差別禁止部会 第9回(H23.10.14) 資料2 労働・雇用分野における障害者権利条約への対応について(中間整理) 平成21年7月8日 労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会 はじめに ○ 障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)については、平成18年12月に国連総会で採択され、平成20年5月に発効したところであるが、我が国は平成19年9月に署名しており、同条約に対応するため、国内法制の整備等を進める必要がある。 ○ 障害者権利条約においては、一般的義務として、障害を理由とするいかなる差別(合理的配慮(注1)の否定を含む。)もなしに、すべての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進すべきことを定めるとともに、身体の自由、拷問の禁止等の自由権的権利及び教育、労働等の社会権的権利について締約国がとるべき措置を定めている。 ○ 労働及び雇用分野においては、第27条において、公共・民間部門での雇用促進等のほか、 @あらゆる形態の雇用に係るすべての事項(募集、採用及び雇用の条件、雇用の継続、昇進並びに安全かつ健康的な作業条件を含む。)に関する障害を理由とする差別の禁止 A職場において合理的配慮が提供されることの確保 等のために適当な措置をとるべきこととされている。 ○ 従来の我が国の障害者雇用対策が雇用機会をいかに増やすかが中心であったのに対し、障害者権利条約においては、合理的配慮の提供等、雇用の質についての対応が求められている。これらに対応して、障害者雇用促進法制においてどのような措置を講ずべきかについては、特に「合理的配慮」というこれまで我が国にはない概念が盛り込まれており、十分な議論が必要である。 ○ 本研究会においては、以上のような観点から、海外の制度についての研究や障害者関係団体からのヒアリングを実施しながら、「障害を理由とする差別の禁止」や「合理的配慮」をどのように捉えればよいのか、合理的配慮の具体的内容はどのようなものか、これらの実効性をどのように担保すべきか等について検討を行ってきたところであり、概ね意見が集約されつつある事項や意見が分かれている事項があるが、これまでの検討状況を整理した。 ------------------------------- *注1 障害者権利条約(仮約)においては、「合理的配慮」とは、「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整(「必要かつ適当な変更及び調整」に傍点あり)であって、特定の場合において必要とされるもの(「特定の場合において必要とされるもの」に傍点あり)であり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」とされている(第2条)。 ------------------------------- 第1 基本的枠組み 1 枠組みの全体像 ○ 労働・雇用分野において、@障害を理由とする差別の禁止やA職場における合理的配慮の提供について、実効性を担保するための仕組みも含めて、国内法制において位置付けることが必要であるとの意見が大勢であった。 ○ 合理的配慮については、条約の規定上はそれを欠くことは障害を理由とする差別に当たることとされている(差別禁止の構成要件としての位置付け)が、これを実際に確保していくためには、関係者がコンセンサスを得ながら障害者の社会参加を促すことができるようにするために必要な配慮(社会参加を促進するための方法・アプローチとしての位置付け)として捉える必要があるとの意見が大勢であった。  また、このような観点から、障害者が社会参加していく上で合理的配慮がなされることの重要性や、合理的配慮としてどのような配慮が求められるか等について理解を深め、これを定着させていくことが重要であるとの意見が大勢であった。 ○ 実効性を担保するための仕組みとしては、差別があったか否か、合理的配慮が適切に提供されたか否かを、いわゆる準司法的手続(例えば行政委員会による命令)のような形で判定的に行うというよりはむしろ、どのような配慮がなされることが適当か、何らかの差別が生じていた場合にはどのような措置を講ずることが適当か等について、第3者が間に入って、あっせんや調停など、調整的に解決を図ることが適当ではないか、との意見が大勢であった。 ○ 差別禁止等を法律上位置付けるとした場合の形式としては、労働・雇用分野における差別を禁止するための法律が必要との意見があった。また、労働・雇用分野に限らず、分野横断的に1つの差別禁止法を制定すべきとの意見があった。さらに、差別を禁止するための法律には、障害を理由とした差別は無効である等の効果を持たせるべきとの意見があった。 【障害者雇用率制度の位置付け】 ○ 差別禁止の枠組みと、現行の障害者雇用率制度との関係については、実際問題として雇用率制度は障害者の雇用の促進に有効であり、差別禁止の枠組みと矛盾しない、積極的差別是正措置(ポジティブアクション)に当たるとの意見が大勢であった。 ○ なお、雇用率制度について、ポジティブアクションとして位置付けられるとしても、採用段階で差別禁止がなされるのであれば、将来的にはなくすこともあり得るのではないか、との意見があった。これに対して、採用段階での差別禁止が確保されても、障害者の雇用の促進のためには、雇用率制度が必要であるとの意見があった。 2 差別禁止等枠組みの対象範囲 【障害者の範囲】 ○ 差別禁止及び合理的配慮の枠組みの対象となる障害者の範囲については、雇用率制度の対象となる障害者に限定せず、広範な障害者を対象とすべきであるとの意見が大勢であった。 ○ 雇用率制度は積極的差別是正措置として対象を限定するとしても、差別禁止については条約上全ての障害者を対象としていることを考えれば、対象を特定の障害者に限定することは適当でないとの意見があった。 ○ 広範な障害者を対象とする場合、その対象に該当するか否か、手帳等により客観的に判断することはできないため、どのように対象者を確定するのか検討すべきではないかとの意見があった。 ○ 条約上の障害者の定義には、いわゆる機能障害だけでなく、社会的なバリアや環境上のバリア等「様々な障壁との相互作用」によって問題が生じている者も含まれることとされており、@過去に障害があったことにより差別的取扱いを受けている者や、A家族の中に障害者がいるような者についても、合理的配慮の対象となるのではないかとの意見があった。 【事業主の範囲】 ○ 事業主の範囲については、フランス・ドイツ(注2)と同様、全ての事業主を対象とすべきとの意見があった。 【「雇用」の範囲】 ○ 条約上は「あらゆる雇用」に関する差別禁止を定めており、一般就労と福祉的就労の垣根をなくすことが条約の方向性ではないか、との意見があった。  これに対して、現実として、雇用ということで最低賃金の支払い等労働関係法令の適用を前提とすると、事業そのものができなくなり、福祉的就労の場がなくなってしまうおそれもあるのではないか、との意見があった。 ------------------------------- *注2 差別が禁止される事業主の範囲について、フランス及びドイツにおいては全ての使用者を対象としている。一方、アメリカにおいては、週20時間以上働く15人以上の従業員を雇用している者等を対象としている。 ------------------------------- 第2 障害を理由とする差別の禁止 1 差別の定義  「障害を理由とする差別」には、直接的な差別的取扱いのほか、条約上、合理的配慮の否定がこれに含まれることが明記されている。ここで、「間接差別」や「労働能力に基づく差異」が差別に当たるのかどうかが問題となる。また、合理的配慮の否定を、どのように法制上位置付けるかという論点もある。 ○ 外見上は中立的でも、職務とは関連がない等合理性のない条件を設定し、実質的に障害者を差別するような、いわゆる「間接差別」については、条約上明文の規定はないが、差別の定義として、「他の者と平等にすべての人権…行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するもの」であって「あらゆる形態の差別…を含む」こととされており(第2条)、差別に該当するのではないか、との意見があった。  また、間接差別については、男女雇用機会均等法改正の際にも議論されたが、何が間接差別に該当するのかの基準など、実際にはかなり難しい問題があるのではないか、との意見があった。 ○ 労働能力を評価した結果として賃金等に差が生ずるといった「労働能力に基づく差異」については、合理的配慮が提供された上で、労働能力が適切に評価されたものであるならば、結果として差が生じても差別には該当しないのではないか、との意見があった。 ○ なお、合理的配慮の否定について、我が国の法制上、それ自体を第3の類型の差別と構成するのか(合理的配慮が提供されないこと自体をもって、実際に差が生じてなくても「差別」であると捉えるのか)、直接差別に組み込んで考えるか(実際に差が生じていることについて、合理的配慮が提供されていないことに起因している場合には、当該差は「差別」であると捉えるのか)についても、検討すべきではないか、との意見があった。 2 差別が禁止される事項  条約においては、雇用に係るすべての事項を対象としており、実際に問題となる主な事項としては、以下のものがある。 (1)募集・採用 (2)賃金その他の労働条件 (3)昇進・配置(人事)その他の処遇 (4)教育訓練 (5)雇用の継続・終了(解雇・雇止め等) ○ 採用について、事業主に広範な裁量があること、他の応募者がいること等、立証が難しい、差別があった場合の対応が難しい等の問題はあるが、条約でも明記されており、立証できるものまで除外することは適当ではないので、差別禁止の対象から除外すべきではないのではないか、との意見があった。 ○ 採用差別については、裁判所は採用の自由を重視しており、また、企業も採用の制限に関しては抵抗があると考えられ、例えば採用命令等を設けることなどを考えるのであれば、難しい問題なのではないか、との意見があった。 第3 職場における合理的配慮 1 合理的配慮の内容 【基本的な考え方】 ○ 合理的配慮については、条約の規定上はそれを欠くことは障害を理由とする差別に当たることとされている(差別禁止の構成要件としての位置付け)が、これを実際に確保していくためには、関係者がコンセンサスを得ながら障害者の社会参加を促すことができるようにするために必要な配慮(社会参加を促進するための方法・アプローチとしての位置付け)として捉える必要があるとの意見が大勢であった。【再掲】 ○ 「合理的配慮」は、個別の労働者との関係で問題となるので、個別の労働者がどのような配慮が必要か主体的に要求する必要があり、行政が企業への指導や助成によって障害者の雇用を拡大してきた手法とは大きく異なることになるとの意見があった。 ○ また、具体的にどのような配慮が必要か、自ら説明・要求できない障害者もいるので、本人の代わりに第3者が説明してくれるような仕組みが必要ではないか、との意見があった。 ○ 「合理的配慮」は、個別の労働者の障害や職場の状況に応じて、使用者側と障害者側の話し合いにより適切な対応が図られるものであるので、本来的には、企業の十分な理解の上で自主的に解決されるべきものであるとの意見が大勢であった。 ○ 障害者を採用する際に企業と本人との間で必要な合理的配慮の内容について一定の合意をするようにしたり、又は、企業内に使用者・労働者・障害者からなる配慮推進会議のようなものを設けて定期的に情報共有・意見交換する場を設けてはどうか、との意見があった。 ○ 合理的配慮について、労働者本人の要望を受けて、直ちに提供できるようにすべきではないか、との意見があった。 ○ 何が差別であり、どのような合理的配慮が必要であるかを明らかにする必要があるとの意見が大勢であった。また、合理的配慮の内容は、個別の労働者の障害や職場の状況によって多様であり、また、それに要する費用・負担も異なるので、合理的配慮の概念は法律で定め、その具体的内容は指針で定めるのがよいのではないか、との意見が大勢であった。 ○ このような指針は、個別の企業において障害者が企業に合理的配慮を求めていく際にも有効であるとの意見があった。 ○ 「合理的配慮」義務を労働基準法等で位置付けるのは、刑罰法規であってその範囲を厳格・明確に定める必要があり、却って範囲が縮減されるのではないか、また、制裁を背景にして合理的配慮を進めるのが適切かという問題があるのではないか、との意見があった。 【基本的な内容】 ○ 合理的配慮の内容としては、障害の種類ごとに重点は異なるが、おおまかに言えば、(1)通訳や介助者等の人的支援、(2)定期的通院や休暇、休憩等の医療面での配慮、(3)施設や設備面での配慮が必要であるとの意見が大勢であった。 ○ 障害の種類ごとに特に必要な配慮としては、以下のようなものが重要ではないか、との意見があった。 ・視覚障害者、聴覚障害者及び盲ろう者…点字、拡大文字、補聴システム等の機器や通訳者、援助者等による情報保障・コミュニケーション支援 ・内部障害者や難病のある人…定期的な通院への配慮や休憩・休暇・疾患管理への配慮、フレックスタイム等の柔軟な勤務体制 ・知的障害者…身近に気軽に相談でき、又は苦情を訴えられるような窓口の配置 ・精神障害者…対人関係・コミュニケーションが苦手である、疲れやすい等の特性を踏まえた、グループ就労や短時間労働等による仕事の確保や職場環境の整備、日常的な相談ができるような窓口 ・発達障害者…本人に代わって必要な配慮を代弁できるような、身近な支援者(サポーター)の配置・支援 ・中途障害者…勤め続けられるための配置(ポスト・職務)の見直し ○ 障害者が合理的配慮の提供を求めたことを理由として、解雇、降格等の不利益取扱いをすることを禁止すべきとの意見があった。 【採用試験】 ○ 採用試験の際に、コミュニケーション支援が必要との意見があった。  また、採用基準を緩める必要はないが、長時間の試験は避ける、休憩を間に入れる等、能力を正しく判定できるような環境を整えることこそが合理的配慮ではないか、との意見があった。 【通勤時の移動支援、身体介助】 ○ 通勤時の移動支援や身体介助は、企業の合理的配慮というよりむしろ福祉的サービスとして行うべきではないか、との意見があった。  また、労働災害では通勤も対象となっており、通勤も職務と連動するものであるので、今後は労働政策として企業に義務付けたり、助成措置を設けたりすべきではないか、との意見があった。 【相談窓口】 ○ 障害者が気軽に相談でき、苦情を訴えられる窓口が必要ではないか、現行の障害者職業生活相談員の機能を見直したり、相談員が選任されない中小企業でも相談・苦情処理の窓口を整備することが必要ではないか、との意見があった。その際、職場内だけでなく生活面での支援も重要であることから、障害者就業・生活支援センター等による支援を充実させ、連携をしていくことが重要ではないか、との意見があった。  また、専門家というよりも、「適切な変更・調整」を行える、身近にいる支援者(いわゆるナチュラルサポーター)を支援していくことが必要ではないか、との意見があった。 2 過度の負担 ○ 過度の負担の基準としては、企業規模、業種、従業員数、環境の特性、地域の文化・慣習等を参考にして判断すべきではないか、との意見があった。  また、長期療養者に対する解雇に関する裁判例でも、事業規模を考慮しており、過度の負担の判断に当たっても、事業規模はある程度考慮せざるを得ないのではないか、との意見があった。  さらに、過度の負担の基準として、現行の障害者雇用納付金制度の特別費用の額を参考とする(合理的配慮を行うための費用が特別費用の額と比べてどの程度かを斟酌する)ことも考えられるのではないか、との意見があった。 ○ どのような場合に「過度の負担」に当たるのか、具体的な指針を定めるべきとの意見があった。 【公的助成との関係】 ○ 現行の納付金制度に基づく助成金は、合理的配慮として行うこととなるものが対象となっており、適宜この助成措置を見直すことにより、合理的配慮を実効あるものにしていくことができるとの意見があった。  また、フランスのように、納付金制度に基づく助成金を活用して企業による合理的配慮に必要な経費をカバーするには、現行の納付金制度(注3)や法定雇用率(1.8%)では足りないのではないかとの意見があった。 ○ 雇用率制度の対象でない事業主(注4)も含めて全事業主を対象とする場合、合理的配慮に対する財政支援をどのような形で行うかが問題になるとの意見があった。 ○ 現行の雇用関係の助成金や支援には期限があるが、合理的配慮の前提となる仕組みとして期限のない制度を確立すべきではないか、との意見もあった。 ------------------------------- *注3 法定雇用率未達成の事業主からその不足数に応じて障害者雇用納付金を徴収し、これを原資として、法定雇用率を超えて障害者を雇用する事業主に対して障害者雇用調整金を支給するとともに、障害者を雇用する事業主に対する助成金の支給等を行う。 *注4 現行の雇用率制度では、常用労働者数300人以下の事業主(平成22年7月からは200人以下、平成27年4月からは100人以下の事業主)は障害者雇用納付金制度(雇用する障害者数が法定雇用障害者数に足りない場合には納付金を徴収され、超えている場合には調整金の支給を受ける)が適用除外とされている。 ------------------------------- 第4 権利保護(紛争解決手続)の在り方 1 企業内における紛争解決手続 ○ 「合理的配慮」は、個別の労働者の障害や職場の状況に応じて、使用者側と障害者側の話し合いにより適切な対応が図られるものであるので、本来的には、企業の十分な理解の上で自主的に解決されるべきものであるとの意見が大勢であった。【再掲】 ○ 企業の提供する合理的配慮について障害者が不十分と考える場合に、それを直ちに外部の紛争解決に委ねるのではなく、企業内で、当事者による問題解決を促進する枠組みが必要との意見が大勢であった。 2 外部機関等による紛争解決手続 ○ 障害者に対する差別や合理的配慮の否定があり、企業内で解決されない場合には、外部機関による紛争解決が必要となるが、訴訟によらなければ解決しないような仕組みは適切ではなく、簡易迅速に救済や是正が図られる仕組みが必要との意見が大勢であった。 ○ 紛争解決手続としては、差別があったか否か、合理的配慮が適切に提供されたか否かを、いわゆる準司法的手続(例えば行政委員会による命令)のような形で判定的に行うというよりはむしろ、どのような配慮がなされることが適当か、何らかの差別が生じていた場合にはどのような措置を講ずることが適当か等について、第3者が間に入って、あっせんや調停など、調整的に解決を図ることが適当ではないか、との意見が大勢であった。【再掲】 ○ 紛争を処理する委員会を、国・行政から独立した機関・第3者機関として新たに設ける必要があるとの意見があった。一方、新たな機関ではなく、既にある労働審判や紛争調整委員会等を、権限の強化(出頭命令等)や体制の強化(当事者の参画)をした上で活用した方がいいのではないか、との意見があった。 ○ 当事者間の自主的解決が困難な場合に、国の行政委員会等の形でいわゆる準司法的手続を設けることについては、結局はそこでは解決せず、裁判まで行ってしまい、解決までに時間がかかってしまうのではないか、との意見があった。また、このような準司法的手続を設ける場合には、手続や証拠の採否、立証等の厳格さをどこまで求めるべきかについても考える必要があるのではないか、との意見があった。 ○ 外部機関による紛争解決手続を設ける場合には、労働法の専門家や障害者も入って調整機能を果たすような形がいいのではないか、との意見があった。 ○ 行政手続で解決されない事案については、労働審判を活用することが考えられるとの意見があった。 ○ 紛争解決機関とは別に、差別事例やその救済状況等、条約の実施状況を監視し、又は周知等を行うモニタリング機関(注5)についても検討すべきではないか、との意見があった。 ------------------------------- *注5 障害者権利条約(仮約)においては、締約国は、「自国の法律上及び行政上の制度に従い、この条約の実施を促進し、保護し、及び監視するための枠組み(適当な場合には、一又は二以上の独立した仕組みを含む。)を自国内において維持し、強化し、指定し、又は設置する」こととされている(第33条)。 ------------------------------- 第5 その他(障害者雇用率制度)  障害者雇用率制度については、積極的差別是正措置として存続させるべきであるとの意見が大勢であったが、雇用率制度のあり方について、次のような意見があった。 ○ 雇用率制度上の障害の定義については、医学的・機能的観点からの障害者等級によっており、職業能力に応じた障害等級を創設する必要があるのではないかとの意見があった。 ○ 法定雇用率について、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、内部障害、知的障害及び精神障害それぞれの枠を定めるべきではないか、との意見があった。  また、障害種別で雇用率を設定することは難しいのではないか、との意見があった。  さらに、法定雇用率を引き上げるべきではないか、精神障害者を雇用義務の対象とする(法定雇用率を設定する際の基礎数に加える)べきではないか、就労継続支援事業等に優先発注した場合に実雇用率に算入できるようにすべきではないか、雇用率達成を公契約の要件とすべきではないか等の意見もあった。 ○ 現行の障害者雇用納付金の額について、「特別費用」の額から算出されているが、最低賃金とリンクさせることが考えられないか、との意見があった。 ○ 重度障害者に対するダブルカウントについて、差別を感じる障害当事者の立場に立って廃止の検討をすべきではないか、との意見があった。 また、重度障害者の雇用促進のため色々と知恵を絞ってやってきたものであり、難しい問題ではないか、との意見があった。 ○ 雇用率制度がポジティブアクションだとしても、それによって、運用上、かえって一般社員への門戸が狭まったり、一般社員との職場の分離が定着することのないようにすべきとの意見があった。