第11回差別禁止部会(H23.12.9) 引馬知子専門協力員 提出資料 EUの公的施設及び公共交通機関の利用における差別禁止について  EUは、公共施設及び公共交通機関を、障害者及び移動に制限のある者が他のEU 市民と等しく利用し、移動と選択の自由及び非差別を享受できるよう、その権利と義務を定める取り組みを進めている。下記に、これに関わる近年の主なEU 法規とその概略をまとめる。加えて、今後採択を予定している主な法規及び、その他の関連法政策について触れることとする。*)  これらの法規は、「障害者」及び「移動に制限がある者」を、「身体的な障害(感覚あるいは運動、永久的または一時的を含む)、知的障害または損傷、またはその他に起因する障害、または加齢の結果、適切な配慮と対応が必要な状況にある者」と定義している。また各法規に規定がある「個別の支援」とは、障害のある個々人、及び移動に制限のある個々人のニーズに即して提供される支援(assistance)のことである。その内容は、部会が議論する合理的配慮義務に重なる部分があると考えられる。  なお、EU(EC)規則は、加盟国に対して直接効力を有し、すべての加盟国内法に優位する。 *)法規の概要を示す日本語表記は暫定的なものである。 【主なEU法規】 ○「バス及び長距離バスの旅客の権利、及びEC規則No2006/2004 の改正に関するEU規則No181/2011」(2011年2月16日採択、2013年3月1日施行) ―同規則は、障害者及び移動に制限のある者への非差別と支援義務をその規定に含む。 ―バス及び長距離バスの旅客に対するサービスは、全市民の利益となるものであり、従って、障害者及び移動に制限がある者も、その他市民と等しくバス及び長距離バスを利用する権利を有する。 ―障害者権利条約第9 条(施設及びサービスの利用可能性/アクセシビリティ)に即して、障害者及び移動に制限のある者がバス及び長距離バスによる移動の機会をその他の者と等しく得るために、旅の全過程おける非差別ルールと支援が確保されなくてはならない。 ―旅客会社、旅行会社、運転者は、障害者及び移動に制限のある者に対して、バス及び長距離バスによる移動のための予約、発券、乗車に関わる拒否をしてはならない(安全確保ができない場合等を除く)。また、これらに関する、追加の費用を求めてはならない。 ―障害者及び移動に制限のある者は、バスターミナルや乗車中に、「個別の支援」を受ける権利を有する(必要とする支援について36 時間以上前に申し出る等の条件がある。申し出がない場合にも、旅客会社や旅行会社等は、券の販売から乗車等に至る全ての場面において、合理的な努力のもとに必要とされる支援を行う)。 ―「個別の支援」は、ソーシャルインクルージョンの観点から、無料で提供されなければならない。 ―旅行会社は、欧州標準化システムに即した「アクセス条件」を確保しなければならない。「アクセスの条件」とは、乗り物、建築物、施設・設備等における障害者及び移動に制限のある者に対するアクセシビリティに関わる基準、ガイドライン、情報を指している。 ―旅客会社とターミナル管理組織は、障害者や移動に制限がある者を代表する団体の協力を得て、非差別の理念に基づいて、移送に関わるアクセシビリティと情報を、障害者や移動に制限がある者が利用できる形式で提供しなければならない。 ―ターミナル(旅客施設)の新たな建設や改築等においては、障害者及び移動に制限のある者のニーズを考慮し、「すべての人に配慮したデザイン・計画(“design for all”)」に従わなくてはならない。 ―加盟国は障害者及び移動に制限がある者の移動のアクセスを確保するために、既存のインフラを改善するとともに、適切な支援を提供するよう努力しなければならない。 ―障害者及び移動に制限のある者のニーズに応えるために、関係スタッフには適切な訓練や研修が提供されなければならない。これは各国の二種免許取得制度等やEU関連法規等とも相互関係を持って実施される。 ―障害者及び移動に制限がある者を代表する組織は、障害に関わる訓練や研修の内容について相談に応じ、またこれに関わるべきである。 ―加盟国は同規則の履行に責任を持つ、既存のまたは新しい機関(執行責任機関:NEB))を明らかにし、またこれを欧州委員会に報告する。 ―旅客は、同規則の違反に関わり、各々の国の法規に従って旅客会社、または「執行責任機関」に苦情を申し立てることができる。 ―加盟国は同規則の不履行に関わる罰則を制定し、履行に必要なあらゆる措置を講じるものとする。規定される罰則は、効果的で、均衡が取れ、抑止力がなければならない。 ―同規則は、附則1で障害者及び移動に制限がある者に対する「個別支援」について、附則2で、障害関連の訓練や研修について、その詳細を定める。 ○「海洋及び内陸水路の航行における旅客の権利、及び、EC規則No2006/2004の改正に関するEU規則No1177/2010」(2010年11月24日採択、2012年12月18日施行) ―海洋及び内陸水路の航行について、「バス及び長距離バスの旅客の権利に関するEU規則」上の、障害者及び移動に制限がある者に関わる規定と大凡同様の内容を定めている。 ○「鉄道旅客者の権利と義務に関するEC規則(1371/2007)」(2007年10月23日採択、2009年12月3日施行) ―鉄道旅客者を対象として、「バス及び長距離バスの旅客の権利に関するEU 規則」上の、障害者及び移動に制限がある者に関わる規定と大凡同様の内容を定めている。 ○「航空旅行における障害者及び移動に制限がある者の権利に関するEC 規則(1107/2006)」(2006 年7 月5 日採択、2008年7月20日施行) ―航空旅行について、「バス及び長距離バスの旅客の権利に関するEU 規則」上の、障害者及び移動に制限がある者に対する規定と大凡同様の内容を定めている。 【採択を予定している主なEU 法規】 ○「宗教及び信条、障害、年齢、性的指向に拠らない人の均等取り扱い原則の実施に関する指令案」(2008年欧州委員会提案、2009年欧州議会賛成・修正提案、閣僚理事会審議中) ―社会保障及び保健医療を含む社会保護、教育、住宅を含むモノやサービスへのアクセスに関わる均等待遇法(差別禁止法)である。公的施設及び公共交通機関の利用に関する差別禁止も含まれる。 ―差別の定義(合理的配慮の否定を差別として含む)、合理的配慮義務、ポジティブアクションの容認、立証責任とその分配を含む救済等について規定する。 ○「欧州アクセシビリティ法」(2012年中に欧州委員会が提案予定) ―「欧州アクセシビリティ法」では、「均等待遇指令案」(上記)が規定しない、アクセシビリティに特化した詳細事項について規定することを想定している。 【その他関連法政策】 ・EUではアクセシビリティ、個人の移動性(モビリティ)に関わる法規が30以上ある(差別禁止に限定されない)。 ・公共調達指令は、域内の公共調達の全過程において「すべての人に配慮したデザイン・計画(“design for all”)」の要件を課している。これは、公的施設、公共交通機関における非差別、アクセシビリティの促進に影響を与えている。 ・EUは欧州社会基金、欧州地域開発基金、結束基金を通じて、加盟各国がインフラ整備等を含む障害者のアクセシビリティを促進し、非差別を確保するよう、財政及び技術支援を行っている。また、その際のガイドラインやチェックリストを提示している。 ・EUと加盟国等は協力し合い、モノやサービスの標準化や規格化において障害者のアクセシビリティの確保に取り組んでいる。 ・「欧州障害戦略2010−2020」は、公的施設や公共交通機関等における非差別とアクセシビリティを促進するための、今後の具体的な法政策とアクションプランを示している。