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総合福祉部会 第12回 H23.2.15 資料7

第1期作業チーム報告(医療)

Ⅰ.はじめに

 本チームは、障害者の権利に関する条約を我が国が批准するにあたり、精神障害者の非自発的な入院や身体拘束が、「精神保健福祉法」、「医療観察法」等で法的に規定されていること等が、人権保護上問題があるのでは、という視点に立ち、障害者の医療に関連する現行法体系を廃止または抜本的に見直し、諸法の法改正、制度構築、財政措置の実施が法的に担保されるべく、検討を行った。

1 第1期(H22.10~12月)における検討事項

テーマ:障害者権利条約の考え方を踏まえながら、医療について、特に精神医療を中心に検討した。

(1) 議論に当たっては、以下を前提とした。

  • 障害者権利条約の考え方
  • 障がい者制度改革推進会議の第一次意見及びこれを踏まえた閣議決定
  • 障害者基本法の改正に向けた推進会議での議論
  • 総合福祉部会での議論

(2) 医療・合同作業チームでは、医療に関して、推進会議および総合福祉部会で、今後、以下のことを検討するうえで活用される論点整理を行っていく。

  • 障害者基本法改正
  • 総合福祉法の制定
  • 個別分野の制度改正

Ⅱ.医療・合同作業チームにおける結論

1 障害者基本法改正に関連して

障害者基本法に盛り込むべき内容として、以下の事項が確認した。

(1) いわゆる「社会的入院」を解消し、自立( 自律)した生活及び地域社会への包摂のための施策の根拠となる規定を設けること。

 「保護と収容」を優先するこれまでの我が国の障害者施策の結果生まれた「社会的入院」を解消するためには、閉鎖された空間から自立(自律)した生活への移行をサポートし、地域社会へ包摂するための施策を展開することが必要である。障害者基本法において、このような施策の根拠となる規定を設けるべきである。また、現時点で確保されている精神病床の削減を前提とした必要最小限の病床確保に向けた、国の責務としての施策の実施の根拠となる規定を設けるべきである。

(2) 医療保護入院に係る同意を含む「保護者制度」を解消するための根拠となる規定を設けること。

 精神障害者に関し、本人の自己決定権を尊重するとともに家族の負担を軽減するためには、医療保護入院に係る同意を含む「保護者制度」について、これを抜本的に見直し、例えば、司法機関や地方公共団体等の公的機関が責任を負う制度に改めることが必要である。障害者基本法に、このような趣旨とそのための施策の根拠となる規定を設けるべきである。

(3) 強制的な入院は人権保護の点から原則として認められないことを確認し、人権制約が行われる場合には、その実施が例外的に最大限の人権の保護を確保した上での適正手続を保障する規定を設けること。

 精神科病院への入院や施設への入所は、本人の自由な意思に基づいて行われることが原則であるべきではないか、これは、「自己決定権」という最も重要な基本的人権の一つである。したがって、強制的な入院は、原則として禁止し、やむを得ず措置入院が行われるような場合においては、この基本的人権の手続的な保障としての障害のない人との平等を基礎とした実効性のある「適正手続」が履行されなければならない。例えば、司法、行政等の第三者が当該措置を人権配慮の点から責任もって実施する等の本人の権利擁護のための仕組みが必要であり、障害者基本法に、障害者の自己決定権の理念と、適正手続保障の根拠となる規定を設けるべきである。また、このために精神保健福祉法、医療観察法等関連法体系の抜本的な見直しを国の責務として実施する根拠となる規定を設けるべきである。

(4) 精神医療の質の向上に努めることの根拠となる規定を設けること。

 精神医療の提供に当たっては、一般医療と同様、インフォームド・コンセントを得るという原則を徹底するとともに、身体拘束や閉鎖空間での処遇等の行動制限を極小化するべきである。このためには、非自発的入院を削減していくこと、入院ニーズを十分に精査したうえで必要最低限かつ適正な病床数まで精神病床を削減し、その上で、必要最小限の病床に対して、行動制限の極小化に見合った人員配置を行い、精神医療に充てる人員の標準を一般医療より少なく設定している現行の基準を改めることが必要である。また、病床削減に伴い、往診・外来受診を含む医療体制の強化と福祉サービスの強化による地域生活の支援体制を強化すべきである。さらに、急性期等の精神医療に携わる医師、看護師、コメディカル等の仕事の質を確保するための指針の整備等とともに、障害者基本法において、このような施策の根拠となる規定を設けるべきである。
 こうした施策を国の責務として実施すべく、法的、制度的、財政的な措置を国が実施する根拠となる規定を設けるべきである。

(5) 一般医療における問題点の解消に努めることの根拠となる規定を設けること

 一般医療においても適正手続きの保障がない状況で行動制限が行われている状況があり、医療提供に当たっての人権確保の必要性は精神医療にとどまらない。
 また、精神障害者が身体合併症治療のために一般医療を受ける必要が生じてもその円滑な提供がなされないことがあり、こうした事態の改善が必要である。障害を理由とする差別なしに必要な医療が自らの選択によって受けられることは、精神医療の範囲にとどまらず不可欠なことである。障害者基本法において、このような問題点を解消する施策の根拠となる規定を設けるべきである。

*上記の論点に係る障害者基本法の改正の検討は、同法の「障害者の福祉に関する基本的施策」の「医療等」に関する部分の条項改正のみならず、同法の「基本理念」に係る条項の改正をはじめとして同法の他の部分に関する議論にも、当然に及ぶ必要があると考える。

2-1 精神医療の法体系のあり方について

11/19会合において、座長メモ(下記の点線枠内参照)に基づき議論が行われたが、精神医療の法体系のあり方については、以下の1.、2.のように意見が分かれた。

  1. 精神医療は医療を受ける者本人の自発的意思に基づいて提供される(精神医療を一般医療と区別しない)ことを法体系の基本としたうえで、やむを得ず非自発的入院や行動制限が行われる場合における人権確保のための適正な手続を定める法律(適正手続法)を設けるべきという意見。
  2. 精神医療に関し、さらには精神障害者を支援する保健施策も含めて、自発的意思に基づくことを原則とし、非自発的入院や行動制限が行われる場合には人権確保のための適正な手続が必要なことは当然であるが、法体系としては、精神医療に特化した法律を存置させるべきという意見。

第2回合同作業チーム(H22.11.19)配布資料「座長」メモより

  • 精神障害者に必要な支援は、当然ながら医療に留まらず、 保健(入院とならないよう未然防止するための支援、退院直 後の支援等)と福祉(住居確保、所得保障、就労支援等)の サービスや支援が個々の障害者のニーズに則して相互に連 携して提供されなければならないのではないか。
  • 特に精神医療に関しては、医療と福祉が混在し制度上の問 題を多く含んでいる精神保健福祉法を人権的な視点も含め 抜本的に改正するか、又は新法の制定を検討する必要がある のではないか。

(※ たとえば、医療法等の一般的な医療法制、地域保健法等の保健法制、総合福祉法等の福祉法制に精神障害者に関する規定を取り込むことを法体系の基本とし、精神障害者固有の事情に基づく人権尊重、非自発的入院・隔離拘束の際に取るべき適正な手続、第三者機関によるチェック等の必要性を満たすために、上記の新法又は抜本改正した精神保健福祉法に規定を置くこととしてはどうか。)

2-2 精神病院における認知症患者の受け入れについて

精神病院における認知症患者の受け入れについては、以下の1.、2.のように意見が分かれた。

  1. 社会的入院の解消によって削減した精神病床を、認知症患者に転換することを認めるべきではない。そのことによって、再度社会的入院を助長する可能性がある。
  2. 精神科医は、認知症については、専門的観点から対応すべきである。認知症患者に積極的に関わっている民間精神病院は多い。従って、今後その対応について検討していきたい。

3 地域生活支援・地域移行に関する議論の整理

【社会的入院の解消】

  • 権利条約の批准に鑑み、国の重要施策として、精神科病床の削減と社会的入院の解消に取り組まなければならない。実施にあたっては、国が年次計画を示すとともに十分な財政措置を講じ、これを踏まえて、都道府県がロードマップを作成し、精神保健福祉セ ンター・保健所が積極的な役割を果たしつつ医療圏域毎に計画的に進める。
  • これと並行して、精神障害者の地域移行に不可欠である住居の確保と生活支援サービスの提供を行う地域生活の基盤づくりを、国の責任に基づき財政措置を伴って進める。
  • 都道府県による入院措置がなされた措置入院患者については、所管保健所が関与して個別に退院計画を立て、可能な限り早期に退院ができるよう図るものとする。この際、相談支援事業者等と連携を取り、退院後の地域生活を支援するための体制を確保することが必要。

【退院する人を地域で支える地域移行支援システムの構築】

  • 長期入院により施設外での生活が困難となっている人や、入退院を頻繁に繰り返す人は、社会生活のための集中的なトレーニングを必要としており、各個人の状況に応じた地域移行計画を用意しなければならない。多角的な社会適応訓練を含め、地域移行が円滑に進み地域生活が維持できるよう支援体制を構築する必要がある。その実施に当たっては、“医療モデル”として心身機能の損傷への治療や訓練に偏することなく、生活の実態に基づくニーズを基礎とする“社会モデル”に基づく生活支援ないし「福祉サービス」を重視し、精神障害者本人を中心にして、医療と福祉の連携したシステムを構築していくことが必要である。
  • 相談対応を含む生活支援を充実すること(たとえば、24時間つながる電話による相談を含む)は、特に退院後間もない精神障害者については、必要不可欠である。

【上記システムを構築するに当たり、従来の障壁の解消が必要】

○地域移行を妨げてきた理由

  1. 昭和63 年から施行された精神保健法に精神障害者社会復帰施設が盛り込まれたが、そのほとんどを民間に委ねた上、十分な財政支出が伴わなかったため、地域の受け皿として大きな広がりを見せていない。例えば、精神障害者生活訓練施設(援護寮)について見ると、施行後約20年経過した平成18 年度においても300か所(4,400人分)の整備に、また施行後15年を経過した居住サービス(グループホーム、ケアホーム)利用者は13432人(平成21年8月)、居宅介護(ホームヘルプ)サービス利用者は23856人(平成21年8月)にとどまる。
  2. 地域住民の反対運動等を含め国民の間に偏見が根強く残っており、社会資源の整備が進まず、退院後の住まいの確保が困難な現状がある。

○地域移行を推進し、病院→地域の道筋を作るには相当規模の予算が必要となり、人権の視点から財源(基盤整備)の確保が急務。

  1. 地域移行のための仕組みである地域移行支援に財政措置(ハード整備、人材確保、人材育成)を講じる。
  2. 自立訓練等の提供とともに、安心して駆け込み身をおける居場所としての機能も併せ持つシェルター(ドロップインセンター)を設ける。また、地域移行後の住居・生活の場の基盤整備と生活費用の確保が必要。

【地域移行を推進するには住居確保は最重要課題】

  • 長期入院を余儀なくされ、そのために住居を失うもしくは家族と疎遠になり、住む場がない人には、民間賃貸住宅の一定割合を公営住宅として借り上げるなどの仕組みが急務である。
  • グループホームも含め、多様な居住サービスの提供を、年次目標を提示しながら進めるべきである。
  • 医療費扶助、住宅扶助等の要件を緩和すれば、不安なく地域移行を進められる。その際、福祉事務所など公的機関は合理的配慮をもって円滑に支援を行うことが重要である。
  • 賃貸物件の公的保証人制度の確立と運用も重要である。

【地域移行に必要な生活支援】

  • 入院生活でパターン化された単調な生活リズムから、変化に富んだ地域の生活に順応するには、地域の中で相当の月日をかけた生活支援が必要となる。
  • 精神障害者が調子を崩したとき、家族との関係が一時的に悪化したとき等に、入院を防ぐあるいは再発予防のためのドロップインセンターが地域支援の拠点として必要である。
  • ドロップインセンターでは必要時にすぐに使えるレスパイトやショートステイサービスが用意されることが重要である。
  • 回復前期や調子を崩した時に気軽に利用できるさまざまな居場所の確保が地域で必要である。

【地域移行支援に必要な人材育成】

  • 地域生活移行を促進するには、人権擁護の重要性をよく理解した支援者人材が必要不可欠であり、集中的な人材育成を行うことが急務である。
  • たとえば、経験が入院患者のケアに限られている人材について、期間を定めて再教育を行い、訪問によるケアなど地域生活支援をになう人材として活用することなどが考えられる。
  • また、入院をせざるを得ない場合でも、必要最低限の入院治療後、早急に退院させ、地域において医療と福祉の連携による支援を講じていくことが基本となることを徹底させる。
  • 地域移行支援ならびに地域生活支援において、ピアサポートは重要な支援であるので、当事者同士がサポートしやすい環境を整備する必要がある。

【地域移行に必要な就学支援】

  • 在学中もしくは就職直後に発症し、青年期を入院等の治療で過ごさざるを得なかった人に、再就学を希望する人への支援の手だても必要である。
  • 若年発症で思春期に入院した人には、特に就学支援の手だてが必要である。

【地域移行に必要な就労支援】

  • 精神障害者の多くが将来働きたいと表明している。地域生活移行後の就労支援や合理的配慮は生活支援と同様、重要な位置を占める。就労を希望する精神障害者には、従来の福祉的就労に限らず企業や働く場での支援の強化が必要である。

【当事者の主体性の尊重】

  • 精神障害者本人の主体性を尊重することが何よりも重要である。
  • 十分な情報を提供されたうえで、当事者が自ら選べることが重要である。

Ⅱ.おわりに

 障害者総合福祉法の論点整理で、「多くの社会的入院を抱える精神科病棟や、入所施設からの大規模な地域移行を進めるためには、特別なプロジェクトは必要か」、との課題が投げかけられているが、まさに今後、プロジェクトを形成必要があるか否かについての議論が必要と考える。
 さらに、地域での生活、就労、地域医療など、総合福祉法において対応すべき事項が、数多くあるといえる。従って、社会移行を実現するためのシステムとして、住宅、あるいは生活訓練などの問題を示してきたが、これらの事項は総合福祉法で担保される必要があり、各作業部会において、精神障害者固有の問題についての議論が求められるところである。

 第2期においては、医療を中心に論点整理を行うこととなるが、地域医療の領域などでは、精神医療についても触れる必要がある。今後、その他に精神医療領域の問題についての議論の必要が生じた場合には、推 進会議(親会議)や総合福祉部会本体において議論するべきである。

付記

1月25日の部会での発言および委員から提出文書に示された主な意見

  • 精神病院の可視化、透明性が確保される医療改革を求める。一般市民の目から見て精神医療の内容が不明瞭で分かりにくい。入院患者にとって良い治療、重度化しない治療が行われるようモニタリングのシステム並びに相談支援の制度化が提案されているが、その仕組みがよりよく機能するよう、もう一歩踏み込んだ提案を望む。
  • 強制医療、強制入院は前提として犯罪であるという認識。すでにノルウェーでは精神保健法廃止に向かって議論が始まっている。これは政府の姿勢としてもその方向ということであり、決して精神保健法廃止が非現実的ということではない。
  • 非自発的入院については、障害があろうと他のものと平等な手続きを求めることが重要ではあるが、同時にその実態要件も議論する必要があり、刑法の緊急避難の法理が適用されるべきと考える。すなわちいかなる適正手続きも犯罪を正当化し得ないので違法性阻却の論理しかない。
  • 自立支援医療の負担問題については、自己負担分については0にすべきではないか。
     また自立支援医療を精神病院入院に使えるようにすべきか否かも医療合同作業チームで検討するよう求める。
  • 精神障害者、難病、身体障害者の地域移行によって医療保険から総合福祉法(仮称)への移行となるので、財源の変換が壁となっており、どう医療保険からの一定の基金拠出を求めるか、についても検討の必要がある。
  • 「座長」メモは、何も精神障害に関してだけではない。1期は、精神障害の医療について討議したことは承知しているが、2期にも「座長」メモで指摘するのか、工夫が必要、また周囲に対して理解を得る方策も必要である。