音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

第3 障害者制度改革の基本的方向と今後の進め方

第2の基本的考え方を踏まえ、障害者制度改革の基本的方向と今後 の進め方については次のとおりとする。

1 .全体的な当面の進め方

1)平成22 年内の進め方

  • 推進会議は、第一次意見を基に、障害者基本法の抜本改正を 始め、改革が必要な分野について個別に部会や作業チーム等を 設け、分野別課題の検討に着手する。
    また、推進会議は、改革の推進体制、モニタリング機関の在 り方、これまで議論していない事項を含め各分野において更に 検討すべき課題等の事項について引き続き議論を行い、平成22 年秋から年末を目途に、制度改革の重要方針に関する第二次意 見を取りまとめる。
  • 政府は、第一次意見を踏まえ、速やかに制度改革の基本的な 方向性を決定するとともに、第二次意見を踏まえ、制度改革の 重要方針を決定すべきである。

2)平成23 年以降の進め方

  • 政府は、制度改革の重要方針に基づき、障害者基本法の抜本 改正や制度改革の推進体制等に関する法律案を平成23 年の常会 に提出すべきである。
  • 推進会議は、改革集中期間※内において、改革が必要な分野の 制度・施策の在り方や次期障害者基本計画の在り方・方向性等 を具体化するため、部会・作業チーム等での議論を踏まえ、必 要に応じ政府に対する意見提出を行っていくこととする。
  • 上記の法律案が成立し、施行された後は、3の1)-2にお いて後述する、推進会議の機能を継承する審議会組織において、 検討すべき課題について引き続き議論を行い、必要に応じ政府 に対する意見提出等を行っていくべきである。

2.基礎的な課題における改革の方向性

1)地域で暮らす権利の保障とインクルーシブな社会の構築
国際障害者年以降、ノーマライゼーションの理念が日本にも紹 介され、地域福祉が進んできたことは事実であるが、社会一般と は異なる生活をしている障害者が依然として多く存在している。 障害に応じたきめ細やかな支援が必要であることはもちろんであ るが、それは、限りなく一般社会生活に近い形で提供されなけれ ばならず、一般の社会生活とは異なる生活形態を強いられ、社会 から分離・排除されてはならない。

※「改革集中期間」は、「障がい者制度改革推進本部の設置について」(平成21 年12 月8日閣議決定)に定める「障害者の制度に係る改革の集中期間」をいう。

こうした観点から、教育、福祉、医療等における制度設計に当 たっては、分離又は排除の傾向や地域間格差を限りなく取り除き、 誰もが有する地域で暮らす権利を実現するため、地域移行や地域 生活支援の充実を柱に据えた施策を展開していくことが求められ る。また、そのために必要な財源を確保し、財政上の措置を講ず るべきである。

2)障害のとらえ方
障害のとらえ方について世界保健機関(WHO)が提唱した国際障 害分類(ICIDH)が、環境との相互作用によるものとする国際生活 機能分類(ICF)に改められ、また、障害者権利条約では、社会モ デルを踏まえたとらえ方が示されている。
社会モデルは、障害という属性を有する人をありのままで受け 入れようとしない社会の有り様そのものを問うものである。 こうした障害のとらえ方は、障害者施策全般に及ばなければな らず、より根本的には国民全体の意識変革に結びつかなければ、 真の共生社会の実現には至らない。

3)障害の定義
障害のとらえ方は障害の定義に影響を及ぼし、障害の定義は障 害の種類、範囲、障害者の総数、障害者施策の内容や対象を画す るものとなる。
医学モデルによると障害の原因となる疾患や症状とその程度に よって障害が規定され、それをもとに障害者施策の内容や対象範 囲が限定されることになるが、社会モデルによると疾患や症状を 有する、あるいは有するものとみなされる人々が負うところの社 会的不利の種類やその程度に応じて障害が規定されることにな る。
また、障害の定義は障害者施策の入り口を画する機能を有する 疾患や症状の違いにかかわらずサービスを必要としている障害者 をあまねく含めることが重要である。
こうした観点から、国際的水準も踏まえ、障害者基本法やその 他の法制における諸定義は見直すことが求められる。

4)差別の定義
これまでの社会は、障害者に対する社会の異なる取扱は、個人 の障害に起因するものとして、平等な社会参加を困難にするもの であっても、これを差別であるとは認識してこなかった。しかし、 「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」 制定に向けて行われた千葉県の差別事例の募集や内閣府の調査に よっても、きわめて多くの差別事象が存在し、救済されることな く放置されている実態が明らかとなった。
こうした実態からすると、障害を理由とする差別の定義(合理 的配慮を提供しないことを含む。)を明らかにし、新たに策定さ れる障害者差別禁止法制に取り込むだけでなく、既存の法律に散 在する差別禁止条項にも障害に基づく差別禁止を盛り込むことが 求められる。

5)言語・コミュニケーションの保障
これまで、手話、点字、要約筆記、指点字等を含めた多様な言 語の選択やコミュニケーションの手段を保障することの重要性 及び必要性は省みられることが少なかったため、それらの明確な 定義を伴う法制度が求められる。

6)虐待のない社会づくり
障害者に対する虐待は、障害者の尊厳を著しく侵し、その自立 及び社会参加に深刻な影響を与えるものである。障害者の人権擁 護の観点から、障害者に対する虐待の防止、虐待を受けた障害者 に対する救済等を目的とする法制度の構築が求められる。

7)障害の表記
「障害」の表記については、「障害」のほか、「障がい」「障 碍」「しょうがい」等の様々な見解があることを踏まえ、障害者 の「者」にあたる部分の表記の在り方も含め、推進会議としては、 今後とも、学識経験者等の意見を聴取するとともに、国民各層に おける議論の動向を見守りつつ、それぞれの考え方を整理するな ど、引き続き審議を行う。

8)実態調査
障害者にかかわる制度設計は、障害者及びその家族の実態に基 づいて行うことが求められる。