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日時:2013年02月03日(10:30~16:00)
場所:戸山サンライズ 大研修室
 

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障がい者制度改革推進会議 第32回(H23.5.23) 資料2-2-12

災害救援活動の概要

資料提供団体名:一般社団法人 日本発達障害ネットワーク

日本発達障害ネットワーク(JDDネット)は、震災後の4月6日~13日(被災地支援チーム第一陣)と5月7日~13日(同第二陣)に発達障害の専門家チームを被災地である宮城県、福島県、岩手県に派遣し、個別訪問などを実施し、安否状況の確認や本人、家族、関係者等からの聞き取り等によるニーズ把握、避難所や学校などにおける発達障害の子どもたちや大人たちの状況の確認、相談支援員等の支援者との情報交換などを通して必要とされる支援ニーズの把握に努め、被災された発達障害のあるご本人とそのご家族、支援者をサポートすべく活動を行いました。

また、第一陣が被災地入りをした4月13日以降からは、石巻市の「かもめ学園」を支援拠点とし、ボランティアスタッフを派遣、常駐を開始しています。

支援物資については、被災地からのオーダーを受けて避難所や放課後支援グループ等へお送りしています。

現在、報告書を作成中のため、取り急ぎ中間報告として派遣チーム第二陣(5月7日~13日)の報告をお送りいたします。ご査収のほどよろしくお願いいたします。

派遣チーム第一陣

派遣日程: 平成23年4月6日(水)―13日(水)
平成23年4月6日―10日  宮城県内
平成23年4月10日―13日 福島県内
派遣メンバー:
代表 辻井正次  中京大学教授
木谷秀勝  山口大学教育学部教授
堀江まゆみ 白梅学園大学教授
萩原 拓  北海道教育大学旭川校准教授
小倉正義  鳴門教育大学講師
中島俊思  浜松医科大学特任助教授
望月直人  浜松医科大学特任助教授

派遣チーム第二陣

派遣日程: 平成23年5月7日(土)―13日(金)
派遣予定: 平成23年5月7日―10日 岩手県内
平成23年5月10日―13日 宮城県内
派遣メンバー:
代表 安達 潤  北海道教育大学 教授
代表 井上雅彦  鳥取大学 教授
前川あさ美 東京女子大学 教授
大久保賢一 北海道教育大学 準教授
岡村章司  兵庫教育大学 講師
高柳信哉  浜松医科大学 特任助教授
明翫光宜  東海学院大学講師
鈴木さとみ 発達障害情報センター

「発達障害支援」から見た被災地の現状と今後の課題および提案

(岩手県・宮城県:平成23年5月7日~13日)

一般社団法人 日本発達障害ネットワーク

被災地派遣専門家チーム第2陣
{安達 潤・井上雅彦・前川あさ美・明翫光宜・大久保賢一・岡村章司・高柳伸哉・鈴木さとみ}

1.第2陣の行程(安達チーム・井上チームの2チーム編成による活動行程を合わせて提示)

第1日(5月7日) / 正午頃盛岡入り

:岩手県庁 ご挨拶・情報収集・意見交換
岩手県保健福祉部障がい保健福祉課、岩手県教育委員会事務局学校教育室、総合教育センター、発達障がい者支援センターウィズ、地域生活支援センター、被災地域相談支援専門員、厚生労働省

第2日(5月8日)

:JDDネット岩手 情報収集・意見交換
:家族訪問(被災地である沿岸部の3市)
:被災地域相談支援専門員 情報収集・意見交換
:岩手県LD親の会 情報収集・意見交換

第3日(5月9日)

:被災地A市の地方振興局障がい保健福祉課 情報収集・意見交換
:被災地所在の児童相談所 情報収集・意見交換
:被災地所在の知的障害児通所施設 情報収集・意見交換
:被災地所在の岩手県立B支援学校 情報収集・意見交換
:被災地所在のC市教育委員会の子ども発達支援機関 情報収集・意見交換
:被災地所在の岩手県立D支援学校 情報収集・意見交換
:被災地区のE児童家庭支援センター 情報収集・意見交換
:内陸部の発達障害支援に関わるNPO法人 情報収集・意見交換

第4日(5月10日)

:被災地所在の児童デイサービス 情報収集・意見交換
:岩手県庁 活動修了のご挨拶・中間報告(報告書・研修PPT提供)・意見交換
:岩手大学教育学部 情報収集・意見交換
:東日本大震災岩手県社会福祉協議会障がい協・知福合同支援プロジェクト報告会参加
:支援者・親の会と情報交換
NPO法人全国地域衣生活支援ネットワーク、仙台市所在の発達障害支援NPO法人A、宮城学院女子大学、発達障害者支援センターえくぼ、宮城県手をつなぐ育成会、宮城県自閉症協会、北九州市手をつなぐ育成会、仙台市所在の発達障害支援NPO法人B

第5日(5月11日)

:宮城県東部児童相談所 情報収集・意見交換
:宮城県石巻合同庁舎東部教育事務所 情報収集・意見交換
:沿岸部被災地所在のF支援学校 情報収集・意見交換
:沿岸部被災地所在の児童デイサービス 情報収集・意見交換

第6日(5月12日)

:沿岸部被災地所在の児童デイサービスにて療育アセスメント支援
:宮城県発達障害者支援センター(えくぼ) 情報収集・意見交換
:宮城県特別支援教育センター 情報収集・意見交換
:仙台市発達相談支援センター(アーチル) 情報収集・意見交換
東北大学 教育学部 訪問・情報収集・意見交換

第7日(5月13日) / 午後、帰路につく。

:宮城県教育委員会特別支援教育室 活動報告・情報収集・意見交換
:宮城県障害保健福祉課 活動報告・情報収集・意見交換
仙台市教育局学校教育部特別支援課 活動報告・情報収集・意見交換
:岩手県教育委員会 特別支援学校コーディネーター会議 作成PPTによる小研修会・意見交換

2.把握された現状(震災直後からの経過を部分的に含む)と今後の課題および提案

(把握された現状から見通される「今後の課題および提案」は太字で記載しています)

a)知的障害を伴う発達障害児

  • 避難所で継続的に生活できた事例は皆無であり、自宅に戻る、車中泊、親戚宅を頼るなど。

◆障害を持つ人たちの避難所を確保する上での工夫が必要である。(発達障害児の家族の項(c)を参照のこと)

  • 一方、災害直後は親が予想するよりも落ち着いている子どもたちが多かった。
    例えば、列に並べない子が列に並んでいた、こだわりが軽減した、など。
  • ただしライフラインが復旧するにつれ、震災前の状態に戻ってくるということも聞かれた。
    また震災前には見られなかった反応を示す子どももいた。
    例えば、被災した場所には二度と行けない、震災がもたらした生活の大きな変化の原因を自分自身に誤って結びつけてしまい「ごめんなさい、もうしません」を繰り返し言う、震災前にはみられなかった自傷をするようになった、などのケースがあった。

◆障害を持つ子どもたちの災害後反応を理解して受けとめ、対応していくための工夫を保護者に伝えていく機会を持つことが必要。そのために、支援者に対する研修などが求められる。

  • 学校が再会するまでの間、することがなく行動面での問題が出現した。大量のインスタント食品やお菓子などの支援物資が配給される一方で体を動かす機会が減ったため、保護者が子どもの「被災太り」を心配する様子がみられた。

◆避難先での生活は、震災前の生活と比較して乱れやすく、睡眠・覚醒の生活リズムや食生活の崩れがその後の子どもの適応回復の妨げとなることも考えられる。そのため、避難所や在宅など避難生活を送っている発達障害児を持つ家族への生活支援が課題となる。

  • 学校が再開したことで、日常活動の一端が戻ってきたため、全体として落ち着いてきている。
  • 塞がっていた道路が通れるようになった、酷い状況で閉まっていた店が営業を再開したなど、復興に向けての街の変化が子どもたちの元気の源になっている。
  • 家に帰りたいという子どもに、津波で流された自宅を見せるかどうかについて思案している保護者がいた。子どもの状態にもよるだろうが、見せたあるケースでは、特にパニックにならず納得をしたという。一方で、がれきとなった家をみてやや不安定になり飛び出してしまったケースもあった。

b)知的障害を伴わない発達障害児

  • このタイプの児の被災後からの様子・現在の様子はほとんど把握されていない。
  • 地域的な特徴として診断を受けている子どもは少ない。特に岩手県沿岸部で顕著である理由として発達障害を理解している医師の不足、診断をうけることをためらう保護者、発達障害への理解が低い教育ならびに地域がある。(この背景については後述も参照のこと)
  • 近隣の特別支援学校の地域コーディネーターや地域の保健師、通常学校教員が「気になる子」として把握している状況となっており個別の支援計画等は策定されていないケースがほとんどである。
  • 震災前にはなかった問題行動が出現したケース、震災後に発達障害を疑わせる行動特徴が顕在化したケース、家族が亡くなったことによって身近に理解できる人がいなくなり不適応状態に陥ったケース、などがあった。

◆被災地は県内の郡部であり、ラベリングがスティグマに直結しやすい。そのような地域であればあるほど、デイサービスなどの場による早期からの親子の受け止めを、「障がい児支援」ではなく親支援プログラムを組み合わせた「子育て支援」から積み上げていく工夫が必要である。

◆学校においては、全国のスクールカウンセラーを動員する形で「心のサポート」活動が展開され始めているが、この「心のサポート」活動の中で、知的障害のない発達障害の子どもたちの災害後適応不全を把握できる可能性がある。そのため「心のサポート」活動を展開する上で、県の教育委員会と市町村の教育委員会が連携を図り、震災前から「気になる子」として把握されている児童生徒を含め、顕著な災害後不適応反応を示す児童生徒に対しては、必要に応じて、特別支援学校の地域コーディネーターとの連携の中で、適応回復のためのサポートを実施することが求められる。
実際、このプランは、宮城県教委・岩手県教委で第2陣から提案させていただき、県の教育委員会担当者の理解を得ることができた。

c)発達障害児の家族(保護者)

  • 震災直後、保護者は「子どもから離れたくない」という気持ちとなり、一方で避難所も使えないために、在宅など孤立状態に入っていく状況がある。
  • その一方、被災後に子どもと離ればなれになり、数日後に特別支援学校の預かりで子どもが無事であることがわかっても、子どもと一緒の生活に戻ることを躊躇し、もうしばらく預かってほしいと伝えるケースも見られ、保護者の追い詰められた状況が窺われた。

◆震災後に、障害を持つ児者とその家族が安心して過ごすことのできる生活の場(避難所)を保証するための工夫が必要。二次避難所の設置のあり方の検討などが求められる。

  • 避難所の大集団生活の中では、子どもが感情的あるいは行動的に調子を崩していても、「発達障害」という視点で支援ニーズを問われても、SOSを出すことが難しい状況がある。

◆このことから避難所での支援の呼びかけに関しては障がいという言葉を使わず、「子どもさんの様子や行動でご心配やお困りがある方」など工夫した呼びかけが必要である。

  • 避難所の利用は難しいため親戚宅に身を寄せるなどしたが、以下のような問題が語られた。
    :親戚一同が集まって生活をするために起こってくる大人同士の諍いが子どもの状態に悪い影響を及ぼす。
    :親戚の子どもも長時間一緒にいるため、これまで祖父母などに対して伏せていた子どもの障がいが明らかになるケースがあった。
    :以上のような状況もあるため、親戚宅にも居場所を得られないケースがあった。

◆福祉避難所の事前指定、さらには特別なニーズ別に避難所を設置するなどの柔軟な措置を緊急時に実現できるような工夫が必要。

  • 在宅の保護者に支援ニーズを尋ねたが「私たちよりも大変な人がたくさんいる」という言葉で支援ニーズがなかなか出てこない状況が見られた。そのため家族が必要とする支援物資でも、底がつくまでSOSが出てこないので、調達する時間の間は欠乏期となってしまう。
  • 被災地である岩手沿岸部と宮城沿岸部では、知的障害のない発達障害は地域の中で表に出しづらい状況もあり、親のネットワークもできていなかったため、孤立傾向が高まっていると思われた。逆に仙台市は親のネットワークができていたため、被災後も親同士が支え合うという事例が認められた。

◆震災時の親の孤立、すべてを自分で抱え込まざるを得ない状況、SOSの発信控えを回避するためにも、地域の親のネットワークを日頃から整備しておく必要がある。

  • 発達障害による困難さが理解されないために、代替住宅の抽選に当たっても、それが公営住宅の上層階であったために見送らざるを得ないケースも認められた。

◆発達障害であるが故の困難さがあることを周囲に理解してもらうための何らかの手立てを工夫することが必要。例えば、手帳が流されてしまっている家族も多いので、そのような場合に、JDDネットのエリア会員である親の会の会員に対して、震災後の一定期間のみ有効な「要配慮カード」を配布することも考えられる。この方策は、知的障害のない発達障害の子どもをもつ親の会会員にも有用ではないかと思われる。

  • 父親が仕事の再開に力点を置く必要がある場合など、学校が始まるまでは、母親の負担が非常に重くなるケースが認められた。
  • 特別支援学校に自家用車で通学していた場合、車が流されてしまったために、学校が再開しても通学に困難が生じ、地域のバス運行が再開しても常時満員のために利用できないという状況が認められた。

◆保護者が子どもを学校に通学させるための手段を確保することを保証する支援が必要。子どもが学校に通えず、在宅で生活をし続ける状態が続くと、子どもの不適応も増悪し、保護者の精神的・身体的負担も限界に達していくことになる。

  • 発達障害の子どもを育てているがゆえの経済的負担があり、それらは大きく「余暇」、「車(移動手段)」、「住宅」、「発達障害に特化した支援ツール」の4点である。「余暇」については、損失した余暇ツールの買い換えであり、これらの余暇ツールがないことでの不適応行動が増えている状況がある。「車(移動手段)」については、今回の被災地である沿岸部では車が主要な交通手段であった状況の中で、車を流されたために通学支援、日常の物品購入、児童精神科の通院(内陸部には車がないと行けない)の途がとざされてしまっている。「住宅」については、仮設から借家に移る際の選択条件として防音性やスペースの広さ、安全性などを考慮せざるを得ず、結果的に家賃が高額化してしまうということがある。「発達障害に特化した支援ツール」としては、感覚過敏対策としてのイヤーマフなども買い直すことが必要となるといったことがある。以上のように、発達障害の子どもをもつ家族は、大多数の一般の家族に比べて災害後の経済負担がかなり大きくなってしまう状況がある。

◆障害児の家族に対する緊急時の一時的な経済的援助を工夫する必要がある。具体的には、特別児童扶養手当の増額を期間限定で実施する、といったことが考えられないか。

  • 保護者が必要とする支援物資のニーズは3日単位で変化しており、現状では、一般的な支援物資ではなく、それぞれの家族・本人のニーズに応じて個別化されている。

◆震災後、一定程度時間が経過した時点からは、個別ニーズに対応した形で支援物資を送り届けるためのシステム整備が必要。例えば、被災地に近いNPOや親の会を支援ニーズ把握と物資供給の拠点とし、そのための経済的バックアップを行うなど。

d)学校教育

  • 学校が再開する意味は、発達障害児を持つ家族にとっては非常に大きく、震災前の日常ルーチンの大きな部分が復活することで、生活自体が一歩、安定に向かう。
  • その一方、学校が避難所になっていることで学校の再開が難しいケースもあり、避難所となっている学校での授業再開を、別の避難所となっていない学校を間借りして行わざるを得ないといったケースも認められた。

◆学校がいち早く再開できるための工夫が必要。現在の街づくり行政において、広域の避難所として学校が指定されているが、発達障害などの育ちの脆弱性を持つ子どもにとって学校の再開が遅れることと合わせて教育環境が大きく変わることは、災害後の適応回復を阻害しかねない。学校を、できる限り教育再開のために確保できる街づくりが求められる。

  • 特別支援学校は避難所に指定されてないが、障がいのある人や子どもたちは、当初から特別支援学校に身を寄せるというケースが見られた。

◆以上の現状からも、先に述べたように福祉避難所などのあり方の検討が求められる。

  • そのため特別支援学校が自然発生的な避難所となり、学校教員がその運営に当たらざるを得ず、子どもへの対応とも合わせて、負担が大きいという状況も見られた。

◆こういった教員の負担を軽減するための緊急時の行政的工夫が求められる。具体的には、自然発生的に避難所となった特別支援学校の把握を県教委が行い、保健福祉部との連携体制の中で、教員の負担軽減を考えていくこと。

  • 学校再開が遅れている時期に、小学校の教員が学校での学習会をボランティアで開き、子どもたちが学校の時間を部分的に取り戻すことができたという事例があった。この時には、震災前は学校に行き渋っていた発達障害の子どもも喜んで学校に行ったとのこと。

◆このような、震災後の子どもたちの日常をいち早く、部分的にでも取り戻そうとする教員の取り組みを柔軟に実施できるようなバックアップの仕組みを検討しておくことも求められる。

  • 特別支援学校のコーディネーターは地域の小中学校の「気になる子」を把握しており、震災後の状況を心配しているが、小中学校も混乱期で訪問・コンサルテーションの要請が来ないためにそういった子どもたちの様子を見に行くことができないという状況がある。

◆震災時には平時のコンサルテーション要請システムを越える柔軟な対応が必要である。例えば、県教委と市町村教委が連携して、特別支援学校と地域の小中学校の管理職の相互連絡を促し、特別支援学校の地域コーディネーターが地域の小中学校に、子どもたちの災害後の状況を把握しに行けるといった「緊急時対応のシステム」を日頃から共通確認しておくことなども考えられる。

  • 「震災後の心のケア」で全国地域から心理士がスクールカウンセラーとして小中学校に派遣されているが、1週間毎に人が変わるために、学校現場では戸惑いや否定的な意見があるとのことであった。

◆心のケアチームの派遣の形態、心のケア活動内容の範囲など、地域の学校教育現場を混乱させないための十分な事前の検討が必要。

  • 特別支援学校への心理士派遣があるかどうかは確認できなかったが、子どもたちの震災後の様子から考えると、心理臨床と発達障害臨床の両方を担える心理士のニーズは高い。

e)福祉サービス

  • 震災前から日常的に相談支援に関わっている相談支援専門員が、震災後からいち早く地域の支援ニーズを把握して、関係者を繋いでいる状況があった。
  • しかし地域密着で仕事をしている相談支援専門員自体も被災者であり、一地域でのその人員数も少ないため、その精神的・肉体的ストレスは莫大なものとなっている状況が認められた。現状においては相談支援専門員の数が圧倒的に乏しい状況がある。

◆一地域の相談支援専門員の数を震災前の日常から一定程度準備しておく工夫が必要。一定程度の人員数が確保されれば複数の相談支援専門員が相互にカバーし合いながら、震災直後から障害を持つ人たちの支えとなり得ると考えられる。

  • 岩手県沿岸部には移動支援と行動援護を提供する事業所がない。このような資源の乏しい状況であっても、平時においては一見、問題がないように推移しているように思わる地域もある。しかし災害が発生することによって、例えば、子どもを抱えたままでは買い物にも行けないというような形で日常生活が成立しないという脆弱性を露呈させる状況が認められた。

◆本来、サービスを必要とする人たちが自前でなんとかするのではなく、日常的にサービスを利用することがあたりまえであるという地域状況を、震災前から日常的に積み上げておく必要がある。

  • 児童デイサービスが被災した場合、事業が再開しても、施設建物の修復などに予算と収入が充てられることとなり、行事や活動が制限されてしまっている状況がある。

◆震災後早い時期に事業を再開できる事業所については、震災前の事業内容を確保するために、施設修復などの費用を迅速かつ特別に補填する工夫も必要。

  • 就学前に児童デイサービスに通っている子どもが通常の小学校に就学した場合、子どもに対する支援情報がそこで切れてしまう状況が見られるが、このことによって小学校に在籍する知的障害のない発達障害の子どもたちの把握が難しくなっており、そのことが震災後の子どもたちのケアの障壁の一つとなる状況がある。
  • 作業所が津波によって流され、仕事を失う事例、仕事に就けなくなる事例、就職に不安を抱える事例、就労に関するトレーニングを受ける機会を失う事例があった。
  • 作業所で使用していた作業道具が流されてしまって、作業所が再開できない事例があった。
  • また、企業活動の停滞による障害者雇用へのマイナスの影響が懸念される。求人数の減少や就労先・実習先の選択の幅の減少などが予想され、実際に就職できなかった上級生をみて、自分も就職先がないのではないかと不安になっている方もいた。

◆被災地域の復興活動の中には、当該地域の被災者を雇用できる作業が数多くある。このような作業について、障がい特性を考慮しつつ、雇用対象としていく工夫が必要。その場合に、一般ボランティアの中で障害児者と関わったことのある人たちが一緒にその作業に関わることで準ジョブコーチ的な役割を果たすことを期待できるかもしれない。

  • 岩手、宮城両県において、学校が再開するまでの間、在宅あるいは避難所で子どもと向き合う親御さんのストレスは限界に近づいていくことが把握された。そのため学校再開前の時点での、福祉サービスに対する子どもケアの要請が高くなってくる場合がある。

◆震災後、学校が再開するまでの間に、児童デイサービスなどがいち早く稼働し得る支援体制が必要となる。

◆先述したように、学校再開が家族の負担を大きく軽減するという事実は、今後、夏休みが始まったときに家族の負担が再び大きくなることをはっきりと示している。そのため、今後の支援ニーズとなってくることではあるが、夏休みが始まった後に、児童デイサービスⅡ型を充実していく必要がある。ただしその実施形態には柔軟さが必要であり、被災地のマンパワーの乏しさを勘案すると、外部の福祉関係者や専門家・学生ボランティアなどを入れる形で、本人のなじんだ場所である学校のスペースを活用する形での展開を工夫する必要もある。また、こういった児童デイサービスⅡ型のサービス充実を合わせて、親御さんが相互に語り合える「親支援の場」なども提供していく必要がある。

f)行政(保健福祉)

  • 震災後のケアの中では、全ての被災者に震災後トラウマなどの精神保健福祉ニーズが想定されるため、精神保健福祉の支援活動は手厚く幅広い。一方、障がい保健福祉は震災後も少数派との認識が維持されるため、なかなか十分な形となっていかない状況が認められた。
  • 例えば、精神保健福祉の支援活動では全戸訪問を実施して、精神的・身体的に不調を示す人たちを把握し、全国から集まった精神医療関係者が対応するというシステムが認められたが、障がい保健福祉については、そのような状況にはなかった。
  • また精神保健福祉と障がい保健福祉との間の情報連携が不十分であり、全戸訪問を通じて把握できるであろう障害を持つ人の被災後状況の情報が障がい保健福祉サイドには伝わってこないという状況も認められた。
  • 障害を持つ児者およびその家族は、非常に早い時期で避難所から別の所に移ってしまうケースが多いため、その後の把握が困難となっている。

◆精神保健福祉サイドが災害後の支援活動、例えば全戸訪問などを展開する際に、在宅の障がい児者の状況についても把握し、障がい保健福祉サイドとその情報を共有して、障害を持つ人に対する支援活動をいち早く展開できる状況を整えるための工夫が必要である。

◆本震災以前から内閣府を中心として「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」(平成18年)や「自然災害発生時における医療支援活動マニュアル‐新潟県中越地震を踏まえた保健医療における対応・体制に関する調査研究‐」(平成16年)阪神・淡路大震災に関する厚生科学研究の報告書である「災害時地域精神保健医療活動ガイドライン」(平成13年)、などが発行されている。今回の震災後これらのガイドラインの見直し、報告書との比較作業を行い、新たな対応策を準備する必要がある。

g)行政(学校教育)

  • 災害に関わって教育行政が取り組む活動として「児童生徒の心のケア」が重視されるが、今回の場合には、最低3週間という現場からの当初の希望に反して、1週間で心理士が交代していく体制となったために、学校現場が戸惑っているという情報が得られた。
  • 特別支援学校に対する「心のケア」が実施されるかどうかについては情報が得られなかった。

◆学校として、児童生徒の災害後の心理的ケアに教員の視点で取り組んでいくための教員研修などが求められる。その際、今後予想される子どもの心の状態や行動の変化に教師が対応できるように時間経過の中で研修を適宜実施していくことが望ましい。

◆震災体験を語り合い共有し合うエンカウンター(≒ディブリーフィング)など、災害後の心理的働きかけとして不適切な対応を実施しない、1週間交代の心理士は直接子どもと関わるのではなく教師の後方支援に徹するなど、事前に十分なオリエンテーションが必要であり、地域の臨床心理士などのスーパーバイズのシステムを合わせて準備する必要がある。

h)その他

  • 被災の影響が少なかったNPOは、被災地において直後から、ある意味、行政よりも早い段階で機能的な働き(安否確認、孤立の防止、支援物資ニーズの把握と支援物資の送り届けなど)をしていた。
  • そのため、最前線で動いているNPOや親の会の人たちは、障害を持つ児者の被災後状況や支援ニーズを、顔の見える関係の中で把握できる立場にある。

◆行政が被災地支援を展開していく際には、それ以前に既に支援活動に当たっているNPOや親の会の支援活動の積み上げと調和的に被災地支援計画を立て、NPOや親の会が展開している独自の活動を全体の枠組みの中でエンパワメントしていくことが求められる。

  • 今回の被災地である県内沿岸部には、発達障害を診ることのできるドクターがいない。この点は特に、岩手県に顕著であり、沿岸部から内陸の盛岡あるいは一関までは車で2時間半前後かかるほど距離が離れている。
  • そのため地域の支援者が保護者に対して医療アクセスを進言しづらい状況もある。

◆発達障害を見ることのできるドクターがいない地域が被災地となった場合、当該地において子どもの心の診療医や発達障害支援医学研修の研修事業などを迅速かつ積極的に実施することが求められる。

  • 当該県の大学は、支援情報に関する掲示板を設置したり、学生ボランティア派遣のための窓口を設置しているが、被災地へのより直接的な支援に関しては、教員の個々の裁量に任されている。

◆大学教員のマンパワーを活用していくための仕組みを工夫することも有用である。

文責:JDD被災地派遣専門家チーム 第2陣
安達 潤・井上雅彦・前川あさ美・明翫光宜・大久保賢一・岡村章司・高柳伸哉・鈴木さとみ}

☆なお、JDDネット被災地派遣専門家チームは上記の課題と今後の提案に至る議論の中で、すぐに現場で使える研修教材を作成し、幾つかの現場の支援者の方々に提供をしてきた。それは以下の、2つである。
(1)発達障害・自閉症スペクトラムのある子どもの災害後反応への支援
(2)専門用語を使わない「個別性を尊重する心のサポート(PTSDやトラウマ対応)」の理解

(上記の内容について、研修教材を用意しております。詳しい内容については、団体にお問い合わせ下さい。)