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総合福祉部会 第2回 H22.5.18 資料5

障がい者制度改革推進会議総合福祉部会・資料

全国児童発達支援協議会
宮田広善

Ⅰ.障害児の現状と見直しの課題

1. 「障害児」は「子ども版障害者」である前に「(障害のある)子ども」

1) 「障害児」は子どもであり、障害児支援は育児支援を基盤とする発達支援である。
2) 「子どもの権利条約」にも明記されているように、障害児は「子ども」として育成される権利を保障された上に「障害」の部分への支援が提供されなければならない。
3) 児童福祉法(契約)と障害者自立支援法に分断されている障害児支援施策は「児童福祉法」に一元化されるべきである。

2. 「障害児」の定義/範囲について

「見えない障害」と言われる発達障害児の増加に伴って障害の「あ る・なし」の境界が不明確になるとともに、障害認定以前の「気に なる」段階からの支援が必要になってきている。支援の範囲を「育 児や発達に対する支援が必要な児」まで拡大し、アメリカの「発達 障害者援助と権利規定法*」に規定するように、障 害が予測される段階から育児や発達への支援ができ るよう法制度の整備を進める必要がある。

*「もしその子がサービスや支援が得られなければ、後に発達障 害の基準を満たす確率が高い場合は『発達障害』に含まれる.」

3. 自閉症等発達障害の増加

1)平成14 年度文部科学省実態調査によれば、「学習面や行動面で著しい困難を示す」と担任教師が回答した通常学級在籍児童生徒の割合は6.3%に上る。診療所を併設する障害児施設の診療所でも発達障害児の受診が急増している。
2)周辺児を含めれば人口の10%にも達し最大の「障害群」と考えられる発達障害児(者)に対して、早急に既存の通園施設等の利用を可能にし、加えて一般保育所における育児専門機能の充実や子育て支援施策の拡充などの新たな支援体制を構築しなければならない。

4. 障害の重複化の問題

1) 平成21 年2 月の肢体不自由児通園施設実態調査では、通園児のほとんどが知的障害重複例である。てんかんの合併は約32%、視覚・聴覚障害の合併は約24%に上る。知的障害児通園施設
や難聴幼児通園施設も同様で、重複障害例が増加している状況がある。
2) さまざまな障害に対応できるよう、障害種別に分かれた通園施設体系の見直しが必要である。

5. 障害の重度化の問題

1)摂食障害による経管栄養、頻回の痰の吸引などの「医療的ケア」だけでなく、導尿や気管切開、人工呼吸器装着などを必要とする「超重度障害児」が在宅移行後に通園施設等を利用している。
2)全国のNICU(新生児集中治療室)には多くの超重度障害児が長期入院しており、NICU の稼働率を低下させている。重症心身障害児施設への移床の前に、肢体不自由児通園施設など医療機能をもつ通園施設との連携体制が築ければ、安心して在宅生活に移行できるケースも少なくないと思われる。
3) しかし、医療型通園施設は全国121 か所しかなく設置状況の地域格差が著しい。今後、障害児リハビリテーション料の増額などの障害児医療費の優遇策も含めて、地方の医療機関でのリハビリテーション受け入れ増を図るとともに、「地域医療資源」としての医療型通園施設の増設も誘導する仕組みが必要である。
4) NICU をはじめとする医療機関から在宅への移行に際して、医療的側面だけでなく福祉的援助も含めた入念な調整が必要である。そのため、障害児に特化した相談支援事業の創設が必要である。
5) 重度障害児の在宅生活は親・家族の重い介護負担を前提に成り立っている。ヘルパーなどの福祉職が実施できる医療支援の範囲を拡大する法制度や研修体制の整備が緊急に必要である。

II.障害児通園施設・保育所の状況

1. 障害児通園施設と児童デイサービスの設置状況(施設の不足と地域格差)

1) 平成20 年10 月の調査では、知的障害児通園施設261 か所、肢体不自由児通園施設99 か所(肢体不自由児入所施設の通園部門を含めれば121 か所)、難聴幼児通園施設25 か所、児童デイサービス事業1,539 か所(うち就学前児対象のⅠ型は786 か所)であった。
2) 障害児通園施設は407 か所でほぼ人口30 万人に1 か所、児童デイサービス事業を加えても10万人に1 か所という状況であり、「軽度発達障害児」や「境界域知的障害」を含めれば10%に近い支援対象児に対応できる状況にはない。
3) 通園施設等の不足に加え、都道府県・市町村ごとに非常に大きな設置格差がある。平成20 年度に我々が実施した調査では、障害児通園施設の設置は首都圏、名古屋周辺、関西圏、福岡周辺に偏在している。その他の地域は、児童デイサービスに依存している状況がある。
4) 人口の少なくない地域での発達支援の要は児童デイサービス事業と考えられるが、運営基盤が脆弱で、専門性や収容能力にも限界がある。給付単価の引き上げに加えて、障害児通園施設との連携・協力などによって都道府県単位の重層的な発達支援システムの構築が必要である。

2. 一般保育所での障害児保育の増加

1) 平成6 年度に4,381 か所(6,373 人)であった一般保育所での障害児保育の実施件数は、平成18年度には7,130 か所(10,670 人)にまで増加しており、障害児支援の裾野の広がりがみられる。
障害児保育に算定されていない(診断されていない)発達障害児を考慮すれば、保育所等の地域機関が多くの障害児に対応していることが窺われる。
2) 一般保育所や幼稚園などへの障害児童の入園が増加するに伴って、保育所等から通園施設等への情報提供や技術支援の依頼が増加している。今後、専門機関から一般保育所等への支援や人材育成などによって新たな地域資源として育成することが必要である。通園施設等の支援機能の強化と保育所等へ専門技術を提供できる訪問型制度の創設が必要である。

III.障害児通園施設の課題

1. 障害種別で分けられており身近な地域で支援が受けにくい

1) 障害児通園施設は三種別(知的障害、肢体不自由、難聴)に分かれて運営されており、それぞれの専門性を培いながら発展してきた。しかし、障害種別に分かれているために、子どもの障害が違えば身近な地域で支援を受けることができず、遠方の施設への通園を余儀なくされたり、入所施設に入所せざるを得なくなる状況がある。
2) 一方、施設側としても入園対象児を限定されているために定員充足率が低下し、重度化や両親の就労等に伴う出席率の低下なども加わって、貴重な発達支援資源を有効に活用できていない状況もある。
3) このような状況を踏まえ、中央児童福祉審議会障害福祉部会は平成8 年3 月に「障害児通園施設の統合(一元化)」を意見具申している。

2. 定員外(入園未契約)の児を支援できる制度基盤が弱い

1) 現在の制度では、施設の利用には親の障害受容を前提として契約が結ばれることが必要である。 ゆえに、確定診断がついていない時期や親の障害理解が進んでいない時期には、発達支援ができ ない状況がある。
2) 診断されにくい障害(軽度発達障害等)の増加や「利用・契約制度」の導入に伴って、入園契約 をせず、リハビリテーションなどの医療的発達支援のみを希望する例が増加している。加えて、 障害がなくとも育児困難や育児不安に対して障害児施設の専門性を求められる場面も多い。
3) 定員外の相談や支援に対応できる制度は、平成15 年度に一般財源化された「障害児(者)地域 療育等支援事業(現在:障害児等療育支援事業)」のみであり、現在では財政状況等によって実 施されていない県も出てきている。入園契約がなくても柔軟に発達を支援できる制度を国庫事業 として復活させる必要がある。

3. 施設に通えない子どもは支援できない

1) 「障害が重度のため外出や通園ができない」「両親の就労のため通園できない」「通園施設等に通 園するには抵抗がある」などの理由によって施設への通園が困難な子どもが増えている。 2) 「障害への早期対応」「早期からの育児支援」という観点から、乳幼児健診などで障害と最初に 関わる保健センターや行動上の問題が初めて明らかになる保育所などに、通園施設等が巡回等の 方法によって支援できる制度が求められる。
3) 多くの発達障害児は集団の中で問題が出現する。ゆえに、治療や指導は集団の中で実施される必 要があり、保育所等の場で専門的な支援を希望する例も増加している。この点からも、通園施設 等から保育所等に出向いて発達を支援できる制度が必要である。

4. 都道府県ごとの「重層的支援体制」が構築されず同じ都道府県内でも地域格差が大きい

1) 通園施設等の地域格差については前述したが、同じ都道府県内でも人口が多く福祉に熱心な市町 と、人口過疎であったり福祉に熱心でなかったりする市町村では大きな格差が存在する。どんな 地域で生まれ育っても、またどんな障害があっても最低限の発達支援を受けられる体制を作るこ とは都道府県の重要な責務である。
2) どんな地域でも必要な発達支援が受けられるためには、市町村(一次圏域)、障害保健福祉圏域 (二次圏域)、都道府県(三次圏域)を分け、日々通園できる場と専門機関との役割分担を明確 にして、三次機関から巡回・訪問や職員研修等の方法で「専門性」を施設のない地域にも展開す る体制が考慮されねばならない。

5. 相談支援機能(家族・家庭支援機能・地域ネットワーク構築機能)が弱い

1) 子どもの地域での育ちを優先させながら必要なサービスを必要な時期に的確に提供していくに は、子どもの障害を的確に診断する診療機能だけでなく、対象児とその家族の支援ニーズを判断 して「個別支援計画」を作成し、必要なサービスを地域の資源も含めて確保し提供するケアマネ ジメント機能が必要になる。しかし、通園施設には相談支援担当職員の配置基準はなく、大半の 施設が対応できていない現状がある。
2) 障害児の支援は、地域生活支援のために「横の連携(地域ネットワーク)」を図ることが中心に なる成人期の支援と違い、発見から発達支援、学校への移行、思春期の問題解決など「縦の連携 (継続支援、移行支援)」も重要な課題である。障害児の育児支援と発達支援の要となる通園施設 等は、地域ネットワークを築き縦と横の連携を図る相談支援機能をもたねばならない。
3) 子どもの障害が判明した頃の親は動揺し、先の見えない不安感で一杯になる。また、通園施設等 から卒園し保育所や学校に移行する時にも不安は高まる。このような親の育児を支援し、継続し た生活支援につなげる相談支援機能が通園施設には乏しい。
4) 親の失業や離婚、育児不安、きょうだいの問題など家族への支援が必要なことが多い。子どもの 発達支援を有効なものにするためには、このような問題の解決が図られなければならない。この ためにも障害児に特化した相談支援事業が必要である。

IV.医療費・施設給付費の問題点

~「医療費・給付費」が「障害児(者)本人の要支援度」ではなく「施設」に準拠している~

1. 施設種別に準拠している給付体系の見直しが必要

従来では、施設への給付費が利用する子どもの支援の必要性に比例して決定されるのではなく、 施設種別に準拠して決定されてきた。たとえば、「重い知的障害と肢体不自由をもつ子ども」が「重 症心身障害児施設」に入所すれば「重症心身障害児」と呼ばれ、「肢体不自由児(入所)施設」に入 所すれば「重度知的障害を伴う肢体不自由児」と呼ばれる。同じ障害が入所する施設によって障害 名が変わる矛盾に加えて、同じサービスに対して施設給付費の差や入所可能年齢の差が生じる状況 は「滞留化・過齢化」の状態をもたす原因にもなっている。
今後、個々の障害児(者)の綿密な評価と要支援度の判定、個別支援計画の作成を義務化するな どして、給付額が個々の利用児(者)に合わせて設定される仕組みが必要である。そのためには、 障害者相談支援事業の活用とサービス利用計画の作成を義務化することも必要になる。

2. 医療型施設のみ算定できる「障害児(者)リハビリテーション料」の見直しが必要

 障害児に対するリハビリテーションは、「障害児(者)リハビリテーション料」(一部「脳血管疾 患等リハビリテーション料」)で算定されている。
 「障害児(者)リハビリテーション料」を算定できる医療機関は限定されており、児童福祉法第 43 条の3(肢体不自由児入所・通園施設)、同条の4(重症心身障害施設)、児童福祉法第7 条第6 項(国立療養所重症児病棟等)および外来患者の概ね8 割以上が障害児である医療機関のみである。
 障害児施設の地域偏在が著しい状況の中で、地方では、障害児へのリハビリテーション提供は中 小規模の医療機関に頼らざるを得ないが、「障害児(者)リハビリテーション料」の算定要件に合致 せず適正な医療費の算定ができない。
 医療費についても障害児(別表第十の二に該当する患者)であれば医療機関の規模や人員配置に よるランク付けから離れて算定できるよう、診療報酬請求の在り方を根本的に改正する必要がある。

V.平成 20 年度障害者保健福祉推進事業(障害者自立支援調査研究プロジェクト)

~「地域における障害児の重層的支援システムの構築と障害児通園施設の在り方に関する研究」~

1. 通園施設等の一元化

1) 三障害に分かれた障害児通園施設と児童デイサービスを統合、一元化して、少ない発 達支援資源の有効活用を図る。一元化された通園施設等の名称は、「気になる」段階か らの支援ができる施設として「障害」「通園」という語句を外して「児童発達支援センタ ー(定員20 人未満は『事業』)」とする。
2) 施設ごとに培われた「専門性」を普遍化するために、職員研修や職員交流、情報交換 などのシステムを国の責任で制度化する。
3) 障害児に対する医療機能の充実を図るために、診療所を併設する通園施設を「医療型児童発達 支援センター」とし、「医療費収入」を医師や療法士等の医療専門職の確保に充てる。

2. 通園施設等の支援機能の拡大(定員外・施設外への支援、学齢期支援)

1) 障害児の増加傾向に対応するため、施設定員を「一日利用定員」として利用の増加を図る。
2) 入園していない児、通園できない児などへの発達支援のために、定員外支援や訪問・巡回型支 援を可能とする新規事業を創設する(「障害児等療育支援事業の国庫事業化」もしくは「保育所 等訪問支援事業」の創設)。
3) 学齢期の障害児を対象にした放課後の発達支援のための事業として、障害児通園施設、児童デ イサービスともに「放課後等デイサービス事業」を実施できるようにする。この事業によって、 学齢期障害児のリハビリテーションやソーシャルスキルトレーニング等が実施できる。

3. 都道府県における重層的発達支援体制の構築

1) 都道府県によって発達支援資源には大きな格差がある。また、都道府県の中でも、市町村の姿 勢や人口密集度によって発達支援資源の設置状況は画一ではない。障害のある子ども達が、適切かつ専門的な発達支援を身近な地域で過不足なく受けられるようにするためには、都道府県-市町村が協働して「重層的発達支援体制」を構築することが必要である。以下に階層ごとに 要となる施設を考察すると、

①身近な地域で子どもの日々通う場所を提供する「保育所等の地域機関」。
②市町村域(一次圏域)で、より障害に特化して発達を支援し親・家族の日常的な相談に対応してい く「児童発達支援事業(=児童デ イサービス)」。
③障害保健福祉圏域(二次圏域)を対象にして、専門的発達支援機能をもち職員数や施設面で充実し た機能を有する「児童発達支援セ ンター(=障害児通園施設)」。
④都道府県全域(三次圏域)を射程に入れ医療的専門性をもち、障害保健福祉圏域の「児童発達 支援センター」を支援しつつコーディネート機能も有する「総合発達支援機関(=医療型障害 児施設である肢体不自由児施設、重症心身障害児施設など)」。

2) 上記のような重層的な発達支援体制を都道府県の責任で構築できる制度的、財源的基盤を構築 する必要がある。

4. 「気になる」「育てにくい」段階からの支援

1) 従来の障害児支援では、「障害の認定」を前提とした「利用契約」が必要であり、「障害が確定 する前」「親が障害を認めていない時期」には支援できなかった。
2) 今後の発達支援では、「育児に困った」「発達がちょっと気になる」などの時期から対応できる 柔軟な制度設計が必要である。

5. 障害児相談支援事業の創設

1) 家庭や保育所にいる「発達的に気になる子」の親の相談にのり、家庭状況も勘案しつつ医療機 関や児童発達支援センターへの来所につなぎ、発達支援のための「個別支援計画」作成を進め、 また学校等への移行支援も司る障害児に特化した相談支援事業の創設が必要である。
2) 児童発達支援センターには、障害児相談支援事業の受託を義務化し専任の職員(仮称・発達支 援専門員)を配置する必要がある。

6. 障害児支援の実施主体について

1) 障害児への発達支援の実施主体の市町村への移管が議論されている。児童福祉法に基づく発達支 援の実施主体が市町村になれば、最も身近な自治体による地域特性に応じたきめ細かな対応が行 われることが期待できる。加えて、“横の連続性(ネットワーク)”と“縦の連続性(児童から成人 へ)”の双方を確保するという観点からも、児童発達支援センター(事業)の実施主体が市町村で ある意味はある。
2) しかし、通園施設は市立を中心とした公立が多く、現在問題となっている「地域格差」は「市町 村の努力の差」であると言える。実施主体を市町村に移行することによって地域格差をさらに広 げる危険性がある。市町村による通園施設等の設置をはじめとする発達支援の努力を促す施策が 必要であるとともに、都道府県等による調整機能を継続する必要がある。
3) 実施主体が市町村になれば、設置市在住の子どもに偏った支援となり地域格差の拡大につながる 危険性がある。一方、他市の利用希望の把握が困難になり、施設利用定員に空きがあっても他市 在住児の利用につなげることが困難になる。この点についても、都道府県(児童相談所)の調整 機能や情報収集機能を残すことが重要である。

本意見書および資料における「障害」という用語の使用について :「障害」を「障がい」と記載する文書が増えているが、「しょうがい」という言 葉そのものの根本的見直しが必要であるという観点から、論点を曖昧にする 漢字のひらがなへの置き換えはせず、「障害」という用語をあえて使用した。