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総合福祉部会 第12回 H23.2.15 参考資料1 小澤委員提出資料

知的障害者等の意思決定支援制度化への提言

平成23年2月4日
NPO法人 東京都発達障害支援協会
理事長 柴田洋弥

 私たちは、東京都内において知的障害児者への支援を行う施設・事業所の団体です。
 現在、障がい者制度改革推進会議および同総合福祉部会で、障害者制度改革について審議されています。国連障害者権利条約に基づき、障害者を保護の対象から権利の主体へと変革するという基本的な方向性については、それを支持し、改革に期待します。
 しかし知的障害者等の意思決定支援については、現在示されている改革案においてきわめて不十分であると言わざるを得ません。
 ここに私たちの考え方を提言し、改革の中に位置づけられるよう要望します。

●知的障害者等と意思決定支援

○わが国の法律に「知的障害」についての定義はありませんが、一般に「知能指数が概ね70以下で、18歳以前に発症し、生活適応困難を伴う状態」とされています(アメリカにおける「精神遅滞」の定義に拠る)。「知的障害者」には、身体障害や自閉症等と知的障害を合併している人も含めます。19 歳以後に発症する場合は「高次脳機能障害」と呼ばれますが、支援の必要性についてはほぼ同じなので、それを含めて「知的障害者等」と言うことにします。

○どんなに最重度といわれる知的障害者等でも、その人なりの意思があります。また、わずかに表現された意思を尊重して支援することによって、その人はますます自信をもって、はっきりと表現するようになります。

○知的障害者等の当面の意思や行動がその人自身や周囲の人を傷つけてしまうような場合でも、支援者がその人と根気強く安心感に基づく信頼関係を築くことによって、その人も満足でき、周囲にも受け入れられるような新たな意思決定に至ります。

○このように、知的障害等の特徴は、社会生活に当たって「意思決定への支援」を必要とすることにあります。

●障害者権利条約における意思決定支援

○障害者権利条約第12 条は、次のように定めています(外務省仮訳)。

(1) 締約国は、障害者がすべての場所において法律の前に人として認められる権利を有することを再確認する。

(2) 締約国は、障害者が生活のあらゆる側面において他の者と平等に法的能力を享有することを認める。

(3) 締約国は、障害者がその法的能力の行使に当たって必要とする支援を利用することができるようにするための適当な措置をとる。

○「法的能力」の行使には「意思決定支援」の必要な場合があります。第1項は知的障害者等も意思決定の権利主体であること、第2項は生活のあらゆる側面においてその意思決定が尊重されるべきこと、第3項はその意思決定に当たって必要な支援が受けられるように支援の制度を構築することが国の責務であることを示しています。

○「生活のあらゆる側面」における意思決定には、「日常生活」における意思決定と、サービス利用や財産などの「非日常的な契約時」における意思決定を含んでいます。

●非日常的な契約時における意思決定支援

○個人の意思決定は、その時々の環境や人間関係との相互作用によって決まってくるのであり、その人に固定された「意思決定能力」というものはありません。成年後見制度は、本人の行為を一律に制限する制度であるため、行為の制限については最小限に限るべきであり、現在の制度は抜本的な見直しが必要です。ましてや、被後見人の公職選挙権を剥奪している現状は基本的人権の侵害であり、早期の改革を求めます。

○次に、支給決定やサービス利用計画作成・契約に当たって、本人と相談支援の専門員のみで構成される相談支援の仕組みでは、本人の意思決定支援が困難です。本人が信頼し本人のことを日常的によく理解している支援者(グループホーム・日中活動・訪問系事業・入所施設等の支援職員や家族)が、本人とともに参加して一緒に話し合う仕組みが必要です。第11 回総合福祉部会における「相談支援・支給決定作業チーム」報告はこの点を欠落していますので、再検討を求めます。

●日常生活における意思決定支援

○重要なのは、「何を食べ、何を着るか」というような身辺に関することから社会参加まで、日常生活において行う意思決定です。

○日常生活における意思決定支援を担っているのは、グループホーム・日中活動・訪問系事業・入所施設等の支援職員やともに暮らす家族です。自立生活を支援するための個別的な日常生活支援職員(パーソナルアシスタント)が制度化されれば特に大きな役割を担うこととなるでしょうが、それのみがこの支援を担うわけではありません。

○知的障害者等にとっては、この日常生活における意思決定支援こそが最も重要です。私たちはそれを「本人中心の支援」として究明してきました。特に、本人の意思と支援者の意思がお互いに影響を与えあうこと、安心と信頼に基づく相互関係の中から本人の新しい意思が生まれることを明らかにしてきました。

○措置制度の時代の知的障害者福祉法では、「指導・訓練」することが支援職員の役割とされてきました。障害者自立支援法では「入浴・排せつ・食事の介護」をすることが支援職員の役割とされています。しかし、今構築されようとしている新たな法制度において、知的障害者等に関しては「指導」でも「介護」でもなく、「意思決定支援」が支援職員の果たす役割として明確に位置づけられるべきです。

○しかし、障がい者制度改革推進会議第二次意見書においても、また第11回総合福祉部会相談支援・支給決定作業チームの報告書においても、知的障害者等へのこの「日常生活における意思決定支援」については、全く考慮されていません。私たちは、このことについて再検討を行うよう、強く求めます。

●知的障害者等の人的支援の重要性

○知的障害者等への意思決定支援は、金銭や補助具で代用することはできません(補助具については活用することはありますが、人的支援が前提です)。ここに、知的障害者等の支援サービス必要度の高い理由があります。障害者自立支援法により三障害の支援制度が統合されるとサービス利用者の約6割を知的障害者が占めている結果となった理由もここにありますし、今まで入所施設の利用率が高かった理由も、またグループホームというような特殊な制度を必要とする理由も、ここにあります。

○今後は、個別的な日常生活支援職員の制度化や、多くの支援を必要とする知的障害者等の生活可能なケアホームの制度化が必要です。またわが国の現状では、機能を明確化しつつ入所施設を今後も活用しなければならず、手薄な入所施設の支援職員配置を改革して利用者が地域の日中活動に参加できる体制を整えるとともに、地域生活の基盤を早急に整備して地域移行を推進すべきです。

以上、ここに提言します。

(東京都発達障害支援協会事務局)
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