差別禁止部会 第6回(H23.7.8)資料2 「差別」の定義を巡る論点(その1) に関する意見一覧 第1、直接差別 1、差別的取扱の理由付けの多様性…1 2、差別的取扱いの「理由」と「障害」の関係…12 3、直接差別とされる行為をどう捉えるか…20 4、その他、直接差別において、論議すべき点…25 第2、間接差別 1、間接差別という差別類型の必要性…32 2、間接差別における差別とは何か…44 3、その他、間接差別において、論議すべき点…53 「差別」の定義を巡る論点(その1) 第1、直接差別 1、差別的取扱の理由付けの多様性 <<検討に当たっての背景や視点>>  障害者に対する差別と思われる事例には、様々なものがあります。以下の事例はいずれも障害者に対する事例です。そのなかで、差別的取り扱いの理由とされるものを突き詰めていくと、機能障害が問題とされているのか、能力障害が問題とされているのか、障害者そのものが忌避されているのか、障害者の置かれている社会状況そのものが問題とされているのか、必ずしもはっきりしない場合もありますし、また、いろいろなパターンがあるように思われます。 <<質問>>  そこで、以下の事例では何が相手方から問題とされているのか、言葉を換えて言えば、何が差別的な取扱の理由付けとされているのか、ご意見を伺いたい。  (なお、ここでは下記の事例が最終的に差別に当たるのか否か、正当理由があるのか否か、等といった議論を求めるものではありません。もっぱら理由付けの内容についてご検討ください。) @障害があるということで、養護学校へ行くことが決めつけられた。 A脳性まひの人には不随運動などがあり、適切な治療ができない恐れがありますので、当医院では歯科治療はできません。 B多動のお子さんはお客さんの迷惑になりますので、別のレストランに行ってください。 Cこの遊園地のレストランは、電動車いすに乗っておられる方にアルコール類を提供することはできないことになっております。 D重度障害のある車いす利用者は、緊急時の安全上、当社の航空機には単独搭乗できません。 E仕事は人並み以上にやってもらっておりますが、養護学校の高等部の卒業では一般の中学卒の賃金しか払えません。 Fお客さんの中には、障害者がいると楽しめないとかくつろげないという方もいらっしゃいますので、入店をお断りします。 G車椅子でレストランに入ろうとしたら、満杯だと断られた。しかし友人に中をのぞいてもらったら、十分空いていた。 H精神障害者は、傍聴規則で入れないことになっているので、議会の傍聴はできませんと断られた。 【浅倉委員】 @→「障害がある」というだけで、いかなる障害であるか、個別事情はどうかなどをまったく考慮せずに、一律に「養護学校へ行け」という決めつけであるとすれば、障害者そのものに対する偏見・ステレオタイプだと思われる(質問の言葉によれば、「障害者そのものの忌避」ということになるか)。 A→「脳性まひ」という障害に対する無理解(脳性まひの人には必ず不随意運動があるという決めつけ?)であれば、障害者そのものへの偏見・ステレオタイプだと思う。しかし「脳性まひには不随意運動が伴う」ということが事実であるとすれば(ここが私には知識がなくわかりません)、そのような「機能障害」が問題にされているようにも思う。あるいは、そのような機能障害があっても、もし、働く人の数が十分で不随意運動に対応しながら治療ができる体制が整っている医院であれば治療が可能、ということであれば、これは「社会状況」がなせること(人出が不十分な医院であるからという周辺的事由による)なのかもしれない。 B→「多動の子」でも、顧客への迷惑にならない場合は十分ありうるのに、それを一律に「迷惑」とみなすのは、「障害者そのものの忌避」ではないかと思う。 C→これは、自動車の運転手にアルコール類を提供できないということと同じではないかと思う。ということは、「安全に運転する能力」を問題にしているので、「能力障害」なのではないか?という気がする。 D→緊急時に対応しうる航空機の乗務員の人員不足という「社会状況」によって行われている対応なのではないか、と思う。 E→「仕事」は十分であるにもかかわらず「養護学校卒業」ということに対する偏見・ステレオタイプによって、「障害者そのものが忌避されている」のではないか。 FGH→これらはすべて「障害者を忌避する」ことから生じている問題であると考える。 【池原委員】 結論・理由 @能力障害に関連した差別:知的・身体的機能の障害のために、普通学級で求められる学習・運動能力の水準を満たしえないと想定したものと推測される。 A機能障害または能力障害に関連した差別:運動神経機能の障害から身体運動の意思による統制が困難な状況があり、それが歯科治療上求められる診療台で一定の姿勢を維持したり開口状態を維持するなど診療上患者に求められる行動水準を達していないと考えられたため。 B機能障害または能力障害に関連した差別:多動の心身機能における機序はよくわからないが、レストランで求められる「常識的」な振る舞いを行うことができないと想定したものと考えられる。 C機能障害・能力障害に関連した差別:機能障害・能力障害を補うための電動車いすを運転する際に、アルコールの影響があると、適切な運転が出来ないと想定したものと考えられる。 D能力障害に関連した差別:身体機能の障害のため緊急時に求められるものとされる単独で速やかに退避するという身体移動の能力水準を満たしていないと想定したものと考えられる。 E能力障害に関連した差別:養護学校卒業生は知的障害などがあり教育水準も相対的に低いものとみなし、一般的に競争市場で求められる技能水準を下回っているとの想定に基づいているものと考えられる。 F機能障害・能力障害に関連した差別:機能障害・能力障害の結果として、外見や行動様式が他の者と異なっていることが、一般客から異様視され、その結果、営業に支障があると想定したものと考えられる。 G能力障害に関連した差別:Fと同様の理由も想定されるが、車いすを利用していることから、通常以上にスペースをとること、その介助のために通常よりも従業員の時間がとられることなどを想定したものと考えられる。 H能力障害に関連した差別:精神機能の障害のために、議場内で遵守すべき静粛の維持、その他の遵守事項を自らの意思で遵守できないと想定されたものと考えられる。 【太田委員】 結論  障害のある人を、一つのグループとしてとらえ、そのグループの持つ特性、極めて画一的な見方、価値観によって、上記のような事象が起きてしまうことが多い。 JDF委員の意見 ・@からBは機能障害そのものへの差別、CからHは、いわゆる障害に起因する差別であり、また、間接差別と重なり合う部分もある。その中でCとDは能力障害による差別、EからHは障害に起因する偏見やステレオタイプに基づく差別と考えられる。 理由  現実社会は、その構成員の標準化を求め、その標準からはみ出す人々を、差別や排除の対象としていく。肌の色や、言語、生活様式、あるいは学歴等々、標準化を求めるものは数多くある。そして、障害のない人というのも、現実社会が求める標準化である。現実社会は、標準化していくことにより、合理性を求める。その合理性は、客観性を持ったものと、人々の思い込みによるものと、複合性を帯びているものなどである。  例えば、障害を持っているからといって、特別支援学校に行かされるという問題についていえば、特別支援学校というものが存在するから、障害を持つ人は「そっちの方に行った方がよい」と、何も検討せぬまま、思い込む場合もあるだろうし、また、一定の検討を加えた場合、地域の学校では、その子の教育を十分に行えない環境であるから、一定の環境がある特別支援学校に行った方がよいとする、考え方を持つ場合もあるだろう。地域の学校に障害のある人が通える環境を作るということは、多くのコストがっかり、コストが低くてすむ特別支援学校の方がよい、またはその充実を図ったほうがよいとする考え方が存在するならば、経済合理性を優先した結果とも言えよう。  私は合理性の全てを否定する立場ではない。社会のコンセンサスを得ていくには、その考え方の中に合理性がなければならない。ただ、合理性をあまりに優先しすぎると、競争を助長し、人間性のない社会になってしまうことも確かである。  人々を標準化し、その狭い尺度でしか見られない状況の中で、様々な問題が発生していくのではないか。 JDF委員の意見 @:機能障害を持つことで分離されるという別異扱いに該当するため A:不随運動自体が脳性まひ者の機能障害であり、それに基づいた(治療)拒否となるため B:「多動」という機能障害そのものに対する排除となるため C:電動車いす自体は機能障害そのものではないが、機能障害によって電動車いすを必要とする人とそうでない人との別異扱いとなるため(電動車いすの操作等への能力を問題にすることになる) D:車いす利用者の機能障害自体ではなく、緊急時に自力で避難できるかどうかという機能障害に基づいた能力障害を問題にしているから E:仕事は人並みということで能力障害による差別ではなく、機能障害に起因した就学先に対する偏見による別異扱いとなるため(機能障害のない人は養護学校には行かない) F〜H:機能障害自体でも能力でもなく、機能障害からの偏見による拒否になるため 【大谷委員】 結論  差別をする側の理由は、単一とは限らないため、機能障害、能力障害、障害そのものによる忌避、社会状況そのもの、と区分けするのは難しいが、主たる理由としてあえて分けるなら、以下のようになると思われる。 @A機能障害 CD能力障害 EG障害そのものによる忌避 @F忌避もしくは社会状況そのもの  障害者のおかれた社会状況をどのようなものとして把握するかわかりにくいが、社会全体の偏見、決めつけをさすものであるとすれば、これを理由とすることも差別の類型として、差別禁止法に基づく差別にあたることを法律上明確にすることが大切であると考える。 理由  @は障害の種類と程度によって就学先を振り分けているということに着目すれば、障害の特性により機能障害もしくは能力障害による振り分けとなり、障害があるということで地域の学校から排除されている、ということに着目すれば、障害者そのものが忌避されている、あるいは社会状況の中の在り方―偏見を持たれているとの見方も可能である。  Aは不随運動という機能障害が理由とされているがそれがあるかないかが不明であるにもかかわらず治療拒否があるとすれば忌避になります。また障害者のおかれている社会状況、ということが何を指すのか、忌避以外の決め付け、偏見(ラベリング)を指すのであれば、これも含まれる。  Bは「お客さんの迷惑」を理由とするので社会状況としたが、本当に他の客の迷惑になるかどうかわからず(本当に客からクレームが来ているのかどうかは不明)、単なる偏見、すなわち障害そのものを理由とする忌避とも考えられる。  Cは電動車いすという能力障害にかかわる事項が理由とされている。しかし電動車いすを利用しているということだけを理由とするならば、忌避もしくはおかれている社会的状況となる。  D車いす利用という能力障害に関わる事項が理由とされている。しかし、重度障害の車いす利用者は航空機において安全を確保できないという考えが、科学的根拠に基づかないとすると、単なる偏見による差別とも解しうる。  E仕事を人並み以上にやっているのに、他の高卒者と比べて賃金差別があるとすれば、機能障害や能力障害を理由とされているのではないので、障害そのものを理由とする忌避、偏見と解される。 FはBと同じ。 G精神障害であることのみを理由とする傍聴禁止は、障害そのものを理由とする忌避、偏見である。精神障害の内容・程度をまったく問題にしていないし、科学的根拠を全く欠く。 【竹下委員】 @の結論:機能的障害 理由:処遇困難ないし経費増大 Aの結論:障害者に対する無理解ないし障害者の忌避 理由:無理解による偏見、技術的不安、過誤への懸念 Bの結論:障害者の忌避 理由:自らの偏見と顧客(社会)への偏見の転嫁 Cの結論:偏見ないし誤解(無理解) 理由:電動車いすへの誤解 Dの結論:機能障害、障害者の忌避 理由:責任の回避と平等意識ないし人権意識の欠如 Eの結論:差別意識 理由:平等性に対する誤解と障害者に愛する固定観念 Fの結論:障害者の忌避 理由:自らの偏見と顧客への偏見の転嫁 Gの結論:障害者の忌避 理由:対応への不安と顧客への偏見の転嫁 Hの結論:障害者の忌避 理由:偏見と障害に対する無理解(誤解) 【西村委員】 @ 障害があるということで、養護学校へ行くことが決めつけられた。 <結論>  機能障害、能力障害、障害者そのもの及び障害者が置かれている社会状況の すべてが問題となっている。 <理由> ・この間、学校のバリアフリーは、関連法及び条例から適用外とされてきた経過 等から遅れている実態がある。そのため機能及び能力障害を有する場合に円滑 な利用が困難な設備状況が多い。 ・また、社会(制度)状況としても、学校教育法施行令第22条の3の規定に基 づき、そもそも、障害のある子どもは、障害のない子どもとは区別された異なる制度・仕組み・場所として進路先が決められている。 ・具体的には、就学指導委員会においては、その子の機能・能力障害に応じて、原則として一般小中学校ではなく特別支援学校または特別支援学級への進路を求めるといった、障害のない子どもとは区別・分離されて就学することになっている。 ・しかし、障害時を受け入れるために設置されたはずの特別支援学校または特別支援学級でも、医療的ケア(痰吸引等)を要する子どもを受け入れていない実態もある。また、受け入れている学校では看護師が配置され学校側が医療的ケアに対応しているところもあるが、その多くが、親が常時、同行、待機し、必要に応じて子どもの医療的ケアに対応している。 ・一方、普通学校及び学級への就学にあたっては、障害のある子どもと親が、普通学校への入学を希望しても排除される事例が多いことから、普通学校等への入学を求める訴訟も行われてきた事実がある。 ・また、普通学校に入学した障害児で、介護等を要する場合も、その多くが、前述と同様に親の同行と待機等が求められている。 ・以上のとおり、子どもの機能・能力障害の状態や、そのために必要とする対応によって、教育制度及び現場においては、障害のない子どもとは、区別され、排除や制限が設けられている。 ・なお、障害や障害に基づく個別ニードを有する子どもが、障害のない子どもと同党の学校生活を維持するための人的・物理的環境等の整備(合理的配慮か?)は、極めて不十分なため、そのすべての負担が、公的責任ではなく、親にのしかかっているといっても過言ではないと思われる。 A 脳性まひの人には不随運動などがあり、適切な治療ができない恐れがありますの で、当医院では歯科治療はできません。 <結論> 機能障害が問題となっている。 <理由> 不随運動は、脳性マヒの機能障害のひとつであるが、この属性が歯科治療を拒否する理由とされているため。 B 多動のお子さんはお客さんの迷惑になりますので、別のレストランに行ってくだ さい。 <結論> 機能障害が問題となっている。 <理由> 入店拒否は、その子の機能障害(場合によっては、能力障害)のひとつである多動を拒否する理由としているため。 C この遊園地のレストランでは、電動車いすに乗っておられる方にアルコール類を提供することはできないことになっております。 <結論> 機能障害、能力障害、障害者そのもの及び障害者が置かれている社会状況のすべてが問題となっている。 <理由> 1 電動車いす使用者は、歩行困難なため移動手段として電動車いすを使用しているにもかかわらず、そのことを理由としているため。 2 また、電動車いす使用者は、法令上、歩行者として規定されているにも関わらず、そうした社会的位置づけを無視(知らない)しているため D 重度障害のある車いす利用者は、緊急時の安全上、当社の航空機には単独搭乗で きません。 <結論> 機能・能力障害が問題となっている。 <理由> 1 緊急時の避難を想定してのものと思われるが、避難能力(歩行及び移動等の機能・能力障害)に基づく対応であるため。 2 また、非常時及び緊急時の準備は、重要事項ではあるが、戒厳令にも似た過度な想定と対策は、多くの人々の自由権を侵害するものである。 3 障害者等(障害児・者及び家族も含める)も含めて、人々の自由と円滑な社会生活を保障しながら危機管理を進めることが必要である。 <補足> 1 機能及び能力障害のために必要とする福祉機器や支援が障害者等の社会参加を制限している実態の検証と改善策を講じることも必要である。 2 特別支援学校の修学旅行では、障害児が使用している車いすの形態(ガススプリングの使用等)により搭乗できないため、修学旅行に参加できなかった事実がある。 E 仕事は人並み以上にやってもらっておりますが、養護学校の高等部の卒業では一般の中学卒の賃金しか払えません。 <結論> 障害者そのもの及び障害者が置かれている社会状況が問題となっている。 <理由> 仕事が人並み以上にできている評価があるにもかかわらず賃金に不利益が生じていることから、機能・能力障害ではなく障害者であることや養護学校の高等部に対する社会的評価及び認識が理由といえる。 F お客さんの中には、障害者がいると楽しめないとかくつろげないという方もいらっしゃいますので、入店をお断りします。 <結論> 障害者そのもの及び障害者が置かれている社会状況が問題となっている。 <理由> 1 店舗のバリアフリー状況や障害者の機能・能力障害の状態ではなく、障害者そのものの入店を否定しているため。 2 また、こうした状況は、障害者に対する偏見が、その背景にあると思われる。 <補足> 差別をなくすための法令を定める以外にも、障害者等への偏見をなくすための社会的な仕組み(インクルーシブ教育や障害者雇用の推進等)を検証、検討し、構築することも必要である。 G 車椅子でレストランに入ろうとしたら、満杯だと断られた。しかし友人に中をのぞいてもらったら、十分空いていた。 <結論> 機能障害、能力障害、障害者そのもの及び障害者が置かれている社会状況のすべてが問題となっている。 <理由> 車いすが占めるスペースと店内の広さやテーブル等の移動等々の対応が求められることやその提供に関する必要性の有無と文字通り障害者に対する拒否感等々の要素が重なっている結果の対応と思われる。 また、上記Fと同様の取り組みも必要である。 H 精神障害者は、傍聴規則で入れないことになっているので、議会の傍聴はできませんと断られた。 <結論> 障害者そのもの及び障害者が置かれている社会状況のすべてが問題となっている。 <理由> 精神障害者は、危険な存在、秩序を乱す存在、社会から隔離すべき存在等々といった社会的偏見に基づく対応結果と思われるため。 結論 1 上記の状況が起きている要因は、その人の機能・能力障害、障害者そのもの及び障害者が置かれている社会状況に起因していることから、こうした具体的な事例に関する検証を実施し、そうした場面個々で差別とされる場合とその理由及び差別をなくすための具体的な対応(合理的配慮等)について検討することが必要である。 2 そして、こうした障害者等が受けてきた差別的な経験をなくすことを本部会としてミッションであることを全体で再確認することが必要である。 3 そのための社会的ルール及び仕組みとして確立するために「(仮称)障害者差別禁止法」を制定することが重要である。 4 なお、この法律によって、障害者等が受けてきた差別的対応を改善できる実効性を確保することが必要不可欠であることも本部会の責務として再確認することが必要である。 理由 上記に挙げられた障害者の暮らしにくさや差別と思われる事例のすべてが、仮定や仮想ではなく障害者等が体験してきた事実である。また、こうした体験を受けてきた要因は、以下の背景・項目に基づいていると思われるため。 1 この社会が、障害のない人の基準と視点でつくられてきた。 2 障害児・者の属性である機能及び能力障害が、こうした社会のレベルに到達していないことを問題の根本とされてきた。 3 そのため、障害者等は、リハビリや自らの努力で自らの機能や能力障害を克服することがもとめられ、自らのニード要求を社会的には、迷惑として位置づけ、その問題点の指摘を自重してきた。(個人モデルの普及) 4 その結果、社会のあり方を疑問視、問題視する障害者等の姿勢・意見・活動に社会は、排除、拒否、わがままとしてきた歴史的経過がある。 5 そして、重度障害者が、障害者等の社会参加を阻む社会的障壁の指摘・行動を当事者自身の声として「社会に迷惑をかけることが私たち重度障害者の仕事(役割)」と言わせてきた事実もある。 6 障害者権利条約は、こうした世界の障害者等に共通する現状と歴史的事実を改善し、障害者等の生活上の制限や制約及び排除等を個々の問題、個々の努力で克服すべき問題(個人モデル)ではなく社会のあり方の課題(社会モデル)として指摘し、その改善を社会に求めている。 7 そして、条約は、障害者等の社会生活上の制限や制約及び排除等を、直接及び間接差別と定義するとともに、障害者が障害のない人々と同等に社会生活ができるための個別対応を合理的配慮と定義し、原則として、こうした合理的配慮を提供しないことを差別とした。 8 なお、障害者等の個々の属性に基づき、障害者等が受ける不利益な社会的状況(区別、排除、制限)を障害者差別禁止法がある多くの国々が差別と規定し、その改善のために必要な対応を求めている。また、障害分野以外の人権条約においても社会生活のすべての分野に参加することを権利として規定している。 【松井委員】 結論 ここで例示されている障害者の取り扱いは、差別に当たると思われる。 理由 ここで例示されているような、障害があるが故の一律的かつ拒否的な取り扱いには、合理的な理由がなく、また偏見などに基づくと思われること。 【棟居委員】 @ 障害があるということで、養護学校へ行くことが決めつけられた。 機能障害 (医学的な機能が不完全であるという理由で、普通学校で教育を受ける能力があるかという能力障害の有無を問うことさえなく養護学校に送り込まれている。そこには、機能障がい者は「社会のお荷物」として排除する、社会の側の事情(社会状況)もある。) A 脳性まひの人には不随運動などがあり、適切な治療ができない恐れがありますので、当医院では歯科治療はできません。 機能障害 (ただし医学的な正確な診断に基づくものでなく、手間がかかり治療の難易度が高いかもしれないといった偏見から、障害者そのもののを忌避している可能性もある。) B 多動のお子さんはお客さんの迷惑になりますので、別のレストランに行ってください。 能力障害 (落ち着いて座っている能力がないことを直接の理由とするが、平均的でない子どもがいることで他の客が食事を楽しめないという理由が背景にあるのであれば、障害者の忌避でもある。) C この遊園地のレストランでは、電動車いすに乗っておられる方にアルコール類を提供することはできないことになっております。 障害者そのものの忌避 (電動車いすという他人を事故にまきこむ可能性のある道具を使用している以上、アルコールで安全運転の能力が阻害されれば規制はやむをえないが、酒癖の悪い健常者にはアルコールを提供するのであれば、障害の有無のみで差別していることになる。) D 重度障害のある車いす利用者は、緊急時の安全上、当社の航空機には単独搭乗できません。 能力障害 (緊急時に自力で移動できないことから安全確保に余分な人手を要するという理由だが、外見からは分からない持病持ちなどにも同様の義務を課すべきであるのにそうしていないのは、障害者そのものの忌避の面もある。) E 仕事は人並み以上にやってもらっておりますが、養護学校の高等部の卒業では一般の中学卒の賃金しか払えません。 能力差別 (能力給の部分で普通高校と養護学校高等部とを差別的に取り扱っており、養護学校は学年に比べて教育水準が低いという偏見に基づいた差別であり、実際の能力差に基づく差別ではないが、実際の能力とは無関係に大卒に支払われる「能力給」と同じ意味において、能力差別の一種と思われる。) F お客さんの中には、障害者がいると楽しめないとかくつろげないという方もいらっしゃいますので、入店をお断りします。 障害者そのものの忌避 (他の客の感情を理由としているが、店もそうした感情に同調しており、店ぐるみで障害者そのものの社会参加を忌避しているといいうる。) G 車椅子でレストランに入ろうとしたら、満杯だと断られた。しかし友人に中をのぞいてもらったら、十分空いていた。 障害者そのものの忌避 (もっぱら障害を理由とする入店拒否、契約拒否であり、障害者に対してはサービスを提供しない、と言っているに等しいので、障害者そのものの忌避であり、社会的排除でもある。) H 精神障害者は、傍聴規則で入れないことになっているので、議会の傍聴はできませんと断られた。 能力障害 (精神障害者には自制する能力が欠けているという偏見に基づいた排除であり、社会的排除であるが、能力障害を理由とした差別である。) 【山本委員】 4に記載した意見を参照。 2、差別的取扱いの「理由」と「障害」の関係 ≪検討に当たっての背景や視点≫ (1)実際の場面では、行為者が当該行為に至った理由について述べるところは、さまざまであり、表示した理由と内心の意図とが異なる場合もあり得るように思われます。 しかし、表示された理由をだけを見ても、それが機能障害だけでなく、能力障害、障害者の置かれた社会的状態などが理由付となっている場合のほか、疾病や障害者に対する固定観念や偏見などの主観的な動機に基づく場合などもあります。 このように、障害者に対する差別的取扱いにおいては、実際上多様な理由付がなされるわけですが、これらの場合を差別の問題に取り込むためには、以下の方法があり得ると思われます。 @ 障害の内容そのものに取り込む形で対処する方法 A 定義上必ず登場する「を理由にする」とか「に基づく」といった「障害」と「差別」を結ぶ言葉の使い方やその言葉の意味をどう解釈するかといった観点から対処する方法 B 理由付けの多様性に応じて差別類型自体を複数用意する方法 (2)@の問題は6月10日の部会で議題としておりますので、Aの課題から検討していただきたいのですが、これまでの国際人権規範や外国法制度を見ると、障害と差別を関連づける言葉遣いとしては、下記の通り、さまざまですし、その訳もいろいろです。中には同じ英語でも違う日本訳も見られます。 ▼(表)↓ 法典 文言(原語) 文言(和訳) 訳者 世界人権宣言 on the basis of 基づく 政府仮訳文 市民的及び政治的権利に関する国際規約 on any ground 理由による 政府訳 女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約 on the basis of 基づく 政府訳 あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約 based on 基づく 政府訳 障害者の権利に関する条約 on the basis of 理由とする 政府仮訳文 基づく 川島・長瀬訳 EU雇用機会均等一般枠組み指令 on any of the grounds 基づいて 川島聡訳 1990ADA(米) because of ゆえに 斉藤明子訳 1992障害者差別禁止法(豪) on the ground of 理由に WIPジャパン株式会社訳 1993人権法(NZ) by reason of 理由として ▲(表)↑ また、憲法を含む日本の法律用語としては、下記のとおりです。 ▼(表)↓ 法典 文言 憲法英語原文 because of 憲法 により 教育基本法 によって 労働基準法 理由として 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律  理由として ▲(表)↑ これらの異なる言葉が、実質的な意味においても異なったものとして解釈されているのか、同一なのか、研究を待つ必要性があると思われます。 ただ、一般的な語感としては、「Aを理由とする」という表現の場合、A以外の事由は含めにくいと思われますが、「Aに基づく」という表現の場合、Aに基づいて発生するその他の事由も含めて差別の定義の中に読み込める余地もあるように思われます。 また、この問題は、行為者の主観としていかなるものが必要となるのかといった問題にも連なる問題であると思われます。ですので、障害と差別を関連づける用語として、どのような言葉が適当であるか、そしてその際その言葉にどのような意味付けをすべきか、検討が必要だと思われます。 (3)また、Bの課題は、Aの課題と同じ側面の問題とも思われますが、イギリスでは、すでに廃止された1995年障害者差別禁止法において、【for a reason which relates to】(に関連する理由に基づいて)といった規定がなされておりました。 ところが、2010年平等法では、障害以外の保護事由も含めて禁止される共通の一般的な直接差別(direct discrimination)の類型では、【because of】(を理由として)という規定の仕方をしています。 注目すべきは、これに加え、この一般規定とは別個独自の直接差別類型として、「障害に起因する差別」(Discrimination arising from disability)という形態を設け、そこでは、障害の「結果として発生する事由を理由として」(because of something arisingin consequence of)という規定の仕方がなされております。 この規定は、1995年の障害に特化した差別禁止法がべースとなったと思われますが、これにより、幅の広い関連づけが可能となっているように思われます(なお、両類型は、例外事由について、異なる書き振りとなっている点にもご注意ください。 ≪質問≫ そこで、以上を念頭に置いて、差別的取扱いの理由付については、多様性があるなかで、どのような場合まで差別の守備範囲とするのか、そして、その方法としてはいかなる手段が妥当か、ご意見を伺いたい。 【浅倉委員】 結論 一般的な文言としてどうすべきか、結論を下すだけの知見がなく、何とも言えない。ただし、「Aを理由として」差別してはならない、とする規定は、日本における既存の差別禁止法制(たとえば男女雇用機会均等法)と整合性のある規定の仕方であるので、それらと異なる規定にする場合には(たとえば「に基づく」という場合)、立法上、なぜそのような規定の仕方をするかについて、説明が必要であろう。 理由 日本の場合は、「障害を理由とする」という書きぶりにしたとしても、「障害に関連して発生する何らかの事由」たとえば「能率低下」を直接的な根拠とする差別をこの規定の対象から除外する、という解釈にはならないのではないだろうか。障害に伴う能率低下を、他の事情からくる能率低下と同等の扱いにしているのか、それとも異なる不利益な扱いにしているのかを検討することになるだろう。 欧米の「直接差別禁止規定」は、「差別的な意図」を求めることが多く(イギリスではアメリカと異なって必ずしも意図的なものばかりが直接差別だと解釈しているわけではないとはいえ)、その結果、逆に、直接差別にはGOQ(真正な職務上の資格)を除いていかなる正当化根拠もありえない、という規定の仕方になる。そのために、「障害に関連する(直接的な障害以外の)事由」は、直接差別禁止規定の対象からは除外されるものと解釈されるのではないか。 しかし日本では、「○○を理由とする」差別は必ずしも「差別的意図」を伴うものばかりに限定されるものではなく、差別の根拠がどこにあるのかについて総体として検討が行われる結果、「障害に関連する(直接的な障害以外の)事由」に基づく差別も、正当性のない取扱いであれば「障害を理由とする差別」と判断されることもありうるのではないだろうか。 【池原委員】 結論 「障害に関して」というような規定ぶりで、障害と差別との関連性が認められれば足りるとすべきだと考えます。 理由 障害が差別と関連していることが求められるのは、歴史的・経験的な差別事由として「障害」に関する別異取り扱いが平等権侵害の疑いの強い類型であり、そのような類型については、その類型に該当するだけで原則として差別が認められ、その例外は厳格な判定基準を適用し、限定的な正当化事由が認められない限り違法として許されないという判断枠組みを形成するために必要とされる。そうした差別事象は障害との関連性の濃淡はあるにせよ広汎に存在しており、また、もともと差別自体が不合理な事象なので、必ずしも障害と差別の問に論理的・合理的な関連性があるとも限らない(例えば差別者側に情緒的な嫌悪感がある場合など)。こうした点では障害と差別の関連性は、障害に関連して生じてきた差別事象を広く含むことのできる規定であることが求められ、もっとも広くとれば、障害と差別との問に関連性がない場合のみを除外すれば足りる。逆に関連性を絞り込むために「相当程度の関連性」、「実質的関連性」などの程度の要素を入れることも考えられるが、評価者となる判断機関の裁量をどのように統制するかという問題が残る。 また、障害に関する差別は、社会構造が障害に対する配慮を欠いたまま構築されてきた結果として生じていることが多く、差別は障害を起点に発生するのではなく、社会の側の認知(否定的対応あるいは無配慮の前提となる認識またはその欠如)を震源として発生すると考えるとすると、「基づく」というのは、障害に関する「社会の歪んだ認知あるいは無知に基づく」というならわかるが、直接的に「障害に基づく」というのは社会モデル的な表現に馴染まないようにも思われる。「を理由とする」というのも、障害差別事象は、無知や無配慮がかかわっていることが多いこと、「理由とする」というほどの合理的な「理由」がないからこそ、その差別が問題になることなどからすると、適切な表現とは思われない。 さらに、間接差別を差別に含める場合、間接差別では相対的に不利益を受ける集団は厳密には差別事由のある集団に限定されなくてもよいとされるため、障害と不利益取り扱いの関連性は緩やかになり、厳密には不利益取り扱いの発現が「障害に基づく」、「障害を理由とする」から乖離していく可能性がある(例えば、パートタイム労働者の87%が女性で、パートタイム労働者をフルタイム労働者に比べて不利益に取り扱った場合、女性に対する間接差別になりうるが、この場合、パートタイムの男子労働者も相当あり、不利益取り扱いを受けるので、厳密に、性別を理由としあるいはそれに基づいた差別という範疇よりは、その拡張形式あるいは準じる類型という理解になるのではないか)。したがって、「基づく」あるいは「理由とする」という規定ぶりは少なくとも日本語の意味する射程範囲からすると狭すぎるのではないかと思われる。 なお、障害差別を原則として違法として厳格な違法性判定基準で行うのか、不合理な差別の一つとして立法化するだけなのかも要件の寛厳に関係すると考えられる。差別の例外的許容要件については、直接差別と間接差別で別個の基準(前者は厳しく後者はやや緩やか)で規定する立場もある。これは平等権侵害の疑いの高い類型であるかそれに準じる類型であるかに対応していると理解することもできる。直接差別は歴史的伝統的に障害差別として見られた事象であり、典型的に平等権侵害の疑いの高い類型として構成され(障害と差別との高い関連性が必要であり、「理由とする」とか「基づく」という用語に近接する)、それに該当すればほぼ原則として違法な差別とされるが、間接差別の場合は、厳密に障害のある集団だけに不利益取り扱いが発生していなくても、特定集団の相対的多数に不利益取り扱いが起こりうることが示されれば足りるため、障害と差別の関連性も相対的に緩やかになり、平等権侵害の疑いの高い類型に準じる場合として、例外として別異取り扱いが許容される場合も協定程度あることになり、「理由とする」とか「基づく」というよりも関連性が認められるという程度になるものと理解できる。 【太田委員】 結論 基本は「障害に基づく差別の禁止」と広くとらえ、障害から派生するあらゆる領域の問題を対象とする。その上に立って、多様な場面に対応しうるような定義、すなわち、差別の定義の中に、直接差別、間接差別、合理的配慮の欠如という概念が導入されることが求められる。 また、過去に障害の履歴がある、未来に障害の発生が想定される、あるいは、障害とみなされる、さらには家族や友人、関係者に障害がある人がいる、という理由をもっての差別も対象とされるべきであると考える。 JDF委員の意見 ・直接差別=(機能)障害そのものを理由とした差別、障害に起因する差別(これを 直接差別類型か間接差別類型に入れ込む表現にするかは今後検討することとして)、間接差別、合理的配慮の欠如などを広く包括すべきである。表現としては「障害に基づく差別」として、上記4類型を定義することが妥当であると思われる。 ・イギリスの「結果として発生する事由を理由として」(because of something ari  singin consequence of)という規定の仕方は重要な規定書き振りと考える 理由 文字通り、障害を理由に差別、別の取り扱いをされ、他の者との平等が侵害され、不利益な状況に置かれることは、直接差別に他ならないが、ここ数年、市民の人権意識の向上もあり、あからさまな直接差別は少なくなってきている。 それに代わってある理由づけをした差別が多くなってきている。「車イスの人は危険だから」「聴覚や視覚障害者に対応する人材も機器も財源もないから」「精神障害者が地域で生きられるサービスも医療も整備されていないから」などなど、標準化した人々から協定の正当性を帯びた形でそれらはおこなわれるのである。 それらの理由によって、別の取り扱い、不利益を受け、人間としての尊厳を奪われている人々が数多い。 また障害を持っている子供がいるから、まともに就職できない家族もいる。あるいは過去に障害歴があるということで、「将来も繰り返される可能性がある」ということで、就職など様々な場面で不利な状況となってしまうことは、多くある話である。 差別禁止法は、これらの問題に具体的な解決が図られるものとならなければならない。 JDF委員の意見 ・障害に関連して起こりうる差別事象を広くとらえることができる規定ぶりが必要である。 今後、専門的な検討が必要であると思われるが、「障害を理由とした」「障害に基づく」とでは、なんらかの違いがあるように思われる。例示にもあるとおり、「理由」という文言には行使者の主観的要素が比較的強く反映される語感がある。 ・例えば精神障害者の場合履歴に空白があり、社会的経験がない、職をテンテンとしているという理由で採用されないとするならば、これは「障害の結果、発生する事由を理由として」となるのではと考える 【大谷委員】 結論 基本的には「障害を理由として」とするのが法規範性として明確であるが、ただし、これには「障害から起因するものも含む」として、より広く救済できるようにするべき。 要するに、規定の仕方、文言の選択において、社会状況も含めた、障害に関連する理由に基づく全ての差別をカバーするべき。 その方法としては、規定の仕方や文言において、この趣旨がわかるよう工夫すべきだが、「理由とする」でなく「基づく」「起因する」といった文言にするだけで、確実にこれら全てをカバーできる保障はない。解釈運用の場面で、立法者意思が完全に反映されるとは限らないからである。 したがって、まず定義をおいた上で、「前項の理由には、障害に関連する理由も含まれる」というような規定を注意規定・確認規定として置くことで、趣旨を明確にし、確実にこれらがカバーされるような規定にすべき。 理由 上記@〜Gが全て障害者差別として禁止されるべきことは当然である。 社会状況(他の客のクレーム)のようなものを、差別でないとすると、分離教育や精神病院隔離など多くの差別はこれにより、差別の枠外とされてしまう。また、差別者の主観は被差別者からわからないものであり、そのようなあいまいなもので、区別を設けるべきではない。 したがって、これらを全てカバーする規定を作るよう最大限工夫すべきである。 しかし一般的な定義でそうした趣旨を全て入れ込むことは難しく、解釈の余地を残すことになってしまうのが通常である。そして解釈の余地を残した場合、裁判所の運用の中で、差別の中身が狭く解釈されてしまうリスクが大きい。 よって、差別禁止法の中で、○○の場合も含まれる、という注意・確認規定を置くことで、狭く解釈される余地をなくすことが有用であると思われる。 【竹下委員】 結論 直接差別は全面的に禁止し、間接差別及び関連づけ(起因性)のある差別については限定的に禁止規定を設ける。 理由 1 直接差別は国民の理解が得やすいし、社会的意識の確立も期待できる。 2 間接差別は定義と範囲が未だ不十分であり国民の理解もにわかには得難いので、「具体例」を例示し「それに準ずる差別」という規定方法が妥当である。 3 直接差別は「・・・障害者を理由として」、間接差別は「障害に関連して」「障 害を動機として」という規定になると思われる。あわせて、条約2条でも規定されているように直接差別とも言うべき「目的」性を有する場合だけでなく、「効果を有する場合」をも禁止するという差別禁止規定も必要になるのではないか。 【西村委員】 結論 原則として、障害者等が、自らの機能障害、能力障害及び社会的偏見等に起容して、自らの社会参加や生活場面のすべてにおいて、区別,排除、制限を受けたと自らが感じたときまでを差別の守備範囲とする。 なお、当該状況が差別となるか否かについては、別途、調査等の対応等々は、検討を要する。 理由 1 権利条約の定義から、差別の守備範囲を最初から限定する必要はない。 2 障害者等が受けてきた差別的体験は、必ずしも相手が意図して行ったものではないことやその生活のあらゆる場面で受けてきたものであるため。 3 障害者と同じ人権条約で、その権利擁護と差別禁止の主体とされている子どもや女性に関する国内施策は、いじめ、虐待、セクハラ、性犯罪においては、被害者の受け止め方が重視されている。 4 また、そうした場面は、その人の特定の生活分野に限定したものとなっていないと思われることから、障害者等についても基本視点としては、当事者視点を中心とする必要があると思われるため。 【松井委員】 結論 英国の2010年平等法で規定されている、「障害に起因する」あるいは「(障害の)結果として発生する事由を理由とする」ものまで、差別の守備範囲とするのが適当と思われる。 理由 あとでとりあげられる間接差別や合理的配慮の否定までを差別に含めるには、差別の守備範囲をできるだけ広く規定する必要があるため。 【棟居委員】 (回答)障害者権利条約と同じon the bases of(「理由とする」「基づく」)という表現がよい。条約の国際標準的な運用を差別禁止法の解釈運用の指針とすることが可能となるため(もっとも実際の規定は各国でかなり異なるようであるが)。どのような場合を差別の守備範囲とするかであるが、不利益取扱い→差別(人格権類似の協定の明確な保護範囲が要請される)→現実の損害、という流れでいえば、不利益取扱いがあり現実の損害が発生した無数の事案のなかから、「差別」といいうる特定の類型のみを取り出して、簡易迅速な救済など特段の保護を与えるとすれば、「差別」の範囲は明確でなければならない分、ある程度の限定もやむを得ないと考える。イギリスの2010年法のように、直接差別類型を明示し、一般的な直接差別と区別する方法は合理的だと思われる。 【山本委員】 4に記載した意見を参照。 3、直接差別とされる行為をどう捉えるか ≪検討に当たっての背景や視点≫ 何が直接差別といえる行為であるのか、突き詰めると、2つの側面が問題となると思われます。 1つ目の要素は、異別取扱いすなわち他人と異なる取り扱いであり、2つ目の要素は、不利益取扱いであります。 ところで、障害者の権利条約第5条では、差別の例外として、積極的差別是正措置が差別には当たらず、例外として許容される旨を規定しております。これは異別取扱いが差別であることを前提にしているからであると思われます。不利益取り扱いを差別行為だとすると、そもそも差別には該当しないことになるので、例外としてわざわざ書くまでもないことになります。 また、日本の憲法学でも取り扱い上の差異が合理的か、不合理かといった観点から、合理的区別は差別ではなく、不合理な区別が差別であると論じらてきました。平等権が「区別されない権利」として理解されるべきであると、その点を明確に指摘する学者もおられます。これらも異別取扱いに念頭に置くものです。 さらに、一般に間接差別といわれる概念は、アメリカにおいてはdisparate inpact(異なる効果)と言われるのに対し、直接差別についてはdisparate tereatment(異なる取り扱い)と言われており、異別取扱いかどうかで、直接差別かどうかが議論されていると思われます。 もっとも、障害者の権利条約第2条の差別の定義では、あらゆる差別類型を包含するような形でできておりますので、異別取扱いの要素(区別、排除、制限)と不利益取り扱いの要素(人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するもの)の両者を内包している形となっています。 ところが、外国法制の多くは、不利益取り扱いを差別の定義としております。 このような中にあって、どちらを基本的な要素と考えるかは、そもそも差別が禁止された理由が何であるのか、機会の均等という古典的ではありますが、基本的な価値をどう考えるのかといった視点から取扱の差異に焦点を置くか、結果としての不利益に焦点を置くのか、問われているようにも思えます。また、差別の定義としての明確性、立証の容易性と可能性、積極的差別是正措置などの優遇措置との関係、間接差別や合理的配慮の否定との関係をどう考えるかなど、様々な観点からの議論が求められると思われます。 ≪質問≫ そこで、以上を念頭に置いて、直接差別の基本的な概念や定義をどう考えるか、ご意見を伺いたい。 【浅倉委員】 一般的には、直接差別は、さまざまな差別事由に伴う「異なる取扱い」だと考える。ただし障害という事由の場合は、他の差別事由(たとえば性別など)と異なって、合理的な調整・便宜を行う義務が想定されているために、「異なる取扱い」を積極的に要請するものでもある。すなわち障害に関しては、「異なる取扱い」全般をいったん「差別概念」に入れ込んでしまうと、かえって「差別にはあたらない」例外措置が肥大化してしまうことにならないだろうか、懸念がある。したがって、障害に伴う「不利益取扱い」を、直接差別の禁止対象としておいたほうがよいのではないか。 【池原委員】 結論 直接差別の基本要素は以下のように考えます。 類似の条件下で、障害のない者が現に経験し、あるいは経験したことがあり、あるいは経験すると想定される取り扱いに比べて、障害に関連して、不利益な取り扱いを行うことであって、当該不利益取り扱いが厳格審査基準から許容(憲法上の基本権と同程度の重要な利益を守る目的があり、その目的を達成するために必要不可欠な手段であることが証明)されない場合であること。 理由 英国法あるいは欧州法の直接差別の考え方を基本的に参照すべきと思われる。直接差別と間接差別の概念化、範疇化については、それぞれの範疇についての例外(許容される差別)の基準や範囲が異なるかどうかを関連させて検討すべきである。EUにおいても、直接差別は間接差別に比べて例外を厳しく限定しており、厳格審査基準またはそれを立法化した法定の例外事由に該当する場合いがいは許容されない方向にある。差別判定者の裁量、とりわけ司法裁量を統制するためには、協定の範疇に該当した場合には極めて例外的な場合以外は差別として許されないとすることは、「合理的差別」は許されるとして、合理性の議論で、結局、差別を許してしまう法適用を阻止するうえで重要だと思われる。 なお、直接差別にしても間接差別にしても、規定や取り扱いの基準が中立的か、障害を狙い撃ちにしているか、という観点から判定する目的指向的方法から、結果として社会的排除や人権の享受を阻害する効果が生じているかという観点から判定する効果指向的方法に判定の力点が移ってきているようにみられる。この観点からは、協定の不利益が生じていることに着目することは意味があると考えられる。現実に紛争が生じる事態において、まったく不利益を生じていない純粋な「区別」というものがあるか、実務上想定しにくいが、そのような区別があるとした場合、それを差別概念に含める必要はないと思われる(なお、障害者権利条約も、区別で「であって」目的・効果を有するとし、両者は関係代名詞でつながれている)。また、積極的差別是正措置が差別とならないと定めることは、必ずしも「別異取り扱い」を差別とし、「不利益取り扱い」を差別の要素としないことを意味するものではないのではないか、と考えます。積極的差別是正措置が差別にならないとの規定は、そのような措置が、その対象にならない人にとっては特典を受け得ない点で、例えば障害のない人を相対的に不利益な地位に置くことになることについて、指摘していると読むこともできる。英国平等法(13−3)では、Bが障害者ではない場合、Bに対する処遇に比べてAが障害のある人を優遇したという理由だけではAがBを差別したことにはならないとされている。 【太田委員】 結論 障害に基づく異別取り扱い、その概念の核となし、それに基づく不利益状態の有無によって、直接差別であるかどうかの決定づけを行う。 JDF委員の意見 ・直接差別の基本的な概念、定義は、別異扱いと不利益取り扱いの両者を内包すべきであり、そうした規定ぶりが必要と考える。 ・異別取り扱いと他のものと平等な基本的権利の享受侵害とすべき 理由 上記の問題設定で、ほぼ理由は言い尽くされていると思う。合理的配慮の提供を受けることによって、他の者との平等が確保される場合もある。また一般施策と異なる障害固有の施策(雇用促進法における法定雇用率などはその一例)を受けることによって、他の平等を確保しえる。 精神障害だから有無を言わさず、精神病院に入院させられたり、重度の身体障害だから、などの単純な理由で施設へ入所させられる、別の言葉で言えば身体を拘束させられるということは、現在もまだあることである。 「障害者は他のみんなと違う働く場が用意されているから」「障害者は他のみんなと違う住む場が用意されているから」との理由を付け「そっちに行った方が幸せで安心でしょう」という意識が人々の中には根強い。これも標準化された人たちを中心に社会制度や環境が作られているところから生み出された意識といえよう。 JDF委員の意見 今回の制度改革の軸は障害者権利条約であり、権利条約の目的の一つは完全かつ効果的な参加とインクルージョンである(第3条)。この原則を受けて、第19条では地域での自立生活の権利を、第24条では、原則インクルーシブ教育規定を行っているところである。障害者権利条約が規定する障害に基づく差別の禁止(第2条、第4条、第5条等)はこの文脈で行われなければならず、今回、検討している差別禁止法制度も、法の目的を上記、障害者権利条約の目的に沿ったものでなければならないと考える。 主に不利益取り扱いのみに焦点を置き、結果の平等のみを指向した場合、そこに至るまでの過程において、障害のあるなしにかかわらず共に平等に生きる社会=インクルーシブ社会の形成という目的の達成が困難になる可能性がある。結果の平等とは何か、ということが問題である。衣食住(服を着ること、食べること、屋根のあるところに住むことができること)が平等である、その目的のためには分離や隔離も許容される、ということが成り立ちかねない。 異別取り扱いプラス「不利益」となると、自体その利益不利益は何を基準に判断されるのかという問題が出てくる。 極端な例が強制医療であり、精神障害者は明らかに異別取り扱いで強制入院させられているが、それは本人の医療と保護のためであり、不利益処分とされていない。 「不利益処分取り扱い」ではなくあくまで他のものと平等な人権享受侵害とすべき 【大谷委員】 結論 異別取扱いと不利益取扱いの双方を含むものとするべき。 理由 平等権はまずは形式的平等が保障され、すなわち同一取扱いが保障され、同一取扱いでは実質的に平等とならない(不利益となる)場合に、異別取扱いが許容される。これは長く女性の労働権で「保護か平等か」の論争としてもあったところであるが、現在では、まずは同一取り扱いとし、女性固有の問題を出産と母体保護に絞り、これを理由とする保護条項は残す(加えて男性にも家族責任を課す)、ということになった経緯がある。また少数民族の文化および特に母語保障(アイデンティティ保障)は同一取扱い(排除されずに)の上で、実質的平等のための母語教育が保障されるべきとされている。 よってまずは障害者の場合も同一取扱いが保障されるべきであり、そのうえで障害特性に応じた異別取扱いが合理的配慮もしくは支援として保障されるべき。 なお異別取扱いの類型とされている区別・排除・制限であるが、排除および制限はそれ自体で不利益取り扱いになる。この場合は、結果として不利益な結果となったかを問うまでもなく排除されたこと自体においてすでに不利益が擬制されているとして差別になる。よって問題は区別だけである。 例えば教育で、障害を理由に地域の学校・学級から排除するとか、あるいは修学旅行への参加を制限するとかはそれだけで直接差別である。これは分離された教育システムはそれだけで、排除された方に劣等感を産み、排除した側に優越感を産むものとして、どのようにそこがパラダイス的な空間であっても差別であるとしたブラウン判決以来公知のものである。もちろんこれはわが国においてもハンセン病に対する隔離施設の違法判決で確定している。 問題は障害特性に応じた別カリキュラムが異別取扱いとして差別になるかどうかだが、同一取扱いが保障された上で、それが強制されない限り、すなわち本人もしくは保護者の同意による場合は形式的平等を補完するもの、すなわち合理的配慮もしくは支援として保障されるべきものとなる。これは少数民族のアイデンティティ保障を、排除された空間で独自のカリキュラムを強制するということが差別になることと同じである。 また異別取扱いが結果として不利益を伴わない場合の問題については、まず何が利益か不利益かの問題が発生し、その内容及びこれの立証責任の問題が発生する。これについては同一取扱いが明らかに当該個人にとって不利益であると立証されない限り異別取扱いの強制は許されない、とするべきである。そのためにもまずは同一取扱いが原則であることの周知、すなわち、異別取扱いは原則として差別であることの明示規定が必要である。 【竹下委員】 結論 障害者差別における直接差別とは、障害を理由とする基本的人権を侵害する行為である。 理由 障害を理由として不利益取扱いをするということは、法の下の平等を害する行為であり、障害者の尊厳を傷つける行為である。それは障害を理由とするものである限りは、たとえ何らかの正当と思われる根拠に基づくものであったとしても、障害者の基本的人権が侵害されるものである以上は正当事由による違法阻却ということはあり得ないのである。 【西村委員】 結論 直接差別は、原則として以下のとおりとする。 1 機能・能力障害に基づき、障害者等の意向を無視した一般的対応とは異なる特定の対応で、その対応が、一般的対応に比較して不利益な取扱いとなる場合 2 直接差別以外にも間接差別及び合理的配慮を別途、検討会定義することが必要である。 理由 直接差別は、以下の要素が含められていると思われるため。 1 障害者等を対象とする特定の範囲に対する特定の行為である。 2 この行為の実施にあたっては、障害者等の意向を無視または尊重していない。 3 この行為の結果、障害者等は、一般的対応を受けている人々と比較して不利益な状況におかれる。 【松井委員】 結論 障害者権利条約第2条の差別の定義にあるように、「異別取扱い」と「不利益取扱い」の両方を差別の定義に含めるのが、適当と思われる。 理由 「不利益取扱い」だけでなく、「異別取扱い」も差別として含めるのが適当と思われる理由は、両者は往々にして不可分の関係にあると思われるからである。たとえば、精神障害者の場合、障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)を持っているものは、全体の2割にも満たないが、その主たる理由は、精神障害があることを公にすることによるメリットよりも、むしろデメリットの方が大きいからである。 また、障害者雇用率を達成するためのひとつの手段として設立された「特例子会社」や「障害者枠」で採用された障害者のキャリアパスは、その他の従業員と比べ、かなり限られていることが多い、それは「異別取扱い」に該当すると思われる。 【棟居委員】 (回答)結果としての不利益に焦点を置くのではなく、機会の実質的均等化を中心にかんがえるべきである。 (理由1)性別や人種のように、人間がAかBかというグループにもともと分かれているわけではなく(グループ問の対立であれば利益の再分配によるグループ問の補償も可能であるが)、障がい者差別は、個人それぞれのさまざまな機能障害と、それを社会的に排除してくる社会の側の問題との相乗効果から生まれる、いわば人為的に作られた範疇的な差別である(本来は、障がい者というひとかたまりのグループは存在しない)。不利益にのみ焦点をあてると、障がい者が千差万別であることから、不利益解消のための利益供与がなされた場合、どう利益を配分するかで問題を先送りすることになる。また障がい者差別の本質は、社会からの排除であるから、積極的施策で機能を補ってでも、社会参加を促進する必要がある。利益の補償だけでは解決しない。 (理由2)また、障がい者差別は、性差別や人種差別のように「目をつぶれば差別がなくなる」という性質のものではない。つまり、形式的に機会を均等にすれば解消するわけではなく、機能障害を補うべく、合理的配慮として協定の積極的施策が必要である。個人の機能障害が社会参加を妨げている場合に、それを合理的配慮により社会の側(雇用者等や国)の費用負担で社会参加を可能とすることが求められているのであり、性差別のように差別禁止とアファーマティブアクションを区別することはできない。 【山本委員】 4に記載した意見を参照。 ≪質問≫ 4、その他、直接差別において、論議すべき点があれば、ご意見を伺いたい。 なお、例外事由や挙証責任、さらには直接差別と間接差別と合理的配慮の三類型の相互の関係などの問題は、後日、論じていただくつもりです。 【池原委員】 結論 @ 欠格条項について検討してはどうか。 A 障害を理由とする差別的自由剥奪について(障害者権利条約14条1b)、精神保健 福祉法および医療観察法の強制入院の差別性を検討してはどうか。 理由 現行法の中に障害差別法や障害差別規定が多く残っており、障害差別禁止法の制定に当たっては、現行法の障害差別規定との矛盾を解消する必要がある。 【太田委員】 結論 質問の答えになっているかどうか自信は持てないが、例えば芸能界やファッション界、飲食業など、容姿が重要視されている業界に、障害のある人が就職希望し、応募した時、「ここはあんたたちが来るところじゃないよ」と門前払いするような場合もあり、法的規制の対象とするかどうかは別として、議論の対象とされてよいのではないか。 また公共施設(ジム)などに「精神障害の方はご利用できません」などの張り紙がしている場合もある。 更に被成年後見人に、選挙権が与えられないことなど。 理由 障害に対する一面的な固定概念が存在する。そこから、履歴、写真の写り方、見た目だけで、その人の総合性までもが判断されてしまう。 【竹下委員】 結論 障害者差別において類型分けをしたうえで、禁止条項を設けることは重要である。 理由 1 国民に対し禁止される行為を明確に示し、行為規範とすることができる。 2 立証責任(挙証責任)を考えるうえで、直接差別と間接差別とではその構造が異なる。 3 ただし、直接差別という定義をしてみても、概念は曖昧になる場合がある。 障害が差別の理由となっている限りは、全てを「直接差別」と位置づけることもできるからである。 【西村委員】 結論 1 「一般と異なる意図的で不利益な取扱い」とそうした取扱いの理由とされる「安全性、合理性及び妥当性の有無」との相関関係について 2 交通事業主等の判断による障害者等の利用の制限、制約及び拒否について 3 障害者等の利用を想定していない結果、生じている制限、制約及び排除について 4 過度な負担について 理由 1については、以下の具体的事例があるが、これらは、安全性、合理性及び妥当性があるとして当事者の意向を無視して、実施されることもあるが、どうとらえるか。 4については、その基準、判定等々を別途、検討することが必要である。 ・航空会社が事前に確認できていない場合に安全性の確保がされないことを理由として電動車いすやガススプリングを使用している車いすの搭載を拒否することについて ・航空会社が搭乗前に実施している本人の電動車いすと航空会社への車椅子への乗り換えについて(当事者は自身の電動車いすに長く座ることが座位保持等からも必要なため機側乗り換えを希望するが航空会社の意向と反する場合がある。) ・モノレール運行会社が実施している障害者の乗車車両との選択拒否(運転手と同じ車両に乗車させる)について ・JRが実施している電動三輪車の乗車拒否について ・映画館における火災避難を想定して一般席に移乗した障害者の車いすの取扱いについて(消防法に基づき観客の避難経路の確保を理由に歩行困難者の近くから車いすを遠方に置く) 2及び3については、公共交通における車いす使用者等への「乗車拒否」の理由として、もっとも多いのは、通常の自走型の手動車いす使用者の利用は想定しているが、それ以外の車いすの利用を想定してつくられていないというものである 以下、去る6月28日(火)JDF(日本障害フォーラム)の差別禁止法小委員会に傍聴を求められて提出した障害者の資料を参考として提出する。 【バリアフリー新法のある現状の中での「乗車拒否」の実態】 ―これらの「乗車拒否」は「障害者差別」と言えるのか― 2000年の交通バリアフリー法、2006年のバリアフリー新法のある下で、足の不自由な高齢者や障害者の移動制約者への「乗車拒否」の改善に向けて取り組んできた障害当事者としての意見です。 日本では十全な社会生活をおくるのに欠くことのできない公共交通としての地下鉄や鉄道による深刻な「乗車拒否」事例で有名な「ハンドル式電動車いす使用障害者や高齢者」への「乗車拒否」があります。また、交通バリアフリ立法のバス車両基準適合の低床バスによる数々の車いす使用者への「乗車拒否」事例があります。 いずれの「乗車拒否」事例も、いわゆるバリアフリー化設備の下で起こっています。 それは、狭義の意味のバリアフリー化基準に適合していない設備だが、物理的に利用できる範囲という意味から、広義の意味のバリアフリー化基準に適合している設備で、通常の多くの車いす使用者は利用できているのに、特定の車いす使用者は、事業者の恣意的な制約条件に当てはまるという理由で、駅員等による排除行為の伴うものです。 それぞれの「乗車拒否」の様態は、様々に異なって現れますが、いずれも、「乗車拒否」してはならない、「乗車拒否」させてはならない、という「乗車拒否」禁止条文が、交通バリアフリー法にもバリアフリー新法にもありませんでした。どうしたことか、都道府県の福祉のまちづくり条例等にもありません。 つまり、障害者や高齢者の「社会参加」を促進するための法律がありながら、障害者や高齢者の「社会参加」機会を奪い続ける「乗車拒否」等についてのバリア認識が、まったく無いことから、「乗車拒否」を無くせないのです。 さて、この様な現場の中、これらの「乗車拒否」等は、「障害者差別」なのでしょうか?障害者差別禁止条例のある自治体で、これらの「乗車拒否」等は、「障害者差別」なのでしょうか?あるいは、「障害者差別」として確定できるのでしょうか? ひいては、「障害者差別禁止部会」では、これらの「乗車拒否」等は、「障害者差別」なのでしょうか?あるいは、「障害者差別」として確定できるのでしょうか? 【山本委員】 (1)直接差別の意味と成立要件 (a)「直接差別」が問題となるのは、相手方が、障害者以外の者に対しては、「要件T1が備わるときは、Rをする」(この場合のRは作為または不作為を意味する。以下同じ。)というルール甲にしたがって行動する場合、または、行動すべき場合において、障害者に対して、このルール甲を適用しないとき―つまり、当該障害者は要件T1を備えているのに、Rをしないとき、または、当該障害者が要件T1を備えているかどうかを判断することなく、Rをしないとき―ではないか。 (b)これによると、実際に直接差別を受けた障害者Xが相手方Yに対して差別を理由とする請求をする場合には、次の要件が備わる必要があると考えられる。 @相手方Yが、「要件T1が備わるときは、Rをする」というルール甲にしたがって行動していること、または、行動すべきであること 質問事項1に即していうと、たとえば、 ・「歯の不具合を訴え、受診を求めてきたときは、治療をおこなう」というルールにしたがって行動していること、または、行動すべきであること ・「成年者が(対価の支払いと引換えに)アルコール類の提供を求めてきたときは、そのアルコール類を提供する」というルールにしたがって行動していること、または、行動すべきであること ・「高等学校を卒業した者には、所定の賃金を支払う」というルールにしたがって行動していること、または、行動すべきであること A当該障害者Xが、ルール甲の要件〒1をみたしていること、または、当該障  害者Xがルール甲の要件〒1をみたしているかどうかを相手方Yが判断しな  かったこと B相手方Yが当該障害者Xに対し、Rをしなかったこと 以上によると、差別が問題となるのは、@が認められる場合であることが重要である。これによると、相手方Yが、特別なルールによらずに、自由に判断することが許される行為については、そもそも差別が問題にならないのではないか。相手方Yが事業者でなく、当該行為を反復・継続しておこなっていない場合に、当該行為をすることを求められたときが、それにあたると考えられる。 たとえば、相手方Yが婚姻や養子縁組をする場合はもちろん、相手方Yが一般私人であり、特に処分を予定していなかった財産(不動産や骨董品等)について処分の申込みを受けたような場合は、特別な事情がないかぎり、差別は問題にならないのではないか。 (C)なお、質問事項3に関していうと、以上の要件の理解は、差別を異別取扱いとみる考え方にもとづく。これに対し、差別を不利益取扱いを含むものとみる考え方によると、さらに、次の要件が必要になると考えられる。 C相手方Yが当該障害者Xに対し、Rをしなかったことにより、当該障害者Xが不利益をこうむったこと(同じ状況のもとで他人ならば得られたはずの利益が得られなかった、または、同じ状況のもとで他人ならばこうむらなかったはずの不利益をこうむったこと) (2)直接差別の阻却要件 (a)これに対して、「直接差別」の場合でも、当該障害者Xにルール甲を適用しなかったことに合理的な理由があるときは、差別を理由とする請求は認められないのではないか。これによると、差別を理由とする請求は、次の要件が備わる場合には、しりぞけられることになると考えられる。 {a}相手方Yが、ルール甲に対し、「ただし、要件T2が備わるときは、Rをしない」という例外ルール乙にしたがって行動していること、または、行動すべきであること 質問事項1に即していうと、たとえば、 ・「不随運動等により、適切な治療ができない恐れがあるときは、治療をおこなわない」という例外ルールにしたがって行動していること、または、行動すべきであること ・「電動車いすに乗っている者には、アルコール類を提供しない」というルールにしたがって行動していること、または、行動すべきであること ・「養護学校を卒業した者には、高等学校卒業者に支払われる賃金を支払わない(中学卒の賃金しか支払わない)」というルールにしたがって行動していること、または、行動すべきであること {b}当該障害者Xは、例外ルール乙の要件T2を備えていること このうち、{b}の要件については、さらに、相手方Yが、当該障害者XにRをしないという決定をした時に、当該障害者Xは例外ルール乙の要件T2を備えていると判断し、かつ、そのように判断したことが不相当といえない場合にも、差別を理由とする請求を否定してよいと考える可能性もある。このような免責を認めるかどうかについて、さらに検討する必要があるのではないか。 (b)以上の{a}{b}を直接差別の阻却要件として位置づけると、障害者の側は、当該障害者に対して「異別取扱いがおこなわれたこと」の証明責任を課せられるにとどまり、相手方が「当該異別取扱いは障害を理由とする差別ではないこと」の証明責任を課せられることになる。このような証明責任の分配が適当かどうかについては、なお慎重な検討を要すると考えられる。 (C)このほか、例外ルール乙が認められる場合でも、障害者であれば、通常、例外ルール乙の要件T2を備えることになるときは、間接差別と同様の問題となるため、この例外ルール乙の正当性が問題とされることになるのではないか(直接差別と間接差別が交錯することがあるのは、このためだとも考えられる)。これによると、この場合は、以上の{a}{b}に加え、さらに、次の要件が備わるときに、差別を理由とする請求がしりぞけられることになると考えられる。 {c}相手方Yが例外ルール乙を採用すること(「要件T2が備わるときは、Rをしない」こと)を正当化する理由があること この{c}が認められるかどうかを判断する際には、次のような要因を比較衡量することになるのではないか。 {α}相手方Yがルール乙を採用することにより得られる利益の大きさ、および、ルール乙を採用しないときに生ずる弊害の重大性 {β}当該障害者Xにとって相手方YからRを受けられることにより得られる利益の大きさ、および、当該障害者Xにとって相手方YからRを受けられないことにより生ずる弊害の重大性 (d)上述したように、差別を異別取扱いとみる場合において、積極的差別是正措置は許容されると考えるときは、次の要件が備わるときに、差別を理由とする請求がしりぞけられることになると考えられる(このようなことが問題となるのは、障害者以外の者が積極的差別是正措置の差止めを求める場面であると考えられる)。 {d}相手方Yが当該障害者Xに対し、Rをしなかったことにより、当該障害者Xが利益を取得すること(同じ状況のもとで他人ならば得られなかったはずの利益が得られたこと、または、同じ状況のもとで他人ならばこうむったはずの不利益をこうむらなかったこと) 第2、間接差別 1、間接差別という差別類型の必要性 ≪お願い≫ ア)間接差別に当たると思われる事例として具体例をお持ちの方は紹介していただけませんでしょうか。 【池原委員】 事例 @ 成年被後見人に選挙権・被選挙権を認めないという現在各地で訴訟が行われている事案は、直接差別と間接差別の区別や要件を考える上で参考になると思います。 A 事理弁識能力が不十分であるとされる人の行為能力を制限する立法(成年後見制度)は、法的能力の平等性の観点で、間接差別の検討素材にできると思います。 【太田委員】 事例 電動車イス利用者というだけで、レストランから飲酒の提供を拒否される。 ハンドル型車イスやフラット式(ストレッチヤー式)車イス利用者というだけで、鉄道の利用を拒否される。 ALS患者というだけで、フェリーの乗車を拒否される(もしかしたら直接差別に入ってしまうかもしれない)。 聴覚に障害を持っているというだけで、情報保障ができないという理由で、入社試験を落とされる。 ある集会(イベント)に聴覚障害者が参加したが、情報保障が提供されていないので、内容が分からない。 政見放送の情報保障がない。 選挙広報に点字版がない。 銀行に行き預金通帳を作ろうとしたが、サインができないとの理由で、断られた。 飛行機に搭乗する際、細かい健康状態などのチェックを受け、承認を受けなければならない。 日常生活については自分自身でほとんどできるにもかかわらず、ホテルから介助者がいないと宿泊はできません、と言われる。 難病を持っていて、仕事を休むことが多く、「やる気がない」という理由で職場を辞めさせられる。 JDF委員の意見 ・あるビジネスホテルで、全盲の視覚障害者が単身宿泊を断られた。そのホテルは小規模で、夜間、職員が2名程度しかおらず、万一の時に自力で避難できない方はお断りする、という内部のルールがある、との理由だった(「ルール」という言い回しだったかどうかは定かではないが、大体このような意味)。 安全性の確保という抗弁、正当化事由は考えられるが、そのホテルは小規模であり、ホテル出入口近くに当該視覚障害者に部屋を割り当て、避難経路について、2,3度オリエンデーリングすれば、最小限の配慮で十分に緊急時の安全を確保できると思われたからである。 差別類型としては合理的配慮義務との関係が問題となるが、当該案件は拒否の理由が一般的なルールに基づき、結果的に当該障害者に不利益を与えた、ということで、類型上は間接差別に該当すると思われる。 ・精神障害者の場合はっと働けるときになったら40歳近くなっていたあるいは40歳を過ぎていたということがありますが、正規職員の募集については若年者への配慮から雇用対策法10条の例外に引っかかって正規職員になれないということがある。とりわけ公務員の場合は少なくともこの年齢条項は間接差別と考える 雇用対策法 〉(募集及び採用における年齢にかかわりない均等な機会の確保) 〉第十条 事業主は、労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要である 〉と認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、労働者の募集及び採用に 〉ついて、厚生労働省令で定めるところにより、その年齢にかかわりなく均等な機 〉会を与えなければならない。 〉 長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合(3号のイ) 長期勤続によるキャリア形成の観点から、新規学卒者等をはじめとした若年者等を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合には、上限年齢を定めることが認められます。 ただし、「対象者の職業経験について不問とすること」、「新規学卒者以外の者にあっては、新規学卒者と同等の処遇であること」の2点を満たす必要があります。 ○ 「35歳未満の方を募集」(経験不問) ○ 「40歳未満の方を募集」(経験不問) 「若年者等」とは、必ずしも35歳未満に限られるものではありません 【竹下委員】 事例 京都府の障害者特別採用制度において、「単独で通勤できること」「単独で印刷文字が処理できる者」という要件を設けていたことがある。その結果として、車いす使用者や視覚障害者が障害者特別採用制度から排除される結果となっていた。 【西村委員】 事例 <地方自治体の障害者枠採用試験における応募要件> ・活字印刷物に対応可の者 ←→ 点字を必要とする視覚障害者 ・口頭面接に対応可の者 ←→ 手話通訳、文字通訳を必要とする聴覚障害者 ・介助者なしで職務遂行可の者 ←→ 介助を必要とする全身性障害者等 ・自力通勤可の者 ←→ 公共交通機関及び自家用車通勤が困難で移動支援や福祉移送サービス等を必要とする移動制約者。 <地方自治体の一般採用試験における応募要件> ・体力検査の実施 ←→ 求められる運動機能に障害のある肢体障害者等 ・自家用車での来場不可 ←→ 公共交通機関を利用できない車いす使用者等 ・グループディスカッションの実施 ←→ 手話や音声通訳を必要とする聴覚障害者や言語障害のある障害者等 ・健康診断の実施 ←→ 内部障害者 <ハローワークの障害者採用における勤務要件> ・身障者用トイレなし ・建物内移動車いす不可 ・ 自力通勤可能者 <その他> ・試験会場がバリアフリーではない ・試験会場まで行くことができる交通アクセスない 【松井委員】 事例 全国的な障害関係機関などで専門職員などを募集する際の募集要項に、「当該機関の(全国)施設間で転勤がある」ことが明記されている場合が多い。本人自身に障害や難病などがある男女、あるいは障害や難病のある子女を扶養している男女の場合、特定の医療機関などに定期的に受診する必要があるために全国的な転勤ができず、受験を差し控えざるをえない場合がある。あるいは、就職後でも前述のような事情で転勤ができない場合、キャリアや雇用条件上不利益を被る可能性が少なくないが、そうした場合も、間接差別に該当すると思われる。 ≪質問≫ イ)以下の事例について、間接差別の類型として把握すべきか否かについて、事例ごとに、ご意見を伺いたい。 一般採用試験で受験または採用の要件として以下の規定を障害の有無にかかわらず適用すること (1) 一般公共交通機関を利用すること。 (2) 活字印刷物の判読が可能であること。 (3) 電話対応、面談が可能であること。 (4) 自家用車通勤が不可であること。 (5) 試験申込書・受験票の記入は、自書であること。 【浅倉委員】 結論 間接差別の類型として把握する事例であろう、と考える。ただし、間接差別という主張以外にも、合理的便宜を求める事例として扱うことも可能だと思う。 【池原委員】 結論 いずれも間接差別類型と把握できると思います。 理由 直接差別と間接差別の区別は、従来、前者は、規定等の形式から障害を明示して別異取り扱いの対象としているのに対して、後者は、規定等の形式上は中立的な規定で、障害を名指しにしたり、特別に別異取り扱いの対象とはしていないが、結果として障害のある人が別異取り扱いの対象にされてしまう場合というように理解されている。しかし、差別の判別の重点を形式から実質へ、差別者側の事情から被差別者側の事情へと移していくとすると、直接差別において重要なのは、平等権侵害の疑いの高い類型である障害が実質的にターゲットにされている場合は、直接差別とされるべきであり、規定等が中立的でも、それを適用した結果、障害のある人の集団だけに不利益取り扱い結果が生じる場合は、規定上は障害が名指しされず、形式上は障害を狙い撃ちするもなでないとしても、直接差別として差別とし、例外としての許容は厳しく限定されるとすることが適切である。他方、間接差別については、障害のある人の集団だけに不利益が生じるのでなくても、相対的にみれば障害のある人の集団に不利益取り扱いの結果が生じる場合を広く含むことにし、それに対応して、これも原則として差別になるが、例外の許容範囲は直接差別よりは広いという枠組みを作ることが適切であると考える。近時の欧州法、英国法はこうした方向にあるものと理解できる。 【太田委員】 結論 (1) ○ (2) △ (3) 〇 (4) 〇 (5) 〇 JDF委員の意見 ・それぞれ、正当化される理由がなければ、間接差別類型に入ると思われる 理由 (1) 原則的には、事業者がどういう交通機関を使ってまで来るかについて指定すべきではなく、事業主が人を採用する場合の、求められる本質ではない。 (2) 間接差別でもあり、介助者を付けてサボートするなり、他の方法で文書が読めるようにすべきであり、合理的配慮の欠如でもある。 (3) 他にも職種があると想定され、それならできるかどうかが、職務遂行の本質とは思われない(もちろんそれが本質的職種となりうる例外ケースも想定されるが)。 (4) これも(1)と同様事業主が指定すべきことではない(ただ(3)と同じく他の交通機関がない場合など例外ケースも考えられる)。 (5) これについては、自書できない障害者も全て排除するもので、明らかな間接差別である。 JDF委員の意見 ・全ての要件において、障害者に不利になると思われるものは、ごく一般的に障害のない人に利用されているものであり、それを要件化したことは、外見上、中立の要件により、結果として特定の障害者に不利益を与えるという間接差別の概念に合致するからである。 【大谷委員】 結論 全て間接差別の類型として把握すべきである。 理由 これらの採用条件は、一見、正面から障害をターゲットにしていないという意味で中立的な規定であるが、実質的に見れば、車いす対応の自家用車で通勤したい障害者(1、4)、点字しか判読できない視覚障害者(2)、口話ができず、したがって電話ができない聴覚障害者(3)、上肢に障害があったり視覚障害があるため、点字またはパソコンで記入ができるが自書できない障害者(5)を排除しているからである。 【竹下委員】 (1)結論 間接差別に該当する 理由 障害を直接の不利益取扱いの理由とはしていないものの、公共交通機関を利用することが障害ゆえに不可能ないし困難である者を結果的に排除することになるから。 (2)結論 直接差別に該当する 理由 視覚障害または知的障害による能力障害を直接の差別事由(不利益取扱いの理由)としているから。 (3)結論 直接差別に該当する 理由 身体障害による能力障害を直接の差別の理由としているから。 (4)結論 間接差別に該当する 理由 身体障害ゆえに自家用車(改造車)を使用せざるを得ない者を結果的に排除することになるから。 (5)結論 直接差別に該当する 理由 身体障害(視覚障害または四肢障害)による能力不全を不利益取扱いないし排除の直接的理由にしているから。 【西村委員】 結論 間接差別の類型とするべきである。 しかし、試験実施者が、当該項目の設定が結果的に特定の障害者を排除することを承知している場合は、直接差別の類型にするべきである。 理由 障害者を特定していないが、結果として以下の状況が生じている。 (1) 一般公共交通機関を利用すること 公共交通機関が利用できないため自家用車や福祉移送サービス等を利用している障害者は、排除される。 (2) 活字印刷物の判読が可能であること。 活字を読むことが困難で、点字を必要としている視覚障害者は排除される。 (3) 電話対応、面談が可能であること。 音声聞き取りが困難で手話・文字通訳を必要としている聴覚障害者及び音声言語に機能障害がある場合も排除される。 (4) 自家用車通勤が不可であること。 上記(1)とも重なるが公共交通機関を利用することが困難な車いすを使用している歩行困難な障害者等は、排除される。 (5) 試験申込書・受験票の記入は、自書であること。 自筆で文字を記入することが困難な上肢に障害があると排除される。 【松井委員】 結論 ここで例示されていることを理由に受験や採用の要件とすることは間接差別になると思われる。 理由 ここで例示されていることは、職務とは直接関係がないか、あるいは代替手段または合理的配慮により、職務の遂行にはほとんど差支えないようにできることであることから、そうした配慮などをせず、それらを受験や採用の要件とすることは、差別といえる。 【棟居委員】 (回答)仕事の本質的部分を(合理的配慮、場合により適切な業務内容の割り当てをすれば)こなすことができるか、という観点からの採用条件のみが許されるとかんがえます。 (1)一般公共交通機関を利用すること。→はい。 (2)活字印刷物の判読が可能であること。→いいえ。 (3)電話対応、面談が可能であること。→はい。 (4)自家用車通勤が不可であること。→はい。 (5)試験申込書・受験票の記入は、自書であること。→はい。 【山本委員】  3に記載した意見を参照。 ≪質問≫ ウ)合理的配慮を差別類型に取り入れれば、間接差別の概念は必要性がないなではないかという意見もあるかとは思います。そこで、合理的配慮の問題とは、別個の問題として、間接差別の概念が必要か否かについて、前記の事例、もしくは委員のお持ちの事例を通して、ご意見を伺いたい。 【浅倉委員】 結論 ほとんど合理的配慮の問題に吸収されるとは思うが、それでも間接差別禁止概念を設けないことについては、大きな懸念を感じる。 理由 間接差別は、差別をする側が当該非差別者の障害を知らない場合でも、主張可能である。しかし合理的配慮の問題は、配慮を求める側が自らの障害を明示して配慮を求めてはじめて成り立つ差別概念であろう。そこが両者は異なるのではないかと考える。また、禁止されるべき間接差別概念は、差別に関する社会の認識が深化するにっれて新たに創設される範囲が拡大するものであるので、条文として規定しておく必要性はあるのではないか。 【池原委員】 結論 合理的配慮とは別個に間接差別を差別類型として明示することは必要だと思います。 理由 合理的配慮は、不作為状態が差別状態を生んでいるときに、あるべき配慮を作為として求めるものであるのに対して、間接差別は作為・不作為にかかわらない。また、間接差別の事態に対して、合理的配慮を求めることで差別状態が解消されることもあるが、損害賠償を求める余地もあり、特に合理的配慮がなされるまでの問の差別状態については損害賠償を求めるほかない。また、間接差別の前提になっている規定等について、無効や限定的適用、修正、廃止などの措置を求めれば、合理的配慮が不要な場合も考えられる。 【太田委員】 結論 必要である。 JDF委員の意見 ・援接差別の概念は必要である ・援接差別については規定が必要 理由 例えばあるレストランで、電動車イスを利用していることを理由に飲酒の提供をしないところがあるが、これは合理的配慮によってどうにかなる問題でもない。 また介助者なしで身辺のことは自分でできるにもかかわらず、車イスを利用しているという理由でホテルの宿泊を断られる場合などについても、合理的配慮の問題ではなく、「車イス利用者」を、介助が必要なんだろうという思い込みなどによって、拒否しているので、間接差別として取り上げられる必要がある。 JDF委員の意見 ・機会を得る以前の入り口の部分で、障害を名指しせず、外見上中立的な規則、規定等で、実質的に障害者を排除する場合があるためである。 ・上記例のように入り口で年齢基準においてそもそも応募できないという場合、合理的配慮では解決できない 【大谷委員】 結論 間接差別の概念は必要である。 理由 上記の事例において、これらを合理的配慮義務違反だととらえた場合、求められている合理的配慮は以下のような内容になる。 (1) 一般公共交通機関を利用すること。 →かかる採用条件を撤廃すること (2) 活字印刷物の判読が可能であること。 →かかる採用条件を撤廃し、点字資料を用意すること (3) 電話対応、面談が可能であること。 →かかる採用条件を撤廃し、電話対応のない職務に聴覚障害者をつけるようにすること、面談の際は筆談や手話通訳を認めること (4) 自家用車通勤が不可であること。 →かかる採用条件を撤廃すること (5) 試験申込書・受験票の記入は、自書であること。 →かかる採用条件と撤廃し、パソコン入力できるようなデータを提供するなどすること こうして見ると、撤廃するだけでよい場合と、撤廃するだけでなく何らかの行為・措置が要求される場合とがある。 撤廃するだけでよい場合は、間接差別という概念でくくった方が端的である。また、「撤廃」を合理的配慮の内容とするのはおかしいとの反論にも対応できる。 しかし撤廃するだけでは足りず、何らかの行為・措置が求められるものについては、間接差別概念では足りない。合理的配慮義務違反という差別類型によって、初めて障害者が採用され、就労することが可能となる。 なお女性差別などの場合も、規程を撤廃するだけでなく何らかの行為・措置が求められる場合はあるが、障害者の場合ほど、個別性がなく、求められている行為の内容がわかりやすいことから、女性差別においては合理的配慮義務という概念が用いられていないものと考えられる。これに対し、障害者差別においては、求められる行為・措置の内容が、必ずしも障害種別などから画一的に明らかになるものではなく、個々人のニーズが多様であるため、合理的配慮義務という概念が必要になるものと考えられる。 【竹下委員】 結論 合理的配慮という概念を持ち込む場合であっても、間接差別という類型分けと禁止規定は必要である。 理由 合理的配慮の義務が差別の1類型として位置づけられる場合であっても、それによってはカバーできない差別類型が存在するからである。たとえば、前記の通勤における自家用車の禁止は合理的配慮の義務の有無とは無関係であるし、無意識に差別という結果を招来する行為においても合理的配慮の有無は問題にする余地がないからである。 【西村委員】 結論 間接差別の概念は、必要である。 理由 改善するべき課題として、中立的、または、一般的な規定、基準、慣行などの適用等が結果として障害者等に不利益な状況や排除を生み出している現状があり、そうした現状を改善することが必要なため。 【松井委員】 結論 合理的配慮を差別類型に取り入れることとは、別に間接差別の概念は必要である。 合理的配慮は、個々の障害者が障害のない者と対等に活動したり、参加できるようにするために必要な配慮を提供すること、つまり個々の障害者に対して機会均等を確保することを 理由 合理的配慮は、個々の障害者が他のものと平等に活動したり、参加できるようにするために必要な配慮を提供すること、つまり、個々の障害者に対して活動や参加における機会均等を確保することを意図したものである。一方、間接差別の禁止は、基本的には機会の平等というよりも、結果の平等の確保を意図したものといえる。したがって、合理的配慮を差別類型に取り入れることに加え、間接差別の概念を設けることも必要である。 【棟居委員】 (回答)上記の質問において、合理的配慮の概念を用いれば間接差別という概念を立てる必要はないとも思われます。しかし、間接差別という概念により、隠れた差別を発見しうる、というメリットはあると思われます。間接差別概念により、隠れた差別を差別と認定し、しかる後に合理的配慮義務が発生するとかんがえれば、間接差別と合理的配慮という二つの概念は、相補う(両方必要)ともいえると思われます。 【山本委員】  3に記載した意見を参照。 2、間接差別における差別とは何か、 ≪検討に当たっての背景や視点≫ 外国法制度を参考にすると、間接差別という概念は、大まかに言うと A)中立的、または、一般的な規定、基準、慣行などの適用行為 B)他の人との比較 C)不利益な結果 D)例外事由 などを構成要素としているように思われます。 しかし、日本の雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律は、第6条において事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならないとしたうえで、第7条では、「男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについて」「これを講じてはならない」(例外事由は省略)としている。 ≪質問≫ ア)そこで、まず、上記Aの要件との関係で、障害者に対する間接差別類型を考えるときに、上記雇用機会均等法のように政令レベルで限定列挙された事由だけを間接差別の適用対象をすべきか否か、その根拠をどう考えるか、女性に対する差別に関する外国法制との比較だけでなく、性別と障害という属性の違いや特色も念頭において、ご意見を伺いたい。 【浅倉委員】 結論 間接差別の適用対象を政令等に列挙した事例のみに限定することは、反対。 理由 均等法の第7条(間接差別禁止規定)は、省令で定める3類型に限定して、「これを講じてはならない」とするものであるが、これは間接差別禁止規定の本来の意義と矛盾するものと考える。間接差別禁止規定は、そもそも社会における性や障害に関わる差別的な構造の是正を意識して、新たな立法規定として創設されてきた。これまでは社会において当然のものとして認められてきた規定、基準、慣行等が、性や障害に関わっては差別的に機能することについて、あらためて使用者に問題として提起するというところにこそ、意味がある規定である。したがって、均等法7条のように、間接差別禁止の適用範囲を意図的に限定することは、そもそも間接差別禁止規定の意義と矛盾すると考えますので、均等法7条を参考にすることは反対。 【池原委員】 結論 間接差別類型を例示列挙することは意味があるが限定列挙とすることは適当でないと思います。 理由 差別の判定を、差別者側の偏見や差別的意図などという要素から、差別される側に生じる社会排除的要素(結果として人権の享有・行使を害し、無効化する結果)に力点を移すと、間接差別も差別に含めるべきであり、障害に対する無知や無配慮が差別的な社会制度の温床となっていることからすると、間接差別を広く取り込むことが障害差別をなくしていくために重要である。しかし、間接差別は、直接差別よりも差別の立証が容易でなく、成否が曖昧になりやすいという問題も抱えていると言われる。したがって、間接差別の例示を列挙して、列挙事由に当たるときは間接差別の立証を認め、さらに、列挙自由ではなくても障害のある人に相対的に不利益な結果が生じていることが協定程度証明されれば、間接差別性の証明がなされたものとすべきである。 【太田委員】 結論 難しい質問であるが、私は政令レベルで列挙すべきであると考える。 JDF委員の意見 ・政令レベルで限定列挙された事由のみでは、障害に関する差別案件の把握には、全く不十分であり、包括的な規定が必要である。 理由 間接差別が具体的にはどういうものなのか、多くの人々に認識されていない状況では例示が必要となると考えられる。全てを例示できるとは考えられないがこの部分だけは絶対に認めてはならないという事象については明示しておく必要がある。 またその例示以外の事象についても、例示と関連づけて考えていくことが可能な場合、議論の対象となりえる。 JDF委員の意見 議会意見の直接差別に関連する設問でもふれたとおり、性や人種と違い、障害に関連して起こる(差別的)事象は、機能障害それ自体によるものか、機能障害に関連して能力差別によるものか、それらに対する偏見やステレオタイプによるものか、非常に複雑である。間接差別はさらに、そうした障害関連の事象の複雑性と、障害者を想定していない今までの社会の構造との関係が問われるものである。これらをきちんと法制度に拾い上げるためには、制限列挙ではなく、包括的な規定を行い、個別の事象に対して、幅広く検討ができる規定ぶりが必要である。 【大谷委員】 結論 間接差別類型は、政令レベルで限定列挙とするべきでない。 理由 男女雇用機会均等法上の間接差別は、政令により以下のつつに限定されている。 @労働者の募集又は採用に当たって、労働者の身長、体重または体力を要件とするもの Aコース別雇用管理における総合職の労働者の募集又は採用に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること B労働者の昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とすること性別に基づく差別の場合は、両者の生物学的な違いがわかりやすく、また生活スタイルや家庭観の違いが一般化しやすいという傾向を踏まえ、間接差別を類型化しやすいものと思われる。(しかし男女雇用機会均等法の定めが十分であるという趣旨ではない。) つまり上記政令の@については、男女の身長差、体重差、体力差が、個人差はあっても平均値を取ったときに顕著な差異が認められることから導かれる。また上記政令のABは、女性は結婚したら転勤や単身赴任がしにくいという、生活スタイルや家庭生活に対する考え方に男女間で事実上の顕著な差異があり、あるいは現実の転勤の経験にも顕著な差異があることから、このようなことを条件にされると実際上女性が採用されないという現実を踏まえている。 しかし障害者の場合、障害種別が多様であり、部位や程度によっても様々なニーズがあることから、このような類型化は不可能である。 したがって、障害者差別に関しては、一般的な定義を置く ことで、様々な間接差別を全てカバーできるような規定にするべきである。 【竹下委員】 結論 間接差別として禁止される行為を、政令などによる限定列挙された場合に限定するべきではない。 理由 障害を理由とする間接差別の場合、類型Aに属する差別は客観性に欠ける場合が多いし、行為者においてさまざまな主観的動機から間接差別を企てることがあり得るからである。男女差別の場合は差別が客観的であるし、意識においてもごまかしがきかないのに対し、障害を理由とする差別はそうした客観性が存しないのである。 【西村委員】 結論 政令レベルで限定列挙された事由だけを間接差別の適用対象とすべきではない。 理由 以下のとおり、限定することが適切でない。 1 障害と性別について〜属性から〜 障害は、一般的には、種別として、身体、知的、精神に分けられる。また、身体においては、視覚、聴覚、音声言語、肢体、内部機能に分けられる。さらに、現在、実施されている制度改革においては、より広範な範囲を定義することが議論されていることから、障害は、雇用機会均等法が示している性別に比較して、範囲が多様である。また、さらに障害の属性に性別等も加味される。 2 差別禁止法と雇用機会均等法について〜制度の枠組みから〜 雇用機会均等法は、雇用の分野に特定していることから協定の限定が可能であるが、差別禁止法の対象範囲は、雇用以外にも様々な社会生活や日常生活場面を網羅することが必要である。そのため少なくとも、現段階で、限定列挙された事由だけを適用対象とすることは適当ではないと思う。 【松井委員】 結論 男女雇用機会均等法において政令レベルで限定列挙された事由だけでなく、より幅の広い事由を間接差別の対象とすべきではある。 理由 男女雇用機会均等法では、間接差別とされる事由が厚労省令で列挙されたものに限定されているが問題視され、その見直しが求められている。ましてや障害の多様性を考えれば、間接差別となる事由はできるだけ包括的なものとすべきと思われる。 【棟居委員】 (回答)業務の本質的部分にかかわらないにもかかわらず、ことさらに要求することで障がい者の業務遂行能力がないかのように見せるのが間接差別であるとかんがえます。すると、法律では間接差別の意味を明示し、その具体的な運用基準は政令にまかせる方法もありうると思います。また、女性であることは業務の本質には通常かかわりませんが、障がい者は場合によりかかわりうるので、業務内容や業態に即して、政令でどのような業種はどのような障がい者をそもそも雇わずにすませることが許されるか、それ以外は雇わなければ差別になるが、どういう合理的配慮が求められるかを、具体的に規定する必要があります。 ≪質問≫ イ)次に、上記B及びCの要件との関係で、誰と誰を比較し、不利益を判断するのか、ご意見を伺いたい。 ちなみに、 @ EUの「雇用と職業における均等待遇のための一般枠組み設定に関する指令」(2000)では、外形的に中立的な規定、基準又は慣行が、特定の宗教若しくは信念、特定の障害、特定の年齢又は特定の性的指向をもつ人びとに他の人びとと比較して特定の不利をもたらすであろう場合とされ、協定の層に属する人々が相互に比較対象されます。 A EUの「年男女平等待遇指令改正指令」(2002)では、外見上は中立的な規定、基準、または取扱いが、ある性に属する者に対して他の性に属する者と比較して、特定の不利益を受えるだろう場合とされており、上記と同様だと思われます。 B しかし、「イギリス性差別禁止法(2005年改正後)」では、男性たちと比較して女性たちが特定の不利益を与え、あるいは特定の不利益を与えるだろう場合であって、かつ、それが当該女性に不利を与える場合であるとされています。ここでは、協定の層に属する集団を相互に比較をした後、当該女性との関係でも不利益かどうかを判断することになります。 C 2010年平等法(英)では、これを受け、上記と同様、Bの特性を共有する人々を、Bの特性を共有しない人々と比較し、特定の不利な立場に置く、又は置くであろう場合であり、かつ、Bをその不利な立場に置く、又は置くであろう場合であるとしております。 【浅倉委員】 結論 端的に「障害をもつ人」と「もたない人」(ただし、両者は比較しうる条件にあるかどうかの検討は必要)を比較すべきではないかと考える。 理由 イギリスの2010年平等法の解説本の中では、障害はBという特性を共有する人々の中でも多様な現れ方をするので、1つの障害を共有する人に対しても、「規定、基準、慣行など」が与える影響は自律ではないということが問題として指摘され、したがってこの規定については批判が多いように思う(例 Disability Discrimination,IDS,2010)。だとすればそれにとらわれることはないなではないかと考える。 【池原委員】 結論 比較対照群は、基本的には、当該差別に関連性している「障害」を持っていない人たちであって、他の社会的条件ができるだけ類似の状態にある集団ということになる。 理由 他の集団との比較は、対象群の選出とそれについての統計資料の入手が困難な場合が少なくないともいわれる。ただ、現実の問題が生じる場合は、まず、対象となる人が、人権の享有・行使が阻害され、あるいは、無効になっている状況があり、その状況の前提をたどると協定の基準などが、参加を阻害していることが見出される。しかし、同じ基準が、その障害を持っていない人に適用されても、実際にあるいは論理的に、その障害のない人には排除的な効果が生じることが有意に乏しく、逆にその障害のある人には排除的効果が有意に生じることが実証されあるいは思考実験として合理的に推測されるとした場合には、間接差別になると理解することができる。 【太田委員】 結論 これから議論を詰めていく課題であると認識するが、現時点では、障害のない人との比較において、障害のある人が不利益な状況に置かれているか、不利な立場に置かれているかが、ひとつの尺度となると考えられる。その場合同年齢などでの比較も考慮されるべきだと考える。 JDF委員の意見 ・障害者と障害者でない人とを比較し、不利益を判断すべきである。 理由 他の人(同年齢)との平等が確保されているか否かをどう保障するかが、差別禁止法制の本質となる。 JDF委員の意見 ・障害者は障害者でないとの人口比較において絶対少数であり、また、その中で障害の種別等も多岐にわたる。障害者同士でも種別によってはある事案において比較は不可能な場合もある。障害者とそうでない集団を比べ、さらに当該障害者とそうでない障害者を比べる、というのは合理性に欠ける。 【大谷委員】 結論 障害者を障害のない人と比較して、障害者に不利益な結果をもたらす場合を間接差別と定義すべきであるし、間接差別を主張する当該障害者がこの差別により不利益を被っていることが必要であると考える。 理由 当該障害者が何ら不利益を被っていないのに、間接差別を訴える場合というのは想定しがたい。 また性別よりも障害者差別の方が、障害の内容に多様性があるため、ある障害者に不利益をもたらす規定が、別の障害者には全く不利益ではないという場合が、より多く存在すると考えられる。 【竹下委員】 結論 障害による能力不全を有する人と有しない人との問における比較であり、不利益取扱いである。 理由 差別(区別)の理由を障害そのものに求めていないため、一見して障害者差別とは見えないものの、能力において優劣をつけることによって、障害による能力不全を有する者を排除することになるからである。 【西村委員】 結論 当該法制度において権利を擁護し、差別を受けない対象とされる属性(障害、性別等)のある人とない人を比較し不利益を判断する。 例 障害者と非障害者、男と女、邦人と外国人 理由 法制度の対象とされる属性(障害、性別等)のある人とない人を比較した結果、属性のある人が受けている制限、制約、格差、不均等及び排除等の実態が、改善すべき具体的な分野や状況を明確にすることができる。 【松井委員】 結論 障害のある者と障害のない者を全体として比較するだけでなく、男女間、障害種別間などを比較し、不利益を判断する必要がある。 理由 たとえば、労働年齢の人びとの就業率や賃金をはじめ、雇用条件などについて比較すると、障害のある者とない者の問に大きな格差があるが、障害のある者でも男女間、障害種別などでもかなり大きな格差があることがわかる。 【棟居委員】 (回答)障がい者の差別を認定する場合の比較対象は、健常者の集団ではないとかんがえます。障がい者自身がさまざまであり、カテゴリカルに障がい者/健常者というグループ分けになじまないからです。したがって、比較の対象は、障がい者Aさんは、機能障害がないとすればそうである「健常者Aさん」という仮想的個人になります。「健常者A」さんなら得たであろう機会を、合理的配慮などで機能障害をカバーされた障がい者Aさんは得るべきであると考えます。 【山本委員】 3に記載した意見を参照。 ≪質問≫ 3、その他、間接差別において、論議すべき点があれば、ご意見を伺いたい。 なお、例外事由や挙証責任、さらには直接差別と間接差別と合理的配慮の三類型の相互の関係などの問題は、後日、論じていただくつもりです。 【太田委員】 結論 細かいことを挙げればきりがないが、車イス利用者がJRの乗車券や特急券を購入する時に、一般のシステムとは別に購入する、そのため余計に時間がかかる。 電車に乗車しようとする時に、相手の駅に連絡がつくまで待たされる。依頼もしていないのに駅員がホームで付いて歩く。そういうサービスを行う側はもっと必要な人はたくさんいると思う。単に「車イス」だからというのはおかしい。 ヘルパー派遣の要件として、居酒屋、パチンコ屋、風俗店など、遊興に関するものは除外されている。泊りがけの旅行もである。他の市民との平等を保障するという観点では、どうかと思う。 理由 他の市民との平等を確保するための、差別禁止法制 【竹下委員】 結論 間接差別の定義は曖昧であるから規定の仕方に注意が必要である。 理由 間接差別という概念は論ずる人によって全く異なる定義になってしまう。すなわち、障害を意識的に差別の理由とせず、結果として障害が差別の原因となる場合(効果としての差別)を間接差別と呼ぶこともできるし、障害以外の理由(事由)を掲げて区別ないし不利益取扱いの理由とする場合を間接差別と呼ぶこともできるし、家族に障害者がいる場合などを理由として障害を有しない者を差別する場合を間接差別と呼ぶこともできるからである。しかも、わが国においては間接差別という概念そのものがあまり議論されてこなかったという経緯からしても、間接差部という概念は未だ社会に定着していないとも言える。 【西村委員】 結論 「≪質問≫4、その他、直接差別において、論議すべき点があれば、ご意見を伺いたい。」と同じ 理由 「≪質問≫4、その他、直接差別において、論議すべき点があれば、ご意見を伺いたい。」と同じ 【山本委員】 (1)間接差別の意味と成立要件 (a)「間接差別」が問題となるのは、相手方が、障害者に対しても障害者以外の者に対しても、「要件T3が備わるときは、Rをする」というルール丙にしたがって行動する場合、または、行動すべき場合において、通常、障害者はルール丙の要件T3を備えることができないときではないか。 これによると、実際に間接差別を受けた障害者Xが相手方Yに対して差別を理由とする請求をする場合には、次の要件が備わる必要があると考えられる。 @相手方Yが、「要件T3が備わるときは、Rをする」というルール丙にしたがって行動していること、または、行動すべきであること 質問事項1に即して言うと、たとえば、 ・「活字印刷物の判読が不可能な者は、採用しない」というルールにしたがって行動していること、または、行動すべきであること ・「電話対応、面談が不可能な者は、採用しない」というルールにしたがって行動していること、または、行動すべきであること ・「試験申込書・受験票の記入を自署によりおこなうことができない者は、採用しない」というルールにしたがって行動していること、または、行動すべきであること A当該障害者Xと同等の障害を持つ者は、通常、ルール丙の要件T3をみたすことができないこと B相手方Yが当該障害者Xに対し、Rをしなかったこと (b)合理的配慮の欠如を差別の一類型とすることは、以上の@Aの要件をみたす場合に、相手方Yに対して「障害者がルール丙の要件T3をみたしたのと同じ状態にするために、合理的な配慮をしなければならない」という規範(命令)を認め、B’相手方Yがそうした合理的配慮をしていないときに、差別にあたるとすることを意味すると考えられる。 かりにそうだとすると、両者は、@Aの要件は重なるものの、次の2つの点で要件構成を異にすると考えられる。 第一に、BとB’の要件が異なる。この点では、間接差別の方がBのみの立証で足りるので、基礎づけが容易である。合理的配慮の欠如の場合は、求められるべき合理的配慮を特定した上で、その不履行を立証しなければならない。 第二に、後述するように、間接差別の場合は、{a}ルール丙を採用することに正当な理由があるときは、差別を理由とする請求は否定されるのに対し、合理的配慮の欠如の場合は、そうした阻却要件は問題にならない(上記のように、合理的配慮の欠如の場合は、求められるべき合理的配慮を特定することが必要となるが、そこでおこなわれる判断は、ルール丙を採用することに正当な理由があるかどうかという判断と同じではない)。 以上のような違いがあることから、合理的配慮の欠如を差別類型に取り入れても、間接差別類型は不要にはならないと考えられる。 (C)間接差別についても、差別の意味を不利益取扱いを含むものとみる考え方によれば、さらに、次の要件が必要になると考えられる。 C相手方Yが当該障害者Xに対し、Rをしなかったことにより、当該障害者Xが不利益をこうむったこと(同じ状況のもとで他人ならば得られたはずの利益が得られなかったこと、または、同じ状況のもとで他人ならばこうむらなかったはずの不利益をこうむったこと) (2)間接差別の阻却要件 (a)これに対して、「間接差別」の場合でも、相手方Yがルール丙を採用することを正当化する理由があるときは、差別を理由とする請求は認められないのではないか。これによると、差別を理由とする請求は、次の要件が備わる場合には、しりぞけられることになると考えられる。 {a}相手方Yがルール丙を採用すること(「要件T3が備わるときは、Rをする」こと)を正当化する理由があること この{a}が認められるかどうかを判断する際には、次のような要因を比較衡量することになるのではないか。 {α}相手方Yがルール丙を採用することにより得られる利益の大きさ、および、ルール丙を採用しないときに生ずる弊害の重大性 {β}当該障害者Xにとって相手方YからRという行為が受けられることにより得られる利益の大きさ、および、当該障害者Xにとって相手方YからRという行為を受けられないことにより生ずる弊害の重大性 (b)上述したように、差別を異別取扱いとみる場合において、積極的差別是正措置は許容されると考えるときは、間接差別の場合でも、次の要件が備わるときに、差別を理由とする請求がしりぞけられることになると考えられる(このようなことが問題となるのは、障害者以外の者が積極的差別是正措置の差止めを求める場面であると考えられる)。 {b}相手方Yが当該障害者Xに対し、Rをしなかったことにより、当該障害者Xが利益を取得すること(同じ状況のもとで他人ならば得られなかったはずの利益が得られた、または、同じ状況のもとで他人ならばこうむったはずの不利益をこうむらなかったこと)