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司法へのアクセスについて

大石剛一郎氏資料

知的障害者と冤罪事件(宇都宮事件から)

2010.7 弁護士大石剛一郎

宇都宮事件(重度知的障害者A)

2004年8月、暴行容疑で逮捕・勾留・「自白」・公判請求。同逮捕・勾留中に、別の2件の強盗容疑(同年4~5月)を「自白」したとされ、追起訴。

求刑懲役7年。判決言渡予定公判期日に強盗を否認・・・判決延期。

真犯人判明、勾留取消し、強盗につき「無罪論告」。

2005年3月、「心神耗弱」認定(鑑定なし)、暴行のみ有罪判決。

冤罪の原因

1 短い日常会話のやりとり可能 ⇒ Aの知的障害は軽視された。

2 専ら誘導により実況見分、自白調書が作成された。

3 上記2を前提として、目撃証言や物証がAを犯人と示しているとされた。

(客観証拠検討の杜撰)

⇒ Aの犯人性を裏付ける客観的な証拠はないのに、あるように扱われた。

知的障害のある人の意思表示

*迎合的になりやすい

*誘導にかかりやすい

*NOと言い通せない

*時間・場所の特定が困難なことが多い

*論理的に筋道の立った説明は苦手である

*理由の説明が苦手である

*思い込み・思いつきと事実の記憶の区別が困難になってしまう場合が多い。

☆ 初期の段階で、誰がどのような聞き方をしたか、その結果、本人がどのように答えたか、ということについての正確な情報が極めて重要である。

ここで汚染されてしまうと、その後の本人の話の証拠価値が大きく減じられてしまう。

★ 知的障害のある人が被疑者になった場合、先ず第1に、上記のような供述の特性・供述証拠の証拠価値にこそ焦点があてられるべきだが、実際には、内面の障害ということで、「責任能力の有無」の点ばかりが重視されている、というのが現状である。

◎ 宇都宮事件は氷山の一角ではないのか

* 島田事件

1954年、静岡県島田市で女児(当時6歳)が何者かに連れ去られ、絞殺死体で発見された。その後、知的障害のあるAさん(当時25歳)が逮捕され自白したということで、1960年に死刑が確定したが、再審の結果、1989年に無罪が確定した。

* 足利事件

1990年、栃木県足利市で女児(当時4歳)が行方不明になり、翌朝、遺体となって発見された事件。犯人とされて服役していたAさん(軽度の知的な遅れあり)と、遺留物のDNA型が一致しないことが2009年、再鑑定により判明し、冤罪であったことが発覚。その後、再審で無罪が確定した。

* 野田事件

1979年、千葉県野田市で、小学1年生の女児が殺害された。現場近くに住むA(当時31歳、知的障害者)が逮捕され自白、1987年、千葉地裁で懲役12年が言い渡され、1993年、最高裁で同判決は確定した。唯一の物証とされた被害者のカバンについて証拠ねつ造の疑いがもたれている。

* 横浜事件

2008年6月、アスペルガー障害の男性が女性を盗撮しようとしたとして東京都迷惑防止条例違反(みだらな行為)の罪で在宅起訴され、2009年3月、一審で有罪とされた。しかし東京高裁が逆転無罪の判決を言い渡し、判決は確定した。東京高裁は「捜査官が誘導したか、作文した疑いをぬぐえない」と自白調書の信用性を否定した。

○ 司法手続における障害者の位置づけ

日本の司法手続は、意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)に対する配慮を著しく欠いている。要するに、極めて例外的なほどに重度の難(障害)がある場合に、責任能力がない、訴訟能力がない、といった扱いがなされるにすぎない。しかし、司法手続全体に関する理解、自己防衛、弁護人との接見、取調べ・公判における真意の供述など、極めて基本的な場面において、意思表示について難がある人は適切な支援がなければ、難の無い人と同様の手続を保障されていることにはならない。日本の司法手続においては、そのような配慮は皆無に等しい。

○ 捜査段階における刑事手続

1 令状主義

意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)は、適切な支援がなければ、司法手続を理解できず、有効・適切に自己防衛できない場合が多い。このような人たちに対し、何の支援もつけずに形式的に逮捕状を提示し、犯罪事実の要旨を告知しても、実質的には防御の機会を保障したことにはならない。そのような難のある人に対して、逮捕状の意味・犯罪事実の意味を理解させ、自分なりの対応表現を引き出せるような支援者を立ち会わせて、上記のような手続を行うことを保障しないと、手続として適正とは言えない。

2 弁護人選任権・黙秘権の告知

1の令状主義と基本的に同様である。また、国は手続的適正を担保するため、実質的に、意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)の弁護を有効にできる弁護人の養成に積極的に努めるべきである。

3 取調べ

現在も犯罪捜査規範168条2項において、誘導・心理的報酬などを用いた取調べに対する制限が規定されているが、実際の現場では、ほとんど無視されているに等しい状況だと思う。現状では、個々の意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)に関して、どの辺に難があるのか、という点を把握・留意する過程は無いに等しい。そのような中で、取調べにおいては、捜査官が考える合理的ストーリーを、被疑者の認識の中に貼りつける、という作業が行われているに過ぎない。

このような状況を打開するには、

①捜査官は、とくに意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)に対しては、誘導・心理的報酬などを用いた取調べを絶対に行わない、というルールを徹底する、

②もしも行われたら、そのような取調べと因果関係ある証拠はすべて証拠能力なし、と扱う、

③上記①のチェックのためにも、取調べ過程の全てを可視化(全面録画)する、

④意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)の取調べにおいては、弁護人及び本人の真意の表示を有効・適切に支援できる人を立ち会わせることを保障する、

といったことが必要である。

○ 公判段階における刑事手続

1 自白の任意性

現状では、意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)に対して、誘導・心理的報酬などを用いた取調べが行われ、その難に配慮した供述調書などまったく作成されていないに等しいものと思われるので、そのような難のある人の自白調書についてはほとんどすべて、有効適切な真意の表明になっていない、任意性がない、と考える。

2 証人尋問

現状の証人尋問手続では、意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)の真意表明が担保されているとは言えない。そのような難のある人について一定の理解のある弁護人を養成し、本人の真意の表示を有効・適切に支援できる人を立ち会わせることを保障する必要がある。

3 判決

意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難があり(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)、有効・適切に防御できない人に関しては、現状の判決内容の告知では、手続的適正を確保したことにはならない。本人の真意の表示を有効・適切に支援できる人を立ち会わせることを保障する必要がある。

○ 受刑者の状態

1 IQ69以下の受刑者

障害者白書は、療育手帳を持っている者だけを知的障害者(公的に知的障害者と認定されている人)と扱い、その割合を示した数値が0.4%であるとしているのではないか、と思う。療育手帳を持たない知的障害者は多数存在し、かつ、そのような人たちには、生活上も有効・適切な支援がなされていないために、受刑者になってしまう割合が非常に大きいのだと思う。

2 刑務所における合理的配慮

現在の日本の刑事手続・矯正手続においては、意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)に関して、どの辺に難があるのか、という点を把握する過程は無いに等しい。その把握無くして適正な処遇などあり得ない。更に言えば、そのような把握なくして、再犯防止もありえない。何よりも、そのような把握の努力をすること、そして再犯防止のためにはどのような支援が必要なのかという点の把握の努力をすること、が必要だと思う。

○ 司法関係者に対する研修

司法関係者全体に共通する重大な任務の一つとして、手続的適正を確保することがある、と考える。意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)に関しては、現在の日本では、手続的適正が確保されていない。したがって、その手続適正確保のために何が必要なのかを考えるため、その前提知識・認識を獲得するための研修は不可欠、と考える。

○ その他、民事訴訟、行政訴訟手続も含む問題

1 損害額の認定

稼働・収益可能性が不動の損害額算定基準になっている一般的現状、及びそれによって慰謝料の金額が不当に低く抑えられて認定されていることに問題があるものと考える。稼働・収益可能性は、社会状況の産物と言えるものであり、これを損害額算定の一般的基準にすることは、とくに社会的弱者にとの関係では理不尽と言える。慰謝料認定額を現在の2~3倍程度にするか、あるいは、事故発生時点の国民全体の平均収入額を通常損害として一律に認定すべきだと思う。

2 その他

障害のある人の司法手続全体への主体的参加を具体的に保障し、そのための支援を確保することが、その他の手続における適正確保の近道だと思う。「法律行為」はすべて、「有効な意思表示」を大前提としている。意思表示(物事の認知・理解・判断・表現)について難がある人(主として、知的障害・発達障害・精神障害などがある人)については、有効な意思表示を確保するための支援を保障して初めて、法的に「人」として認めたことになる、と思う。

以上

警告書(要旨)

2006年3月1日

検事総長 松尾 邦弘殿

宇都宮地方検察庁 検事正 鈴木 和宏殿

警察庁長官 漆間 巌 殿

栃木県警察本部 本部長 河邉 有二殿

日本弁護士連合会

会長 梶谷 剛

当連合会は、申立人Aらから救済申立のあった、宇都宮誤認逮捕申立事件につき、調査した結果、下記のとおり警告します。

第1 警告の趣旨

知的障がいを有する申立人を強盗被疑事件の被疑者として取調べを行うに際し、栃木県警察本部所属の担当警察官らが、虚偽自白を強要し、申立人の真意と異なる自白調書を作成したこと、さらに、宇都宮地方検察庁所属の担当検察官らが、当該警察官らの虚偽自白を強要した事実を看過したばかりか、自らも虚偽自白を強要した上で、申立人の真意と異なる自白調書を作成し、これを前提に、十分な裏付け証拠もないままに起訴したことが認められた。

これらの行為は、申立人に対する重大な人権侵害行為であることは明らかであり、貴殿らには、このことを自覚し、深く反省することを求めるとともに、再発防止のために、次の措置をとることを警告する。

  • ① 被疑者・被告人に対する取調べについては、可及的すみやかに、その全過程を録画もしくは録音すべきであるが、とりわけ知的障がいを有すると疑われる者に対する取調べにおいては、直ちにその全過程の録画もしくは録音を行うこと
  • ② 知的障がいを有すると疑われる被疑者・被告人に対する取調べにおいては、被疑者・被告人の保護者等被疑者・被告人を補助する立場にあり、かつ、被疑者・被告人に取調べの発問等の意味を十分に理解させることができる者の立会いを認めること
  • ③ 知的障がいを有すると疑われる被疑者・被告人に対する取調べについて、これを専門的に行える者を養成し、また、全ての取調官の研修を直ちに開始すること

第2 警告の理由(要旨)

1 本件事案の概要

2004年4月と5月、宇都宮市内において、2件の強盗事件が発生した。申立人は、これとは別の軽微な暴行事件で同年8月に逮捕された。ところで、申立人には、重度の知的障がいがあり(知的障がいの程度は「A2」で「文字、数の理解力の僅少なもの」とされている)、かかる事情について捜査機関は熟知していた。

申立人については、暴行事件で逮捕され取調べを受けている最中の同年8月20日以後、2つの強盗事件について「自白」したとして、合計16通の供述調書が作成されている。これらの供述調書は、いずれも物語形式で、理路整然と事実経過が書かれている。

ところが、その後裁判が進行し、判決期日まで指定された後に真犯人が逮捕された。

そのため、検察官も申立人が強盗事件を行っていないことを認めざるをえなくなった。そこで、検察官は、改めて申立人の取調べを行い、供述調書を作成したが、今度はすべて、完全な一問一答形式で作成されている。この一問一答は、質問と答えが、終始およそかみ合うことがなく、意味のあるストーリーは何も把握することができない。すなわち、そもそも申立人に事実を整理して供述する能力さえなかったことが窺える。

2005年3月10日、裁判所は、2つの強盗事件について無罪を言い渡した。

2 人権侵害の認定

本件においては、警察官が、暴行事件の捜査の段階で、申立人と未解決の2つの強盗事件を結びつけ、申立人が犯人であるとの「見込み」をもって方向付けをし、防御能力に著しく欠ける申立人に「自白」を強要し、被害者の供述と客観的な状況に合わせて被疑者の「自白供述」を作文した上、全く内容を理解できていない申立人の署名・指印をさせたことが認定できる。

他方、検察官は、申立人に知的障がいがあり、事理弁識能力に重大な問題があることを認識しながら、しかも、裏付け証拠がないことも十分に承知しながら、申立人が強盗事件をやったことを「否定しない」ことを偏重し、警察官が作文した「自白調書」をほぼ焼き直して検察官調書を作成し、無辜(罪を犯してない者)の申立人を起訴した。

警察官と検察官には、防御能力に著しい障がいのある申立人に対する重大な人権侵害行為があったと認められる。

3 結論

本件は、防御能力に著しく欠け、取調べ体験自体の記憶の保持とその表現をする能力にも欠ける者に対する捜査の在り方の問題点を浮き彫りにした。同時に、本件は、被疑者・被告人の人権保障の点から、わが国の捜査の実態がはらむ問題性が象徴的に顕れた事案である。すなわち、長期間の身体拘束、密室での「自白獲得」偏重と「自白強要」、物的証拠・裏付け証拠の軽視などの点である。

本件により、弁護人等の立会権の確保、取調べ過程の可視化、供述調書作成のあり方など、現在の捜査の在り方の抜本的改革について、実行段階に移すことが緊喫の課題となっていることが再確認された。

よって、頭書のとおり警告する。

以上