第12回差別禁止部会(H24.1.27) 川島聡委員提出資料 第12回部会時点(2012年1月27日)での私見と試案 差別禁止部会委員 川島聡 *以下は第12回部会時点での私見(試案を含む)である。これまでの部会での議論等を踏まえ、以前の私見を変更した。今後の議論によって私見は勿論変更しうる。「第一章 総則」以外は白紙である。 第一章 総則 第一条 目的  この法律は、日本国憲法及び国連障害者の権利条約にのっとり、障害の有無にかかわらず、すべての者が人間の尊厳、自己決定、差異の尊重、社会参加及び機会平等を実質的にひとしく享受しうるように、何人に対しても障害を理由とする差別の禁止を保障し、もつて障害のある人もない人も共に暮らしやすい万人のための社会の形成に寄与することを目的とする。 (解説:尊厳・自己決定・社会参加・機会平等・差異の尊重は障害者権利条約の基本原則である。これを実質的にひとしく享受すべきであるとする実質的平等を目的に明示した) 第二条 定義  「障害者」とは、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。 (解説:障害者基本法に準じた「障害者」の定義を用いた。) 第三条 定義  「障害」とは、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害をいう。当該障害が日常生活又は社会生活に相当な制限を受けるものか否かは問わない。次に掲げる場合も、「障害」とみなす。 一 障害の経歴がある場合 二 障害が将来生ずる可能性がある場合 三 障害があると他者が誤認した場合 四 外貌に損傷がある場合 五 関係者に障害がある場合 (解説:障害者基本法の定義を基にしながら、諸国の経験や学説を踏まえ、言葉を少し加えた「障害」の定義にした。「障害」の定義は、基本的に「インペアメント」を意味する。学説の知見を踏まえると、「障害」の定義に「日常生活又は社会生活に相当な制限を受けるもの」という要件を含める必要はないので、このことを明記した。) 第四条 定義  「障害を理由とする差別」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。 一 不均等待遇 二 合理的配慮義務の不履行 (解説:障害差別の定義は、日本においては全く馴染みがないため、なるべく簡潔に分かりやすくするために、@不均等待遇、A合理的配慮義務の不履行の2類型にした。) 第五条 定義  「不均等待遇」とは、障害又は障害に起因する事由に基づく行為又は基準の存在又は適用が、障害者の平等な機会の享受を妨げ又は障害者に実質的不利を生じさせることをいう。ただし、その目的が正当であり、かつ、その目的を達成する手段が適切である場合は、この限りでない。 (解説:不均等待遇の定義は、次の4点を考慮に入れた。1)直接差別、間接差別、起因差別という英国平等法の3概念は相互に関連するので、また分かりやすさを重視して、この3概念をひとつにまとめる。2)差別を受けたことを証明するときに、比較対象の特定を不要とする。3)相手側に、「正当な目的の達成に相応な手段」による正当化の抗弁を認めることで、障害者の権利と相手側の義務とのバランスをはかる。4)英国平等法は、直接差別については正当化の抗弁を認めない。直接差別に対して正当化の抗弁を認めないという論点については、今後の検討課題であるが、第一一条の「指針」で、何らかの手立てをすることが考えられうる。) 第六条 定義  「合理的配慮義務」とは、障害者が平等な機会を享受することができるように又は実質的不利を受けないように、当該障害者の要求に応じて、現状を変更するための合理的措置(以下「合理的配慮」)を講じなければならないことをいう。ただし、過重な負担が生じる場合は、この限りでない。 2 合理的配慮は、次の三つの措置からなる。 一 障害又は障害に起因する事由に基づく行為又は基準の存在又は適用が、障害者の平等な機会の享受を妨げ又は障害者に実質的不利を生じさせる場合に、その存在又は適用を変更するための合理的措置 二 建物等の物理的形状が、障害者の平等な機会の享受を妨げ又は障害者に実質的不利を生じさせる場合に、当該形状を変更するための合理的措置 三 補助手段の不備により、障害者の平等な機会の享受を妨げ又は障害者に実質的不利を生じさせる場合に、当該手段を提供するための合理的措置 (解説:合理的配慮の定義について次の3点を考慮に入れた。1)相手側に「過重な負担」の抗弁を認めることで、障害者の権利と相手側の義務とのバランスをはかる。2)合理的配慮義務は、基本的に、障害者の求めに応じてなされる。ただし、障害者の要求がなくても合理的配慮義務が発生する、という「予測型」合理的配慮義務(英国平等法)も検討する余地がある(以下の第九条は「予測型」の趣旨を採用している)。3)合理的配慮の概念をわかりやすくするため、英国平等法にならい合理的措置が3つの次元から成ることを明記する。「一」は物事の決め方・やり方の変更、「二」は物理的環境の変更、「三」は個人への補助手段の提供である。) 第七条 差別の禁止  何人も、障害を理由とする差別を受けない。 第八条 ハラスメントの禁止  何人も、障害者の尊厳及び人格を害する侮蔑的、性的その他の言動をしてはならない。 (解説:この法律の下で禁止される行為にハラスメントを加えた。ハラスメントを差別の一形態にしてもよいが、異論が生じうるので、差別のカテゴリーには含めていない。) 第九条 積極的事前措置  障害者一般の平等な機会の享受を妨げ又は障害者一般に実質的不利を生じさせる現状をあらかじめ改善するために、○○○は次に掲げる合理的措置(以下「積極的事前措置」という。)を継続的に講じなければならない。ただし、過重な負担が生じる場合は、この限りでない。 一 障害又は障害に起因する事由に基づく行為又は基準の存在又は適用が、障害者一般の平等な機会の享受を妨げ又は障害者一般に実質的不利を生じさせる場合に、その存在又は適用を変更するための合理的措置 二 建物等の物理的形状が、障害者一般の平等な機会の享受を妨げ又は障害者一般に実質的不利を生じさせる場合に、当該形状を変更するための合理的措置 三 補助手段の不備により、障害者一般の平等な機会の享受を妨げ又は障害者一般に実質的不利を生じさせる場合に、当該手段を提供するための合理的措置 四 障害者の尊厳及び人格を害する侮蔑的、性的その他の言動を防止するための合理的措置 (解説:合理的配慮義務の実効性を確保するために、障害者個人ではなく、障害者一般の地位向上をめざす積極的事前措置を講ずる義務を定めた。積極的事前措置と合理的配慮とは内容面で重なる。「一」「二」「三」は合理的配慮の規定、「四」はハラスメントの規定である。積極的事前措置と、英国平等法の「予測型」合理的調整との違いは、差別概念との関係性である。英国平等法の「予測型」合理的調整は、差別概念と関係する。この点はなお検討を要する。) 第一〇条 啓発  国及び地方公共団体は、障害者の平等な機会等の確保について国民の関心と理解を深めるとともに、障害者の平等な機会等を妨げている諸要因の解消を図るため、必要な啓発活動を行うものとする。 第一一条 指針 ○○○は、障害者の平等な機会等に関する施策の基本となるべき方針(以下「機会平等指針」という。)を定めるものとする。 2 ○○○は、不均等待遇の禁止に関する規定の適切かつ有効な実施を図るために、第五条の規定における不均等待遇の内容(正当化の抗弁の内容を含む。)に関して必要な指針(以下「正当化抗弁指針」という。)を定めるものとする。 3 ○○○は、合理的配慮義務に関する規定の適切かつ有効な実施を図るために、第六条及び第九条の規定における合理的措置の内容(過重な負担の内容を含む。)に関して必要な指針(以下「合理的措置指針」という。)を定めるものとする。 第二章 雇用分野の差別禁止等 第三章 教育分野の差別禁止等 第四章 役務分野の差別禁止等 第五章 公務分野の差別禁止等 第六章 結社分野の差別禁止等 第七章 不動産分野の差別禁止等 第八章 交通分野の差別禁止等 第九章 紛争の解決 第一〇章 雑則 第一一章 罰則 (以上)