差別禁止部会 第5回(H23.6.10) 資料2 障がい者制度改革推進会議担当室作成 第5回差別禁止部会において論ずべき点 第1、差別禁止法制の必要性について、ご意見を伺いたい。 (この点に関して、すでに推進会議においても議論がなされており、別紙の参考資料1『障がい者制度改革推進会議における差別禁止に関わるこれまでの議論』のp2からp9に記載がございます。また、参考資料2「障害に基づいた、差別と思われる事例集」に差別と思われる各分野の事例が上がっております。これらをご参照ください。) 第2、差別禁止の分野における「障害」をどうとらえるかについて、ご意見を伺いたい。(以下は、この論点に関する様々な見解です。ご参照ください。) 1、「障害」の中に、機能障害のある人と社会的障壁との相互作用により社会的不利が発生するといった趣旨を入れ込むべきであるとする各種の見解 イ 医学モデルから社会モデルへの展開 周知のとおり、障害の概念を巡っては、医学モデルと社会モデルという対極的な考え方が示されてきた。 医学モデルも社会モデルも多義的に使われてはいるが単純化すると、医学モデルの立場によれば、「障害」を機能障害や能力障害という個人因子を起点として社会的不利が発生するものという捉え方に傾く反面、アメリカ流の社会モデルの立場によれば、「障害」は、機能障害や能力障害を有する個人と社会的障壁とのかかわり(相互作用)によって社会参加が阻まれるなどの社会的不利を受ける状態や地位を指すことになり、また、イギリス流の社会モデルによれば、「障害」は社会障壁とそこから生じる当事者の社会的不利ということになるであろう。 したがって、医学モデルの立場で言えば、社会的不利の原因は、もっぱら個人の機能や能力に帰すべき問題であるので、本来差別の問題とは把握されないことになる。伝統的な差別禁止事由に「障害」が明示されていないのはその証左であり、社会モデルの立場に立って初めて差別禁止の射程に入ってくることになる。 このような障害概念の展開からみて、差別禁止法における「障害」も社会モデルを反映したものにすべきである。 ロ 障害者の権利条約の立場 障害者の権利条約は、「障害」を上記で述べたアメリカ流の社会モデルに沿ったものになっており、差別禁止の文脈においても異なった解釈が取られていない以上、差別禁止法制においても、同様の内容を持たせるべきである。 ハ 推進会議の委員の意見 ○ 障害者の定義に関しては、条約制定の際にも、社会モデルを基盤としながらも医療モデルの色彩を残しているICFの基準枠を超えた定義が用いられている。それを踏襲した定義とする。 ○ 「障害」が社会における障壁の相互作用から生じるものと捉える、いわゆる「社会モデル」の考え方に準拠し、対象者を幅広くする必要がある。 ○ 障害とは、身体的、精神的、知的状態が疾病、傷害、その他の事情に伴い、その時々の社会的環境において、日常生活または社会生活において相当な制限を受ける状態であることを明記する必要がある。 ○ 「障害を理由とする差別」における「障害」を「心身機能の損傷」(機能障害)と理解することとした場合には、次のようなことが起きる。すなわち、視覚障害者を差別しても「障害(機能障害)によるものではない。字が読めないことが理由だ。」と言い逃れを許しかねない。また「精神障害が不採用の理由ではない。長期の失業者であるから断った」と抗弁されるかもしれない。この問題を解決するには2つの方法がある。1つ目はICF の障害概念の活用である。ICF では障害を機能障害(構造障害を含む、impairment)、活動制限(activity limitation)、参加制約(participation restriction)の総称としてい る。わかりやすい表現を使えば、障害は機能障害、活動障害、参加障害の総称である。このような障害概念とすれば上記のような抗弁は阻止できる。 もう一つは、障害=機能障害という定義を設けつつ、「障害に基づく差別には、障害のために補装具を使用していることや活動や参加の困難があることなど、障害に関連したできごとを理由とした差別が含まれる」という規定を設けることである。しかしこれら2つの方法をとってもなお、障害者権利条約の障害の概念との根本的な違いはどうにもならない。・・・・ この法律において障害者とは、身体的又は精神的な機能障害があり、かつ社会におけるさまざまな障壁との相互作用により、日常生活又は社会生活における相当な制限を受ける者とする。 2、差別禁止法における「障害」は心身の機能障害(インペアメントimpairment)を基本とすべきという各種の見解 イ 差別禁止事由としての障害 一般的に差別とは、社会構成員のうち、個人の有する一定の属性(例えば、人種、信条、性別、社会的身分、門地)を理由として、他よりも不利益に扱う行為を意味する。 多くの国家では、平等という結果を達成するために、かかる差別の禁止を憲法をはじめとする法制度に取り込んでいる。しかし、上記にように、差別の禁止は、条文上明示されていない場合も含めて、一定の個人の属性を前提として、差別を禁止するという構造となっている。 したがって、「障害」を理由とする差別禁止法制度においても、他の差別禁止事由である人種などと同様に、差別禁止事由である「障害」は、個人の有する属性として位置付けるべきである。 ロ 相互作用によって発生する社会的不利は差別の分野の課題 差別禁止法制は、差別に該当する一定の行為を禁止することで、平等を確保しようとするものである。 障害を理由とした差別との関係でいえば、心身の機能障害と、機能障害のある人を囲む物理的障壁、制度上の障壁、人々の態度、偏見などの社会的障壁が相互に関わり合いをもつ中で現れてくる具体的な個々の取り扱いが差別に該当する場合には、これを禁止するものである。 したがって、差別禁止法においては、相互作用のなかで発生する社会的不利については、「差別」のところでその該当性を問題とすべきであって、「障害」のところで扱うべき課題ではない。でなければ「社会的不利(障害)を理由とする社会的不利(差別)」というトートロジーに陥ってしまいかねない。 ハ 社会モデルにおける「障害」と法律学における「障害」の定義は異なる 障害の社会モデルとは、インペアメントと社会的障壁との相互作用で発生する社会的不利に障害という言葉を与え、かつ医学モデルに対抗するために社会的障壁の問題を強調することにより、研究・実践に資する発見・洞察を得る際の助けとなる視座(発見的手段)をいう。 しかし、差別禁止法の文脈で必要となるのは、それによって誰が保護されるのか、あるいは何が禁止されるのか、ということであり、社会モデルの文脈でいえば「障害」(不利)の定義ではなく、むしろインペアメントの定義である。つまり「インペアメントに基づく差別」や「インペアメントのある者」を定義する必要がある。 こうして、法令上の用語法としては、障害とインペアメントはイコールで結ぶべき関係にある。 第3、機能障害について、すべての機能障害を対象とすべきか、何らかの制限(例えば、期間、程度)を加えるべきかについて、ご意見を伺いたい。 (諸外国の障害(者)の定義の一覧表である「参考資料3」を参照されたい。) 第4、障害が、現在存在している場合だけに限るか、過去に障害の履歴を有する場合や将来発生する蓋然性がある場合、さらには、誤解などで障害があるとみなされた場合も含めるかについて、ご意見を伺いたい。 (諸外国の障害(者)の定義の一覧表である「参考資料3」を参照されたい。) 第5、障害に、必ずしも機能障害が伴わない外貌やその他心身の特徴を含めるべきかについて、ご意見を伺いたい。 第6、差別禁止法の適用対象について、以下の2点について、ご意見を伺いたい。 1、障害者について、ADAは一定の分野の差別に関して、障害者について「有資格」という限定をつけているが、かような限定をつけるべきか、つけないとしたら一般的例外規定ないしは差別に該当するのかという判断などの場面で対処する方法があるかについて、ご意見を伺いたい。 2、障害のない人が、身内や友人など、その関係する障害のある人の障害を理由に差別を受けた場合、差別禁止法の適用対象に含めるべきかについて、ご意見を伺いたい。