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2010 年1 月21 日

障害者基本法に関する意見

法政大学 松井 亮輔

1. 基本的性格

 民主党障がい者政策プロジェクトチームが提案している「障がい者総合福祉法」が実現すれば、障害者基本法(以下、基本法)は現在の福祉関連施策一般に関する福祉法から障害者に幅広い人権を保障するための権利法に転換すべきと思われる。しかし、「障がい者総合福祉法」が未整備の現時点で、障害者基本計画など、総合的な障害者施策の根拠法である基本法をいきなり、障害者の権利保障法に転換することは現実的ではない。したがって、当面は障害者の権利性を強化するための規定を基本法にできるだけ盛り込むようにすることとする。つまり、当面は、基本法に障害者に関する総合福祉施策の根拠法としての性格と、障害者の権利保障法としての性格を併せ持たせることとし、そのために必要な法改正を行う。

2.障害の定義

 基本法の障害者の定義(第2 条)について、「障害が、あらゆる種類の機能障害と態度環境による障壁との相互作業によって生じる」という障害者権利条約(以下、権利条約の障害および障害者の概念を反映したものとする。この障害の概念は、障害者が障害のい者と平等に社会参加できるようにすることをめざす、権利条約のキー概念とされる「 理的配慮」の根拠ともなっていることからも、基本法の障害者の定義に反映させる必要 ある。
なお、基本法による障害者の定義は、具体的なサービスや給付提供を意図した個別立法 とは異なり、日常生活や社会生活上なんらかの支障をもつすべての人(難病なども含む を含む、包括的なものであるべきである。

3.差別の定義

 基本法(第3 条3)では、障害を理由とする差別は禁止されているが、障害を理由とする差別について定義されていないことや、差別を受けた障害者の苦情処理や救済措置については規定されていないことから実効性がない。障害を理由とする差別には、直接差別、間接差別および合理的配慮をしないことの3 類型があるとされるが、権利条約の「障害に基づく差別」や「合理的配慮」に関する定義(第2 条)などを参考に、障害を理由とする差別について定義すること。また、この定義にあわせ、「障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置(積極的差別是正措置、たとえば、障害者雇用率制度など)は、差別ではない。」と規定することも必要と思われる。ただし、こうした積極的差別是正措置は、恒久的なものではなく、その目的が達成され次第、廃止されるべきものである。
とくに「合理的配慮」は、障害者が通常の教育や能力開発、および雇用の場などに対等 に参加できるようにするために不可欠であることから、教育や能力開発機関、ならびに事業主(公的機関も含む。)に対して障害者への合理的配慮の提供を義務づけるとともに、個々の障害者にとって必要かつ適切な合理的配慮がタイムリーに提供されるようにするため、教育・能力開発機関や事業主などに対する技術的・財政的支援の提供を規定すること。
なお、障害を理由とする差別を被った障害者が苦情を申し立てたり、その救済をうけら れるような仕組みを基本法で規定することは困難と思われるので、そうした仕組みづくりは、別途制定される障害者差別禁止法または包括的な人権擁護法に委ねるのが適当であろう。

4.基本的人権の確認

 現行の基本法では、「あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられる」(第3 章2)や「障害者が、可能な限り、地域において自立した日常生活を営むことができるよう配慮されなければならない」(第8 条2)などという表現からも明らかなように、「あらゆる分野の活動に参加」したり、「地域において自立した日常生活を営む」ことが障害者の基本的権利として保障されているわけではない。権利条約に沿って、これらについて障害者の基本的権利として保障すべきである。また、それにあわせ、「手話その他の形態の非音声言語」を「言語」の一種と規定するとともに、教育などが、「盲人、ろう者または盲ろう者にとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態および手段で、かつ、学問的および社会的な発達を最大にする環境において行われることを確保すること。」(権利条約第24 条)が求められる。
また、「成年後見制度その他の障害者の権利利益の保護等のための施策又は制度」(第20条)とあるように、成年後見制度は障害者の権利擁護制度と位置づけられている。しかし、成年後見制度は、障害者の法的能力の行使を制限する場合もあることから、権利条約では「障害者がその法的能力の行使に当たって必要とする支援を利用する機会を提供するための適当な措置をとる」(第12 条)を求めている。したがって、障害者が平等に法的能力を行使できるようにするため、成年後見制度のあり方を見直す必要がある。

5.障害者に関する基本的施策

 現行の基本法には、障害者の政治や司法へのアクセスを支援したり、促進するための施策については規定されていないため、それらについての規定を追加すること。また、障害者の差別禁止や虐待防止については基本法の目的や定義で規定するにとどめ、それらに関する具体的な対応は、別途制定される障害者差別禁止法や障害者虐待防止法などに委ねることとする。

6.モニタリング

 障害者施策の実施状況を実質的にモニタリングできるよう、中央障害者施策推進協議会の機能を強化する。それには関係行政機関に対する資料の提供等の協力要請だけでは不十分であり、協議会として自ら調査し、必要に応じて改善勧告などを出しうるだけの人的・財政的資源および権限を協議会に付与するべきである。
なお、障害者の権利保護(救済)については、別途制定される「人権擁護法」に基づく 「人権委員会」、または「障害者差別禁止法」に基づく「障害者権利委員会」などで対応することとする。これらの機関は、パリ原則にのっとり、内閣府所管の独立機関と位置づけること。

7.その他

 権利条約では第32 条などで国際協力について規定されているが、現在のところ基本法を含め、わが国の障害関連法には国際協力に関する規定はない。現行の障害者基本計画(2003~2012 年度)に「国際協力」が含まれている根拠は、基本法ではなく、わが国が共同提案国となった「第2 次アジア太平洋障害者の十年(2003~2012 年)」の政策ガイドラインである「びわこミレニアムフレームワーク(BMF)」および「びわこプラスファイブ」などである。したがって、仮にアジア太平洋障害者の十年が2012 年度で終了した場合には、障害者基本計画からは「国際協力」の項目がなくなることもありうる。したがって、権利条約第32 条などで規定されている「国際協力」に我が国として2013 年以降も引き続いて取り組むには、その根拠となる規定を基本法などに盛り込む必要がある。