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下野新聞SOON

誤認逮捕、国と県に賠償命令捜査の違法性を認定(2月28日)

強盗事件で誤認逮捕・起訴され、公判中に真犯人が現れ無罪となった重度知的障害のある宇都宮市の吉田 清さん(56)側が、国(宇都宮地検)と県(県警)に慰謝料500万円の支払いを求めた国家賠償請求訴訟の判決が28日、宇都宮地裁であり、福島 節男裁判長は国と県に計100万円の支払いを命じた。福島裁判長は県警の取り調べについて「誘導があった」などとし、捜査の違法性を認定。公訴の提起についても違法性を指摘した。

一方吉田さん側が、宇都宮市が必要な福祉支援を怠ったなどとして同市などに慰謝料約820万円を求めた国家賠償請求訴訟の判決も同日あり、福島裁判長は原告の請求を棄却した。

判決理由で福島 節男裁判長は、警察と検察の捜査の違法性を認定。警察については「男性の知的能力が低いのを認識していたのに誘導して虚偽の自白調書を作成し、取り調べは裁量範囲を著しく逸脱した」と判断した。

検察についても「通常の捜査をしていれば、男性が有罪と認められる嫌疑があるとはいえず、起訴は違法」と指摘した。

男性側は、県警の取り調べに関し「不当な誘導で虚偽の自白調書を作成した」と指摘し、宇都宮地検についても「警察の違法捜査を追認した上、客観的物証がなく男性に重度の知的障害があると知りながら起訴して拘束を続け、精神的苦痛を与えた」と主張。県と国側は「適法な取り調べで嫌疑があると判断した。訴訟能力はあった」と反論していた。

訴状によると、宇都宮東署は2004年8月、暴行事件で男性を逮捕し拘置中、否認する男性を誘導し強盗事件二件の虚偽の自白調書を作成して9、10月に再逮捕した。

刑事事件の判決言い渡し前に、真犯人の男が判明し、宇都宮地裁は5年3月、強盗罪について「供述は警察官に誘導されたと推察される」として無罪判決を言い渡し、確定した。

法廷では男性(56)に対する不当な誘導など違法捜査の有無が争われたが、原告側は今回の訴訟を通じ、取り調べの過程を録音・録画する「可視化」の必要性を訴えた。

取り調べの可視化は、2009年の裁判員制度導入に備え、検察庁が6年7月以降、主要地検で順次試行を始め、検察官の裁量で必要と認めた場合に実施されている。

警察庁は「検察の状況を聞き、議論を深めたい」としているが、日弁連が求める全過程の録音・録画には「取り調べの機能を完全に阻害する」として否定的だ。

しかし、鹿児島県の選挙違反事件無罪判決や富山県の強姦(ごうかん)冤罪(えんざい)事件などで警察の取り調べに対する不信感は高まっており、日弁連は「知的障害者や少年のケースでは特に取り調べの在り方を再検討し、密室状況を改善しなければならない」と指摘している。

警察庁は今年1月、捜査部門以外が取り調べを監督・監視するなどの「取り調べ適正化指針」をまとめた。当面は全国の警察に指針を徹底させることで、対応するとみられる。

(誤認逮捕事件のこれまでの本紙報道http://www.shimotsuke.co.jp/hensyu/kikaku/gonin/)

▽誤認逮捕事件の経過

2004年4月29日 宇都宮市の洋菓子店で強盗事件

5月6日 同市のスーパーで強盗事件

8月9日 宇都宮東署が暴行容疑で男性を逮捕

8月27日 宇都宮地検が暴行罪で起訴

9月8日 洋菓子店の強盗容疑で男性を再逮捕

9月29日 洋菓子店の強盗罪で追起訴

10月12日 スーパーの強盗容疑で男性を再逮捕

10月29日 スーパーの強盗罪で追起訴

2005年1月14日 同市で逮捕監禁、強盗事件

1月17日 宇都宮東署が14日の強盗などの容疑で組立工の男を逮捕

2月7日 地検が強盗罪で男を起訴

2月17日 宇都宮東署が洋菓子店とスーパーの強盗容疑で男を追送検

2月18日 地検が2件の強盗罪で男を追起訴

3月10日 宇都宮地裁が強盗罪について男性に無罪判決(確定)

8月4日 男性が国と県に500万円の慰謝料を求め提訴

2008年2月28日 宇都宮地裁が100万円の賠償命令

下野新聞SOON

誤認逮捕国賠訴訟の判決要旨(2月28日)

【裁判所の判断】

【知的障害に対する認識】

原告には、重度の知的障害があり、本件強盗事件の捜査当時、文字(自分の名前を除く)を書くこと、計算、過去の出来事を時系列に沿って記憶したり、説明したりすること、抽象的な事柄を理解することなどはできず、平易な言葉で簡単な意思疎通を図ることは可能であるものの、質問者に迎合的で、疲れると質問の意味も分からずうなずいてしまう特性もあった。

【警察官の取り調べの違法性】

本件強盗事件は犯行態様について、詳細かつ被害者の供述に沿う自白調書(犯行現場などを示す地図が添付されているものもある)や、原告の指示説明による犯行現場の引き当たり見聞調書などが多数作成されているが、犯人ではなく、知的能力が上記のように相当低い原告が自ら詳細に供述したり、指示説明するとは考えられず、このような自白調書等は、警察官の誘導により作成されたものといえる。

捜査官による取り調べ方法の選択実施は捜査官の裁量の範囲内に属するものといえるが、捜査官が誘導により虚偽の自白を取得することは、刑訴法の理念からしても厳に戒められるべきであり、取り調べ方法として誘導尋問の方法を選択実施した場合には、被疑者の知的能力などの属性に応じて、その方法、態様が誘導として許容される範囲を逸脱しないよう十分な注意を払わなければならず、これを著しく欠く時には、その取り調べは裁量の範囲を著しく逸脱するものとして、違法とされる場合がある。

しかるに、警察官は原告の知的能力が相当低いことを認識していたのに、それについての配慮を欠くばかりか、迎合的である特性を利用し、そのほとんどを誘導して、被害者らの供述に合致させた虚偽の自白調書を作成し、また、あたかも原告が自主的に記載したかのような地図を添付し、さらに原告が自主的に犯行現場を案内したかのような引き当たり見分調書を作成したもので、誘導尋問として許容される範囲を著しく超えるばかりか、著しく妥当性を欠く方法を用いたものであり、その取り調べは裁量の範囲を著しく逸脱するものとして違法であるというべきである。

【検察官の公訴提起の違法性】

公訴提起時において、検察官が収集した証拠資料および通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば、公訴提起は違法性を欠くと解される。

本件強盗事件1においては、検察官が収集した証拠資料によれば、物証はなく、原告の自白調書を除く証拠関係では、原告が有罪であると認められる嫌疑があるとは言えないため、原告の自白が有罪と認められる嫌疑があるといえるために最も重要な証拠資料となり、原告の自白の信用性の吟味が公訴提起の判断に当たっては必要不可欠のものであった。そして、本件起訴担当検察官は、原告の以前の簡易鑑定の結果などに目を通していたことや、原告の取り調べを通して、原告の知的能力が低いことを認識していたことからすると、原告の自白の信用性や、原告が本件強盗事件1を遂行する能力があるかなどについてさらに捜査を尽くすことは、本件においては通常要求される捜査の範囲内であったといえる。

例えば、より慎重な方法(何も情報を与えず、本件強盗事件について何をどこまで説明することができるかテストする、地図を書かせてみるなどの方法)で取り調べを行うべきであったし、そのほか、自白内容の裏付け捜査など(原告の知的能力の調査、犯行再現、被害者による面通しなど)を行うべきだったといえる。

しかるに、本件の起訴担当検察官は、そのような捜査を行わず、原告の自白の信用性を慎重に吟味するための捜査ではなく、原告の自白調書に信用性を持たせようとする捜査(問と答をそのまま記載したものではないが、問答形式の体裁を整えた検察官調書の作成、物証が見つからない理由について、あたかも原告が供述したかのようなつじつま合わせの検察官調書の作成など)に終始した。

起訴担当検察官が、上記の通常要求される捜査を行っていれば、原告に本件強盗事件を遂行できる能力や警察段階の自白調書のような詳細な供述をする能力がないこと、原告と犯行を結びつけるものがまったく見つからないことが明らかになり、原告の自白の信用性に多大な疑問を持ち、ひいてはその自白が虚偽であるとの判断に至った可能性が高い。

以上、検察官が収集した証拠資料および通常要求される捜査を遂行すれば、収集し得た証拠資料を総合勘案すると、合理的な判断過程により原告が有罪と認められる嫌疑があるとはいえず、本件強盗事件1についての公訴提起は違法であり、同様に、本件強盗事件2についての公訴提起も違法である。

よって、被告の国および県は、原告に対し、国賠法1条1項に基づく損害(慰謝料100万円)賠償責任を負う。