差別禁止部会 第19回(H24.5.25) 川島委員提出資料
第19回部会提出資料
差別禁止部会委員 川島聡
法案骨格私案(2012年5月25日版)
第一章 総則(第一条~第十一条)
第二章 差別禁止の義務(第十二条~第十九条)
第三章 障害者権利委員会(第二〇条)
第四章 紛争の解決(第二十一条~二十九条)
第五章 罰則(第三十条)
附則(略)
法案骨格私案(2012年5月25日版)について
これは、第18回部会(2012年5月11日)に提出した私案の改訂版である。
障害差別禁止法の基本構造とは、「AはBに対してCについてDをしてはならない」である。総則規定である第一章では、B(権利を持つ者)とD(障害差別)の部分を明確にする。すなわち第一章では「何人も障害差別を受けない」と定め、「障害」と「差別」の定義などを設ける。
第二章では、A(義務を負う者)とC(対象事項)の部分を具体的に定める。「労働」「教育」「役務」「医療」「福祉」「不動産」「結社」「公務・公益」「性と生殖」の分野ごとにAとCを明確にする。差別禁止法は、公務遂行者だけではなく、特に私人の社会・経済活動を規制する法律であるので、「Aが誰で」「Cが何か」を明確に特定する必要がある。
障害差別禁止法に定める権利を侵害された者に適切・迅速な救済をもたらし、法律違反をチェックできる仕組みとして、第三章では障害者権利委員会(仮称)、第四章では紛争解決手続を定める。
障害差別禁止法は、国民・住民にとって予測可能なものになるために、できる限り分かりやすい構造を持ち、なるべく平易な書きぶりで、上記のABCDを明確にする必要がある。また障害差別禁止法では、権利を持つ者と義務を負う者とのバランスを適正に図る必要がある。
権利者と義務者とのバランスを適正なものにするためには、4つの次元の障害者の不利、すなわち、①健常者集団と比べた障害者集団の構造的不利、②障害者諸小集団で異なる不利、③障害者諸個人で異なる不利、④障害と他の特徴の結合に応じて異なる不利、を議論の出発点に据える必要がある。
第一章 総則(第一条~第十一条)
第一条 目的 この法律は、日本国憲法及び国連障害者の権利条約にのっとり、障害の有無にかかわらず、すべての者が人間の尊厳、自己決定、社会参加及び機会平等を実質的にひとしく享受しうるように、何人に対しても障害を理由とする差別の禁止を保障し、もつて障害のある人もない人も共に暮らしやすい万人のための社会の形成に寄与することを目的とする。
説明:「人間の尊厳」「自己決定」「社会参加」「機会平等」という基本的価値は、障害者権利条約の基本原則である。この基本的価値の実質的な実現を、障害差別禁止法の目的に明示した。
差別禁止法の必要性と有用性という論点に関係するが、私人間の障害差別を含めた障害差別という社会問題に対して、日本国憲法や民法を含めた現行法だけでは十分に対応できないので、差別に特化した障害差別禁止法という法的規制が必要になる。また障害差別禁止法は、障害者権利条約の義務を日本が誠実に遵守するために、不可欠な法的措置であると言える。別の言い方をすれば、差別禁止法が成立することによって、日本は条約の義務を履行することができる。そして、日本が障害者権利条約の義務をよりよく履行しうるためには、この条約の基本原則(人間の尊厳、自己決定、社会参加、機会平等)を差別禁止法の目的の中に据えるのが妥当である。
一般に人権条約は、分析的に言えば、①尊重の義務、②保護の義務、③充足の義務という三つの次元の義務を国に課している。①「尊重」は国自らが人権侵害を行わない義務、②「保護」は国が私人間の人権侵害を規制・防止する義務、③「充足」は個人のニーズを充足し、人権実現を促進する義務である。障害者権利条約も、この三つの義務を国に課している。障害者権利条約に定める抽象的な無差別条項を具体化する国会制定法である。国は障害差別禁止法を制定し、私人間の差別を規制することで、保護の義務を果たすことになる。
諸国の差別禁止法は、「同様の者たちを異なって扱ってはならない」という原則のみならず、「異なる者たちを同様に扱ってはならない」という原則をも、差別概念の中に導入している。同様の扱いと異なる扱いのどちらが妥当かということは、なんらかの基本的価値に照らして判断せざるをえない。その基本的価値が「人間の尊厳」「自己決定」「社会参加」「機会平等」である。この基本的価値を、差別禁止法という法形式の下で、いかに実現できるか、実現すべきかが障害差別禁止法の一般的課題となる。このような問題意識を念頭に置いて、この法案骨格私案を作成した。
第二条 定義 「障害者」とは、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
説明:第二条では、障害者基本法に準じた「障害者」の定義を用いた。この法律では、障害者の定義よりも、障害の定義のほうが、重要な意味をもつ。「障害者に対して障害差別を禁止する」のではなく、「すべての人に対して障害差別をしてはならない」のが、この法律のめざすべきところだからである。
差別禁止法の対象範囲は、「障害者」ではなく、「障害差別を受けうるすべての人」にすべきである。一般に、障害又は障害者の定義は、法律の趣旨・目的に応じて異なる。障害差別禁止法の趣旨・目的に照らせば、「障害差別を受けうるすべての人」が法的保護を受けられるべきと考えるのが妥当である。このように考えれば、障害差別禁止法の総則規定の中では「障害」と「差別」の概念を明確にすることが重要である。
2 「障害」とは、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害をいう。
3 前項に規定する「心身の機能の障害」は、日常生活又は社会生活に相当な制限を受けるものか否かは問わない。ただし、一時的(継続期間が二週間未満のもの)又は些細な心身の機能の障害は、「障害」に含まないものとする。
4 第二項に規定する「障害」は、次に掲げる場合を含む。
一 障害の経歴がある場合
二 障害が将来生ずる可能性がある場合
三 障害があると他者が誤認した場合
四 外貌に顕著な特徴がある場合
五 関係者に障害がある場合
説明:第二条では、障害者基本法の定義を基にしながら、諸国の経験と学説を踏まえ、言葉を少し加えた「障害」の定義を設けた。「障害」の定義は、基本的に「インペアメント」(心身の機能の障害)を意味する。学説の知見を踏まえると、「障害」の定義に「日常生活又は社会生活に相当な制限を受けるもの」という要件を含める必要はないので、このことを第二条第3項で明記した。
そのほかに第二条に関して留意すべきこととして、4点ある。①「障害が将来生ずる可能性がある場合」(本条第4項2号)は、疾患の遺伝的素因ゆえに将来障害が生じうることを理由に、相手側が差別をすることを想定している。②「外貌に顕著な特徴がある場合」(本条第4項4号)とは、労働者災害補償保険法施行規則別表の障害等級表にある「外貌に著しい醜状を残すもの」を想定している。③「関係者に障害がある場合」(本条第4項5号)の「関係者」とは、親族(民法725条)、同居者、介助者、事業交流者、文化交流者を想定している。
障害の捉え方に関しては、いわゆる障害の社会モデルを採用すべきであり、障害の医学モデルを採用すべきではない。社会モデルの意義とは、「障害差別がどのように発生するのか」という問いに対して、医学モデルとは違った視点を提出することにある。医学モデルでは、インペアメント(標準とは異なる心身の医学的特徴)がなくなれば、差別の問題は解決される。したがって、医学モデルから見れば、差別禁止法はそれほど必要ないとさえいえる。
しかし社会モデルの視点では、問題の所在はインペアメントではなく、インペアメントに対する相手側の否定的なリアクション(すなわち、差別)にある。このように、インペアメントの問題ではなく、差別の問題を強調するのが、社会モデルの意義である。だから社会モデルから見れば、差別禁止法はとても重要な立法措置となる。なお、社会モデルを採用する場合に、法律上の言葉としては「インペアメント」と「障害」とを同じ概念だと考える必要がある。
繰り返すが、社会モデルの観点からは、「インペアメント(障害)とは何か」という問いは、それほど重要ではなく、「差別とは何か」という問いが重要となる。とはいえ、障害差別禁止法である以上、「障害差別」の概念を明確にする必要があるので、「インペアメント(障害)」の概念を特定する必要がある。その際、社会モデルの視点を徹底させれば、どんなインペアメント(障害)であっても、それに対する差別が発生していれば、差別の被害者は法的保護を受けるべきだという知見が導かれうる。言い換えれば、「障害の定義(インペアメントの定義)」をなるべく広くすべきだという知見である。
諸国の経験を踏まえて考えれば、第二条第3項・第4項のようなかたちで、障害の定義を広げてゆくことができるし、そうすべきである。
第三条 定義 「障害を理由とする差別」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。
一 不均等待遇
二 合理的配慮の義務の不履行
説明:差別の捉え方と禁止されるべき差別に関しては、「合理的配慮の義務の不履行」という差別形態のほかに、「直接差別」「関連差別(起因差別)」「間接差別」の三つの差別形態が知られている。
直接差別は、障害を直接理由とする障害差別である。関連差別と間接差別は、障害を直接理由としない障害差別である。この意味で、関連差別と間接差別とは機能的には同じである。障害を直接理由とする差別の場合と、障害を直接理由としない差別の場合とは、現実には密接に関係している場合があるので、直接差別・関連差別・間接差別の三つを包摂する差別類型を作ることは可能である。この包括的な差別類型を、第三条では「不均等待遇」と名付けた。特に、障害差別の定義は、日本においては全く馴染みがないため、なるべく簡潔に分かりやすくするために、この「不均等待遇」という差別類型と、もうひとつ合理的配慮の義務の不履行という二本立ての差別類型にした。
差別禁止は、同一扱いのことであると言われる場合もある。しかし、諸国の障害差別禁止法は、同一扱いを命ずるのみならず、別異扱いをも命じている。では、障害差別禁止法では、なぜ健常者と障害者との同一取扱を、法律が命ずるだけでは駄目なのか。なぜ視覚障害者と睛眼者とを同一に扱うと、なぜ視覚障害¥者が不利を被るのか。
従来、睛眼者が睛眼者のために定めたルールで、視覚障害者に不利をもたらすもの(たとえば、視覚を用いる情報伝達)については、その存在が許容されてきた。しかし、睛眼者が定めた既存のルールが変わらない限り、視覚障害者はそのルールの下で不利を被り続ける。つまり、構造的問題として、睛眼者中心のルールを視覚障害者に同一に適用しても、当然、視覚障害者の機会平等と社会参加等は実現しえない。もし、そのルールを変える「権力(パワー)」を視覚障害者が持ち、そのルールを視覚障害者のニーズに応じた内容に変えれば、今度は睛眼者が不利を被ることになろう。
圧倒的なマイノリティである視覚障害者が、睛眼者中心のルールを抜本的に変更しうる「権力(パワー)」を持つことは、現実には難しい。そのような「エンパワーメント」をめざす施策は必要である。しかし視覚障害者中心のルールは、現実的にみて当面実現しそうもない。したがって、睛眼者中心のルールの下で、視覚障害者の機会平等と社会参加等を実質的に保障するためには、そのルールに「例外」を設けるという意味での別異扱いが必要となる。それが合理的配慮である。
繰り返しになるが、現在の日本社会では、基本的に、睛眼者中心のルールはなかなか変えにくいので、そのルールの下で、視覚障害者は生きていかざるを得ない(それが良いと言っているわけではなく、現実的な状況認識である)。従来、睛眼者中心のルールに適合できる限りにおいて、視覚障害者の社会参加と機会平等は実現されてきた。そのルールに適合できない場合に、視覚障害者は社会から排除された。
したがって、なかなか変わらない睛眼者中心のルールに「例外」を設けることで、視覚障害者の社会参加を可能にさせる必要がある。ただ、ルールに「例外」を設けるという別異扱いは、劣等処遇に転化しやすい側面がある。そのため、別異扱いである合理的配慮は、基本的には、当事者の要求に応じて相手側が提供すべきものである。
睛眼者中心のルールは、当然、睛眼者に有利であり、視覚障害者に不利である。睛眼者は、歴史的に、ずっと自分たちに有利なルールの下で生活してきたのであり、そのルールの下で視覚障害者はずっと不利を被ってきた。しかも、そのような有利と不利とは、「当然」「自然」「当たり前」のことだと考えられてきた。ここに問題の所在がある。
今日では、そのような有利と不利は、「当然」のことではなく、社会的に構築されたもので、差別の問題(人権の問題)だと考えられている。睛眼者中心のルールは「自然」(当たり前)のことではなく、問い直されるべきものなのである。繰り返すが、睛眼者に有利なルールは、睛眼者が自分たちに有利になるように歴史的、社会的に構築してきたものである。そのルールは、「自然」でも「当然」でもない。
そうであれば、睛眼者中心のルールの下で視覚障害者に「不利」が生じることを、どのように考えるべきか。もし、「睛眼者中心の既存のルールを変えるわけにはいかないので、そのルールの下で視覚障害者は不利を被ってもらうしかない」ということになれば、そのルールの維持は視覚障害者の犠牲の上に成立していることになる。
そうした視覚障害者の犠牲は、当然匡正されなければならないだろう。その匡正の仕方は、各実定法の性格と趣旨に応じて考えてゆく必要がある。差別禁止法という枠内での匡正の仕方として主張されているのが、①関連差別の禁止であり、②間接差別の禁止であり、③合理的配慮、である。そして、①関連差別と②間接差別は、直接差別と結合させることができる(この3つを結合させた差別概念を、この意見書で私は不均等待遇と呼んでいる)。それゆえ差別類型は、「不均等待遇」と「合理的配慮」の二つになる。
繰り返すが、ルール自体を問題にする差別類型が①関連差別と②間接差別であることは知られているが、そのルール自体を変えることが難しいので、ルールに例外を設ける機能を果たす差別類型として合理的配慮が必要となるのであり、その必要性を障害者権利条約が認めたのである。
2 「不均等待遇」とは、障害又は障害に関連する事由に基づく行為又は基準が、障害者又は他の者に実質的な不利をもたらすことをいう。ただし、その目的が正当であり、かつ、その目的を達成する手段が相応である場合は、この限りでない。
説明:「不均等待遇」の定義は、次の5点を考慮に入れた。①直接差別、間接差別、関連差別(起因差別)という英国平等法の3概念すべてを、ひとつの概念(不均等待遇)にまとめる。②障害者が差別を受けたことを証明するときに、比較対象の特定が不要となるような書きぶりにする。③正当化事由との関係で、相手側に、「正当な目的の達成に相応な手段」による正当化の抗弁を認めることで、障害者の権利と相手側の義務とのバランスをはかる。④「障害又は障害に関連する事由に基づく行為又は基準」という表現を用いることで、直接差別、間接差別、関連差別の三つをカバーできるようにする。
なお、障害差別の概念は、X(障害自体を理由とする障害差別)とY(障害自体を理由としない障害差別)とに区別しうる。Xに該当するのが直接差別、Yに該当するのが間接差別と関連差別である。「障害に関連する事由」という文言は、関連差別と間接差別をカバーする。⑤正当化事由との関係で、英国平等法は、直接差別については正当化の抗弁を認めていないが、この論点については、今後の検討課題である。
3 第二項及び第七条一号に定める「基準」は、あらゆる規則、事物、制度、慣行、慣習、観念又は規定を含む。
説明:「障害又は障害に関連する事由に基づく行為又は基準」の中の「基準」の定義は、間接差別の概念を念頭に置いて、広い意味内容にした。
4 「合理的配慮の義務」とは、障害者又は他の者に実質的な不利をもたらさないように、その要求に応じて、現状を変更するための合理的措置(以下「合理的配慮」という。)を講じなければならないことをいう。ただし、過重な負担及び著しい困難が生じる場合は、この限りでない。
説明:第三条第4項の合理的配慮義務の定義については次の2点を考慮に入れた。①相手側に「過重な負担及び著しい困難」の抗弁を認めることで、障害者の権利と相手側の義務とのバランスをはかる。②合理的配慮義務は、基本的に、障害者の求めに応じてなされる。
正当化事由との関係で、「過重な負担及び著しい困難」とは何であるかを判断する際には、さまざまな個別領域(労働分野や教育分野等)の性格を考慮に入れる必要がある。また、差別の主観的要素との関係では、「障害の存在を知り得なかった状態」を含めることが考えられる。
5 前項に定める合理的配慮は、次の合理的措置からなる。
一 障害又は障害に関連する事由に基づく行為又は基準が、障害者又は他の者に実質的な不利をもたらす場合に、その要求に応じて、当該行為又は基準を変更するための合理的措置
二 建物等の物理的形状が、障害者又は他の者に実質的な不利をもたらす場合に、その要求に応じて、当該形状を変更するための合理的措置
三 補助手段の不備が、障害者又は他の者に実質的な不利をもたらす場合に、その要求に応じて、当該手段を提供するための合理的措置
説明:第三条第5項では、合理的配慮の概念を明確にするため、英国平等法にならい合理的措置が3つの次元から成ることを明記した。「一」は物事の決め方・やり方の変更、「二」は物理的形状の変更、「三」は個人への補助手段・補助サービスの提供である。合理的配慮は「二」の側面に限定される配慮であるような印象を持たれることもあるので、「一」「二」「三」を明示することで、合理的配慮の概念が明確になり、誤解が生じにくくなる。
6 前項第一号及び第三号に関し、情報について実質的な不利が生じる場合に講ずる合理的措置には、利用可能な形式及び様式によつて情報を保障する措置が含まれるものとする。
説明:前項の第一号(物事の決め方・やり方)及び第三号(補助手段の提供)には情報保障が当然含まれうる。このことを確実なものにするため、その旨の明文規定を第三条第6項に置くべきである(英国平等法もそのような規定を置いている)。情報保障は、合理的配慮の概念を経由して、教育・労働・役務を含むすべての分野に及ぶので、情報保障という個別分野を(教育分野や労働分野とは異なり)設ける必要はないと考えられる。
7 本条及び第七条に定める「不利」とは、次のいずれかの状態をいう。
一 人間の尊厳又は人格が害される状態
二 機会を平等に享受しえない状態
三 参加が妨げられる状態
四 自己決定が妨げられる状態
説明:「一」「二」「三」「四」は第一条の内容とリンクする。この私案では、差別禁止法の基本的性格を、「形式的平等志向」のものではなく、「基本的価値志向」のものとして構成している。ここでいう基本的価値とは、本条の「一」「二」「三」「四」である。
尊厳・人格、機会平等、社会参加、自己決定という基本的価値の観点から「不利」を捉えれば、「障害又は障害に関連する事柄を理由とする差別」(不均等待遇)は、当然、ある種のハラスメントの概念を含みうる。もし「障害又は障害に関連する事柄」を理由に障害者に侮辱的な行為を行えば、その障害者の尊厳と人格を深く傷つけることになる。そういった行為は、障害に基づいてなされる行為であるので、障害に基づく差別のひとつと解することができる。ちなみに、2000年のEU指令はハラスメントを差別のひとつとして定義している。
相手側は、障害者に対して、合理的配慮の内容に関して複数の選択肢をもちうる。
この点、障害者の自律の価値に照らせば、障害者の希望する合理的配慮が最大限可能な限り提供されるべきである。しかし、相手側は、障害者への嫌がらせとして、あえて障害者が望まない合理的配慮を選んで提供することも考えられうる。そのような嫌がらせを法的に禁止する必要がある。これが、ハラスメントを禁止する必要性のひとつである。
なお、障害を理由に不利を被った者は、他の者と比べて不利を被っていることになる(差別禁止法の基本的理解)。しかし、原告側が自分の不利を証明するときに、「他の者が誰であるか」を特定する必要はないと思われる。つまり、日本の障害差別禁止法では、証明段階において比較対象を特定するアプローチを採用すべきでない。そもそも、障害という概念は、多様性・普遍性・可変性という特徴があるので、比較対象の特定はかなり難しい(2010年英国平等法は、「結合差別」の文脈において、比較対象を特定するアプローチを採用していないことにも、留意すべきである)。
また、日本の障害差別禁止法は、区別解消(別異取扱禁止)アプローチだけを採用すべきでない。障害者権利条約は、区別解消アプローチの採用のみならず、区別設定アプローチをも締約国に求めている。区別設定アプローチは、同条約では合理的配慮の概念として具体化されている。
8 本条及び第七条に定める「実質的」とは、「軽微又は些細な程度」を超えた状態をいう。
説明:「実質的」の意味は、英国平等法の規定に沿ったものである。
第四条 結合差別 結合差別とは、次のいずれかに該当する行為をいう。
一 不均等待遇
二 合理的配慮の義務の不履行
2 第三条第二項に定める不均等待遇の定義は、前項第一号に定める不均等待遇の定義について準用する。この場合において、第三条第二項中「障害又は障害に関連する事由」とあるのは「障害と他の特徴(人種、信条、性別、社会的身分、門地、年齢、国籍を含む。)が結合した特徴又は当該特徴に関連する事由」と読み替えるものとする。
3 第三条第四項、第五項、第六項及び第七項に定める合理的配慮の定義は、本条第一項第二号に定める合理的配慮の定義について準用する。この場合において、第三条第五項中「障害又は障害に関連する事由」とあるのは「障害と他の特徴(人種、信条、性別、社会的身分、門地、年齢、国籍を含む。)が結合した特徴又は当該特徴に関連する事由」と読み替えるものとする。
4 障害のある女性については、第五条に規定するところによるものとする。
5 結合差別は、これを禁止する。
第五条 障害のある女性 障害のある女性に対する差別とは、次のいずれかに該当する行為をいう。
一 不均等待遇
二 合理的配慮の義務の不履行
2 第三条第二項に定める不均等待遇の定義は、前項第一号に定める不均等待遇の定義について準用する。この場合において、第三条第二項中「障害又は障害に関連する事由」とあるのは「障害と性別が結合した特徴又は当該特徴に関連する事由」と、「障害者又は他の者」とあるのは「障害のある女性」と読み替えるものとする。
3 第三条第四項、第五項、第六項及び第七項に定める合理的配慮の定義は、本条第一項第二号に定める合理的配慮の定義について準用する。この場合において、第三条第四項及び第五項中「障害者又は他の者」とあるのは「障害のある女性」と読み替えるものとし、第三条第五項中「障害又は障害に関連する事由」とあるのは「障害と性別が結合した特徴又は当該特徴に関連する事由」と読み替えるものとする。
4 障害のある女性に対する差別は、これを禁止する。
説明:障害のある女性に関する条文(第五条)は、浅倉、太田、川島の3委員の共同意見(第17回部会提出)の趣旨(障害女性のみを対象とする個別条文を設けるべきであること)を反映させたものである。以下、私見を記す。
第五条は「女性差別一般」を禁止するものではない。また第五条は、「障害女性」を「非障害女性」と比べて優遇することを意図するものではない。第五条は、障害差別禁止法の枠内において、「障害」と「女性」という両特徴を有することで生じる「障害女性に固有の差別」に対応することを主眼としている。
第四条(結合差別)と第五条(障害女性)の両方を設けたのは、複合差別全般に関する条文(第四条)が必要であると同時に、障害女性固有の条文(第五条)も必要であると考えたからである。その理由は、少なくとも五点ある。
第一に、障害女性の置かれた不利な立場は、上記の共同意見書が記すように、女性分野と障害分野の両方で見落されがちであり、その不利な立場に対応するためには、障害女性に固有の条文(障害女性差別の禁止規定)を設ける必要がある。まず、合理的配慮の例として、障害女性がトイレを使用するときに、女性の介助を要求することが考えられる。次に、不均等待遇の例として、障害女性が妊娠したときに、役務等を受ける条件として、中絶を要求されることが考えられる。これらの二つの例は、障害差別ではカバーできない。そのため、「障害女性差別」という「障害女性に固有の差別」(合理的配慮の否定を含む)を禁止して、救済を図る必要がある。
第二に、障害女性固有の条文を設けることは、次のような意味においても、効果的である。たとえば障害女性固有の条文があれば、法施策面や法運用面において、障害女性の差別解消が取り上げられる可能性が高まるし、また社会政治的な啓発的効果を持ちうるし、障害女性自身が障害差別禁止法にアクセスしやすくなりうる。
第三に、さまざまな複合差別の中でも、特に障害女性差別の問題状況は、かなり具体的かつ明確に、これまで認識され、指摘されてきた問題なので、複合差別の中から障害女性の部分だけを個別条文化することは可能であり、妥当である。今後、障害女性以外の複合差別の問題状況が、具体的かつ明確に認識され指摘されるようになれば、それも後の法改正によって個別条文化すべきである。
第四に、障害女性に特化した条文を作っても、第四条で複合差別全般を扱っているので、他の複合差別の問題を軽視していることには必ずしもならない。
第五に、予測可能性の観点から、障害差別禁止法の下で「障害女性差別」が禁止される、ということを(解釈の余地なく)一義的に特定するために、この法律において「障害女性差別」を禁止すると明記する必要がある。
第六条 差別の禁止 何人も、障害を理由とする差別を受けない。
説明:差別禁止法の基本構造は「AはBに対してCについて障害差別をしてはならない」である。Bは「すべての人」にすべきであるので、「何人も」という文言を用いた。しかし、Aは「すべての人」にするのは難しい。差別禁止法は、私人の社会・経済活動を規制する法律であるので、差別禁止法によって義務を課せられる者(A)の範囲、そして規制事項(C)を明確にする必要がある。Aの範囲は、第二章で分野ごとに明確に定める。すなわち第二章では、「Aは、Cについて、何人に対しても障害差別をしてはならない」と定めることになる。
第七条 秘密保持 障害者又は他の者は、この法律の第二章において障害を理由とする差別の禁止に関する義務を負う主体(以下、義務者という。)に対し、障害の存在又は性格を内密に扱うことを要求する権利を有する。
第八条 事前的改善義務 義務者は、障害者、障害のある女性又は他の者に実質的な不利をもたらす現状をあらかじめ改善するための合理的措置(以下、「事前的改善措置」という。)を継続的に講じなければならない。ただし、過重な負担及び著しい困難が生じる場合は、この限りでない。
2 前項に定める事前的改善措置は、次の合理的措置からなる。
一 障害若しくは障害に起因する事由又は障害と性別が結合した特徴若しくは当該特徴に関連する事由に基づく基準が実質的な不利をもたらす場合に、当該基準を変更するための合理的措置
二 建物等の物理的形状が実質的な不利をもたらす場合に、当該形状を変更するための合理的措置
三 補助手段の不備が実質的な不利をもたらす場合に、当該手段を提供するための合理的措置
3 前項第一号及び第三号に関し、情報について実質的な不利が生じる場合に講ずる合理的措置には、利用可能な形式及び様式によつて情報を保障する措置が含まれるものとする。
説明:合理的配慮義務の実効性を確保するために、障害者個人ではなく、一定の障害種別を念頭に置いて障害者一般の地位向上をめざす事前的改善義務も必要である。合理的配慮とは、各障害者が、個別具体の場面で必要に応じて、相手側に配慮を求めるものである。社会のルールを変えるのではなく、社会のルールに「例外」を個別具体の場面ごとに設けることを要求するのが、合理的配慮である。この「例外」は、なんらかのルールの下で、さまざまな心身の特徴をもつ多様な人びとの社会包摂を確保するためには、現実に必要となる。
ただ、合理的配慮を保障するだけでは、社会のルールの在り方(決め方)のより良い改善(インクルーシブなルールへの全面的変更)は、なかなか進まない。また相手側も、何の準備もしていない状況で、突然特定の配慮を求められても、その配慮を提供したくても提供することが困難な場合が生じうる。障害者の要求に沿った合理的配慮を相手側が行いうるためにも、事前的改善措置を相手側に義務づけることが有効となる。また相手側は、そのような事前の措置を講ずることで、中長期的にみて効率よく合理的配慮を提供できるようになると思われる。
そして、合理的配慮の三形態と同じく、事前的改善措置も三形態(本条第二項)をとるのが妥当である。日本の現行法は、実質的に、この事前的改善措置の内容を備えている場合がある。現行法とこの差別禁止法との調整が必要となる。
第九条 費用の負担 合理的配慮又は事前的改善措置を享受する障害者、障害のある女性又は他の者は、その費用を負担することはない。
第十条 啓発 国及び地方公共団体は、この法律の目的について国民の関心と理解を深めるとともに、当該目的を妨げている諸要因の解消を図るため、必要な啓発活動を行うものとする。
第十一条 財政措置 政府は、この法律の目的に資する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
第二章 差別禁止の義務(第十二条~第十九条)
第十二条 労働 事業主は、次に掲げる事項について、何人に対しても障害を理由とする差別をしてはならない。
一 募集、採用、配置、昇進、降格及び教育訓練
二 住宅資金の貸付その他これに準ずる福利厚生の措置
三 労働者の職種及び雇用形態の変更
四 退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新
五 雇用に関係する他の事項
2 本条に関して、第三条第二項及び第四条の但し書きに定める「正当な目的の達成に相応な手段」は、合理的配慮を尽くした上で次に掲げることに支障が生じたことを考慮して、これを解釈しなければならない。
一 障害者又は他の者が業務を適切に遂行すること
二 障害者又は他の者の生命及び身体を安全に保つこと
三 障害者が選択した意思表示の方法によって当該障害者の表示しようとする意思を確認すること
3 本条に関して、第三条第五項及び第七条に定める「過重な負担及び著しい困難」は、次のいずれかの状態をいう。
一 職務の本質を根本的に変更する状態
二 財政的に過重な負担を伴う状態
三 第三者に著しい損害を与える状態
四 障害の存在を知り得なかった状態
第十三条 教育 学校教育法に規定する学校及び学校設置者並びに学校教育法第一条に規定する学校以外の教育施設で学校教育に類する教育を行うもののうち当該教育を行うにつき同法以外の法律に特別の規定があるものは、次に掲げる事項について、何人に対しても障害を理由とする差別をしてはならない。
一 入学、卒業、転学、除籍、退学、復学
二 教育の提供
三 あらゆる役務、設備又は利益
四 処分
五 学校に関係する他の事項
2 本条に定める障害を理由とする差別には、障害者又はその保護者への意見聴取及び必要な説明を行わないで、就学させるべき学校を指定することが含まれる。
3 本条に関して、第三条第二項及び第四条の但し書きは、合理的配慮を尽くした上で次に掲げることに支障が生じたことを考慮して、これを解釈しなければならない。
一 重要な教育目的に不可欠な適性基準を確保すること
二 障害者又は他の者の生命及び身体を安全に保つこと
三 障害者が選択した意思表示の方法によって当該障害者の表示しようとする意思を確認すること
4 本条に関して、第三条第五項及び第七条に定める「過重な負担及び著しい困難」は、次のいずれかの状態をいう。
一 教育の本質を根本的に変更する状態
二 財政的に過重な負担を伴う状態
三 第三者に著しい損害を与える状態
四 障害の存在を知り得なかった状態
5 前項第二号に定める「財政的に過重な負担を伴う状態」は、義務教育諸学校(小学校、特別支援学校の小学部、中学校、中等教育学校の前期課程及び特別支援学校の中学部)に関しては適用されない。
第十四条 役務 次に掲げる者は、その事業、物品及び役務について、何人に対しても障害を理由とする差別をしてはならない。
一 消費者契約法に規定する事業者
二 特定商取引に関する法律に規定する販売業者又は役務提供事業者
三 金融商品取引法に規定する金融商品取引業を行う者
四 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に規定する風俗営業を営む者
五 旅館業法に規定する旅館業を営む者
六 弁護士法に規定する弁護士
七 公認会計士法に規定する公認会計士
八 税理士法に規定する税理士
九 司法書士法に規定する司法書士
十 行政書士法に規定する行政書士
十一 社会保険労務士法に規定する社会保険労務士
十二 弁理士法に規定する弁理士
十三 中小企業支援法に規定する中小企業の経営診断の業務に従事する者
十四 通関業法に規定する通関業者
十五 海事代理士法に規定する海事代理士
十六 職業能力開発促進法に規定する技能士
十七 貸金業法に規定する貸金業者
十八 保険業法に規定する保険会社等
2 本条に関して、第三条第二項及び第四条の但し書きは、合理的配慮を尽くした上で次に掲げることに支障が生じたことを考慮して、これを解釈しなければならない。
一 障害者及び他の者に提供する役務の質を適正に保つこと
二 障害者及び他の者の生命及び身体を安全に保つこと
三 障害者が選択した意思表示の方法によって当該障害者の表示しようとする意思を確認すること
3 本条に関して、第三条第五項及び第七条に定める「過重な負担及び著しい困難」は、次のいずれかの状態をいう。
一 役務の本質を根本的に変更する状態
二 財政的に過重な負担を伴う状態
三 第三者に著しい損害を与える状態
四 障害の存在を知り得なかった状態
第十五条 医療・福祉 医療分野において業として物品又は役務を提供する者(次に掲げる者を含む。)は、その事業、物品及び役務について、何人に対しても障害を理由とする差別をしてはならない。
一 医師法に規定する医師
二 医療法に規定する医療の担い手及び医療提供施設
三 健康保険法に規定する保険医及び保険薬剤師
四 歯科医師法に規定する歯科医師
五 保健師助産師看護師法に規定する保健師、助産師、看護師及び准看護士
六 薬剤師法に規定する薬剤師
七 薬事法に規定する薬局の管理者
八 歯科衛生士法に規定する歯科衛生士
九 歯科技工士法に規定する歯科技工士
十 理学療法士及び作業療法士法に規定する理学療法士及び作業療法士
十一 視能訓練士法に規定する視能訓練士
十二 臨床工学技士法に規定する臨床工学技士
十三 言語聴覚士法に規定する言語聴覚士
十四 義肢装具士法に規定する義肢装具士
十五 救急救命士法に規定する救急救命士
十六 柔道整復師法に規定する柔道整復師
十七 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に規定する国、地方公共団体、医療施設の設置者、社会適応訓練事業を行う者、精神保健福祉センター、地方精神保健福祉審議会、精神医療審査会、精神保健指定医、登録研修機関及び精神科病院
十八 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律に規定する保護者、指定医療機関、精神保健審判員及び裁判所
2 福祉分野において業として物品又は役務を提供する者(次に掲げる者を含む。)は、その事業、物品及び役務について、何人に対しても障害を理由とする差別をしてはならない。
一 社会福祉法に規定する社会福祉事業の運営主体及び社会福祉事業に従事する者
二 社会福祉士及び介護福祉士法に規定する社会福祉士及び介護福祉士
三 障害者自立支援法に規定する各事業者及び各従業者
四 障害者の雇用の促進等に関する法律に規定する障害者職業生活相談員
五 精神保健福祉士法に規定する精神保健福祉士
六 身体障害者福祉法に規定する身体障害者福祉司
七 知的障害者福祉法に規定する知的障害者福祉司
八 児童福祉法に規定する児童相談所の所長、児童福祉司及び保育士
九 介護保険法に規定する介護支援専門員、訪問介護員及び福祉用具専門相談員
十 老人福祉法に規定する老人居宅生活支援事業に従事する者
十一 社会教育法に規定する社会教育主事及び社会教育主事補並びに社会教育関係団体
十二 廃棄物の処理及び清掃に関する法律に規定する環境衛生指導員環境衛生監視員
十三 有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律に規定する家庭用品衛生監視員
十四 特定工場における公害防止組織の整備に関する法律に規定する特定事業者
十五 クリーニング業法に規定する営業者
十六 理容師法に規定する理容師
十七 美容師法に規定する美容師
十八 栄養士法に規定する栄養士
十九 調理師法に規定する調理師
二十 製菓衛生師法に規定する製菓衛生師
二十一 食品衛生法に規定する食品等事業者
二十二 浄化槽法に規定する浄化槽製造業者、浄化槽工事業者、浄化槽清掃業者、浄化槽設備士及び浄化槽管理士
二十三 職業安定法に定める公共職業安定所等
3 本条第1項及び第2項に規定する障害を理由とする差別には、障害者が希望しない長期間の入院による医療を受けることを当該障害者に強制することが含まれる。
4 第二章の下で義務を負う者は、性と生殖に関する事項(避妊、妊娠及び出産を含む。)について、何人に対しても障害を理由とする差別をしてはならない。
説明:本条第3項に関しては、そもそも、障害(又は障害に関連する事由)に基づく自由の剥奪(強制入院)が、人身の自由の侵害でありうると同時に、障害差別でありうることを確認する必要がある。障害差別禁止法の下でも、強制入院は障害差別に含まれうるものだと考えるべきである。ただ、この場合、現行法との関係が問題となる。
本条第4項は、浅倉、太田、川島の共同意見(第17回部会、第18回部会提出)の趣旨を反映している。
5 本条に関して、第三条第二項及び第四条の但し書きは、合理的配慮を尽くした上で次に掲げることに支障が生じたことを考慮して、これを解釈しなければならない。
一 障害者及び他の者に提供する役務の質を適正に保つこと
二 障害者及び他の者の生命及び身体を安全に保つこと
三 障害者が選択した意思表示の方法によって当該障害者の表示しようとする意思を確認すること
6 本条に関して、第三条第五項及び第七条に定める「過重な負担及び著しい困難」は、次のいずれかの状態をいう。
一 医療・福祉の本質を根本的に変更する状態
二 財政的に過重な負担を伴う状態
三 第三者に著しい損害を与える状態
四 障害の存在を知り得なかった状態
第十六条 不動産・交通 不動産分野において業として物品又は役務を提供する者(次に掲げる者を含む。)は、その事業、物品及び役務について、何人に対しても障害を理由とする差別をしてはならない。
一 宅地建物取引業法に規定する宅地建物取引業を営む者
二 建築基準法に規定する工事監理者、建築主、設計者及び工事施工者
三 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律に規定する施設設置管理者
四 建築物における衛生的環境の確保に関する法律に規定する特定建築物所有者等
五 建設業法に規定する建設業者
六 マンションの管理の適正化の推進に関する法律に規定するマンションの区分所有者等、管理者等、マンション管理士、マンション管理業者及び管理業務主任者
七 土地家屋調査士法に規定する土地家屋調査士
八 土地改良法に規定する土地改良事業に参加する資格を有する者
九 土地区画整理法に規定する施行者
十 建築士法に規定する建築士
十一 不動産の鑑定評価に関する法律に規定する不動産鑑定士
2 交通分野において業として物品又は役務を提供する者(次に掲げる者を含む。)は、その事業、物品及び役務について、何人に対しても障害を理由とする差別をしてはならない。
一 航空法に規定する航空従事者及び指定本邦航空運送事業者
二 船員法に定める船員及び職員
三 船舶安全法に規定する船舶所有者及び船長
四 船舶職員及び小型船舶操縦者法に定める船舶職員
五 海事代理士法に規定する海事代理士
六 道路運送法に規定する道路運送事業を経営する者
七 鉄道事業法に規定する鉄道事業者
八 海上運送法に規定する一般旅客定期航路事業者
九 路上駐車場管理者
3 本条に関して、第三条第二項及び第四条の但し書きは、合理的配慮を尽くした上で次に掲げることに支障が生じたことを考慮して、これを解釈しなければならない。
一 障害者及び他の者に提供する役務の質を適正に保つこと
二 障害者及び他の者の生命及び身体を安全に保つこと
三 障害者が選択した意思表示の方法によって当該障害者の表示しようとする意思を確認すること
四 建物の基本構造又は公共交通機関の車両、自動車、船舶及び航空機の基本構造を保つこと
4 本条に関して、第三条第五項及び第七条に定める「過重な負担及び著しい困難」は、次のいずれかの状態をいう。
一 不動産の本質を根本的に変更する状態
二 財政的に過重な負担を伴う状態
三 第三者に著しい損害を与える状態
四 障害の存在を知り得なかった状態
第十七条 公務・公益 あらゆる公務遂行者(次に掲げる者を含む。)は、その権限事項又は所掌事務について、何人に対しても障害を理由とする差別をしてはならない。
一 行政手続法及び行政不服審査法に規定する行政機関又は行政庁
二 裁判所法に規定する裁判官及び裁判官以外の裁判所の職員
三 公職選挙法に規定する中央選挙管理会、都道府県の選挙管理委員会及び市町村の選挙管理委員会
四 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律に規定する刑事施設の長、刑務官及び留置業務管理者
五 少年院法に規定する少年院の長及び職員
六 更生保護法に規定する保護観察所の長並びに保護観察官及び保護司
七 検察庁法に規定する検察官、検察事務官及び職員
八 地方自治法に規定する地方公共団体の長及び議会の議員
九 警察法に規定する国家公安委員会、内部部局、附属機関、職員及び都道府県公安委員会
十 国家公務員法に規定する国家公務員
十一 地方公務員法に規定する地方公務員
2 公益分野において業として物品又は役務を提供する者(次に掲げる者を含む。)は、その事業、物品及び役務について、何人に対しても障害を理由とする差別をしてはならない。
一 河川法に規定する河川管理者
二 水道法に規定する水道事業者及び水道用水供給事業者
三 下水道法に規定する公共下水道管理者
四 技術士法に規定する技術士及び技術士補
五 消防法に規定する消防長、消防署長その他の消防吏員
六 ガス事業法に規定するガス事業者
七 高圧ガス保安法に規定する販売業者等
八 液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律に規定する液化石油ガス販売事業者
九 電気事業法に規定する電気事業者
十 電気通信事業法に規定する電気通信事業者
十一 放送法に規定する放送事業者
十二 電波法に規定する無線局
十三 電気工事士法に規定する電気工事士
一四 公証人法に規定する公証人
十五 銀行法に規定する銀行
十六 郵便法に規定する郵便事業株式会社
3 本条に関して、第三条第二項及び第四条の但し書きは、合理的配慮を尽くした上で次に掲げることに支障が生じたことを考慮して、これを解釈しなければならない。
一 障害者及び他の者に提供する役務の質を適正に保つこと
二 障害者及び他の者の生命及び身体を安全に保つこと
三 障害者が選択した意思表示の方法によって当該障害者の表示しようとする意思を確認すること
4 本条に関して、第三条第五項及び第七条に定める「過重な負担及び著しい困難」は、次のいずれかの状態をいう。
一 公務の本質を根本的に変更する状態
二 権限の範囲を超える状態
三 第三者に著しい損害を与える状態
四 障害の存在を知り得なかった状態
説明:公務は広く捉えている。なお、ADAの第II編は、公的主体(public entities)が提供する役務・計画・活動への障害者の平等なアクセスを保障している。公的主体は、すべての州政府・地方政府、そのすべての部局・機関、そのすべての活動・役務・計画(議会、裁判所、警察、消防署、雇用など)を含む。連邦政府には、1973年のリハビリテーション法の501条と504条が適用される。
第十八条 結社 法人でない社団又は財団は、その構成員の総数が○○人以上の場合には、次に掲げる事項について、その構成員に対して障害を理由とする差別をしてはならない。
一 加入、脱退、会員資格、財産及び業務執行事項
二 団体に関係する他の事項
2 本条に関して、第三条第二項及び第四条の但し書きは、合理的配慮を尽くした上で次に掲げることに支障が生じたことを考慮して、これを解釈しなければならない。
一 結社の本質的な性格を適正に保つこと
二 障害者又は他の者の生命及び身体を安全に保つこと
三 障害者が選択した意思表示の方法によって当該障害者の表示しようとする意思を確認すること
3 本条に関して、第三条第五項及び第七条に定める「過重な負担及び著しい困難」は、次のいずれかの状態をいう。
一 結社の本質を根本的に変更する状態
二 財政的に過重な負担を伴う状態
三 第三者に著しい損害を与える状態
四 障害の存在を知り得なかった状態
第十九条 資格制度
説明:現行法の欠格条項に関する規定を設ける必要がある。
第三章 障害者権利委員会(第二十条)
第二十条 委員会の設置 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第三項の規定に基づいて、第一条の目的を達成することを任務とする障害者権利委員会(仮称)を置く。
2 障害者権利委員会は、内閣総理大臣の所轄に属する。
3 障害者権利委員会は、第一項の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。
一 差別禁止義務の履行状況の監視
二 事前的改善義務の履行状況の監視
三 紛争の解決
四 前各号に関する必要な調査研究、相談、指導、助言及び啓発活動
五 前各号に掲げるもののほか、法律(法律に基づく命令を含む。)に基づき、障害者権利委員会に属させられた事務
4 障害者権利委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行う。
5 障害者権利委員会は、委員長及び委員○○人を以て、これを組織する。
一 委員長及び委員は、障害者の委員が過半数を占めるものとする。
二 委員長及び委員会は、法律又は障害に関する学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が、両議院の同意を得て、これを任命する。
三 委員長の任免は、天皇が、これを認証する。
四 委員長及び委員は、これを官吏とする。
6 委員長及び委員の任期は、○年とする。但し、補欠の委員長及び委員の任期は、前任者の残任期間とする。
7 委員長及び委員は、再任されることができる。
8 委員長及び委員は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、在任中、その意に反して罷免されることがない。
一 破産手続開始の決定を受けた場合
二 懲戒免官の処分を受けた場合
三 禁錮以上の刑に処せられた場合
9 障害者権利委員会は、その職務を行うために必要があるときは、次に掲げることをすることができる。
一 関係行政機関の長に対し、資料の提供その他必要な協力を求めること。
二 都道府県知事から必要な調査報告を求めること。
三 公聴会を開いて一般の意見を求めること。
説明:第三章では、形式的な書きぶりは公正取引委員会の規定を参考にして、実質的には、差別禁止に関する状況監視・紛争解決・調査研究・相談・指導・助言・啓発活動を任務とする障害者権利委員会の設置を定めている。
なお、障害者虐待防止法第六章に定める市町村障害者虐待防止センター及び都道府県障害者権利擁護センターを活用したり、雇用分野の現行制度を活用したりすることなども考えらうるが、まだ私自身の考えが現時点では整理できていない。
第四章 紛争の解決(第二十一条~二十九条)
第二十一条 苦情の自主的解決 第二章の下で義務を負う者(以下「義務者」という。)は、障害を理由とする差別に関する苦情の申出を受けたときは、障害者権利委員会に対し当該苦情の処理をゆだねる等その自主的な解決を図るように努めなければならない。
第二十二条 紛争の解決の援助 障害者権利委員会は、第二章に定める事項についての障害者又は他の者と義務者との間の紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
2 義務者は、障害者又は他の者が前項の援助を求めたことを理由として、当該障害者又は他の者に対して不利益な取扱いをしてはならない。
第二十三条 調停の委任 障害者権利委員会は、第二十条に規定する紛争について、当該紛争の当事者(以下「関係当事者」という。)の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、調停委員に調停を行わせるものとする。
第二十四条 調停 前条の規定に基づく調停(以下、「調停」という。)は、三人の調停委員が行う。
2 調停委員は、障害者権利委員会の委員のうちから、委員長があらかじめ指名する。
3 調停委員は、調停のため必要があると認めるときは、関係当事者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。
4 調停委員は、紛争に係る調停のために必要があると認め、かつ、関係当事者の双方の同意があるときは、関係当事者及び○○○で定める他の関係者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。
5 調停委員は、関係当事者からの申立てに基づき必要があると認めるときは、○○○に定める者から当該事件につき意見を聴くものとする。
6 調停委員は、調停案を作成し、関係当事者に対しその受諾を勧告することができる。
7 調停委員は、調停に係る紛争について調停による解決の見込みがないと認めるときは、調停を打ち切ることができる。
8 調停委員は、前項の規定により調停を打ち切つたときは、その旨を関係当事者に通知しなければならない。
第二十五条 訴訟手続の中止 第二十二条に規定する紛争のうち民事上の紛争であるものについて関係当事者間に訴訟が係属する場合において、次の各号のいずれかに掲げる事由があり、かつ、関係当事者の共同の申立てがあるときは、受訴裁判所は、四月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する旨の決定をすることができる。
一 当該紛争について、関係当事者間において調停が実施されていること。
二 前号に規定する場合のほか、関係当事者間に調停によつて当該紛争の解決を図る旨の合意があること。
2 受訴裁判所は、いつでも前項の決定を取り消すことができる。
3 第一項の申立てを却下する決定及び前項の規定により第一項の決定を取り消す決定に対しては、不服を申し立てることができない。
第二十六条 資料提供の要求等 障害者権利委員会は、調停委員に係属している事件の解決のために必要があると認めるときは、関係行政庁に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができる。
第二十七条 勧告等 障害者権利委員会は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、義務者に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
第二十八条 公表 障害者権利委員会は、第二章の規定に違反している義務者に対し、前条の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。
第二十九条 委任 本章に定めるもののほか、調停の手続に関し必要な事項は、○○○で定める。
説明:第四章では、形式的な書きぶりは男女雇用機会均等法の規定を参考にして、実質的には、障害者権利委員会と調停委員会による紛争解決を定める。
第五章 罰則(第三十条)
第三十条 過料 第二十四条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。
附則(略)
(以上)
法案骨格私案(2012年5月25日版):条文見出し一覧
第一章 総則(第一条~第十一条)
第一条 目的
第二条 定義
第三条 定義
第四条 結合差別
第五条 障害のある女性
第六条 差別の禁止
第七条 秘密保持
第八条 事前的改善措置
第九条 費用の負担
第十条 啓発
第十一条 財政措置
第二章 差別禁止の義務(第十二条~第十八条)
第十二条 労働
第十三条 教育
第十四条 役務
第十五条 医療・福祉
第十六条 不動産・交通
第十七条 公務・公益
第十八条 結社
第十九条 資格制度
第三章 障害者権利委員会(第二十条)
第二十条 委員会の設置
第四章 紛争の解決(第二十一条~二十九条)
第二十一条 苦情の自主的解決
第二十二条 紛争の解決の援助
第二十三条 調停の委任
第二十四条 調停
第二十五条 訴訟手続の中止
第二十六条 資料提供の要求等
第二十七条 勧告等
第二十八条 公表
第二十九条 委任
第五章 罰則(第三十条)
第三十条 過料