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総合福祉部会 第12回 H23.2.15 参考資料2 東川委員提出資料

障害者制度改革推進会議 総合福祉部会 部会長 佐藤 久夫 殿

2010年12月 日
特定非営利活動法人全国薬物依存症者家族連合会 理事長 林 隆雄
日本ダルク代表 近藤恒夫

 第45回衆議院選挙で新政権が誕生し、平成21年12月8日に閣議決定され発足した障害者制度改革推進会議の中で、薬物やアルコールをはじめとする、いわゆる「依存症」について、議論がされることを強く願ってきました。
 なぜならば、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」の第五条で、「依存症」が精神障害者であることは明記されているからです。しかしながら、「当事者」が委員として招致されるどころか、議論にすら上がっていないのが現状です。
 このことに、私ども特定非営利活動法人全国薬物依存症者家族連合会は、強い危機感を感じております。依存症者の中には、精神保健福祉手帳所持者であり、障害年金を受給し、自立支援医療の対象者となっている人も、少なくありません。にもかかわらず、現行の自立支援法下で、依存症者が使えるサービスが皆無といっても過言ではありません。
 「薬物に依存しない生き方」を学び、実践しなければ、社会の中で生きていくことができません。
 そこで、我々は以下の事項について、障害者制度改革推進会議において時宣に即した適切な議論を行うよう、強く要望します。なお、時間をかけて論議すべき事項については後日要望させていただきます。

  1. 24時間の共同生活が実施できるような施策の議論
  2. 全国に存在する民間の依存症者施設の実態調査
  3. 薬物使用者(薬物未使用歴の長い)がスタッフとして常駐できる施策の議論
  4. 依存症者に対する偏見や差別を払拭するための啓蒙啓発
  5. 家族会活動への助成
  6. 生活保護法との関係に関する議論
  7. 予防(未成年者・家族)、治療(依存症者・その家族の生活)、社会復帰、各段階のプログラムの議論
  8. 依存症者及び薬物に起因する犯罪者に対する回復医療を含めた適切な刑法上の処置と、刑罰によらない人間回復支援の議論
  9. 医療・司法・地域社会を結ぶ依存症回復施設の議論

問い合わせ先
全国薬物依存症者家族連合会
TEL 0285-30-3313 FAX 0285-30-3314
担当 ; 米澤大
TEL 077-527-9788 FAX077-527-9789
携帯電話 090-3162-6231
E-MAIL d_yonezawa@aja.or.jp

制度改革への意見

2011年1月19日 全国薬物依存症家族連合会 理事長 林 隆雄

 私どもの法人では、全国の薬物依存症者のいる家族支援を中心にしていますが、同時に薬物依存症者社会復帰施設の支援もしています。参考HP(http://www.yakkaren.com/)薬物依存症者の回復のためには、治療共同体(仲間)が必要であると考えています。そのために、家族とともに家庭で回復していくのではなく、依存症当事者は、これまでとは違った地域、環境の中で生活し、人間性を回復し、社会生活可能な状態にまで回復していくことが重要であると考えております。
 入寮している者の一部は、遠く離れて生活している家族が金銭的な支援を受け、寝食可能な状態で回復プログラムに取り組める状態にあります。
 しかしながら、多くの入寮者は生活保護受給者であり、かろうじて寝食は可能であっても、満足のいく回復プログラムに参加することができません。そこで、公的な資金を得ようと考えるのですが、現行の障害者自立支援法の中には、依存症当事者が利用できる制度すらないのが現状です。

  1. 依存症の特徴から、24時間の見守りが必要であることがあげられます。つぎはぎで制度を利用し、グループホームと日中活動の場を利用している施設もありますが、かなり現状とかけ離れているのが実態です。
  2. 施設長やスタッフも含めて当事者であることがあります。サービス管理責任者の要件を満たすことはもちろん、複雑な福祉制度についても理解できない部分が多いのです。
  3. 前述のように「これまでとは違った地域での回復」をしていくために、新たに住民票を持つことになります。そこで、生活保護の申請や自立支援給付を申請することで、施設のある自治体の負担となっています。滋賀県では「滋賀型地域活動支援センター」、鳥取県では「薬物依存症リハビリ施設助成モデル事業」など、単独予算で支援してくれている自治体もあります。しかしながら、残念なことにすべての自治体で実施されているわけではありません。また、地域間での格差が大きく生じているということも実情です。

 このような中で、現在皆様が中心となって進めていただいている推進会議並びに総合福祉部会の中で、全国の依存症者の社会復帰に向けた取り組みを、もう一度見直し、なんらかの手立てをしていただけることを、切に願っております。

◆依存症とは?

 飲みすぎ、食べ過ぎ、買い物しすぎ、働きすぎなど、個人の心身の健康・生活を脅かすような、自己破壊的な習慣にふけることをアディクション(嗜癖)と言います。
 アルコール・薬物依存・ギャンブル癖、摂食障害、盗癖、買い物中毒、ワーカーホリック、女性や子供等の弱者への暴力などは、すべてアディクションの病、依存症です。

◆薬物依存とは?

 身体依存と精神依存がある。身体依存とは、薬物摂取の繰り返しの結果、切れると離脱症状(禁断症状)が出てくる状態。精神依存とは、「欲しい」という渇望に抗しきれずに、使用に対する自己コントロールを失った状態。身体依存が薬物依存の本体と思われがちですが、薬物の中には身体依存を引き起こさないものがあり、その典型が覚醒剤です。従って、薬物依存とは本質的に精神依存をさす。
 薬物によって興奮作用、抑制作用、幻覚作用等与える作用は異なるが、共通して中脳にあるA10神経系の異常を引き起こす。A10神経は、努力して目的が達成されると「至上の喜び」を体験させてくれる重要な神経系で、薬物を体に入れると、努力なしに、いきなり、「至上の喜び」を体験させてくれるため、渇望から逃れられなくなり精神依存状態をつくる。この神経系異常は、半永久的に持続する可能性があるとさえ言われている。
 これらの依存症は慢性の病気であり、完全に治癒する事はありませんが、回復し健全な生活を取り戻すことはできます。依存症から回復しつつある人たちが、まだ苦しんでいる依存症者たちの回復を援助し、社会復帰を手助けする民間のリハビリテーション施設が各地に出来ています。

◆マック・ダルクとは?

 私たちが暮らす現代社会はアルコールやその他の薬物が急速に広がっています。
 特に若い人たちはこれらのアルコール、薬物に接する機会が多いため、依存症に陥るケースも増え、家庭や、学校、地域社会で大きな問題となっています。しかしこのように増えつつあるアルコール・薬物依存の対策となるときわめて乏しいのが現状です。
 アルコール、薬物依存症者とその家族にとって、今切実に求められているのは、この病 気からの回復者、と専門家、市民が協力し合って設立された治療・リハビリテーション施 設であるマック・ダルクです。
 マック・ダルクでは、アルコール・薬物依存者が依存性の薬物から心身共に解放される ことを、一人の人間として成長することを目指しています。

◆ダルクとは?

 日本の薬物依存症者の回復を支援するDARC(DrugAddiction Rehabilitation Center)=通称ダルクは、1985年近藤恒夫らによって東京都荒川区日暮里の古い一軒家を借りて始められた。薬物依存からの回復を願う者たちの共同生活が原点である。
 「薬物依存症は病気なのである」病気である以上、一度薬物依存症になった人間がそこから立ち直ることは決して不可能ではない。
 「ダルクとは毎日グループセラピーを行っている薬物依存から回復したいという仲間の集まる場である。ダルクの目的は薬物を止めたい仲間の手助けをすることだけである。どんな薬物依存者でもプログラムに従って徹底的にやれば必ず回復するという希望のメッセージである。ダルクで回復している仲間が証明している。このプログラムは薬物依存者が社会の有用な一員として歩む時出会うであろう、さまざまな困難を乗り越えるための道案内である」。なお、ミーティングで仲間からの話は外部に対して秘密とする」と記されており、当事者としての」経験を分かち合う自助グループスタイルを用いた活動で、活動開始当初から当事者どうし支援のみがダルクの目的である。
 当事者による相互援助的関係の運動体である。ともに薬物依存経験者であるという当事者である。いま現に薬物から回復しようとする人と、すでに回復経験のある人がそれを手助けしようとする人であるということ。
 「スタッフは当事者であるから共感できる」「次の人たちの役に立てるようになるとその人はもう再発しない。何故なら役に立つということで自己評価が上がるから」経験を生かして次の人を支援する事が援助者である当事者の回復を強める。

 このように始められた薬物依存症の当事者自身による支援活動である「ダルク」であるが開始から25 年を経て現在42 団体68 施設まで増え全国展開されている。伸びた背景として
(ア)従来の薬物政策に縛られなかった。
(イ)当事者活動であることを前面に打ち出したこと。
(ウ)公的助成を受けられない半面医療や司法の補完的役割をとらずにすんだ。
(エ)あいまいな組織ゆえに位置づけされにくく、活動の制約がすくなかった。

◆精神保健福祉法

 精神保健福祉法の第五条に「精神障害者」の定義として「・・・・精神作用物質による急性中毒、またはその依存症・・・を有するもの」と謳われているとおり、薬物依存症者を「精神障害者」と定めています。それまで精神医療・福祉行政の中であいまいであった依存症を医療を必要とする「傷病者」であると同時に、福祉を必要とする「障害者」として医療・福祉の援助対象として明確に位置付けた。しかし薬物依存症を「病気」と認め障害者として対応する取り組みは、司法、・医療・福祉いずれの場でも不十分です。
 薬物依存はWHO(世界保健機関)により世界共通概念として定義づけられている。薬物の乱用繰り返しの結果として生じた脳の慢性的異常状態で、使用を止めようと思っても、渇望を自己コントロールできず薬物を乱用してしまう状態。

◆障害者自立支援法では新たな困難が

 いくつかのダルクがNPO資格をとり障害者自立支援法のグループホーム等の対象施設になっていますが、日割り計算による給付費の支給が施設運営を困難にし、障害者認定から排除される薬物依存症者も多数存在します。また、障害者自立支援法や医療法に持ちづく医療計画の中で、精神病院の病床削減が進められ、ますます薬物依存症者の受け入れ態勢は狭まってきています。一方、うつ病や薬物後遺症等の治療に対しても過大な処方箋投与が行われ、刑務所内での多大な処方薬投与がなされ、処方薬依存が増大しています。病院から追い出されていき場を失い、入所者の40%が処方薬依存という事態が各地のダルクで起こっています。障害者自立支援法を廃止し、それに代わる新法制定の運動が高まっています。その際、薬物依存症の特性とその家族の実態を踏まえた制度をつくっていくことが必要です。

◆ダルクの意義

[社会的意義]ダルクは当事者によって運営されるNGO(非政府組織)であり日本に於いて薬物依存を専門とした回復施設としてパイオニア的役割を担っていること、従来一般市民にはなじみの薄かった薬物という問題を出版物、フォーラム、マスメディアなどを通して身近な問題として啓発を行っていること、依存症者がその依存症者によって引き起こされるであろう社会的損失(医療費、裁判費用、受刑コスト、労働力の損失)を軽減していることなどがあげられる。特に注目すべきことは、ダルクのプログラムが単に薬物の使用を止めることを目標としておらず、人間性の回復を目指している点である。それによってアディクション(依存)の世代間連鎖を防ぐことによる社会的損失の防止として長期的にその効果が期待できるのである。この点に於いて、従来の管理型の強制弾薬を主とした医療や、懲罰による抑制効果の短期的効果とは大きく視点が異なっているといえる。

[医学的意義]としては、薬物依存の治療的共同体としての実験的試みとして、極めて古典的であったそれまでの薬物依存の治療概念を近代化させたこと、とくに薬物リハビリテーション概念への注目を高め薬物依存に対する精神医療の治療限界を提示すると同時に、回復支援という医療サポートのあり方を提示してきたこと、フォーラムなどの活動を通して薬物依存のみならずアディクション問題の情報拠点としての役割を担い、その活動を契機に地方にさまざまなアディクションからの回復を目指すセルフ・グループが誕生する原動力になってきたこと、相談窓口が開かれたことによって初期段階での医療が可能になったこと、日本ではほとんど注目されなかった回復者カウンセラーの社会資源としての価値を認知させてきたことなどがあげられる。

[司法的意義]としては2006 年監獄法が改正され、刑務所内での薬物依存離脱指導に於いて当事者が果たす役割に高い評価を与えている。薬物事犯の弁護士支援として裁判での情状証人として意見を述べたり、出所後にダルクが受け皿となることで再犯の防止を支援するケアプログラムとして機能している。また薬物依存症者が回復する事によって薬物の需要(売人)と供給(薬物使用)は減少するため、薬物問題の抑制とという役割を果たしている。

[福祉的意義]としては従来ほとんど未整備であった薬物依存者の社会復帰に寄与していること、行政機関の精神保健相談に於いて敬遠されてきた薬物問題について直接的な支援を行い相談機能を向上させてきたことなどがあげられる。また薬物問題の社会資源ネットワークが整備されていない現状に於いてダルクの持つ人脈と経験の蓄積へのニーズが高まっている。

[教育的意義]としては先述した学校における予防教育への寄与と、教員への講演活動を通した啓発があげられる。本来、予防機関ではないダルクに講演依頼が殺到すること自体がこれらの問題についての社会資源の貧困を象徴しているわけであるが、教育現場に薬物問題の新しい視点を持ち込んだことは、長期的視点から考えると教育会とダルクの双方にとって有益な事であると思われる。

◆ダルクの今後の課題

  1. 各施設の財政は多くの苦難を抱えていること。
  2. 入寮費の家族負担が大きいこと。
  3. 生活保護の需給者が65.2%がと高く、生活保護支給額も低レベルに抑えられており、ダルク・NA(自助グループ)の活動が公的に評価されていないこと。
  4. スタッフの養成は重要課題で、研修プログラムや体制・財政を含めて確立すべきである事。
  5. ダルクのもつネットワークは偏りが大きく、回復施設としての認知を関係機関に衆知し有効な連携を図ること。

 これらの問題以外にも、薬物依存の問題を持つ者に厳しい社会の「偏見」の払拭と、薬物依存にほかの精神障害を合併した重複障害ケースの対応、未成年者特に義務教育中の薬物依存症者への対応、薬物依存を抱える家族の回復支援体制の確立など様々な問題が累積されているのが現状である。
 これらに問題の中にはダルク自身の問題だけでは解決できないものも多く、さらに広い領域からの支援と知恵が必要であろう。依存症が精神保健福祉の対象になっているにもかかわらず薬物依存症を「病気」と認め障害者として対応する取り組みは、司法・医療・福祉いずれの場でも不十分です。アディクションの回復支援に携わる現場から見れば、さらに推し進めて従来の精神保健福祉の考えにとらわれることなく、回復モデルを主軸としたアディクション(病的依存)という枠から独立したものとしていく必要性を感じている。回復支援の最前線の現場に身を置くものと施政者の温度差は小さくないし、その差を埋めていくことは容易ではないだろう。それであっても毎日どこかのダルクにたどり着いてくる新しい仲間のために、回復の道を広げていく努力を少しずつ積み重ねていくしかないのである。その積み重ねによってさらに時代のニーズに近い医療・福祉が実現していくことを期待している。

新聞記事より

薬物依存 矯正施設より長期の治療を

 朝日新聞(2009年10月22日) 松元俊彦 国立精神神経センター精神保健研究室長
 国内の支援状況をみると民間の薬物依存症回復施設「ダルク」等が活動する一方、医療は遅れている。専門病院は10に満たない。薬物依存は犯罪だという医師側の偏見もいまだに根強い。薬物依存の再犯率が高いのは治療サービスを十分に提供できていない、国側の責任にもある。依存症治療は「貯金のできない治療」とも呼ばれ、継続的な治療が必要だ。数少ない専門病院に入院しても自宅から遠ければ、退院後の通院も難しい。だからこそ、治療を行う医療機関や専門家はもっと地域で身近な存在とならなければならない。

薬物使用 刑事的悪か公衆衛生的悪か

 朝日新聞(2009年11月5日) 佐藤哲彦 熊本大教授(社会学)
 9月下旬、ベルギーで開かれた欧州連合(EU)の委員会主催の薬物政策に関する研究学会に参加した。薬物政策という言葉は日本ではなじみがないが、薬物や薬物使用者の処遇に関する政策を意味し、国際的には刑事政策や保健医療政策にかかわる社会政策の一つである。欧州ではヨーロピアン・アプローチと呼ばれる独特の方法で薬物使用者を処遇している。その特徴の一つは、薬物使用は公衆衛生上の問題という認識である。米国や日本の薬物使用者に刑罰を加えるアプローチと異なり「薬物依存は病気である」という認識が政策の基礎にある。・・・薬物が悪いものであり、その使用が問題だということは論を待たない。しかし、それが刑事的悪なのか公衆衛生上の悪なのかといったことを私たちはもう少し真剣に考え議論してもいいかもしれない。薬物をやめられないことが問題なら必要なのは刑事処分ではなく、医療的処置であるとも考えられるからである。