56年(1981年)を「国際障害者年」とすることが決議されました。
 国際障害者年には,障害者の社会における「完全参加と平等」をテーマに掲げ,ノーマライゼーションの理念のもとに全世界がその実現をめざして行動することとされ,わが国においても,国,地方を通じ,障害者福祉についての理解を深める啓発活動をはじめ,各般にわたる障害者対策が積極的に推進されました。
 また,昭和57年(1982年)には,わが国における「障害者対策に関する長期計画」,国連決議による「障害者に関する世界行動計画」が策定されるなど,障害者の福祉ついては,国際障害者年を一つの契機として大きく前進をいたしました。
 こうした中で,広島市は,昭和53年に国際平和文化都市の建設をめざし策定した「広島市基本構想」とその実現方策を定めた「広島市新基本計画」の柱の一つである「健康で幸せに暮らせるまちづくり」の推進の一環として障害者福祉の充実に努めてまいりました。
 しかし,私は,国際障害者年を中心とした障害者対策に関する国内外の動向に呼応するとともに,厳しい社会経済情勢のもとで,広範多岐にわたる障害者対策をより総合的,計画的に推進していくためには,より具体的な障害者対策に関する計画が必要であると感じ,昭和55年に広島市社会福祉審議会に対し「心身障害者対策中期計画の策定について」御審議をお願いし,昭和59年8月にその提言をいただきました。
 提言は「障害者対策は,障害者も一人の市民として地域社会の中で共に生活することが望ましいといういわゆるノーマライゼーションの考え方のもとに,行政はもちろんのこと,健常者も障害者も社会における「完全参加と平等」の実現に努めるとともに,障害者自らも自立自助の精神で社会活動に積極的に参加するという考え方を基本にして推進されなければならず,計画はその道筋を示すものでなければならない。」と述べ,計画策定の視点を明らかにされております。
 私は,この提言の趣旨を踏まえ,本市の障害者対策の長期計画として, 「広島市障害者福祉計画」の策定に取り組んだしだいであります。
 この計画では,ノーマライゼーション理念のもとに,障害者の社会における「完全参加と平等」を目標に掲げ,その実現に向けて各般の施策を展開するための指針を示しております。
 市政を取り巻く諸情勢は極めて厳しい状況にありますが,私は,この計画に盛り込んだ施策の一つひとつを着実に実行に移し,障害者の社会における「完全参加と平等」の実現を図るとともに,広島市の都市像である「国際平和文化都市」の建設に向けて最大の努力を傾注してまいる所存であります。市民の皆様の一層の御理解と御支援を,また,国・県その他関係機関並びに民間団体,企業の一層の御協力をお願いするしだいであります。
 おわりに,この計画の策定に当たって,貴重な御意見をいただいた広島市社会福祉審議会の委員各位並びに障害者団体の代表者各位に心からお礼を申し上げますとともに,今後とも絶大なる御協力と御指導をお願い申し上げます。

昭和61年10月

広島市長 荒木 武

目次

はじめに

第1部 総論

第2部 各論

第1部 総論

第1章 計画策定の趣旨

 国際連合は,昭和56年(1981年)を国際障害者年と定め, 障害者の「完全参加と平等」をテーマに掲げ,その実現をめざして全世界が行動することを決議した。
 そのテーマたる「完全参加と平等」は,障害者も市民そのものであるという極めて根本的かつ自明の理を現実の社会で実現することである。
 それには,障害者が社会において健常者と同等に生活し,活動することが保障されるための諸条件が整備され,推進されなければならない。
 すなわち,障害者に対する社会全体の正しい理解の浸透,障害者個人に対する的確な援護措置,障害者を取り巻く環境その他の社会条件の整備について,各般の施策が総合的,体系的にかつねばり強く実施されることが必要である。
 こうしたことを踏まえ,本市においても,障害者の社会における「完全参加と平等」を目標とし,その実現に向けて,長期的観点に立って,障害者対策を総合的・体系的に,かつ一貫性をもって推進することが必要である。
 そのため,ここに本市の障害者対策の長期計画として「広島市障害者福祉計画」を策定するものである。
 この計画は,国際障害者年10年の後半期を踏まえた今後およそ10 年間にわたる障害者福祉施策の展開について,その基本的な方向と目標を示すとともに,これを実現するための具体的な行動の指針を示すものである。

第2章 障害者福祉の理念

 この計画を策定するに当たり,また今後,障害者福祉を推進していくうえで,まず,障害者福祉の理念を明確にしておく必要がある。
 障害者福祉の理念は,端的には国際障害者年のテーマである「完全参加と平等」という目標に込められており,障害者が社会生活及び地域社会の発展に参加し,その結果としての生活向上の平等の配分を受け,他の市民と同等の生活を享受する権利の実現を促進することにあるが,基本的には,ノーマライゼーションの理念である。つまり,障害者や老人等が,社会の一員として存在することが,通常の社会であるという考え方と,そうした人々を隔離的に処遇するのではなく,家庭や地域での日常生活を可能とするような方策を講ずるべきであるという考え方の両側面から,現在の社会を本来あるべき通常の社会に戻そうとする考え方である。
 こうした考え方は,障害者をはじめ老人等に広く共通した人類普遍の基本的理念である。
 本市においても,この理念を障害者福祉の理念として確立し,この理念のもとに,障害者福祉の推進を図ろうとするものである。

第3章 施策の体系及び目標

 障害者福祉の理念に立って,障害者の真の福祉を推進するためには,障害の発生予防,早期発見,早期治療,教育,雇用・就労,生活環境の整備等あらゆる領域にわたって障害者対策が行われねばならない。
 ことに,近年,疾病構造の変化等により,障害者の実態は量的, 質的に大きな変化をみせており,また,障害者の高齢化並びに障害の重度化,重複化の進行に伴って,障害者のニーズも複雑多様化しているので,これに対応した的確な施策を総合的,体系的に推進することが重要である。こうした観点から,この計画は,次の体系に従いその基本的目標に沿って障害者対策を推進しようとするものである。

1 施策の体系
障害者福祉計画の体系
  1. 保健・医療の確保
    • (1)発生予防の強化
    • (2)早期発見・早期療育の充実
    • (3)医療の充実
  2. 教育の振興
    • (1)早期教育の充実
    • (2)学齢児童・生徒に対する教育の推進・充実
    • (3)義務教育後の教育の推進・充実
    • (4)社会における教育の推進
  3. 雇用・就労の拡大
    • (1)一般雇用の促進
    • (2)福祉的就労の充実
    • (3)職業的リハビリテーションサービス体制の整備促進
  4. 福祉サービスの充実
    • (1)在宅福祉の推進
    • (2)社会参加の促進
    • (3)施設福祉の促進
    • (4)地域福祉の推進
  5. 生活環境の整備
    • (1)福祉のまちづくりの促進
    • (2)移動手段の確保
    • (3)住宅の整備
  6. 啓発活動の推進
    • (1)広報活動の推進
    • (2)福祉教育の推進
    • (3)交流の促進
    • (4)団体育成と自主的活動の促進
2 施策の目標
(1)保健・医療の確保
 障害の発生予防から早期発見,早期療育,医療・リハビリテーションにいたるまでの一貫した体制を充実するとともに,特に,地域におけるリハビリテーション体制の整備を促進し,必要な保健・医療を確保することにより,障害の予防や軽減,社会適応能力等の増大を図る。
(2)教育の振興
 生涯教育の視点に立ち,あらゆる場において教育・医療・福祉等の関係諸機関の密接な連携のもとに,その発達段階や障害の状態に応じた適切な教育を推進し,障害者が,その障害を克服して,もてる能力・特性をできるだけ伸ばして,社会の一員として各分野で積極的に活動しうるよう教育の振興を図る。
(3)雇用・就労の拡大
 一般雇用の促進,福祉的就労の充実等,多様な就労形態による幅広い対策を推進するとともに,職業訓練等一貫した職業的リハビリテーション体制の整備を促進し,障害者の適性と能力に応じた雇用・就労の拡大を図る。
(4)福祉サービスの充実
 在宅福祉対策・施設福祉対策等,障害の態様やニーズに応じたキメ細かい福祉サービスの充実を図るとともに,地域住民の連帯と互助の精神に基づく,地域総ぐるみの福祉を推進し,障害者が,一人の市民として幸せな生活が送れるような条件整備を図る。
(5)生活環境の整備
 障害者が利用しやすいよう,都市施設の整備,移動手段の確保, 住宅の整備等を促進し,障害者が地域社会の一員として,できるだけ自力で行動できるような生活環境の整備を図る。
(6)啓発活動の推進
 地域社会の障害者に対する正しい理解と協力を得るよう啓発活動を推進し,障害者が地域社会の一員として社会活動に参加し,意義ある生活を送れるような条件整備を図る。

第4章 計画の推進

 この計画は,障害者の社会における「完全参加と平等」を実現するための障害者対策の総合的な計画であり,保健・医療,教育,雇用・就労,福祉等広範囲な分野にわたっている。また,各種施策を担う行政機関も国,県,市さらにそれぞれの行政機関の中でも各部局にまたがっている。
 このため,本市において全庁的体制で取り組むことはもとより, 関係行政機関との緊密な連携と協力を深め,各々の役割分担を配慮しつつ,総合的に一貫性をもってこの計画の推進を図るものとする。
 また,障害者対策は,ひとり行政のみで解決できるものではなく, 公私の関係機関及び広範囲にわたる市民の理解と協力により総合的な推進が図られるものであるので,すべての市民がそれぞれの立場で計画の遂行に参画すると同時に,障害者自身も社会の成員として, 自立への強い意思をもって,自己のもてる能力を最大限に発揮するよう努力を払っていくことを期待するものである。
 なお,計画に基づく具体的な施策の実施に当たっては,さらに個別的施策の調査・研究等を行い,各種の施策に係る障害者(市民)のニーズを十分に把握しながら,弾力的かつ迅速に対応するよう努めるものとする。

第2部 各論

第1章 保健・医療の確保

現状と問題点

1 発生予防
 障害者対策については,障害を未然に防止することが何にもまして重要なことであることはいうまでもない。
 こうした発生予防について,広島市では,婚前学級や妊婦教室等を開催して,障害の発生予防や母性の健康等についての知識の普及に努めるとともに,妊娠期から学齢にいたるまでの一貫した母子健康管理システムを確立し,各種の健康相談をはじめ,健康教育,健康診査等を行い,かなりの成果をあげてきている。
 しかし,これらの学級の中で婚前学級への参加者は少なく,未婚の男女や新婚夫婦が予防に関する知識を十分に身につけているとはいい難い。
 最近,医学の進歩により,次第に障害の発生予防が可能となってきているので,こうしたことと併せて,より一層,医師や保健婦等の相談指導にあたる職員の資質の向上に努めるとともに,母子保健や精神衛生に関する知識の普及等に努める必要がある。
 一方,社会環境の変化,人口の老齢化等に伴い,脳血管障害や老人性痴呆等の疾病並びに労働災害や交通事故等の事故を原因とするいわゆる後天的障害は増加の傾向にある。
 しかし,こうした疾病や事故は,日ごろからの健康管理や交通に対する注意等により事前に防止が可能なものも少なくない。
 したがって,今後,より一層,行政,医療,企業等の役割分担と連携のもとに,健康管理に関する知識の普及,相談指導,事故や災害防止のための条件整備等に努める必要がある。また,災害,事故等の防止は,基本的には,人命尊重,安全確保等の思想と関連するので,この面での啓発活動をあらゆる機会をとらえて実施する必要がある。
2 早期発見・早期療育
 障害を早期に発見し,適切な治療あるいは療育を行うことにより, 障害を除去又は軽減して,健やかな育成を促すことが必要である。
 広島市では,乳児から児童期にかけての障害の早期発見について, 保健所での健康診査をはじめ,各種医療機関における診療活動等の中で発見された障害児又はその疑いのあるものについて,総合的診断・評価機能をもつ広島市児童総合相談センター内療育相談指導所へ連携し,必要とされる早期対応に結びつけていく一貫した体制が整備されており,かなりの成果をあげてきている。
 また,障害の発見後は,障害部位を中心とする医学的治療・訓練に加えて,障害に起因するところの二次的な発達障害を防止し,児童としての通常な発達を促進するための教育的機能を併せもった療育といわれる援助が必要とされるが,このような療育については, 現在,障害種別・程度,あるいは年齢等による発達課題に対応して, 医療機関,児童福祉施設あるいは教育機関等で行われている。
 しかし,この障害児の療育については,児童総合相談センターの専門機能が更に地域における療育現場と連携し,あるいはそれぞれの役割分担が明確化されて,より充実した療育が行われるよう,体制及び内容の整備が進められることが必要である。
 また,早期療育は,障害児対策の中でも未開発の部分が多い分野で,その内容・方法は未熟な段階であり,今後の研究成果に期待される分野も少なくない。
 したがって,今後,療育体系の整備,療育内容・方法について各方面の英知を結集して実践的研究を進めるとともに,関係者の研修体制の充実を推進する必要がある。
 また,成人,老人に対しては,保健所や医療機関において成人健康診査等を行い,成人病やその疑いのある者を発見し,早期に対応する体制をとっているが,健康診査の受診率の向上等を図る必要がある。
3 医療
 障害者のもつ医療的ニーズは非常に大きく,また多様である。
 その障害者に関する医療は,障害そのものの軽減を図る医療と一般的な医療の二つの側面があるが,この両医療が障害者の必要に応じて適時,適切に供給されることが必要である。
 現在,医学,医術の発展は著しく,障害に関する医療も大きく進歩している。
 こうした医療を,障害者が地域における身近な医療機関において, それぞれの障害に対応して,また多大な経済的負担を要することなく適切に受けることができるよう,医療機関の整備・充実,専門従事者の養成・確保,育成・更生医療の内容充実や医療費の負担軽減等の諸施策を今後積極的に展開する必要がある。
 ところで,近年,成人病等の疾病や事故等による中途身体障害者への対応が大きな課題となっており,その発生予防対策とともに, リハビリテーション医療に対する需要はますます増大してきている。
 この中途身体障害者の医学的リハビリテーションについては,広島県立身体障害者リハビリテーションセンター内の身体障害者医療センター等いくつかの医療機関において実施されている。
 しかし,現在,病院内にリハビリテーション施設をもっている医療機関はまだ少ないし,また,理学療法士や作業療法士等マンパワーが不足しているなど,その供給体制は必ずしも十分なものとはいい難い。
 したがって,今後,病院におけるリハビリテーション部門の整備を促進するとともに,理学療法士や作業療法士等の専門従事者の養成を促進する必要がある。
 また,こうした医療機関におけるリハビリテーションは,恒久的なものではないので,退院後のアフターケアが重要な問題となる。
 特に広島市においては,こうした問題に対処するため,58年に建設した在宅の障害者がスポーツや軽作業,トレーニングを通じて, 楽しみながら継続して機能訓練ができる心身障害者福祉センターは多くの人々に利用され成果をあげている。今後はさらに,より住民と密接した保健所を中核とする地域リハビリテーション体制を整備し,医療機関,心身障害者福祉センター,保健所等の関係機関や関係施設のそれぞれの役割分担と有機的連携による地域リハビリテーションシステムの整備を図る必要がある。
 なお,精神障害者に対する医療は、保護的色彩の濃いものから社会寺宝帰をめざしたものへと大きく変化してきている。
 本市では,精神衛生指導センターがこの精神障害者に対する総合的・技術的中枢機関として相談,指導,技術援助等を行っているが, 今後は,保健所や医療機関等との一層の連携を図り,リハビリテーションやデイ・ケア等の社会復帰対策を推進していくことが必要である。

基本方針

 障害の予防や軽減,社会適応能力等の増大を図るため,次の基本方針に基づき施策を展開する。

1 発生予防の強化
 障害の発生の予防を図るため,母子保健,疾病予防,事故・災害防止等,発生原院の実態に即した総合的かつ一貫性のある障害の発生予防対策を推進する。
2 早期発見・早期療育の充実
 障害を早期に発見し,早期治療,早期療育に結びつけて効果的な障害児療育等を推進するため,これに係る健診,療育の内容・方法等について一層の充実,向上を図る。
3 医療の充実
 障害に関する必要な医療の確保を図るため,医療機関並びにマンパワーの充実や医学的リハビリテーションの供給体制の整備等を促進する。

施策の展開

1 発生予防の強化
(1)知識の普及
 先天異常をはじめ種々の障害の発生予防のためには,妊娠中はもとより早い時期からの健康教育,母子保健や精神衛生に関する知識の普及が必要であるので,婚前学級や妊婦教室等の充実を図るとともに, 学校教育の場での適切な指導・教育に努める。
(2)母子保健対策の推進
 妊産婦・乳幼児の健康の保持増進,疾病予防を図るため,地域医療機関との密接な連携のもとに,妊産婦・乳幼児の健康診査,健康相談, 訪問指導等の保健所活動の充実・強化を図る。特に,ハイリスク妊婦・乳幼児の健康管理を重点的に進める。
(3)成人保健対策の推進
 成人期・老年期の健康の保持増進並びに脳血管疾患,心疾患,老人性痴呆等の予防を図るため,健康診査,健康教育等,総合的な保健事業の充実・強化を図る。
(4)精神衛生対策の推進
 市民の精神的健康を維持向上させるため,一般市民への精神衛生知識の啓もう普及を行うとともに,保健所及び精神衛生指導センターの連携により,精神障害者の発生予防対策の充実・強化を図る。
(5)健康相談・指導体制の充実・強化
 健康管理等に関する各種相談・指導にあたる医師や保健婦等,職員の資質の向上に努める。
 また,結婚や出産に関連した遺伝的な悩みなどに対する相談・指導体制を充実する。
(6)地域保健対策の促進
 地域住民の健康を保持増進し,疾病を予防するため,地域の実情に即した保健衛生活動の充実に努めるとともに,広く市民の健康づくり運動を促進し,ライフサイクルに応じた障害発生の予防を図る。
(7)交通安全・労働安全対策の促進
 交通事故,労働災害等による障害発生を予防するため,交通安全関係機関・団体等との連携により,交通安全施設の整備や交通安全思想の普及に努め,総合的な交通安全対策の推進を図るとともに,労働基準局等関係機関との連携を密にし,労働災害の防止に努める。
2 早期発見・早期療育の充実
(1)早期発見体制の充実・強化
ア 乳幼児健康診査等の充実
 乳幼児の障害の早期発見,早期治療を強化するため,乳幼児健康診査の健診内容の充実を図るとともに,未熟児等のハイリスク児に対する訪問指導等の一層の充実を図る。
 乳幼児健康診査等の受診もれを防ぎ,受診を促進するため,健康教育,健康相談や各種の広報手段等を活用し周知徹底を図る。
イ 成人健康診査等の充実
 成人健康診査の内容充実を図るとともに,受診を促進するため, 健康教育,健康相談や各種広報手段等を活用し周知徹底を図る。また,各種健診に際しては,精神医学面における配慮を行うなど精神障害の早期発見,早期治療に努める。
(2)早期療育体制の充実・強化
ア 療育機能の充実
 障害児又はその疑いのあるものに対する療育を推進するため,児第2章 教育の振興童総合相談センターを中核とし,その実態を把握しながら早期療育の場の整備に努めるとともに、療育内容・方法の改善,充実を促進する。
イ 地域療育システムの整備等
 障害の発生から早期発見,早期療育への一貫した体系と保健所, 医療機関,福祉施設,教育機関及び保育機関等の関係各機関の有機的連携に基づく地域療育システムの整備や地域療育に従事する関係職種の研修システムの確立のため,専門家,関係機関を交え必要な調査・研究を行う。
3 医療の充実
(1)地域医療体制の整備促進
 障害に関する医療については,専門の従事者や設備機器の必要性が高く,一般の医療機関での対応が困難な場合も多い。このため,専門従事者の養成・確保,専門的医療機関の充実や関係医療機関との連携による地域医療体制の整備を促進する。
(2)リハビリテーション医療の充実
  • ア リハビリテーション医療の充実を図るため,地域におけるリハビリテーション機能を有する医療機関の整備を促進する。
     また,児童総合相談センター及び心身障害者福祉センター等におけるリハビリテーション機能の充実を図る。
  • イ 医療終了後あるいは医療と併行した地域でのケアについては,保健所を核とした医療,福祉及び教育等リハビリテーション機関の有機的連携による地域リハビリテーションシステムの整備に努める。
     また,精神障害者については,入院医療から通院医療への充実を図るとともに,精神衛生指導センターを中核としたリハビリテーション,デイ・ケアの充実等により,社会復帰や社会生活への適応を促進する。
(3)医療の給付内容等の充実
 障害に関する必要な医療の確保を図るため,未熟児養育医療や育成医療,小児慢性特定疾患治療,更生医療等の医療の給付並びに医療費の負担軽減のための公費負担制度について,給付内容や制度の一層の充実・改善に努める。

第2章 教育の振興

現状と問題点

1 早期教育
 早期教育は,障害者にとって,特により全人的な発達や社会生活への参加を図るうえで重要な教育段階である。こうしたなかで,就学前の教育については,現在,盲学校,ろう学校の幼稚部や幼稚園等の教育機関で,また保育所や児童総合相談センター内の施設等の児童福祉施設で行われているが,特に,この段階においては,教育措置だけでなく衛生部門における早期発見,福祉部門における適切な判定,治療,訓練,保護が併せて必要であり,これら各部門間の役割分担と連携を十分に図る必要がある。
2 学齢児童・生徒に対する教育
 就学については,広島市では,就学指導委員会を設置し,教育相談室における相談活動を踏まえながら,医学的・心理学的・教育的な観点等の各面から,児童・生徒の障害実態を総合的に判断して適切な教育が受けられるよう努めているのであるが,これをより望ましい結果につなぐものとして適切な教育の場の確保という問題ははずせない。
 現状において,市域内には,県立盲学校,ろう学校,養護学校(肢体不自由教育)及び市立の養護学校(精神薄弱教育)が設置されている。また,県は市北部に養護学校(精神薄弱教育)の開校を予定しているが,引き続き,これら障害児教育諸学校の整備等については,児童・生徒の実態に即して検討していく必要がある。
 一方,小・中学校の障害児学級の設置状況についてみると,知恵おくれという障害をもつ子どもを対象とする学級は,該当児童・生徒の在学実態に即した設置がなされ,治療教育的性格をもつ弱視学級,難聴学級,言語障害学級,情緒障害学級は,地域拠点的に設置されている。また,病弱学級が,広島市民病院,県立広島病院,広島赤十字病院に設置されている。
 今後においても,障害をもつ児童・生徒の実態に即し,その拡充に努めなければならない。
 また,障害児が社会生活に参加していくためには,健常児と活動を共にする場を積極的に拡充する必要があり,このねらいも含めた教育の内容・方法の充実を期することが必要である。
3 義務教育後の教育
 義務教育後の教育もまた,それまでの教育の成果を発展させ,社会自立,社会参加を図っていくうえで極めて重要な役割を果たすものであり,その拡充が望まれている。現状をみると,それぞれの能力・適性に応じた教育・訓練等の場は,十分とはいい難い。学校教育のなかでは,養護学校等の高等部の充実が望まれるし,障害の多様性や実態に応じた適切な教育体制を,各関係部門の連携のなかで充実させていく必要がある。
4 社会における教育
 障害者の社会参加を促進するためには,生涯教育の観点に立って学校卒業後も容易に学習できるよう社会教育の機会を拡充することが必要である。
 広島市は,各種の講座・学級等の開催,各種リーダーの養成を行うとともに,公民館や図書館,また特に,障害者の社会参加を促進するため,心身障害者福祉センターを設置するなど施設整備を進めてきている。
 今後,特に,こうした諸事業の実施に当たって,障害者の社会参加を促進するため,一層の配慮を行い生涯にわたるきれめのない学習の機会を拡充することが必要である。
 また,社会教育施設を障害者が容易に利用できるよう配慮するとともに,これらの施設におけるサービス機能の充実を図ることが望まれている。

基本方針

 障害者が,その障害を克服して,もてる能力・特性をできるだけ伸ばして,社会の一員として各分野で積極的に活動しうる人間に成長するようにするため,次の基本方針に基づき施策を展開する。

1 早期教育の充実
 障害児の全人的な発達を促進するため,就学前の早期教育・指導体制の整備や関係機関相互の有機的連携を進める。
2 学齢児童・生徒に対する教育の推進・充実
 障害のある児童・生徒がその障害の種類や程度,あるいは発達段階に応じて適切な教育が受けられるようにするため,教育の場の整備を進めるとともに,教育内容・方法等の充実を図る。
3 義務教育後の教育の推進・充実
 障害児が義務教育後においても適切な教育・訓練が受けられるよう,そのための場と指導体制の整備に努める。
4 社会における教育の推進
 障害者の社会参加を促進するため,社会教育における学習の機会を拡大するとともに,施設,設備について利用上の配慮を行う。

施策の展開

1 早期教育の充実
(1)教育の場の整備促進
 早期教育の場については,教育,衛生,福祉各部門の役割分担と連携を図りながら,盲学校,ろう学校の幼稚部の拡充並びに幼稚園や保育所へ入園・入所することが適切な障害児のための受け入れ体制の整備充実を促進する。
(2)指導力の充実
 早期教育による効果を高めるため,教育,衛生,福祉等各部門の連携のもとに,関係職員に対する専門的知識,指導技術等の研修を充実させ,職員の資質と指導力の向上に努める。
(3)関係部門の連携の強化
 教育センター教育相談室や児童総合相談センター等,関係相談・指導機関の連携体制の強化を図り,障害児に対する教育相談等の充実を図る。
2 学齢児童・生徒に対する教育の推進・充実
(1)教育の場の整備促進
 小・中学校における障害児教育については,実態に即して障害児学級を整備してきているが,今後とも障害実態に即した児童・生徒の教育を一層推進するため,実態把握を行いながらその充実に努める。
 また,障害児教育諸学校の整備等については,児童・生徒の実態に即して検討するとともに,必要に応じて県と協議し,その充実を促進する。
(2)教育内容・方法等の充実
 障害児教育において十分な成果をあげるため,障害の態様に応じた教育内容・方法の改善・充実に努めるとともに,専門分野にかかわる研修により教職員の資質と指導力の向上に努める。
(3)啓発活動の推進
 障害をもつ児童・生徒が,その障害による種々の困難を克服し,社会に積極的に参加できるようにするため,学校における交流教育や障害をもつ児童・生徒に対する理解・認識を深める活動を促進する。
3 義務教育後の教育の推進・充実
 義務教育後の障害児については,教育,福祉,労働の諸機関の緊密な連携のもとに,この義務教育後の教育の在り方について総合的に検討を行い,多様な教育・訓練の場の整備・充実を促進する。
 なお,養護学校等の高等部については,その充実を促進する。
4 社会における教育の推進
(1)学習の機会の拡充
  • ア 障害者の学習への参加を促進するため,学級や講座の開催等できるかぎり多くの学習の機会や情報を提供するとともに,学習内容の充実を図る。なお,学級や講座等の開催に当たっては,障害の態様に応じた学習援助のためのサービスの提供に努める。
  • イ 健常者の障害者についての理解や障害者との交流を深めるための学習機会の提供に努める。
  • ウ 図書館における対面朗読及び身体障害者への図書・資料の郵送貸し出しの推進,充実を図る。
(2)施設における設備等の整備充実
 障害者が社会教育の諸事業に積極的に参加できるようにするため, 社会教育施設における設備を障害者が利用しやすいよう配慮するとともに,サービス機能の充実を図る。

第3章 雇用・就労の拡大

現状と問題点

1 一般雇用
 働くことは,人間の基本的権利である。働くことは,生活の糧としての所得と併せて「生きるよろこび」を与えてくれるものであって,障害者にとっても職業的自立は基本的かつ根本的な問題である。職業問題は,一般的には雇用の問題であり,障害が重度であっても働く意欲と能力のあるものは,可能な限り一般雇用に就けるようにすることが大切である。
 広島市においては,広島公共職業安定所との共催により求人事業所と求職者との集団見合会を実施するなど一般雇用を促進する一方, 広島市職員の採用について,身体障害者のみを対象とした採用試験を実施し,広島市職員の身体障害者の雇用に努めてきている。
 しかし,障害者の一般企業への雇用状況をみてみると,法定雇用率1.5%に対して1.43%(昭和60年6月1日現在-広島公共職業安定所管内)と低く,また,法定雇用率未達成企業が全体の約半数の49.2%にも及んでいる。障害者の雇用対策については,市としては制度上一定の制約はあるが,関係機関との役割分担と連携を図りながら,雇用主に対する障害者就労についての理解を促進するとともに,法定雇用率の達成・雇用助成制度の充実等を一層促進する必要がある。また,いったん就職した後離職するケースも多いので,必要に応じて企業訪問を実施するなど,就職後のアフターケアの充実を促進する必要がある。
 また,特に,精神薄弱者の雇用は遅れているので,今後,関係機関と連携を図りながら,その実態や問題点を整理し適切な対策を検討するとともに,そうした進展と併せて,将来,雇用率制度の適用を国へ働きかける必要がある。
 なお,障害者のなかには,自営業を希望するものも多いので,世帯更生資金貸付制度の充実を図るとともにその活用を促進する等, 自営業に取り組みやすい条件整備を促進する必要がある。
2 福祉的就労
 今日,重度の障害者が次第に増加するなかにあって,現状では直ちに雇用されることが困難な障害者が増えてきており,これらの人たちに対しては,福祉工場,小規模作業所等の福祉的就労の場が必要である。しかし,広島市内には,昭和61年4月1日現在,身体障害者授産施設が1か所,精神薄弱者授産施設が2か所及び小規模作業所が8か所と少なく,その整備が課題となっている。
 したがって,今後,雇用・就労における授産施設や小規模作業所の位置づけ役割を明確にし,行政と民間が一体となってその整備を促進する必要がある。
 なお,現行の法体系のなかには,現在,需要が高まっている小規模作業所の制度が欠落しているので,この制度の法定化・制度化を国へ働きかける必要がある。
3 職業的リハビリテーションサービス体制
 障害者の職業的自立を図るためには,障害者のもつ就労に対する適性と能力を最大限に向上させるための職業リハビリテーション体制が用意されなければならない。
 現在,公共職業安定所,心身障害者職業センター,職業訓練校等が連携して,職業指導,職業評価,職業訓練等を行っているが,こうした体制が必ずしも一貫したものとなっているとは言えない。特に重度身体障害者や精神薄弱者に対する体制は不十分であり,その体制の充実と強化が強く望まれている。また,近年,障害を補完するための自助具や作業用機械器具の開発・改善等により,障害が重度であっても職業的自立が可能となってきているので,今後一層こうした器具の開発・改善を促進する必要がある。

基本方針

 障害者が,その適性と能力に応じた就労ができるようにするため,次の基本方針に基づき施策を展開する。

1 一般雇用の促進
 働く意欲と能力のある障害者については,可能な限り一般雇用に就けるようにするため,各種の雇用対策を促進する。
2 福祉的就労の充実
 現状では,直ちに雇用されることが困難な重度心身障害者に対する雇用・就労を促進するため,障害者の態様に応じた福祉的就労の場の整備を促進する。
3 職業的リハビリテーションサービス体制の整備促進
 障害者の職業的自立を促進するため,障害者の職業適性と能力の向上を図る職業的リハビリテーション体制の充実,強化を進めるとともに,自助具や作業用具等の開発・改善を促進する。

施策の展開

1 一般雇用の促進
(1)啓発活動の強化
 雇用主の障害者就労に対する理解を促進し,雇用機会の拡大を図るため,心身障害者雇用促進月間事業等あらゆる機会を通じて啓発を行うなど雇用主に対する啓発活動を充実,強化するとともに,障害者自身の自立,自助努力の増進を図るための啓発活動を推進する。
(2)法定雇用率達成の促進
 労働行政を所管している国・県に対し,法定雇用率の達成に係る施策の推進を働きかける。
 特に遅れている精神薄弱者の雇用促進を図るため,身体障害者雇用促進法の雇用率制度を精神薄弱者にも適用されるよう国へ働きかける。
(3)雇用助成制度等の充実促進
 身体障害者雇用納付金制度等の事業主に対する雇用助成制度,心身障害者に対する就職援護制度の充実を一層促進するよう国その他の関係機関へ働きかける。
(4)雇用機会の創出
 新しい雇用機会を創出するため,障害者多数雇用企業の誘致,いわゆる第3セクター方式による重度障害者多数雇用事業所の設置や保護雇用制度についての研究,取組みを行う。
 なお,住居の問題等で通勤困難のため就業できない者等のため,通勤寮等の雇用関連施設の整備を促進する。
(5)自営業に対する助成の充実・促進
 自営による就業を促進するため,相談・指導体制や世帯更生資金貸付制度等の充実・促進を図る。
(6)関係機関の連携,相談・指導体制の強化
 広島公共職業安定所との共催により実施している心身障害者就職集団見合会等の事業を今後更に発展充実させるとともに,関係機関との連携を一層強化し,就職後の職場定着を図るためのアフターケア等, 就職相談・指導体制の充実並びに職員の資質の向上に努める。
2 福祉的就労の充実
(1)福祉的就労の場の確保
  • ア 施設の位置づけ,役割分担の明確化,有機的連携の強化等,障害の態様に応じた福祉的就労の場の充実,確保,在り方について専門家,関係機関等を交え,必要な調査研究を行う。
  • イ 地域需要を見極めながら,行政と民間が一体となって授産施設の拡充整備,小規模作業所の設置を促進する。
  • ウ 福祉工場の設置や内職事業に対する援助方策についての研究を行う。
(2)福祉的就労施設運営の充実
  • ア 授産施設,小規模作業所については,仕事(作業)の内容及び量が必ずしも十分なものとなっていないため,官公需の優先的発注をより一層促進するなど,積極的に仕事の内容の充実,量の確保に努める。
  • イ 授産施設利用者の社会復帰(一般雇用)を促進するため,企業ニーズに対応した授産内容,訓練の充実を促進する。
  • ウ 小規模作業所の法定化,制度化を国へ働きかけるとともに,本市としての助成制度の充実を図る。
(3)授産施設等職員の資質向上
 障害の多様化・重度化,障害者の高齢化に対応し,施設利用者の処遇の充実を図るため,授産施設等職員の資質の向上に努める。
3 職業的リハビリテーションサービス体制の整備促進
(1)職能判定,指導の充実促進
 心身障害者職業センター,公共職業安定所,更生相談所,教育機関あるいは福祉施設における職能判定,職業指導の充実・強化を促進する。
(2)職業訓練の充実促進
  • ア 身体障害者職業訓練校における訓練職種,内容及び障害の態様に応じた訓練・指導方法の充実について国・県へ働きかける。
  • イ 授産施設等における企業ニーズに対応した職業訓練の充実を促進する。
  • ウ 重度身体障害者,精神薄弱者の職業訓練施設の整備・充実を国へ働きかける。
(3)適職の開発
 一般企業に雇用されている障害者の実状調査等を実施し,適職や可能職種についての研究開発を促進する。
(4)自助具,作業用具の開発・改善等の促進
 自助具,作業用具の開発改善に対する助成制度等についての研究を行うとともに,作業用具等の展示等による普及を促進する。
(5)職業リハビリテーション関係機関の連携強化
  • ア 公共職業安定所,心身障害者職業センターや職業訓練校等,関係機関の一層の連携強化を促進する。
  • イ 職業的リハビリテーション,医学的リハビリテーション及び社会的リハビリテーションサービスのネットワーク・システムの研究を進める。
(6)福祉的就労施設職員等の資質向上
 企業ニーズあるいは時代に即応した職業訓練内容の実施,充実を図るため,研修等による関係職員の資質の向上に努める。

第4章 福祉サービスの充実

現状と問題点

1 在宅福祉
 人間にとって,基本的な生活の場は家庭であり,障害者も,可能な限り家庭の一員として家族との暖かいふれあいのなかで生活するとともに,地域社会にその一員として参加できるようにしていくことが重要である。こうした在宅対策は,近年社会経済の発展に伴って,リハビリテーション医療,補装具等に関する科学技術が進歩するとともに,人的,物的な社会資源が在宅対策として活用できるような社会的条件が整いつつあることもあって,次第に本格化してきている。
 しかし,特に,障害者が地域社会で生活する基盤となる所得は健常者のそれと比べて低い。在宅の障害者にとって所得保障の充実は, 様々なニーズに対応するサービスを確保するためにも必要であるので,他の福祉対策との関連にも留意しながら,今後一層促進しなければならない。
 また,最近,地域での生活を望む重度障害者が増えてきているが, こうした障害者の介護は家族によるものが多い。家族が冠婚葬祭等で外出する時や,病気,事故等で介護ができなくなる場合なども多いので,より実態に応じた家庭奉仕員の派遣,施設への緊急一時保護事業等の充実等を図る必要がある。
 さらに,重度の障害者が地域で自立して生活するためには,障害の態様に応じた日常生活用具が不可欠であり,こうした用具の研究, 開発や給付(貸与)制度の改善,充実を促進する必要がある。
 また,障害者やその家族は多くの悩みをもっているが,相談窓口が多岐にわたり,十分な相談指導を受けているとはいい難いので, 相談機関の連携及び相談員の資質の向上に一層努める必要がある。
 これまでの在宅福祉サービスは,低所得の障害者に重点が置かれていたが,こうしたサービスに対する需要は,低所得者に限られたものではない。今後は,すべての障害者のニーズにこたえるようなサービス内容の充実や供給体制の整備を図るとともに,福祉サービスの対象範囲の拡大について検討する必要がある。なお,これらの施策の推進に当たっては,当然に求められる自立自助の努力,応能負担等は,障害者についても妥当な範囲で求める必要がある。
2 社会参加
 障害者の社会への「完全参加と平等」を実現するためには,障害者自身の積極的な社会参加姿勢とそれを支える市民一人ひとりの援護体制が重要であることは述べるまでもない。
 広島市においては,身体障害者生活訓練事業をはじめ,要約筆記奉仕員養成事業,各種ガイドヘルパー派遣事業等を行う一方,昭和 58年度においては,体育館,プール,会館機能を兼ね備えた心身障害者福祉センターを設置するなど,障害者の社会参加促進に努めてきている。
 最近,障害は多様化,複雑化,重複化の傾向にあり,また,事故, 疾病等による中途障害者が増加してきているので,今後とも心身障害者福祉センター等の場を十分に活用し,障害者の種別や程度に応じた社会参加促進事業に積極的に取り組むとともに,こうした事業に参加しやすい方策を検討する必要がある。
 また,特に社会生活を行ううえでの最も基本的な要素であるコミュニケーションについては,今後,視覚障害者に対する点訳奉仕員や朗読奉仕員の養成,また,聴覚障害者に対する手話奉仕員や要約筆記奉仕員の養成等に取り組むほか,テレビや映画等における多重放送や字幕化等を一層促進する必要がある。
3 施設福祉
 施設対策と在宅対策との関係については,本来どちらか一方を強調すべきものではなく,両者が有機的連携を保ちつつ相互に役割を補完しあっていくことが大切である。
 広島市内には,昭和61年4月1日現在,心身障害児の入・通所施設が11か所及び心身障害者の入・通所施設が10か所ある。また,小規模作業所が8か所ある。
 こうした施設対策については,今日,在宅志向を反映して,その施設に寝泊まりするいわゆる入所施設よりも,日々家庭から通ういわゆる通所施設の需要が高まってきている。心身障害児の施設については,入所,通所を問わず出生率の低下,障害児保育の充実等もあって全市的には一応需要を満たしてきているが,特に通所施設については,地域的な配慮が必要であるので今後とも地域需要をみながら整備を進める必要がある。また,入所形態の心身障害児施設については,年齢超過児が増加してきているが,その受け入れ施設が不足しており退所できない状況にある。
 心身障害者の施設については,特に,通所の授産施設や福祉工場, 通勤寮,福祉ホーム等の雇用・就労関連施設が不足している。他面, 心身障害者の入所施設については,前述の心身障害児施設の年齢超過児の受け入れ施設として,また,いわゆる親なき後の生活の場として需要が高まってきている。
 したがって,施設対策については,今後,特に,心身障害者の施設について,通所授産施設等の就労関連施設を重点的に整備するとともに,入所施設についても,需要動向を十分に見極めながら整備を促進していく必要がある。
 なお,施設は,それが有する人的物的機能を可能な限り在宅者にも活用させるとともに,地域社会との交流を深め,開かれた施設として運営することが必要である。
4 地域福祉
 障害者が地域社会の中で,生きがいある生活を送るためには,家庭や地域住民の人と人のつながりに支えられた,民間と行政の役割分担と連携に基づく地域総ぐるみの福祉を推進することが特に重要である。
 現在,住民の最も身近なところでは,社会福祉協議会,町内会等の組織的な活動とともに,民生委員・児童委員等の活動や個人グループ等によるボランティア活動等,住民自身による各種の自主的な活動が行われている。
 また,広島市においては,昭和55年の政令指定都市移行に伴い各区ごとに福祉事務所及び保健所を設置し,各種の福祉サービスや健康管理面の充実が図られてきている。
 さらに,全市を対象とした施設として,広島市児童総合相談センター,広島市心身障害者福祉センター等が設置されており,区単位では対応が困難な,より広域的,専門的な福祉サービス需要に応じている。
 このように,障害者の福祉サービスについては,民間,行政を問わず,しかも,地域の広がりに応じて,いろいろな場で対応されてきているが,これらの役割分担と連携は必ずしも十分なものとなっているとはいい難い。特に福祉サービスについては,行政でなければ対応が困難なものもあれば,これとは逆に,むしろ民間の活動に期待した方がより効果を発揮するものも少なくない。
 したがって,今後一層,市民の連帯意識を高め,市民すべてが共に歩む福祉思想の啓発を図り,幅広い市民の参加による各種福祉団体やボランティアの実践活動を促進するとともに,民間及び行政の役割分担と連携による地域福祉を一層推進する必要がある。

基本方針

 障害者が,一人の市民として幸せな生活が送れるようにするため,次の基本方針に基づき施策を展開する。

1 在宅福祉の推進
 障害者が幸せな社会生活を営めるようにするため,障害者の特性やニーズを考慮しつつ,相談指導,介助サービス,生活の利便,自立意欲の助長にかかわる各種サービスの充実・強化を図る。
2 社会参加の促進
 障害者の社会参加を促進するため,障害の種別に応じた社会適応訓練事業やボランティアの養成事業,文化・スポーツ事業等に積極的に取り組む。
3 施設福祉の促進
 障害者の態様やニーズに応じて施設が利用できるようにするため, 施設の整備,処遇内容の改善等に努めるとともに,各施設のもつ機能の充実を図りながら施設のオープン化を促進する。
4 地域福祉の推進
 障害者が一人の市民として地域社会のなかで生きがいのある生活を送れるようにするため,行政と民間の連携の強化や民間の福祉活動への主体的参加の促進を図りながら,地域住民の連帯と互助の精神に支えられた地域総ぐるみの福祉を推進する。

施策の展開

1 在宅福祉の推進
(1)所得保障の充実
 所得保障制度はほとんどが国の施策であるので,障害者の自立生活の基盤を確保できる所得保障を確立するよう国へ働きかける。
(2)家事援助サービス等の充実
 重度障害者の日常生活の便宜を図るため,家庭奉仕員やガイドヘルパー派遣制度,緊急一時保護事業を更に普及するとともに内容の充実を図る。また,日常生活用具,補装具等の給付制度の改善並びに研究開発を一層促進する。
(3)相談・指導体制の強化
 福祉事務所や児童相談所,更生相談所,身体障害者相談員等の相談機能の充実と連携を図るとともに,巡回相談や訪問指導等によるキメ細かい対策を促進するなど,相談・指導体制の強化を図る。
(4)各種サービスの周知徹底
 年金制度ほか各種助成措置,扶養共済制度,税制上の優遇措置その他各種の制度について,障害者が受益を失することがないよう,周知徹底を図る。
2 社会参加の促進
(1)社会参加促進事業の推進
  • ア 障害者の社会参加と自立を促進するため,障害の種別,程度に応じた日常生活訓練やデイ・サービス事業を推進する。
  • イ 障害者の自立を助長し生きがいの高揚を図るため.スポーツやレクリエーション,文化等,様々な地域活動の参加機会の拡充とこれにかかわる必要な状況整備に努める。
  • ウ 障害者の社会参加を促進するため,福祉バス,福祉タクシーやガイドヘルパー派遣制度等の充実を図る。
(2)コミュニケーションの円滑化
 障害者の社会参加を容易にするため,手話・点訳・要約筆記奉仕員等の養成並びに派遣事業の拡充を図るほか,テレビや映画等における多重放送や字幕化等の促進を図る。
(3)心身障害者福祉センター等の利用促進
 心身障害者福祉センターの設備,デイ・サービス事業内容の充実を図るとともに,地域コミュニティ施設等の利用を促進する。
3 施設福祉の促進
(1)施設整備の促進
  • ア 授産施設,福祉工場,通勤寮等の雇用・就労関連施設の整備については・特に,障害者の自立促進対策についての調査・研究のなかで十分な検討を行い,必要な整備を促進する。
  • イ その他の心身障害児・者施設については,年齢超過児の状況や親なき後の生活の場の需要にかかわる地域動向や地域配置を考慮しながら,必要な整備を促進する。
(2)施設入所者の処遇向上
 施設入所者の処遇の向上を図るため,入所者の重度化等の傾向を踏まえ,職員の資質の向上に努めるとともに,安全の確保,設備の質的充実,業務省力化等による施設運営の近代化を促進する。
(3)施設のオープン化の促進
 施設のもつ機能を地域社会に開放し,施設と地域とがそれぞれの行事に相互に参加するなど,施設のオープン化を促進し,地域住民との交流機会の一層の拡大を図る。
4 地域福祉の推進
(1)福祉活動の促進
 地域における福祉活動が,幅広い市民の参加と協力を得て,地域において有機的,組織的に実施されるよう,地域福祉活動の推進母体である社会福祉協議会の活動やボランティア活動を促進するなど,その推進体制の整備に努める。
(2)地域における相談・指導体制の強化
 民生委員,身体障害者相談員等が,障害者のさまざまな悩みや問題について実態を把握し,適切な指導・助言ができるような体制を充実するため,研修事業の拡充,各種地域団体等との連携強化を促進する。
(3)行政・民間の役割分担と連携の強化
 行政機関や民間における各種福祉サービスが,障害者のニーズや地域特性等に応じてより適切に供給されるよう,両者の役割分担を明確にするとともに,併せて連携の強化とサービス内容の一層の充実を図る。

第5章 生活環境の整備

現状と問題点

1 福祉のまちづくり
 障害者が,地域社会の一員として家庭生活を営み,自ら社会活動に参加するためには,日常生活及び社会生活が十分に行えるように都市施設を整備することが必要不可欠である。
 広島市においては,国の障害者福祉都市事業等により環境整備を進める一方,昭和57年には,「広島市福祉のまちづくり環境整備要綱」を制定し,障害者をはじめ老人等すべての市民が住みよいまちづくりに努めてきている。
 しかしながら,公共的な建築物をはじめ,道路・公園等には,まだ段差等も少なからず見受けられ,障害者が利用しやすいものとなっているとはいい難い。また現在の施設整備は,「点」的な整備が主体であるので,今後障害者の行動を考えた「線」及び「面」的な整備を一層促進する必要がある。なお,視力障害者用の音響式信号機や点字ブロックの型・配置が童国的にまちまちであり統一化するよう努力する必要がある。
2 移動手段
 障害者が外出する場合,移動のための交通手段等の確保が重要となるが,こうした移動の面については,現在,公共交通機関の低床, 広ドア車両の普及が図られるほか,優先座席(シルバーシート)の設置が行われるなど障害者に対する各種の措置が講じられてきている。しかし,現在の公共交通機関には,まだまだ乗降等の構造上の問題や,視力障害者や聴覚障害者等にも判る行先,停留所の案内表示の問題等,種々の問題がある。今後とも,これらの問題解決に一層努力するとともに,市民の障害者の交通機関の利用に対する理解と協力を促進していく必要がある。また,自家用車やタクシーは重度障害者の有効な移動手段であるので,自動車改造費等の助成や福祉タクシー制度を一層充実するとともに,ガイドヘルパー等の人的援助体制の整備充実を図る必要がある。
3 住宅
 障害者の在宅志向が強まるなかで,生活の拠点としての住宅の問題は,ますます重要となってきている。特に障害者の住む住宅については,設備・構造等に特別の工夫や配慮を必要とするが,一般の民間賃貸住宅にこれを求めることは困難な現状にあり,公営住宅の果たす役割は大きい。
 こうした住宅対策としては,現在,特に車いす使用障害者のための公営住宅を建設するとともに,障害者が公営住宅に入居する際の当選率の優遇措置や,入居後必要に応じて施設・設備等を改造するなど,必要な措置が講じられてきている。また,持家等に住む障害者世帯が,障害者の専用居室等を増・改築,改造等を行う場合には, 低利で長期の融資制度が設けられている。
 しかし,障害者が安心して生活できるよう構造的にも配慮された住宅はまだ少ないし,融資制度も十分なものとはいい難い。
 したがって,今後とも障害者向けの公営住宅の整備を一層促進するとともに,住宅整備資金貸付制度等の充実を促進しなければならない。
 なお,障害者の住宅については,特に,職場や施設等への通勤, 通所の便を考慮する必要があるので,障害者向けの公営住宅の整備等に当たっては,こうした点に特に留意する必要がある。

基本方針

 障害者が地域社会の一員として,できるだけ自力で行動や生活ができるようにするため,次の基本方針に基づき施策を展開する。

1 福祉のまちづくりの促進
 障害者が自力で行動できるようにするため,障害者が利用しやすいよう,市民が広く利用する公共的な建築物をはじめ道路・公園等の整備・改善を促進するとともに,福祉環境整備基準の統一化,法制化を国へ働きかける。
2 移助手段の確保
 障害者の外出を容易にし種々の社会活動に参加できるようにするため,公共交通機関の構造改善や移動,交通手段にかかわるサービス制度等の充実・促進を図る。
3 住宅の整備
 障害者が地域で安心して住めるようにするため,障害者向けの公営住宅の整備や持家等の改造・整備に必要な融資制度の充実・促進を図る。

施策の展開

1 福祉のまちづくりの促進
  • (1)「広島市福祉のまちづくり環境整備要綱」の周知を図るとともに, 福祉のまちづくりについての市民の意識の高揚に努める。
  • (2)「広島市福祉のまちづくり環境整備要綱」に基づく円滑な指導, 協力要請により,障害者の利用を配慮した都市施設や公共的性格の強い民間建築物等の整備,改善を促進する。なお,都市施設等の整備に当たっては,「線」及び「面」的な整備に努める。
  • (3)特に,障害者が安全で自由に通行できるよう,通行の支障となる歩道等の放置物件について,地域住民の理解と協力を得ながらその解消に努める。
  • (4)現在,全国的にまちまちとなっている視力障害者用点字ブロック等の整備基準の統一化,建築基準法の改正等による法制化を国へ働きかける。
2 移動手段の確保
  • (1)障害者が公共交通機関を利用しやすいようにするため,車両や駅舎,案内表示等の改善,整備を促進する。
  • (2)障害者の生活圏の拡大を図るため,自動車運転免許取得費や自動車改造費の助成,福祉タクシー制度等の充実を図る。
  • (3)鉄道・バスの運賃や有料道路の通行料金割引制度の拡充,特に内部障害者及び精神薄弱者への適用について,国その他の関係機関へ働きかける。
  • (4)障害者が安心して街に出られるようにするため,ガイドヘルパー・手話奉仕員等の派遣体制を充実するとともに,障害者用のマップやガイドブック等による情報の提供に努める。
3 住宅の整備
  • (1)障害者の住宅の需要実態に応じ,既設公営住宅の建て替え及び公営住宅の新設に併せて,障害者向け公営住宅の整備を促進する。
  • (2)家庭において日常生活を営むのに支障のある重度障害者の親なき後の生活のための施設について,障害者のニーズ等を把握しながら研究を行う。
  • (3)公営住宅への入居を希望する障害者に対する当選率の優遇等の措置を推進する。
  • (4)持家等の改善・整備を促進するため,障害者住宅整備資金や世帯更生資金等の融資制度の拡充を図る。

第6章 啓発活動の推進

現状と問題点

 障害者が地域社会の一員として社会活動に参加し,意義ある生活を送るためには,本人の努力はもちろんのこと地域社会の障害者に対する正しい理解と協力によるところが極めて大きい。
 こうした障害者に対する正しい理解と認識については,特に,1981年(昭和56年)の国際障害者年を契機として,国際障害者年の意義や目的が盛んに報道され,また,障害者の日や障害者福祉週間が設けられ, こうしたことと併せて,各種の講演会や記念行事等が数多く開催されたことにより,次第に定着してきている。
 しかし,まだまだ科学的認識の不足や根強い偏見が残存しており,障害者の社会参加が阻まれている。
 したがって,あらゆる機会を通して積極的に啓発活動を展開する必要がある。

基本方針

 地域社会の障害者に対する正しい理解と協力を得るため,次の基本方針に基づき施策を展開する。

1 広報活動の推進
 障害者問題に対する社会の理解を深めるため,各種広報活動を推進する。
2 福祉教育の推進
 正しい障害者観を育てるため,あらゆる場を活用して福祉教育を推進する。
3 交流の促進
 障害者に対する理解と認識を深めるため,学校や地域社会における交流教育や交流事業を促進する。
4 団体育成と自主的活動の促進
 障害者や障害者団体自らの啓発活動等を促進するため,障害者団体を育成するとともに自主的活動を促進する。

施策の展開

1 広報活動の推進
  • (1)障害者に対する理解と認識を深めるため,各種広報紙によるほか報道機関の協力を得てテレビ,ラジオ,新聞等のマスメディアによる啓発活動を推進する。
  • (2)障害者福祉週間や心身障害者雇用促進月間,精神薄弱者愛護月間等の障害者福祉に係る各種強調運動期間には,それぞれの趣旨にふさわしい内容による広報,啓発活動をより積極的に展開する。
  • (3)障害者に対する広報については,障害の種別に応じ,点字や声の広報,ニューメディアの活用等,広報手段の充実に努める。
2 福祉教育の推進
 子どもから成人にいたるすべての市民に対して,障害者に対する正しい理解,認識を深めるため,家庭をはじめ学校や地域社会のあらゆる分野において,これにかかわる教育・指導や事業の取組みが行われるよう,福祉教育を推進する。
3 交流の促進
 障害者を正しく理解するためには,障害者と健常者との交流が大切である。このため,学校における交流教育のほか,フラワーフェスティバルや障害者福祉週間等における各種の行事やスポーツ・レクリエーション大会等を通じて,相互の交流の促進に努める。
4 団体育成と自主的活動の促進
 障害者が自ら啓発活動に取り組み,努力することは,市民の啓発に直接的な影響を及ぼすものであるので,団体による啓発活動の推進を図るとともに,障害者自身の自立,自助努力の増進を図るため,障害者団体を育成し,団体の自主的活動を促進する。

主題:
広島市障害者福祉計画

発行者:

発行年月:
1986年10月

文献に関する問い合わせ先: