障がい者制度改革推進会議
第14回(H22.6.7) 資料2
障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)(案)(修正箇所表示版)
平成22年6月7日
障がい者制度改革推進会議
目次
Ⅰ はじめに
1)世界人権宣言と条約化の背景
2)障害に関連した国際連合の動き
3)障害に関連した諸外国の動き
4)障害者権利条約
1)障害者制度改革に向けた動き
2)障害者制度改革に関する審議の経過
Ⅱ 障害者制度改革の基本的考え方
Ⅲ 障害者制度改革の基本的方向と今後の進め方
1)平成22年内の進め方
2)平成23年以降の進め方
1)地域で暮らす権利の保障とインクルーシブな社会の構築
2)障害の捉え方
3)障害の定義
4)差別の定義
5)言語・コミュニケーションの保障
6)虐待のない社会づくり
7)障害の表記
8)実態調査
1)―1障害者基本法の抜本的改正
1)―2改革集中期間における推進体制
2)「障害を理由とする差別の禁止法」(仮称)等の制定
3)「障害者総合福祉法」(仮称)の制定
1)労働及び雇用
2)教育
3)所得保障等
4)医療
5)障害児支援
6)虐待防止
7)建物利用・交通アクセス
8)情報アクセス・コミュニケーション保障
9)政治参加
10)司法手続
11)国際協力
Ⅳ 日本の障害者施策の経緯
Ⅰ はじめに
“Nothing about us without us” (私たち抜きに私たちのことを決めるな) は、「障害者の権利に関する条約(仮称)」(以下「障害者権利条約」という。)策定の過程において、すべての障害者の共通の思いを示すものとして使用された。これは、障害者が一般社会から保護される無力な存在とされ、自分の人生を自らが選択し、自らが決定することが許されなかった障害者の共通の経験を背景としている。そして、一般社会による保護的支配からの脱却と普通の市民としての権利を持つ人間であることを強く訴えるものであった。
しかし、このような障害者のあたりまえの思いを一般社会が受け入れるまでには、長い歴史の時間を要した。日本においても、戦前の国民優生法(1940)を戦後に強化した優生保護法(1948)が「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」という目的を掲げ、強制的な不妊・断種手術が障害者を始め1万6千人以上に対して実施された。まさに障害者が本来あってはならない存在であることを国家が法律で規定していたのである。同法の優生条項が削除され、母体保護法となったのはようやく1996年であった。
障害者に関連する施策が徐々に進展してきたことは事実である。しかし、依然として、日本の障害者は、多くが貧困層に属し、本人が希望する地域での普通の生活を許されずに施設や病院で一生を過ごす人も数多く存在する。およそ1世紀も前に、精神科医の呉秀三は日本の精神障害者の置かれた状態を「此病ヲ受ケタルノ不幸ノ外ニ、此邦ニ生レタルノ不幸ヲ重ヌルモノト云フベシ」と述べているが、その状態は時代の進歩を経た現在においても基本的には変っていない。障害者に一般市民以下の生活と無権利状態をもたらしている私たちの社会の認識と国家の政策をどう変えるのか、そしてこのような社会の在り方が障害者の現在の状態を生み出している状況をどのように転換していけるか、まさにその大きな変革(Change)が求められている。
戦後、日本の障害者に関連する法制度は日本国憲法が保障する社会権を基盤としながら順次整備されてきたが、自由権を基盤とする権利を保障する法律は皆無に近い。その結果、社会権を基盤とするサービスは自由権的基盤を有しない無権利性と、自由権そのものを侵害しかねない一般社会からの排除ないし隔離的傾向をもたらしている。障害者権利条約の視点に立ち、自由権と社会権の枠組みを越え、市民との平等を基礎とした人権法に向けたパラダイムの転換が求められている。
そうしたパラダイムの転換があってこそ、社会権を基盤とするサービスも真に障害者のニーズに基づく形で提供されるようになるとともに、その充実にもつながる。福祉・医療・教育などの社会権の実現は、依然として自己責任や家族依存の色彩を強く残し、質的にも量的にも不十分である。今後は障害児・者が個人として尊重され、差別なく平等に地域社会の一員であることが認められることが政策目標とされなければならない。
今、世界の障害者は、障害者権利条約の策定過程への参画(決定権を持つ参加)を通して、自らの存在を示すとともに、障害種別を超えた連帯による変革の可能性を明らかにした。障害者権利条約は、障害関連の政策決定過程に障害者自身の参画を求めている。それは障害者の主体的な参画と、政府及び一般社会との新たなる関係と協働の創造こそが、障害者自身を含む社会のすべての人の意識と制度を大きく変える原動力だからである。障害者を含む、あらゆる人の参画によって、私たちの社会は一層、本当の意味で豊かで、個人や集団の違い・多様性を尊重する、真に創造的で活力ある社会となることができると、私たちは確信している。
2009年9月に誕生した民主党を中心とする政権は、この障害者権利条約の趣旨に即して、障害者の制度改革の新たな枠組みとして、「障がい者制度改革推進本部」の下に「障がい者制度改革推進会議」(以下「推進会議」という。)を設置し、障害者とその関係者を中心とした改革のためのエンジン部隊を用意した。
私たちは、かつてないこのような画期的な推進会議の一員として制度改革の重責を自覚し、本年1月より関連する制度全般にわたって各回4時間を超える議論を全14回にわたって重ねてきた。
ここに提示する第一次意見書は、私たちの総意として日本の障害者制度の諸課題について、その改革の基本的方向を示したものである。
1)世界人権宣言と条約化の背景
国際連合は、人権が保障されることが平和の礎として極めて重要であることを確認して、戦後いち早く世界人権宣言(1948)を発し、以後、人種差別撤廃条約(1965)、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(1966)、市民的及び政治的権利に関する国際規約(1966)、女子差別撤廃条約(1979)、拷問等禁止条約(1984)、児童の権利条約(1989)等の条約を採択し、各国に締結を求めた。
2)障害に関連した国際連合の動き
これらの人権条約の中で最初に障害に基づく差別を禁止したのは児童の権利条約であったが、国際連合は1970年代から障害問題に注意を向け、精神遅滞者の権利宣言( 1971)、障害者の権利宣言(1975)を出し、さらに、障害者の「完全参加と平等」の実現を目指して、1981年を「国際障害者年」とし、1982年には「障害者に関する世界行動計画」を採択し、1983年には1992年までを「国連障害者の十年」と宣言して各国に、同行動計画の実施を求めた。
「国連障害者の十年」の中間年(1987)には専門家会議が開かれ、法的拘束力のある障害者差別撤廃条約の必要性を訴えた。これを受けてなされたイタリア(1987)およびスウェーデン(1989)の条約化に向けた提案は、いずれも国連総会で合意が得られなかったが、これらの動きは障害者の機会均等化に関する基準規則(1993)に結実した。
3)障害に関連した諸外国の動き
アメリカでは、1973年に連邦ないし連邦から補助を受けている団体による差別を禁止するリハビリテーション法504条が追加され、1975年には統合教育を基本とする全障害児教育法が制定されるなど、障害者に関連する様々な権利法の制定を経て、1990年には合理的配慮を明文として掲げた法律である「障害のあるアメリカ人法」(ADA)が制定された。このADAは、その後、オーストラリアやイギリスをはじめ、多くの国の差別禁止法の制定に貢献することになった。
これらの各国の動向は、1999年の障害者に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する米州条約の採択、さらには2000年の雇用及び職業における均等待遇のための一般的枠組を確立するEC2000年78号閣僚理事会指令などにも結実し、このような世界的な動向が障害者権利条約策定の背景となった。
4)障害者権利条約
障害者権利条約は、2001年メキシコのビセンテ・フォックス大統領の提案を機に以後2002年から2006年まで1回の作業部会と8回にわたる委員会とが開催され、2006年12月に第61回国連総会で採択され、2008年5月には発効した。
「障害者の権利に関する条約(Convention on the Rights of Persons with Disabilities)」は、前文、本文50ケ条及び末文から成る。なお、この条約と同時に採択された、個人通報制度等に関する「障害者の権利に関する条約選択議定書(Optional Protocol to the Convention on the Rights of Persons with Disabilities)」は、前文、本文18ケ条及び末文から成る。
この条約の特徴は、“Nothing about us without us”のスローガンに象徴されるように、その制定過程に障害当事者を始めとする障害関連団体が参画したことである。さらに、非差別・平等を基調とし自由権と社会権を包括していることである。
この条約の目指すところは、障害者の実質的な権利享有上の格差を埋め、保護の客体でしかなかった障害者を権利の主体へとその地位の転換を図り、インクルーシブな共生社会を創造することである。
障害者権利条約は、前文に引き続き9ケ条の総則規定を設けているが、この中で条約の原則として、以下の内容が盛り込まれている。
- 固有の尊厳、個人の自律(自ら選択する自由を含む。)及び人の自立に対する尊重
- 非差別
- 社会への完全かつ効果的な参加及びインクルージョン
- 差異の尊重、並びに人間の多様性の一環及び人類の一員としての障害のある人の受容
- 機会の平等
- アクセシビリティ
- 男女の平等
- 障害のある子どもの発達しつつある能力の尊重、及び障害のある子どもがそのアイデンティティを保持する権利の尊重
その上で、21ケ条の各則規定を設け、個別の人権を幅広く規定している。さらに、条約実施を担保する国内的、国際的モニタリング、国際協力等についての規定を設け、最後に、条約の効力発生等の規定が設けられている。
日本は、2007年9月に条約に署名したが締結には至っておらず、後述するように、現在、同条約の締結に必要な国内法の整備を始めとする障害者に係る制度の集中的な改革に取り組んでいるところである。同条約の締結に際し策定される日本語正文には、この条約の趣旨・目的に照らし、条約で示された障害者の人権とその確保のための締約国の義務を明確に表現するものとすべきである。
1)障害者制度改革に向けた動き
障害者権利条約の策定に深く関わった日本障害フォーラム(JDF)は、策定段階から各省庁との意見交換などを通して、この条約の締結に際して必要とされる国内法制全般にわたる改革を申し入れてきた。
障害者権利条約の締結に関して必要とされる措置につき、具体的な検討を明らかにしたものとして、厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部長のもとで2008年4月から始まった「労働・雇用分野における障害者障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」による差別禁止を含めた条約対応への在り方に関する議論、及び障害者施策推進本部の下に置かれた障害者施策推進課長会議において、2008年12 月、障害者基本法に「合理的配慮の否定」が差別に含まれることを明記するとともに、中央障害者施策推進協議会について監視等の所掌事務を追加するとの結論を出したことが挙げられる。
また、文部科学省においても2008年8月より「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」の中で、合理的配慮やインクルーシブ教育についても議論された。
このような状況の中で、2009年3月、日本障害フォーラムは拙速な条約の締結に反対の意を表明し、条約の実施を担保するに足る法制度の変革を求めた。一方、当時の野党であった民主党が2009年4月に提出した「障がい者制度改革推進法案」は衆議院の解散により廃案となった。
その後、同年9月に成立した新政権の下で、12月「障がい者制度改革推進本部」が閣議決定により発足した。
関連した重要な動きとして、2010年1月7日の障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団と国(厚生労働省)との基本合意がある。同合意には、障害者自立支援法廃止の確約と新法の制定が明記されているほか、障がい者制度改革推進本部における「障害者の参画の下」の「十分な議論」を行うことを求めている。
2)障害者制度改革に関する審議の経過
2009年12月、障害者権利条約の締結に必要な国内法の整備を始めとする障害者に係る制度の集中的な改革を行い、関係行政機関相互間の緊密な連携を確保しつつ、障害者施策の総合的かつ効果的な推進を図るため、内閣に「障がい者制度改革推進本部」が設置された。
さらに、同本部の下に、障害者施策の推進に関する事項について意見を求めるため、障害者、障害者の福祉に関する事業に従事する者及び学識経験者等からなる「推進会議」が開催されることとなった。
推進会議は2010年1月から審議を開始し、障害者基本法の抜本改正、障害者差別禁止法制の制定、総合福祉法の創設に向け、障害者の雇用、教育、医療、司法手続、政治参加等の各分野及び「障害」の表記、予算確保に関する課題等について幅広く審議を行うとともに、関係する民間団体や所管府省からのヒアリング等、計14回にわたり精力的に審議を行ってきた。
なお、同年4月から推進会議の下に「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」(以下「総合福祉部会」という。)を設け、障害者に係る総合的な福祉法制となる「障害者総合福祉法」(仮称)の制定に向けた検討に着手しているところであり、障害児・者の実態調査にも取り組むほか、改革が必要な他の分野についても、今後、推進会議の下に部会等を設け検討を進めていく予定である。
このたび、推進会議におけるこれまでの議論を踏まえ、障害者制度改革の基本的な方向について第一次意見として取りまとめたものが本意見書である。
Ⅱ 障害者制度改革の基本的考え方
障害者権利条約の締結に向け、国内法制をその理念・趣旨に沿う形で整備するとともに、日本が目指すべき社会である、障害の有無にかかわらず、それぞれの個性の差異と多様性が尊重され、それぞれの人格を認め合う「共生社会」を実現することを目的とし、制度改革を進めるに当たっての基本的な考え方は次のとおりとする。
すべての障害者を、福祉・医療等を中心とした「施策の客体」に留めることなく、「権利の主体」たる社会の一員としてその責任を分担し、必要な支援を受けながら、自らの決定・選択に基づき、社会のあらゆる分野の活動に参加、参画する主体としてとらえる。
何人も障害を理由とする差別を受けない権利を有することを確認するとともに、差別の禁止や権利の侵害から救済を受ける法制度を構築し、差別のない社会づくりを目指すものとする。なお、差別には合理的配慮が提供されない場合も含むものとする。また、女性であることによって複合的差別を受けるおそれのある障害のある女性の基本的人権に配慮する。
障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、様々な社会環境との相互作用や社会との関係性のあり方によって生ずるものであるという「社会モデル」的認識を踏まえ障害の捉え方や障害者の範囲、障害者への各種支援制度等を見直すとともに、障害者の日常生活及び社会生活のあらゆる分野への参加を可能かつ容易にするため、公共的施設、輸送機関、情報通信等の社会環境の改善を図る。
すべての障害者が、家族への依存から脱却し、自ら選択した地域において自立した生活を営む権利を有することを確認するとともに、その実現のための支援制度の構築を目指す。制度の構築にあたっては、地域間格差が生じないよう十分に留意する。
障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進し、もって障害者への支援と人権の確保を図ることにより、障害の有無にかかわらず、それぞれの個性の差異と多様性が尊重され、それぞれの人格を認め合う共生社会の実現を図る。
Ⅲ 障害者制度改革の基本的方向と今後の進め方
Ⅱの基本的考え方を踏まえ、障害者制度改革の基本的方向と今後の進め方については次のとおりとする。
1)平成22年内の進め方
- 推進会議は、第一次意見を基に、障害者基本法の抜本改正を始め、改革が必要な分野について個別に部会や作業チーム等を設け、分野別課題の検討に着手する。
また、推進会議は、改革の推進体制、モニタリング機関の在り方、これまで議論していない事項を含め各分野において更に検討すべき課題等の事項について引き続き議論を行い、平成22年秋から年末を目途に、制度改革の重要方針に関する第二次意見を取りまとめる。 - 政府は、第一次意見を踏まえ、速やかに制度改革の方向性を決定するとともに、第二次意見を踏まえ、制度改革の重要方針を決定すべきである。
2)平成23年以降の進め方
- 政府は、制度改革の重要方針に基づき、障害者基本法の抜本改正や制度改革の推進体制等に関する法律案を平成23年の常会に提出すべきである。
- 推進会議は、改革集中期間*(1)内において、改革が必要な分野の制度・施策の在り方や次期障害者基本計画の在り方・方向性等を具体化するため、部会・作業チーム等での議論を踏まえ、必要に応じ政府に対する意見提出を行っていくこととする。
- 上記の法律案が成立し、施行された後は、3.の1)-2において後述する、推進会議の機能を継承する審議会組織において、検討すべき課題について引き続き議論を行い、必要に応じ政府に対する意見提出等を行っていくべきである。
1)地域で暮らす権利の保障とインクルーシブな社会の構築
国際障害者年以降、ノーマライゼーションの理念が日本にも紹介され、地域福祉が進んできたことは事実であるが、社会一般とは異なる生活をしている障害者が依然として多くいる。障害に応じたきめ細やかな支援が必要であることはもちろんであるが、それは、限りなく一般社会生活に近い形で提供されなければならず、一般の社会生活とは異なる生活形態を強いられ、社会から分離・排除されてはならない。
こうした観点から、教育、福祉、医療等における制度設計に当たっては、分離や排除の傾向や地域間格差を限りなく取り除き、誰もが有する地域で暮らす権利を実現するため、地域移行や地域生活支援の充実を柱に据えた施策を展開していくことが求められる。また、そのために必要な財源を確保し、財政上の措置を講ずるべきである。
2)障害の捉え方*(2)
障害の捉え方について世界保健機関(WHO)が提唱した国際障害分類が、環境との相互作用によるものとする生活機能分類(ICF)に改められ、また、障害者権利条約では、より社会モデルに近い捉え方が示されている。
社会モデルは、障害という属性を有する人をありのままで受け入れようとしない社会の有り様そのものを問うものである。
こうした障害の捉え方は、障害者施策全般に及ばなければならず、より根本的には国民全体の意識変革に結びつかなければ、真の共生社会の実現には至らない。
3)障害の定義
障害の捉え方は障害の定義に影響を及ぼし、障害の定義は障害の種類、範囲、障害者の総数、障害者施策の内容や対象を画するものとなる。
医学モデルによると障害の原因となる疾患や症状とその程度によって障害が規定され、それをもとに障害者施策の内容や対象範囲が限定されることになるが、社会モデルによると疾患や症状を有する、あるいは有するものとみなされる人々が負うところの社会的不利の種類やその程度に応じて障害が規定されることになる。
また、障害の定義は障害者施策の入り口を画する機能を有する疾患や症状の違いにかかわらずサービスを必要としている障害者をあまねく含めることが重要である。こうした観点から、障害者基本法やその他の法制における諸定義は見直すことが求められる。
4)差別の定義
これまでの社会は、障害者に対する社会の異なる取扱は、個人の障害に起因するものとして、平等な社会参加を困難にするものであっても、これを差別であるとは認識してこなかった。しかし、「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」制定に向けて行った千葉県の差別事例の募集や内閣府の調査によっても、きわめて多くの差別事象が存在し、救済されることなく放置されている実態が明らかとなった。
こうした実態からすると、障害者に対する差別の定義(合理的配慮を提供しないことを含む。)を明らかにし、新たに策定される障害者差別禁止法制に取り込むだけでなく、既存の法律に散在する差別禁止条項にも障害に基づく差別禁止を盛り込むことが求められる。
5)言語・コミュニケーションの保障
これまで、手話や要約筆記、指点字等を含めた多様な言語の選択、・コミュニケーションの選択手段を保障することの重要性及び必要性は省みられることが少なかったため、それらの明確な定義を伴う法制度が求められる。
6)虐待のない社会づくり
障害者に対する虐待は、障害者の尊厳を著しく侵し、その自立及び社会参加に深刻な影響を与えるものであり、障害者の人権擁護の観点から、障害者に対する虐待の防止、虐待を受けた障害者に対する救済等を目的とする法制度の構築が求められる。
67)障害の表記
「障害」の表記については、「障害」のほか、「障がい」「障碍」「しょうがい」等の様々な見解があることを踏まえ、推進会議としては、今後とも、学識経験者等の意見を聴取するとともに、国民各層における議論の動向を見守りつつ、それぞれの考え方を整理するなど、引き続き審議を行う。
8)実態調査
障害者にかかわる制度設計は、障害者及びその家族の実態に基づいて行うことが求められる。
1)-1 障害者基本法の抜本的改正
障害者基本法は、もともと心身障害者対策基本法を出発点としており、改正後も障害者施策の基本を定めるという枠組みを出るものではない。
しかし、障害者権利条約で示された障害者の人権とその確保のための締約国の義務履行を担保する受け皿として、障害者基本法を抜本改正して社会権や自由権を実現するための基本法として位置付け、障害者の人権を確保するための諸施策を規定すべきである。
具体的には、制度の谷間を生まない包括的な障害の定義、合理的配慮を提供しないことが差別であることを含む差別の定義、手話及びその他の非音声言語が言語であること、障害ゆえに侵されやすい基本的人権などを総則で確認し、すべきである。
さらにまた、人権の確保及び、障害を持つのある女性が複合的差別を受けやすい状況、及び、障害のある子どもが自らその権利を確保することに困難を抱えている状況に配慮するといった観点から、既存の諸施策に関する規定を見直すとともに、べきである 。
さらに、政治参加や国際協力等の現行法の規定にない施策分野について新たな規定を追加することを検討すべきである。
また、改革期間終了後、障害者権利条約の実施状況の監視を始めとした次の機能を担う審議会組織をいわゆるモニタリング機関として法的に位置付けることを検討すべきである。
- ○ 所掌事務
- 障害者施策の推進に係る調査審議、障害者施策の実施状況の監視(モニタリング)等
- ○ 権限
- 関係各大臣等に対する勧告、資料提出要求 等
1)-2 改革集中期間における推進体制
改革集中期間内における改革の推進等のため、中央障害者施策推進協議会及び推進会議を発展的に改組し、障害当事者、学識経験者等で構成する、次の機能を担う審議会組織を新たに内閣府に設置すべきである。
なお、改革集中期間終了後に、同組織は、前出のモニタリング機関へと改組されるべきである。
- ○ 所掌事務
- 障害者制度の集中的な改革の推進、障害者施策の推進に係る調査審議、障害者施策の実施状況の監視 等
- ○ 権限
- 関係各大臣等に対する勧告、資料提出要求 等
(今後の進め方)
推進会議又は作業チームによる検討を経て、平成22年内に取りまとめを予定する第二次意見を踏まえ、政府は平成23年の常会への法案提出を目指すべきである。
2)「障害を理由とする差別の禁止法」(仮称)等の制定
あらゆる分野における障害者に対する差別類型を明らかにしてこれを包括的に禁止し、また、障害者がこれらの人権被害を受けた場合の救済等を目的とした「障害者を理由とする差別の禁止法」(仮称)(以下「障害者差別禁止法」という。)の制定に向けた検討を進める。検討に当たっては、現在法務省において検討中の人権救済制度の検討状況にも留意するものとする。なお、差別禁止の検討に併せて、障害者制度改革の推進に必要な他の関係法律を一括して整備するための法案の検討も行うものとする。
また、政府は、障害者に対するを理由とする差別を防止するため、当該差別に該当するおそれのあるものについて事例収集を行い、その結果を公表すべきである。
(今後の進め方)
本年夏頃に、推進会議の下に「差別禁止部会」(仮称)を設け、「障害者差別禁止法」(仮称)の制定に向けた検討*(3)を開始し、平成24年度末を目途にその結論を得る。これを受けて、政府は25年の常会への法案提出を目指すべきである。併せて、現在法務省において検討中の人権救済制度に関する法律案についても、遅くとも25年の常会への早急に提出できるようを目指検討すべきである。
3)「障害者総合福祉法」(仮称)の制定
現行の障害者自立支援法を廃止して、新たな障害者総合福祉法(仮称)を制定する。
この制定に当たっては、制度の谷間を生まない障害の定義のもとに、すべての障害者が地域において自立した生活を営むことができる制度構築を目指すべきである。具体的には、医学モデルに偏った障害程度区分を見直すとともに応益負担を廃止し、一人一人のニーズに基づいた地域生活支援体系を整備し、最重度であっても、どの地域であっても安心して暮らせる、24時間介助制度を始めとするサービスを提供するものとする。そのためにも、入所者・入院者の地域移行を可能とする仕組みを整備するものとする。
(今後の進め方)
本年4月から推進会議の下に「総合福祉部会」を設けたところである。当面対応が必要な課題について、同部会において整理された意見を踏まえ、政府は必要な対応策を講ずるべきである。同部会では、推進会議における大枠の議論の枠内で、障害者に係る総合的な福祉法制である「障害者総合福祉法」(仮称)の制定に向けた検討に着手しているところであり、平成23年夏から秋までを目途に結論を得る。これを受けて、政府は、24年の常会への法案提出、25年8月までの施行を目指すべきである。
以下の各個別分野については、推進会議の問題認識を踏まえて改革の集中期間内に必要な対応を図るよう、横断的課題の検討過程や次期障害者基本計画の策定時期等も踏まえた改革の工程表を示していくべきであり、事項ごとに関係府省において検討を進め、所要の期間内に結論を得て、必要な措置を講ずるべきである。
1)労働及び雇用
(推進会議の問題認識)
障害者が地域において自立した生活を営み、より一層社会参加ができるようにするためには、他と等しく障害者が職業等を選択でき、働く機会が確保されるとともに、多様で利用可能な労働条件・環境が整備されることが不可欠である。 |
【障害者の雇用の促進】 現状において障害者の雇用状況は、障害者雇用促進法に基づく法定雇用率を達成している企業が全体の半数に満たないなど、厳しい状況にあり、また、障害の種別・程度によって職域や雇用義務の有無、さらには雇用の機会等に格差がある等、障害者の雇用の促進を図るために大幅な改善が求められている。 このような観点から、以下を実施すべきである。
|
【福祉的就労に従事する障害者に対する支援】 福祉的就労に就いている障害者の月額工賃は平均して約一万二千円程度であり、地域で自立した生活を送るには困難な低水準にあるほか、労働法規で定められているような措置の対象とならない場合がある等の問題がある。このような状況を改善するため、以下を実施すべきである。
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【職場における合理的配慮や必要な支援の整備】 障害者が自らの能力を最大限に発揮し、障害のない者と同様に安全かつ健康的な労働環境を確保するためには、障害を理由とする差別が禁止され、職場において必要な合理的配慮や支援がなされる必要がある。 このような観点から、以下を実施すべきである。
|
(政府に求める今後の取組に関する意見)
- ○ 障害者雇用促進制度における「障害者」の範囲について、就労の困難さに視点を置いて見直すことについて検討し、平成24年度内にその結論を得る。
- ○ 障害者雇用率制度について、雇用の促進と平等な取扱いという視点から、いわゆるダブルカウント制度の有効性について平成22年度内に検証するとともに、精神障害者の雇用義務化を図ることを含め、積極的差別是正措置としてより実効性のある具体的方策を検討し、平成24年度内に結論を得る。
- ○ いわゆる福祉的就労の在り方について、労働法規の適用と工賃の水準等を含めて、推進会議の意見を踏まえるとともに、総合福祉部会における議論との整合性を図りつつ検討し、平成23年内にその結論を得る。
- ○ 国及び地方公共団体における物品、役務等の調達に関し、適正で効率的な調達の実施という現行制度の考え方の下で、障害者就労施設等に対する発注拡大に努めることとし、調達に際しての評価の在り方等の面から、障害者の雇用・就業の促進に資する具体的方策について必要な検討を行う。
- ○ 労働・雇用分野における障害を理由とする差別の禁止、職場における合理的配慮の提供を確保するための措置、これらに関する労使間の紛争解決手続の整備等の具体的方策について検討を行い、平成24年度内を目途にその結論を得る。
- ○ 障害者に対する通勤支援、身体介助、職場介助、ジョブコーチ等の職場における支援の在り方について、平成23年内を目途に得られる総合福祉部会の検討結果等を踏まえ、必要な措置を講ずる。
2)教育
(推進会議の問題認識)
障害者権利条約においては、あらゆる教育段階において、障害者にとってインクルーシブな教育制度を確保することが必要とされている。 障害の有無にかかわらず、それぞれの個性の差異と多様性が尊重され、それぞれの人格を認め合う共生社会の構築に向け、学校教育の果たす役割は大きい。人間の多様性を尊重しつつ、精神的・身体的な能力を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加するとの目的の下、障害者と障害のない者が差別を受けることなく、共に生活し、共に学ぶ教育(インクルーシブ教育)を実現することは、互いの多様性を認め合い、尊重する土壌を形成し、障害者のみならず、障害のない また、義務教育だけでなく、就学前の教育、高校や大学における教育及び就労に向けた職業教育や能力開発のための技術教育等についても、教育の機会均等が保障されなければならない。 |
なお、現行の教育基本法の第4条第1項 |
【地域における就学と合理的配慮の確保】 また、特別支援学校は、本人が生活する地域にないことも多く、そのことが幼少の頃から地域社会における 障害者が地域の学校に就学し、多大な負担(保護者の付き添いが求められたり、本人が授業やそれ以外の教育活動に参加しにくいまま放置される等)を求め このような観点から、以下を実施すべきである。
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【学校教育における多様なコミュニケーション手段の保障】 障害者の人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力を可能な限り発達させるためには、教育が本人にとって最も適当な言語並びに このような観点から、以下を実施すべきである。
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(政府に求める今後の取組に関する意見)
- ○ 障害のある子どもが障害のない子どもと共に教育を受けるという障害者権利条約のインクルーシブ教育システム構築の理念を踏まえ、体制面、財政面も含めた教育制度の在り方について、平成22年度内に障害者基本法の改正にもかかわる制度改革の基本的方向性についての結論を得るべく検討を行う。
- ○ 手話・点字等による教育、発達障害、知的障害等の子どもの特性に応じた教育を実現するため、手話に通じたろう者を含む教員や点字に通じた視覚障害者を含む教員等の確保や、教員の専門性向上のための具体的方策の検討の在り方について、平成24年内を目途にその基本的方向性についての結論を得る。
3)所得保障等
(推進会議の問題認識)
障害者は、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有しており、障害者が地域で自立した生活を営むためには、一定水準の所得を保障することが不可欠である。 |
【公的年金制度改革における検討】 厚生労働省において平成25年常会に法案提出を予定している新たな年金制度創設に向けた議論の中で、障害者が地域において自立した生活を営むために必要な所得保障の在り方について、給付水準と負担、並びに稼働所得との調整の在り方を含めて検討を行うべきである。 【厚生労働省 |
【無年金障害者の所得保障】 国民年金制度の発展過程において生じた特別な事情等により、障害基礎年金の支給対象から除外されている無年金障害者(20歳以前の初診日認定ができない者、国籍条項撤廃時(1982年)に20歳以上の在日外国人障害者等)が、現在多数存在している。 このような現状を受けて、学生無年金障害者等を福祉的措置によって救済するために設けられた「特別障害給付金」の給付対象範囲の拡大を含め、無年金障害者の困窮状態の改善を図る措置を早急に講ずるべきである。 【厚生労働省 |
【住宅の確保】 障害者が地域において自立した生活をするためには、住居の確保が不可欠であるが、家賃等の負担が大きく、地域での生活が困難になっているという現状がある。 したがって、住宅確保のための支援の在り方について家賃等の軽減を含め、引き続き総合福祉部会における議論と整合性を図りつつ検討を行うべきである。 【厚生労働省・ |
(政府に求める今後の取組に関する意見)
- ○ 障害者が地域において自立した生活を営むために必要な所得保障の在り方について、給付水準と負担の在り方も含め、平成25年常会への法案提出を予定している公的年金制度の抜本的見直しと併せて検討し、平成24年内を目途にその結論を得る。
- ○ 特別障害給付金法の附則において、給付金の支給対象とならなかった在日外国人障害者等に対する福祉的措置の検討規定が設けられており、この法律附則の検討規定に基づき、立法府その他の関係者の議論を踏まえつつ検討する。
- ○ 障害者の地域における自立した生活を可能とする観点から、障害者の住宅確保のために必要な支援の在り方について、総合福祉部会における議論との整合性を図りつつ検討し、平成24年内にその結論を得る。
4)医療
(推進会議の問題認識)
障害者が地域において安心して自立した生活が送れるためには、すべての障害者が障害に基づく差別なしに可能な限り最高水準の健康を享受できるよう、必要な医療やリハビリテーション等が提供さなければならない。特に精神医療に関しては、医療と福祉が混在し制度上の問題を多く含んでいる精神保健福祉法の抜本的な改正が必要である。 |
【精神障害者に対する強制入院等の見直し】 現行制度では、精神障害者に対する措置入院、医療保護入院、裁判所の決定による入院、強制医療介入等については、一定の要件の下で、本人の同意を必要とせずに、強制的な入院・医療措置をとることが可能となっており、自由の剥奪という観点から検討すべき問題がある。 このため、現行の精神障害者に対する強制入院、強制医療介入等について、いわゆる「保護者制度」 【厚生労働省 |
【地域医療の充実と地域生活への移行】 精神科病院においては、入院治療の必要がないにもかかわらず、長期入院による自立生活の困難等の問題により入院せざるを得ない、いわゆる「社会的入院」患者が厚生労働省の統計から推定される人数でも約7万人いるといわれている。 このような現状を改善するため、入院中の精神障害者に対する退院支援の充実を図るべきである。退院支援や地域生活への移行後における医療、生活面からのサポート( 【厚生労働省 |
【精神医療の一般医療体系への編入】 現行制度においては、精神疾患のある患者は、臨時応急の場合を除いて、原則として精神病室以外の病室には入院できないこととなっており、このことが精神障害者とって一般医療サービスを受けることを困難にしている。また、精神科医療の現場においては、いわゆる「精神科特例」により一般医療に比して医師や看護師が少ない状況にある。 このような状況を踏まえ、以下を実施すべきである。
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【医療に係る経済的負担の軽減】 障害者は健康面における特段の配慮や対応を必要とする場合が多いが、継続的な治療等に要する費用負担が大きいため、必要な医療を受けることが困難な状況がある。 このような状況を改善するため、障害者がその健康状態を保持し、自立した日常生活等を営むために必要な医療を受けたときに要する費用負担については、本人の負担能力に応じたものとする方向で、総合福祉部会において引き続き検討する。 【厚生労働省 |
【地域生活を容易にするための医療の在り方】 日常生活における医療的ケア(たん吸引、経管栄養等 このような状況を改善するため、以下を実施すべきである。
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(政府に求める今後の取組に関する意見)
- ○ 精神障害者に対する強制入院、強制医療介入等について、いわゆる「保護者制度」の見直し等も含め、その在り方を検討し、平成24年内を目途にその結論を得る。
- ○ 「社会的入院」を解消するため、精神障害者に対する退院支援や地域生活における医療、生活面の支援に係る体制の整備について、総合福祉部会における議論との整合性を図りつつ検討し、平成23年度内にその結論を得る。
- ○ 精神科医療現場における医師や看護師等の人員体制の充実のための具体的方策について、総合福祉部会における議論との整合性を図りつつ検討し、平成24年内を目途にその結論を得る。
- ○ 自立支援医療の利用者負担について、法律上の規定を応能負担とする方向で検討し、平成23年内にその結論を得る。
- ○ たん吸引や経管栄養等の日常における医療的ケアについて、介助者等による実施ができるようにする方向で検討し、平成22年度内にその結論を得る。
5)障害児支援
(推進会議の問題認識)
障害児は、一人の子どもとして尊重され、すべての人権、基本的自由を享受しているという観点から、障害児の最善の利益を考慮した施策が講じられる必要がある。 |
【障害児やその保護者に対する相談支援】 相談支援については、障害児の出生直後又は「気になる」・「育てにくい」段階から、医療及び福祉関係者からの適切な情報提供、心理的サポートが不足しており、障害児を含め、その家族に対する十分な支援が提供されていない。 このような現状を改善するため、以下を実施すべきである。
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【児童福祉における障害児支援の位置付け】 障害児支援は、早期に必要な専門的支援が求められる反面、その支援が障害児のみに注目した形でのサービス提供になりがちであるため、その家族への支援や地域社会との関係が置き去りになっている場合がある。また、障害の軽減のみが重視されがちであり、そのことが本人の障害に対する否定的な認識を助長してしまうという問題もある。 このような現状を改善するため、障害児支援については、家族への子育て支援や 【厚生労働省 |
(政府に求める今後の取組に関する意見)
- ○ 障害児やその保護者に対する相談や療育等の支援が地域の身近なところで、利用しやすい形で提供されるようにするため、現状の相談支援体制の改善に向けた具体的方策について、総合福祉部会における議論との整合性を図りつつ検討し、平成23年内にその結論を得る。
- ○ 障害児に対する支援が、一般施策を踏まえつつ、適切に講じられるようにするための具体的方策について、総合福祉部会における議論との整合性を図りつつ検討し、平成23年内にその結論を得る。
6)虐待防止
(推進会議の問題認識)
入所施設や家庭内、労働現場や精神科病院等の医療現場等において障害者に対する虐待の例もみられるところであり、虐待の防止やその救済等に関する法整備が急務となっている。立法府においては、障害者の虐待防止に係る制度の法制化に向けた検討がなされているが、今後の法整備に当たっては、政府が行う場合も含め、次の方針に沿って検討されるべきである。 (防止すべき虐待行為)
障害者権利条約の趣旨を踏まえ、虐待を未然に防止するため、効果的な監視が可能な体制を整える。 【厚生労働省・文部科学省 |
(政府に求める今後の取組に関する意見)
- ○ 障害者に対する虐待防止制度の構築に向け、推進会議の意見を踏まえ、速やかに必要な検討を行う。
7)建物利用・交通アクセス
(推進会議の問題認識)
障害者が、日常生活又は社会生活において、公共的施設・設備、交通機関等を円滑に利用できるようにすることは、障害者の社会参加を促進する観点から不可欠である。 平成18年に制定された「高齢者、障害者等の移動の円滑化の促進等に関する法律」(バリアフリー新法)の制定等により、バリアフリーの取組においては、一定の進展はみられるものの、地方部より大都市部におけるバリアフリー整備が優先されてきたことにより、地方における整備の遅れが顕著となっている。また、障害者が公共交通機関を利用するに当たって、乗車拒否や利用拒否等の不当な対応もみられるところであり、障害者にとって、円滑かつ安全に公共的施設・設備、交通機関等を利用できる環境が十分に整っているとはいえない状況がある。 このような状況を改善するため、以下を実施すべきである。
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(政府に求める今後の取組に関する意見)
- ○ 「交通基本法」(仮称)の制定と関連施策の充実について、推進会議の意見を踏まえ、平成23年常会への法案提出に向け検討する。
- ○ 地方における公共施設や交通機関等のバリアフリー整備の促進等のため、整備対象施設の範囲の拡大や数値目標の設定等も含め、必要な具体的方策を検討し、平成22年度内を目途にその結論を得る。
- ○ 公共施設や交通機関等における乗車拒否や施設及び設備の利用拒否に関する実態を把握した上で、その結果を踏まえ、障害者差別禁止法の検討と併せて合理的配慮が確保されるための具体的方策について、検討する。
8)情報アクセス・コミュニケーション保障
(推進会議の問題認識)
障害者は、すべての人権及び基本的自由を完全に享有することを可能とするため、必要な情報及びコミュニケーションが保障される権利を有する。 障害者も、障害のない人と同様に、表現の自由や知る権利の保障の下で、情報サービスを受ける権利を有しており、自ら必要とする言語及びコミュニケーション手段を選択できるようにするとともに、障害者が円滑に情報を利用し、その意思を表示できるようにすることが不可欠である。 国及び地方公共団体は、障害者が選択するコミュニケーション手段を使用することができるよう必要な施策を講じなければならない。 |
【情報バリアフリーの取組】 このような状況は、障害者に不利益を負わせるだけでなく、障害者と交流する障害のない人にも不利益を生じさせるものである。 このような観点から、以下を実施すべきである。
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【災害時における緊急情報等の提供】 災害時における緊急情報等は、生命に関わる極めて重要性の高いものであるが、現状では、被害情報や避難情報等の提供が障害者に配慮された形で行われているとは言い難く、市町村によってもその対応にはばらつきがみられる。 このような状況を改善するため、以下を実施すべきである。
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(政府に求める今後の取組に関する意見)
- ○ 障害の特性に配慮した方法による情報提供が行われるよう、関係省庁が連携し、技術的・経済的な実現可能性を踏まえた上で、必要な環境整備の在り方について、障害当事者の参画も得つつ検討し、平成24年内にその結論を得る。
- ○ 放送事業者における現状の対応状況、取組の拡充に係る課題等を踏まえ、平成22年度内に、災害に関する緊急情報等の提供について、放送事業者に対する働きかけ等の措置を検討する。
- ○ 国・地方公共団体による災害時の緊急連絡について、あらゆる障害の特性に対応した伝達手段が確保されるための具体的な方策の在り方について検討し、平成24年内にその結論を得る。
9)政治参加
(推進会議の問題認識)
民主政治の健全な発達を期するためには、すべての国民が自由な意思の下で、公明かつ適正な選挙等の実施を確保されることが不可欠である。 そのため、障害者についても、選挙等に関する情報における「知る権利」の保障の下で、障害のない人と平等に自己の自由な意思により政治参加の機会が実現されるべきである。 しかしながら、現状では、障害者の選挙権や投票権の保障が、制度の運用において、障害のない人と同等程度に保障されていない問題が多々あり、早急に必要な改善措置を講ずるべきである。 |
【選挙等に関する情報へのアクセス】 選挙等に関する情報の提供においては、点字及び音声による選挙公報等の発行が十分にはなされていないことや、政見放送において字幕・手話の付与が十分にはなされていない等、障害のある人が情報を得ることが困難な状況がある。 このような状況を改善するため、以下を実施すべきである。
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【投票所へのアクセス】 地域によっては、投票所へ移動する際の困難なアクセスや投票所における物理的バリア等により、障害者の投票機会の確保が容易でない状況がある。 このような状況を改善するため、以下を実施すべきである。
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【選挙活動における配慮等】 障害者による選挙活動への必要な配慮等についても改善を図る必要があるが、選挙制度の在り方については、議会政治の根幹にかかわる問題であり、各党各会派における議論に委ねられるべきものであることから、以下の事項について、立法府においても真摯な検討を期待 する。
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(政府に求める今後の取組に関する意見)
- ○ 障害者が選挙情報等に容易にアクセスできるよう、点字及び音声による「選挙のお知らせ版」について、今年執行予定の参議院選挙において全都道府県での配布を目指す。政権放送への字幕・手話の付与等については、関係機関と早急に検討を進め、平成22年度内にその結論を得る。
- ○ 投票所への困難なアクセスや投票所の物理的バリア等を除去するための具体的方策として、投票所への移動が困難な選挙人の投票機会の確保に十分配慮するとともに、今年執行予定の参議院選挙において、投票所入り口の段差解消割合が100%(人的介助を含む)となるよう、市町村選挙管理委員会の取組を促していく。
- ○ インターネットを活用した選挙活動の解禁に係る制度が障害者の便宜に配慮した運用がされるよう必要な措置を講ずる。
10)司法手続
(推進会議の問題認識)
刑事訴訟手続や民事訴訟手続を始めとする司法手続において、障害者がその手続上の権利が保障され、他と平等に参加できるようにするためには、障害の特性に応じた手続上の配慮の提供が不可欠である。 しかしながら、特に、適正手続として保障される刑事訴訟法上の各種の権利行使において、そもそも法制度自体が障害者の存在を想定していないとの指摘があり、また運用の実態においても大きな問題が存在している。さらに、刑事被拘禁施設内における処遇においても、障害特性が理解されていないが故の不利益取扱いについて指摘がある。 |
【刑事訴訟手続における配慮】 (捜査段階) 障害の特性に配慮した適切な方法による情報の提供等が確保されていないため、令状主義の趣旨がいかされず、弁護人選任権や黙秘権の告知が告知としての機能を果たしておらず、さらには、取調べの適正を欠くといった事態を招いている場合がある。 このような現状を改善するため、以下を実施すべきである。
(公判段階) 手続的な保障がないままに自白がなされた場合には、証拠として採用されないような仕組みが検討されるべきである。 また、障害者が被告人や証人として、質問や尋問を受ける場合には、障害の特性に対応した適切な情報提供やそのために必要な手話通訳者、要約筆記者、知的障害者に対する支援者等の支援がされるよう必要な手続上の措置を講ずるべきである。 【法務省 |
【被拘禁中の処遇】 このような状況を改善するため、被拘禁者の有する外部交通権等の諸権利の行使及び刑務作業を含めた施設内の生活全般について、物的な設備や情報提供におけるアクセス、医療面での配慮等がされるよう必要な措置を講ずるべきである。 【法務省 |
【コミュニケーション確保に係る費用】 司法手続が適正になされるためには、障害を理由とした特別な負担を要することなく、当事者のコミュニケーションが十分に確保されることが不可欠である。 このような観点から、民事訴訟手続や刑事訴訟手続等における障害者のコミュニケーションの確保のために必要な人的、物理的支援に係る費用については、原則として公的負担とすべきである。 【法務省 |
【司法関係者(警察官及び刑務官を含む。)の研修】 司法関係者の障害についての正しい知識や理解が不足ないし欠如していること 【法務省・警察庁・裁判所関係】 |
上記の他、判決が知的障害者に対してなされる場合に本人に理解できる内容や言葉遣いでなされていないことや、それが視覚障害者に対してなされる場合にも点字による判決が交付されないこと等の問題がある。また、裁判傍聴に当たっては、パソコン要約筆記による全体投影や磁気ループの設置がなされていない等障害者による傍聴に際しての配慮がなされていない。さらに、民事訴訟手続においては、障害者の稼働能力が低く認定される結果、逸失利益の認定が低くおさえられるという指摘がなされており、これらの在り方について裁判所における真摯な検討が望まれる。 【裁判所関係】 |
(政府に求める今後の取組に関する意見)
- ○ 刑事訴訟手続において、あらゆる障害の特性に応じた配慮がされるための具体的方策について検討し、平成24年内を目途にその結論を得る。
- ○ 司法関係者(警察官及び刑務官を含む。)に対する障害に関する理解深める研修について、障害者関係団体の協力を得つつ、その一層の充実を図る。
11)国際協力
(推進会議の問題認識)
障害者施策における国際協力は、日本が国際社会の一員としての責務として諸外国・地域における障害者の地位の向上に寄与し、併せて国内の障害者施策の推進にも資するものである。こうした観点から、障害当事者の権利を尊重した国際交流の推進に当たっては、障害者の能力構築 日本は、第1次及び第2次アジア太平洋障害者の十年(1993-2002、2003-2012)の提唱国として、NGO等と協力しつつ、「びわこミレニアム・フレームワーク(BMF)」の採択等に積極的に貢献してきている。 他方で、現在、政府開発援助大綱においては、社会的弱者の状況を考慮する旨が規定されているのみで、障害者については明確に位置付けられておらず、援助が障害者の地位の向上に資するものになっているとは言いがたい。 今後、障害者権利条約の締結を見据え、 このような観点から、以下を実施すべきである。
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(政府に求める今後の取組に関する意見)
- ○ 障害者の地位の向上に資する政府開発援助の在り方について、政府開発援助大綱への障害者の位置付けの在り方を含め、必要な検討を行い、次期政府開発援助大綱の改定の際にその結論を得る。
- ○ 現行の「アジア太平洋障害者の十年」以降のESCAPを中心としたアジアにおける障害分野の国際協力について、更に積極的に貢献する。
Ⅳ 日本の障害者施策の経緯
日本の国家による本格的な障害者施策は戦後から始まった。戦前においては一般的な窮民対策としての「恤救規則」(1874)や「救護法」(1929)の中で障害者が救貧の対象とされるか、あるいは精神障害者に対しては「路上の狂癲人の取扱いに関する行政警察規則」(1875)等に表れているように治安・取締りの対象でしかなかった。
個別の障害者施策による保護も存在はしたが、大前提は現在も続く「家族依存」であり、それ以外の障害者に対する保護はもっぱら民間の篤志家、宗教家、社会事業者の手に委ねられていたと言っても過言ではない。国家の施策の対象は軍事扶助法(1917年制定、1937年改定)などにより、ほぼ傷痍軍人に限られた状態だった。
ところが、敗戦を機に日本は、GHQの指示の下で社会福祉に対する施策を打ち出すと共に、日本国憲法に福祉が位置付けられた。
その結果、生活保護法(1946)、児童福祉法(1947)、身体障害者福祉法(1949)のいわゆる福祉三法が、さらに、福祉事業を民間が行う受け皿として社会福祉事業法(1951)が制定された。
これにより、福祉サービスは、①行政の措置として提供され、②その事務は、国の責任を前提として国から委任を受けた地方公共団体の長により国の機関として処理され、③その費用は応能負担とするという戦後長く続いた社会福祉の基礎構造が形成され、また、本来国家がなすべき福祉事業を民間の社会福祉法人に措置委託という形式で行わせるための基盤が整えられた。
また学校教育法(1947)が制定され、従来は教育の対象とされていなかった障害児に対し、特殊教育という分離別学の形で教育の機会が与えられるようになった。
ただし、国が予算の範囲で、こうした施策を展開するために、医学モデルなどによる、障害等級などを設け、制限を行ったこと、さらに福祉法の目的を「経済的自立可能性」を前提として、対象を制限してきたことは無視できない点である。戦後の歴史は、1960年代の対象拡大の一方で、訓練主義的要素を重視し、かつ保護主義的(コロニー化・「愛される障害者像」)な問題も複合的に内在していた点を見逃せない。
1960年代に入ると高度経済成長を背景に、国民年金法に基づく無拠出制の福祉年金の支給が開始され(1960)、また、一般就労への促進を図る身体障害者雇用促進法(1960)が制定された。
しかし、その反面、援護施設を中心にした精神薄弱者福祉法(1960)が制定され、障害種別ごとの施策が展開されるとともに、以後、特に知的障害者や「重症心身障害児」の入所施設の増加を見るなど、終生保護に対して起きたノーマライゼーションの思想や脱施設化へ向かう世界的動向とは相反する施策がとられた。
また障害児教育も障害のない子との分離別学のままであり、文部省が1961年に出版した「わが国の特殊教育」においても「普通の学級の中に、強度の弱視や難聴や、さらに精神薄弱や肢体不自由の児童・生徒が交じり合って編入されているとしたら、学級内で大多数を占める心身に異常のない児童・生徒の教育そのものが、大きな障害を受けずにはいられません。」と当時の考え方が率直に記されている。
精神障害については、医療金融公庫法が施行(1960)され、既に始まっていた私立精神科病院設立の動きを助長した。改正刑法準備法案(1961)が出され、精神衛生法改正により措置入院国庫負担率が引き上げられた(1961)。精神衛生法(1950)がライシャワー事件を契機に改定(1965)され、以後、精神病床も世界に類をみないほどに増加の一途を辿ることになった。WHOはクラーク勧告により日本の閉鎖的収容主義的な精神医療の在り方を非難した(1968)。
1970年代に入ると、1960年代に展開された諸施策について施策の基本を示す心身障害者対策基本法(1970)が制定された。しかし、その目的は発生の予防や施設収容等の保護に力点を置くものであり、しかも、精神障害者は除外されたままであった。
また、以前より大きな社会問題となっていたスモン薬害病についての研究体制整備が契機となって、1972年には、①原因不明、治療方法未確立であり、かつ後遺症を残す恐れの少なくない疾患、②経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず、介護等に著しく人手を要するため家族の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾患に関して、難病対策要綱が示され、調査研究の推進、医療施設の整備、医療費の自己負担解消を三本柱とする対策が始まった。
ところで、高度経済成長に支えられた1960年代の障害者施策の展開は、オイルショック(1973)の影響を受けることになるが、それに抗して、身体障害者雇用促進法は大改正され(1976)、それまで努力義務でしかなかった法定雇用率制度が義務化されるとともに納付金制度が導入された。
さらに、この時期、盲・ろう学校については既に1948年から学年進行の形で義務制が実施されていたが、養護学校については、1973年に義務制の実施を予告する政令が公布され、1979年には実施に移された。これにより、これまで就学猶予・免除という扱いとされてきた障害児の全員就学体制が整えられることにはなったが、その反面、世界的には同時期に開始されていた統合教育、さらにはその後のインクルーシブ教育とは異なる原則分離の教育形態が障害児教育の基盤となった。
1980年代に入って日本の障害者施策に影響を与えたのは「完全参加と平等」をテーマとした国際障害者年(1981)、障害者に関する世界行動計画(1982)及び国連・障害者の十年(1983~1992)であった。この時期、ノーマライゼーションの理念が普及し、施設入所中心の施策に地域福祉を加味する形で関連法や施策が変更されるに至った。
特に、国民年金法の改正(1985)による基礎年金制度の創設に合わせて障害年金の充実が図られ、身体障害者雇用促進法が知的障害者も対象とする障害者雇用促進法(1987)に改定されるなど所得保障などに関して重要な変更がもたらされた。しかし、在日外国人障害者を含む、無年金者の問題など、更に取り組むべき課題も残されている。
精神障害分野では宇都宮病院事件(1984)が発覚し多数の不審死が疑われ、他にも類似、同様な事件が続発した。国連人権小委員会でも取り上げられ、日本における精神障害者の人権と処遇に関する国際法律家委員会及び国際医療従事者委員会合同調査団の結論と勧告(1985)が発表された。こうした国際社会の圧力等を契機に、精神保健法(1987)が成立した。
いわゆる福祉八法改正(1990)においては、身体障害者福祉法や知的障害者福祉法に在宅福祉サービスが法定化されるとともに、地方分権化が図られ、従来の機関委任事務が団体事務に改められた。心身障害者対策基本法も障害者基本法(1993)に改定され、定義の上では三障害の統一が図られるとともに、前述の精神保健法がこの基本法改正の流れを受け、目的に自立と社会参加促進を取り入れた精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律(1995)に改定された。加えて、難病に関しては正面から障害者としての位置付けのないままであったが、難病患者等居宅生活支援事業(1997)の開始により、地域における難病患者等の自立と社会参加の促進が図られるようになった。
さらに、地域生活の基盤整備にも法的整備が図られた。従来、地方自治体で進められていた、まちづくり条例の普及を踏まえ、高齢者や身体障害者等が円滑に利用できる建築物の建築の促進を図ることを目的として、高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(ハートビル法、1994)が制定された。
このように、この時期は地域福祉に向けた一定の施策が進んだ重要な時期であったと言える。
しかし、国際的な人権条約である児童の権利に関する条約については、不十分な国内実施にとどまった。1994年、障害にもとづく差別の禁止と障害のある児童の権利を明記した同条約を日本は締結した。この条約は児童の一般的権利としても意見表明権や、独立した監視機関の必要性を規定しているが、これを明文化する国内法の整備はされなかった。また条約は可能な限り統合された環境での教育が保障されるべきであると明記していながら、原則分離の教育形態は維持された。1998年と2004年に、日本政府は国連児童の権利委員会から、児童の一般的権利の確保とともに、障害のある児童のデータ収集のシステムの発展と、更なる統合の促進を勧告されている。
1990年代後半からは、地域生活の基盤整備の流れを受けて、高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法、2000)、補助犬を使う身体障害者の自立と社会参加を促進する身体障害者補助犬法(2002)が制定され、さらにはハートビル法と交通バリアフリー法を統合化した「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(2006)が制定されるなど、建物の利用や交通移動の面での施策に前進があった。
医療分野では、1996年に強制的隔離収容医療の典型であった「らい予防法」がようやく廃止された。また、予防を重視するあまり、感染者を監視し取締的であり、差別と偏見をあおるとして、1989年の制定時から強い反対のあったエイズ予防法(後天性免疫不全症候群の予防に関する法律)も、1998年、他の感染症とまとめてひとつの法律として感染症予防法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)に抜本的に改定された。これによって、従来感染症に対する医療が患者の人権よりも社会防衛的であったことに反省が加えられ、強制的隔離医療は限られた短期間、厳格な要件のもとでしか認められなくなった。
なお、日本の障害者に対する介護は家族中心であり、福祉・教育・医療を含む生活全般を家族に依存している。この深刻な家族依存は、家族に重い負担を課し、障害者に対する重大な人権侵害となり、あるいは社会的入院・入所の要因となっている。精神保健福祉法が改定(1999)されるまでは、精神障害者の保護者は、日々の生活の介護だけではなく、治療を受けさせ、他人に害を与えないよう監督する義務を負わされていた。1998年、仙台地方裁判所は親がこの監督責任を果たさなかったことを理由に1億円もの損害賠償を命じ、ようやくその理不尽さが広く理解され、自傷他害防止の監督義務だけは法文から削除された。しかし、依然として家族の責任は軽減されていない。
労働面の課題については、2007年に全国福祉保育労働組合が、日本障害者協議会(JD)などの支援を受け、「日本政府の障害者雇用施策は、国際労働機関(ILO)の職業リハビリテーション及び雇用(障害者)に関する条約(第159号条約)及び関連の勧告に違反する」として、「ILO提訴」を行った。この提訴に対してILOから出された報告書(2009年3月)では、同条約などに違反しているとまでは認定しなかったものの、特に福祉的就労について、同労組の主張をほぼ容認している。
国際協力の分野では、「国連障害者の十年(1983-1992)」を継ぐものとして、日本は、中国等との共同提案によるアジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)総会での「アジア太平洋障害者の十年(1993-2002)」の提案(1992)、その期間の10年間の延長(2003-2012。いわゆる第2次アジア太平洋障害者の十年)の主唱(2002)、滋賀県大津市におけるハイレベル政府間会合の開催(2002)、同会合における第2次アジア太平洋障害者の十年の地域行動計画である「アジア太平洋障害者のための、インクルーシブで、バリアフリーかつ権利に基づく社会に向けた行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」(BMF)の採択(2002)等、積極的な貢献をなす姿勢を示した。
しかしながら、いわゆるバブル経済がはじけた後に待ち受けていたものは、社会福祉の基礎構造の改革の論議であった。国の財政問題を背景として議論が重ねられ、①措置から契約への変更による利用者本位のサービス、②営利団体を含めた多様な経営主体の導入、③市場原理を生かした質の向上、④透明性の確保と公平かつ公正な負担、などが強調された。
その結果、2003年には従来の措置制度から契約制度への転換を目的に支援費制度が施行されたが、財政破綻を理由に2005年に障害者自立支援法が制定され2006年から施行された。
しかし、同法については、審議の段階から障害程度区分、サービスメニュー、利用者負担、介護保険との統合などを巡って多くの問題点が指摘され、全国的な反対運動が起こる中で、応益負担を違憲とする全国的な訴訟や支給決定の取り消しなどを求める訴訟が提起されるなど、日本の社会福祉の歴史上、類を見ない事態となった。
以上に加え、この時期には障害者に対する施策の上で重大な枠組みの変更がいくつかなされた。
まず、2001年に池田小学校事件を契機として提案された、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)が2003年に成立し、2005年に施行されたが、これについても反対運動が続いている。なお、2010年度は精神保健福祉法の定時見直しとあいまって、施行5年後の報告と見直しの年度である。
また、従来、必ずしも知的障害の定義に入っていなかった自閉症、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害等の発達障害を有する者に対する援助等を定めた発達障害者支援法(2004)が成立したが、障害者としての位置付けと支援は不十分な状態であった。
さらに、2006年には学校教育法が改正され、従前の盲・聾・養護学校が特別支援学校に一本化される等、特別支援教育の推進が謳われるようになったが、原則分離の教育形態に変更は加えられていない。
なお、高次脳機能障害にようやく社会的関心が寄せられるようになってきた。高次脳機能障害とは交通事故、脳血管障害、脳炎等による後天性脳損傷により生じる記憶力・注意力の低下、失語症、失認症等の総称であるが、若年者に多い脳外傷者の社会的行動障害はしばしば家族を疲弊させるにもかかわらず、支援が不十分である。2001年から5年間にわたり、高次脳機能障害支援モデル事業が実施され、2006年から高次脳機能障害支援事業が行われている。
障害者自身、そして家族や関係者を含む多くの先人による、様々な運動や取組の積み重ねの上に、現在の日本の障害者施策がある。この推進会議によって象徴される“Nothing about us without us”という言葉で示される障害者自身の参画を活かすためには、社会全般との連帯と協力が欠かせないことは明らかである。
【注記】
*(1)「改革集中期間」は、「障がい者制度改革推進本部の設置について」(平成21年12月8日閣議決定)に定める「障害者の制度に係る改革の集中期間」をいう。
*(2)
障害の「医学モデル」とは、心身の機能・構造上の「損傷」(インペアメント)と社会生活における不利や困難としての「障害」(ディスアビリティ)とを同一視したり、損傷が必然的に障害をもたらすものだととらえる考え方であり、障害の原因を除去したり、障害への対処において個人への医学的な働きかけ(治療、訓練など)を常に優先する考え方である。また、医学モデルは、障害を個人に内在する属性としてとらえ、同時に障害の克服のための取り組みは、もっぱら個人の適応努力によるものととらえる考え方であり、障害の「個人モデル」とも呼ばれる。
障害の「社会モデル」とは、損傷(インペアメント)と障害(ディスアビリティ)とを明確に区別し、障害を個人の外部に存在する種々の社会的障壁によって構築されたものとしてとらえる考え方である。それは、障害を損傷と同一視する「医学モデル」を転換させ、社会的な障壁の除去・改変によって障害の解消を目指すことが可能だと認識するものであり、障壁の解消にむけての取り組みの責任を障害者個人にではなく社会の側に見いだす考え方である。ここでいう社会的障壁には道路・建物などの物理的なものだけではなく、情報や文化、法律や制度、さらには市民の意識上の障壁等も含まれている。
*(3)労働及び雇用、教育、建物利用・交通アクセス等の各分野における合理的配慮の内容等についての検討も行う。