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障がい者制度改革推進会議 第25回(H22.11.15) 資料3

文部科学省提出資料

中央教育審議会初等中等教育分科会特別支援教育の在り方に関する特別委員会における論点整理(委員長試案)

目次

はじめに

1.総論

(1)インクルーシブ教育システム(包容する教育制度)の構築に向けた方向性

(2)「共に学ぶ」ことについて

(3)インクルーシブ教育システムと地域性

2.就学相談・就学先決定の在り方について

(1)早期からの教育相談

(2)就学先決定の仕組み

(3)一貫した支援の仕組み

(4)就学相談、就学先決定に係る国や都道府県教育委員会の役割

3.特別支援教育を推進するための人的・物的な環境整備について

(1)環境整備全般

(2)合理的配慮

(3)交流及び共同学習

(4)特別支援学校のセンター的機能の活用

4.教職員の確保及び専門性向上のための方策

(1)教職員の専門性の確保

(2)教職員の養成・研修・免許

(3)教職員への障害のある者の採用

はじめに

  1. 「障害者の権利に関する条約」が、平成18年12月、第61回国連総会において採択され、平成20年5月に発効した。我が国は平成19年9月に同条約を署名し、現在批准に向けた検討が行われているところである。平成21年12月には、内閣総理大臣を本部長とし、文部科学大臣も含め全閣僚で構成員される「障がい者制度改革推進本部」が設置され、当面5年間を障害者制度改革の集中期間と位置付け、改革の推進に関する総合調整、改革推進の基本的な方針の案の作成及び推進に関する検討等を行うこととしている。同本部の下に、障害者施策の推進に関する事項について意見を求めるために「障がい者制度改革推進会議」が設置され、平成22年6月7日、同会議による第一次意見が取りまとめられた。同意見においては、「障害者の権利に関する条約」におけるインクルーシブ教育システム(包容する教育制度)構築の理念を踏まえた「地域における就学と合理的配慮の確保」、「学校教育における多様なコミュニケーション手段の保障」について同会議の問題意識が示されている。
  2. 上記第一次意見を踏まえた平成22年6月29日の閣議決定において、各個別分野については、事項ごとに関係府省において検討することとされ、教育分野については、以下の2点が示された。
    • 障害のある子どもが障害のない子どもと共に教育を受けるという障害者権利条約のインクルーシブ教育システム構築の理念を踏まえ、体制面、財政面も含めた教育制度の在り方について、平成22年度内に障害者基本法の改正にもかかわる制度改革の基本的方向性についての結論を得るべく検討を行う。
    • 手話・点字等による教育、発達障害、知的障害等の子どもの特性に応じた教育を実現するため、手話に通じたろう者を含む教員や点字に通じた視覚障害者を含む教員等の確保や、教員の専門性向上のための具体的方策の検討の在り方について、平成24年内を目途にその基本的方向性についての結論を得る。
  3. これを受け、平成22年7月12日に、文部科学省より中央教育審議会初等中等教育分科会に対し審議要請があり、同分科会の下に、本特別委員会が設置された。本特別委員会においては、平成20年8月に文部科学省に設置された「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」及び「障がい者制度改革推進会議」における検討を議論の基礎として、○回に渡り検討を積み重ねてきたところであり、今回、その審議を論点整理として中間的に取りまとめるものである。

1.総論

  • インクルーシブ教育システム(包容する教育制度)の理念とそれに向かっていくという方向性については、基本的に賛成。
  • インクルーシブ教育システムにおいて重要なことは、対象となる児童生徒に対して、その時点で教育的ニーズに最も的確にこたえる指導を提供できる多様で柔軟な仕組みの整備。形式的に場を一緒にするのではなく、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった「多様な学びの場」(カスケード)を用意しておくことが必要。
  • 障害のある子と障害のない子が共に学ぶことは、共生社会の形成に向けて役に立つと考えられる。同じ社会に生きる人間として、お互いを正しく理解し、共に助け合い、支え合って生きていくことの大切さを学ぶなど、個人の価値を尊重する態度や自他の敬愛と協力を重んずる態度を養うことが期待できる。
  • 今後の進め方については、短期的、中期的、長期的に行う制度改正として整理し段階的に実施していく必要がある。

(1)インクルーシブ教育システム(包容する教育制度)の構築に向けた方向性

  1. 障害者の権利に関する条約第24条によれば、「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、署名時仮訳:包容する教育制度)とは、人間の多様性の尊重、精神的・身体的な能力を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加するとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に教育を受ける仕組みであり、障害のある者が「普通教育制度」(general education system、署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等・中等教育の機会が与えられること、個人に必要な合理的な配慮が提供される等が必要とされている。(参考資料1:障害者の権利に関する条約関係条文、参考資料2:General Education System(教育制度一般)の解釈について)
  2. 本特別委員会は、障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの理念とそれに向かっていくという方向性については、基本的に賛成する。
  3. インクルーシブ教育システムにおいて重要なことは、対象となる児童生徒に対して、その時点で教育的ニーズに最も的確にこたえる指導を提供できる多様で柔軟な仕組みを整備することと考える。そして、通常の小、中学校における通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった「多様な学びの場」(カスケード)を用意しておくことが適当である。(参考資料3:日本の義務教育段階の特別支援教育の連続性(カスケード)のイメージ)
  4. インクルーシブ教育システムの構築については、諸外国においても、それぞれの課題を抱えながら、制度設計の努力をしているという実情がある。各国とも理念的なものだけで制度が動いているということではなく、漸進的に実施してきており、日本も同様に漸進的に実施してきているところである。
  5. これまで、中央教育審議会は、平成17年12月の「特別支援教育を推進する制度の在り方について」(答申)において、「特別支援教育」の位置付けを明確化するとともに、我が国が目指すべき社会の方向性を示してきている。同答申に基づき、平成18年6月に学校教育法が改正され、特別支援教育は、平成19年4月から新たな制度として開始されたところである。以降、教職員の意識が変わり、理解は進んできている。(参考資料4:平成17年12月の「特別支援教育を推進する制度の在り方について」(答申)の概要、参考資料5:現在の特別支援教育の実施状況)
  6. 障害者の権利に関する条約第8条には、障害者に関する社会全体の意識を向上させる必要性が示され、教育制度のすべての段階において障害者の権利を尊重する態度を育成することが規定されている。こうした規定を踏まえれば、学校教育において、障害のある人と障害のない人が接触し、交流していくという機会を増やしていくことが非常に大事である。障害のある人との触れ合った経験は、共生社会の形成に向けて役に立つと考えられる。(参考資料1:障害者の権利に関する条約関係条文)

(2)「共に学ぶ」ことについて

  1. 障害のある子と障害のない子が共に学ぶことによって、障害のない子たちにとっては、障害のある子どもとその教育に対する正しい理解と認識を深め、同じ社会に生きる人間として、お互いを正しく理解し、共に助け合い、支え合って生きていくことの大切さを学ぶなど、個人の価値を尊重する態度や自他の敬愛と協力を重んずる態度を養うことが期待できる。それぞれの子どもが授業や活動に理解や共感、あるいは参加している実感を持ちながら、充実した時間を過ごせて、生きる力を身に付けていけるかどうか、これが最も本質的な点である。
  2. 一方、学級規模など現在の教育条件が大幅に改善されない状況で、個々の子どもの障害の状態、教育的ニーズ、学校、地域の実情等を考慮することなく、すべての子どもを同じ場に組み入れて教育を行うことは、形式的な平等化であり、実質的には子どもの健全な発達や子どもが適切に教育を受ける機会を与えることができず、将来、社会に参加し市民として生きることを困難にする可能性がある。財源負担も含めた国民的合意を図りながら、大きな枠組みを改善する中で、「共に育ち、共に学ぶ」体制を求めていくべきである。(参考資料6:OECD各国との初等中等教育段階における公財政支出及び平均学級規模の比較)
  3. インクルーシブ教育システムと特別支援教育は、いずれも共生社会の実現を目指すために必要な手段であり、同じ方向を向いているものと言える。したがって、インクルーシブ教育システムの構築のため、特別支援教育を発展させ、必要な制度改革を行う必要がある。
  4. 特別支援教育として、特別な指導を受けている児童生徒の割合を比べてみると、英国で約20%(障害以外の学習困難を含む)、米国で約10%となっており、日本は、特別支援学校、特別支援学級、通級による指導を受けている児童生徒は約2%程度に過ぎない。教育支援の必要な児童生徒の多くは既にインクルーシブな教育環境で学んでいると見ることもでき、今後はこれらの児童生徒への教育支援を一層進展させることが必要である。(参考資料7:日、英、米の特別支援教育として特別な指導を受けている児童生徒の割合)
  5. 国は、共生社会の実現に向けた国民の共通理解を一層進め、社会的な機運を醸成していくことが必要である。学校教育においても、共生社会の一層の実現に向けた理解の促進を図る教育の充実を図っていく必要がある。また、財政的な措置を図る観点を含め特別支援教育に関する施策に対する優先順位を上げる必要がある。

(3)インクルーシブ教育システムと地域性

  1. インクルーシブな社会のためには、障害のある当事者がどれだけ社会に参加できるかということが問われる。インクルーシブ教育システムの推進に当たっては、普段から地域に障害のある人がいるということが認知され、障害のある人と地域の人や保護者とが相互に理解していることも重要である。地域でどう生活支援していくかという観点も必要である。一部の自治体で実施している居住地校に副次的な学籍を置くことについては、居住地域との結びつきを強めるために意義がある。今後、地域の学校に学籍を置くことについても検討していく必要がある。
  2. 地域の実情(交通アクセス、医療、福祉サービスが充実している都市部とその対極的な地域など)は様々であるが、どの地域の学校においても等しく達成されるべきものは何であるかという点に国は留意すべきである。一方、地域の状況に応じた柔軟な選択肢があっても良いと思われる。
  3. インクルーシブ教育システムを構築する上では、福祉、医療、労働などの関係機関等との適切な連携が重要である。このためには、関係行政機関等の相互連携の下で広域的な地域支援のための有機的なネットワークが形成されることが有効であり、既に各都道府県レベルで「障害保健福祉圏域」や教育事務所単位での支援地域の設定などが行われている。それら支援地域内の有機的なネットワークを十分機能させるためには、連絡協議会の設置や個別の教育支援計画を相互に連携して作成・活用することが重要である。
  4. 上記の支援地域内の教育資源(幼、小、中、高、特別支援学校、特別支援学級、通級指導教室)それぞれの単体だけでは、そこに住んでいる子ども一人一人の教育的ニーズに応えることは難しい。こうした域内の教育資源の組合せ(学校クラスター(学校群))により域内のすべての子ども一人一人の教育的ニーズに応え、各地域におけるインクルーシブ教育システムを構築することが考えられる。その際、交流及び共同学習の推進や特別支援学校のセンター的機能の活用が効果的である。また、特別支援学校は、都道府県教育委員会に設置義務が、小・中学校は市町村教育委員会に設置義務があることから、両者の連携の円滑化を図るための仕組みを検討していく必要がある。(参考資料8:学校クラスター(学校群)のイメージ)
  5. 地方公共団体は、その責務として、インクルーシブ教育システムの構築に当たり、障害のある子どもたちの地域における生活を支援する観点から、地域における社会福祉施策や障害者雇用施策と特別支援教育との一層の連携強化といった広い視野を持って取り組む必要がある。また、卒業後の就労・自立・社会参加も含めた共生社会システムを考える必要がある。通学の利便性の向上のため、特別支援学校の分教室を設置するなど、特別支援教育の地域化を推進している都道府県もある。
  6. 例えば、障害が重度の児童生徒に適切な教育を提供するためには、施設・整備等の基礎的条件の整備、充分な知識と技量を持った教育スタッフチームの配置・育成、看護師と教員が連携した医療的ケアの実施体制の整備が必要であるが、地域で計画的に条件整備を進める必要がある。また、キャリア教育の観点からは、ソーシャルワーク(人々の生活を社会的な視点から捉え、その解決を支援すること)が非常に重要であるが、それを学校、教員だけで行うことには無理がある。地域の中で、ソーシャルワークの機能をきちんと確保することが重要である。
  7. 病院に入院した際は、病院にある学校や学級に籍を移動しなければ教育を受けることができない。退院すると地域の学校に戻るということや、近年は入院が短期化してきている現状を踏まえ、現在の特別支援学校、病院内の学級、病院、地域の学校のそれぞれの運用を一層柔軟にしていくべきである。

2.就学相談・就学先決定の在り方について

  • 一人一人の教育的ニーズを保障する就学先を決定するため、また、本人・保護者、学校、教育委員会が円滑に合意形成を図るため、障害のある子どもたちの教育相談は、乳幼児期を含め早期から行うことが必要。
  • 就学基準に該当する障害のある子どもは、特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、専門家の意見等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとすることが適当。その際、本人・保護者の意見を尊重することとし、最終的には市町村教育委員会が決定。本人・保護者と教育委員会、学校等の意見が一致しない場合の調整の仕組みについて検討していくことが必要。
  • 就学先決定後も、継続的な教育相談を行うとともに、その結果に合わせて柔軟に就学先の見直しを図り適切な支援を行っていくことが適当。
  • 市町村教育委員会は、障害のある子ども本人・保護者に対して十分な相談・情報提供ができる体制を整備することが必要。その支援のために都道府県教育委員会は、専門的な相談・助言機能を充実・強化することが必要。

(1)早期からの教育相談

  1. 子どもの教育的ニーズに応じた支援を保障する就学先を決定するためには、早期から教育相談や就学相談を行うことにより、本人・保護者に十分情報を提供し、本人・保護者と学校、教育委員会が教育的ニーズと必要な支援について合意形成を図りながら決定していくことが重要である。また、就学前の早期から保護者が個別の教育支援計画1作成に関わり、就学先やその後の教育や支援の在り方が決定された上で、計画の内容を関係者全員で実行していくべきである。さらに、保護者をはじめとする関係者が連携しつつ子どもの成長に合わせて随時個別の教育支援計画を改定し、必要な場合には柔軟に就学先を見直すべきである。この個別の教育支援計画1)は、市町村教育委員会において責任をもって作成すべきである。
  2. 乳幼児期から幼児期にかけての専門的な教育が受けられる体制を医療・福祉・教育の連携の下に早急に確立することが必要である。特に、視覚障害特別支援学校、聴覚障害特別支援学校については、幼稚部以前の早期からの相談体制、教育体制を更に充実させることが必要である。また、今後、発達障害の早期支援も重要である。
  3. 市町村教育委員会は、就学の相談・支援を適切に実施するため、個別の教育支援計画を作成し、医療や福祉の関係部局や近隣の特別支援学校、都道府県の特別支援教育センター等(都道府県の教育センター特別支援教育担当部門や市町村の教育センターを含む。)と連携・協力出来るようにするなど、相談・支援体制の充実に努めることが必要である。
  4. 小学校が就学相談の窓口となり、保育所、幼稚園と日常的に連携を行うことで障害の状態やニーズを把握している自治体もある。そのため、就学相談に関する管理職研修を実施するとともに、住民向けに広報誌で周知を図っているなどの工夫が見られる。また、特別な支援を必要とする児童生徒への支援を充実するネットワークをまとめる機関を設置し、巡回相談など各種教育相談を実施させるとともに、必要に応じて、教育・保健・福祉・医療分野の連携を行っている自治体もある。これらの先行事例も参考としながら、相談・支援体制の充実に努めることが必要である。

1)医療、保健、福祉、労働等の関係機関との連携を図りつつ、乳幼児期から学校卒業後までの長期的な視点に立って一貫した的確な教育的支援を行うために、障害のある幼児児童生徒一人一人について支援の内容等を示した計画

(2)就学先決定の仕組み

  1. 就学基準に該当する障害のある子どもは、特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとすることが適当である。その際、本人・保護者の意見を尊重することとし、最終的には市町村教育委員会が決定することが適当である。(参考資料9:これまでの就学に係る制度改正状況、参考資料10:新たな就学先決定の仕組み(イメージ))
  2. 現在、多くの自治体で障害の種類・程度等の判断について専門的立場から調査・審議を行うために設置されている「就学指導委員会」については、本人の教育的ニーズ及び本人・保護者の意向を尊重するという観点とともに、早期からの教育相談や就学先決定時のみならずその後の一貫した支援に重点を置くという観点から、「就学指導委員会」の名称を改め、「就学・教育支援委員会」(仮称)等の名称とすることが適当である。
  3. 学校や教育委員会が自分の子どもを進んで受け入れてくれるという姿勢が見られないと、保護者は心を開いて就学相談をすることができない。学校、市町村教育委員会は、障害のある子どもを地域で受け入れるという意識を持って就学相談・就学先決定に臨む必要がある。
  4. 就学時に小学校段階6年間、中学校段階3年間の学びの場をすべて決めるのではなく、子どものそれぞれの発達の程度、適応の状況等を勘案しながら柔軟に転学もできることを共通理解とすることが重要である。学年ごとや学期ごとなどに教育相談を行い、必要に応じて就学先を変更できるようにしていくことが適当である。また、就学相談の初期の段階で、就学先決定についての手続きの流れや重要事項、就学先決定後も柔軟に転学できることを、本人・保護者に予め説明を行うことが必要である(就学先決定にかかるガイダンス)。このことは、就学後に学校で適切な教育がなされないといったことを原因とした二次的な障害の発生を防止する観点からも重要である。
  5. 就学先を決定するに当たって、就学先の学習の様子がわからなければ保護者は判断できない。例えば、英国、米国においては、行政側が、福祉、医療など教育以外の情報も含めた適切な情報を保護者に提供し、また、他の保護者と情報交換できるセンターの設置などの取組を行っており、これらを参考に、今後日本における保護者への支援の在り方について検討していく必要がある。
  6. 障害のある子どもの能力を十分発達させていく上で、受入れ先の小・中学校には必要な環境整備が求められるが、障害の状態、必要とされる教育的ニーズ、学校、地域の実情等により環境整備に困難が予想される場合には、本人・保護者に予め受けられる教育や支援等について説明し、十分な理解を得るようにすることが重要である。
  7. 保護者の思いと子ども本人の教育的ニーズは異なることもあり得ることに配慮する必要がある。保護者の思いを受け止めるとともに、本人に必要なものは何かを考えていく過程が必要である。そのため、市町村教育委員会が本人・保護者の意見を十分に聞き、共通認識を醸成することが重要である。(参考資料11:児童の権利条約関連条文)
  8. 市町村教育委員会が、保護者への説明、学校への指導・助言等の教育支援を適切に行うためには、専門的な知識をもった職員を配置するなどの体制整備が必要である。現行の「就学指導委員会」においても、自治体によっては、専門家の専門性が十分ではない、あるいは、単独で専門家を確保することが困難といった課題もある。例えば、専門家の確保を他の自治体と共同で実施することや都道府県教育委員会からの支援を受けることも考えられる。
  9. 例えば、英国、米国では、就学先決定について、本人・保護者の意見と行政の意見が一致しない場合の調整のための仕組みが用意されている。これらを参考に、今後日本における仕組みを検討していく必要がある。例えば、都道府県教育委員会が、その役割を担うことも考えられる。その際は、十分な専門性や、公正かつ客観的な見識を持つ構成員とすることに留意することが必要である。これについては、これまでの認定就学の事例を整理することや新たなモデル事業を実施することにより、各都道府県教育委員会において、その事例等を共有していくことが考えられる。(参考資料12:平成21年度における認定就学の状況)

(3)一貫した支援の仕組み

  1. 個別の教育支援計画、個別の指導計画については、現在、特別支援学校の学習指導要領には作成が明記されているが、小・中・高等学校で学ぶ障害のある児童生徒については、必要に応じて作成されることとなっており、必ず作成することとなっていない。これを障害のある児童生徒全てに拡大していくことが望ましい。
  2. 一部の自治体では、市内在住の就学を迎える全児童を対象として、就学支援シートを作成し、それぞれの学校で保護者と担任等が子どもの学校生活、学習内容を検討するに当たり、活用しており、このような取組を拡大することも重要である。
  3. 特別支援学校では、就労支援として、個別の教育支援計画を活用し、小学部・中学部・高等部で一貫性のあるキャリア教育を推進し、卒業後の継続した支援を行っている。また、進路指導において、子どもが自分の進路計画を自ら作っていくというような取組も始まっている。これらの取組を一層発展させるとともに、特別支援学校以外の障害のある子どもにも広げていくことが望ましい。
  4. 障害が発見されてから成人するまで確実に指導・支援できるような、子どもの成長記録や生活の様子、指導内容に関するあらゆる情報を記録し、必要に応じて関係機関が共有できるような相談支援ファイルを作成し、できるだけ早期に配布・活用することが必要。就学先決定、転学、就労判定する時の一つの大きな情報になり、関係者の情報共有に役立つ。
  5. 社会の中で自立していくための教育という意味でキャリア教育と特別支援教育の考え方には共通するものがある。社会環境の変化が大きくなっていく中、特別支援学校・学級で行われてきている自立支援、職業教育や職場体験というものは更に発展させ、進化させていくべきである。

(4)就学相談、就学先決定に係る国や都道府県教育委員会の役割

  1. 障害のある子どもの実質的なニーズに対応した教育が行われているかを相談・助言できる組織を都道府県レベルで設置し、一年中いつでも相談できるような仕組みを構築するなど、都道府県教育委員会の就学先決定に係わる相談・助言機能を強化する必要がある。
  2. 市町村教育委員会単独で、就学相談や就学支援に係る専門家の確保が困難な場合には、都道府県教育委員会が専門家を派遣するなどの措置を講ずる必要がある。また、関係者のための研修会を都道府県が実施することも考えられる。
  3. 就学相談については、それぞれの自治体の努力に任せるだけでは限界があることから、国は、何らかのモデル的なプロセスや具体例の共有化を進めることが必要である。例えば、県の特別支援教育センターの職員が各市町村の就学相談委員となって、就学コーディネーターの役割を果たし、全域をサポートしている例もある。都道府県教育委員会が行う市町村教育委員会に対する支援を円滑にするための措置を講ずる必要がある。

3.特別支援教育を推進するための人的・物的な環境整備について

  • 発達障害も含め、特別支援教育の更なる環境整備が必要。
  • 合理的配慮については、今後、障害種ごとや、ソフト・ハードの両面から検討をしていくことが必要。
  • 特別支援学校と幼・小・中・高等学校との間で行われる交流及び共同学習の推進に当たっては、例えば、居住する地域の小・中学校に副次的な学籍を持たせるなど一層の工夫が必要。
  • 特別支援学校のセンター的機能を一層活用することが必要。

(1)環境整備全般

  1. 現在、小・中学校等においては、発達障害を含め、一人一人の教育的ニーズの異なる、様々な障害のある子どもたちが学んでおり、その環境整備が課題になっている。指導方法の充実、人的・物的な環境整備、現場での意識改革、教員の指導力の向上等を総合的に進める必要がある。特に少人数学級の実現に向けた取組を進めていく必要がある。また、教育条件の整備のためには、国及び自治体の財政的な裏付けが必要である。環境整備が進まないまま、インクルージョンを進めることは、結果として教育のダンピング(特別な教育を必要とする子どもが何らの配慮もなく通常の学級で学んでいる状態)となる危険性がある。
  2. 具体的に地域の現場において、インクルージョンを実現していくには、基礎自治体の取組が大きく影響する。その際、教育委員会だけではなく、財政の観点から首長部局の関与も重要である。
  3. 校内の支援体制として、教員に加えて、特別支援教育支援員、スクールカウンセラー、養護教諭といった人材も有効に活用していく必要がある。

(2)合理的配慮

  1. 障害者の権利に関する条約第24条(教育)は、「個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。」と規定している。同条約第2条によれば、「合理的配慮」とは、「障害者が他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整」であり、「特定の場合において必要とされるもの」であり、かつ、その「変更及び調整」を行う主体にとっての負担という観点から、「均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」をいう、とされている。(参考資料1:障害者の権利に関する条約条文、参考資料13:合理的配慮について)
  2. 障害は多様であり、例えば、肢体不自由についても医学的に様々な状態があり、それに対する合理的配慮も様々である。障害のとらえ方として、「医学モデル」に「社会モデル」を反映したICF(国際機能分類)を用いることも検討する必要がある。(参考資料14:ICFについて)
  3. 合理的配慮については、教育課程や支援内容等のソフト、施設・設備の整備等のハード両面からの議論が必要である。また、障害種別の具体的な合理的配慮のイメージについては、一層の検討が必要である。合理的配慮が不十分なままでは、子どもたちに適切な教育を行うことができない。(参考資料15:合理的配慮についての特別委員会における意見等)
  4. 合理的配慮のイメージについて、一部の教員や保護者、当事者が認識したとしても、地域における理解はまだ進んでおらず、理解促進のための啓発活動が必要である。
  5. 通常の学級で指導を行う場合、現在、障害のある児童生徒でも、各小・中学校は、小・中学校の学習指導要領に基づく教育課程を編成・実施する必要がある。通常の学級で学ぶ障害のある児童生徒一人一人に応じた特別の指導の在り方について検討する必要がある。

(3)交流及び共同学習

  1. 障害のある子どもが特別支援学校に就学する場合、地域とのつながりが希薄になることを懸念する意見がある。このため、障害のある子どもが、居住する地域とつながりを深めるため、居住地校との交流及び共同学習を進めることが必要である。
  2. 交流及び共同学習は、特別支援学校や特別支援学級に在籍している児童生徒が居住地校及び居住地域の障害のない児童生徒と活動を共にするものである。障害のある児童生徒にとっては、居住地の小・中学校の通常の学級において障害のない児童生徒とともに学習することで地域とのつながりを持つことができ、障害のない児童生徒にとっては、障害のある児童生徒とともに学び、多様性を尊重する心をはぐくむことができ、共生社会の実現を目指す観点とともに、子どもの成長にも大きな意味をもつ。
  3. 一部の自治体で実施している居住地校に副次的な学籍を置くことについては、居住地域との結びつきを強めるために意義がある。この場合、居住地校交流を実施する上では、児童生徒の付添いや時間割の調整などの課題があり、その解決に向けて検討していく必要がある。(参考資料16:副次的な学籍について)
  4. 同じ障害種別の者との交流を継続して体験することも重要であり、例えば、通常の学級や特別支援学級で教育を受ける視覚障害の児童生徒が、視覚障害特別支援学校の児童生徒との交流を定期的に実施するなどの仕組み作りが考えられる。また、中学校・高等学校に通っている視覚障害の生徒と視覚障害特別支援学校の生徒の両方を対象とし、サマーキャンプ等で学習体験をする実践もある。その実践においては、先輩であり現役の企業等で働いている視覚障害の技術者や学校の先生が講師であり、それを支えているのが視覚障害特別支援学校の先生たちや大学の視覚障害教育にかかわっている人たちである。

(4)特別支援学校のセンター的機能の活用

  1. 特別支援学校は、小・中学校等の教員への支援機能、特別支援教育に関する相談・情報提供機能、障害のある幼児児童生徒への指導・支援機能、関係機関等との連絡・調整機能、小・中学校等の教員に対する研修協力機能、障害のある幼児児童生徒への施設設備等の提供機能といったセンター的機能を有しており、その機能を活用してインクルーシブ教育システムの中で重要な役割を果たすことが求められる。そのため、その専門性の向上にも取り組む必要がある。
  2. 特別支援学校の教員による巡回相談等、小・中学校等と特別支援学校との連携が重要である。特別支援学校も加えた形で地域の特別支援教育の支援体制を面として作っていくことが必要である。また、特別支援学校が、地域にいる障害のある子どもの教育あるいは小・中学校の教員の専門性の確保を担っている都道府県もある。
  3. 必要に応じて、分校、分教室の形で設置するなど、都道府県内に特別支援学校をバランス良く設置していくことも方策の一つとして考えられる。児童生徒の移動時間を考えると、分校、分教室の方が指導を充実できる可能性もある。小学校に設置している特別支援学校の分教室で、当該小学校のみならず周辺の小・中学校についても支援を行っている例もある。

4.教職員の確保及び専門性向上のための方策

  • インクルーシブ教育システムの構築のため、教職員の確保や教員の専門性の向上を図るための具体的方策として、大学での教員養成の在り方、現職教職員の研修体系、採用・配置などについて、今後検討していくことが必要。

(1)教職員の専門性の確保

  1. すべての子どもに実質的に効果のある教育を実践するためには、まずは受け入れる側の教師たちの専門性を確実にあげ、指導技術を担保することが必須要件である。その際、知識だけでなく様々なスキルをどう高めていくか、そのためには何が必要かということが大きなテーマである。
  2. 特別支援教育の専門性について、例えば、米国や英国で行われているように、高発生頻度障害(発生頻度が非常に高い障害)については基本の情報として、すべての教員が有することとし、低発生頻度障害(視覚障害、聴覚障害、盲ろう、重度・重複等)については担当教員が専門性を高めるという形で、高発生頻度と低発生頻度を分けて専門性を向上させる取組を日本でも参考にする必要がある。
  3. 小・中学校等の特別支援教育担当教員の専門性が校内に与える影響は大きいことから、特別支援教育の中核となる教員を養成し、そういった人材を障害のある子どもの教育的ニーズや学校の状況に応じ、各学校に長期に配置することが考えられる。また、特別支援学校としての障害種ごとの専門性を確保していくことを考慮した上で、同一校における教員の在職年数の延長など弾力的な人事上の配慮を行うことも求められる。
  4. 特別支援教育コーディネーターについては、専門性を持った教員が専任で配置されることで、学校全体の教員の資質・能力の向上に指導的な役割を果たすことが期待できることから、専門性を高めるための方策について今後検討していく必要がある。

(2)教職員の養成・研修・免許

  1. すべての教員が特別支援教育についての専門性を持っていることが望ましい。現在、養成段階で、特別支援教育に関する内容を取り扱うことになっているが、通常の学級の担任、特別支援学級担当教員について何らかの専門性向上のための方策を検討していく必要がある。例えば、通常の学級の教員については、大学で特別支援教育関係の単位を修得することが望ましい。また、小・中学校等において特別支援教育を担当する教員のための免許状を創設することなども考えられる。今後、教員免許制度全般についての検討の中で、特別支援教育関係の単位修得や免許制度の在り方等について検討される必要がある。
  2. 都道府県や市町村での特別支援教育に関する研修をすべての教職員に必要なものとして実施するか検討が必要である。まずは、校長等管理職を対象として、特別支援教育、特に発達障害に関する研修を集中的に行うことが必要である。特別支援教育についての多様な研修とともに、学級経営、学校経営といった研修においても特別支援教育を意識して取り組む必要がある。他方、多忙な教員に配慮した効果的・効率的な研修の実施が求められる。(参考資料17:教員の特別支援教育に関する研修への参加状況)
  3. 特別支援教育に関する教職員の資質、能力としては、すべての教職員が最低限身に付けていなければならない特別支援教育の理念及び障害に対する基本的な知識等や、実際に特別支援教育に携わる場合に身に付けるべき専門性に関するものを、経験年次別研修や職務別研修を組み合わせることにより、身に付くようにしていくべきである。
  4. 校内研修により、学校としての専門性を次に引き継いでいくことが重要である。国の事業として実施している「特別支援教育総合推進事業」により、校内研修を支援しており、各学校で抱える様々な課題について、特別支援学校や特別支援教育センターが助言、協議する研修を組んでいる。ただし、校内における研修は重要であるものの、OJTだけでは、体系的な知識が身に付かないことから、研修と実践を効果的に組み合わせることが適当である。(参考資料18:特別支援教育総合推進事業)
  5. 大学教授や精神科医などの発達障害に対する専門家が地域にいないといった現状があり、その対応策として、各地域にある特別支援学校が巡回相談や研修会の実施といったセンター的機能を果たしていくことも重要である。
  6. 特別支援教育の支援員の活用を図るということも、各都道府県教育委員会で行われているが、支援員の質向上が課題であり、研修を計画的に実施していく必要がある。

(3)教職員への障害のある者の採用

  1. 障害のある児童生徒にとって、障害のある教職員はロールモデル(具体的な行動技術や行動事例を模倣・学習する対象となる人材)となることから、特別支援学校等において、障害のある当事者の教職員が確保されるよう、採用や人事配置について配慮する必要がある。