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差別禁止部会
第4回(H23.5.13) 資料2

韓国の障害者差別禁止法制

崔栄繁氏資料

韓国の「障害者差別禁止法」と救済のしくみ

2011年5月13日

DPI日本会議 崔 栄繁

1.本報告の趣旨等

  • 包括的に障害者への差別を禁止する法制度として、「障害者差別禁止及び権利救済に関する法律」(以下、障害者差別禁止法)、と差別禁止法の救済制度の報告。

2.韓国の障害者の概要、関係法制度

①障害者の数

  • 障害者福祉法による登録障害者数は2,429,547名(全人口の約5%)で、1級から3級までの重度障害者数は1,012,000名(2009年度)
  • 障害者福祉法は,15の障害に類別し,軽重による等級を設け,障害者登録する登録制度を規定。顔面障害が含まれるなど,日本より若干広い定義

②障害者に関係する法制度

○ 包括的なもの:障害者差別禁止法、国家人権委員会法

○ 個別分野

  • 「障害者等に対する特殊教育法」(2007年制定←1977年「特殊教育振興法」):
    障害児の教育権と普通学校での統合教育を受ける権利を保障し、必要な配慮の内容について規定
  • 「障害者福祉法」(1990年制定←1981年「心身障害者福祉法)
  • 「障害者雇用促進及び職業リハビリテーション法」(1990年制定)
  • 「障害者・高齢者・妊婦等の便宜増進保障に関する法律」((1997年制定):
    公共の建造物や情報のバリアフリー施策の推進について規定
  • 「交通弱者移動便宜増進法」(2005年制定):
    公共交通機関や道路のバリアフリー施策の推進について規定
  • 「障害者企業活動促進法」(2005年制定):
    政府省庁や公共機関において障害者企業の製品の購買計画目標を規定
  • 「社会的企業促進法」(2007年制定)

3.障害者差別禁止法

(1)制定の経緯

①障害者団体による大規模な法制定運動の展開

(ア)問題提起の時期(~2002)

(イ)「障害者差別禁止法制定推進連帯(障推連)」の結成(2003)

  • 2003年4月に58団体により結成。大同団結。

(ウ)法案作りの時期(2003~4)

○ 政府側の動き

  • 保健福祉省(当時)の政府案原案が発表。
  • 国家人権委員会の「社会的差別禁止法」案の作成。

○ 障推連の草案作り

  • 2003年11月から2004年4月までの6ヶ月間、チーム別に草案作り
  • 大規模討論会(ソウル)や地方巡回公聴会(2004年5月~9月)
  • 障推連差別禁止法案完成(同年11月)
    (全104条に3つの付則。(a)国家人権委員会から独立した障害者差別禁止委員会の設置,(b)実効的な権利救済手段としての是正命令、(c)立証責任の転換、(d)懲罰的賠償制度導入、の4つの主要獲得目標を設定。(a)と(b)に関しては、是正命令権のない国家人権委員会の実効性に疑問を持っていたため。)

(エ)立法運動(2005~6年)

  • 障推連案が国会へ=民主労働党が発議した法案は実質的に障推連案

(オ)法制定活動(2006~7)

  • 障害者差別禁止法民官共同企画団
    2006年5月、大統領諮問貧富格差是正委員会が民官共同で差別禁止法の作成をする旨の提案。政府12関係省庁と障推連で構成。企画団会議が7回、小委員会が5回開催。議論のベースが障推連案。
  • 財界の反発

②採択と施行

  • 2007年3月6日、第265 期国会にて採択。差別禁止法制定運動が始まって7年目の出来事。
  • 2008年4月11日施行。正当な便宜供与義務については事業所の規模等により段階適用

(2)障害者差別禁止法の内容

【概要】

  • 6つの章、全50条

【総則(第1章)】

①障害の定義・適用範囲(2条ならびに6条)

  • 韓国の障害者福祉法に沿った規定。登録障害者以外の障害者も対象。
  • 6条の「差別禁止」条項で過去の経歴や推測されることを理由にした差別を禁止し、同法の適用を受ける障害者の範囲を実質的に拡大。

②差別行為(4条)

  • 障害に基づく差別の4つの類型
    • 直接差別(4条①-1)
    • 間接差別(4条①-2)
    • 合理的配慮(正当な便宜供与)の拒否(4条①-3)
    • 不利な待遇を表示・助長を直接行う広告あるいは効果(4条①-4)

③正当な便宜=合理的配慮

  • 差別禁止法では、合理的配慮は「正当な便宜」とされ(4条①-4)、合理的配慮の適用除外は4条の3に規定されている。
  • 正当な便宜の適用範囲の「段階的範囲」は大統領令(施行令)で。

④適用除外

⑤自己決定権と選択権

⑥その他 いじめ等の規定等

【各則(第2章、第3章)】

①雇用(10~12条)

②教育(13~14条)

③財と用益(15~25条)

  • 動産や不動産取引、建物や交通機関へのアクセス、情報アクセス、文化芸術活動や体育活動における差別を禁止している同節は11の条項からなり、広範な分野をカバー。

④司法・行政、サービス及び参政権(26~27条)

⑤母・父性権・性等(28~29条)

  • いわゆる性と生殖の権利を規定。
  • 同条③では、当該子どもの父母が障害者であることを理由にその子どもを区別したり、不利益を与えたりしてはいけないという規定。

⑥家庭・家族・福祉施設・健康権等(30~32条)

  • 第30条はこの法律の特色の一つ。家庭内や家族関係によるさまざまな障害者に対する不利益な取り扱いを禁止
  • 場合によっては、障害者の家族がその障害者に対して差別者になりうるという障害当事者の経験からくる自立生活運動など障害者運動の影響が大きい部分。

⑦第3章 障害女性及び障害児童等

【救済規定 第4章、第5章、第6章】

①差別是正機構

  • 国家人権委員会が第一義的な救済機関(41条)
    「障害者差別是正小委員会」が本法における救済機関となる。手続き等に関しては国家人権委員会法に準拠する。

②是正命令(43条)

  • 国家人権委員会の勧告不履行の際に法務大臣に是正命令権

③損害賠償(46条)

  • 1項
    • 損害賠償の責任を逃れるためには行為者が故意または過失がなかった点を立証しなければならないとしており、立証責任の転換。
  • 2項・3項
    • 差別行為をした者が得た利益を被害者の損害額にみなすことと、それでも証明が不可能な場合は論全体の主旨と証拠調査の結果に基き、相当の損害額を認定することができる、と規定。

④立証責任の配分(47条)

  • 差別行為があったのかなかったのか、という証明を誰がするかの問題である。障推連は「立証責任の転換」という加害者側の立証責任を主張してきたが、「配分」という形で妥協。しかし、訴える側は行為の事実を証明する程度で、加害者側がそれに対して障害に基づく差別がなかったことを立証しなければならなくなっている。

⑤罰則

  • 要件は非常に厳格であり、実際にどこまで適用されるかは不明。

4.施行令(別紙仮訳参照)

  • 全30条と5つの別表

5.国家人権委員会

(1)国会人権委員会の概要

①概要

  • 国家人権委員会法を設置根拠法とする「国家機構の地位に関する原則」(国際連合総会決議48/134。いわゆるパリ原則)に基づいて設置された人権救済機関であり、2001年より運用。ソウルに中央の委員会があり、プサン、光州、大邱の三カ所に地域出先機関として「人権事務所」が置かれている。
  • 立法,行政,司法の三権から独立した国家機関であり,権利侵害や差別からの救済が主な役割。
  • 委員長(1名)と常任委員(3名)を含め11名の人権委員。
  • 障害者差別是正委員会、調査局障害者差別調査課が障害者差別案件を担当。

②役割と権限

  • 国家人権委員会法第2条の「平等権侵害の差別行為」:性別、障害,年齢,社会的身分などの18の類型において、雇用や財やサービス利用,交通手段,教育における,特定の者への優待,排除,区別,不利益扱い,セクシャルハラスメント行為,と規定している。たとえば「雇用(募集,採用,教育,配置,昇進,賃金および賃金以外の金品支給,支給の融資,定年,退職,解雇等を含む)と関連して,特定の人を優待・排除・区別し,並びに不利に取り扱う行為」を平等権侵害の差別行為と定義。対象は国家のすべての機関,民間機関。
  • 救済手続きと権限(第38条から第50条)
    • 「申立て」(陳情)は差別行為による被害を受けた被害者に限らず,その被害を知った人や団体も申立てが可能
  • 調査(第40条)
  • 救済措置
    • (ア) 「合意勧告」事件の公正な解決のために必要な救済措置を当事者に提示して合意を勧告
    • (イ) 調停委員会による調停と調停に代わる以下の決定
      • (ⅰ) 差別行為の中止
      • (ⅱ) 原状回復,損害賠償,その他に必要な救済措置
      • (ⅲ) 同一又は類似の人権侵害の再発を防止するために必要な措置
    • (ウ) 「救済措置等の勧告」法律,制度,政策,慣行の是正又は改善の勧告
    • (エ) 「告発および懲戒の勧告」
    • (オ) 「緊急救済措置の勧告」

(2)処理案件の数等

①差別禁止法施行前と施行後の申立て案件件数

  • 差別禁止法施行以後の申立て件数月平均増加率は8倍()内の数字は、国家人権委員会全体で受け付けた案件の類型のうち、障害分野の比率。
    • 2001年11月25日~2008年4月10日:630件(14.0%)
    • 2008年4月11日~2008年12月31日:645件(61.0%)
    • 2009年1月1日~2009年12月31日:745件(43.3%)
  • 分野別では、雇用分野が2.5倍、教育分野が3.0倍、財・用益・行政・司法・参政権は10.0倍、その他が60倍の増加。
  • 差別禁止法施行以後(2009年)の分野別申立て受付件数の内訳:
    • 雇用:65件
    • 教育:49件
    • 財・用役:157件
    • 建物へのアクセス:94件
    • 移動・交通手段:51件
    • 情報・意思疎通:12件
    • 保険・金融:91件
    • 文化・芸術・体育:13件
    • 司法行政:40件
    • 参政権:3件
    • いじめ等:114件
    • その他:56件

②申立て事件の処理類型別現況(2009年。対象総件数710件)

  • 移送:5件
  • 調査中止:4件
  • 却下(調査対象外):284件
  • 棄却(差別事件として非該当):192件
  • 調査中解決(取消等):167件
  • 合意終結:48件
  • 勧告:10件

③勧告履行率等(2008年1月1日から2009年12月31日)

  • 勧告件数は30件で障害者差別禁止法に基づいた是正勧告は17件、国家人権委員会のそれは13件。
  • 勧告の分野別内訳:
    • 雇用(3件)、教育(5件)、財貨・用益提供および利用(17件)、参政権(4件)
  • 勧告の受容状況
    • 公共部門(政府・自治体・公企業):88.9%
    • 民間部門(株式会社等の法人及び団体、個人):100%
    • 教育部門(国公私立の学校):66.7%

(3)是正命令の事例

  • 差別禁止法における最初の法務大臣による是正命令の案件(雇用分野)
  • ある公共機関で働いていた男性が2004年に外傷性脳内出血により,60日の病欠と6か月の休職の後、左半身不随状態で現職復職。さらに2007年から一年間休職をし、復職。
    被申立人は,2008年8月、左半身不随の状態では職務に耐えることができないとして、職権免職決定をして申立人に通報。同年8月22日に申立て人は国家人権委員会に申立てを行う。
    2009年8月、国家人権委員会は、被申立人に対して申立人を復職させ、再発防止対策と国家人権委員会が行っている障害者差別に関する人権教育を受けることを勧告。申立人は被申立人が故意の勧告不履行として2010年1月、法務省に是正命令を申請。2010年4月28日、法務省が申立人の復職を命じ、障害者差別に関する人権教育を受ける旨の是正命令を決定。これによって同年5月25日付で復職となり、6月には人権教育が実施された、というものである。(国家人権委員会 障害者差別是正委員会 勧告受容報告【障害を理由とした職権免職】(事件番号:08陳差945))。
  • 差別禁止法の実効性を強化する先例

6.まとめ

1.意義

(1)社会規範としての差別禁止法=行為の物差し

「私たちは差別をした人を罰したくてこの法律を作ったのではない、差別をなくしたいのである」

(2)大陸法系の国での差別禁止法

(3)制定過程の意義と効果

①法制定までの障害者運動の深い関与による法律の内容への影響と当事者のエンパワメント

②他のマイノリティ分野への波及

2.実効性についての評価と課題

(1)正当な便宜

(2)適用除外規定について

  • 4条①で差別の定義で、「正当な事由なしに」という文言が入れられており、さらに同条③の規定
  • 権利能力や行為能力といったいわゆる法的能力に関する部分では、現行法にのっとった規定(第22条など)がされている。障害者権利条約第12条の規定との関係。

(3)国家人権委員会

  • 一定の実効性の確保
  • 体制の問題