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障がい者制度改革推進会議 第26回(H22.11.22) 資料2

「障害」の表記に関する検討結果について

平成22年11月22日
「障害」の表記に関する作業チーム

目次

第1 はじめに

第2 ヒアリング結果について

1.文化審議会国語分科会漢字小委員会における議論

1)改定常用漢字表の性格

2)「障害」及び「障碍(障礙)」の表記に関する歴史的変遷

3)改定常用漢字表における「碍」についての考え方

2.障害学における英米の社会モデルについて

1)障害学における英米二つの社会モデル

2)英米障害学における「障害」の表記

3)障害者権利条約における「障害」の表記

3.「障害」の表記に関する考え方の整理

1)「障害」

2)「障碍」

3)「障がい」

4)「チャレンジド」

5)その他

4.各団体等における表記の運用状況

第3 一般からの意見募集の結果について

1.「障害(者)」

2.「障碍(者)」

3.「障がい(者)、しょうがい(者)」

第4 ヒアリング及び意見募集の結果を踏まえた総括

第5 今後の課題

第1 はじめに

 平成21年12月に閣議決定により設置が決定された障がい者制度改革推進本部においては、「法令等における「障害」の表記の在り方に関する検討等を行う」こととされ、同本部の下に置かれた障がい者制度改革推進会議(以下「推進会議」という。)に意見が求められていた。推進会議では、「障害」の表記の在り方について、平成22 年3月に審議を行い、4月にインターネット調査を行った上で、5月に再度審議を行ったが、6月に取りまとめられた第一次意見においては、「今後とも、学識経験者等の意見を聴取するとともに、国民各層における議論の動向を見守りつつ、それぞれの考え方を整理するなど、引き続き審議を行う」こととされた。

 これを受け、法令等における「障害」の表記の在り方に関する推進会議の議論に資するため、関係者からヒアリングを通じて、それぞれの表記のプラス面とマイナス面を明らかにしながら論点整理を行うことを目的として、推進会議の下に「障害」の表記に関する作業チームを設置することが決定された。同作業チームにおいては、平成22 年8月以来、関係省庁、地方公共団体関係者、障害者団体関係者、企業関係者、学識経験者等からのヒアリングや一般の意見募集を行いながら、計6回にわたって精力的な議論を行ってきた。

 我が国の法令における漢字表記については、「法令における漢字使用等について」(昭和56 年10 月1日内閣法制次長通知)により、昭和56 年10 月1日事務次官等会議申合せ「公用文における漢字使用等について」記1漢字使用によること、つまり「常用漢字表」(昭和56 年内閣告示第1号)によることとされている。今般、「常用漢字表」の在り方については、文部科学大臣の諮問を受けた文化審議会において検討が行われ、平成22 年6月7日に同審議会が答申した「改定常用漢字表」において、「碍(障碍)」は、「政府の「障がい者制度改革推進本部」において、「「障害」の表記の在り方」に関する検討が 行われているところであり、その検討結果によっては、改めて検討する」こととされていた。

第2 ヒアリング結果について

 「障害」の表記に関する作業チームにおいては、「改定常用漢字表」における「碍」の扱い等について文化審議会国語分科会漢字小委員会の事務局担当者からヒアリングを行うとともに、「障害」の表記については、「障害」のほか、「障碍」、「障がい」、「チャレンジド」等の様々な見解があることを踏まえ、それぞれの表記を採用している障害者団体、地方公共団体、企業、マスメディア、学識経験者から、その考え方や運用状況等について、計4回にわたり10名の方々からヒアリングを行った。

1.文化審議会国語分科会漢字小委員会における議論

1)改定常用漢字表の性格

 「改定常用漢字表」(平成22 年6月7日文化審議会答申)において、改定常用漢字表は、「現行の常用漢字表と同じく、法令・公用文書・新聞・雑誌・放送等、一般の社会生活で用いる場合の、効率的で共通性の高い漢字を収め、分かりやすく通じやすい文章を書き表すための、新たな漢字使用の目安となることを目指したもの」であり、また、「表に掲げられた漢字だけを用いて文章を書かなければならないという制限的なものでなく、必要に応じ、振り仮名等を用いて読み方を示すような配慮を加えるなどした上で、表に掲げられていない漢字を使用することもできるもの」とされている。

2)「障害」及び「障碍(障礙)」の表記に関する歴史的変遷

 「障害」については、遅くとも江戸末期には使用された用例があり、他方、「障碍(礙)」については、もともと仏教語で、明治期に至るまで「しょうげ」と読まれてきた語であり、「ものごとの発生、持続にあたってさまたげになること」を意味するが、仏教語から転じて平安末期以降「悪魔、怨霊などが邪魔すること。さわり。障害。」の意味で多く使われてきた。

 明治期に入ると、「障碍(礙)」を「しょうがい」と読む用例が現れ、「障碍(礙)」という一つの表記について、呉音で読む「しょうげ」と漢音で読む「しょうがい」という二つの読み方が併存するようになる。こうした不便な状況を解消するためということもあって、次第に「しょうげ=障碍(礙)」と「しょうがい=障害」を書き分ける例が多くなり、大正期になると、「しょうがい」の表記としては、「障碍(礙)」よりも「障害」の方が一般的になる。

 戦後、「当用漢字表」(昭和21 年)や、国語審議会による「法令用語改正例」(昭和29 年等)が、その時点における「障害」と「障碍」の使用実態に基づき、「障害」のみを採用した結果、一部で用いられていた「障碍」という表記はほとんど使われなくなっていった。

 ただし、戦前は、心身機能の損傷や、心身機能の損傷のある人を言い表す場合に、現在用いられている「障害(者)」と同様の意味で「障害(者)」や「障碍(者)」が用いられたことはほとんどなく1、別の言い方、いわゆる差別的な言い方が用いられていた。

3)改定常用漢字表における「碍」についての考え方

 文化審議会国語分科会漢字小委員会では、常用漢字表の改定に当たって、平成21 年に一般からの意見募集を2度実施し、その際、「碍」については、「玻」や「鷹」とともに追加要望が多く寄せられた。そのいずれの漢字についても、常用漢字表の選定基準に照らし、主として出現頻度(一般社会においてよく使われているかどうか)及び造語力(熟語の構成能力)の観点から、追加字種としてはふさわしくないと判断された。

 しかし、「碍」については、「改定常用漢字表」において、「政府の「障がい者制度改革推進本部」において、「「障害」の表記の在り方」に関する検討が行われているところであり、その検討結果によっては、改めて検討する」こととされている。これは、「障碍(しょうげ)」の意味を理解した上でもなお、「障害」の表記として「碍」を使うことが、政府全体として合意されるのであれば、文化審議会において再度検討を行うことを意味している。

2.障害学における英米の社会モデルについて
―杉野昭博教授(関西学院大学人間福祉学部)からのヒアリング(要約)

1)障害学における英米二つの社会モデル

 イギリス社会モデルにおける障害の定義は、障害をimpairment とdisability という2つの要素に分解する二元論であり、impairment(機能障害)を問題化する医学モデル(個人モデル)を批判して、disability の方を問題化する社会モデルの立場をとっている。これは、機能障害と参加制約の二元論をとるが、「参加制約」の除去を最優先にする立場である。

 他方で、アメリカの社会モデルは、障害を個人の属性と環境との相互作用によって発生するものとしてとらえる、いわゆる相互作用モデルであり、これは障害を一面においては「個性(個別的属性)としての障害」としてとらえるものであるが、参加制約除去を優先するという意味では、イギリス社会モデルと変わらないといえる。

2)英米障害学における「障害」の表記

 イギリス障害学ではdisabled people が用いられており、disablement という名詞もよく用いられるが、これらは社会制度によって無力化された集団という意味で使われている。

 アメリカではpersons with disabilities が用いられているが、これは個別的属性としての障害のある人というような意味で使われており、障害を否定的なimpairments ではなくて、例えば民族性、出自といった属性と同様に属性の一つとしてとらえられている。

3)障害者権利条約における「障害」の表記

 障害者権利条約は、個人と社会的障壁との相互作用論であるという点、タイトルにpersons with disabilities と、個人の属性としての障害というのが用いられているという意味では、アメリカ社会モデルを基本としている。

3.「障害」の表記に関する考え方の整理

1)「障害」

[肯定的意見]

(障害者団体:特定非営利活動法人DPI日本会議)

 障害者の権利に関する条約(仮称)においては、障害を視覚、聴覚、肢体等の機能不全等を意味する「Impairment」と表記するとともに、機能障害等によってその人の生活や行動が制限・制約されることを「Disabilities」と表記している。これは、障害者の社会参加の制限や制約の原因が、個人の属性としての「Impairment」にあるのではなく、「Impairment」と社会との相互作用によって生じるものであることを示している。

 したがって、障害者自身は、「差し障り」や「害悪」をもたらす存在ではなく、社会にある多くの障害物や障壁こそが「障害者」をつくりだしてきた。このように社会に存在する障害物や障壁を改善又は解消することが必要である。このような社会モデルの考え方と条文では、「Persons with Disabilities」と表記していることから、現段階では、「障害」の表記を採用することが適当である。

 当面は、障害者制度改革を推進し、社会の在り方を医学モデルから社会モデルへと転換することに時間を費やすべきであり、「障害」の表記については将来的な課題とすべきではないか。

[否定的意見]

(障害者団体:東京青い芝の会)

 「害」は「公害」、「害悪」、「害虫」の「害」であり、当事者の存在を害であるとする社会の価値観を助長してきた。

(精神障害関連法人:特定非営利活動法人芦屋メンタルサポートセンター)

 「害」には語源的にも人を殺めるという意味があり不適切。

2)「障碍」

[肯定的意見]

(障害者団体:東京青い芝の会)

 「碍」は電流を遮断する「碍子」などで用いられているように、「カベ」を意味する言葉である。社会が「カベ」を形成していること、当事者自らの中にも「カベ」に立ち向かうべき意識改革の課題があるとの観点を踏まえ、「碍」の字を使うよう提唱してきた。

(精神障害関連法人:特定非営利活動法人芦屋メンタルサポートセンター)

 障碍の表記は古来「障碍」、「障碍物」、「碍子」、「融通無碍」など物や事象を対象に使用されてきた経緯があり、人を対象とした「障碍者」という概念が確立されたのは戦後である。昭和21 年に制定された「当用漢字」では「碍」が当用漢字から外れ、同音ではあるものの意味が異なる「害」の字が充てられ、その後、昭和31 年の「同音の漢字による書きかえ」(国語審議会報告)では、「障碍」を「障害」に書きかえることが妥当であるとされた。これ以降、「碍」の字が国民の目の前からほとんど消えてしまった。

 また、中国、韓国、台湾など漢字圏において、「しょうがい」は「障碍」又は「障礙」と表記されている。一例として「障碍人の権利に関する協約」(韓国)。東アジアの漢字圏において、日本が障害者福祉の面でリーダーシップを発揮する場合に備えて、表記を「障碍」に改めておくべきではないか。

 「障害」の表記は「医学モデル」であるのに対し、「障碍」の表記は「社会モデル」そのものではないか。2

[否定的意見]

(障害者団体:特定非営利活動法人DPI日本会議)

 「障害」の「害」の字については、印象が悪く、人に対して「害」という字を使うべきではないということが、「障害」の表記を変える議論のそもそもの発端であるが、このような理由を考慮すると、新たに「障碍」の表記を採用する場合、仏教語に由来する「障碍(しょうげ)」の語源に関する問題もあるため、「害」の字を使う場合と同様又はそれ以上の問題の指摘を受ける可能性が否定できない。

(マスメディア:朝日新聞)

 「碍」については、使用頻度が低い上に、造語力も低いことから、一般国民が情報社会においてどのような漢字を使うべきかの目安となる常用漢字に入れる必要はないと思う。ただし、障がい者制度改革推進本部の検討結果によっては、改めて検討するという漢字小委員会の結論に異存はない。国民が十分「碍」の字義を理解したうえで納得して使用するなら問題はないと考えるが、「障害」を「障碍」と表記しても根本的な解決にはならない。いずれ更なる人権意識の変化によって、「障碍」という字を用いることは不適切であるという論議が起こりうる。ただし、漢字の字義に即して議論するということも必要だが、それとは別の感覚的、感情的なものも含めた上での考慮もしなければ、表記についての議論は成り立たないのではないか。

3)「障がい」

[肯定的意見]

(地方公共団体:岩手県)

 「障害」の「害」の字は、「害悪」、「公害」等否定的で負のイメージが強く、別の言葉に見直してほしいとの意見が障害者団体関係者から寄せられていたため、平成19 年12 月、障害者関係団体に対して、「障害」の「害」の字の表記に関する意見調査を実施。ひらがな表記にすること自体を否定する意見はなかったため、県としては、「害」の字の印象の悪さ、負のイメージにより、不快感を覚える者がいるのであれば、改められる部分から改めるべきと考え、平成20 年4 月から行政文書等における「障害」の表記を「障がい」に変更することとした3

(企業:ソニー株式会社)

 「害」の字が、他人に害を与えるなど負のイメージがあったため、平成14 年から検討を始めていたが、表記変更に留まらず本質的な就労環境作りに着手すると同時に、地方公共団体や民間企業の取組、各種団体の意見等を参考にして平成19 年3 月から国内グループ企業における表記を「障がい」に変更することとした。ただし、今後の社会動向や議論の中で、適切な表現が現れれば適宜変更を行う。

(企業:第一生命保険株式会社)

 「障害」という言葉が持つ負のイメージに対する関係者の問題意識に鑑み、一部の地方公共団体や企業が「障がい」の表記を採用しているケースを参考として、平成18 年より「障害」の表記を「障がい」に変更することとした。

(学者:関西学院大学 杉野教授)

 障害者権利条約を基本とし、さらに「ショウガイ」という音は変更しないという二つの前提条件の下で考えるならば、「障がい」「障がいのある人」という表記が適切。少なくとも権利条約におけるpersons with disabilities の適切な和訳は「(個別的属性としての)さまざまな障がいのある人」だと考える。

[否定的意見]

(障害者団体:東京青い芝の会)

 社会が「カベ」を形成していること、当事者自らの中にも「カベ」に立ち向かうべき意識改革の課題があるとの観点を踏まえ、「碍」の字を使うよう提唱してきたが、表意文字である漢字を、ひらがなに置き換えてしまうと、「社会がカベを作っている」、「カベに立ち向かう」という意味合いが出ない。

(障害者団体:特定非営利活動法人DPI日本会議)

 人に対して「害」の字を使用することは不適切であるとして、「障害」の表記を「障がい」に変更する考え方は、障害者の社会参加の制限や制約の原因が、個人の属性としての機能障害にあるとする個人モデル(医学モデル)に基づくものであり、医学モデルから障害を個人の外部に存在する種々の社会的障壁によって構築されたものとしてとらえる社会モデルへの転換を第一次意見において示した推進会議としては採用すべきではないのではないか。

4)「チャレンジド」

[肯定的意見]

(企業:第一生命保険株式会社)

 「チャレンジド」は、「障害に負けることなく、社会進出をしていこうとする人たち」という「障害者」に代わる前向きかつ可能性を示唆する表現である。

(チャレンジド就労促進団体:社会福祉法人プロップ・ステーション)

 「チャレンジド」は、the challenged(挑戦という使命や課題、挑戦するチャンスや資格を与えられた人)を語源とする呼称であり、障害をマイナスとのみ捉えるのでなく、障害を持つゆえに体験する様々な事象を自分自身のため、あるいは社会のため積極的に生かしていこうという思いを込めている。時代が大きくかわろうとしている今、様々な価値観による様々な呼称が自由に使われて当然であり、国家がそれを統一することは避けるべきだと思う。

[否定的意見]

(障害者団体:特定非営利活動法人DPI日本会議)

 「チャレンジド」は、the challenged を語源とし、障害者が直面する様々な課題を個々の障害者の問題としてそれぞれがチャレンジしていくことを求めるものであって、社会全体に対して社会の中にある様々な偏見や差別、障壁をなくすため、社会全体が取り組んでいくことを求めるものではない。この表記は、医学モデルを前提とした印象が強く、障害者だけが課題に取り組んでいくような誤解を与える呼称であり、障害者権利条約の定義(社会モデル)には明確に反すると考えられ、賛成できない。

5)その他

「要支援者」

(マスメディア:朝日新聞)

 「健常者」とその対向にある「しょうがいしゃ」という固定的な言い方はやめ、お互いが「支援し支援される」立場になりうるという考え方のもと、互いに支え合う社会を目指すため「要支援者」という言い方を採用してはどうか。

4.各団体等における表記の運用状況

(地方公共団体:岩手県)

 平成20年4月以降、県が新たに作成する行政文書等において、「障害」の表記を「障がい」に原則変更することとした。

 その例外として、ひらがな表記とすることにより、その言葉の持つ意味が失われたり誤解されたりする恐れがある言葉、具体的には、①条例、規則及び例規において使用する場合の人の状態を表す言葉4 5、②人の状態を表すものでない言葉(例:青少年の健全な育成に障害を及ぼす行為、電波の障害、障害物)については適用除外とした。

(企業:ソニー株式会社)

 前後の文脈から人や人の状態を表す場合にはひらがな表記(障がい)とし、法令や条例等に基づく制度や行政宛の公式文書、専門用語として漢字が適当な場合には漢字表記(障害)としている。

(企業:第一生命保険株式会社)

 社内外に発信するものすべてにおいて、「障害(者)」を「障がい(者)」と表記している。法令や固有名詞は、原則そのままの表記としているが、一部ひらがな表記(障がい者手帳等)に変更しているものもある。また、保険会社として障害特約等、約款上使用している「障害」の表記については漢字表記を使用している。なお、「チャレンジド」については、現在、特例子会社の名称のみに使用している。

(マスメディア:朝日新聞)

 固有名詞を除き、「障害」の表記については、「障害」としている。新聞における漢字表記については、常用漢字表を基本的に順守することとしているが、その上で新聞読者にとって分かりやすく読みやすい表記、義務教育を終えた人が無理なく読める表記を心がけている。今般の改定常用漢字表(文化審議会答申)の対応について、追加された196 の字種のうち、読みが難しい51 字は原則使用を避け、使用する場合には読み仮名(ルビ)をつけることとしている。

第3 一般からの意見募集の結果について

 平成22年9月10日(金)から30日(木)までの21日間、内閣府、共生社会、障害者施策の各ホームページにおいて、意見募集を実施したところ、637件の意見が寄せられた。その内訳は、「障害」を支持する意見が約4割、「障碍」を支持する意見が約4割、「障がい」又は「しょうがい」を支持する意見が約1割、その他独自の表記を提案する意見等が約1割であった。それぞれの表記についての主な意見・理由は以下のとおりである。

1.「障害(者)」

[主な理由]

  • 社会モデルの観点からは、「障害」がふさわしい。
  • 表記や呼称を変更したとしても、いずれ同じ議論を繰り返すことになる。
  • 表記の問題よりも、障害者を取り巻く差別と偏見を取り除くことが先決。
  • イメージでの議論が先行しすぎている。
  • 広く普及している現状がある。 等

[主な否定的意見]

  • 「害」の字には、「公害」、「害虫」、「加害」等の負のイメージがある。 等

2.「障碍(者)」

[主な理由]

  • 社会モデルの観点からは、「障碍」がふさわしい。
  • 表記を変えることにより、一般国民の意識が改善されることが期待される。
  • 「害」の字には負の意味が入っているが、「碍」の字は価値中立的である 等

[主な否定的意見]

  • 知的障害のある者等にとって、表記の変更は混乱を招く。
  • 表記を変更したところで、「障」=「さわり」、「碍」=さまたげであって、漢字の持つ負のイメージに変わりはない。 等

3.「障がい(者)、しょうがい(者)」

[主な理由]

  • 柔らかい印象があり、点字を利用している人でも書くことができる。
  • 移行期間という認識の下で、ひらがな表記が望ましい。

[主な否定的意見]

  • 平仮名の「がい」では実体が見えない。障害の社会性を曖昧にする。
  • 日本語として不自然

第4 ヒアリング及び意見募集の結果を踏まえた総括

 第2及び第3で述べてきたように、様々な主体がそれぞれの考えに基づき、「障害」について様々な表記を用いており、法令等における「障害」の表記について、現時点において新たに特定のものに決定することは困難であると言わざるを得ない。

 他方で、この度の様々な関係者、有識者からのヒアリング等を通じて、これまで明らかになっていなかった検討課題や論点も浮かび上がってきており、今後「障害」の表記に関する議論を進めるに当たっては、以下の観点が必要と考えられる。

  • 「障害(者)」の表記は、障害のある当事者(家族を含む。)のアイデンティティと密接な関係があるので、当事者がどのような呼称や表記を望んでいるかに配慮すること。
  • 「障害」の表記を社会モデルの観点から検討していくに当たっては、障害者権利条約における障害者(persons with disabilities)の考え方、ICF(国際生活機能分類)の障害概念、及び障害学における表記に関する議論等との整合性に配慮すること。

 これらを踏まえ、法令等における「障害」の表記については、当面、現状の「障害」を用いることとし、今後、制度改革の集中期間内を目途に一定の結論を得ることを目指すべきである。そのためには、障害は様々な障壁との相互作用によって生ずるものであるという障害者権利条約の考え方を念頭に置きつつ、それぞれの表記に関する考え方を国民に広く紹介し、各界各層の議論を喚起するとともに、その動向やそれぞれの表記の普及状況等を注視しながら、今後、更に検討を進め、意見集約を図っていく必要がある。

第5 今後の課題

 第4に述べた観点を踏まえつつ、今後、以下の課題について検討する必要があると考える。

  • 各種シンポジウムや障害者週間等の啓発事業を通じて、「障害」のそれぞれの表記に関する議論を紹介するとともに、幅広く様々な主体における議論を喚起していくこと。
  • 「障害」のそれぞれの表記の普及状況について、定期的に調査を行うなど、その把握に努めること。
  • 近年、国会においても「障害」の表記の在り方に関する議論6が度々なされており、このような動向も注視しつつ検討を進めること。

 なお、今般の本作業チームにおける議論においては、「碍」が常用漢字に入っていないため、「障碍」の使用が広がらないとの観点から、「碍」の字を常用漢字に追加するよう、推進会議から文化審議会に提言すべきとの意見も出されたところである。

 これについては、そもそも常用漢字は、分かりやすく通じやすい文章を書き表すための漢字使用の目安であって、常用漢字ではない漢字の使用が制限されているわけではなく、また、法令における「障害」の表記を「障碍」にするという結論に至っていない現時点において、文化審議会に提言を行う十分な理由がないとの意見もあり、本作業チームとして合意には至らなかった。今後、上記の取組を進めながら意見集約を図っていく過程において、「碍」の字の常用漢字への追加についても十分に検討を進めていく必要がある。

1 「身体に障害を持つ者」全般を指す語としての「身体障害者」が、法律で初めて用いられたのは昭和24 年のことであり、同年、法律名(国立身体障害者更正指導所設置法・身体障害者福祉法)としても採用された。昭和50 年代以降には、関係法律の一斉改正により、戦前から用いられてきた言い方が、「障害」や「~障害」などに整理された。

2 このほか「精神障害者」の表記についても、精神疾患の正しい知識の普及という観点から、ソフトな呼称・表記に変更すべきとの意見があった。

3 この際「碍」については、検討の対象に入れていなかったところであるが、これはそもそも①「碍」を使用したいという要望が関係団体から寄せられなかったこと、②「碍」が常用漢字に入っていなかったこと、③調査をした7道県がひらがな表記を採用していたことが、その主な理由である。

4 法律名、政令名、府省令名、条例名、規則名、法律等で使用されている用語、関係団体・関係施設の名称、固有名詞(国の事業・制度の名称、医療用語、専門用語等)についても、適用の対象外

5 条例、規則及び例規は、行政文書と比較して法令名・法令用語を多用しているため、県民にとって、かえって読みにくく、分かりにくいものになることから、ひらがな表記を適用しないこととした。

6 近年「障害」の表記に関し、「障碍」や「障がい」を採用すべき等の意見が国会質疑において出されているところ。

「障害」の表記に関する作業チームの設置について

◆作業チームの役割、構成について

○作業チームの役割は、親会議(推進会議)が「障害」の表記について議論をしやすくするために、検討事項の整理を行なう。

○関係者からのヒアリングを通じて、「表記」の案などに関するプラス面とマイナス面を整理し、推進会議で検討ができるようにする。

○メンバーは5人とする。

◆作業チームの進め方について

○関連分野の有識者や「障害」の表記問題に積極的に発言している関係者などからのヒアリングを中心に進めていく。

  • 関連分野の有識者(案):メディア関係(放送協会、新聞協会)、作家協会(日本ペンクラブなど)
  • 「障害」の表記問題に積極的に発言している団体または関係者など

○ヒアリングのもち方

 作業チームによるヒアリングとして行い、ヒアリングの内容を整理したうえで推進会議に報告し、推進会議では、ヒアリングで明らかになった論点について検討していただく。

○大まかなスケジュール

 イメージ(案)としては、ヒアリングを9月中旬~10月中旬にかけて行い、 10月下旬からとりまとめの作業に入る。

 11月中旬には、推進会議に報告を上げて一定の議論を行なったうえで意見 をとりまとめ、「第二次意見」に反映できるようにする。

以上

「障害」の表記に関する作業チームの検討経緯

第1回 8月9日(月)(10:30~12:00)

○これまでの経緯の確認、今後の進め方について

第2回 9月6日(月)(10:00~12:00)

○ヒアリング①

  • 氏原 基余司 文化庁文化部国語課主任国語調査官
  • 寺田 純一 東京青い芝の会
  • 朽木 正彦 岩手県保健福祉部障がい保健福祉課総括課長

第3回 9月27日(月)(10:00~12:00)

○ヒアリング②

  • 後藤 啓之 ソニー株式会社ダイバーシティ開発部担当部長
  • 豊田 徳冶郎 特定非営利活動法人芦屋メンタルサポートセンター副理事長
  • 西村 正樹 特定非営利活動法人障害者インターナショナル日本会議副議長

第4回 10月27日(水)(10:00~12:00)

○ヒアリング③

  • 吉田 久子 第一生命保険株式会社人事部ダイバーシティ推進室長
  • 前田 安正 朝日新聞東京本社編成局校閲センター長兼用語幹事
  • 竹中 ナミ 社会福祉法人プロップ・ステーション理事長

第5回 11月8日(月)(10:00~12:00)

○ヒアリング④

  • 杉野 昭博 関西学院大学人間福祉学部教授

○論点整理

第6回11月15日(月)(17:30~18:30)

○推進会議への報告の取りまとめ

(敬称略)

「障害」の表記に関する作業チーム 構成員名簿

(敬称略)

座長 山崎 公士 神奈川大学教授

座長代理 川﨑 洋子 特定非営利活動法人全国精神保健福祉会連合会理事長

委員 佐藤 久夫 日本社会事業大学教授

委員 中島 圭子 日本労働組合総連合会総合政策局長

委員 中西 由紀子 アジア・ディスアビリティ・インスティテート代表