差別禁止部会 第11回(H23.12.9) 資料3 委員提出資料 ○川内美彦委員 111209 差別禁止部会に臨むにあたっての問題意識 東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科 川内美彦 1:現状への認識 障害のある人が建築物や公共交通機関を利用する際に、何に対して差別的扱いだと感じているかを聞くと、手続き、移動経路、待ち時間等において他の利用客と異なる扱いを受ける、抑圧的な扱いを受ける、判断能力のある一人前の人間としての扱いを受けられない、問題点をどこに持ち込めばいいかわからない、といったことに集約される。 1-1:建築物に関して 1994 年のハートビル法以来、建築物のハード整備は、対象用途や規模の制限はあるものの、一定の成果を上げてきた。特に2002 年のハートビル法改正、2006 年のバリアフリー新法では、それまでの努力義務から一歩踏み出して、一定の建築物について整備が義務化された。しかしながら、これらの法律はハード整備を目的としており、そこでの利用を約束することを目的としていない。したがって、せっかく整備された建築物でも、そこで障害のある人に対する利用の拒否が起こった時、これらの法律には利用の拒否を禁止する規定、問題を処理する機能が備わっていない。 1-2:公共交通に関して 2000 年の交通バリアフリー法では、新築、大規模改修の際の整備の義務化が定められ、また駅におけるエレベーター、車いす対応トイレ、視覚障害者誘導用ブロックの整備の枠組みも整えられたために、それ以降の駅施設の整備には目を見張るものがある。 しかしながら、政府は障害のある人が公共交通機関を利用して移動することについて、権利ではないという見解を堅持しており、そのために利用の拒否、他者と異なる扱いがごく当たり前に行われている。 ●ハンドル式電動車いすの利用拒否、ノンステップバスへの車いすの乗車拒否。 ●予約・受付時に名前や年齢、障害名を聞かれたり、また、事故の責任を回避するための同意書を書かされたり、断ると乗車・利用の拒否がおこなわれる。 ●新幹線の車いす対応席はWEB 予約ができないシステムであり、駅のみどりの窓口に行くと1 時間待たされることはざらである。電話予約は可能だが多くの駅の電話番号は公表されていないためテレホンセンター経由での予約となるが、テレホンセンターのオペレーターがこのシステムを理解していないために、しばしばトラブルが起きている。 ●障害のある人に対して「安全」という名のもとでの利用拒否がしばしば行われているが、 何をもって「危険」「安全」の尺度としているかの根拠、理由が明示されることのないま まに一方的に電車やバス、飛行機の利用が拒否されている。 2:どう考えればいいかわからないこと 2-1:合理的配慮について 「合理的配慮」とは、法や基準に求めている整備を行っていたとしても対応できない個別ニーズに対応しようとする工夫である、と考えるならば、建築物や公共交通施設に大量に存在する既存不適格な施設で提供される「合理的配慮」は果たして「合理的配慮」と呼べるのか。 あるいは、何らかの理由で本来整備されるべき法や基準で求めるレベルが満たされていない施設における「配慮」を「合理的配慮」とみなすことができるか。 法や基準を満たしているというところに出発点を置けば、満たしていないものについてはそもそも「合理的配慮」の提供義務が生まれないことになる。 かといって不適格状態の施設であっても合理的配慮を認めれば、その不適格状態の固定化につながらないか。 2-2:境界領域の守備範囲について これまで小規模なビジネスにはバリアフリー新法は適用されてこなかった。しかし小規模な店舗にこそ代替が困難な利用ニーズがある場合がある。理髪店、歯科・耳鼻咽喉科などの医療機関、牛丼屋、喫茶店等である。これらは人的な支援あるいは簡単なハード整備で障害のある人にも利用可能となる可能性が高いが、これまでは法の網から漏れていることもあってほとんど何も対策が立てられてこなかった。こういった、これまでの法がカバーしていない領域をここでは仮に「非対象領域」と呼ぶことにするが、この非対象領域の利用確保をどの法律でカバーすべきなのか。 非対象領域として、料金の問題もある。新幹線の車いす対応席は指定席車両にあり、また自由席車両のドア幅は狭いために車いす使用者は実質的に指定席車両にしか乗れなくなっている。多くの宿泊施設では車いす対応室は広い面積が必要であるとの理由から、高い料金設定となっている。 3:考えるべきこと 1)障害のある人が建築物や公共交通において移動や利用をすることは社会参加するうえでの重要な「権利」であることを確認し、「福祉のまちづくり」という呼び名に表れている弱者救済的、あるいはほかのまちづくりとは異質のものという印象をなくしていく方向性を持った理念を軸にした法や制度を確立していく必要がある。 2)ハード整備を目的とするのではなく、可能な限り制約の少ない形での利用、移動ができるようにするという目標を実現するためのハード整備、人的支援、および合理的配慮という法や制度の理念を明らかにする必要がある。 3)事業者は利用者に対して、「安全」「危険」「利用の拒否」について客観的な根拠を示した上で説明する必要がある。 4)「安全」「危険」「利用の拒否」については、客観的で各社が共通に使用できる判断基準が定められる必要がある。 5)建築物においても公共交通においても、「利用の拒否」や「差別的扱い」についての紛争処理のシステムを構築する必要がある。 6)個別事例に対して、何をもって当事者にもっとも合理的な配慮とみなすか、過度な負担はどのように判断するのか、不服申し立てはどのように行うのか、これらを行う機関を具体的に考える必要がある。 7)非対象領域をも対象にできる法やシステムの構築が必要である。