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平成22年3月24日

判決要旨

東京高等裁判所第1民事部

裁判長裁判官 一宮 なほみ

裁判官 田川 直之

裁判官 始関 正光

控訴人兼附帯被控訴人(控訴人) 浦安市ほか1名

控訴人ら補助参加人(補助参加人)

被控訴人兼附帯控訴人(被控訴人)Y

(事案の概要)

1 本件は,千葉県浦安市立小学校の特殊学級に在籍していた被控訴人が,①平成15年4月から7月ころまでの間,被控訴人が担任教師であった補助参加人から繰り返し暴力行為や心理的・性的虐待行為を受けた,②控訴人浦安市の執行機関である浦安市教育委員会(市教委)及び控訴人千葉県の執行機関である千葉県教育委員会(県教委)は,いずれも児童に対するわいせつ被害防止義務を怠り,被控訴人の上記被害を防止できなかった,③市教委及び県教委は,被控訴人の上記被害につき,いずれも事後対応義務を怠り,被控訴人にさらなる精神的苦痛を与えたとして,控訴人らに対し,損害賠償及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

2 原審は,被控訴人が主張する補助参加人の暴力行為や心理的・性的虐待行為のうち,平成15年6月27日にプールサイドで被控訴人の頭を叩いたこと,被控訴人の手が眼鏡に当たった際に殴打したこと及び同年7月4日に補助参加人が被控訴人の胸を掴んだことを認め,被控訴人の請求のうち,被控訴人らに対して60万円及びこれに対する遅延損害金を求める部分を認容し,その余の請求を棄却した。これに対し,被控訴人らが,原審が認定した行為はなかったとして本件控訴を提起し,被控訴人が,原審が認定しなかった暴力行為や心理的・性的虐待行為も認められるべきであるとして本件附帯控訴を提起した。

(判決主文)

  • 1 本件控訴をいずれも棄却する。
  • 2 附帯控訴に基づき,原判決主文第1項及び第2項を次のとおり変更する。
    • 1 控訴人らは,被控訴人に対し,連帯して,330万円及びこれに対する平成18年5月25日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。
    • 2 被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
  • 3 訴訟費用は,補助参加によって生じた費用は補助参加人の負担とし,その余の費用は,第1,2審を通じ,これを4分し,その1を控訴人らの負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
  • 4 この判決は,仮に執行することができる。

(当裁判所の判断)

1 当裁判所は,原審が認定した上記各不法行為はいずれも認めることができると判断したほか,補助参加人が平成15年7月4日以外にも複数回被控訴人の胸を触ったこと,被控訴人の陰部を触ったこと及び陰茎を露出して被控訴人に見せたことについても,認められると判断したが,その余の補助参加人の行為について認められないと判断した。

2 被控訴人の陰部を触ったことについての被控訴人の当初の被害申告は,家族が布団に横になって雑談していた際に,被控訴人が自発的に供述を始めたものであり,かつ,身振りを伴った具体的なものであったこと,一緒に被害にあったとされる少女Aは,医師らや警察官,検察官に対し,また,期日外尋問において,一貫して,補助参加人に何回も,被控訴人とともに,バンダナで目隠しされて,陰部を触られた旨を話しているところ,この供述に係る被害状況は具体的で,臨場感に富んでいること,バンダナで目隠しをされて陰部を触られるという被害状況は特異なものであり,当時小学校4年生で,体験したことしかいえないという表現能力の偏りがあるという同女が創作したものとは考えにくいこと,補助参加人の自宅の捜索において,女生徒がタオルで目隠しをされてバイブレーターを性器に挿入される等している映像を収録したCD-ROMが押収されているほか,バンダナ3枚も押収されており,少女Aが語る被害状況は,この映像と類似していること(なお,少女Aがこの被害状況を医師に初めて申告したのは,上記押収がされるよりも前である。)などに照らすと,少女Aの供述には信用性がある。さらに,補助参加人は,警察官の取り調べの際に,少女Aと被控訴人を立たせて,バンダナで目隠しをして,二人のパンツの中に手を入れて陰部を触った等と自書した書面を作成し,署名・指印して提出し,同日,同書面の提出後に,弁護人と接見し,自白したことを弁護人に伝え,弁護人から本当にやったのかと問われ,認めたとおりですと答えるとともに,示談をするように依頼し,少女Aの陰部を触るなどしたとの被疑事実についての勾留質問においても,再逮捕に係る被疑事実は間違いがない旨を述べるなどしていること,自白をした理由についての補助参加人の刑事公判廷及び本件訴訟における供述が信用し難いこと,補助参加人が,幼児性愛傾向を有し,少女Aや被控訴人を性的な対象としてみており,補助参加人が被控訴人及び少女Aの陰部を触る動機があったと認められることなどに照らすと,補助参加人の自白は信用性がある。補助参加人は,他の児童らが交流授業に出ている時や個別学習の時間帯などに,教室内に一人だけで被控訴人や少女A,少女Bを指導することもあったのであるから,その機会を利用して,少女Aの上記供述や補助参加人の上記自白に係るわいせつ行為をすることは可能であったと認められる。

3 陰茎を露出して被控訴人に見せたことに,補助参加人は,被控訴人の胸を触ったとの逮捕に係る被疑事実を否認していた平成16年3月2日に,4年4組の教室に入るときに,男性器を見せてしまった,その教室には少女A,少女B及び被控訴人がいた等と自書した書面を,それぞれ作成し,署名・指印して提出し,翌3日の検察官の一回目の取調べにおいて,上記被疑事実を否認しながら,4年4組の教室の前で,被控訴人,少女A及び少女Bに男性器を見せたと供述しており,陰茎を見せた事実を否認する刑事公判廷及び本件訴訟における供述は不自然で信用しがたく,補助参加人が,幼児性愛傾向を有し,少女A及び被控訴人を性的な対象としてみていたこと,おおぞら教室の男子生徒が補助参加人のことを「ちんちん先生」と言っていたことをも勘案すると,陰部露出行為をしたことを認めた補助参加人の捜査段階の供述は信用できる。

4 平成15年7月4日以外にも複数回被控訴人の胸を触ったことについて,補助参加人は,捜査段階において自白しており,被控訴人の何回も胸を触られたり掴まれたりしたとの供述は信用することができる。

5 被控訴人は,控訴人浦安市及び控訴人千葉県にそれぞれ事後対応義務違反があったと主張するが,被控訴人主張の各種事後対応義務違反があったとは認められない。

6 被控訴人は,本来は尊敬すべき教師から暴力行為や虐待行為を受けたものであり,障害児を受け入れているところから特段の配慮を要すべき特殊学級において,状況理解能力の劣る被控訴人に対してした補助参加人の行為は許し難いというべきものであって,被控訴人の精神的苦痛に対する慰謝料の金額としては300万円が相当である。また,弁護士費用については,30万円の限度で相当因果関係のある損害と認める。