音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ


WWW を検索 サイト内を検索 Google

メールマガジン登録

公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会

障害者情報ネットワーク

日本障害者リハビリテーション協会の活動にご支援をお願いします。(ご寄付)

JDF東日本大震災被災障害者総合支援本部

被災者生活支援ニュース(厚生労働省)

マルチメディアDAISY(デイジー)で東日本大震災に関わる情報を

障がい者制度改革推進会議

DINFのお知らせ

シンポジウム 「もっと知ろう、デイジー教科書を!」
日時:2013年02月03日(10:30~16:00)
場所:戸山サンライズ 大研修室
 

Enjoy Daisy 読めるって楽しい!

公益財団法人日本リハビリテーション協会は国際シンボルマークの取扱いを行なっています。

障害者福祉の総合月刊情報誌『ノーマライゼーション』発売中

マルチメディアDAISYのCD-ROM付き絵本『赤いハイヒール』発売中

障がい者制度改革推進会議 第33回(H23.6.27) 資料1

合同作業チーム報告

1.労働及び雇用
 概要版

2.医療 第1期
    第2期
 概要版 第1期
     第2期

3.障害児支援
 概要版


総合福祉部会 第15回(H23.6.23) 資料6-2

「就労(労働及び雇用)」合同作業チーム報告書

Ⅰ はじめに(作業チームの検討の背景と検討の範囲)

(問題認識)

1976年に障害者雇用促進法が抜本的に改正されて以降、わが国の障害者雇用は、雇用率制度を中心にすすめられてきた。近年、常用労働者数1,000人以上規模の企業では、実雇用率が法定雇用率を上回るなど、とくに大規模企業を中心に雇用率制度の対象となる常用労働者数56人以上規模の企業における障害者雇用は年々伸びているが、2008年に厚生労働省により行われた、常用労働者数5人以上規模の事業所を対象とした障害者雇用実態調査結果によれば、対象事業所における障害者雇用数は約44万8千人で、これは2003年の同調査結果とくらべ、5万人近く減少している。つまり、雇用率制度の対象とはならない常用労働者数55人以下の小企業では障害者の雇用数が大きく減少しており、その結果、企業全体としてみると障害者雇用数は、近年かなり減少している。また、平均賃金も5年前とくらべ減少するなど、雇用の質も低下傾向が見られる。平均賃金(月額)は、一般の約33万6千円とくらべ、障害者のなかでも一番平均賃金が高い身体障害者で約25万4千円と、一般に比べ4分の3レベルにとどまっている。

一方、2006年の障害者自立支援法施行後、福祉から一般就労への移行が強調され、2003年度の年間移行者数0.2万人から2011年度には0.9万人が目標とされながら、2008年度の実績は約3,400人程度で、毎年、特別支援学校高等部卒業生のうち福祉施設に入ってくる約1万人をはるかに下回っていることなどから、福祉的就労利用者は減少するどころか、むしろ増加傾向がみられ、現在では20万人を上回っている。

2008年に厚生労働省により行われた労働年齢(15歳~64歳)の身体障害者、知的障害者及び精神障害者就業実態調査結果によれば、障害者の就業率(福祉的就労者を含む。)は40.3%で、一般の就業率69.8%とくらべきわめて低い。福祉的就労者を除く就業率は、31.9%で、一般の半分以下である。また、就労継続支援A型事業や福祉工場で就労するものを除く福祉的就労利用者の平均工賃を2007年度の12,222円から2011年度には倍増にすべく工賃倍増5か年計画が実施されているにもかかわらず、2009年度の平均工賃は12,695円で微増にとどまっている。

これらのデータからも明らかなように、障害者雇用促進法等を中心にすすめられてきた障害者の一般就労・自営、そして障害者自立支援法を中心にすすめられてきた福祉的就労の両者とも期待されたような進展がみられない。そうした状況を打破するには、障害者雇用・就労制度全般の課題、限界を検証し、不十分な制度については、障害者が他の者と平等に働く機会を獲得し、また地域生活を可能にする所得を得ることができるようにする観点から、大幅な見直しが求められる。

(検討の範囲)

本作業チームでは、障害者権利条約第27条[労働及び雇用]、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向」(第一次意見および閣議決定)、「障害者制度改革の推進のための第二次意見」、障がい者制度改革推進会議および総合福祉部会などでの議論を踏まえ、障害者の労働および雇用のあり方について追加開催も含め、6回にわたり検討を行った。その主な内容は以下の通りである。

① 障害者基本法に盛り込むべき就労に関する基本的事項
② 総合福祉法の守備範囲(労働分野との機能分担など)
③ 福祉と労働及び雇用にまたがる制度と労働者性の確保のあり方
④ 就労系日中活動(就労移行支援事業、就労継続支援A型・B型事業、生産活動に取り組む生活介護事業)、地域生活支援事業(地域活動支援センター)や小規模作業所のあり方
⑤ 障害者雇用率制度および差別禁止と合理的配慮などを含む、障害者の一般就労・自営のあり方
⑥ 多様な就業の場としての社会的雇用、社会的事業所および社会支援雇用のあり方など

Ⅱ 就労合同作業チームの結論とその説明

1.障害者基本法改正について

障害者の労働および雇用について障害者基本法に盛り込むべき内容として、以下の事項を確認した。(全文は本報告の末尾に資料として掲載)

(1) 労働の権利の保障と苦情に対する救済制度の整備
(2) 労働施策と福祉施策が一体的に展開できる障害者就労制度の整備(生計を維持するための賃金補填などによる所得保障を含む。)と労働者保護法の適用の確保
(3) 多様な就業の場の創出および必要な仕事の確保
(4) 合理的配慮および必要な支援の提供の確保
(5) 障害者が特別の職業サービス(職業相談、職業指導、職業訓練および職業紹介サービスなど)だけでなく、一般の職業サービスも利用できるようにすること
(6) あらゆる種類の障害者への雇用義務の拡大と働き甲斐のある、人としての尊厳にふさわしい職場の確保

(2011年4月22日に閣議決定された障害者基本法改正案では、第18条(職業相談等)1項及び2項に「障害者の多様な就業の機会を確保」が追加された以外は、「第二次意見」で就労合同作業チームが提案した事項はほとんど反映されていないため、今後の取組みが重要となっている。)

2.総合福祉法(仮称)の中に就労事業などをどう位置づけるか。

結論 現在のところ障害者福祉法に基づく授産施設及び福祉工場、障害者自立支援法に基づく就労系日中活動(就労移行支援事業、就労継続支援A型・B型事業、生産活動に取り組む生活介護)、地域生活支援事業(地域活動支援センター)及び小規模作業所等に分かれている体系を、就労を中心とした「就労系事業」と作業活動や社会参加活動を中心とした「作業・活動系事業」に再編成する。前者については①障害者雇用促進法に位置づける、②総合福祉法に位置づける、という2つの考え方がある。「就労系事業」に従事する障害者の労働者性を確保するという目標からは①が望ましいが、その条件整備にはかなりの時間がかかるため、当面は②とする。(期限を定め見直すことを総合福祉法の付則に明記する。)将来的には障害者雇用促進法あるいはそれに代わる新法(労働法)で規定することを検討する。「作業・活動系事業」は、総合福祉法(仮称)に位置づける。

説明

労働施策と福祉施策を一体的に展開することにより、「就労系事業」で就労する障害者に各種助成措置、手当や年金など所得保障制度などを組み合わせること、および官公需や民需の優先発注などによる仕事の安定確保などにより、最低賃金以上の賃金を確保し、労働法を適用する。

「就労系事業」においても一般就労・自営を希望する障害者については、ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどと密接に協力・連携し、一般就労・自営への移行を積極的に支援する。また現行の就労移行支援事業は、障害者就業・生活支援センター等労働施策に統合するとの意見が多数を占めたが、これとの有機的連携を図るとの意見もあった。

「作業・活動系事業」は作業活動に取組み働く喜びを得る「作業支援事業」と、文化・創作活動や機能・生活訓練等の社会参加活動を中心とした「活動支援事業」から成る。この事業には、労働法は適用されず、適正な工賃及び年金や手当などにより生計維持可能な所得を確保する。

なお、「一般就労・自営」、「就労系事業」、「作業・活動系事業」の三者間は、対象とする障害者のニーズに応じて、それぞれ相互移行ができる仕組みとする。

補足説明

現行の就労に関わる事業体系

●福祉工場(根拠法は障害者福祉法)

●授産施設(根拠法は障害者福祉法)、就労移行支援事業、就労継続支援A型・B型事業、地域活動支援センター(以上、根拠法は障害者自立支援法)、小規模作業所

●(生産活動を行う)生活介護事業(根拠法は障害者自立支援法)

新制度の下での就労に関わる事業体系の提案

新たな事業体系として以下の二類型を提案する。一般就労・自営及び以下の二類型については、障害者本人のニーズに応じて三者間を相互移行ができる仕組みとする。

●「就労系事業」

*障害に起因する制約への支援を受けつつ働く場。

*根拠法は、当面は総合福祉法。将来的には障害者雇用促進法あるいはそれに代わる新法(労働法)とすることを検討する。

*現行の事業体系との関係~現行の福祉工場、就労継続支援A型事業で働く障害者と、授産施設、就労継続支援B型事業、生活介護事業、地域活動支援センター、小規模作業所で働く障害者の一部が「就労系事業」で働くことになると想定。

*労働施策と福祉施策を一体的に展開する新たな事業として、以下の3つが提案された。

①社会的雇用(箕面市が実施している。一般就労・自営が困難な障害者が労働者として働くことを通じて経済的自立ができるよう、働くことへの支援や賃金補填等を行う仕組み。)
②社会的事業所(滋賀県や札幌市が実施している。障害者をはじめとする雇用の困難な人々が雇用契約に基づいて労働に参加する仕組み。賃金補填は前提としない。)
③社会支援雇用(欧州等で行われており保護雇用とも呼ばれる。一般就労・自営が困難な障害者が労働法規の下で賃金補填等の必要な支援を受けつつ働き、地域生活を送れるようにする仕組み。)

*就労移行支援事業は、障害者就業・生活支援センター事業等の労働施策に統合するとの意見が多数を占めたが、これとの有機的連携を図るとの意見もあった。

●「作業・活動系事業」

*作業活動を中心とした「作業支援事業」と、文化・創作活動、機能・生活訓練等の社会参加活動を中心とした「活動支援事業」から成る。

*根拠法は総合福祉法。

*就労継続支援B型事業、生活介護事業、地域活動支援センター、小規模作業所で働く障害者で、「就労系事業」で働くことを希望しない人が「作業・活動系事業」で活動すると想定。

3.「就労系事業」に労働法規を適用するか。

結論 「就労系事業」には、原則として労働法を適用する。

説明

「就労系事業」に一律に現行の労働法規を適用し事業者の責任だけを問うことになると、障害者の働く場を狭める恐れがあるため、必要な条件が整うまでは、一部適用により安全かつ健康的な作業条件を保障するという選択肢も検討する。将来的には、労働条件に関する差別禁止や合理的配慮の提供義務を織り込んだ労働基準法等、障害者の特性に配慮した労働法を全面適用することについて検討する。

4.「就労系事業」で就業する障害者の賃金を妥当な水準に引き上げるための適切な仕事をどのようにして安定確保するか。

結論 「就労系事業」や障害者多数雇用事業所等での仕事を安定確保するため、官公需優先発注の制度化、官公需における随意契約の促進、総合評価入札制度、並びに雇用率制度とリンクしたみなし雇用制度の導入、発注促進税制の拡充や発注額に応じた減税制度の創設等による民需の発注の促進等を図ると共に、共同受注窓口等を全国的に整備する。また、生産性や付加価値を引き上げるための仕組みを整備する。加えて、「就労系事業」に所属する障害者が企業等の中で働くことを促進するため、これを雇用率に換算する制度を検討する。なお、「作業・活動系事業」における「作業支援事業」についても、適正な工賃を支払うため「就労系事業」と同様の施策を講じる。

説明

多様な「就労系事業」や重度障害者多数雇用事業所、そして「作業支援事業」等に安定的な仕事を確保するうえで官公需および民需は重要である。民需確保の一環としてのみなし雇用の具体化に向けては、在宅就業障害者支援制度をモデルとして特例調整金などの給付を雇用率の算定に変える仕組みが考えられるが、それが有効に機能する前提としては、法定雇用率の引き上げ等が不可欠である。また、仕事の受注や分配、生産管理や品質管理、技術的支援等を行う共同受注窓口は、個々の事業所単独での受注に限界があるなかで、有効な施策であり、そのための組織の整備と運営費の担保が必要である。さらに、収益を拡大するためには生産性や付加価値を高めるための取組みが重要である。また、現行の自立支援法に基づく施設外就労や納付金制度に基づくグループ就労などを更に拡大、発展させるため、これを雇用率に換算する制度を検討する。

5.「就労系事業」で就労する障害者に利用者負担を求めるか。

結論 利用者負担は廃止する。

説明

国際労働機関(ILO)第99号勧告(1955年)では、職業リハビリテーションの無料提供が原則とされる。また、労働者性を有する就労については、利用者負担という概念そのものが考えられないし、総合福祉法に位置づけられる「作業・活動系事業」についても、利用者負担を廃止すべきとした訴訟団と国(厚生労働省)との「基本合意」が順守されるべきである。

6.障害者雇用促進法に関わる事項について

(1)障害者雇用の量だけでなくその質を確保するための障害者雇用促進法の改正について

結論 障害者権利条約第27条[労働及び雇用]で求められる労働への権利、障害に基づく差別の禁止、職場における合理的配慮の提供の確保するための規定を設ける。

説明

大企業に限らず中小の企業においても、雇用条件や昇給・昇進、希望職種・業務の充足といった雇用の質が確保されるために必要な規定を設ける必要がある。

(2)障害者雇用施策の対象とする「障害者」について、就業上必要な支援を認定する仕組みについて

結論 雇用率制度に基づく雇用義務の対象を、精神障害者を含むあらゆる種類の障害者に広げるとともに、雇用率達成のための事業者への支援を拡充する必要がある。また、個々の障害者にとって就業上必要な支援を明らかにする総合的なアセスメントシステムを整備する。

説明

精神障害者を含む、あらゆる種類の障害者の雇用を義務化すると同時に、雇用率を達成するための事業者への支援を拡充するべきである。特に、精神障害者については職場で安定的に就業するための配慮と職場環境の整備が不可欠である。就業上必要な支援を認定する仕組みについては、聴覚障害者の場合は身体障害者福祉法第4条の別表をWHO基準に合わせることが現実的なアプローチではないか。また客観的指標を新たに開発した上で、障害種別の特性を踏まえ、本人の希望と周囲の評価を調整する合議体でのワンストップの相談支援の仕組みを作ることを検討する必要がある。

(3)雇用率制度および納付金制度のあり方について

結論 雇用率制度の対象者の拡大に関連して、法定雇用率および納付金制度については、調査に基づいて課題と限界を検証し、必要な見直しを行うべきである。

説明

法定雇用率については、社会モデルに基づいた障害の範囲の拡大、みなし雇用の導入などを踏まえて大幅に引き上げる方向での見直しが求められる。ダブルカウントについては社会モデルに基づいた制度に見直すべきであるとの意見があったが、障害者の範囲の見直しが先決であるとの意見もあった。納付金制度は助成額の引き上げや給付期間の恒久化に加え、助成申請手続きの簡便化も必要である。また、助成金は雇用主による申請であるために、障害者の雇用を支えるために有効に活用されていないとの指摘があった。従って、障害者自身による申請を可能とするよう検討する。

(4)職場における合理的配慮提供の確保について

結論 事業主が合理的配慮を提供するために必要な経済的・技術的支援を制度化すると共に、苦情申し立てと救済措置についての仕組みを整備する必要がある。

説明

「就労系事業」、特例子会社、重度障害者多数雇用事業所等での合理的配慮の実践例を企業に示すことで、企業サイドの理解を深める。合理的配慮の類型化や事例のガイドブックの整備等も企業サイドの取り組みを進める上で有効だろう。合理的配慮に係る費用負担のあり方も整理する必要がある。合理的配慮が提供されない場合、障害者が苦情を申し立て、その救済措置が受けられるような第三者性を確保した仕組みが、職場内及び労働審判制度等に整備される必要がある。

Ⅲ 今後の検討課題

1.安定した雇用・就労に結びついていない労働年齢の障害者に適切な就業の機会を確保するための施策についての検討

結論 安定した雇用・就労に結びついていない障害者に適切な就業の機会を確保するため、試行事業(パイロット・スタディ)として賃金補填等の他、多様な働き方の「就労系事業」を実施する。

説明

全国で80ヵ所程度を指定し、賃金補填(使途に規制がなく、障害従業員の賃金補填にも充当しうる、柔軟な助成措置を含む。)および官公需や民需の優先発注等を伴う、多様な「就労系事業」(「社会的雇用」・「社会的事業所」・「社会支援雇用」(補足説明参照))が障害者就労施策にもたらす効果を実証的に検証することにより、同制度化に向けた課題を整理するものである。対象とするのは、①最低賃金の減額特例を受けている就労継続支援A型事業所、②最低賃金の1/4以上の工賃を支払っている就労継続支援B型事業所、③箕面市や滋賀県など、地方公共団体独自の制度として賃金補填を実施している事業所の他、新たに起業する事業所等であり、これらに対し、障害者への賃金補填を含む、事業所への運営費補助(負担割合は、国:1/2、都道府県:1/4、市町村1/4)及び官公需や民需の優先発注などによる仕事を確保するための支援を行う。

検証事項は、主に①障害者自身の働く意欲への影響や、共に働く、障害のない者の意識の変化、②対象とすべき障害者や事業所の要件、③事業者が提示する賃金への影響、④障害者の心身・労働能力の変化の状況、⑤収益の配分とその決定の仕組み、⑥事業者の生産性・付加価値引き上げの取組、⑦民間企業と就労系事業が連携する取組、⑧総合的アセスメントの仕組みなど、新たな「就労系事業」の制度化にあたって予想される課題の整理である。

(このモデル事業が必要な背景としては、現在の国の制度では、一般雇用と福祉的就労しか選択肢がなく、しかも賃金(工賃)や位置づけ(労働者か利用者か)について大きな乖離があることが挙げられる。両者の間に第三の選択肢をつくること、また福祉的就労そのものに労働法規を適用すること、さらには多様な働き方を保障することなど、種々の検討すべき課題があるが、これらのいずれをも包括して検証するには、賃金補填等を試験的に行い、各事業のメリット・デメリットを明らかにすると共に、現行の関連施策に与える影響や事業者側への影響を考慮、分析する必要がある)

2.前述のモデル事業の結果を踏まえ、「就労系事業」に従事する障害者への労働法の適用およびそれを可能とするための賃金補填等を制度化するための法制度の整備

結論 「就労系事業」は、当面は、総合福祉法で規定する。(期限を定め、見直すことを総合福祉法の付則に明記する。)将来的には障害者雇用促進法ないしはそれに代わる新法(労働法)で規定することを検討する。

説明

「就労系事業」を早期に実現するには、総合福祉法に位置づけることが早道と思われるが、一般就労・自営と「就労系事業」を総合福祉法で一体的に規定することは不可能なことから、将来的には障害者雇用促進法を見直すか、あるいはそれに代わる新法(労働法)で、一般就労・自営とリンクして「就労系事業」を規定するよう検討する。

3.前述の賃金補填を制度化するための所得保障制度(障害基礎年金など)との調整のあり方

結論 「就労系事業」に従事する障害者が賃金補填を受ける場合、原則として年金支給は一部ないし全額停止することで、年金財源を賃金補填に振り替えうる仕組みをつくる。そのためには、賃金補填と所得保障の関係について、障害基礎年金の支給調整ラインの検討が必要である。また、賃金補填の対象となる障害者の認定の仕組みを検討する必要がある。(賃金補填を行う場合のモラルハザードをどうするかについても検討が必要という意見もある。)

説明

障害基礎年金における所得制限は、20歳前に障害者となった人の場合について、所得が398万4,000円を超えると半額支給停止、500万1,000円を超えると全額支給停止になる(いずれも扶養家族がいない場合の例)。しかし、最低賃金(全国加重平均731円/時)への不足分に対する賃金補填を行った場合を考えると、その補填率にかかわらず、賃金総額は、731円/時×30~40時間/週×52週/年=114万360円~152万480円程度であり、到底、現行の支給調整ラインには届かない。よって、賃金補填を受けない障害者との公平性を担保するには、支給調整ラインをさらに低い金額で設定することを検討する必要がある。また、20歳前に障害者となった人以外の場合は障害厚生年金や稼働所得と賃金補填との調整をどうするのか等の検討課題がある。また、賃金補填の対象となる障害者の認定の仕組みを検討する必要がある。

なお、賃金補填の導入によって事業者がモラルハザードを起こさないよう、生産性や付加価値を高めるとともに、障害者の能力開発により賃金補填額の縮小、あるいは賃金補填がなくとも最低賃金以上の賃金を支払うことを目指すような制度設計とすることについても検討する必要がある。

4.全国民のなかでの障害者の経済活動や生活実態を明らかにする基礎資料の整備

結論 障害の社会モデルを基礎として雇用・就労施策を検討する基礎資料をえるために国の基幹統計調査において障害の有無を尋ねる設問を入れた全国調査を少なくとも1回実施する。

説明

厚生労働省では身体・知的・精神、3障害の就業実態調査や障害者雇用実態調査を行ってきている。しかし、いずれも手帳所持者やすでに雇用されている人など、限定された障害者集団の状況しか明らかにできない。障害ゆえに雇用・就労の機会を得がたい者は、それらの障害者以外にも数多く存在する。いわゆる制度の谷間で公的支援を受けることができず放置されている人びとを支援することになってこそ、障害者雇用・就労の裾野を広げることができる。

また、障害の社会モデルを基礎とした雇用・就労施策を検討する基礎資料として、全国民のなかでの障害者の経済活動や生活実態を明らかにすることが重要である。そのためには、国の基幹統計調査(全国消費実態調査や国民生活基礎調査等の全国民を対象とした大規模社会調査)において、少なくとも一時点において病気や障害によって活動が一定期間以上制限されているかどうかを聞く設問を追加し、その調査結果を分析する必要がある。

5.障害者の雇用・就労にかかる労働施策と福祉施策を一体的に展開するための体制の整備

結論 障害者の雇用・就労にかかる労働施策と福祉施策を一体的に展開しうるよう、関係行政組織を再編成するとともに、地方公共団体レベルで雇用・就労、福祉および年金などにかかる総合的な相談支援窓口(ワンストップサービス)を設置する。

説明

現在、一般就労・自営は労働行政等、また福祉的就労は福祉行政の所管となっているがそれらを一体的に展開するには、中央レベルの行政組織を再編成するとともに、地域レベルで就労・生活支援にかかわる、ハローワーク、福祉事務所、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターおよび地方公共団体が設置する就労支援機関、地域自立支援協議会、発達障害者支援センター、ならびに特別支援学校などの関係機関のネットワークが有効に機能する仕組みを整備する。

6.以上の検討課題についてフォローし、実現化をめざすための今後の検討体制づくり

結論 推進会議のもとに就労部会または就労検討チームを設置して、「就労系事業」にかかるモデル事業の検証も含む、検討課題についての議論を深め、結論を得る。そのメンバーは、推進会議や総合福祉部会の枠をこえ、経済団体、労働団体、学識経験者(労働法、労働経済学、経営学、社会保障論などの分野の専門家など)、事業者団体および地方公共団体などから構成する。

説明

本チームでは極めて広範囲に渡る、一般就労・自営および「就労系事業」に係る課題について議論したが、構成員の専門領域が限られていたことや検討期間及び時間が短かったため議論をつくせず、結論を得るまでには至らなかった。従って、推進会議の下に新たに作られる部会又は検討チームには幅広い専門領域の構成員を加え、十分議論を尽くし、結論を得る。

7.他の作業チームとの調整が必要な事項

(1)パーソナルアシスタンスなど介助サービス事業の守備範囲について

結論 パーソナルアシスタンスなどの介助サービス事業は、障害者の地域での生活支援だけでなく、通勤(自営等の営利活動に伴う移動を含む)や職場での介助にも使えるようにする。

説明

「訪問系」作業チームで検討されたパーソナルアシスタンスなどの介助サービス事業は、基本的には在宅障害者の身体介助や外出支援等に関わるとされる。一方、雇用納付金制度に基づく助成金にも通勤支援(1ヵ月)、職場介助(仕事面の支援、10年間)等があるが、期間や介助の対象が限られているため極めて使いづらいとされる。財源も含め、労働施策と福祉施策を一体的に展開できる仕組みを整備することで、パーソナルアシスタンスなどの介助サービス事業を地域での生活支援だけでなく、通勤(自営等の営利活動に伴う移動を含む)や職場での介助にも使えるようにする。

(2)ワンストップサービスの整備について

結論 ワンストップサービスは、就労支援を含む、総合的な相談支援窓口とする。

説明

障害者が就労しようとする場合、どの機関や窓口で相談するかによってその後の就労先が異なることが少なくない。障害者がそうした不利を蒙らないようにするためにも、「選択と決定・相談支援プロセス(程度区分)」作業チームで検討されている地域相談支援センターなどは、就労支援も含む、「総合的な相談支援窓口(ワンストップサービス)」とする必要がある。

(3)雇用関係がなく、労働法規が適用されないデイアクティビティセンターの機能について

結論 雇用関係がなく、労働法規が適用されないデイアクティビティセンターは、創作活動や趣味活動、作業活動など、地域における社会参加活動の場の提供等をその主たる機能とし、福祉サービス事業の一環として総合福祉法に位置づける。

説明

「日中活動とGH、CH、住まい方支援」作業チームでは、「(現行の)地域活動支援センターはデイアクティビティセンターに整理する方がよい。・・・」と整理し、また「地域生活支援事業の見直しと自治体の役割」作業チームでは「地域活動支援センターの内容については、・・・地域生活支援事業に残すものと、他事業との体系の統合の中で自立支援給付にするものとに分ける。・・」と報告している。ここで言うデイアクティビティセンターは本報告中の「作業・活動系事業」に当たると考えられるため、これを総合福祉法に基づく福祉サービスに位置づけ機能を整理する。

(4)他の福祉サービス事業とは異なる「就労系事業」の位置づけについて

結論 本来、労働法に位置付けられる事業として、「就労系事業」を他の福祉サービス事業一般とは異なる位置付けとするよう、見直しが必要である。

説明

就労が福祉サービス事業の一つとしてしか位置付けられていない現状を見直し、本来は労働法に規定されるべき「就労系事業」は、独自の仕組みとして総合福祉法の中に規定されるべきである。

(5)現行の施設入所支援と併せて提供される就労支援事業について

結論 現行の施設入所支援と併せて提供される就労支援事業を総合福祉法でどのように位置付けるかについては、「日中活動とGH、CH、住まい方支援」作業チームと調整する。

説明

2008年12月16日の社会保障審議会障害者部会報告で「通所による就労継続支援の利用が難しく、真にやむを得ない者である場合には、ケアマネジメント等の手続きを経た上で、同一の施設において施設入所支援と合わせて就労継続支援についても実施できることとするよう、検討すべきである」とされる。これについては、「日中活動とGH、CH、住まい方支援」作業チームと調整する。

【資料】

2010・11・22

障害者基本法に盛り込むべき事項(案)

就労・合同作業チーム

労働及び雇用について障害者基本法に以下の内容を規定すべきである。

1.労働の権利の保障と苦情に対する救済制度の整備

障害者権利条約第27条では、「障害者が他の者と平等に労働についての権利を有することを認める。」と規定されている。また、日本国憲法第27条でも、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。」と規定している。しかし、現行の障害者基本法をはじめ、障害者の雇用の促進等に関する法律や障害者自立支援法などでは、障害者の労働の権利は明記されていない。障害者の就業率が他の者とくらべ、きわめて低く、かつ、就業している障害者の賃金などの労働条件も他の者とくらべ、かなり悪い実態を改善するためにも障害者の労働の権利が保障されなければならない。それには、公正かつ良好な労働条件、安全かつ健康的な作業条件及び苦情に対する救済についての権利の保護が含まれる。

2.労働施策と福祉施策が一体的に展開できる障害者就労制度の整備(生計を維持するための賃金補填などによる所得保障を含む。)と労働者保護法の適用の確保

現在いわゆる福祉的就労に従事している20万人近くの障害者のうちごく一部を除き、労働者保護法(労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法などに加え、雇用保険法、健康保険法および厚生年金法も含む。)の対象外とされ、労働者あるいは労働者に準じた労働条件などを確保する展望もない状況におかれている。そうした状況を打開するには、福祉的就労制度にかわるものとして、現在分立している労働施策と福祉施策を一体的に展開できるような仕組み、つまり、福祉的就労に従事している障害者が、合理的配慮の提供および、必要な支援(生計を維持するための賃金補填などによる所得保障などを含む。)を継続的に受けながら、労働者保護法が適用される多様な就業の場で働き甲斐のある人間らしい仕事ができる仕組みを整備する必要がある。また、それらの障害者の職業の選択肢を拡げるとともに、キャリア形成ができるよう、生涯学習を含む、能力開発などの支援も積極的に行われなければならない。

3.多様な就業の場の創出および必要な仕事の確保

障害者が自由に選択し、または承諾する労働につけるよう、企業や公共機関での雇用に加え、自営・起業、社会的事業所や協同組合での就業、ならびに在宅就労などを含む、多様な就業の場を積極的に創出するとともに、そこで就業する障害者が生計を立てうる、適切な仕事を安定確保するための仕組み(ハート購入法など優先発注制度や総合評価入札制度など)を整備しなければならない。

4.合理的配慮および必要な支援の提供の確保

障害の種類や程度にかかわらず、労働及び雇用を希望するすべての障害者が他の者と平等に就職し、その職の維持や昇進、あるいは復職などができるよう、職場における合理的配慮および必要な支援(職業生活を維持・向上するための人的、物的および経済的支援を含む。それには職業維持に必要な生活面での支援や通勤支援なども含まれる。)の提供を確保しなければならない。

5.障害者が特別の職業サービス(職業相談、職業指導、職業訓練及び職業紹介サービスなど)だけでなく、一般の職業サービスも利用できるようにすること

障害者が他の者と平等に労働及び雇用に参加できるようにするべく、ニーズに応じた適切な職業サービス提供を確保するには、かぎられた特定の機関で提供される障害者を対象とした特別の職業サービスだけでなく、障害者にとって身近な地域で必要な職業サービスが受けられるよう、一般市民を対象とした通常の職業サービスが利用できるようにしなければならない。つまり、地域にある通常の各種職業サービスを障害者にとってインクルーシブでアクセシブルなものにしなければならない。

6.あらゆる種類の障害者への雇用義務の拡大と働き甲斐のある、人としての尊厳にふさわしい職場の確保

障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく障害者雇用義務の対象は、現在のところ身体障害者と知的障害者に限定されているが、その対象を精神障害者を含む、あらゆる種類の障害者に拡大するとともに、現行の障害者雇用率制度を量としての雇用だけでなく、働き甲斐のある、人としての尊厳にふさわしい職場をも確保できる仕組みに転換する必要がある。そして、そうした職場を確保するには、合理的配慮および必要な支援が確実に提供されるよう、障害者だけでなく、事業主に対しても適切なフォローアップサービスが、必要な期間継続的になされなければならない。


総合福祉部会 第15回(H23.6.23) 資料6-1

「就労(労働及び雇用)」合同作業チーム報告書の概要

1.はじめに(作業チームの検討範囲)

本作業チームでは、障害者の労働および就労施策のあり方について追加開催も含め、6回にわたり検討した。その主な検討内容は、つぎのとおり。

① 障害者基本法に盛り込むべき、労働及び雇用に関する基本的事項
② 総合福祉法の守備範囲(労働分野との機能分担など)
③ 就労系日中活動(就労移行支援事業、就労継続支援A型・B型事業、生産活動に取り組む生活介護事業)、地域生活支援事業(地域活動支援センター)や小規模作業所のあり方
④ 障害者雇用率制度および差別禁止と合理的配慮などを含む、一般就労施策のあり方
⑤ 福祉と労働及び雇用にまたがる制度と労働者性の確保のあり方
⑥ ⑤との関連で、多様な就業の場としての社会支援雇用・社会的雇用・社会的事業所のあり方

2.総合福祉法に含めるべき事項

(1)現行の就労系日中活動、地域生活支援事業および小規模作業所などを、就労を中心とした「就労系事業」および作業活動や社会参加活動を中心とした「作業・活動系事業」に再編成する。前者については、同事業に従事する障害者の労働者性を確保するという目標からは、障害者雇用促進法またはそれにかわる新法(労働法)で規定することが望ましいが、当面は、総合福祉法に含める。一定の期限を定め、見直すこととする。後者については、福祉サービスとして総合福祉法に含める。

(2)「就労系事業」等に適切かつ安定した仕事を確保するため官公需や民需の優先発注の仕組み等を整備する。

(3)「就労系事業」で就労する障害者の利用料は撤廃する。

3.障害者雇用促進法に含めるべき事項

(1)障害者権利条約第27条[労働及び雇用]で求められる労働への権利、障害に基づく差別の禁止、職場における合理的配慮の提供の確保にかかる規定を設ける。

(2)雇用率制度に基づく雇用義務の対象を、精神障害者を含むあらゆる種類の障害者に広げるとともに、就業上必要な支援を明らかにする総合的なアセスメントの仕組みを整備する。

(3)雇用率制度の対象者の拡大に関連して、雇用率(引き上げ)および納付金制度(納付金の額や助成金の対象範囲と給付期間)を見直す。

(4)「就労系事業」等への民間企業からの発注を確保するため、発注額に応じて雇用率に算定できる制度及び、障害者自立支援法に基づく施設外就労や納付金制度に基づくグループ就労を発展・拡大し、企業内就労をさらに促進するため、受け入れ協力企業の雇用率に算定できる制度を導入する。

4.今後の検討課題

(1)「就労系事業」にかかるパイロット・スタディの実施と結果の検証
(2)「就労系事業」に賃金補填制度を導入するための所得保障制度(障害基礎年金など)との調整のあり方の検討
(3)障害の社会モデルを基礎とした雇用・就労施策を検討する基礎資料を得るために国の基幹統計調査において障害の有無を尋ねる設問を入れた全国調査を少なくとも1回実施する
(4)障害者の一般就労・自営に係る労働施策等と福祉的就労にかかる福祉施策を一体的に展開できるようにするための行政組織などの再編

5.以上の検討課題についてフォローし、実現化をめざすための今後の検討体制づくり

6.他の作業チームとの調整が必要な事項

(1)パーソナルアシスタンスなど介護サービス事業の守備範囲
(2)ワンストップサービスの整備
(3)デイアクティビティセンターの機能
(4)他の福祉サービス事業とは異なる「就労系事業」の位置づけ
(5)障害者支援施設による日中活動としての就労支援事業


総合福祉部会 第12回(H23.2.15) 資料7

第1期作業チーム報告(医療)

Ⅰ.はじめに

本チームは、障害者の権利に関する条約を我が国が批准するにあたり、精神障害者の非自発的な入院や身体拘束が、「精神保健福祉法」、「医療観察法」等で法的に規定されていること等が、人権保護上問題があるのでは、という視点に立ち、障害者の医療に関連する現行法体系を廃止または抜本的に見直し、諸法の法改正、制度構築、財政措置の実施が法的に担保されるべく、検討を行った。

1 第1期(H22.10~12月)における検討事項

テーマ:障害者権利条約の考え方を踏まえながら、医療について、特に精神医療を中心に検討した。

(1)議論に当たっては、以下を前提とした。

  • 障害者権利条約の考え方
  • 障がい者制度改革推進会議の第一次意見及びこれを踏まえた閣議決定
  • 障害者基本法の改正に向けた推進会議での議論
  • 総合福祉部会での議論

(2)医療・合同作業チームでは、医療に関して、推進会議および総合福祉部会で、今後、以下のことを検討するうえで活用される論点整理を行っていく。

  • 障害者基本法改正
  • 総合福祉法の制定
  • 個別分野の制度改正

Ⅱ.医療・合同作業チームにおける結論

1 障害者基本法改正に関して

障害者基本法に盛り込むべき内容として、以下の事項が確認した。

(1) いわゆる「社会的入院」を解消し、自立(自律)した生活及び地域社会への包摂のための施策の根拠となる規定を設けること。

「保護と収容」を優先するこれまでの我が国の障害者施策の結果生まれた「社会的入院」を解消するためには、閉鎖された空間から自立(自律)した生活への移行をサポートし、地域社会へ包摂するための施策を展開することが必要である。障害者基本法において、このような施策の根拠となる規定を設けるべきである。また、現時点で確保されている精神病床の削減を前提とした必要最小限の病床確保に向けた、国の責務としての施策の実施の根拠となる規定を設けるべきである。

(2) 医療保護入院に係る同意を含む「保護者制度」を解消するための根拠となる規定を設けること。

精神障害者に関し、本人の自己決定権を尊重するとともに家族の負担を軽減するためには、医療保護入院に係る同意を含む「保護者制度」について、これを抜本的に見直し、例えば、司法機関や地方公共団体等の公的機関が責任を負う制度に改めることが必要である。障害者基本法に、このような趣旨とそのための施策の根拠となる規定を設けるべきである。

(3) 強制的な入院は人権保護の点から原則として認められないことを確認し、人権制約が行われる場合には、その実施が例外的に最大限の人権の保護を確保した上での適正手続を保障する規定を設けること。

精神科病院への入院や施設への入所は、本人の自由な意思に基づいて行われることが原則であるべきではないか、これは、「自己決定権」という最も重要な基本的人権の一つである。したがって、強制的な入院は、原則として禁止し、やむを得ず措置入院が行われるような場合においては、この基本的人権の手続的な保障としての障害のない人との平等を基礎とした実効性のある「適正手続」が履行されなければならない。例えば、司法、行政等の第三者が当該措置を人権配慮の点から責任もって実施する等の本人の権利擁護のための仕組みが必要であり、障害者基本法に、障害者の自己決定権の理念と、適正手続保障の根拠となる規定を設けるべきである。また、このために精神保健福祉法、医療観察法等関連法体系の抜本的な見直しを国の責務として実施する根拠となる規定を設けるべきである。

(4) 精神医療の質の向上に努めることの根拠となる規定を設けること。

精神医療の提供に当たっては、一般医療と同様、インフォームド・コンセントを得るという原則を徹底するとともに、身体拘束や閉鎖空間での処遇等の行動制限を極小化するべきである。このためには、非自発的入院を削減していくこと、入院ニーズを十分に精査したうえで必要最低限かつ適正な病床数まで精神病床を削減し、その上で、必要最小限の病床に対して、行動制限の極小化に見合った人員配置を行い、精神医療に充てる人員の標準を一般医療より少なく設定している現行の基準を改めることが必要である。また、病床削減に伴い、往診・外来受診を含む医療体制の強化と福祉サービスの強化による地域生活の支援体制を強化すべきである。さらに、急性期等の精神医療に携わる医師、看護師、コメディカル等の仕事の質を確保するための指針の整備等とともに、障害者基本法において、このような施策の根拠となる規定を設けるべきである。

こうした施策を国の責務として実施すべく、法的、制度的、財政的な措置を国が実施する根拠となる規定を設けるべきである。

(5) 一般医療における問題点の解消に努めることの根拠となる規定を設けること。

一般医療においても適正手続きの保障がない状況で行動制限が行われている状況があり、医療提供に当たっての人権確保の必要性は精神医療にとどまらない。

また、精神障害者が身体合併症治療のために一般医療を受ける必要が生じてもその円滑な提供がなされないことがあり、こうした事態の改善が必要である。障害を理由とする差別なしに必要な医療が自らの選択によって受けられることは、精神医療の範囲にとどまらず不可欠なことである。障害者基本法において、このような問題点を解消する施策の根拠となる規定を設けるべきである。

*上記の論点に係る障害者基本法の改正の検討は、同法の「障害者の福祉に関する基本的施策」の「医療等」に関する部分の条項改正のみならず、同法の「基本理念」に係る条項の改正をはじめとして同法の他の部分に関する議論にも、当然に及ぶ必要があると考える。

2-1精神医療の法体系のあり方について

11/19会合において、座長メモ(下記の点線枠内参照)に基づき議論が行われたが、精神医療の法体系のあり方については、以下の①、②のように意見が分かれた。

① 精神医療は医療を受ける者本人の自発的意思に基づいて提供される(精神医療を一般医療と区別しない)ことを法体系の基本としたうえで、やむを得ず非自発的入院や行動制限が行われる場合における人権確保のための適正な手続を定める法律(適正手続法)を設けるべきという意見。

② 精神医療に関し、さらには精神障害者を支援する保健施策も含めて、自発的意思に基づくことを原則とし、非自発的入院や行動制限が行われる場合には人権確保のための適正な手続が必要なことは当然であるが、法体系としては、精神医療に特化した法律を存置させるべきという意見。

<第2回合同作業チーム(H22.11.19)配布資料「座長」メモより>

  • 精神障害者に必要な支援は、当然ながら医療に留まらず、保健(入院とならないよう未然防止するための支援、退院直後の支援等)と福祉(住居確保、所得保障、就労支援等)のサービスや支援が個々の障害者のニーズに則して相互に連携して提供されなければならないのではないか。
  • 特に精神医療に関しては、医療と福祉が混在し制度上の問題を多く含んでいる精神保健福祉法を人権的な視点も含め抜本的に改正するか、又は新法の制定を検討する必要があるのではないか。

(※たとえば、医療法等の一般的な医療法制、地域保健法等の保健法制、総合福祉法等の福祉法制に精神障害者に関する規定を取り込むことを法体系の基本とし、精神障害者固有の事情に基づく人権尊重、非自発的入院・隔離拘束の際に取るべき適正な手続、第三者機関によるチェック等の必要性を満たすために、上記の新法又は抜本改正した精神保健福祉法に規定を置くこととしてはどうか。)

2-2精神病院における認知症患者の受け入れについて

精神病院における認知症患者の受け入れについては、以下の①、②のように意見が分かれた。

① 社会的入院の解消によって削減した精神病床を、認知症患者に転換することを認めるべきではない。そのことによって、再度社会的入院を助長する可能性がある。

② 精神科医は、認知症については、専門的観点から対応すべきである。認知症患者に積極的に関わっている民間精神病院は多い。従って、今後その対応について検討していきたい。

3 地域生活支援・地域移行に関する議論の整理

【社会的入院の解消】

  • 権利条約の批准に鑑み、国の重要施策として、精神科病床の削減と社会的入院の解消に取り組まなければならない。実施にあたっては、国が年次計画を示すとともに十分な財政措置を講じ、これを踏まえて、都道府県がロードマップを作成し、精神保健福祉センター・保健所が積極的な役割を果たしつつ医療圏域毎に計画的に進める。
  • これと並行して、精神障害者の地域移行に不可欠である住居の確保と生活支援サービスの提供を行う地域生活の基盤づくりを、国の責任に基づき財政措置を伴って進める。
  • 都道府県による入院措置がなされた措置入院患者については、所管保健所が関与して個別に退院計画を立て、可能な限り早期に退院ができるよう図るものとする。この際、相談支援事業者等と連携を取り、退院後の地域生活を支援するための体制を確保することが必要。

【退院する人を地域で支える地域移行支援システムの構築】

  • 長期入院により施設外での生活が困難となっている人や、入退院を頻繁に繰り返す人は、社会生活のための集中的なトレーニングを必要としており、各個人の状況に応じた地域移行計画を用意しなければならない。多角的な社会適応訓練を含め、地域移行が円滑に進み地域生活が維持できるよう支援体制を構築する必要がある。その実施に当たっては、“医療モデル”として心身機能の損傷への治療や訓練に偏することなく、生活の実態に基づくニーズを基礎とする“社会モデル”に基づく生活支援ないし「福祉サービス」を重視し、精神障害者本人を中心にして、医療と福祉の連携したシステムを構築していくことが必要である。
  • 相談対応を含む生活支援を充実すること(たとえば、24時間つながる電話による相談を含む)は、特に退院後間もない精神障害者については、必要不可欠である。

【上記システムを構築するに当たり、従来の障壁の解消が必要】

○地域移行を妨げてきた理由

① 昭和63年から施行された精神保健法に精神障害者社会復帰施設が盛り込まれたが、そのほとんどを民間に委ねた上、十分な財政支出が伴わなかったため、地域の受け皿として大きな広がりを見せていない。例えば、精神障害者生活訓練施設(援護寮)について見ると、施行後約20年経過した平成18年度においても300か所(4,400人分)の整備に、また施行後15年を経過した居住サービス(グループホーム、ケアホーム)利用者は13432人(平成21年8月)、居宅介護(ホームヘルプ)サービス利用者は23856人(平成21年8月)にとどまる。

② 地域住民の反対運動等を含め国民の間に偏見が根強く残っており、社会資源の整備が進まず、退院後の住まいの確保が困難な現状がある。

○地域移行を推進し、病院→地域の道筋を作るには相当規模の予算が必要となり、人権の視点から財源(基盤整備)の確保が急務。

① 地域移行のための仕組みである地域移行支援に財政措置(ハード整備、人材確保、人材育成)を講じる。

② 自立訓練等の提供とともに、安心して駆け込み身をおける居場所としての機能も併せ持つシェルター(ドロップインセンター)を設ける。また、地域移行後の住居・生活の場の基盤整備と生活費用の確保が必要。

【地域移行を推進するには住居確保は最重要課題】

  • 長期入院を余儀なくされ、そのために住居を失うもしくは家族と疎遠になり、住む場がない人には、民間賃貸住宅の一定割合を公営住宅として借り上げるなどの仕組みが急務である。
  • グループホームも含め、多様な居住サービスの提供を、年次目標を提示しながら進めるべきである。
  • 医療費扶助、住宅扶助等の要件を緩和すれば、不安なく地域移行を進められる。その際、福祉事務所など公的機関は合理的配慮をもって円滑に支援を行うことが重要である。
  • 賃貸物件の公的保証人制度の確立と運用も重要である。

【地域移行に必要な生活支援】

  • 入院生活でパターン化された単調な生活リズムから、変化に富んだ地域の生活に順応するには、地域の中で相当の月日をかけた生活支援が必要となる。
  • 精神障害者が調子を崩したとき、家族との関係が一時的に悪化したとき等に、入院を防ぐあるいは再発予防のためのドロップインセンターが地域支援の拠点として必要である。
  • ドロップインセンターでは必要時にすぐに使えるレスパイトやショートステイサービスが用意されることが重要である。
  • 回復前期や調子を崩した時に気軽に利用できるさまざまな居場所の確保が地域で必要である。

【地域移行支援に必要な人材育成】

  • 地域生活移行を促進するには、人権擁護の重要性をよく理解した支援者人材が必要不可欠であり、集中的な人材育成を行うことが急務である。
  • たとえば、経験が入院患者のケアに限られている人材について、期間を定めて再教育を行い、訪問によるケアなど地域生活支援をになう人材として活用することなどが考えられる。
  • また、入院をせざるを得ない場合でも、必要最低限の入院治療後、早急に退院させ、地域において医療と福祉の連携による支援を講じていくことが基本となることを徹底させる。
  • 地域移行支援ならびに地域生活支援において、ピアサポートは重要な支援であるので、当事者同士がサポートしやすい環境を整備する必要がある。

【地域移行に必要な就学支援】

  • 在学中もしくは就職直後に発症し、青年期を入院等の治療で過ごさざるを得なかった人に、再就学を希望する人への支援の手だても必要である。
  • 若年発症で思春期に入院した人には、特に就学支援の手だてが必要である。

【地域移行に必要な就労支援】

  • 精神障害者の多くが将来働きたいと表明している。地域生活移行後の就労支援や合理的配慮は生活支援と同様、重要な位置を占める。就労を希望する精神障害者には、従来の福祉的就労に限らず企業や働く場での支援の強化が必要である。

【当事者の主体性の尊重】

  • 精神障害者本人の主体性を尊重することが何よりも重要である。
  • 十分な情報を提供されたうえで、当事者が自ら選べることが重要である。

Ⅲ.おわりに

障害者総合福祉法の論点整理で、「多くの社会的入院を抱える精神科病棟や、入所施設からの大規模な地域移行を進めるためには、特別なプロジェクトは必要か」、との課題が投げかけられているが、まさに今後、プロジェクトを形成必要があるか否かについての議論が必要と考える。

さらに、地域での生活、就労、地域医療など、総合福祉法において対応すべき事項が、数多くあるといえる。従って、社会移行を実現するためのシステムとして、住宅、あるいは生活訓練などの問題を示してきたが、これらの事項は総合福祉法で担保される必要があり、各作業部会において、精神障害者固有の問題についての議論が求められるところである。

第2期においては、医療を中心に論点整理を行うこととなるが、地域医療の領域などでは、精神医療についても触れる必要がある。今後、その他に精神医療領域の問題についての議論の必要が生じた場合には、推進会議(親会議)や総合福祉部会本体において議論するべきである。

付記

1月25日の部会での発言および委員から提出文書に示された主な意見

  • 精神病院の可視化、透明性が確保される医療改革を求める。
    一般市民の目から見て精神医療の内容が不明瞭で分かりにくい。入院患者にとって良い治療、重度化しない治療が行われるようモニタリングのシステム並びに相談支援の制度化が提案されているが、その仕組みがよりよく機能するよう、もう一歩踏み込んだ提案を望む。
  • 強制医療、強制入院は前提として犯罪であるという認識。すでにノルウェーでは精神保健法廃止に向かって議論が始まっている。これは政府の姿勢としてもその方向ということであり、決して精神保健法廃止が非現実的ということではない。
  • 非自発的入院については、障害があろうと他のものと平等な手続きを求めることが重要ではあるが、同時にその実態要件も議論する必要があり、刑法の緊急避難の法理が適用されるべきと考える。すなわちいかなる適正手続きも犯罪を正当化し得ないので違法性阻却の論理しかない。
  • 自立支援医療の負担問題については、自己負担分については0にすべきではないか。
    また自立支援医療を精神病院入院に使えるようにすべきか否かも医療合同作業チームで検討するよう求める。
  • 精神障害者、難病、身体障害者の地域移行によって医療保険から総合福祉法(仮称)への移行となるので、財源の変換が壁となっており、どう医療保険からの一定の基金拠出を求めるか、についても検討の必要がある。
  • 「座長」メモは、何も精神障害に関してだけではない。1期は、精神障害の医療について討議したことは承知しているが、2期にも「座長」メモで指摘するのか、工夫が必要、また周囲に対して理解を得る方策も必要である。

総合福祉部会 第15回(H23.6.23) 資料7-2

「医療(その他の医療一般)」合同作業チーム報告書

Ⅰ.はじめに

医療・合同作業チームでは、障害者の医療をめぐるさまざまな現状、課題、解決策等について、まずは、障害者総合福祉法(仮称)に反映されるべきものかどうかを問わず、障害当事者の経験に即した視点から議論した。そのうえで、本報告では「障害者総合福祉法の論点」に該当する項目と、より幅広くその他の法令等で対応が図られるべき項目とを整理して章立てし、記述した。

Ⅱ.結論と理由

障害の種別を問わず、障害者の医療のあるべき姿を考えていくうえで「地域における障害者の生活を支える医療」という視点が重要である。これを実現するためには、福祉サービス及び保健サービスとの有機的連携を確保しながら医療が提供される必要があるが、それが未だ十分になされていない現状を改善することが制度改革の大きな目標である。

1 全体に共通する事項

障害の種別を問わず、「地域における障害者の生活を支える医療」という視点から、総合福祉法(仮称)により実現されるべき重要事項は以下の通り。

(1)自己決定支援・相談支援

● 自己決定する過程において支援されるいわゆる支援付きの自己決定の仕組みの確立

相談の過程で、障害者本人がさまざまな判断や決定をするが、そのために必要な情報を得ることが必要。自己決定では、必要な情報を得られ、必要があればそれらの情報についてわかりやすく説明を受けることができ、相談に対応する者が、障害者の権利を尊重し、保障しつつ自己決定が図れるよう研修を受けることを盛り込む。

● 相談支援においては、医療と福祉が必要な場合は、そのニーズに合った総合的な計画が作成され、本人が総合的なケアマネジメントを必要とする場合はサービスとして提供されるべき。

(2)医療と福祉の統合的な支援、生活実態に即した支援等

● 地域医療については、包括的なサービス体系とすべき。地域での生活を支える地域医療サービスと本人の希望を最大限踏まえた福祉サービスの統合したシステムづくりを目指すべき。

● 日常的に医療的支援を必要とする重度身体障害児者、重症心身障害児者、難病患者(である障害児者)については、特に、医療と福祉の統合された支援体系が必要。その際、本人・家族の状況や希望、特性に沿って多様なサービスの選択が可能となる体制が整備され、その中で医療的支援が確保されることが必要。

● 難病患者については、「難治性慢性疾患のある障害者」という概念のもとに、「支える医療」を受けながら障害に対して生活支援サービスを受けるという、難病患者の特性を踏まえた支援体系が必要。

● 小児期から成人に持ち越す難病や、小児期から重度知的障害を伴う重症心身障害児者の支援においては、児者連続した支援を柔軟に可能とする体系も必要。

● 必要な医療及び医療的ケア(たん吸引、経管栄養等)の行為者の範囲の拡大がなされたが、これらの医療的な要素を持つ生活支援の提供が制度的に保障されるべき。

● その際に、ヘルパー、介護職員等による医療的ケアについて、不特定多数の対象者へその実施者が行うと想定している場合(入所施設など)と、個別的に特定の対象者へ特定のケアを実施者が行うと想定している場合(学校や在宅での実施など)に大別しながら、柔軟な実施体制が整備されるべき。

● 日常的に医療的支援を必要とする重症心身障害児者の地域での生活を支援していくうえで、地域生活を支えるためのショートステイや通園の機能は重要であり、とくに超重症準超重症児者など濃厚な医療的支援を要する児者に対し医療的体制を備えた施設での対応が可能な体系が必要。

● 難病患者である障害児者についても、医療的支援が充分に可能な体制でのレスパイトケア、ショートステイの体制が必要。

(3)社会参加サービス

● 通学支援、学習支援(在宅学習含む)などの就学支援に係る福祉サービスの充実

若年で発症もしくは事故後遺症で障害を負い、思春期に入院・入所が長期化した人には、就学支援の手だてが必要。

在学中もしくは就職直後に発症し、青年期を入院等の治療で過ごさざるを得なかった人に、再就学を希望する人への支援の手だても必要。(就労につながりやすくなる。)

(4)地域での住まいの確保・居住サポート

● 民間賃貸住宅の公営住宅としての活用

長期入院を余儀なくされ、そのために住居を失ったり家族と疎遠になることにより住む場がない人が、低廉な住宅に入居できるよう、民間賃貸住宅の一定割合を公営住宅として借り上げる仕組みが必要。

● 住宅扶助等の生活保護費の活用

入院中はホテルコストも含んだ入院費で、高額医療費制度により年金だけで足りる人も、地域で暮らし始めると生活ではホテルコストと食費などにより経費がかさみ、生活困難となってしまうケースも少なくない。このため、生活保護費の要件を緩和することが必要。医療費扶助、住宅扶助等の単独支給等により不安なく地域移行を進めることができる。

● 賃貸物件の公的保証人制度

市町村が社会福祉士、精神保健福祉士等に委託して、制度を確立すべき。

● 病棟を住居として転用することの禁止

病床削減し閉鎖した病棟を高齢者や障害者のケアハウスなどの共同住居として活用することを禁止すべき。

● 地域活動支援センターの強化

回復前期や調子を崩した時に気軽に利用できる居場所としての、地域活動支援センターの機能を強化することが必要。

(5)家族支援

● 家族支援ための相談の強化とレスパイトやショートステイ等の充実

家族はもっとも重要な支援者である。しかし、24時間365日良い時も悪い時も在宅で支えている家族が、よりよい支援者として継続するには、精神的、物理的な休養が必要不可欠である。

(6)権利擁護支援サービス等

● 居住地の選択権は本人にあることの明文化

どこで誰と生活するかを選択する機会を有することや、特定の居住施設での生活を義務づけられないこと。また、地域社会における生活や地域社会への受入れを支援することや、地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスなどの地域社会支援サービスを障害者が利用できるようにすることが必要。一般住民向けの地域社会サービス及び施設が、障害者にとって他の者と平等に利用可能であり、かつ、障害者のニーズに対応していることが必要。

(7)地域生活資源整備のための財政措置

● 地域移行のための仕組みである地域移行支援(相談支援、自立訓練等)に財政措置(ハード整備、人材確保、人材育成)を講じる。

(8)自立支援協議会

● 地域移行推進協議会を自立支援協議会の部会として明文化

医療との福祉の融合を図る上で、自立支援協議会の下に地域移行推進協議会が法律に位置付けられることが必要。これにより、市町村及び都道府県は地域移行をロードマップに沿って実行できる。

(9)人材確保・育成

● 地域生活移行を促進するには、人権擁護の理念を持った支援者の人材が必要不可欠であり、集中した人材育成が急務である。

● 併せて、定員削減、病床削減で余剰となった職員を、入所施設や病院以外の地域生活支援に振り向けるための人材再教育を時限を区切って義務化し、地域生活及び訪問支援等の人材として活躍するとともに雇用の確保策とする。

● 医療との連携を推し進めるにあたり、生活実態に即した介助サービス等を提供する支援者に専門的な医療知識の研修を義務化する。

● 発達障害者においては、医療リハビリスタッフ教育と同時に、医療以外(教育、福祉、介護等)の場での専門的支援システム・対応方法の強化充実を図る。

(10)医療に係る経済的負担

● 医療に係る経済的負担については、「障害に伴う費用は障害者個人の負担とせず社会全体で支え、障害と関係なくすべての人が支出する費用は障害者も同等に負担する」という原則が適用されるべきとの意見があった一方、障害福祉サービスは障害のない者が利用することはないのに対して、医療は誰もが一部自己負担を払って利用するという性格があることから、自立支援医療についても、当面、応能負担を原則とする制度として運用することが適当とする意見があった。

● 自立支援医療の範囲と運用については、検討に際し、障害種別ごとの特性を考慮することも必要と考えられた。

たとえば、精神障害者の入院医療については、地域移行へのインセンティブを考慮した費用支払と費用負担の軽減などが必要。

また、難治性慢性疾患のある障害者については、難病対策要綱に基づき取り組まれてきたことの発展的継承、長期療養を必要とする場合の高額療養費の軽減なども重要。

全体を通じた今後の課題として、医療費公費負担制度の総合的見直しも視野におく必要がある。

特に、自立支援医療制度と以下の制度との関係の整理が必要。

  • 特定疾患治療研究事業、小児慢性特定疾患治療研究事業
  • 高額療養費制度等
  • 都道府県で実施されている重度心身障害児者医療費助成制度

(11)診療拒否、不適切な対応、災害時における課題等

①診療拒否

● 障害を理由とした診療拒否をなくすべき。

● 知的障害者や身体障害者等が加齢により受診が必要なとき、救急の対応ができるところが必要。

● 筆談すればわかるのに「今度は聞こえる人と一緒に来てください」と言われたり、診察室まで補助犬が入ることが認められなかったりすることがないようにすることが必要。

②不適切な対応(医療者による不適切な説明内容、不適切な態度等)

● 人工呼吸器をつけることを否定するような説明がなされている。生活を支えることを基本に説明するべき。

● 入院時、障害ゆえに個室が必要な場合、障害者福祉から病院にヘルパーをつける、差額室料を本人や病院の負担にしない等、の仕組みが必要。

● 医療が必要な人が福祉サービスの利用において、医療が必要ということで拒否されることがないよう、医療機関との連携を図られるべき。また、対応可能な専門家の人材育成が必要。

● 排泄や入浴などの介助は同性介助を徹底することが必要。

③災害時における医療確保の困難等の課題

● 災害時において、日常的に医療を必要としている障害者へ医療品や医療機器に必要な非常用電源が届く仕組み、通院のための移動手段の確保等が必要。また、医療機関へのバックアップ体制や、サービス利用計画に災害時について盛り込むこと等が、検討されるべき。

(12)上記以外の重要論点

総合福祉法におけるサービス内容の検討に当たっては、以下のことも重要な論点として踏まえる必要がある。

● 救急医療(24時間精神科救急を含む)
● 合併症に対する医療
● 歯科医療
● 医療に関係する相談(PSWやMSWの役割を含む)
● 本人・家族へのピアサポート
● 総合福祉法での認定に関する論点(難病では医療の必要性と切り離せない)
● 予防(あるいは健康保持)(うつ・自殺等の予防対策)
● 地域保健の充実

2 総合福祉法(仮称)と重度身体障害者、重症心身障害者

重度身体障害者、重症心身障害者については、これまでの医療と福祉が統合された施策体系を通じて実現されてきた到達点を尊重するとともに、日常的に医療的支援を必要とするこれらの者の地域での生活を支える、手厚い医療的支援体制を備えたショートステイ、通園、在宅支援の機能を地域に整備することが不可欠。

(具体的内容は、「1 全体に共通する事項」の記述のとおり。また、次の難病の項における医療的ケアの記述は、重度身体障害者、重症心身障害者にも該当。)

3 総合福祉法(仮称)と難病

難病については、概念整理を並行して進めることが必要であり、今後、当事者の参画した審議会を設けて検討を進めながら漸進的な制度整備を図ることが重要。

対象者は、難治性慢性疾患のある障害者として可能な限り幅広くとらえるべきである。そのニーズは疾患の特性に応じ多様だが、医療と福祉のニーズが分離しがたく結びついている点は共通している。医療と福祉の有機的連携を確保しつつ、生活支援が講じられることが必要。併せて、地域での生活を支え、家族の負担を軽減するレスパイトケア、ショートステイを充実させていくことが不可欠。

(1)医療的ケア

● 生活を支えるため不可欠な支援でありながら福祉と医療の接点で制度上の課題となっている、障害者の受ける「医療的ケア」の概念を次のように整理した。「医療行為として行われていたが、現在は、その障害者の家族に許可されている、または、家族が通常行っている、生きていくのに不可欠な行為であって、その障害者に生理的結果をもたらす行為」。こうした医療的ケアのうち、たんの吸引及び経管栄養については、一定の要件のもとで介護職も行えるよう制度改正がなされたところである。

● 今後、さらに必要な医療的ケアの対象への追加を検討するとともに、これを家族以外の第三者である介護者も行えるようにし、また、家族のいない独居者に対しても同様に行えるようにすることが重要。

(2)コミユニケーション支援、外出支援

● 難治性慢性疾患のニーズは多様だが、これにこたえられる医療と福祉のサービスは未だ乏しい。たとえば、在宅のALS患者が必要なときにかかれる病院はない。ALS、遺伝性難病、事故後遺症などで超重度のコミュニケーション障害がある障害者には、コミュニケーション確保のための通訳者などのサービスは保障されていない。その解決を図っていくことが必要。

(3)当事者が参画した審議会の設置

● 難病については、総合福祉法の対象として難病を取り入れるという方向は、共通認識になりつつあるが、「難病とは何か」という概念についてさらに整理が必要。難治性慢性疾患のある障害者へのサービスのあり方は、専門性の高い領域であり、多義にわたる課題が残されている。漸進的な制度整備を図ることが必要と考えられ、総合福祉法の制定後にも、当事者の参画を確保しながら、さらに検討を行っていく審議会が必要。

● 審議会で検討すべき項目として、以下のものがある。

  • 難病に関する保健所の機能の抜本的拡充
  • 難病医療に関わる医師・医療機関の養成と拡充
  • 都道府県の難病医療連絡協議会の機能強化(医療相談、入院施設の確保)
  • 当事者が参画する難病相談支援センターの拡充、関係機関との連携強化
  • 難病の特性に配慮した診療報酬加算の拡充、医師による「相談」等に診療報酬を
  • 長期療養を必要とする難病、難治性慢性疾患への高額療養費の軽減または無料化の検討
  • 難治性慢性疾患患者の療養と生活に関する継続的調査・研究の推進
  • 自立支援医療(更生医療・育成医療)の拡充と継承
  • キャリーオーバー(小児慢性特定疾患が20歳で医療費の公的支援を打ち切られる問題)の解決(20歳以上も継続して支援を継続する)
  • 稀少難病患者会の育成・支援

(4)難病対策要綱に関連する事項

● 難病対策要綱関連で検討すべき項目としては、以下のものがある。

  • 難病対策要綱の「支える医療部分」の発展的継承
  • 難病対策委員会の福祉的施策の研究促進

4 総合福祉法(仮称)と精神障害者

精神障害者については、精神科病院から地域への移行を実現するための地域資源の整備、とりわけ住まいの確保や必要なときに身を寄せる場の確保などの支援が、地域へ出向く医療の充実と相まって進められることが不可欠。また、精神障害者の入院について人権を尊重した適正手続の確保と、保護者制度の見直し、家族支援の充実が不可欠。

発達障害者については、専門的力量をもったスタッフの養成確保が著しく不十分であるという現状の改善とともに、福祉、教育、保健と真に連携した質の高い医療の確保が不可欠。

(1)サービス体系の在り方について

● 個別給付による訪問サービスの体系確立

入所施設や病院生活でパターン化された画一的な生活リズムから、変化に富んだ地域の生活に順応するには、アパートなどの地域の暮らし中で相当の月日をかけた生活支援が必要となる。ホームヘルプサービスだけでなく、本人の力を引き出すための訪問による福祉サービスを位置付けることが必要。(現行の訪問による生活訓練の強化等)

● 病状悪化時に365日24時間対応型の危機センターの設置(相談支援事業所に併設が可能か?)

福祉サービスとして24時間訪問型を制度に組み込み、「話を聞いてもらいたい」「不安が強い」といった医療機関を受診する前の一時的な対応を担い、医療との棲み分けと連携の視点を盛り込むことが必要。

● ドロップインセンターとしてのショートスティ・レスパイトの充実(相談支援事業所に併設が可能か?)

障害者が調子を崩したとき、家族との関係が一時的に悪化したとき等に、入所・入院を防ぐあるいは再発予防のためのドロップインセンターとして、必要時にすぐに使えるレスパイトやショートステイが必要。その際、障害程度区分に依らず使える仕組みとすることが必要。

● 自立支援法の地域活動支援センターを強化

回復前期や調子を崩した時に気軽に利用できる居場所機能の充実を図ることが必要。

● 働きたいと望む人への就労支援の強化

障害者の半数以上の人が将来働きたいと希望している。地域生活移行後の暮らしを豊かにする方法として、就労支援は日中活動の中で重要な位置を占める。就労を希望する障害者には、施設の中ではなく、企業や働く場での支援の強化を盛り込むことが必要。

● 非自発的入院における行政の責任と自立支援医療の公費負担

非自発的入院については(司法を含む)行政の監視化におき、人権管理を強化し、入院費用は人権制約の代償として公費負担とすべき。

(2)医療と福祉の統合的な支援、生活実態に即した支援等

● 福祉と医療の多職種チームによる訪問支援の充実と連携強化

福祉と医療による24時間訪問サービスの連携が、地域生活を支えていくうえで必要不可欠。

(3)地域移行の支援、並びにその法定化

● 地域移行支援の個別給付化

長期入院者で施設の環境からの離脱が著しく困難な者や、入退院を頻繁に繰り返す者は、集中的な社会トレーニングを必要としており、それぞれの状況に応じた各個人の地域移行計画を策定し、多角的な支援で地域移行が順調に進むような支援体制を構築することが必要。

上記の支援体制の構築に当たっては、現行の障害者自立支援法における自立訓練宿泊型、またはグループホームを活用した医療観察法入院処遇者の地域移行モデルを発展させた仕組みが有効である。この支援体制は病院の中で行うのではなく、地域の中で行うべき。

● 長期入所・入院者が地域移行する際の福祉サービス個別給付への加算

長期入院者(3ヶ月以上等通常の治療では退院が難しいとされる基準が必要)の地域移行(退院)支援には、地域に定着するまでの一定期間(状況に応じて半年~2年間)通常の福祉サービスに加算を設けることの検討が必要。

日本においては、多数の障害者が施設や精神病院での暮らしを余儀なくされている現状がある。更に、現に地域社会で暮らしている障害者も、受け皿となるシステムがないため、その日常生活や社会生活に多くの困難に囲まれている現状がある。そうした現状を打破し、希望する人すべてが地域社会での生活を実現するには、諸外国での成功事例を取り入れた地域生活移行支援システムを構築することが急務。

(4)発達障害児者の医療

①専門性あるスタッフの養成、医療施設の充実

● 発達障害がもたらす二次的な行動・症状へは福祉、教育、保健、医療などの対応が必要であるが、医療の選択肢がおろそかにされてきた。

● 発達障害児への対応は児童青年精神科、小児精神科などで対応しているが、専門性あるスタッフ・施設とも不足しており、発達障害児の増加に追いついていない。専門性あるスタッフの養成が必要。

● 発達障害者の医療は確立されていないため、必要な発達障害者は行き場がなく、誤診によって二次障害が発生することもあり精神科医療の現場で混乱をきたしている。早期の支援が必要。

②福祉をはじめ他分野と医療の連携強化

● 福祉対応と医療対応が時には対立した経過があり、現状でも連携強化が必要。

● 知的障害施設では発達障害を伴う場合が大多数であり、行動・症状への医療的対応が必要であるにもかかわらず放置されている。

● 福祉だけで対応困難な場合の外来対応に加え、一時的な入院が必要な際の専門病床の設定が必要。

● 発達障害があっても医療が受けられることの保障が必要。

4 聴覚障害者等、上記の種別以外の障害者の医療について

聴覚障害者等、上記の種別以外の障害者の医療においても、地域生活を支える観点から、福祉と有機的に連携した医療の提供、専門従事者の養成と確保、当事者間のサポート、医療内容向上のための研究推進が重要。

(具体的内容は、「1 全体に共通する事項」の記述のとおり。)

Ⅲ.おわりに

1 他チームと連携をはかるべき内容

● 医療と福祉の統合的な支援のあり方と、その具体的推進方策として重要な総合的なケアマネジメントについて、支援(サービス)体系のあり方に関する検討との連携・調整が必要。

● 地域移行の推進について、地域生活の資源整備に関する検討との連携・調整が必要。

● 自立支援医療に伴う利用者負担のあり方について、利用者負担チームでの検討との調整が必要。

2 今後の検討課題

● 日常生活を支えるために不可欠な医療的ケアについて、すでに制度改正がなされた、たんの吸引及び経管栄養に加え、さらに必要なものについて、一定の要件のもとで介護者が行えることとする制度改正について検討が必要。

● 難病に関する概念をさらに整理するため、今後、当事者の参画した審議会を設けて検討を進めながら漸進的な制度整備を図ることが必要。

● 精神障害者については、精神医療における拘束、電気ショックなど医療の内容に踏み込んだ人権確保の観点から適正手続の確保、保護者制度の見直し等について、精神保健福祉法の抜本的な改正が必要。
精神医療を一般医療体系へ編入するとともに、精神障害者の身体合併症への医療が円滑に行われるよう、医療法等の医療法制の改正が必要。


総合福祉部会 第11回(H23.1.25) 資料10-2

第1期作業チーム報告レジュメ(医療)

第1期(H22.10~12月)における検討事項

テーマ:障害者権利条約の考え方を踏まえ、精神医療を中心に議論した。

Ⅰ.はじめに

本チームは、障害者の権利に関する条約を我が国が批准するにあたり、精神障害者の非自発的な入院や身体拘束が、「精神保健福祉法」、「医療観察法」等で法的に規定されていること等が、人権保護上問題があるのでは、という視点に立ち、障害者の医療に関連する現行法体系を廃止または抜本的に見直し、諸法の法改正、制度構築、財政措置の実施が法的に担保されるべく、検討を行った。

Ⅱ.障害者基本法盛り込むべき内容

(医療・合同作業チームにおける結論)

(1)「社会的入院」を解消し、自立(自律)した生活及び地域社会へ包摂のための施策の根拠となる規定を設けること。

(2)医療保護入院に係る同意を含む「保護者制度」を解消するための根拠となる規定を設けること。

(3)精神疾患の入院ニーズを精査し、国並びに都道府県は精神科病床の削減計画を立て、入院に代わる地域での医療体制を構築すること。

(4)強制的な入院は人権保護の観点から原則として認められないことを確認し、人権制約が行われる場合には、障害のない人との平等を基礎とした実効性のある適正手続を保障する規定を設けること。そのためには司法、行政等の第三者が当該措置を人権配慮の観点から責任もって実施する等、本人の権利擁護のための仕組みが必要である。

(5)精神医療の質の向上に努めることの根拠となる規定を設けること。

(6)精神障害者が身体合併症治療のために一般医療を受ける必要が生じた場合の対応など、一般医療における問題点の解消。

Ⅲ.おわりに

地域生活支援・地域移行を実現するに当たっては、退院する人を地域で支える住居の確保、就学、就労など地域移行支援システムの構築が必要不可欠である。その際、精神障害者本人の主体性を尊重することが何よりも重要である。


総合福祉部会 第15回(H23.6.23) 資料7-1

「医療(その他の医療一般)」合同作業チーム報告書の概要

● 医療・合同作業チームでは、障害者の医療をめぐるさまざまな現状、課題、解決策等について、まずは、障害者総合福祉法(仮称)に反映されるべきものかどうかを問わず、障害当事者の経験に即した視点から議論した。そのうえで、本まとめの本文では「障害者総合福祉法の論点」に該当する項目と、より幅広くその他の法令等で対応が図られるべき項目とを整理して章立てし、記述した。

● 障害の種別を問わず、障害者の医療のあるべき姿を考えていくうえで「地域における障害者の生活を支える医療」という視点が重要。これを実現するためには、福祉サービス及び保健サービスとの有機的連携を確保しながら医療が提供される必要があるが、それが未だ十分になされていない現状を改善することが制度改革の大きな目標と考えられる。

その具体的な推進方策として、福祉と医療が有機的に結びついたサービスが必要な障害者には相談支援の際にそのニーズに合った総合的な計画が作成されるべきであり、本人が総合的なケアマネジメントを必要とする場合にそれをサービスとして提供することが制度化されるべきと考えられる。

● 障害者の医療の現状と課題は、障害の種別に応じて一律には論じきれない側面もあることが認識された。障害の種別に応じて、特に、次のような側面が重要と考えられた。

① 重度身体障害者、重症心身障害者については、これまでの医療と福祉が統合された施策体系を通じて実現されてきた到達点を尊重するとともに、日常的に医療的支援を必要とするこれらの者の地域での生活を支える、手厚い医療的支援体制を備えたショートステイ、通園、在宅支援の機能を地域に整備することが不可欠。

② 難病については、概念整理を並行して進めることが必要であり、今後、当事者の参画した審議会を設けて検討を進めながら漸進的な制度整備を図ることが重要。

対象者は、難治性慢性疾患のある障害者として可能な限り幅広くとらえるべきである。そのニーズは疾患の特性に応じ多様だが、医療と福祉のニーズが分離しがたく結びついている点は共通している。医療と福祉の有機的連携を確保しつつ、生活支援が講じられることが必要。併せて、地域での生活を支え、家族の負担を軽減するレスパイトケア、ショートステイを充実させていくことが不可欠。

③ 精神障害者については、精神科病院から地域への移行を実現するための地域資源の整備、とりわけ住まいの確保や必要なときに身を寄せる場の確保などの支援が、地域へ出向く医療の充実と相まって進められることが不可欠。また、精神障害者の入院について人権を尊重した適正手続の確保と、保護者制度の見直し、家族支援の充実が不可欠。

発達障害者については、専門的力量をもったスタッフの養成確保が著しく不十分であるという現状の改善とともに、福祉、教育、保健と真に連携した質の高い医療の確保が不可欠。

④ 聴覚障害者等、上記の種別以外の障害者の医療においても、地域生活を支える観点から、福祉と有機的に連携した医療の提供、専門従事者の養成と確保、当事者間のサポート、医療内容向上のための研究推進が重要。

● 障害を理由とする診療拒否や医療従事者による不適切な説明など、深刻な問題となっている差別的対応の解消が必要。また、日常生活を支えるために不可欠な医療的ケアを家族以外の第三者である介護者も行えるようにするとともに、家族のいない独居者に対しても同様に行えるためのさらなる環境整備が必要。

● 医療に係る経済的負担については、「障害に伴う費用は障害者個人の負担とせず社会全体で支え、障害と関係なくすべての人が支出する費用は障害者も同等に負担する」という原則が適用されるべきとの意見があった一方、障害福祉サービスは障害のない者が利用することはないのに対して、医療は誰もが一部自己負担を払って利用するという性格があることから、自立支援医療についても、当面、応能負担を原則とする制度として運用することが適当とする意見があった。


総合福祉部会 第15回(H23.6.23) 資料8-2

「障害児支援」合同作業チーム報告書

Ⅰ はじめに

障害児は、障害のない子どもと等しくすべての権利が保障されなければならない。障害児にとって必要な支援と合理的配慮は、一般の児童施策(以下、児童一般施策という)において保障されなければならならず、障害故の固有の支援は障害児施策として地域社会の身近な場所で保障されなければならない。また、そのために必要な財源の確保と財政上の措置を講じるべきである。

障害児支援合同作業チームは、このような基本的な視点に立ち、論点整理を行った。

Ⅱ 結論とその説明

1.障害児の基本的権利と権利擁護

(1) 基本的権利

障害児は、障害の種類や程度にかかわりなく、一人の子どもとして他の者と平等に扱われるべきであることを確認し、以下の権利を明記すること。

児童に関する権利条約は、以下の権利を規定しており、それに沿う規定を児童福祉法に設けるべきである。

① 他の子どもとの平等の確保

障害児は、一人の子どもとして他の子どもと等しく、全ての権利を有する。

② 子どもの最善の利益

障害児にかかわる事項の判断や決定では、最善の利益が考慮され、他の子どもと同様に尊厳と成長が保障される。

③ 子どもの意見表明権

障害児は、障害及び年齢に適した支援を活用し、自己にかかわる事項について自由に意見を表明する権利をもつ。「意見」には、子どもの意思や感情の動きも含む。

(2) 権利擁護

①から③の基本的権利を保障するために、オンブズパーソンを制度化すること。

障害の有無や程度にかかわらずすべての子どものための権利擁護の仕組みを市町村に設けるために、オンブズパーソンを児童福祉法で法定化すべきである。一部の自治体では条例で設置している例もあるが、これを国連の子どもの権利委員会の勧告(CRC/C/JPN/CO/3,2010.6.)を踏まえ、法律上設置するべきである。また、児童相談所運営指針では、子ども自身の意見を聴取することになっている。意見表明は子どもの権利であることが意識され、その意向に基づいて支援が講じられるようにオンブズパーソンを制度化すべきである。

2.児童一般施策における支援

(1) 身近な地域での支援

児童一般施策と障害児施策が重層的に保障されるよう制度設計されること。

子どもの頃から地域の中で子どもと共に遊び、学び、育つことは当然の権利として保障されるべきであり、その施策は、共に暮らし共に働くことにつながる。支援は、生活の場にできる限り近いところで提供されるべきである。そのためには、児童一般施策に障害児が位置づけられた上で、必要な障害児施策のサービスが利用できるよう、重層的に制度設計されなければならない。

(2) 児童一般施策と障害児施策の関係

障害児が、児童一般施策から排除されることのないように、「子ども・子育て会議」(仮称)や「子ども・子育て新システム事業計画」(仮称)に障害児や家族等が参画し、障害児の視点を盛り込み、制度設計されること。

児童一般施策と障害児施策の両方があることによって、障害児を児童一般施策から閉め出すことがなく、また、障害児施策があることによって障害児が児童一般施策を利用しにくくならないようにするための規定を児童福祉法に設けるべきである。子ども・子育て新システムにおいて検討されている「子ども・子育て会議(仮称)」や「新システム事業計画(仮称)」等も、上記の理念の下に検討が進められるよう障害児、家族及び支援者が参画したうえで定められるべきである。

(3) 早期支援

乳幼児健診を、医療・療育の保障はもとより、地域における子育て支援や保育所入所など、早期の地域支援につながるよう制度設計されること。

現在障害の早期発見は、母子保健法に基づく新生児・未熟児訪問指導、1歳半、3歳児健康診査等によってなされている。母子保健法の目的は、乳幼児の保健指導、健康診査、医療その他の措置を講じることにあるが、保健指導や医療の保障にとどまらず、障害児が地域の子どもの一人として地域生活を可能とする支援につなぐよう制度設計されなければならない。健康診査等による要支援児に対しては、家庭への訪問・巡回等、家庭での育児支援を基本的な在り方とし、児童及び保護者の意思に基づいて、医療機関、入所施設や児童発達支援センター等を活用できるようにすべきである。

母子保健法は、学校保健安全法、児童福祉法等に基づく事業と協調するよう規定されているが、現状は、障害の発見から療育、特別支援教育へと「特別な支援過程」につながるだけのことが多い。母子保健法、学校保健安全法と児童福祉法に基づく事業の連携と調和を、地域の子育て支援から地域の学校への就学につなぐことの出来る制度設計が必要である。

保育所等訪問支援事業の訪問対象に「家庭」を加えること。

「障がい者制度改革推進本部等における検討を踏まえて、障害保健福祉施策を見直すまでの間において障害者等の地域生活を支援するための関係法律の整備に関する法律(以下、つなぎ法という)」において創設される保育所等訪問支援事業は、障害児施設、児童発達支援センターから訪問・巡回して専門的技術や情報を提供するため、保育所等の児童一般施策での障害児支援の向上させることが期待されているが、育児支援を充実するためには訪問対象を「家庭」まで拡大することが必要である。

(4) 「こども園」(仮称)での支援

「こども園」(仮称)は、障害を理由に入園が拒否されることのないよう、制度設計されること。

児童福祉法では、保育所の入所要件として、障害を想定した規定はない。今後「子ども園」(仮称)の創設等制度改革が予定されているが、その際、障害を理由に入園が拒否されることのないよう制度設計されるべきである。また、必要な支援が確保されるよう加配等が考慮されなければならない。「定員以上に応募がある場合の選考」については、国が選考基準を設けることが予定されているが、障害をもつことが不利益になるような選考基準を定めるべきではない。

「こども園」(仮称)が障害児支援の能力を欠く場合で、かつ保護者が希望する場合には、児童発達支援センター等との並行通園や保育所等訪問支援事業の活用ができるよう児童福祉法に規定するべきである。

「こども園」(仮称)においては障害児の合理的配慮を保障すること。

障害児が一般の子どもと等しく権利を保障されるために、その子の特性にあった必要な配慮が保障されなければならない。保育士の加配や、医療的ケアが必要な場合には看護師を加配もしくは巡回させる等の支援を個別給付として講じるべきである。

(5) 放課後児童クラブでの支援

障害児が、放課後児童クラブへの参加を希望する場合には、障害を理由に拒否せず、かつ必要な支援を講じるよう、制度設計されること。

放課後児童クラブの参加は、障害の有無や程度によって制限されるべきではない。指導員の加配や医療的ケアを必要とする子には看護師等の配置をして受け入れるべきである。多様な子どもへの支援の提供を可能とするために、保育所等訪問支援事業の訪問対象に放課後児童クラブを含めるべきである。

(6) 要保護児童としての障害児

虐待等の要保護児童である障害児が家族生活に戻れるよう、親・家族へのカウンセリングや育児支援等を提供できるよう制度設計されること。家庭復帰が困難な場合には、専門里親制度やファミリーホームなど家庭に近い環境での養育が保障されること。

児童養護施設に措置されている子どもの約四分の一が障害児であると言われ、また、障害児入所施設の中にも養護性の高い子どもが入所している状況がある。児童養護施設の障害児支援や障害児入所施設の社会養護の在り方について検討すべきである。

子どもは家族の一員として尊重されるべきであり、親・家族に対するカウンセリングや育児指導が入所中に実施できるよう、より多くの心理士等の配置を図るべきである。しかし、家族による養育が困難で、入所児の家庭復帰が困難な場合には、専門里親やファミリーホームなどの家庭に近い環境で養育されるべきであり、児童発達支援センターや障害児入所施設等による巡回、訪問による支援の仕組みが必要である。

3.障害児施策

(1) 療育

地域社会の身近な場所において専門性の高い療育(障害児に対する発達支援・育児支援・相談支援・医療的支援等)を活用できるよう、制度設計されること。

すべての子どもが、自立と自己実現を図ることができるよう支援されることは重要である。障害児にとっても同様であるべきで、その際に、個々の特性を踏まえた専門的な支援を身近な地域で得られるようにすべきである。身近な地域で支援が得られない場合には、児童発達支援センターや障害児施設等が遠隔地域に巡回し相談支援や保育所等訪問支援事業による支援を提供すべきであり、その規定を児童福祉法に設けるべきである。

(2) 訪問系サービス

障害児が自立するための経験を保障するために、現状では活用しにくいことが多い訪問系サービスを利用しやすくすること。

障害児の通園や通学は、移動支援事業や行動援護の対象にならないことが多い。また、支給が決定されても、障害児を対象にサービスを提供する事業者が少ないため、サービスを利用しにくいという問題がある。結果、障害児の自立的な活動の制限だけでなく、親の就労などにも支障が生じる。障害児が利用しやすい公的介助制度が必要であり、パーソナルアシスタンス制度の創設も含め検討されるべきである。

(3) 通所支援

身近な地域で発達支援を受けられるよう、児童発達支援センター等は、通所支援だけでなく、保育所等への訪問型支援や学齢障害児も対象にした発達支援を講じること。

① 生まれ育つ身近な地域での療育の提供

障害児施設の設置状況は地域格差が大きい上に、障害種別に分かれているため、身近な地域で適切な支援が受けられない場合が少なくない。加えて、人口過疎地域の障害児支援を担う児童デイサービス事業の多くは、人材、専門機能の両面で弱体であることが多い。今後、市町村は責任をもって、身近な地域で療育が受けられる体制を構築しなければならない。

障害児通園施設と児童デイサービスの機能は、つなぎ法により児童発達支援として一元化される。今後は、障害児通園施設が障害種別に分かれて培ってきた「専門性」を、他の児童発達支援センターや放課後等デイサービス事業所等に提供して相互のレベルアップを図り、真の意味の「一元化」を目指すことが必要である。また、地域の保育所等をバックアップして、地域全体の障害児支援機能を向上させることも必要である。そのために、保育所等訪問支援事業や巡回支援専門員整備事業、都道府県事業である障害児等療育支援事業の拡充・拡大を図るとともに、その対象を、保育所等だけでなく、他の児童発達支援センターへも適用することを考慮しなければならない。

② 学齢期の障害児に対する支援の継続

これまで障害児通園施設は概ね就学前の障害児を対象にしてきたが、今後は、放課後等デイサービス事業の受託等により学齢期の障害児も対象にすべきである。また、その提供には送迎サービスを含むべきであり、この場合には送迎加算を考慮すべきである。また、重症心身障害児の受け入れに対しては看護師の加配や医療連携加算なども検討される必要がある。

③ 多職種職員の配置による発達支援機能の向上と多機能化

児童発達支援センターは、すべての障害児を対象にするため、その職員配置基準も統一する必要がある。職員配置については、保育士および児童指導員を基本とした配置基準を設定し、重症心身障害児の積極的な受け入れのために看護師の配置、多様な障害に対応するために療法士等の専門職の配置を、「専門職加算」等によって図る必要がある。医師を配置し医療機関を有する児童発達支援センターを「医療型」と位置付け、超重症児等の濃厚な医療的支援を基盤とした通園および在宅支援、てんかんや発達障害児への投薬なども含む障害児医療機能の地域拠点として発展させるべきである。

(4) 障害児入所施設

入所施設に障害児の自立生活に向けた「自立支援計画」の策定を義務づけるとともに、入所から地域生活の移行では、重度障害児の在宅生活が可能となるよう地域資源を整備すること。その際、できるだけ家庭に近い養育環境への移行となるよう検討すること。

①障害児入所と障害児の最善の利益

障害者自立支援法によって、入所施設は措置から契約が原則となった。障害児は契約当事者が保護者であり、保護者の必要性から入所が判断される場合が多く、必ずしも障害児にとって最善の利益となっていない恐れがある。障害児施設の入所にあたり、子ども自身の意見表明をふまえ、子どもの視点から最善の利益を保障できる権利擁護の仕組みが必要であり、オンブズパーソンが制度化されるべきである。

②「自立支援計画」の策定の義務付け

児童養護施設等に義務付けられている自立支援計画は、障害児入所施設には義務付けられていない。障害児入所施設には、児童相談所等との協議にもとづき将来の自立生活に向けた「自立支援計画」の策定を義務化するべきである。その施策の根拠となる規定を児童福祉法、児童福祉施設最低基準に設け、運営ガイドラインも整備すべきである。

③家庭に近い養育施設の整備と地域生活支援

自立支援計画を立案しても、親・家族の養育能力に問題があり家庭に戻れない場合には、できるだけ家庭に近い環境での養育が可能になるべきである。そのために、専門里親制度の拡充や障害児を対象とするファミリーホームの創設が望まれる。同時に、障害児入所施設の小規模化、ユニット化を促進するために加算措置が検討されるべきである。

継続した医療等の支援が必要な重症心身障害児の地域移行にあたっては、命と生活の質が保障される実証的な地域支援の仕組みについて検討するモデル事業を行い、保護者・家族の不安や負担を十分に受け止め、合意を得ながら進めていくことが必要である。

④家族支援

NICUから在宅生活への移行準備、障害が発見された直後の親に対するカウンセリング、障害児の育児指導等において医療型障害児入所施設を利用した母子入園の取組は有効であるため、拡充されるべきである。また、在宅支援のために、すべての障害児入所施設に相当数のショートステイ枠を設けるべきである。

入所施設は、地域の社会資源の一つとして、在宅支援など多機能化すること。

入所施設は、療育における専門的な社会資源として、相談支援事業所、医療・保健機関、教育機関、通園施設等との地域ネットワークをつくり、ネットワークを生かした重層的支援の要となるべきである。また、保育所等訪問支援事業により、保育所を含む地域の機関や家庭などに対する訪問・巡回型支援を行い、在宅生活の障害児やその家族への支援も広く行うべきである。

また、医療療育関係者の育成、研修生の受け入れ、講習会開催、ボランテイアの育成等にも積極的に、取組むべきである。

入所決定においては市町村が関与できるよう制度設計されること。

つなぎ法においては、入所権限は都道府県のままであるが、入所後も障害児が地域の子どもとして意識され、家庭や地域に戻り地域の子どもとしての育ちを保障されるために、市町村の関与は不可欠である。地域間格差が拡大しないよう配慮しつつ、市町村が関与できるよう制度設計されなければならない。

特別支援学校の寄宿舎の本来の役割は通学を保障することにあり、自宅のある地域社会から分離されないよう運用されること。これ以外の役割については、実態を調査し、地域生活への移行に向けた方策を検討すること。

寄宿舎は本来広域学区である特別支援学校への通学保障のために設置されたものであるため、学校が休みとなる土・日曜日や夏季休暇中は家庭に戻り、地域生活を維持しうるよう配慮されなければならない。特に、6歳から入舎となる小学部の寄宿舎については家庭生活からの早期分離とならないよう、また、規模が拡大する傾向がある高等部寄宿舎については可能な限り小規模化するよう、実態を調査したうえで検討するべきである。通学保障以外の役割については、卒業後の進路生活相談や訪問系サービスの活用等を通じ、地域生活への移行に向けた社会資源としての有用性を検討すべきである。

(5) 保護者支援、きょうだい支援

障害児の保護者、きょうだい支援を拡充すること。

障害児が家族の一員として尊重され、障害ゆえに不利益な扱いが生じないように、育児支援に加え、家族への支援は不可欠である。

例えば、障害児の家族にもレスパイトケアが必要とされているが、利用時間や回数に制限があるだけでなく、医療的ケアが必要な障害児には対応できないという理由で利用できない実態があるため、対応できる事業所の拡充も必要である。また、訪問系サービスをレスパイトケアの目的で利用できるよう弾力的対応ができるようにすべきである。

きょうだいに対しては、きょうだいが孤立しない配慮が必要であり、きょうだいによるグループ活動や団体活動への支援が施策として講じられるようにすべきである。

4.相談支援と「個別支援計画」等

(1) 地域の身近な場所での相談支援体制

相談支援は、障害が特定されない時期から、身近な地域の通いやすい場所で提供されること。

相談支援は、地域の身近な場所においてワンストップ型で提供されなければならない。そのために、相談支援事業者でのサービス利用の手続の簡素化が必要である。例えば、相談支援事業所で作成されるサービス利用計画については、計画作成をもって障害児施策以外の児童一般施策、並びに子ども園(仮称)への代理申請を可能とするなど、障害児及び保護者が相談のために奔走しなくてすむ仕組み作りが必要である。また、児童家庭支援センターを児童発達支援センターや障害児入所施設に付置できるようにしたり、児童家庭支援センターが障害児相談支援事業等を実施できるよう、取り組まれるべきである。

地域子育て支援拠点事業には、障害児子育てについて相談対応できる者がいない場合が多いため、障害児支援ができる職員を配置したり、障害児施設等から専門的支援が受けられる仕組みが必要であり、障害が特定されない早期の段階から相談できるようにすべきである。また、障害児相談支援事業所との連携や相互補完のシステムが必要である。

(2) ケアマネジメント

ケアマネジメントは、障害児の基本的権利の擁護を基本に、地域での育ちを支援する方向性をもって実施されるべきであり、サービス利用計画の立案、支援の調整、改善を含めるものとして、制度設計されること。

障害児に対するケアマネジメントは、障害児の基本的権利の擁護を前提に、「地域での育ち」と「育児支援」を目的として実施されるべきであり、子どもと家族の主体性に配慮したアセスメントに基づき、子ども支援、家族支援、地域連携の理念のもとに、障害児支援にかかる諸機関の協力の下で実施されなければならない。また、「個別支援計画」は、6カ月程度の適切な期間で見直され、支援の調整、改善が行われるべきである。また、個別の支援計画は、福祉、教育、医療等、利用するサービスを一つの計画として策定すべきであり、そのためのケアマネジメントが行われるように児童福祉法に規定を設けるべきである。

(3) 「個別支援計画」

障害児・家族にとって身近な地域における支援を利用しやすくするため、総合計画としての「個別支援計画」を制度化すること。

適切なケアマネジメントにもとづいて、「個別支援計画」は総合計画として策定されるべきである。支援は、障害児とその家族の生活の場で、継続的かつ自然な形で提供されなければならない。サービス提供の継続性を担保するために、サポートブック等の利用も進められる必要がある。また、制度理解やサービス利用のためには、保護者の求めがあれば、ピアサポーターからの適切なアドバイスを得られるように、児童福祉法、自立支援法に規定を設けるべきである。

乳幼児期の「個別支援計画」は、保護者・きょうだい等への支援を含む家族ぐるみの支援計画として策定すること。

乳幼児期の「個別支援計画」は、保護者、きょうだいを含めた家族全体の支援を含むものとして策定し、サービス利用が円滑に提供されるよう、児童福祉法、自立支援法に規定を設けるべきである。

障害児の意見表明を踏まえた「個別支援計画」とすること。

「個別支援計画」作成においては、障害児の最善の利益が考慮されなければならず、そのために、障害児の意見表明が担保されるような仕組みが構築されるべきである。「個別支援計画」に、障害児自身の意見を記入する欄を設け、保護者等の意向とは別にそのニーズが検討できるようにすべきである。その際、障害児の年齢や障害程度に影響されることなく、表情などを含めた意思表明を支援できる技術の開発やオンブズパーソンの仕組みについて、児童福祉法及び障害者自立支援法に規定を設けるべきである。

策定において、個人情報の保護と障害児及び保護者に対する説明と同意を義務付けること。

相談支援やその後のサービス利用で円滑な情報共有を図るために、サービス利用計画の作成に加えて、サポートファイル等を活用している自治体の例がみられる。サポートファイル等の活用にあたって、障害児の親が障害児の個人情報を管理できるよう、保護者の合意と承諾を前提とした情報共有の方策が、児童福祉法、自立支援法に規定を設けられるべきである。

(4) 要保護児童対策地域協議会と地域自立支援協議会の連携

障害児とその家族への早期支援を保障するために、要保護児童対策地域協議会と地域自立支援協議会が連携できるよう、地域自立支援協議会の構成機関に守秘義務等の根拠となる規定を設けること。

乳児家庭全戸訪問事業等で検討が必要なケースは要保護児童対策地域協議会で対応されるが、地域自立支援協議会での検討と重なる子どもについては、保護者の同意の下に合同で協議会を持つ等、一元化するべきである。また、要保護児童対策地域協議会の構成員として、障害児福祉関係者(障害児相談支援事業所や児童発達支援事業所等)が加わることも考慮する必要がある。

つなぎ法によって地域自立支援協議会が法定化されるが、同協議会の中に子ども部会の設置を義務付け、児童一般施策との合同の協議会を持ちやすくするべきである。また、児童相談所と地域自立支援協議会の子ども部会、要保護児童対策地域協議会とが連携して、施設入所している障害児が夏休み等に帰省した際にも地域の子ども施策の支援を受けやすくすべきであり、その施策の根拠となる規定を児童福祉法に設けるべきである。

この連携が、個人情報保護の下に進められるように、各協議会の委員への罰則付きの守秘義務の規定を児童福祉法及び障害者自立支援法に規定を設けるべきである。

(5) 利用者負担

障害を理由に、新たな負担が生じないよう、制度設計すること。

児童一般施策のサービス利用は、障害の有無にかかわらず「養護しているものの資力を考慮して可能な限り無償」であるべきだが、並行通園等の障害にもとづき必要となるサービス利用は、利用者負担が新たに生じないようにするべきである。

(6) 安定的なサービス提供

障害児のニーズを踏まえた多様なメニューを提供するために、給付額の設定は、月額単価を基本とすること。

現在、障害児入所施設は日額単価制となっているが、児童養護施設など社会的養護施設は月額単価制とされている。子どもは体調不良等で欠席することも多く、このことが施設経営に影響を与えている。また、施設入所児童の地域移行を進めていくためには、試験外泊なども進めていくことが必要である。このため、これらの施設の単価は、サービス利用計画に基づく利用予定日数をベースに設定される月額制の導入を検討し、経営の安定化を図りつつ地域移行や療育が進められていくようにすることが必要である。

福祉サービスの利用料の利用料滞納によって、サービス提供に支障が生じることのないよう、子どもの最善の利益を侵害する場合の対応については、行政の関与を検討することが必要である。さらに、保育士等の従事専門職の待遇向上や配置基準の改善等、確保策の検討も必要である。

5.人材育成

障害児支援の充実のために、必要な職員等を確保し、研修を行うこと。

児童一般施策、及び障害児施策において、障害児支援を充実させるために、職員の資質向上を図ることが必要である。新設される障害児相談支援事業を強化するために、障害児のための相談支援専門員の養成のシステム化や障害児施設における多様な専門職の確保と配置基準の見直しが必要である。

また、保育士資格や養成制度の見直し、こども園における保育教諭(仮称)の創設に当たり、障害児に対する理解や療育に関する資質の確保を図ることが必要とされている。

Ⅲ おわりに

1.他チームとの調整を図るべき内容

・支給決定で用いられるべき客観的スケールの在り方と障害児の入所で用いられる障害程度区分の在り方について(障害支援区分の導入も含めて)、その必要性も含めて整理が必要である。

2.今後の検討課題

・障害児支援については、今後も継続して検討する場を設定することが必要である。

:(教育、児童一般の関係者、親、障害当事者なども含めた議論が必要である。)


総合福祉部会 第15回(H23.6.23) 資料8-1

「障害児支援」合同作業チーム報告書の概要

Ⅰ はじめに

障害児は、障害のない子どもと等しくすべての権利が保障されなければならない。障害児にとって必要な支援と合理的配慮は、一般の児童施策(以下、児童一般施策という)において保障されなければならならず、障害故の固有の支援は障害児施策として地域社会の身近な場所で保障されなければならない。また、そのために必要な財源の確保と財政上の措置を講じるべきである。

障害児支援合同作業チームは、このような基本的な視点に立ち、論点整理を行った。

Ⅱ 結論とその説明

1.障害児の基本的権利と権利擁護

障害の種類や程度にかかわりなく、一人の子どもとして平等に扱われるべきであることを確認し、最善の利益、意見表明権を明記し、オンブズパーソンを制度化すること。

2.児童一般施策における支援

(1)身近な地域での支援:児童一般施策と障害児施策が重層的に保障されるよう制度設計されること。

(2)児童一般施策と障害児施策の関係:障害児が、児童一般施策から排除されることのないように、「子ども・子育て会議」(仮称)等に障害児や家族等が参画し、障害児の視点を盛り込み、制度設計されること。

(3)早期支援:乳幼児健診を、医療・療育の保障はもとより、地域における子育て支援や保育所入所など、早期の地域支援につながるよう制度設計されること。

保育所等訪問支援事業の訪問対象に「家庭」を加えること。

(4)「こども園」(仮称)での支援:「こども園」(仮称)は、障害を理由に入園が拒否されることのないよう、制度設計され、合理的配慮を保障すること。

(5)放課後児童クラブでの支援:障害児が、放課後児童クラブへの参加を希望する場合には、障害を理由に拒否せず、かつ必要な支援を講じるよう、制度設計されること。

(6)要保護児童としての障害児:要保護児童である障害児が家族生活に戻れるよう、親・家族へのカウンセリングや育児支援等を提供できるよう、制度設計されること。

3.障害児施策

(1)療育:地域社会の身近な場所において専門性の高い療育(障害児に対する発達支援・育児支援・相談支援・医療的支援等)を活用できるよう、制度設計されること。

(2)訪問系サービス:障害児が自立するための経験を保障するために、現状では活用しにくいことが多い訪問系サービスを利用しやすくすること。

(3)通所支援:身近な地域で発達支援を受けられるよう、児童発達支援センター等は、通所支援だけでなく、保育所等への訪問型支援や学齢障害児も対象にした発達支援を講じること。

(4)障害児入所施設:自立生活に向け「自立支援計画」の策定を義務づけるとともに、重度障害児の在宅生活が可能となるよう地域資源を整備すること。その際、できるだけ家庭に近い養育環境への移行となるよう検討すること。

入所施設は、地域の社会資源の一つとして、在宅支援など多機能化すること。

入所決定においては市町村が関与できるよう制度設計されること。

特別支援学校の寄宿舎の本来の役割は通学を保障することにあり、自宅のある地域社会から分離されないよう運用されること。これ以外の役割については、実態を調査し、地域生活への移行に向けた方策を検討すること。

(5)保護者支援、きょうだい支援:障害児の保護者、きょうだい支援を拡充すること。

4.相談支援と「個別支援計画」等

(1)地域の身近な場所での相談支援体制:相談支援は、障害が特定されない時期から、身近な地域の通いやすい場所で提供されること。

(2)ケアマネジメント:地域での育ちを支援する方向性で、サービス利用計画の立案、支援の調整、改善を含めるものとして、制度設計されること。

(3)「個別支援計画」:障害児・家族にとって身近な地域における支援を利用しやすくするため、総合計画としての「個別支援計画」を制度化すること。

乳幼児期の「個別支援計画」は、保護者・きょうだい等への支援を含む家族ぐるみの支援計画として策定すること。

障害児の意見表明を踏まえた「個別支援計画」とし、個人情報の保護と障害児及び保護者に対する説明と同意を義務付けること。

(4)要保護児童対策地域協議会と地域自立支援協議会の連携:障害児と家族への支援を保障するために、要保護児童対策地域協議会と地域自立支援協議会が連携するため、地域自立支援協議会の構成機関に守秘義務等の根拠となる規定を設けること。

(5)利用者負担:障害を理由に、新たな負担が生じないよう、制度設計すること。

(6)安定的なサービス提供:障害児のニーズを踏まえた多様なメニューを提供するために、給付額の設定は、月額単価を基本とすること。

5.人材育成:障害児支援の充実のために、必要な職員等を確保し、研修を行うこと

Ⅲ おわりに

1.他チームとの調整を図るべき内容:障害児の支給決定の在り方について

2.今後の検討課題:引き続き検討する場が必要である

以上